しっこうしゃ 作:オモイカネさん
というかタイトル通りに『しっこう』するまでが恐ろしく長いことになりそう。
追記:くるみちゃんの『須』の字がずっと間違っていた……。
掃討
初めて出会った他の生存者グループ。
すでに
合流によって貴依とゆき女史の感動の再会などもあったがさして衝突もなく穏やかに彼女たちとの共同生活に入った。
学園生活部。崩壊した日常への恐怖を紛らわせるために創設された架空の部活。
佐倉慈教諭を顧問に据え、丈槍美紀、恵飛須沢胡桃、若狭悠里の三名が所属する文化部、という括りになるか。
悍ましい現実に、架空の部活動という日常をフィルターとして通すという案はなかなかに斬新だが心の平穏を保ちつつ生活を維持する点において一定の成果を上げている。
仮初の平穏といえど実に合理的な判断だと思った。
パンデミック時、施錠されており奇跡的にかつてと変わらぬ清潔さを維持していた生徒会室を主な生活の場に据え、関連した両隣の部屋をそれぞれの用途に応じて使い分けている。
拠点は三階全てではあるが、“あの日”の名残を色濃く残した他の教室やらは殆ど使われていない。
後から聞いた話だが、初めは屋上から始まり三階を完全に制圧したのは最近の話らしい。
ある程度自由に動けるエリアを確保したことで一先ずは拠点としての設備を整えることで皆の疲弊した心身を回復することを優先したのだろう。
現在は二階の階段前にバリケードを設置して進入を防いでいる。
俺たちの合流によって寝室のスペースが足りなくなったために、俺は空き教室の中でも比較的綺麗なものを選択し清掃を行うことが最初の任務となった。
清掃に関しては「自分たちのことは自分たちでやる」と柚村や後輩二人が合流し、佐倉先生にも手伝ってもらったのと、途中からゆき女史やくるみ女史、若狭悠里ことりーさんにも手を貸してもらい、結局はみんなで掃除をしたために比較的早く、かつ綺麗にすることが出来た。
この教室には当初、柚村と後輩二人が寝るはずであったが柚村が俺と一緒がいい、と断固として拒否したために仕方なく後輩二人の部屋として使用している。
そして俺はというと生徒会室から最も離れた一室を独自に確保して使用している。もちろんのこと簡易工房にするためだ。
柚村はすでに魔術について知っているために気兼ねなく存分に魔術を取り扱うことが出来る。
初めは年頃の俺たちが男女同室で暮らすことに佐倉先生が反対していたが、柚村の状態をそこはかとなく彼女に伝えて渋々了解を得た。
だがおそらくあの顔は納得していないだろう。
当たり前だ、精神安定のためとはいえ乙女の身体を弄んでいることに変わりはないのだから。
だから、俺も『本気の恋愛』という演技を行う必要があった。
俺も初めからそうするつもりだったのでさして問題はない。
予定通りだった。
そうして数日をかけて彼女たち学園生活部との交流を深めて俺の新たに合流した柚村たちとの絆を深めてもらったところで、俺はいよいよ行動に出ることにした。
「二階の制圧?」
俺の手渡した資料に目を通しながら疑問を述べる先生。
「ええ、人数が増えたことで三階のみでの生活はかなり窮屈になっていると思いまして」
「そんなことはないと思うけど」
まあ四人増えたところで三階だけても十分なスペースがあるからな。
ふむ、これはあまりメリットにはなり得ないな。
「今の所はそうでしょう。しかし後々を考えるならばそろそろ生活圏を拡大すべきです。さすがにずっと三階フロアだけで生活するのは無理があるでしょう。精神的にもよろしくありません」
「確かに……」
「せっかく設備が整っているのに、その一部しか使用しない手はありませんよ」
俺の言葉に先生は「うーん」と唸るばかりでなかなかOKが出ない。
ふと、資料をめくる手が止まりその目が見開かれた。
「え、まさかあなた一人でやるつもりなの!?」
「ええ」
リバーシティ・トロンでも比較的容易に制圧が出来た。途中、イレギュラーもあったが概ね危険もなく済んだ。
そもそもが“奴ら”の能力が怪力と体力くらいしか取り柄がないことが幸いしていた。タフさも脳天への一撃で終わるし怪力も、そもそも足が遅いので当たらなければ云々状態だ。
唯一、数の暴力が厄介だがいざとなれば魔術で一掃してしまえばいい。
