DATE・A・LIVE The Snatch Steal   作:堕天使ニワトラ

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動き出す『悪夢』

士道がトリプルデートをした日の夜、零は四糸乃を寝かしつけ、今日の出来事から得た情報を調べていた。

 

「……やっぱりないな……」

 

解析結果を見て、零は大きく首を傾げる。

観測機が記録した映像では、間違いなく<ナイトメア>は魔術師(ウィザード)に殺されていた。

だが次の日には何事もなかったかのように、普段通りの生活を送っている。

ASTらは再生能力のような力があるのではないかと見ているようだが、零はそう思わない。

一万人もの人間を殺さなければならないことに関係があるような、もっと大規模な力の気配を感じていた。

 

「……はぁ。やっぱり博士がいないと辛いな……」

 

大きなため息を吐きながら、零は大きく伸びをする。

 

 

「―――あら、私がいなくて大変そうね?社長」

 

上体を反らした先に、志保が機嫌良さそうな笑みで零を見下ろしていた。

 

「あぁ……おかえり、博士。収穫はあった?」

「ええ。宝の山はがっぽり頂いてきたわ。使えそうな情報は端末に送っておくから、後で見といてね。……それで何を悩んでたの?」

 

志保がパソコンを覗き込み、流し読みのようなペースでその情報に目を通していく。

 

「……なるほど。これまた変わった娘ね。何か特別な能力があるのかしら?」

「俺もそう睨んでる。……ただ霊結晶(セフィラ)がないのが引っ掛かるんだよな……」

 

そう、精霊の力の源である霊結晶(セフィラ)

殺された<ナイトメア>の死体にはその反応がなかった。

後から抜き取られたわけではない。最初から痕跡すらなかったのだ。

だがその真実を説明できるだけの答えらしい答えが見当たらない。完全に零は両手を上げた。

 

「……これはもう少し様子を見た方が良さそうね」

「やっぱりそうなるか……」

 

予想通りの答えに、零は途方に暮れる。

視線をデスクに落としたところで、昼頃に書き留めておいたメモ書きが目に入った。

 

「……そういえば『新天地』から連絡があったんだ。<オルトロス>10機が完成したから、朝にはこっちに送るってさ」

「あら、予定より早かったわね。工場長、無理してなければいいけど……」

 

志保は仕事熱心で職人魂全開の工場長が、従業員たちをこき使いすぎないか心配する。

 

「次会ったら釘刺しとかないとな。……今日はこの辺にしとくか」

「そうね。私もはしゃぎすぎて疲れたし。……シャワー浴びて寝るわ」

 

志保は大きなあくびをひとつすると、伸びをしながらオフィスを後にする。

続くようにして零もオフィスを後にした頃には、もう日付を跨いでいたのだった。

 

 

 

 

 

それから次の日、創世重工の社屋に大型のコンテナが運び込まれていた。

 

「……よし、これで全部だな」

 

コンテナの数は全部で10。それを確認した零はコンテナを運んできたトレーラーを見送るように手を振る。

するとトレーラーの目の前の空間にジッパーのようなものが出現し、ゆっくりと音を立てて開く。

その先にある空間に向けて、トレーラーは何事もないように発車していった。

 

「それじゃあ、さっそく起動するわね」

 

零の隣に立っていた志保が、素早い手つきで端末を操作する。

 

『あれれ~?こんなところで何やってるの~?』

「お仕事、ですか……?」

 

そこへ四糸乃が顔を出し、『よしのん』が不思議そうにコンテナを眺める。

 

「おぉ、いいところに来たな。これからすごいものを見せてやる」

『えぇ~?なになに~?』

「すごいもの……?」

 

ただただ首を傾げる『よしのん』と四糸乃。

すると10のコンテナがすべて同時に展開し、その中にいたもの―――10機の<オルトロス>が姿を現した。

 

『わぁ~!<オルトロス>くんが10人も!?すっご~い!』

「兄弟、ですか……?」

「どうだ?驚いたか?計11機の<オルトロス>だ」

 

盛大に驚く『よしのん』と四糸乃を見て、満足そうに笑う零。

 

「これで戦力が大幅にアップするわね。それじゃあ行きましょうか」

 

志保が端末で指示を出すと、10機の<オルトロス>たちはゾロゾロとトラックのコンテナ部に乗り込む。

 

「……よし、それじゃあ監視に専念するか」

 

全員が乗り込んだのを確認すると、零も颯爽と助手席に搭乗する。

 

「四糸乃ちゃんは社員のみんなの言うことを聞いて、いい娘でお留守番しててね?」

「……は、はいっ!」

『オ・シ・ゴ・ト、頑張ってね~♪』

 

四糸乃の頭を優しく撫で、志保が運転席に乗り込む。

そしてハッチが自動で開き、トラックは発車した。

 

 

 

 

 

