しっこうしゃ 作:オモイカネさん
俺の名は
俺を語るにあたっては三行で済む。
一つ、巡ヶ丘学院高校三年生の男子高校生であること。
一つ、魔術師であること。
一つ、俺が異なる世界の記憶を引き継いで新たなる命を得た所謂転生者と呼ばれる存在であること。
以上の三点が重要でありそれ以外はくだらぬ瑣末事に過ぎない。
俺の前世というか、明らかにこの世界のものではない記憶においては生家はごく普通の一般家庭であったと自負している。
罷り間違っても“道徳のカケラも無い外道”の家系ではなかったと思う。
しかし次に目が覚めた時には見知らぬ女性の腕に抱かれ声もあげられないどころか身動き一つに途轍もない不自由を覚えた。
この時点で俺は転生という二文字をまず思い浮かべた。
果たしてそれは的中しており、両親と目される男女によって育てられることになった。
その最中、当時の俺は非日常を探したりしていたのだがこれといって前世の記憶と明らかに相違する世界観を見つけることは出来なかった。
軽く落胆しつつも、自我が確立されており少なくとも二十代前半までの記憶を保持しているということはそれなりのアドバンテージであると認識するに至り平々凡々な毎日を送っていた。
転機が訪れたのは五歳の誕生日を迎えた頃だった。
父から大事な話があると呼び出されて部屋に来てみれば、開口一番にこの家が魔術師の家系であると語られた。
内心、父の正気を疑った俺だが目の前で非日常を見せつけられれば否が応でも認めざるを得ない。
それからは父による魔術師としてのスパルタ教育が始まった。
『魔術師に道徳は必要ない』
と何処かで聞いたような言葉を述べつつ、先ずは回路から始めろと俺は魔術回路のスイッチの修行から入った。
この時点で俺はこの家が『型月系の魔術師』の家系であると悟った。
すわ聖杯戦争かと内心ソワソワドキドキ、ガタガタ震えながらもそういった話題はなく既に2004年を何事もなく通り過ぎており2016年すら何事もなく始まってしまった。
『Fateの重大な事件』が何一つ起こらずに平和な毎日が過ぎていくことに疑問を感じたりもしたが、そんなのが気にならないくらいにスパルタな修行の日々だったのでいつしか俺の思考からは聖杯戦争とか人理焼却という単語は消え失せた。
そうして高校生活も三年を迎えてしまったある日。
いつものように学校へと来てみれば、そこには『死体』『死体』『死体』。視界を覆い尽くす『死体』の数々があった。
前日のスパルタ魔術鍛錬により昼過ぎまでぐっすり睡眠を取っていた俺は寝起き一番にホーム画面に連なった学校からの着信履歴を見て全てを悟った。
とりあえず、生活指導からのお話があるとのことで仕方なく学校へと来たわけだ。
結末の分かりきった対話になんの意味があるのか? と軽く現実逃避をしながらも渋々校門を抜けてみれば先ほどの光景だった。
グラウンドで騒ぐ『人間』と『死体』。逃げて食われての、まるでB級ホラー映画のような光景にしばし思考を停止するも、すぐに反転して帰宅しようとした。
だが、背後の住宅街にもいつの間にか『死体』どもが蔓延っており止む無く校舎へと撤退することにする。
時折、邪魔をしてくる『死体』どもを避けつつ誰もいない空き教室に入って一呼吸。
続いて深呼吸を何度かしたところでようやく脳も冴え始め周囲の魔力を探れるようになった。
そうして分かったことはこの校舎が“手遅れ”であるという事実。
加えてあの『死体』どもから幾らか魔術を施した痕跡が認められるということ。
それならばこれは魔術師の仕業なのだろうか?