厄介なのはリバーシティ・トロンでも見た奴らの変異だが、これが日数を経るごとに発生する進化にするものだとしたら一刻も早く周囲の奴らを排除するべきだ。
ゆくゆくは学校全体を神殿に近い状態にし万全の状態で奴らの排除と原因の究明、事態の収拾に当たる。
それが現在考え得る最適解だ。
「危険過ぎるわ、許可できません」
「ですが、リバーシティで一度制圧に成功しています。なんならあの時同行した三人に聞いてみてください」
「だから、そういうことでは……あなたはどうしていつもーー」
「めぐねぇ、ちょっくら巡回にーー」
タイミング悪くくるみ女史が部屋に入ってきた。
俺を視認した途端に少し眉を動かし、だが何もいわずに先生に向き直った。
「恵飛須沢さん……」
合流して以来、ここのメンバーともそれなりに友好関係を築くことに成功していたが彼女だけは一貫して態度を和らげることはなかった。思えば最初の衝突の際にも、初対面であるのに過剰に俺を警戒していたように思う。もしかしたら本能で俺の異常性に気付いているのかもしれない。
見るからに体育会系なスポーツウーマンな言動が目立つ彼女だけにそういう勘だけは鋭いと見える。
厄介だ。
無言で先生の持つ資料に目を通した彼女。
「二階の制圧か。……いつやるんだ? あたしも同行してやる」
「恵飛須沢さん!?」
「必要ない。俺一人で行う」
おどおどする先生をスルーして俺はくるみ女史に目を向ける。彼女は目に見えて不機嫌そうに顔を歪めた。
「信用できねぇ、やるならあたしも一緒に行く」
「必要ない、と言った。はっきり言って足手まといだ」
「っ! なんだと……?」
俺の一言に彼女はいよいよ怒気を含んだ低い声をあげた。
だがこちらとてこうも疑心に満ちた者と上手く連携して奴らと戦えるとは思えない。少なくとも俺はできない。
そして俺が万全に戦える状況というのは魔術を存分に行使できる状況だ。隣に彼女がいてはそれは難しいだろう。
「何度か共に奴らと戦うことがあったが、見た所、お前は奴らの殲滅に対して何か強迫観念めいたものを持っている。何があったか知らんがそんな精神状態で戦えるほど殺し合いの場は生易しいものではない」
「てめぇ……!!」
「ストーーープ!!」
掴みかからんとしていたくるみ女史と俺の間に慌てて割って入るのは先生。
「喧嘩はいけません」
「めぐねぇ、今はそんなことを言ってる場合じゃ」
言いかけた彼女のおでこに先生のチョップが炸裂した。
「ふぎゃっ!」
「いいえ、この状況で感情的になることの方が危険なのよ。そうよねワタルくん?」
「え、ええ」
思ったよりも聡明な彼女の言葉に、いや、もっともな言葉に頷かざるを得ない。
なんというか、学校で見てきた彼女とは似ても似つかぬというか、かなり逞しくなったように思う。何かあったのだろうか?
だがこの状況下ではありがたい限りだ。
「だが佐倉先生、俺は二階の制圧は急務だと思いますよ。先生もご存知でしょう、俺たちがリバーシティで遭遇したモノを」
その言葉に先生も少したじろぎ、ため息を吐いた。
俺は変異について先生にしか話をしていない。それがこの極限状態で最適と判断したからだ。
もし、ペラペラと他の女子たちにこのことを告げても無駄に不安を煽る結果にしかならず、それならばと尊敬する佐倉先生にだけ話をしていた。
すでにパンデミックから二週間以上が経過している。本来なら“奴ら”が腐ってくれるのを待つのがいいが、進化の可能性が出てきた以上は奴らの殲滅は急務だ。そして未だ謎の多い奴らの生態調査も行わなければならない。
グールではない以上既存の知識だけでことに当たり続けるのは愚策だ。
先生は緩慢な動作で頷く。不本意なのだろうが事前に変異について報告していたのが幸いした形となる。
「でも、決して無理はしないでね。危険だと思ったらすぐに撤退すること」
「俺が撤退するような輩が出てきたらそれこそ俺が退くわけにはいかないでしょう」
「ワタルくん」
今のは少し屁理屈が過ぎたか。先生は強い意志を込めてこちらを諌めるように見ている。
「わかりました」
「よろしい」
観念して両手をあげる俺に先生は満足げに頷いた。
「それで、いつ行くんだ?」
