しっこうしゃ   作:オモイカネさん

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いやぁ、まったくと言っていいほど『がっこうぐらし』関係ない話になりました!





……仕方ないんだ、話を進めるには仕方ない道のりなんだ!!
あ、ちなみにすでに仲直りルートなので悪しからず。
※章追加します。


父なるもの

どうする?

 

 

「この大事な時期に一月近く家に帰らないとは、どういうつもりなのかと思っていたが……」

 

 

どうする、どうする……。

 

 

「よもや、私に反抗するとは。貴様はいつも予想の斜め下を行くな、不良品」

 

 

魔術は間に合わない。速度、経験、魔力、あらゆる面で俺は大きく劣っている。

 

 

「どこで、なにを聞いて、していたのか。報告を済ませろ」

 

 

何も、何一つ、俺は奴に勝てていない。

 

 

「……答える気はない、か。よかろう、ならば今一度躾直すまでだ。

まったく、いつまでたってもこの私の手を煩わせーー」

 

だからってーー

 

 

「先手、必勝!!」

 

歩法による接近、からのゼロ距離射撃。

あらゆる守りを撃ち貫く概念を持つ『魔弾』が奴の腹部を直撃した。

 

発砲音と着弾した音が同時に響く。

しかしーー

 

「……まさか、私に銃撃戦を挑もうと言うのか?」

 

「なっ……」

 

動じた様子もまるでない奴が、無傷でその場に佇んでいた。

カラン、ひしゃげた弾丸が床に落ちる。当然のように着弾地点には何の傷もない。

 

「っふぐぅ!?」

 

直後、腹部に凄まじい衝撃を受け、訳も分からないうちに気がつけば部屋の隅まで蹴り飛ばされていた。

 

「がっ、おげぇ!!」

 

抑える暇もなく、胃からこみ上げた吐瀉物を床に盛大に撒き散らす。

一撃で、たった一撃で意識を持っていかれそうになった。

 

「くだらんな。その程度で、私に挑むつもりだったのか」

 

奴は変わらず感情のこもっていない声で語る。

どうしようもない怒りと焦りと憎しみと、身体全体を縛る鎖のような恐怖がこみ上げる。

 

「まだ、終わってねぇ!!」

 

それを弾き飛ばして震える足で床を蹴る。

 

「ほぅ……」

 

左手の拳銃で射撃を行いつつ、右手で腰のナイフを抜き放つ。

奴はその場から動かずに無造作に手で弾丸を捌く。

 

接近と同時に振るったナイフももう片方の手で易々と掴まれる。

 

「……0点だ」

 

気付く暇もないうちに横っ腹に蹴りが刺さる。

 

「ぐぎぃ!?」

 

その威力のままに飛ばされ壁に激突する。

 

「がっ、はっ!!」

 

迫る床になんとか足をつけて立ち上がる。

急いで奴を視界に収めれば、すでにその手にはマシンピストルが握られていた。

 

「“ブリオンの名において命ずる”」

 

短い呟きの後、連続する発砲音が響いた。

無数の弾丸が目前に迫り、それを紙一重で回避する。

しかしーー

 

「っ!」

 

俺を通り過ぎる寸前にくるりと軌道を変えて全弾が俺に向き直った。

 

「くそっ!!」

 

咄嗟に腕を交差し防御礼装のスイッチを入れる。

ルーンで編まれた防御の結界、その一部を再現する魔法陣が前面に広がり無数の弾丸を受け止める。

 

金属のぶつかり合う音が連続して響き、ちょうど終わる頃に魔法陣も砕け散った。

 

急いで体制を立て直した頃には、奴はもうショットガンへと持ち替えていた。

 

「くっそ!!」

 

苦し紛れにこちらも拳銃を乱射するが、全て残像と共に避けられる。くそが、ウ◯スカーかお前は!!

