DATE・A・LIVE The Snatch Steal 作:堕天使ニワトラ
―――最悪の精霊、<ナイトメア>が来禅高校に転校してきてから数日後。
士道は彼女を攻略すべく、休日を利用して町を案内する口実にデートを実行していた。
「……なぁ琴里。本当にやらなきゃいけないのか?狂三だけじゃなくて、十香と折紙ともデートするなんて……」
ターゲットとだけデートするつもりだったはずが、さらに二人追加してトリプルブッキング状態となってしまった。
待ち合わせの間にその不安を<フラクシナス>にいるであろう琴里にぶつけている最中だった。
『……すまない。琴里はいま取り込み中なんだ。しばらくは私がサポートすることになった』
インカムから聞こえてきたのは厳しい司令官の叱責ではなく、解析官である令音の落ち着いた説明だった。
「れ、令音さん!?……もしかして琴里、どこか行ってるんですか?」
『ああ、思わぬ収穫があってね。もしかしたら四糸乃の件は何とかなるかもしれない』
「えっ?四糸乃の?それってどういう……」
その言葉の意味を追求しようとしたところで、タイミング悪く待ち合わせの時間がきてしまう。
「……まぁ、いいか。今は狂三をデレさせるのが先決だ!」
士道は気を取り直し、目の前のデートに専念することにした。
ちょうど同じ頃、士道たちがデートをしている天宮クインテットから少し離れた場所に、
そのオープンテラスにあるテーブルのひとつで、志保が優雅にコーヒーを飲んでいた。
「……ふぅ、たまにはお店のコーヒーも悪くないわね……」
休日の一時を満喫しながら、志保は来たるべき時を待つ。そして……、
「―――すみません。少しお時間をよろしいでしょうか?」
突然声をかけられ、志保は顔を上げる。
そこには二人の屈強な体型を持った男を引き連れた、長い金髪をした青年が立っていた。
「あら、どちら様で?」
「おっと……これは失礼。申し遅れました。わたくし、<フラクシナス>で副司令を務めている神無月恭平と申します」
青年、神無月は一歩引き、丁寧なお辞儀と共に自己紹介をする。
聞き慣れない単語に普通は疑問を持つところだが、あえて志保は気にせずに対応する。
「これはご丁寧に。……私は海原志保。社長……あなたたちが言うところの<インキュバス>の片腕をしてるわ」
合わせるようにして、志保もカップを置いて丁寧に返す。
「やはりそうでしたか。その辺りの詳しい話をしたいと、私たちの指令がおっしゃっていましたので……」
急に神無月の視線が鋭くなり、後ろにいた二人の男もいつでも動けるように構える。
「従わないなら無理矢理にでも連れて行くと?見かけによらず乱暴な組織なのね?」
しかし志保は余裕を保ったまま、再びコーヒーに口を付ける。
「そんな滅相もございません。決してあなたにお手間を取らせることはありませんから」
神無月がそういった瞬間、二人の男を含め、その場にいた4人は上空から降り注いだ光に包まれる。
「……あらあら。ずいぶんと手際のいいことで……」
気がつくと志保はカフェのオープンテラスではなく、見慣れない機械的な壁に囲まれた広い部屋にいた。
どうやらあの場の空間にあったすべてを運んだようで、テーブルとイスもそのままの形で目の前にあった。
「―――初めまして、でいいのかしら?……<インキュバス>の協力者さん?」
すると志保と向かい合うように、赤く長い髪をツインテールにし、軍服のような衣装を身に纏った、中学生程度の少女が反対側の席に座る。
「初めまして。私は五河琴里。<ラタトスク機関>が保有する空中艦、<フラクシナス>の指令を勤めているわ」
目の前の少女、琴里を呆然と見ている志保を前に、琴里が自己紹介をする。
「……………………」
しかし志保は放心状態になったように、琴里のとある一ヶ所を見たまま動く気配がない。
「……どうかしたのかしら?別に私たちは危害を加えたりとかが目的じゃなくて……」
「……70……いえ、1?……はないかしら……」
「……?……いったい何の……?」
奇妙な数字が気になった琴里は、その視線をたどっていく。
