DATE・A・LIVE The Snatch Steal 作:堕天使ニワトラ
四糸乃と零の現界。その様子を見ていたのはASTだけではなかった。
「……あ、あれは……」
ちょうど二人が現界した頃、空中でその様子を見ていた<フラクシナス>のブリッジ。
そこで偽の『よしのん』を握りしめたまま、士道が膝をつく。
「まさかあれって……令音!」
艦長席に座る琴里が令音に呼びかける。
「……あぁ、間違いない。確認されている中で唯一の男の精霊―――<インキュバス>だ」
令音の解析結果にブリッジ内が騒然となる。
なぜこんなところにいるのか。そしてなぜ四糸乃とキスをしながら、二人同時に現界したのか。不測の事態にクルーたちが混乱する。
「―――落ち着きなさいっ!こんなところで悩んでても仕方ないわ。観測機で二人の後を追って!」
琴里の一括で全員が平常心を取り戻すと、クルーたちは大急ぎで観測機を操作する。
「……!……あそこに何かいるわね。映像を拡大して」
<インキュバス>と四糸乃が建物の影に隠れると、そこには見覚えのある巨体が二人を出迎えるように立っていた。
「……!……あ、あいつは……!」
「四糸乃の結界の中にいた奴ね。……ってことは<インキュバス>の仲間ってことかしら?」
どれだけ悩んだところで、憶測の域を出ない。
仕方なく監視を続けていると、少し離れた場所にとめられていたトラックの近くに誰かいるのが見えた。
「今度はまともな人間みたいね。……けど人間が精霊と組むなんてこと……」
言いかけて琴里の脳裏に、とある仮説が立てられた。
「……なるほど。そういうことだったの」
「琴里?何かわかったのか?」
士道の問いかけに琴里は「ええ……」と短く答え、推理とも呼ぶべき可能性を口にした。
「今までの報告にあった<インキュバス>の行動は、すべて本命である精霊を捕獲するための戦力増強だったのよ。だから優秀な
「……なるほど。そう考えればすべて辻褄が合うな。だとすると彼はかなりの戦力を引き連れていることになる。……もしかしたら我々のような組織クラスのサポートがバックにいる可能性も否定できない」
琴里の推理に便乗するように、令音も思いついた推測を口にする。
「となると、このまま彼らの後を追って、アジトの場所を突き止めるのが得策でしょうか……」
「当然でしょ。こうなったらこのまま監視を続けて、<インキュバス>の隠れ家を突き止めて―――」
副司令である
「なっ!?もしかして
目標を見失って気が動転してしまう琴里。
クルーたちは何とかトラックを見つけ出そうと奮闘するが、完全に見失う形で終わってしまった。
「……目標の反応、完全に見失いました」
「……してやられた。って訳ね」
クルーの報告に、琴里は舐めていた棒付きキャンディーをガリッと噛み砕く。
「そ、それじゃあ四糸乃はどうなるんだ!?まさか殺されるなんてことは……」
「落ち着きたまえ。生きたまま連れて帰ったと言うことは、すぐに命を奪う可能性は低い。ここは我々で行方を捜していくからシン、君はもう帰りたまえ」
四糸乃を心配するあまり気が動転している士道を、令音が冷静に
目的を達成できずにブリッジを去って行く士道の背中は、十香の一件での勢いが嘘のように小さく見えた。
「……只でさえ男の精霊と言うだけでもイレギュラーなのに、まさか他の精霊を捕獲するために動いていたとは……」
「しかも我々やASTの目を盗んでの鮮やかな隠密行動。これは一筋縄ではいかなさそうだな」
神無月と令音の意見に、琴里は「ええ……」と短く答える。
「……どうやら<インキュバス>の見解を見誤っていたようね。こうなったら情報の見直しが必要かしら。……神無月!令音!<インキュバス>に関するデータを可能な限り集めてきて!」
琴里が怒号とともに指示を出し、ブリッジ内は再び慌ただしくなる。
「……<インキュバス>。まさか私たちと張り合おうとはね。……上等じゃない。その
新しい棒付きキャンディーを口に含み、琴里は獲物を狙う狩人のような表情で、モニター上の<インキュバス>を睨み付けた。
一方、拠点である社屋に到着した零たちは、四糸乃の簡単な検査をしていた。
「……健康状態は至って良好。精神状態も安定。あとは制御装置用のデータさえ取れれば、普通に生活しても問題ないわ」
コンピュータをカタカタと操作していた志保が、隣にいる零に結果を報告する。
「そうか。じゃあ次は俺の番だな。……四糸乃、よしのんと一緒にちょっと隣で待っててくれ。部屋にあるものは好きにしていいからな」
「は、はい……」
『早く終わらせてね?よしのん、もっとご主人さまと一緒にいたいからさ~♪』
検査台から降りた四糸乃は、志保に誘導されるように大人しく隣の部屋へと移動していく。
そして入れ替わりで零が検査台に乗ったのを確認すると、コンピュータの前に戻った志保が検査を始めた。
「……他の精霊と契約を結んで、自分の支配下に置く能力……ね。本当に変わり種もいいとこだわ……」
検査を続けながら、志保は零に与えられた能力について思案する。
まず対象の精霊に、隷属させるための特殊な霊力を送り込む。
これには対象の
志保は当初、原理は催眠や洗脳に近いものかと見ていたが、四糸乃の検査でそれは間違いであることを思い知らされた。
零に隷属した四糸乃の
例えるなら重度の麻薬依存症の患者が、より多くの麻薬を求めている状態に近い。
もしかしたら霊力をたらふく吸収させられ、キスをトリガーに
となると隣界で精霊に隷属を迫っているのは零だけでなく、彼女たちの
「そして精霊本人が堕ちた証に、
しかも言葉にしなくても隷属した精霊に気持ちを伝えることができ、それに従わせることができる。
さらに
そのためどちらかの
「……ここまでやってようやく一人分。けど……」
これで終わりではない。まだ一人目を獲得しただけ。まだ精霊は他にもいるのだ。
その全員を隷属させ、支配下に置くまでは目的を果たしたことにはならない。
しかも精霊化した零について、まだわからないことは山ほどある。だからなにが起こってもおかしくない。
それに対する備えも万全の状態にしなくては、いつか起こる問題に対処できない可能性があるのだ。
「まだまだやることは山積みね。もっと頑張らないと。……ね?社長」
検査台の上で大人しくされるがままの零を見ながら、志保はてきぱきと検査を続けた。