いやそれこそあり得ないだろう。こんな大掛かりな仕掛け、しかも神秘の秘匿など度外視した無遠慮さ。狡猾な魔術師らしくない手際の悪さが目立つ。
まあ黒幕の推測は置いておくとして、とりあえず今何をすべきなのかといえば……
「サンプル集め?」
いいや、違う。これは“いつもの鍛錬”ではない。今すべきは生き残ること。
ただ、父からの過剰な教育により大抵のことはサバイバル出来てしまうためこれについては今のところは大丈夫そうだ。当面はコンビニやスーパーで食料や飲み物はどうとでもなる。
ならば……
「道具の回収か」
俺は学校でも隠れて魔術を行なっていた。自由研究の課題をこなすための実験も兼ねて色々と学校に魔術道具を持ち込んでいたのだ。
神秘の秘匿とか父は口を酸っぱくして言ってくるが何がどうすればスパルタ鍛錬の合間に自由研究が出来るというのか。そこのところを教えて欲しかった。
つまりは学校こそ俺にとって唯一の安息のひと時を過ごす場となっていたのだ。
未だ研究も半ば、こんな死体騒動でおじゃんにされては堪らない。
思い立つや教室を飛び出し、隠し場所を巡ることにする。ああ巡ヶ丘ってそういう。
「火よ」
邪魔立てしてくるエネミー、もとい『死体』は炎の魔術を当てることで無力化していく。こいつらが何なのかは分からないがグールに連なる存在ならば相性は抜群のはずだ。
魔術による炎なので対象さえ設定しておけば火災の心配がないのも便利である。
「数が多いな……」
しかし、いかんせん数が多い。いちいち対象の設定をしていては埒があかないどころかいずれ押し切られる。
「……難度はあがるが背に腹はかえられんか」
咄嗟に近くにあったモップを手に取り素早く硬化のルーンを刻む。そして一閃、周囲の『死体』の首が飛んだ。
途端、力が抜けたようにパタリと倒れそのまま動かなくなる『死体』ども。なるほど、こいつらの弱点は頭部らしい。
俺はモップの先っぽを取り外し持ち手のみとなったそれを構え、ワラワラと湧いてくる『死体』に相対する。
取り敢えずはこの場から離脱するのが最優先。加えて俺の目的は三階の道具だ。
とりあえず階段を目標にすると、一呼吸置いて精神を整える。
「……行くか」
意を決して駆ける。必然、周りの『死体』どもも追ってくるが遅い。走れば追いつかれることはないだろう。
道中、障害となる個体はモップで突き殺し、首を飛ばしながら駆ける。
数秒で辿り着いた階段。しかしそこにも『死体』が蠢いていた。
「邪魔だ」
一番近くにいた女生徒の成れの果てに飛び掛かり首を一閃。続けて
そのまま勢いを殺すことなく『死体』を屠っていく。最中、返り血を出来るだけ浴びないように注意しながらも黙々と屠り駆ける。
足を止めることはない。それは悪手だ。この手の輩に対して持久戦は最もとってはいけない手段であり一点突破を心掛ける。
階段を駆け上がりようやく辿り着いた三階。そして当然のようにゆらりとこちらに顔を向ける『死体』ども。
「そこを、どけ!」
俺は迷い無くモップを振るった。
執行者、封印指定執行者とも。
魔術協会において封印指定を受けた魔術師が逃亡した場合、基本的に協会は無視する。だが、逃亡先で無関係の民間人を多数巻き込んだ騒動を起こしたりすれば必然的に異端狩りの教会が出張ってくる。そうなれば封印指定魔術師の研究成果ごと抹消される危険がある。
そういう事態を防ぐべく、現場に赴き無理やり封印指定を実行するのが執行者と呼ばれる存在だ。
そんな騒動の渦中に飛び込むのだから当然、危険であり場合によっては魔術師と教会の代行者を同時に相手取り封印指定を実行して研究成果も持ち帰らねばならない。
ありていに無茶振りなのだが、それでもやり遂げるのが執行者という化け物たちだ。
故に彼らに求められるのは『如何に戦闘向きな魔術師か』という一点に限る。魔術師たちは基本、根源を目指して魔術という“学問”を研究する。そんな中にあって戦闘を得意とする者は少ない。
執行者として有名な例を挙げるとすれば『
他にも執行者が来る前に封印指定を執行、研究成果も回収しそれを協会に売り渡すフリーランスの所謂賞金稼ぎがいるがこれも詳細は省く。
長々と語ったが何が言いたいのかと言えば、俺の家がまさにその執行者の家系ということだ。
