DATE・A・LIVE The Snatch Steal   作:堕天使ニワトラ

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<ナイトメア>

 

―――隣界。その無に支配されたような何もない空間に、二人の人影があった。

 

「はぁ……はぁ……」

「ずいぶんと粘るじゃないか。……けど、それもどこまで保つかな?」

 

地面に座り込んだ零に背中を預けるようにして、<ナイトメア>が(うな)されているように荒い呼吸をしている。

ここに来てからすぐに堕ちた四糸乃とは違い、彼女はもう10分弱はこうして抵抗を続けていた。

 

「こんな……ことで、わたくしは……わたくしには……成さなければ、ならないことが……」

 

果たさなければならない悲願。この男に堕ちたら、この誘惑に屈したら、それが果たせなくなってしまうかも知れない。

そんな恐怖が折れる寸前の彼女の心を支えていたのだ。

 

「……?……それがすぐに堕ちない理由か。それなら……」

 

零は左手で自身の目を覆うと、自身の霊力を解放する。

 

 

 

「<淫導賢者(タブリス)>―――【盗視(スキャニング)】」

 

ゆっくりと手を退けると、零の瞳はまるですべてを見透かすような輝きを放っている。

そしてゆっくりとその視線を<ナイトメア>に向ける。

するとその目を介して、零にある情報が流れ込んできた。

 

「……そうか。そんな目的があったのか……」

 

すべてを理解した零は、ゆっくりと目を閉じ、【盗視(スキャニング)】を解除する。

 

その目で見た対象が今考えている『思考』、そして今まで体験した『記憶』を覗き見る。それが<淫導賢者(タブリス)>の持つ能力のひとつである【盗視(スキャニング)】の力だった。

これにより知ることができた。なぜ彼女が大勢の人間の命を奪い、士道を狙ったのかを。

許されることではないのはわかっている。しかし、どんなことをしてでも果たさなければならない悲願があった。

だが彼女にどれだけの事情があろうと、零もこれだけは譲るわけにはいかない。

そこで零は妙案を思いつき、そっと彼女の耳元に顔を寄せる。そして『ある提案』を彼女に持ちかけた。

 

「――――――――――」

「……ッ!?」

 

それを聞いた<ナイトメア>が大きく目を見開く。

同時にその影響で気が緩んだのか、彼女を蝕む霊力と霊結晶(セフィラ)からの誘惑が挟み撃ちで彼女を堕落へと引き込もうとする。

 

「……本当ですの?それは……?」

「あぁ、約束する。だから俺のものになれ」

「……………………」

 

その提案には何の確証もないし、彼が約束を守るという保証は何処にもない。

だが彼女の霊結晶(セフィラ)がその男に従え。身も心も委ねろ。と、甘い誘惑を囁き、流れ込んでくる彼の霊力も心地良く、虜になってしまいそうだ。

 

「……わ、わたくし、は……」

 

振り返り、虚ろな瞳で零を見る<ナイトメア>。

途端に全身を覆っていた霊力が、まるで点滅しているように強弱を繰り返し始める。

これが精霊自身も堕ちた証だと見た零は、そっと彼女と唇を重ねた。

 

「ん……」

 

すると彼女を覆っていた霊力は二人の口の中に収束し、精霊が零に隷属した証、隷属結晶(スレイラ)が精製される。

零はそれを舌で手繰り寄せ、自身の喉へと導く。

その直後、<ナイトメア>の首を覆うように、隷属の証である紋様が刻まれた。

 

「……これでお前は俺のものだ。―――狂三(・・)

「……はい。ご主人様。……約束、ちゃんと守ってくださいましよ?」

「あぁ。当たり前だろ?」

 

そっと胸に顔を埋める狂三を、零は優しく抱き留める。

 

「あぁ……ご主人様。ご主人様……」

 

まるで主人に懐く猫のように、零に甘える狂三。

ずっと我慢していた反動のようなものだろう。零はそう考えて狂三の頭を優しく撫でる。

こうして人々の命が脅かされる『悪夢』は、静かに幕を閉じた。

 

 

 

 

 

零と狂三が消失(ロスト)してから24時間後、同じ場所で空間震が発生する。

しかし空間震警報は鳴っておらず、誰もその空間震が起きていることに気付いてすらいなかった。

その空間震が発生している範囲内を、大規模な随意領域(テリトリー)のようなものが覆っており、その外側から<オルトロス>がそれを守るように展開していた。

これは零が精霊を隷属させ、現界するときに発生する何も破壊しない空間震、名付けて無害空間震の発生を悟られなくする特殊な随意領域(テリトリー)

この中で無害空間震が発生しても、誰も反応を感知することができず、誰も狂三が零の手に落ちた事実すら知ることができないのだ。

無害空間震が発生した直後、その中心には抱き合ってキスをしている零と狂三の姿がある。

 

「……これからよろしくな。狂三」

「ふふ。……はい。ご主人様。誠心誠意、お仕えさせていただきますわ」

 

二人はそっと唇を離すと、狂三が愛おしそうに零を見つめる。

すると背後から気配を感じ、零はすぐに振り返る。

 

「―――社長」

 

そこから現れたのは、いつにもなく浮かない表情の志保だった。

 

「おぉ、博士。この通り狂三は堕としたぞ」

「……ご主人様。こちらの方は……?」

 

志保と初対面の狂三は、警戒しながら零の顔色をうかがう。

 

「あぁ、この人は俺の相棒だ。ちゃんと言うことを聞くんだぞ?」

「そう、ですの?……わかりました。よろしくお願いしますわ」

 

敵ではないと理解した狂三は、そっと握手を求めて右手を差し出す。

 

「えぇ。海原志保よ。博士って呼んで。……っ」

 

握手に応じた志保だったが、その表所はどこか暗いものを感じる。

 

「……?……何かあったのか?」

 

零が思い切って問いかけると、志保は重々しく口を開いた。

 

「……実は、創世重工の新社屋が―――魔術師(ウィザード)の一団に襲撃されたの」

「えっ……!?」

 

それを聞いた瞬間、零の表情が凍り付いた。

 

「従業員のみんなは無事よ。もちろん四糸乃ちゃんも。察知したのが早くてすぐに『新天地』に避難したから、怪我人は一人も出てないわ。……けど、社屋は完全に制圧されて、今でも魔術師(ウィザード)たちが(たむろ)してるわ」

「……………………」

 

ギリッ!と零の拳が出血せんがばかりの力で握られる。

 

「ご、ご主人様……?」

 

その様子を心配してか、狂三が心配そうに零を見つめる。

このときの零の表情は、夜叉か羅刹のような殺気を放っていた。

 

「……博士。そいつらけしかけた奴の情報はあるか?」

「ええ。詳しいことは『新天地』に戻ってからにしましょう。ここだと誰かに見られる可能性があるわ」

 

いつまでも随意領域(テリトリー)を展開していては、間違いなく誰かがそれに気づく危険がある。そうなっては隠す意味がなくなってしまうかもしれない。

 

「……そうだな。戻るか。―――『新天地』に」

 

気を取り直した零が指をパチンと鳴らすと、目の前にジッパーのようなものが出現する。

そしてそれがゆっくりと開くと、その中には別の景色が広がっていた。

 

「まぁ!これもご主人様の力ですの?」

 

その光景を初めて見たであろう狂三が驚きの声を漏らす。

 

「―――ようこそ、狂三。ここが俺たちの最重要拠点にして安住の地―――『新天地』だ」

 

 

 

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