大学の課題提出が6月末にあって、そちらに取り組んでいました。
そうするとですね。
ミリシタ一周年イベとかいう戦争が巻き起こりました。
担当100位目指すために走りました。担当101位になりました。爆死王です。総合順位はプラチナランカー余裕でとれるくらい。(一日睡眠時間が4時間半になった)
三日間、意気消沈しました。でも来年絶対に勝ち取るぞ、という意気込みと共に復活しました。こちらの作品にも本腰入れようと頑張りました。
……話が長くなって、いつの間にか7月も下旬。
今後の予定には抜歯とか、試験とか控えていてデスマーチ。
こちらの作品改めて見てみると、評価が上がって舞い上がる。
改めて、謝罪を。
更新滞ってしまい、まことに申し訳ありませんでした。
もしかすると、これからも若干()更新が滞ることもあるかもしれませんが、どうかお許しを(特にミリシタ担当イベとか来ると更新滞りがちになります)。
それでも、最後まで付き合ってやるよ、というお方々には。
この作品を、必ず最後まで届けられるように、最高の作品に出来るように、努力していく所存です。
それでは、長くなりましたが、本編をどうぞ。
馬場このみというアイドルは、そもそも手違いから生まれたものであった。
最初、彼女が765プロの門をたたいたのは、そこの事務員として就職するためだった。面接に赴いた彼女を応対したプロデューサーは、しかし彼女を誤ってアイドルとして採用しようとしていた。面接の中でその誤解は解けたが、それでも尚、プロデューサーは彼女に光るモノを感じて、アイドルとしてスカウトし、彼女はそれを受けたということになる。
その中の話し合いで、彼女も彼氏が居ることを話したが、その問題は事前に相手のプライバシーを尊重した上で公開しておけば問題ない、という結論に至る。このみの実年齢と見た目のギャップ、そこに更に彼氏持ちという属性を加えることで間違いなくヒットする、とプロデューサーは考えていた。社長も、彼の方針にGOサインを出した。
だからこそ、このみもアイドルの話を受けたわけだが。しかし、問題は事務所ではなく、彼氏である亮の思い遣りにあった。誰が頷こうとも、彼だけは夢を応援する男としてその身を引いた。
誰に責任がある。そんな話ではない。彼女は二兎追えるように根回ししたが、彼が一兎として逆走し彼女とすれ違った。
彼女は、すれ違った兎を見て見ぬふりをして、ひたすら前に進み続けていた。
雑念を振り払うためにダンスレッスンを行った。気分を晴らすためにボーカルレッスンに励んだ。彼の事を思い浮かべ、ドツボに嵌りそうになったら汗と共に彼の記憶を流し去った。
レッスンの時だけは、彼女は彼の事を忘れることが出来た。アイドルとして成長しようとしている時だけは、真っ直ぐ前だけを向くことが出来た。
「はぁ……はぁ……!」
だから、彼女は今日もレッスンに没頭する。全身汗だくになりながら、肩で息をして、高揚した気分の中で確かな成長を手に。
「……すごい気迫。それに、楽しそう、ね。このみ姉さん」
ステップ一つ一つが床を高らかに踏みしめる。激しい動きではなく、まるで蝶のように緩やかな舞で、感情を爆発させている。そしてその端々に、笑顔が散りばめられている。傍から見ていた莉緒は、その姿に感嘆の息を漏らした。
そして、レッスンが終わった時。
莉緒はこのみを労うためにタオルとスポーツ飲料を手渡しながら「お疲れさま」と声を掛ける。
「お疲れ、莉緒ちゃん。どうだった?」
「どうって、凄かったわ! 気迫と熱量、すっごく伝わってきたもの。これなら、次の定期公演は大成功ね」
「……ふふっ、ありがとっ」
先日、酔っ払った莉緒から救援の連絡を受けた時。
このみは確かに見た。彼が、亮が莉緒のマンションの入り口から出て行く姿を。横顔だけだったが、あれは間違いなく彼だと、このみの観察眼が告げている。
