DATE・A・LIVE The Snatch Steal 作:堕天使ニワトラ
―――隣界。そこは
現在、この場所に二人の精霊が訪れていた。
「……なるほど。こういう空気は変わらないのか」
「はぁ、はぁ……」
その場に座り込みながら周囲を見回している零と、身を預けるようにして寄りかかっている<ハーミット>。
彼女は未だに青い光に包まれながら、熱でうなされているように荒い呼吸を続けている。
零はこれから行う行為に背徳感を覚え、緊張から軽く身震いをする。
だがこれは避けては通れない通過点。このためにこの30年弱、ずっと準備をしてきたのだ。
意を決した零は、そっと<ハーミット>の頭に右手を乗せる。
「はぁ、はぁ……え?」
うっすらと意識があるのか、<ハーミット>は小さく反応する。
「これからお前のすべてを俺のものにする。そうすればもう、お前は外敵に狙われなくなる」
「……………………」
<ハーミット>はぼんやりとした意識のまま、零の言うことに耳を傾ける。
『俺のものにする』。この言葉の意味はよくわからない。
だが、彼女の中の『何か』がそれを望んでいるように、彼女の鼓動をさらに加速させる。
この男にすべてを捧げろ。この男のために尽くせ。そんな思いが彼女の胸を染めていく。そして―――
「―――は、い……」
彼女はその衝動に従い、塗り潰された思いを受け入れた。
瞬間、光はより一層強くなり、何かの合図のように点滅しているように見えた。
「よし……」
その返事に覚悟を決めた零は、彼女を抱き寄せるようにして向き合い―――
―――そっと、唇を重ねた。
「ん……」
彼女は突然のことで驚いたのか、瞬間、目を大きく見開く。
だがすぐにそれを受け入れ、そっと目を閉じる。
すると彼女を包んでいた光が移動を始め、二人の繋がっている場所、互いの唇へと集まっていく。
そしてそれが二人の口の中で収束され、小さな青い宝玉のような
自身の舌でそれを確認した零は、それを舌で手繰り寄せ、自身の喉へと導いた。
「あぁ……」
唇を離すと、彼女の首に青いリング状の紋様のようなものが浮かび上がる。
それを見た零は、満足そうにこう言った。
「……これでお前は俺のものだ。―――
「……は、い。ご主人、様……」
嬉しそうに微笑みながら、<ハーミット>、四糸乃は零に身を寄せる。
『―――ちょっと~!よしのんを差し置いて二人だけでいちゃラブするなんてずるいんじゃないの~?』
「うぉっ……!?」
「よ、よしのん……」
すっかりその存在を忘れ去られていたパペット、『よしのん』が急に活動を再開する。
「……そういえばそうだな。二人は一心同体だもんな」
零は『よしのん』の頭に手を乗せ、わしゃわしゃと豪快に撫でる。
『そうそう!四糸乃あるところによしのんあり!ってね。それじゃあご主人さま!四糸乃とよしのんのコト、末永く可愛がってね~♪』
そう言うと『よしのん』は零に飛びつくように顔を寄せ、零の唇に顔を力一杯押しつけた。
「……あぁ、たっぷり可愛がってやる」
そう誓うように零は四糸乃と『よしのん』を優しく胸に抱きしめる。
すると安心したのか、四糸乃は安らかに眠りに落ちてしまう。
そのまま零は四糸乃を抱き留めながら、現界の時まで二人きりの時間を過ごした。
―――四糸乃と零が
市内の住人は速やかに地下シェルターに避難し、地上は人っ子一人いない。
そんなゴーストタウンと化した市内で、広範囲に突風が巻き起こる。
そしてその中心部に漆黒のエネルギーが発生し、それが徐々に拡大していく。
そのまま一気に広範囲に広がり、その範囲内にあるものすべてを巻き込むのが空間震だった。
しかし今回は広がることなく、2m程度に留まり、波打つ水のように湾曲する。
―――そして花火のように広範囲に霧散した。
中心部から現れたのは、抱き合ったままキスをしている零と四糸乃。
周囲に舞い散る空間震の残照は、まるで二人を祝福しているかのような演出を装っているようだった。
「……へぇ、こういう空間震もあるんだな」
四糸乃から唇を離すと、見慣れない空間震の跡を軽く見回す。
通常の空間震なら、範囲内にあるものを根こそぎ消し去るのだが、今回はその様子がまるで見受けられない。
そう、ほんの少しもないのだ。静粛現界でも僅かな破壊の痕跡があるはずなのだが、今回はそれすらもなかった。
「あ、あの……ご主人、様……」
『これからどうするの~?もしかしていかがわしい場所につれてって、あ~んなことやこ~んなことを……』
零の指示を待っているのか、四糸乃と『よしのん』が上目遣いで零を見上げる。
「そうだな。こんなところでじっとしてても……」
厄介者が来る前にどこかに隠れようと見回す。すると遠方から見知ったワイヤリングスーツを身につけ、多数のCR-ユニットを装備した一団、ASTが飛来してくるのが見えた。
「……ちょーっとドロンするのが遅れたか。仕方ないな……」
「ご、ご主人、様……」
『うわーお!これまた大変なお出迎えだね~』
零の後ろに怯えながら隠れる四糸乃と、ファイティングポーズをとって迎撃する姿勢を見せる『よしのん』。
「下がってろ。連中の相手は俺が―――」
零が前に出ようとしたとき、何処からか一発の鉄の塊のような物体が飛来してくる。
それが零たちとASTの間に到達した瞬間、眩い閃光を放ちながら爆発した。
「きゃっ……!」
『なになにー!?新手の敵襲~!?』
「……いや、どうやら援軍が来たみたいだ」
四糸乃と『よしのん』が慌てふためく中、零は落ち着いた様子で対
そこには左腕に装着したグレネードランチャーを構えた<オルトロス>の姿があった。
「ナイスタイミングだな。……四糸乃、こっちだ」
「えっ?は、はい……」
『いぇ~い♪愛の逃避行ってやつだね~♪』
零に腕を引かれ、四糸乃と『よしのん』は<オルトロス>のいる建物の影へと身を潜める。
それから二人を見失ったASTはその後の捜索も空しく、仕方なく撤収していくのだった。
「―――お帰りなさい。その様子だと無事に目的は果たせたみたいね」
<オルトロス>に誘導されて来た零と四糸乃を、トラックの前で待機していた志保が出迎える。
「あぁ、お陰様でな。この通りバッチリかっ攫ってきた」
言いながら零は四糸乃の頭に手を乗せ、優しく撫でる。
「あ、あぅ……」
人前で恥ずかしいのか、四糸乃は黙りこくりながら縮こまる。
「初めまして。私は海原志保。この人の協力者よ」
「博士は俺の相棒だからな。ちゃんと言うことを聞くんだぞ?」
右手を差し出して握手を求める志保に、零がフォローして四糸乃の背中を押す。
『あらそうなの~?よしのんはよしのん!ふつつか者ですが、どうぞよろしく~♪』
四糸乃に代わって『よしのん』が志保の手に捕まるようにして握手に応える。
「あらあら。ずいぶんと可愛らしいお友達がついてるのね」
「それよりもそろそろ戻らないか?ASTに見つかると面倒だろ」
『よしのん』を見て和んでいる志保に、零が催促する。
ちょうど<オルトロス>の格納が終わったのを機に、その場にいた全員が乗ったトラックは