DATE・A・LIVE The Snatch Steal   作:堕天使ニワトラ

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束の間のショッピング

 

それから次の日、零、志保、四糸乃の3人は四糸乃の生活用品を揃えるため、商店街に買い物に来ていた。

 

『わぁ~お!見たことないものがたくさんあるねぇ~♪』

「すごい、です……」

 

普通の生活というものを知らない四糸乃と『よしのん』は、はしゃぐようにして町を見回している。

 

「……こうして見ると、普通の女の子と変わらないわね……」

「あぁ、そうだな……」

 

まるで保護者にでもなったような気分で、二人はは四糸乃を見守る。

今の四糸乃は応急用の霊力制御装置で霊力を感知される心配がなく、霊装も展開していないためASTに狙われる心配はない。

 

「……それでも、町中を堂々と歩くわけにはいかないみたいだけど」

 

言いながら志保が近くの建物の影に目を向ける。

そこには鋭い視線を零たちに向けている少女の姿があった。

 

「確か……鳶一折紙、だっけ?ASTの」

「ええ。偶然見かけてついてきたのね。……そういえばあの()もなかなか優秀な魔術師(ウィザード)よね?どうして引き抜かないの?」

 

志保がそう提案すると、零は残念そうな表情で折紙を見る。

 

「……俺もそうしたいのは山々なんだけどな。残念ながら彼女は不採用だ。精霊に対する憎しみが強い。たぶん霊力を送り込んでも完全には堕とせないと思う」

 

そう、零の能力(ちから)は精霊相手なら確実に通用するが、それ以外の人間には絶対の保証はない。

特に精霊(じぶん)に対する嫌悪感や憎悪などの強い悪感情を抱いている場合、それによって阻害されてしまう可能性があるのだ。

零の天使、<淫導賢者(タブリス)>には催眠術に近い能力が存在するが、いつ解けるかわからない以上、無闇に使う気にはなれない。

だから零は精霊について知っていて、魔術師(ウィザード)として優秀で、かつ精霊に対して悪い印象を持っていない女子という条件を定めているのだ。

 

「なるほど。それじゃあ仕方ないわね。……それじゃあしばらく様子を見て、適当に()いておきましょうか」

「あぁ。こういうときのための秘密兵器もあるしな」

 

懐に忍ばせたものを軽く叩き、二人は四糸乃の後を追うように早足で移動した。

 

 

 

 

 

―――それから数時間後、生活必需品を一通り買い揃えた零たちは、満足げな足取りでトラックが隠してある地点を目指していた。

しかし監視の目も時間が経つごとに数を増していき、このままでは迂闊に帰ることができない。

 

「そろそろ面倒になってきたな。こうなったら……」

 

零の言わんとしていることを悟った志保は、ポケットに仕込んでいた装置のボタンを押す。

 

「これでいいな。……四糸乃、こっちだ」

「えっ……?」

『どうしたのご主人さま~?……まさか人目につかない場所であ~んなことやこ~んなことを……』

 

勝手な妄想で騒ぎ立てている『よしのん』は気にせず、零と志保は次の曲がり角へと飛び込むように走る。

そしてすぐに近くの物陰に隠れると、零は懐から黒い手の平サイズのミニカーを取り出し、そっと地面に置く。

すると中央に取り付けられたレンズ状の部分から光が放たれ、目の前に零たち3人の姿が映し出された。

 

『わわっ!?よしのんたちが二人いる~!』

「えっ?えぇっ……!?」

 

突然現れたもう一人の自分たちの存在に、『よしのん』と四糸乃は驚愕で後退(あとずさ)る。

 

「ホログラムの方は問題なさそうだな。……それじゃあ陽動は任せた」

 

零がミニカーを軽く押すと、3人の立体映像と同じペースでゆっくりと前進を始める。

その光景は何処からどう見ても3人が普通に町中を歩いているようにしか見えず、零たちを追跡していたASTもそちらの後をついて行ってしまった。

これは志保が持っている端末で3人の映像を記録し、それを零が持っていたミニカー型の投射機で表示、走行させて追っ手を撒くための開発中の試作機である。

 

「……よし、あとはバレる前にトンズラするだけだな」

「そうね。……さ、行きましょ」

「えっ!?あ、あの……」

 

零と志保は四糸乃の背中を押すようにして、身を隠すようにしながらトラックの隠し場所へと向かった。

 

 

 

―――その数分後、ホログラムにようやく気づいたASTたちが悔しそうにしている様子は、志保が放った観測機でバッチリ記録されていたそうな。

 

 

 

 

 

零が四糸乃を攻略してから数週間が経過した頃……、

 

「―――高校に精霊が転校してきた?」

 

志保が持ってきた情報を聞いて、零は呆然とする。

 

「ええ。……しかも(くだん)の彼、五河士道くんがいる来禅高校にね。これはどう見ても狙って近づいてきたとしか思えないわ」

「だろうな。偶然で片付けるには無理があるだろ……」

 

零からも同じ意見が出たところで、志保は端末に詳しい情報を表示する。

 

「なになに……名前は時崎狂三(ときさき くるみ)。識別名は<ナイトメア>。空間震とは別に、その手で一万人以上の人間を殺害してきた最悪の精霊、か……」

「ずいぶんと物騒なことしてるわね。……趣味だなんて言い出さないかしら?」

 

さすがの零も、ギネス記録級の大量殺人鬼という経歴に尻込みしてしまう。

 

「あら、社長にしては珍しいわね。無理そうなら後回しにする?」

 

零の様子を気にした志保が、冗談交じりに提案する。

 

「……いや、これ以上余計な犠牲を出させないためにも、最優先で狙った方がいいだろ。……それよりも博士。この情報は何処からくすねてきた?」

「ん~?ASTにハッキングしてコソッとね。……大丈夫。バレてないから」

 

しれっとぶっちゃけた問題発言に、綱渡りのようなハラハラ感を覚える。

 

「……もう少し安全かつ合法的な情報の収集手段があればな……」

「そんな都合のいいものはないわよ。精霊の存在自体が秘匿(ひとく)情報なんだから……」

 

言いかけて、志保は何かを思いついたように考え込む。

 

「……その顔は何か企んでる顔だな?」

 

それに気づいた零が、ジト目で志保を見る。

 

「あ、バレた?それでちょーっと相談なんだけど……」

 

耳打ちで志保から告げられた提案は、零の予想を裏切らないレベルの悪質な当たり屋紛いのイタズラだった。

 

 

 


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