 

弾切れになると同じく奴のショットガンが火を噴く。

同時に全身を強い衝撃が襲った。

 

「ぐあぁぁ!?」

 

咄嗟に腕で覆ったものの慰めにもならず全身に『魔弾』が突き刺さった。

辛うじて命は拾えたが、すでに纏った礼装は半壊。あと二、三発受ければ砕け散る状態だ。

 

「遅い、対処にどれだけ時間を割いている。私との戦いを想定していたならば魔弾の対策くらいは万全にしておけ。

それになんだその射撃の腕は? 一撃くらいは当ててみせろ、これならばアマチュアに頼んだ方が良いくらいだ」

 

「好き勝手、いいやがって……!!」

 

此の期に及んで説教を飛ばしながらも、すでに回転式のリボルバーに持ち替えている黄牙。攻め手を緩める気など毛ほどもないらしい。

仮にも親子ながら薄情な奴だ。

 

こちらも高速で接近しながら懐に潜ませていたデザートイーグルを取り出す。

 

「だから遅いと言っている」

 

接近するまでに奴のリボルバーが先に火を噴いた。

『魔弾』による作用か銃そのものの機能か、この高速戦闘において尚も速い弾丸がこちらに迫る。

それを『お守り』に魔力を通して()()()()()()

 

「何っ……!?」

 

初めて驚いたような声を出した奴に内心笑みをこぼす。まあ、表情は眉毛が動いたくらいしか変わってないが。

 

ともあれ盛大な隙を作った奴にこちらのマグナム弾を食らわせる。

 

一際大きな発砲音でデザートイーグルから飛び出した『魔弾』は吸い込まれるようにして奴の心臓へと向かう。

 

「っ!!」

 

しかし咄嗟に我に返った奴が身体を逸らし、狙い外れて左肩へと命中した。

 

「ぐっ……」

 

小さく呻きながらも二発目の弾丸をこちらに放つ黄牙。

もう『お守り』は使えない。止む無く左手を犠牲にして流れる。

手袋の礼装としての効果を最大限引き出し、なんとか手の内部で軌道を逸らして手首から明後日の方向へと弾丸を飛ばす。

 

「っ……!」

 

あと少し。

 

迫った奴の心臓に今度こそ銃口を押し当て、引き金を引く。

 

ズガン! と音を立てて黄牙の体内へと今度こそ弾丸を撃ち込む。

『死』、それだけを俺の込められる限界まで込めた『魔弾』。

名だたる概念礼装には及ばずとも、これだけの至近距離で心臓に撃ち込めばたとえ奴であっても死は免れない。

 

「ぐぬぅ!?」

 

黄牙は見たこともないような驚愕の表情を浮かべ、フラフラとしながらもこちらを睨みつけた。

急速に魔力が減少していくのが手に取るように分かる。もはや奴には魔術を発動することも、銃の引き金を引く気力さえ残っていない。

 

「は、ははは……やる、ではないか。よもや、貴様がこれほど、とは」

 

ボタボタと口から血を流しながらも初めて俺に笑みを見せる黄牙。

まさか、こんな状況で、初めて褒めてもらえるなんて思ってなかったが。

 

「『(ニィ)』の仇だ。覚えてるか、父さん」

 

ほんとはずっと、こいつを許してなんかいなかったんだ。

あの日から。

俺の目の前で、一番大切な彼女を奪ったその時から。

 

「にぃ……? ああ、あの()()()か」

 

失敗作。

 

「ふ、ふふ……あの、ゴミクズが貴様の成長を促したとは、ハハハ……!! あの無駄な作業も意味があったというわけか!」

 

「っ!!」

 

俺は咄嗟に発砲し奴の頭をぶち抜いた。

 

ビチャリ、と散らばった肉片を残して頭部を失った身体は仰向けに倒れる。

首元からピュー、と飛び出す幾つかの鮮血の水流を除いて奴の身体はピクリとも動かなくなった。

 

「終わった……」

 

終わりは呆気ない、という言葉はよく耳にするが実際に体験してみるとなんとも言えない気持ちになる。

十数年、ひた隠しにしてきた憎悪を、復讐を遂げた俺の心境は正しく『無』だった。

虚しい、という表現が似合うのかは分からない。ただ、何も帰ってくることなく、ただただ終わってしまったという虚無感だけは確かだった。

 

「お前のおかげだよ、『弐』」

 

もはや効力を失ってしまったお守りを握りしめる。

黄色い布に『安全第一』と拙い文字で書かれたそれは、俺の大切な人『あの従姉妹』から貰ったものだ。

 

「まったく、こんなところで役に立つなんてな」

 

苦笑する自らの意思とは裏腹に止めどなく溢れる涙が頬を伝う。

 