スコップを担いだくるみ女史が問う。共闘を許したわけではないのだが今更だろう。よく考えれば彼女という監視を受け入れることで他の学園生活部メンバーからの信用に繋がる面もある。デメリットだけとも限らんか。
彼女はスコップさえあればいつでも行けるのだろう。すでに臨戦態勢を整えている。
「俺はいつでも構わない。今から行くか?」
「ああ。めぐねぇはりーさんたちと一緒にバリケードの準備を頼む」
「わかったわ」
そうして俺たちは二階へと赴いた。
金属バットを携えて二階へといざ降り立つ。本当は銃も持っていきたかったのだが未だ信用の少ない状態でそれはやめておいた方がいいだろう。
変異体の脅威はあるが致し方ない。
俺はすかさず魔術により二階の『死体』の数、場所を特定する。
思ったよりも多い。すでに目に見える範囲で奴らが蠢いているのがなによりの証明だ。二階は二年生の教室が並んでいたと記憶するがこんなにも多かっただろうか?そもそも階段を登るという動作を苦手とする以上は数も少ないはずなのだが。
「作戦はどうする?」
階段の上で器用に屈伸やらの準備運動を行いながらくるみ女史が尋ねる。
「ふむ、日毎に数を増していることを思うとここで一気に叩くつもりだ。床でも叩いて誘き寄せて纏めて仕留める」
「マジかよ……見える範囲でもかなりいるぞ」
「うへぇ」と言いながらもやる気満々な彼女の様子を見て安堵する。てっきり反対してくると思ったからだ。
最悪、数日かけて地道に掃討する作戦も考えていたのだが、その必要は無さそうだ。
あとは適度に手加減して奴らを仕留めればいい。
「そろそろ始めるぞ、いいか?」
「おう、いつでもいいぜ」
「よし、行くぞ!」
掛け声と共にバリケードを飛び越え廊下に躍り出る。
「グゥ?」
着地音に反応して奴らが振り向く。その顔面にバットを叩き込む。
頭部の大半を砕かれて倒れる『死体』を横目にすかさず隣の奴らの頭部も吹き飛ばす。
「どうした?」
奴らを倒しながら後ろでポカンとしている彼女に問う。
「い、いや、悪ぃ。今行く」
俺の声で我に返った彼女はスコップを構え直し共に奴らへと向かって行く。
それに合わせて俺も狩る速度を上げて行く。教室やトイレからも次々に現れる奴らの大群を前に臆せず前進していく。
無限湧きにも等しく現れ続ける奴らだがそれもリバーシティで慣れた。ただ順繰りに頭を叩けばいいだけだ。
半ば作業になりながらも俺は奴らを掃討していった。
「これで最後だ」
グルンとバット振り下ろし頭部から胸部に至るまで砕く。血を吹き出しながら倒れる『死体』を最後にこの階における掃討は完了した。
「はぁ……はぁ……」
横ではくるみ女史が激しい息づかいとともにスコップを杖になんとか立っていた。全身から汗が滴り落ちていることからそうとう疲弊しているようだ。
「終わった、のか?」
「ああ、奴らの気配はもうない。心配なら見て回ってきてもいいぞ、危険はない」
「遠慮しとく」
いつもなら本当に見回ってくる彼女が意外にも辞退してそのまま床にへたり込んでしまった。余程疲れているらしい。
それとも多少は信用を得られたのだろうか。
「今度からは夜にやらないか?」
「いや、どのみちここに来るのは元生徒の連中だ、今後の憂いを断つならなるべく多く屠っておいたほうがいい」
「それもそうか……」
彼女らしからぬ言葉だが本当に落胆したように項垂れる彼女を見て、少しだけ、これまでよりこちらに気を許しているように感じた。
「多少は信用を得たと見ていいのかな?」
「え? あー、まあさっきは何度も助けられちまったしな。こんなに必死にやってくれたんだから多少は信用するよ」
確かに戦闘中は時折危なっかしい彼女の援護をしていたがそれは共闘を行う以上当たり前だ。
それに特に必死でもなかったのだがわざわざ言うこともないか。
「そう簡単に人を信用するべきではないと思うがな」
「信用してほしいのかしてほしくないのか、どっちなんだよお前……」
「さて、どちらだろうな」
「ホント、面倒だな、お前」
心底げんなりした様子で述べる彼女。
そろそろ休ませてやった方が良さそうだ。
「ほら、肩を貸そう」
膝を折って手を差し出せば彼女は信じられないものでも見るかのように目を見開いた。
「……お前、熱でもあるのか?」
「失礼な奴だな、疲れて動けなくなっている仲間がいれば手を貸すのは当たり前だろう」