故に求められるのは圧倒的な力。代行者と纏めて封印指定の魔術師を相手取れる制圧力。
だからこそ父はおよそ魔術師らしからぬスパルタ修行を敢行し、俺は死に物狂いで耐えに耐え、“心を失ってまで”鍛え抜いてきたのだ。
それでもまだ、あのバゼットには遠く及ばない半人前ゆえに先日も厳しく指導を受けたのだが。
そんな俺が、このような大規模な騒動で不覚をとらずにいれるのかと言えば当然無理な話なのだ。
「だぁぁぁ!!」
「グギッ!?」
目の前の『死体』の首を薙ぎ頭部を刎ねとばす。ガクガクと震えながら地に倒れ伏す『死体』を踏み越えてまた新たな『死体』がやってくる。
またその首を刎ねてはその亡骸を踏み越えて『死体』が前進する。
延々と繰り返された作業、このままではジリ貧だった。
完全にミスだ。予想以上に三階は『死体』で溢れていた。これでは探すも何も、掃除すらままならない。
次から次に湧き出る『死体』どもに辟易としながらも手を止めない。
結局のところこの場の『死体』を片付けねば道具探しはできない。
「ただ、いい加減しつこい」
あまりこの場に留まるべきでもない。目に見える魔術こそ一階で火球を放ったくらいだが、この異常なまでに『死体』を狩り続ける様も十分に常軌を逸している。“とても人間とは思えない”。故に一般人に見られるのは神秘の秘匿に接触する案件だ。
当然ながら身体強化の魔術とモップに刻んだ硬化のルーンのおかげなのだが、それでも俺は危機に陥っている。
現状を打開するにはやはり魔術しかなかった。魔術師である俺のアドバンテージ。
「即ち広域殲滅」
思い立つや瞬時に大魔術の詠唱を開始する、と同時に『死体』を幾らか解析しそのデータを対象に設定する。これにより近くの『死体』全てが対象になった。
これらの作業を行いながらもモップを振るう手は止まらない。近付く『死体』の首を刎ね続ける。
そして元教員らしき『死体』の首を刎ねたと同時に詠唱を終える。
俺はポケットから予め魔法陣を刻んであった紙を宙に投げる。
「喰らえ」
宣言と共に魔法陣から幾重にも炎が飛び出し宙を走る。それらは『死体』どもを巻き込みながらどんどん進みやがて廊下は炎に包まれた。
だが燃えているのは『死体』のみ。机も椅子も『死体』以外のものは一切燃えていない。
どうやら成功したらしい。
「はぁ……はぁ……」
だがやはり膨大な魔力消費だったらしく軽い目眩と息苦しさを覚える。
それでもようやく本題に取り掛かれるとあって気持ちは落ち着いていた。
そんな時だった。
「キャアァァァァァ!!」
鼓膜を貫くような甲高い悲鳴が近くの教室から上がった。
「っ!」
俺は咄嗟に駆けていた。なぜ? 行く価値はないというのに。俺は執行者であり今は道具の回収こそ優先される目標だというのに。
疑問を感じる思考とは別に身体は自然と動いて、女生徒に襲いかかろうとしていた『死体』の頭を貫いていた。
轟々と燃える『死体』はピクピクと震えていたが気にせず蹴り飛ばし床に転がす。
「あ、あんた……」
声に振り向いてみればそこにはよく見知った顔。
厚めの化粧に首にチョーカーを付けたパンクな少女。
間違いようもなく俺のクラスメイト、
一見して強面というか近寄り難い見た目だが面倒見が良くクラスで浮きがちだった
ぶっきらぼうな口調だが姉御肌な彼女はクラスでもよく頼られていたと記憶している。
しかし今は涙で化粧が崩れて見るも無残な、というかか弱い少女になっていた。
轟々と燃える教室で彼女は呆然とこちらを見つめている。やっと訪れた奇跡に縋るような目で。
やめろ、そんな目で見るな。
俺は助けに来たわけではない、そんなことをするより早く道具を探して拠点を確保しなければ。
だが口をついて出たのは正反対の言葉だった。
「付いて来い」
「……っ!」
一瞬の困惑ののちにすぐに力強く頷く彼女を見て俺はどうしてそんなことを言ってしまったのか内心頭を抱えた。
それでも後悔先に立たず、今更前言撤回するのはなんとなく気に入らないので俺は彼女を連れて教室を脱出した。
原作のウイルスは強いけどゾンビが弱すぎるので数を増やす方針。今後の展開全てでゾンビの数が割り増しされております。