それを見ても、しかし。
馬場このみは、百瀬莉緒を問い詰めることはしなかった。感情に任せて問い詰められれば、どれだけ楽だったことか。感情に任せるには、彼女たちはあまりに大人になり過ぎていた。
このみは全てを飲み込んだ。代わりに、それをレッスンで爆発させて心の均衡を保った。何も考えないように、内なる気持ちをレッスンの中で放出した。
「じゃあ、私はこっちだから。明日、絶対に成功させましょう」
「……もちろん! 莉緒ちゃん、夜更かしやお酒はほどほどにね?」
「もうっ、夜更かしはしないし、飲みもしないから。心配無用、ってね」
帰り道、二人は道半ばまで一緒に帰った。明日の抱負を胸に、顔を綻ばせて、元気を漲らせ。公演への期待と希望を胸に、莉緒は「それじゃあね」と一言を置いて。夕暮れを背に自宅の方へと歩いて行った。
「莉緒ちゃん」
そんな莉緒の背に、このみは言葉を掛ける。莉緒がゆっくりと振り返ると、夕暮れに目を焼かれる。逆光のせいで、このみの顔がよく見えない。
「……うん、明日。絶対に成功させましょう」
それだけを言い残すと、このみは夕日に向かって走り出してしまった。まるで、何かから逃げるように。顔まで見えなかった莉緒は、このみが明日の公演を楽しみにしているのだと思い、その背に向けて「もっちろん、成功させましょう!」と激励と同調の言葉を投げかけた。
莉緒はこのみに背を向けて、歩き出す。
このみは莉緒に背を向けて、走り出す。
夕日に背を向けて。
夕日に向かって。
彼女たちがどんな表情を浮かべていたのか。それは、誰にも分らない。
真実は、夕日と共に沈んでいくのであった。
◆◇◆
最初に外観を見た時の亮の感想は、なんとも自己主張と大きさが不釣合いな建物だな、というものだった。建物の左半分には天使のようなロゴマークが入っている。そして屋上に「765 LIVE THEATER」というスタンドで支えられた立体文字。この文字が実際の建物のサイズを幅増ししているように感じられ、建物が小ぢんまりとしたものに見えてしまう。
そんな印象を抱いて中に入ってみれば、まるで豪邸の玄関口のように広く、高く、白磁のような床と石造りの円柱が、中央に真っ直ぐにひかれた赤いカーペットが。内装をより華やかに彩っている。失礼な話、外装とはまるで大違いだ、と彼は内心で苦笑していた。
チケットを見せる列(とはいっても数人の規模だが)に並ぶ中、物販のコーナーに目を向ける。この事務所のパンフレットから、謎のデフォルメ化された人形。そして、光る棒……サイリウムだったか。それらが並べられている。しかし、特別欲しいと思うものは無かった。もともと、彼はアイドルに興味があるわけではないのだから。
彼の番が来た。チケットを手渡すと、受付の女性が一瞬だけ、目をほんの少し見開いた。しかし、この手の仕事には慣れているのか。何事も無かったかのように「ご来場ありがとうございます。どうぞ」とお決まりの文句と共に半券が返って来る。不思議に思ったものの、追及はしない。後ろにもまだ人は居るのだから。
いざ自分の席に座ってみれば、前側のほぼ真ん中の席だった。後ろを振り返れば、同じ高さにある数列の後、席が少しずつ高い位置に配置されている。相対的に、かなり前よりの席だ。この席のチケットが関係者と思われる彼女の手から何のためらいもなく渡される。よほど、人を入れるのが難しいのだろう。もしくは、リピーター獲得のための策略か。
「ハロハロー。お隣失礼しちゃうね、そこの巨大な兄ちゃん!」
「ん、あぁ」
帽子を目深く被り、瓶底眼鏡を着用した少女が、彼の隣に身体を投げ込むようにして座った。声は陽気で高く、如何にも元気いっぱいな少女といった様子。こんな子もアイドルのライブを観に来るのか、と意外そうな視線を向けていると。
「ん? どったの兄ちゃん?」
