この腐った世界に救済を!   作:しやぶ

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第17話 援軍

 

──────夏世が話した内容は3つ

 

1つ目は真守がガストレア化したこと等の、ティナが気絶した後起こったこと

 

2つ目はM.O.(モザイクオーガン)についての説明

 

そして最後に、自分達が助かった理由の予想だ

 

────ちなみに予想の内容は『真守が形象崩壊した理由は、自分達に無毒化したAGV試験薬を使うためではないか?』というものだった。流石はIQ210。ドンピシャである

 

「........................確かに信じ難い話ですが、納得の行く話でもありました。貴重な情報、感謝します。ありがとうございました」

 

話を聞き終わったティナは夏世に一礼すると、東京エリアの中心部とは逆方向、モノリスの方へ歩き始めた

 

「待ってください、何処へ行くつもりですか?そちらにあるのはモノリスだけですよ?」

 

「解っています。目的地は未踏査領域......真守さんが居る場所なので、問題ありません」

 

「問題大ありです!未踏査領域に単騎で突入しようだなんて、死ぬ気ですか!?」

 

振り返らずに返答し、そのまま去ろうとするティナを、夏世は肩を掴んで止める

 

「死ぬ気なんて毛頭ないです。だからその手を放してください」

 

(シェンフィールドで見た限り、モノリス内でゾディアックが確認されたことで起こるパニックは無かった。東京エリアの中に居たなら千寿さんに協力してもらうつもりでしたが、外に居るならむしろ足手まとい......これ以上引き止めるようなら少し強引にでも振り払った方がお互いのためですかね......)

 

そしてティナは力を解放する準備をし────

 

「未踏査領域に行くこと自体を止める気はありません。ですが、少し待っていてください。私の予想が正しければ、もうそろそろ()()筈なので────ほら」

 

 

「夏ぁぁ世ぉぉぉっ!!」

 

「延ッッ珠うううッ!!」

 

 

「......What?」

 

────頭上で行われた光景を見て放心する

 

パラシュート無しで泣きながら自由落下(フリーフォール)する延珠を、右足に仕込まれたカートリッジを炸裂させることにより空中で加速した蓮太郎が捕まえて、パラシュートを開く

 

────何とも締まらない援軍が、到着した

 

 

「紹介致します。今現在私に引っ付いていらっしゃる、こちらの大変鬱陶しい少女は『藍原延珠』。モデルラビットのイニシエーターで、パラシュート無しでヘリから飛び降りることが趣味という、頭の残念な子でございます」

 

「鬱陶しいとは何だ!未織に電話で『真守がガストレア化して、夏世が死んでしまった』と聞かされて、妾がどれだけ悲しんだと思っておる!?それと違う!ヘリから飛び降りたのはまだ2回目だ!趣味というなら天誅ガールズだな!」

 

「............」

 

夏世がジト目になり、ティナは突然口が悪くなった彼女に困惑する

 

(言い過ぎたかと思いましたが......やっぱり謝らなくていいですね......それに、心配させられたのは私もですし)

 

「突っ込むの趣味について(そこ)なんですか......?頭が残念なのはいいんですか......?」

 

「夏世が毒舌なのはいつものことだし、実際IQ210を基準にしたら大体の人は頭が残念だからな。妾は気にしないぞ?というより、"そこ"とはどこのことだ?」

 

「............」

 

ティナが残念な生き物を見る目になった

 

「そしてこちらの男性が『里見蓮太郎』。『新人類創造計画』の機械化兵士です。周囲からはよく『不幸顔』『ロリコン』『変態グランドマスター』等と呼ばれていますが、面倒見が良くて誠実な人なんですよ?嘘なんて吐いてませんし、そう言えと脅されてもいませんから。えぇ、本当に。本当ですからね?」

 

「なぁ夏世、その誤解を招きそうな紹介の仕方はなんとかならねぇのか?」

 

「でも事実でしょう?」

 

「いや......そうだが......」

 

「認めましたね?『自分は誠実で面倒見が良い、ロリコンの変態だ』と認めましたね?」

 

「......半径50m以内に入らないでください」

 

ティナが養豚場の豚を見る目になった

 

「ハメやがったなコンチクショウッ!!こんな時ばっかイイ笑顔しやがって!そんなに俺が社会的に破滅していく様が面白いか!?」

 