もう泣かないと決めていた。もう振り返ることはしないと。

しかし、『心』を認めてしまった俺は抑えきれない憎悪とともに奴を仕留めた。

 

「なら、もう泣いても、いいよな……?」

 

復讐の相手と、唯一の肉親を失った。

もう親だなんて思っていなかったのに、それでも、もう会えないと理解すると存外にも悲しみがこみ上げてきた。

しかも、その手で、自らの手で奪ってしまったという事実が拍車をかけて俺に涙を流させる。

 

「もう、疲れた……」

 

一気に身体の力が抜けて床にヘタリ込む。

立ち上がる元気もなかった。

 

もう、俺の人生はここで終わったのだから。

命を賭して達成すべき目標は、呆気なく終わってしまったのだから。

 

「もう、休んでもいいよな? 弐ーー」

 

「ならば、私が代わりに休ませてやろう」

 

「っ!!!?」

 

突然聞こえた声に振り返ると、発砲音と同時に左胸を激しい痛みが襲った。

 

「あ、がっ……」

 

不意に胸を押さえた手、その指の合間からポタポタと血が流れ出る。

 

「せめてもの慈悲だ、これまでの貴様の罪を償う時間をやる」

 

心臓を貫かれたのは確か。だが、激しい痛みと脱力感とは裏腹に死が迫る気配はない。

いや、これはーー

 

「本来は拷問に使うものなのだがな、特別に貴様に使ってやった。麻痺毒というやつだな。

案ずるな、“死にはしない”。

ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

痛い痛い痛い痛い痛い。

激しい痛みが全身を絶えず駆け巡る。

床に倒れ伏したままに声もロクに出せない。

 

指一つ動かせない、魔力も……ダメだ。

 

「ぁ……ぁぁ……」

 

「む、もうこんな時間か。ではな、不良品。これが今生の別れとなるだろうが、挨拶は不要だろう」

 

なんとか動く眼球で、“奴”の姿を追う。しかし視界にもモヤがかかり始めてぼんやりとしか認識できない。

 

「ああ、それと。最後のアレだがな……」

 

カツカツ、と音を立てて部屋を出ようとして、ふと、立ち止まった奴がくるりとこちらに向き直った。

 

「っ…!? っっ!!?」

 

その姿は相も変わらず不気味で、しかし、その眼球だけはーー

 

「満点だったぞ、確実に殺せていた。相手が()()であったならばな」

 

真っ赤に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワタルーー!!』

 

遠くから幼い女の子の声がする。

 

家の近くの河川敷で体育座りをしながら俺は絵を描いていた。

拙いながらも、その願望を強く表す絵を。

 

やがて、こちらまで近づいた女の子が後ろから俺の絵を覗き込んだ。

 

『何描いてるの?』

 

『おわっ、近いって! 離れろ、“弐”!』

 

俺の真横に迫った彼女の顔を咄嗟に押し退ける。

不満げに『女の子に優しく!』だの『いい男になれない』だのと喚く彼女に仕方なく向き直る。

 

『ったく、用があるなら早く言ってくれ』

 

脱色したような真っ白の長髪に人外じみた純白の肌。整い過ぎた顔立ちのその瞳は、金色に染まっている。

 

改めて見ると美しすぎるその容姿に、俺は自然と目を逸らした。

 

『ふっふっふ〜、よろしい。そんな君にはこれをあげよう!』

 

腰に手を当てて全力のドヤ顔を披露した彼女は、おもむろに取り出した何かを強引に俺の手に握らせた。

 

『……お守り?』

 

見れば、ヘッタクソな字で『安全第一』と書かれた黄色い布のお守りがあった。

 

『うん! “しゅぎょう”をしてるワタル、いつもたいへんそうだから』

 

修行……その言葉を聞くだけで身震いしてしまう。

つい最近始まった父上からの魔術教育はとんでもなくスパルタなのだ。流血沙汰は当たり前、骨を折ることなどすでに数えきれないほどだ。

 

……でも、決まって終わりには()()()()()()。『良くやった』と、『お前は私の誇りだ』と。挙句には『私など凌駕する当主になるだろう』と自信満々に語ってくるほどだ。……なんであんたが自信満々なんだ。

 

それに、家に帰れば()()()がーー

 

『ありがたく受け取っておく』

 

そう言って俺はまた絵を描く作業に戻る。

 