「―――フフ。まさかこんなところに隠れていたとはな……」

 

その様子を建物の影から見ていた者がいたことは、この時の零たちには知る(よし)もなかった。

 

 

 

 

 

トラックを走らせること数十分。向かう先は<ナイトメア>が通う来禅高校。

今日は平日である以上、必ずそこに現れると零たちは睨んでいた。

 

「……とは言っても、急に大きな動きをするなんてことはないよな?」

「私もそう思うわ。今日じゃなきゃいけない事情なんて―――」

 

目的地のすぐ近くにトラックを停車し、そこから見えるであろう来禅高校を見上げた。

 

 

 

―――そこには漆黒のドームのようなものに覆われた来禅高校の校舎があった。

 

「「……あった」」

 

二人の台詞が綺麗にハモる。

霊力の感知を報せるセンサーが反応していることから、あれが精霊の仕業であることはすぐにわかった。

 

「となるとあれは広域結界か。ずいぶんとヤバいことになってるな」

「この時間だとまだ生徒はたくさんいるでしょうに……」

 

二人は早急に端末を操作し、<オルトロス>に機動命令を出す。

するとコンテナから飛び出した<オルトロス>は不可視迷彩(インビジブル)を展開し、所定位置に向かっていった。

 

「よし、あとはターゲットの所在だな……」

 

零は観測機を出し、この事態の元凶である<ナイトメア>を捜索する。

 

「……あ、いた」

 

―――思っていたよりも早く見つかった。

目標は校舎の屋上で霊装を展開し、何かを待っているように立っていた。

 

「何を待ってるのかしら……?」

「ひとつしかないだろ?わざわざ生徒としてこの学校に来た理由―――」

 

零の解答を代弁するように、屋上の扉がゆっくりと開く。

そこから現れたのは、昨日彼女とデートした件の少年、士道だった。

 

「……さっそくお出ましか。さてさて、大量殺人鬼の精霊を相手に、どんな口説き方をするのか……」

 

お手並み拝見。とばかりに落ち着いた姿勢を見せる零。

精霊相手に正面から挑むような無謀な真似はしない。事前の準備をしっかり済ませ、理想のタイミングを見つけて挑む。それが零のやり方だった。

 

「社長。<オルトロス>の配置が完了したわ。好きなタイミングで突入できるわよ」

「りょーかい。……あとはかっ攫い時を待つかな」

 

堂々と構えながら、士道がどう動くのかを見極めようとする。すると……、

 

 

 

―――ウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

 

 

突然、空間震警報が甲高(かんだか)く鳴り響いた。

 

「空間震警報!?まさか……」

「どうやら、自分の意思で引き起こせるみたいね。……確か社長もできたんじゃない?」

「あぁ。……けど長いことやってないからな……」

 

まるで自転車やピアノ程度の感覚で言ってのける零。

その間に士道が何かを言ったと思うと、屋上のフェンスを上がる。

そしてそのまま仰向けに倒れるように、校舎から飛び降りた。

 

「……!?……マジか……!?」

「ずいぶんと度胸あるのね……」

 

さすがの二人も士道の死を予感する。

しかし途中で<ナイトメア>が助け出し、自殺は阻止された。

 

「助けた?それとも死なれたら困る事情でもあるのか?」

「でしょうね。少なくと彼の命をただ奪うだけが目的じゃないのはわかったわ」

 

殺すのが目的なら、そのチャンスはいくらでもあったはず。

なのにそうしなかったのは、それ以外の目的があったから。

それを利用した士道は自分を人質にし、彼女との交渉の材料にしたのだ。

その証拠に<ナイトメア>は校舎を覆っていた広域結界を解除し、空間震も止めた。

 

「あらら。ずいぶんとすんなりね……」

「これで本当に終わりか?そんなことはないと思うけどな……」

 

疑心暗鬼な二人が見守る中、士道は<ナイトメア>に手を差し出す。

それに対し彼女は戸惑いを見せながらも手を伸ばした。

 

 

 

―――しかしその彼女を貫くように、身体の真ん中から腕が出現した。

 

「……!?……あれは……!」

 

見覚えのある腕に、零の思考が一気に加速する。

あれは士道が<ナイトメア>とデートをしていた頃、彼女の殺人を見て逃げようとする士道を、影から飛び出した無数の腕が捕らえた。

そして霊装が消失し、事切れた彼女を見下ろすように、すぐ側にもうひとりの<ナイトメア>が出現した。

 

「……なるほど。これが殺されても死なないからくりか」

「今まで殺されたのは、彼女そっくりの分身か何か。だからどれだけ殺されても別の個体が現れれば、誰もがすぐに蘇ったと勘違いする。こういうことね」

 

謎が解けてすっきりした二人が見ている前で、無数の腕に拘束された士道に彼女の狂気が迫る。

だが寸前のところで乱入者が横槍を入れ、彼女の腕が宙を舞った。

 

