── 何かないか何かないか何かないか何かないのか!?
必死に頭を回転させ、二人を助ける方法がないのか、考えて考えて考えて──思いついた。
──もしも、他者の傷を癒すことが出来る生物がいるとしたら。
仮にそんな生物が存在したとして、現時点でオレはその生物の因子を持っていない。だが、室戸先生は『この薬は
『1本ずつ使うこと』
「クヒッ、クハハッ! アハハハハ!!!」
一瞬迷った自分を嘲笑う。
約束を守ることで二人を救えないのなら──
「約束なんてクソ喰らえだ!!」
昨日室戸先生に貰った注射器の束を、纏めて腹に打ち込む。
大丈夫、5本までなら形象崩壊は起こらない。でも──
タスマニアンキングクラブ ヒグマ ミイデラゴミムシ ラーテル スカンク ヒョウモンダコ デンキウナギ──ダメだ、どいつもこいつも役に立たな──
『いいか真守、『ねだるな。勝ち取れ。さすれば与えられん』だ。最初から誰かの力を当てにしたら駄目だ。自分で最大限努力して、それでも足りなかった時に初めて、誰かが最後の一歩を与えてくれる』
──まだだ! まだ終わってない……!
探せ、記憶を辿ればまだ何かある筈だ。
──そうだ、AGV試験薬。
その効力は、
ガストレアには形象崩壊を引き起こす過程で、オリジナルの能力を生み出す個体がいる。
先生はこの薬を『服用者を100%ガストレア化させる、AGV試験薬の改悪版』だとも言っていた。なら形象崩壊して、服用者をガストレア化させないAGV試験薬を生成する能力を獲得出来れば……二人を助けられるかもしれない。
──出来るのか?
先生の計算が間違っていて、6本使っても形象崩壊出来なければ失敗。
形象崩壊出来たとして、AGV試験薬を生み出せなければ失敗。
AGV試験薬を生み出せたとして、無毒化されていなければ失敗。
無毒化に成功したとして、薬効が足りていなければ失敗。
薬効が十分だったとして、オレが理性を失えば失敗。しかも、これが一番危険なくせに一番起こる可能性が高い。
高過ぎるリスクに対して成功する見込みは極薄。誰がどう見ても無謀な賭け。
──それでも、二人を失いたくない。
だったら、気合い入れて『勝ち取る』しかないだろ神崎真守!!
「ガアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
肉体が生まれ変わり、進化を超越した変身を遂げる。
本能でAGV試験薬の生成方法は理解している。問題は、無毒化に成功しているか否か。
練習は出来ない。ぶっつけ本番で──と思っていたのだが、聖天子付護衛官達が目に入った。
(丁度いい、コイツ等モルモットにシよう)
尻尾からAGV試験薬を分泌し、致命傷一歩前の攻撃をしながら薬効を確認する。
(ガストレア化の兆候はナシ。薬効もジュウブンだ)
これなら助けられる──そう思って二人を見て、違和感に気付く。
(アレ……? ドッチが夏世で、ティナだッケ。どっちモ金髪ダカラ分かラない)
──違う! こんなもの、オレの思考じゃない!!
薬効を確認するだけならこんな拷問をする意味はないだろ! 麻酔で痛みを消してから攻撃することだって出来た筈だ! お前は色でしか人を識別出来ないのか!? ふざけるな!!
コレでは──化物の思考ではないか。
あぁそうか……変わったのは体だけじゃなく、魂もなのか。
オレは変身し──変心した。
精神は肉体に引っ張られると聞いたことがある。つまりこの場合は、オレの心が、ガストレアに引き寄せられている。
正気に戻った今は、二人を見分けられる。でも時間経過で
──今回の賭けは、引き分けか。
でも十分だろう。元々敗色濃厚だったのだから、負けていないだけ儲け物だ。
急いで二人にAGV試験薬を打ち込む。
でもその前に、ティナと夏世の顔を目に焼き付けておこう。
あぁ、そういえば延珠ちゃんと舞、室戸先生には悪いことをした。
守るという約束は果たせず、また『喧嘩別れして勝手にいなくなる』という暴挙、先生との約束に至っては『クソ』扱い。
それに、グークルさんへの借りを踏み倒すことにもなる。我ながら、見事なクズっぷりだ。
モノリスの外から東京エリアを一瞥する。
──約束一つ守れない、ロクでなしの一生だった。
……クズのまま終わりたくない。やりたいことがたくさん残っている。まだ死にたくない。
──黙れ。
心を押し殺し、飛翔する。
──遠くへ。
意外と思うように速度が出ない。
(もっと、モット遠く二)
早く。速く。でないと間に合わなイ。
(何ニ? ナンで遠クニ行こウトシテるンダッケ?)
逃げナイと。
(ナにカラ?)
──ナンダッケ。
★
気がつくと自分は森の中で、木に隠れて星が見えない夜空を見上げていた。
右を見て、左を見る。なぜ自分はこんな夜中に森に入ったのだろうか。
これは夢かと訝しんだが、夢にしては思考がハッキリし過ぎている。
──自分の名前は?
勿論──
「…………