『むぅ、もう少しありがたがってもいいんじゃない? せっかく、おじ様に習って作ったのに』

 

口を尖らせてそう述べる彼女。

 

『え、これ手作りなの?』

 

『て、手作りって……ちょ、ちょっとドキドキする言い方だよね』

 

それはどうでもいいが、まだ五歳なのによくこんなもの作れたな。

そう、子ども心に思う。

 

『中身は何が入ってるの?』

 

『ふぇ!?』

 

何の気なしに聞いてみたのだが、予想外にも素っ頓狂な声をあげて彼女は顔を真っ赤にした。

 

『なに、その反応?』

 

『え!? いやいやなんでもないよ? べべ、別に変なものは入れてないから!!』

 

ワタワタと手を振り必死に語る彼女。率直に怪しい。

 

『……まあ、でも、こういうのは知らない方が効果あるって聞くし』

 

一般論だがな。魔術としてどうなのかまでは知らないが。

 

『そうそう、お楽しみはとっとかないと!』

 

いや開けるという選択肢が無い以上、お前が言わなきゃ分からないだろ。彼女が作ったのなら彼女に聞かなければ中身など分からない。

もし、彼女に聞くことができなくなったらーー

 

『……それにしても、ほんと、良い出来だなぁ。とても五歳児が作ったとは思えない』

 

『は、ははは……そ、そうそう、五歳児にしては良く出来たと我ながら感心したわ』

 

『日本語変だぞ……』

 

『細かいことは気にしない!』

 

そう言って笑う彼女につられて俺もそれ以上の興味を失った。

 

 

 

 

 

 

 

『で、何描いてるの?』

 

『んー?』

 

黙々と絵を描く俺の隣で彼女はずっと座っていた。

もしかしたら俺が描き終えるのを待っているのかも。

 

『とか言ってる間に出来た』

 

『お、見せて見せて!』

 

渡す暇もなく強奪される絵。……いや、見せないつもりはなかったけどね? 礼儀というものを知らんのかこの娘は。

 

『……え?』

 

しかし絵を見た途端にピタリと動きを止めてしまった。

 

まあ、こうなるとは思っていたからタイミングを見計らっていたのだが。

それに、なんだが照れくさいし。

 

仕方なく、指差しながら解説してやる。

 

『これが父上、で隣が母さま。……で、えーと。中央にいるのはーー』

 

『私、とワタル?』

 

『……そう』

 

いつもとは違う、大人みたいな声で呟く彼女が眩しすぎて、俺はそっぽ向きながら答える。

 

『父上と母さま、俺とお前で、なんていうか……仲良く暮らしたい、とか思ってるんだ』

 

『……』

 

『お前のとこのおじさんと父上が仲悪いのは知ってるけどさ、そんなの、俺がどうにかするから……いや、絶対になんとかする!』

 

想いが抑えきれなくて、咄嗟に彼女の手を取る。

 

『俺、いっぱい修行して、父上みたいな……父上よりもすごい魔術師になって、みんなを守れるくらい強くなって、絶対、お前を迎えに行くから!』

 

『わ、ワタル……』

 

『だからっ、おお、お、俺と、け、けけけ……』

 

だめだ、あと少しというところで頭がオーバーヒートした。

呂律の回らなくなった俺の代わりに、彼女が言葉を紡ぐ。

 

『結婚、する?』

 

そしてあっさりと答えた。

 

『っ!!!? えと、その、い、いい、のか?』

 

『うん、ワタルとなら、いいよ。だって、絶対に守ってくれるんでしょ?』

 

『ああ! 絶対守る! ……今はまだ弱っちぃけど』

 

『ふふ、いいよ。それまで待ってる。ワタルのお父様よりも強い魔術師になるまで待ってるから』

 

『じ、じゃあ……!』

 

『うん。待ってる。だから、ワタルも絶対に迎えに来て』

 

『もちろん、約束だ!!』

 

『うん、約束』

 

まだ短い指を絡めて俺たちは『約束』を交わした。

 

 

 

 

『ワタルー』

 

『あ、かあさま!』

 

ふと、また遠くから声が聞こえた。

それもよく知った暖かい声。

 

『……ワタル、私ーー』

 

『弐も行こうぜ!』

 

なぜか俯いていた彼女の手を引き、声のした方へと駆け出す。

 

