DATE・A・LIVE The Snatch Steal   作:堕天使ニワトラ

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異変

オーシャンパーク、ウォーターエリア。

その脱衣場近くの木々の影に、アロハ系の柄をした水着を身につけ、夏系の上着を羽織った零の姿があった。

 

「はぁ。……まさか四糸乃と狂三まで連れてくることになるとはな……」

 

零は太陽の光が燦々(さんさん)と降り注ぐ天を眺めながら、ここに来るまでの経緯(いきさつ)を思い出す。

 

事は朝10時頃、町中の衣類専門店に零たちは訪れる。

そこで<ラタトスク>の目を掻い潜り、四糸乃と狂三の水着を見繕って無事に購入することができた。

それからすぐに士道と琴里がデートをするこの場所、オーシャンパークに二人を連れて来てしまったのだ。

 

「まったく博士は。……まぁ、二人のいい気分転換になればいいんだけどな……」

 

たまに思い切った行動をする志保に、零はこれまで何度も振り回されてきた。

だがしかし、それが思いも寄らぬ形でいい結果を生み出してしまうので、余計に何も言えない零だった。

 

『―――ご主人さまぁ~~~っ!』

 

そこへ『よしのん』の呼び声が聞こえてきて、零はそちらに目を向ける。

するとそちらから赤と白のストライプ柄の水泳着のような衣装を身につけた『よしのん』と、ピンクを基調としたワンピースタイプの水着を着た四糸乃がパタパタと駆けてきて、そのまま零の胸に飛び込んできた。

 

「おいおい。ビーチサイドは走ると危ないぞ。……ってよしのん。その水着?どうしたんだ?」

『あ、気付いちゃった~?これね、博士が今日のために一晩で作ってくれたんだってさ~♪どお?似合う~?』

 

零が問いかけると、『よしのん』はセクシーポーズで見せびらかすようにアピールする。

 

「あぁ。『海の女』って感じで可愛らしいな。……四糸乃もやっぱり可愛らしさをアピールするのが正解だったみたいだ。よく似合ってるぞ」

 

言いながら『よしのん』と四糸乃を褒めるように、零は優しく頭を撫でる。

 

『えへへ~!褒められちゃった~♪四糸乃~!よしのんたち可愛いってさ~♪』

「は、はい。ありがとう、ございます……」

 

嬉しそうにそれを受け入れ、頬を赤らめる『よしのん』と四糸乃。

本当に四糸乃は見ているだけで癒される。零にとって四糸乃は憩いの存在だった。

 

「―――あらあら。四糸乃さんとよしのんさんばかりそんなに誉めて、ずるいんじゃありませんの?」

 

そこへ続くようにして現れたのは、赤と黒で配色されたビキニタイプの水着を着た狂三だった。

 

「おぉ……やっぱり狂三は赤と黒が合うな。それにすごく綺麗だ……」

「まぁ!ご主人様ったら、そんなからかうようなことは言わないでくださいまし……」

 

頬に手を当て、羞恥心で顔を赤くする狂三。

そしてゆっくりと零の側に寄り、その美貌あふれる肢体を密着させるように押し付けてきた。

 

「おいおい。こんな人がたくさんいる中で……」

 

狂三の豊満なバストから伝わってくる鼓動が、零の身体を小刻みに震え上がらせる。

さすがに見られるのは恥ずかしく、零は動揺を見せながら周囲を見回す。

そこが物陰だったことが幸いし、この光景が人目に触れることはなかった。

 

『あーっ!狂三ちゃんずるーい!四糸乃!ここはよしのんと四糸乃のダブルセクスィーバディーでご主人さまを悩殺しよう!』

「え、ええっ……!?」

 

『よしのん』も狂三に張り合うように、四糸乃を零の側まで誘導する。

 

「―――ずいぶんと羨ましい光景ね。私も混ぜてもらっていいかしら?」

「は、博士まで……」

 

後から現れた志保の姿を見て、零はどうしようもないくらい困惑しそうになる。

彼女が身に付けている水着はVの字をイメージしたような白一色のスリングショット。

しかしその上から馴染み深い白衣を羽織り、部分的に見える光景が余計に妖艶さを演出してしまっていた。

 

「どうかしら?私もまだまだいけると思うわよ?」

『うんうん!博士すっごくいい!バッチグー♪』

「は、博士さん……」

 

志保のポージングを見て、『よしのん』は親指を立て、四糸乃は右手で顔を隠しながらこっそりと見つめる。

 