“仲間”か、自分で言っていて実感もないのだから不思議だ。少なくとも彼女たちに関しては俺は信用している。まあ、そのお人好しすぎる人柄についてだが。
「悪りぃ悪りぃ、じゃあ、お願いできるか?」
「お安い御用だ」
彼女の手を取り肩に回す。そうして肩を貸しつつゆっくりと階段に向かう。
彼女と密着して思ったのだが思ったよりも彼女は筋肉質だった。引き締まった腕に腹筋。さすがにカチカチとまではいかないがそれでも、陸上部にしては筋肉の質が違うと思った。
「なかなか良い筋肉をしているな」
「な!?」
なんとなく口にした言葉だったのだが彼女は過剰に反応して大慌てで俺から離れた。
「なんだ?」
「お、お前! この、変態!!」
なぜそんなことは言われねばならないのだ。
「何を怒っている。俺は素直に感心していたぞ、その筋肉は運動だけではつかないものだ。日々トレーニングでもしているだろう?」
「え、あ、そういう? ……あー、まあやってるっちゃやってるけど」
どうにも歯切れが悪い反応だ。
「それよりも“あいつら”と戦ってたら自然に付いちゃっただけだよ」
なるほど、確かに実戦に勝るものはないな。
とはいえここ数週間で急激に付いたとなればそれ相応に激しい戦闘を幾つもこなしてきたのだろう。
なんとなくだが、それは普通の女子高校生が送るべき日常ではない気がした。
「まあ、俺には関係ないことか」
どうせこの件が片付けば俺は元の生活に戻るだけ。彼女との付き合いもこれきりだろう。
「? なんか言ったか?」
そう尋ねる彼女の顔は、本当に普通の年頃の少女のもので、この血生臭い現実にはひどく不釣り合いだと感じた。
「何も。まあ精々筋肉ゴリラにならないように気をつけろ」
「な、なんだと!?」
プンスカと怒る姿も実に微笑ましい。いや、この際、子どもっぽいと言うべきか。
と、俺らしくもない油断をしていたせいか彼女の背後に迫る腐った両手を直前まで察知できなかった。
「!!」
声は間に合わないと判断し反射的に彼女を抱き寄せ、迫る両手をバットで打ち砕いた。
「グギャァァァ!」
苦しそうな呻き声にまさか痛覚が機能しているのかと奴に目を向ける。
「変異体だと!?」
その身体は異常に発達した筋肉に覆われ、胸部から頭部にかけてが他の部位と比べて生々しいピンク色をしていた。
その特徴からこいつが最後に倒した『死体』の変異体であることが分かった。
初めてその全貌を見るに至った変異体は一言で言うなら筋肉の塊だった。異常に盛り上がった筋肉によって皮がはち切れ、腐りかけだった肉体は新鮮な肉で覆われている。極め付けに、頭蓋骨に筋肉がついたような頭部がひたすら醜悪だった。
例のごとく胸部には淡く光りながら鼓動を鳴らすコアが透けており、アレが肥大化した心臓であることは明らかだった。
「な、なんだアレ……」
「離れるな、一息で仕留める」
さっき打ち砕いた両手は瞬時に再生され元通りなっていた。
また、脅威を感じたのかすばやくバックステップを取り距離を取る行動に出ていた。
睨み合いの状況で俺は予想以上にこの変異体が脅威であることを思い知らされていた。
俺一人ならばどうとでもできるが、これが他の女子も連れての団体行動では確実に守りきれないだろう。
そう思わせるだけの能力を目の前の怪物は持っていた。
厄介なのはやはり強化されたスピードだ。これまでは鈍重な奴らの隙を幾らでもつけたが、これが複数同時に現れた日にはいよいよ魔術に頼らざるを得ないだろう。
「わ、ワタル」
「安心しろ、負けはしない」
当然だ。相手は一体。加えてすでに二度目の戦闘となる。ある程度能力も測れた。
あとは全力で殺すだけだ。
「っ!」
踏み込む俺の動作に反応して、回避が間に合わないと判断した奴は両腕で俺のバットをガードした。
「くっ!」
そしてひしゃげた腕を瞬時に回復させ片手でバットを掴むともう片方の手を俺が抱える“彼女”へと伸ばした。
「なめるなっ!」
その手を文字通り蹴り飛ばし、片腕を失って身体のバランスを崩した隙をついて掴まれたバットを水平にしてそのまま奴の頭部に突き立てる。
壁とバットに挟まれグシャリと潰れた頭部。散らばる肉片を無視してピクピクと震えるその身体の中央に解放されたバットをもう一度突き立てた。