『あ、いいよ、私、自分でーー』

 

『何言ってんだよ、一緒に帰ろうぜ』

 

『でもーー』

 

『安心しろって。お前も母さまも、ついでに父上だって、俺が守ってやるからさ』

 

『ワタル……うん!』

 

やっぱりお前は笑顔が一番似合ってる。そう心の中で思いつつ声の方へ。

 

『もう、またこんな時間まで外で遊んで』

 

俺の母さまは自慢の母さまだ。美人で優しくて、おまけに料理も上手。俺の母さまは日本一、いや、世界一の母さまだ。

 

でも、前から気になっていたことがある。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

まるで絵から飛び出してきたみたいにキレイな母さまだけど、何処と無く……いや、あれはまるでーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワタル……

 

 

 

 

誰かの声が、暗闇に響く。

 

 

 

 

 

ワタル……ワタルっ……!

 

 

いや、俺を呼んでいる?

 

 

 

ワタルっ! 起きろって、ワタル!!

 

いったい、だれがーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

目を開けた。写りこむのは()()の天井。

……だけではなかった。

 

「ワタル……ったく、世話かけさせやがって」

 

「くるみ……?」

 

苦笑するくるみ女史の顔があった。

いや、それ以前に俺はーー

 

ふと、身体のどこからも痛みを感じないことに気付く。あの地獄のような激痛が今は毛ほども感じない。

 

『ハッ! あの程度の毒でへばっちまうような奴ぁ八つ裂きにしちまえばいいのによ』

 

不意に、聞き覚えのない声が。いや、聞き覚え自体はあるものの、()()()()()()()()()()()()()()()

 

荒々しくも、可憐なーー

 

「こら、()()()()()()! こいつもアタシらの大事な部の仲間だ」

 

叱りつけるように述べるくるみ女史。いや待て。何か、変な単語を聞いた気がするぞ。

 

寝起きゆえに軋む身体を動かして、なんとかその姿を捉える。

 

ぼんやりと、透けて見えるような不確かな存在ながらソレは確かにこの場に存在し、くるみと会話していた。

 

『……あん? なんだお前、なんか文句でもあんのか?』

 

全身鎧を纏った騎士。『叛逆の剣』を腰に差し、仁王立ちしている。

 

『そうよ騎士さん、喧嘩は両成敗……よろしくて?』

 

また覚えのない声が、今度は別の方向から聞こえてきた。

 

「ええ!? で、でもワタルくんはまだ安静にしといた方が……」

 

際どい謎の衣装、いや、()()()を纏った銀髪の美女。

それを伴って現れたのは佐倉先生だった。

 

「あなた、まで……これは、一体?」

 

わけがわからない。

なぜ、人類最高峰の霊である()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!! まさかっ!?」

 

「おっと、そこまでにしとけよワタル。一応治療は済んでるらしいけど、まだ疲れてるだろ」

 

一つの答えを得た俺を、しかしくるみ女史が優しい手つきでそっとベッドに寝かせる。

 

「いやまて。まさかとは思うがお前たち、俺の研究をーー」

 

「ワタルくん」

 

佐倉先生の声が響いた。ひどく澄んだ、しかし重みのある声だ。

自然と、俺は口を噤む。

先生はそれを「うんうん」と言いながら眺めている。

 

「……分かりましたよ。ですが、起きたら聞かせてもらいますからね」

 

「もちろんよ、だから今はゆっくりおやすみなさい」

 

そう言って俺に布団をかけ直す先生。

悔しいが相当な疲れを感じるのも事実、正直さっきから眠気が止まらなかった。

それに、なんだか先生の雰囲気が懐かしく感じてーー

 

 

 

 

「おやすみ、ワタル」

 

慈しむような“くるみ”の声を最後に、俺の意識はまた夢の中へと戻っていった。

 

 

 

 




既視感ありありのお二方の登場の経緯は次回に描写します。
いや、二話くらい使うと思います。


あと、ワタルとパッパの戦闘で使われた礼装についても解説は後日用語集にて。いちいち解説してるとDBアニメ並みに戦闘が進まないので……。


ついでに、流田の業はかなり深いです。
主に黄牙の所業なのですがね。















次回は『Will Power』をBGMにしていただきたい場所があったり(ぼそっ

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