志保の視線の先にあったのは琴里が着ている服、ではなく……、
「…………ッ!?」
琴里は一瞬で顔を真っ赤にし、咄嗟に両手で胸元を隠すように覆う。
そう、志保が見ていたのは琴里の胸、バストサイズだったのだ。
「どう?71くらいで合ってるかしら?」
「しっ、失礼ね!72よ!……はっ!」
失言で正確なサイズをバラしてしまい、慌てて両手で口を塞ぐ琴里。
「あらあら。思ってたよりあったのね。……でも体型に合った可愛らしいサイズだわ」
「―――そうでしょうとも!あなたにもわかりますか!?指令の素晴らしさが……!」
からかうような含み笑いをする志保に、急にテンションがおかしくなった神無月が同調するように熱弁する。
「あらまぁ……見かけによらずそっちの趣味が……?」
若干引くように眉間にしわを寄せながら、志保がささっと身を引かせる。
「私は指令の未成熟な幼児体型に忠誠を誓いましたから。指令の胸の中で死ねるなら本望―――」
「―――やあああぁぁぁっかましいわあああぁぁぁっ!!」
「へぶおおおぉぉぉっ……!」
テーブルを踏み台にして琴里が飛び上がり、渾身の蹴りが神無月の顔面に直撃する。
だがその時の神無月の表情は至極至福しのもので、恍惚とした顔で吹っ飛ばされていった。
「……ずいぶんと性格に問題のあるクルーがいるのね」
「これでも能力は優秀なの。……この性格さえなければ……」
琴里もそのことは気にしているようで、げんなりしながら足下に転がる神無月を見やる。
そこには嬉しそうに
「……話が逸れたわね。私たち<ラタトスク>はあなたを歓迎するわ」
軽く咳払いをして気を取り直し、席に着きなおした琴里は改めて話題を戻す。
「改めて確認させてもらうわ。私たちが<インキュバス>と呼んでいる彼、本当に精霊なの?」
今までの印象が嘘のような真剣さの琴里から、まさに単刀直入の質問が飛び出す。
「……一応、『YES』と言っておくわ。まだ彼のことを完全に調べ尽くした訳じゃないけど、これだけは断定して言えるわ」
何か深い意味がありそうな志保の返答に、琴里は「そう……」と考え込むように返す。
「……で、そういうあなたは何者なの?彼の片腕って言ってたのは聞こえたけど……」
「あら、聞いてたの?……まぁ、言葉の通りの意味よ。私はある目的を持っていて、それを協力する代わりに、私も彼に力を貸す。そういう契約で手を組んでるの」
「契約?どんな内容かしら?私たちでも協力できることなの?」
ズバズバと踏み込む琴里に、志保は「うーん……」と悩むような仕草をする。
「……たぶん無理ね。だってあなたたち、『不合格』だもの」
「不合格?何のこと?」
琴里がさらに踏み込むと、志保は腕に装着していた端末を操作し、目の前に小さなウインドウを表示する。
「あなたたちの大元は……『アズガルド・エレクトロニクス』だったわね?」
「……!?……あなた!どうしてそれを……!」
アズガルドが<ラタトスク機関>の母体であるという事実は、最高幹部連である
それを何故、どうやって知ったのか。琴里の思考は混乱でフリーズしてしまう。
「どうせしつこく聞いてくると思うから、秘密の情報網とだけ答えておくわ。……そろそろ質問に答えてばかりで飽きてきちゃったわ。どうせだから、こっちの質問にも答えてくれるかしら?」
「え……?」
停止した琴里の額を突きながら志保が提案する。
話をはぐらかされる形になってしまったが、彼女から積極的にこちらに興味を持ってくれれば、その分今後の交渉もしやすくなるかもしれない。琴里はそう考えて小さく頷く。
「ありがとね。……まず一つ目。この写真を見て」
志保は端末を操作し、琴里の目の前に小さなウインドウを表示する。
そこには集合写真と思われる、白衣を着た大人が十数人近く写っていた。
「この集合写真がどうかしたの?白衣を着てるところを見ると、科学者のようだけれど……」
「私が見て欲しいのはこの真ん中のハゲ。このハゲに見覚えはないかしら?」
志保が指をさしたのは、中央に写っている高齢の男性。