「はいっ!」

 

普段無表情な夏世が、花が咲いたような笑顔で肯定し────

 

「......とまぁ冗談はこのくらいにしておいて、真面目な話をしましょう」

 

────直後、一転していつもの無表情に戻る

 

「......あぁ、そういうことですか」

 

そしてティナは、突然空を見上げて何かに納得し、頷いた

 

「えぇ、そういうことです。理解が早くて助かります」

 

「真面目な話は援軍が全員到着してからということですね?」

 

「......え?私は単に、この先連携を取りやすくするため私達に親近感を持ってほしかっただけなんですけど......蓮太郎さん、他にも援軍を呼んでいたんですか?」

 

「は?いや、援軍は俺達二人だけだが」

 

「はい?ではあの人は一体......」

 

その言葉で3人も空を見上げると──────

 

「「「──────は?」」」

 

──────()()()()が、重力に身を任せて落ちてきた

 

彼はパラシュートを着けていなかったが、見事な五点着地を披露し無傷で立ち上がる

 

「グ、グークルさん!?」

 

「どうしてお前がここに......!?」

 

「やぁ、蓮太郎君と延珠ちゃんは久しぶり。千寿さんとスプラウトさんは初めまして。ところで君達真守君の所に行くんだろ?」

 

「............流石"情報屋"。相変わらず異常に耳が早い。だが今回お前の出る幕はねぇよ」

 

蓮太郎は既に未織経由で司馬重工の衛星から真守の位置情報を掴んでいるし、新しい情報が入ればそれも伝えられるだろう。確かに"情報屋"の出る幕は無い。だが────

 

「あぁ、違う違う。今回は情報屋じゃなく()()()()()来たんだ。ゾディアックを相手にするのに、9()8()()()()()()()()が最高戦力では不安だろう?ボクが力を貸してあげるよ」

 

「言ってくれますね......そう言うアナタの序列はいくつなんですか?私を()()と宣うからには、100番越えくらいはされているんですよね?」

 

────この男は、ただの"情報屋"ではない

 

「当然」

 

この男の、"民警"としての二つ名は────

 

「────1()2()()では、不満かい?」

 

「「「「......は?」」」」

 

「二度とこの名を名乗る気はなかったんだけど......今日だけは、名乗らせてもらおう」

 

 

 

 

 

── IP序列 12位 ジョセフ・G・ニュートン

 

 

 

 

 

────"人類の到達点(ウルトラマン)"だ

 

3人はティナの"98位"、ジョセフの"12位"という序列に驚いて硬まっていたが、ティナだけは硬直せず、口を開いた

 

「............不満です」

 

「「「!?」」」

 

「へぇ、理由を聞いてもいいかい?」

 

「アナタが役に立つのか甚だ疑問な点はいくつかありますが......12位という序列が本当かどうかはさておき、"情報屋"なら前線には出ないで、ガストレアとの戦闘はイニシエーターに任せていたのでしょう?武器すら持たずに半裸で未踏査領域に突入しようとしているその態度は、実戦を知らないとしか思えません」

 

「対ガストレア戦で軽装は基本だよ?」

 

「発想が安直なんですよ......アナタ、本当は"ド素人"ではありませんか?」

 

ティナの疑念は尤もだ。超々高位序列者のプロモーターはほぼ全員、()()()()()()()()()()()()()()のだから

 

何故ならジョセフくらいの序列にもなるとイニシエーターはゾーン到達者が当たり前で、プロモーターは大抵その親族が選ばれ、国の内地に監視付きで軟禁されることになる場合が多いからだ

 

理由は単純明快。圧倒的な力を持つゾーン到達者に『国の言うことを聞いて戦わないと家族が殺される』プレッシャーを与え、思い通りに操るためである

 

つまり"首輪"、もしくは"人質"と大して変わらないのだ────閑話休題

 

「はぁ......これだから人外は......『ハイブリット』だかなんだか知らないけど、訓練で人間に習得可能な技能も修復可能な欠点もあるのに、努力しないで手に入れた外付けの能力なんかに頼るから、相手の力量を測れなくなる......そうだ!ボクが役に立つかどうか、直接試してみたらどうだい?」