小首を傾げて不思議そうに彼の方を見た。視線を向けすぎたか、と後悔するのも一瞬のこと。彼にはやましいことも無ければ、偽らなければならない理由もない。
「いいや。ただ、キミみたいな女の子もライブに来るもんなんだな、ってな。おっさんや青少年ばかりだと思ってた」
「むっふっふ。それはヘンケンですぞ、巨人殿! 普通の女の子も、かっわいい子たちを見たいー! っとか思って、来たりするもんなんだよ!」
「……お、おう」
何で話しかけてくる女性は全員変人ばかりなんだ、と亮の顔が引き攣った。テンションが上がりやすいタイプなのか、とにかく口調に統一性が見いだせない。まるで、口調を変えることそのものを楽しんでいるかのような様子に、彼は小さく溜息を吐いた。
「さてさてー、ライブをメッチャアゲアゲにするために。ジュンビしなきゃだから」
鼻歌を歌いながら、少女はショルダーバックの中からサイリウムを取り出した。しかし、一本や二本ではない。何を血迷ったのか、腹巻のようなものを腰に巻いて、その収納スペースに次々とそれらを挿していく。
「……何本あるんだ?」
「えっ? トーゼン39人分、全部モリモリだよー!」
「その情熱がすげえな」
「そりゃあ、ガッチガチもガチもガチ! 本気と書いてマジとよむ! 人呼んでミリオンスターズ一番のファン! ライブの影の力持ち!」
そんな風に胸を張って宣言していると、前方から「おっと、一番のファンは俺だよ!」とか、今度は後ろから「一番のファンは僕だよ!」などと。知り合いというわけでもない青年と中年が参戦してきた。
「おっと、そこの兄ちゃんやおっちゃんもやりますなぁ。この亜美に挑んでくるなんて、よほどの勇者とお見受けする」
悪ふざけをしているような、ちょっと悪い顔を意識しているような。ふざけながらも勝ち誇っているような表情で、少女亜美は相変わらず役に入ったような声音でそう返した。
「アミ? ははっ、すごい偶然だね。双海亜美ちゃんと同じ名前なんて」
「でも、本物だとしても一番の座は譲れないなぁ」
「むむっ、亜美と知っても退かないなんて……お主たち、やりますなぁ」
ならなら! と明るい声を上げて。
「ファンのみーんなが一番ってことで!」
亜美は平和的解決に走った。本人はどういう意図か。混じりけの無い明るい表情からは、表も裏も感じさせない。太陽が、そこにはある。
「女の子にそう言われたらね」
「うんうん。男として、大人として、乗っかかるしかないね。みんな一番ってね!」
イエーイ、とハイテンションの三人がハイタッチを交えた。そして「それじゃあ今日はしくよろー!」という言葉の後、各々は自分の席に座り直した。
示し合わせたかのような団結力。阿吽の呼吸。それに目を瞬き、座り直した三人にそれぞれ、亮は変人を見る様な視線を送った。
「知り合いか?」
「ん? 巨人の兄ちゃんはブスイなことを聞くね」
ちっちっち、と人差し指を左右に振って、妙に綺麗な音を打ち立てる。少ししか話していない仲だが、亮は亜美という少女がいつもこんなテンションなのだろう、と諦観をもって受け入れ始めていた。
「ライブ会場に来たら、みーんな知り合いだよ!」
そういうもんっしょ? と、腕を組んで。鼻息をフンと荒立てて、如何にも自慢げな様子を体全体で表現する。この少女は感情と体がくっついているとか、太い紐で結ばれているのかもしれない。
「俺にはよくわからんが、そういうことなんだろうな」
今目の前で見た光景を思い返しながら、彼は噛みしめるように呟いた。その答えに満足したのか、少女は「うんうん、わかってきたねぇ」と自慢げに、満足そうに何度も頷いた。
「……あれ? 巨人の兄ちゃんはジュンビしないの?」
「準備? チケット以外、特に何も持ってないからな」
「なるほど、なるほど。巨人の兄ちゃんはオジゾウサマのタイプと」