「……あ、また来たか……」

 

乱入者を見て、零は面倒くさそうな表情をする。

青く長い髪をポニーテールにし、左目の下の泣き黒子(ぼくろ)が特徴の少女、崇宮真那(たかみや まな)だった。

彼女は青と白を基調としたワイヤリングスーツを身に纏い、レイザーブレイドを構え、士道を守るように<ナイトメア>に立ちはだかった。

 

「あの娘がDEMから派遣された魔術師(ウィザード)ね。なかなか可愛い娘じゃない」

「けど困ったな。魔術師(ウィザード)相手じゃ<オルトロス>じゃ不利だ……」

 

感心するように真那を眺める志保の隣で、零が不安そうに戦場と化した屋上を見やる。

真那は分身体とはいえ、<ナイトメア>を何人も始末してきた腕利きの魔術師(ウィザード)

その戦闘力はASTとは比べ物にならず、もしかしたら精霊を殺せるのではという声も上がっている程だった。

 

「となるとオリジナルの彼女がどれ程の強さなのかが鍵ね。せめて紙一重くらいで負けてくれると嬉しいんだけど……」

 

志保が理想を口にしていると、<ナイトメア>は時計盤を模した自身の天使を顕現。

その『Ⅳ』の部分から出現した黒い(もや)のような物が彼女の持つ古式銃に吸収され、自身の頭部を撃ち抜く。

すると時間が巻き戻ったように切断された腕が宙を舞い、何事もなかったかのように彼女の腕が元通りになった。

 

「再生能力!?いや……」

「『時間を巻き戻した』みたいね。大した能力だわ……」

 

二人が驚きを露わにしている中、今度は『Ⅰ』の部分から出たものを銃に装填、またしても自身の頭部を撃ち抜く。

すると一瞬で真那の近くに接近し、隙を突くように攻撃した。

 

「今度は『自分の時間を加速させる』能力ってか。ずいぶんと汎用性高いな……」

「ええ。正面から挑まなくて正解だったわね」

 

もし不用意に攻め込んでいたら。そう考えると背筋がゾッとする。

やはり士道に先行を譲り、ひとまず様子を見るのは悪くない。零はそう考えた。

真那を追い詰め始めたところで、今度は『Ⅶ』の数字から力を受け、それを真那に向けて放つ。

すると真那の動きがピタリと止まり、彼女だけの時間が静止した(・・・・・・・・・・・・)ように動かなくなった。

 

「『対象の時間停止』か。本当に怖いな……」

「ますます出にくくなってきたわね。……このままじゃ弱らせるどころかやられちゃいそうな空気じゃない?」

 

やはり思った通りにはいかない。現実の厳しさに打ちひしがれそうになる零。

そんな状況に水を差すように、限定的な霊装を身に纏った十香と、ワイヤリングスーツを装着した折紙が飛び込んできた。

 

「お、援軍か。これで先が読めなくなってきたな」

「……だと、いいんだけどね……」

 

若干の希望が見えてきたかと思ったが、やはり現実は甘くなかった。

今度は影の中から今まで生み出した分身体を大量に呼び出し、数の暴力で圧倒し始めた。

その数は10や20どころではなく、屋上全体を包囲しかねない数の<ナイトメア>が形成を完全に逆転させてしまった。

 

「まだあんなにいたのか……」

「影の中から出てきたわ。時間だけじゃなくて、影に関係する能力もあるみたいね……」

 

この状況にはさすがの志保も険しい表情を見せ、零も自分が戦闘する可能性を考慮する。

そうしている間に十香、折紙、真那はことごとく拘束され、士道も取り押さえられる形になった。

そして勝ち誇ったように再び空間震を発生させ、学校全体を吹き飛ばそうとする。

 

「……!……やばい!<オルトロス>!あれを―――」

「―――待って!近くに別の霊力反応!これは……」

 

志保が零を止め、モニターを見せる。

すると空間震は発生直前で消滅し、<ナイトメア>の暴挙は不発に終わった。

 

「……?……何が……」

「助けが来たのよ。それもとびきりのレアキャラが……」

 

理解が追いつかない零に、志保がモニターの一角を見せる。

そこには紅く長い髪をなびかせ、和装のような衣装を身に纏い、周囲に炎を携えた少女が浮いていた(・・・・・)

 

「精霊?それも炎の……まさか」

 

零には心当たりがあった。昨日、志保が持ち帰ったデータの中に。

5年前に確認されて以来、ずっと行方を眩ましていた『炎の精霊』。

まるで士道を助けるために現れたかのように、大型の大斧(たいふ)のような天使を顕現した。

 

「ようやく表舞台に顔を出したわね。五河琴里ちゃん。―――いえ、<イフリート>ちゃん」

 

 


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