 

そう言ってファイティングポーズをとったジョセフを、ティナは冷ややかな目で見る

 

「............本気で、武器も使わず機械化兵士のイニシエーターたる私に勝つつもりですか......?」

 

「安心しなよ。98位風情に武器を使う程、ボクは弱くない」

 

「......その発言、後悔することになりますよ」

 

そしてティナもナイフを抜いて構え、一触即発の空気が流れる

 

この時点でようやく復活した蓮太郎と夏世が仲裁に入るが────

 

「オイオイ仲間割れしてる場合じゃねぇだろ......」

 

「そうですよスプラウトさん。流石に12位という話を鵜呑みにはしませんが、頭数は多い方が良いでしょう?」

 

「止めるな蓮太郎君!前々から言おうと思ってたんだが、ボクは機械化兵士(君達みたいな存在)が大嫌いなんだよ!」

 

「止めないでください千寿さん!足手まといはいらないんですよ!」

 

────ヒートアップした二人は止まる気配がない。しかし────

 

「格の違いを見せ────ッ!?」

 

「人のままでは越えることの出来ない壁があると教え────ッ!?」

 

「いい加減にッ!!しなさ──い!!!」

 

────声と共に二人の丁度中間辺りへ"何か"が落ちてきて、どちらも硬直する

 

上空には、メガホンを持ってヘリコプターから何かを叫んでいる少女がいた

 

先に復活したのは、その"何か"の正体を知っているジョセフだった

 

「うわぁぁぁぁああ!?な、なんてことをするんだ君は!大事な物って言ったよね!?ソレ一つで国家予算が吹っ飛ぶくらい高価な物って言ったよね!?それを投げるって......!ケースに入ってるとはいえ投げるなんて......!」

 

地上付近まで高度を下げたヘリコプターから降りた舞は、ジョセフを烈火の如き勢いで糾弾する

 

「うるさいです!その"なんてこと"でもされない限り止まる気なかったですよね!?私の依頼は『()()()()()()()』です!『喧嘩をしてください』なんて一言も言った覚えはありませんよ!?」

 

「う......ご、ごめ「私じゃなくスプラウトさんに謝ってください!」..................スミマセンでした............クッ屈辱だ......このボクが、人外に頭を下げることになるとは......!」

 

舞の剣幕に圧されてジョセフが謝るが......残念ながら肝心のティナは、舞の『()()()()()()()』という言葉の後を聞いていなかった

 

「貴女はもしや、真守さんの......」

 

「えぇ、私は『神崎舞』。神崎真守の妹です」

 

「............ごめんなさい」

 

「それは何に対する謝罪ですか?真守を撃ったことですか?真守がアナタを助けるためにガストレア化してしまったことですか?それとも、どちらでもない何かですか?」

 

「............その......全てです......」

 

「私は許せません。それはアナタと真守の問題ですから。私が口を出す権利はありませんよ」

 

「......、............ッ......解り、ました......」

 

ティナは何度か口を開いて何かを言おうとしていたが、舞の眼光が『アナタとこれ以上話すことは何もない』と言っていたので諦めたようだ

 

「......次!延珠ちゃん!」

 

「ひゃいっ!?」

 

「グークルさんもだけど、ヘリコプターから飛び降りたら危ないでしょ!蓮太郎さんに迷惑かかってたし、何より私が心配で心臓止まりそうになるから禁止!」

 

「イ、イエッサー!」

 

「最後!蓮太郎さん!」

 

「え、俺!?」

 

「どうしてしっかり夏世ちゃんを見ていなかったんですか!?真守がいなかったら夏世ちゃんは殺されてたんですよ!?」

 

「ッ!あぁ、そうだ。その通りだ......悪かったな夏世......俺がしっかりしていなかったせいで、お前を傷付けてしまった。真守がガストレア化したのも、元を辿れば俺の責任だ......皆、本当にすまなかった」

 

そう言って頭を下げた蓮太郎をこの場に居た全員が許し、改めて自己紹介という形で互いの能力を確認した後、彼等は未踏査領域へ出発した




グークルさんの本名は例によって借り物です。ここの"グークルさん"は原作グークルともテラフォのジョセフとも違う人なので、M.O.は持っていません。純粋な人間です

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