「……地蔵? 何言ってるのか知らんが、こういうのには初参加だからな。勝手が良くわからん」
「おー、そっちでありましたか。いやはや、765プロライブにお越しいただき、まことにキョウエツシゴクでございます」
芝居がかった言葉に、芝居がかった一礼。やけに堂に入ったその姿を見ると、彼は呆れたように苦笑を漏らして、静かに前を向いた。
「ファンになると決まったわけじゃないけどな」
「最初はみんなそーいうんだよね」
どこかで幾度も聞いたことのあるような台詞。それを聞き流しながら、今か今かと待ちわびる。
客席側のライトがゆっくりと落ちる。それを合図に、話し込んでいた客席側の声も徐々に小さくなっていく。客席が暗闇に包まれ、会場が静寂に包まれたその時。
――ステージがライトアップ。
――黒い髪を腰まで伸ばした少女がステージの上に立ち。
――ライブ開始のイントロが流れ出し。
――客席が月夜に照らされた水面のように光り出し。
――歌声が、爆発する。
気が付けば、誰も彼もが立ち上がって、ステージの虜になっていた。青色に光る棒を示し合わせたかのようにリズムに乗って振るう。光の波が美しく揺らめいた。見方を変えれば、まるで客席の全てが一人の指揮者のようであった。
少女の歌は、本職に比べ特別上手いものではなかった。
――だが、誰よりも一生懸命に歌声を紡ぎ出していた。
少女のダンスは、目を見張るほどのキレがあるわけではなかった。
――それを補って余りあるほどの笑顔と、歌への熱がこもっていた。
少女のパフォーマンスは、今のそれが最上なのだと目に映る。
――だからこそ、次の成長を期待してしまう。
未完成だからこそ、そこには魅力が詰まっていた。原石という例えが、一番しっくりとくる。アイドルという原石が磨き上がるその瞬間。見てみたい、という気持ちに駆られる。
――なるほど、これがアイドルの魅力。
物語の主人公のようだ。不完全で、不格好で、何もかもをこなせるわけじゃない。それでも成長をして、時に挫折し、それでも這い上がり。そうして練磨されるからこそ、そこには輝きが映し出されるのだろう。
ステージに立つ少女は今、彼女自身のストーリーを紡いでいる。今の自分の全てを、客席に全力でぶつけている。その輝きを間近に感じて、興奮しないわけがない。
曲が終わった時、気が付けば周囲と同じように歓声をあげていた。自然と出てきた声は周囲と溶け合って、ひとつのコールのように会場に木霊する。
少女は歓声を背に退場する。ステージはしばらく暗闇に。しかしそれもすぐに晴れて、次のアイドルの登場。次は一体、どんなモノを魅せてくれるのか。彼は期待に胸を膨らませて、ステージを凝視した。
公演も中盤に差し掛かってきた。軽いウェーブのかかった長髪を後ろで二つの束に分けた、如何にも個性爆発、といった強烈なソロ曲を披露した少女はステージの暗転と共に舞台袖に戻って行った。
もともと、テンションの幅は狭いと自負している亮であったが。ライブの最中は、際限知らずに内側から気持ちが昂った。彼は自分がこれほど他に影響を受け易いとは、露ほども自覚していなかった。
彼は際限のない加速度的な高揚を諫めるわけでもなく。好き勝手に、火力をその身に宿して、猛禽類のようにギラギラとした鋭い瞳を舞台に向け続けた。ふと横を見た少女がその瞳を見て「うわっ、兄ちゃんマジこわ!」と引いていたことには気づいていない。
ステージがゆっくりと光に照らされていく。同時に、伴奏ではなくいきなり歌詞が投入され、歌が始まった。今度は少し、しっとりとしたバラード調の曲か。今までとタイプの違うそれに期待をすると同時に、さて誰が歌っているのかとその姿を彼が確認したとき。
今まで上がっていた高揚は、サーモグラフィー的に言えば瞬間的に赤色から青色に変色した。しかし、すぐさま先ほどとは別の炎が胸の内に燃え上がる。
(あんの女狐ッ!)