水風船の割れるような音と共に心臓を破裂させた奴はピタリと停止してそのまま崩れ落ちた。
もはやピクリとも動かない。
「くそ、油断した」
「あ、あのさ……」
モゴモゴと何か呟く彼女に気付いて目を向ける。
「なんだ?」
「な!? ……えと、そろそろ、離してくれないか?」
蒸気が出そうなほどに顔を真っ赤にした彼女はそう告げた。
お望み通り手を離す。
「すまん、これは俺のミスだ。この可能性を考慮しなかったわけではないが油断していたのは事実だ」
「い、いや、別にお前のせいじゃないだろ。奴らとの戦いが危ないことくらいあたしだって分かってたはずなんだから」
「そうではない。……いや、とにかく俺の油断が招いたことだ」
「謝るなって、あたしが油断したのが悪いんだから」
「だから、俺のミスだと言っているだろう」
「だから! あたしのミスだって!」
そのやり取りを何度か繰り返したところで自分が実にくだらないことを論議していることに気づき一先ず帰ることにした。
「とにかくここの制圧は終わりだ。早急にバリケードの設置に取り掛かろう」
「あ、ああ、それもそうだな」
階段付近にはすでに先生を始めとした後方支援組が待機しており速やかに机が運ばれ、俺が合流時に持ってきた物資の中にあったワイヤーによってギチギチに縛られあっという間にバリケードが出来上がった。皆がテキパキと行動して本当に一瞬でバリケードの設置を終えてしまったのは素直に驚いた。それもこれも先生の的確な指示があってこそだろう。
「まったく、殺りに行くならあたしにも行ってくれればいいのに」
バリケードを眺めながら柚村が不満げにそうこぼした。
「すまんな、まあ、今回は恵飛須沢が同行すると申し出たのでその意思を尊重したまでだ」
この拠点も元は彼女たちのものだ。後から来た俺があまりワガママを言うべきではないだろう。
まあそれを差し引いても戦闘時は俺に任せてもらった方が楽だが。
「あ、ワタル!」
そう思いつつ今後のことについて考えていると、件のスコップ少女・恵比寿沢がおぼつかない足取りでこちらに向かってきた。
「もう少し休んでおいたらどうだ。まだ疲れも抜けていないだろう」
フラフラしながら来るあたりやはり掃討作戦は俺一人でやるべきだと改めて思った。
「平気だよこのくらい。いや、そんなことを話しにきたわけじゃなくてさ」
彼女にしては珍しく歯切れ悪くモジモジとしている。何か他に言いたいことでもあるのだろうか。
「あー、なんかさ、さっきはその……助けてくれてありがとな」
ポリポリと頬を掻きながら恥ずかしそうにそう告げる彼女。
「まさか、それだけのために来たのか?」
「な、それだけって! もう知らね!!」
だが疑問を呈すると共に彼女は一転してプンスカしながら帰ってしまった。途中、壁に激突したりしながらも帰って行く彼女の後ろ姿は少々危なっかしくて、休憩室までの道のりを誰か付き添いで付けようか考えていると。
「む」
不意に腕を抓られた。
見ればむすっとした柚村がこちらを睨んでいる。
「なんだ?」
「いや、なんでもないさ。随分とくるみと仲良さげだったのが気になっただけ」
プイッとそっぽ向きながら述べる柚村。なるほど、所謂嫉妬というやつだな。
「そうむくれるな、彼女とは何もない」
ポンポンと頭を撫でてやると少し頬を緩ませて、しかしすぐにふくれっ面に戻ってしまった。
「そんなのであたしが籠絡されると思うなよ」
そしてドスのきいた声でそんなことを告げられた。
「……今後の反省点としよう」
俺は何も言えず、その日一日、すっかりへその曲がった彼女のご機嫌とりに苦労することになった。
【タイプ2:ブラッドショット】
活動の停止から蘇生し変異を起こした個体。異常な筋肉の発達により筋組織の剥き出しになった醜悪な姿が特徴。
だがその際たる特徴は脳の破壊のみならず“心臓を破壊したにも関わらず”新たに脳と心臓を再生させ活動を再開するところにある。
だが変異後の破壊に関してはなぜか蘇生されずそのまま活動停止する。
恐らくは変異による蘇生の際にエネルギーを消費したことによるものと考えられるが真相は不明。二階制圧に際して現れた個体の死体を調べてみないことには分からない。
その他、詳細不明。
ーー奴らに関する生態調査・著者:流田航