「あらあら、これは博士さんにしてやられましたわね。わたくしも次はあのタイプに挑戦してみますわ」

 

まるで誘惑するように、狂三は零の腕にしがみつきながら、宣言するようにそう言ってのける。

 

「はぁ……そうだな。みんな綺麗だよ。……だから披露会は後にして、今は監視に専念させてくれ」

 

これは放っておいたら先に進まない。そう感じた零はバッサリと斬り捨てる。

そして茂みの影から、一人の少年と二人の少女を見つけた。

 

「あら?どうして十香ちゃんが……?」

「お目付け役……ってわけじゃなさそうだな」

 

しかも当の琴里は不機嫌そうな表情でふて腐れているようにも見える。

 

「……そういえば社長は知ってる?琴里ちゃんのリボンの秘密」

「あぁ。リボンの色で自己暗示をかけてるんだったよな」

 

ここで零は<フラクシナス>からハッキングしたデータの中の、琴里に関する情報を思い出す。

彼女は髪に括るリボンの色によって、普段の私生活での性格と、司令官としての強気な性格。この二つを使い分けている。

今は黒いリボンを付けているため、<フラクシナス>の司令官としての強気な性格。

だからだろうか。今はデート中であるにも関わらず、そこまで楽しんでいるようには見えなかった。

 

「……確かに、普通じゃないからな。他の娘を連れてデートなんて……」

「それだけじゃないみたいよ。ほら彼、さっきから距離を置いてるみたいによそよそしいじゃない?あんな空気じゃ気分も削がれるわ」

 

しかしそれを十香がムードメーカーのような役割でフォローしている。だから<フラクシナス>のクルーは彼女を同伴させたのだろうと零たちは考える。

 

「……もしかしてあの同伴している方は、あの時の炎の精霊さんですの?」

『四糸乃に負けず劣らずの可愛さだね~』

「綺麗、です……」

 

狂三、『よしのん』、四糸乃も並ぶようにしてこっそりと覗き見る。

 

「ええ。五河琴里ちゃん。彼、士道くんの義理の妹よ」

「それでもって五河士道に精霊の霊力を封印させてる<ラタトスク機関>の司令官をやってる。要は俺たちの商売敵だ」

 

などと志保と零が情報を口にしている間に、3人はウォータースライダーに移動する。

そして士道の前に琴里、背後から十香がしがみつく形で滑り出し、水柱を上げながらプールに飛び込んだ。

 

『へぇ~。士道くんってあんな可愛い妹ちゃんがいたんだ~。ま、可愛さではよしのんが上だと思うけど~♪』

「よ、よしのん……」

 

『よしのん』がセクシーポーズでアピールすると、自分に自信のない四糸乃がしょんぼりとする。

 

「士道さんも隅に置けませんわね。十香さんだけでなく、あんな可愛らしい方を(はべ)らせて……あら」

 

プールから浮かび上がってくると、琴里は士道にしがみついて泣いているようだった。

 

「あらら。リボンが取れちゃったのね……」

「となると、あれが本来の性格か。年相応の娘であることには変わりないんだな……」

 

志保と零はその様子を複雑な心境で見続ける。

これから自分たちがすることは、あの二人を引き離すのと同意義。誉められることではないのは十分にわかっている。

そんな後ろめたさからだろうか、ほんの少しだけ零の意思に揺らぎが生じる。

もういっそのこと、今回だけはそっとしておいてもいいので―――

 

 

 

―――ドクンッ!

 

「…………!?」

 

突然、零の中で何かが暴れるような感覚を覚える。

それが一気に膨れ上がり、吐き気を催した零は口元を押さえた。

 

「ご、ご主人様……!?」

『どうしちゃったの!?』

「は、博士……!」

 

狂三、『よしのん』、四糸乃が慌てるなか、志保は冷静に零の容態を確認する。

 

「……!?……まさか、考えちゃった(・・・・・・)の……!?」

 

その原因に気付いた志保が、零の肩を支えながら立ち上がる。

 

「博士さん!ご主人様は……?」

「大丈夫、ですか……?」

『よしのんたちに何か出来ることはある!?』

 

心配そうに志保にすがり付く精霊たち。

中でも狂三はいつもの落ち着きを忘れたように取り乱している。

 

「……大丈夫よ。社長のことは私に任せて、あなたたちはここで大人しく待っててね?」

 

いつもと変わらぬ笑顔でそう言うと、志保は零を連れてその場を離れていった。

 

 

 

 


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