取り越し苦労とはまさにこのことか。内心、彼は密かに疑っていた。あの「悪女」が「765 PRO」の関係者であると分かった時から。「馬場このみ」と自分の関係に暗躍する何者かではないかと。ともすれば、プロデューサーなる存在なのではないかと。
そう思って、「馬場このみ」が舞台に立つ瞬間に一番気を張っていれば――途中からそんなことを忘れるほど高揚していたが――まさかの、出演者の一人である。
独り相撲だった。というか、傍から見れば完全に道化である。してやられた、という勝手な敗北感と、自分のシンデレラ症候群に似た被害妄想を自覚して呼び起こされた羞恥心が、彼の中の炎を激化させる。
しかし、炎はすぐに鎮火した。それは抱いた炎がお門違いの代物であったこともそうだが、何より彼女の曲を聞いていると、そんな気分を保てなくなった。
――恋の歌だった。
――メールを中々返せない女性の歌。
――先走る妄想と先に行きすぎて空回り。
――それでも最後は送信ボタンを押して。
――明日会えることに期待する。
なんて強い、と聞いていくうちに彼は目を見張った。歌っている彼女は、切ない表情を。吹けば飛びそうな、今にも崩れそうな表情を。それでも最後は、堂々と笑顔で締めくくる。男なんかよりもよっぽど強い。少なくとも自分よりは強い、と彼は自身のこれまでを振り返った。
――別れを一方的に告げて。
――連絡の手段を自ら絶って。
――遭遇もしないように訪れる店を変えて。
――その癖、姿を眩ませることは出来ず。
――結局、中途半端なまま宙に浮いた。
会わないことが覚悟だなんて、笑わせる。自分から切り出した別れのケジメもつけず、時間に解決を委ねるなどと。これが逃げだと言わずに、何だという。これが弱さだと言わずに、何だという!
――別れを告げたあの日から。
――連絡なんて取れていない。
――送信ボタンどころか、携帯にすら触れられず。
――電源を切って放置して。
――その痕跡まで隠蔽しようとした臆病者。
啖呵を切ったくせして、目を閉じて耳を塞いだクソ野郎。自分の尻を拭くことも出来ない愚か者。
――これ以上傷つけまいとでも考えたか?
それは誰を傷つけまいと考えた。
――彼女の為と嘯いて、偽りの決意で何を貫いた?
それは本当に最善だったのか。
――思い遣り、覚悟し、選択しろ。
向き合え、さもなくば消えろ。
彼は改めて、現実を突きつけられていた。逃げることなど出来ないのだと。逃げれば逃げるほど、この現実は自分を苛み続ける。逃げた分だけ強く、どこまでも。そんな呪縛にも似た現実こそが、自分の紡いだ言霊の「責任」なのだ。
彼が「女狐」と呼んだ彼女のソロ曲が終わった。その時の彼の気持ちは、何よりも晴れやかだった。このライブが終わったら、面と向き合おうと前向きになった。その上で、しっかりと別れを告げようと、心の中で決意をしていた。そして、今度「女狐」と会う時が来れば、ビールの一杯でも奢ろうと心に誓った。
舞台は再び、暗闇に包まれる。
しかし、それもすぐに晴れて。
満を持して、緩めの三つ編みを垂らした彼女が登場した。
彼はその姿を目に焼き付けながら、傾聴の姿勢をとった。今までよりも真剣に、何よりも神経を使って。
彼の瞳は、彼女の表情を捉えた。
切なさに堪えて、悲哀に満ちた顔。擦り減らした精神で必死に絞り出したかのような歌声は、精霊の歌唱を想起させるほど澄み切っていた。届けようと真っ直ぐに、どこまでも愚直に会場に響き渡る。
その歌声が、表情が、表現力が、彼の胸に突き刺さる。思わず胸を抑えながらも、それでも聞く耳は、瞳は逸らせない。
彼女の歌には、彼が別れを告げたあの日からの彼女の思いが、体験が、痛いほど籠っていた。一体、どんな思いで彼女が今まで過ごしていたのか。彼女にどんな思いをさせてしまっていたのか。良かれと思って行った結果が、彼女をどれだけ苦しめていたのか。その全ての回答が、そこに詰まっているかのように感じられた。
(こんなに、辛い思いをしていたのか……?)