確かに頭周りにしか毛髪がなく、仙人をイメージさせるような見た目をしていた。
「……残念だけど、見たことないわ。もしかしてこの人を探して―――」
人探し程度なら簡単に恩が売れるはず。そう思ってさらに深く追求しようとした。
……だが、まるで別人のように殺気を放つ彼女を見て、それ以上の言葉が出なくなってしまった。
「……ええ。私のお姉ちゃんの仇なの。だから必ず見つけ出して、確実に息の根を止める。それが私の目的よ」
冷酷に言い放たれたその決意に、周囲にいた人間は全身が凍り付いたような感覚を覚える。
それほどまでに琴里たちは、目の前にいる女性に恐怖を覚えた。
「……っと、ごめんなさいね。つまらない身の上話しちゃって。……それじゃあ二つ目の質問。今度はこれを見て」
続けて表示されたのは、密林地帯のような森の中。
今度はビデオカメラで撮影された映像のようで、ゆっくりと視点が横に移動していた。
「……今度はどこの映像かしら?」
見覚えのない木々に、琴里は質問を投げかける。
「10年前に作った私たちの研究所。そこに付けてた監視カメラの映像よ。これは今から5年前のものね。……見て欲しいのはここからよ」
志保が指摘すると、密林の奥から砲弾のような攻撃が容赦なくカメラが取り付けられているであろう建物を攻撃する。
壊滅して侵入経路が確保されたのを見計らい、奥から何人もの
「……ずいぶんと乱暴な真似をするじゃない。何処の連中?」
「どこかまではわからなかったの。……けど、リーダー格の顔はバッチリと記録してたわ。……ほら」
志保が映像を一時停止し、そこに映っていた男を指す。
「…………ッ!?」
それを見た瞬間、琴里は大きく目を見開く。
5年前なので多少の変化はあったが、間違いなく琴里の知っている『あの人物』だった。
「……その顔は知ってるってことね?」
「……………………」
志保の指摘に、琴里は返す言葉をなくし、小さく俯く。
「まぁいいわ。それじゃあ最後の質問、いいかしら?」
気を取り直し、入れ替わるように元気がなくなってきた琴里に確認する。
「……ええ。私に答えられる範囲なら……」
これ以上変な突っ込みを入れられないよう、琴里は釘を刺す形で制限を付ける。
こほん、と小さく咳払いをし、志保は端末のウインドウを表示する。
それを見た志保は怪しい笑みを浮かべながら、琴里に顔を寄せて言葉を発した。
「―――あなたはどうやって
『…………ッ!?』
この問いかけには、その場にいた全員が驚愕した。
<フラクシナス>どころか<ラタトスク>内でも重要な
「……あ、あなた本当に何者なの……!?」
「だから言ったでしょ?私は<インキュバス>の片腕だって。……それじゃあそろそろお
そう言って手をヒラヒラさせながら、志保はイスから立ち上がる。
「……!……悪いけど、あなたをこのまま帰すわけにはいかないわね。あなたには<インキュバス>との交渉材料になってもらうわ。神無月!」
「はっ!」
琴里の合図とともに、神無月とそのお供が志保を取り囲む。
「あらあら。やっぱりこうなったわね。……けどこっちもやることがたくさんあるの」
そう言った瞬間、志保の額に水晶のような球体が出現する。
「……!?……それは……?」
何が起こるかわからない状況に身構える神無月たち。
するとその球体が眩い光を放ち、それが志保を包み込んだ。
「な、何が起こってるの……!?」
困惑する琴里たちを前に、光はものの数秒で消失する。
同時に志保の姿は影も形もなくなっていた。
「なっ!?どうなってるの……!?」
「ブリッジ!大至急で確認を!」
琴里が周囲を見回している間に、神無月がブリッジに連絡を取る。
「……どうやら一筋縄じゃいかないみたいね。……海原志保……!」
ガリッ!と取り出した棒付きキャンディーを苛立ちをぶつけるように噛み砕く琴里。
それからどれだけ捜索しても志保を見つけることができず、どうやって<フラクシナス>から脱出したのかもわかっていない。
しかも重要な情報を握られるという散々な結果を残し、志保の誘拐は<ラタトスク>に苦い敗北感を与える形に終わった。