彼女の表情も、歌声も、ダンスも、全てが作られたパフォーマンスによるものとは、到底思えなかった。彼女はそれを完璧にこなせるほど、器用ではないことを知っている。だからこそ、彼女の今までの経験が、その表現力を補っているように思えた。
(俺の答えは、そんなに……。アイツは、それだけ真剣に考えてくれていたのに、俺は……!)
歯車が食い違ったかのように、彼の心が軋んでいく。先ほどまでの決意はいとも簡単に崩れ去り、自分が何をしたのか、という罪悪感が彼自身を責め立てる。
(だが、どうしろって言うんだ。俺はアイツの夢を応援するために……そこに、間違いはなかった、筈だ。アイツを大切にするこの想いが、間違いであって堪るかッ!)
その後、逃げたのがいけなかった。決意が鈍るからと、逃げに徹した自分が間違いだった。だが、何よりも大切な彼女の夢を応援するという行動理念にだけは、間違いがある筈がない。
しかし、その結果がこれである。彼女にどうしようもない苦痛を、辛さを与えてしまった。少しの、ではない。彼が知っている彼女を、ステージの上で覆すほどの経験をさせてしまった。どれほどのモノか、それはわからない。それでも、耐え難い精神的な苦痛を与えてしまったことは確信できる。
ならば、認めるしかない。このやり方は、自分の行いは、全て間違いであったと。
(なら、どうすりゃ……)
このまま面と向かって、別れを告げれば、彼女を更に苦しませる結果になりかねない。しかし、関係を続ければ、彼女の夢を他ならぬ自分が奪ってしまうかもしれない。
彼女を想えば想うほど、心の内から温かい気持ちが湧き出でる。理性と感情がぶつかり合う。別れろと冷たく言い放つ自分と、もっと一緒に居たいと叫びたてる自分が同居していた。
最初は偽りから始めて。
時間と共に惹かれ合って。
はにかんで手を取り合って。
夢というきっかけが波乱を巻き起こし。
別れを告げてから、お互いに苦悩した。
彼女は夢を踏みしめて。
彼は目をそらし続けて。
それでもやっぱり。
溢れてくる感情は止まらない。
澄んだ歌声が耳を打つ。心地良い歌声が、しかし感情に鞭打つように力強く。擦り切れた表情からは想いの深さが窺えた。そのダンスは、今までの体験全てを凝縮しているのだと理解させられる。
彼は、彼女のステージの一挙一動見逃すまいと、その瞳に焼き付ける。今度こそ逃げないと、堂々と構えて。そのステージだけに、全神経を集中させて。他のもの全てをかなぐり捨てて。今だけは、彼女だけを見続けた。
この作品は意地でも完結させる。
これは私が初めて、一人のキャラクターに焦点を当てて書いた作品だから。
必ず書ききって、彼女の魅力を皆様に伝えていけるように。進み続けます。
あ、ちなみに私は「馬場このみ」ファンですけど、担当ではありません。担当別の子です()。
ちなみに、ミリシタ一周年イベは休みの日とか、一日20時間フルマラソンしました。もう二度とやりたくないと当時思いましたが、今は担当の為ならまたやるのも悪くない、とかいう危険思想に……。
自分語りもここまでにしましょう。
感想、コメント、批判、評価、お気に入り登録などなど、お待ちしております。
皆様も健康に気を遣って、無理ない程度に、プロデュースに励んでくださいね!(戒め)