DATE・A・LIVE The Snatch Steal   作:堕天使ニワトラ

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お待たせしました。最新話投稿します。
ここ最近は多忙さに加えて体調不良もあって投稿が遅れてしまいました。
しかも6、7月も多忙という死刑宣告を受けた身ですが、ある程度ノルマを決めて少しずつでも進めていきたいと思います。



蝕む毒と溜まる鬱憤

「はぁ、はぁ……」

 

荒い呼吸でぐったりとしている琴里が、自販機の影で壁に背を預けていた。

精霊の力を取り戻した彼女は、その力を使用するたびに精神を破壊衝動に乗っ取られ、自分の意思と関係なく戦闘をしてしまうようになる。

何とかするためには、士道にもう一度霊力を封印してもらわなければならない。今日のデートはそのためのもの。

先ほど令音に投与された精神安定剤と鎮痛剤の効果が効いてきたのか、少しずつ衝動が落ち着きつつあった。

そろそろ戻った方がいいかもしれない。そう思い一呼吸置いて立ち上がろうとする。

 

 

 

―――あんな男のどこがいいんだ?

 

「……!?……」

 

瞬間、頭の中に響いた声に反応し、琴里は大きく目を見開く。

だが周囲には誰もおらず、琴里自身の荒い呼吸音しか聞こえない。

 

「……やっぱりまだ調子が良くないのかしら……?」

 

気のせいかと思い、再度全身の力を抜く。

 

―――もしかしたら気づいてるんじゃないのか?自分は異性としてあの男が好きなんじゃなくて、兄妹としての好意の延長線上なんじゃないかって。

 

「…………ッ!?」

 

再び聞こえてきたその声に、琴里はこれが気のせいではないことを確信する。

 

―――このまま一緒にいても、あいつは君の気持ちに気付くことはない。いつまでも『妹』のまま。それでいいのか?

 

 

「誰……!?何処にいるの!?姿を見せなさい……!」

 

壁に手をついてなんとか立ち上がり、周囲を警戒するように見回す。

しかし声の主は姿を見せるどころか、その気配すら琴里に気付かせない。

声はすれども姿は見えず。まるで心霊現象にでも遭遇したような気分になり、琴里は恐怖を振り払うように立ち上がる。

 

 

 

「いい加減に姿を見せなさいよ!それとも、隠れて言いたいことだけ言う臆病者……」

 

―――もしそのせいで――――――――――――、君はあいつを愛せるのか?

 

「……えっ?」

 

琴里の虚勢を打ち砕くように響いたのは、あまりにも唐突な一言。

だがその勢いは盛大で、琴里の頭を真っ白にするには十分だった。

 

「……ちょ、ちょっと!どういうことよそれ!?ちゃんと答えなさい……!」

 

必死に辺りに向かって騒ぎ立てるが、次の声が聞こえてくることはなかった。

 

「……なんなのよ。まったく……」

 

これ以上の追求をしようとしても無駄だと悟った琴里は、士道たちが待つであろう場所へと駆けていった。

 

 

 

「……いったい何がどうなってるのかしら?」

 

その様子をずっと見ていた志保は、目の前で起こっている状況が理解できずに困惑する。

零の姿が見えなくなってすぐ、まるで誰かと話しているかのように琴里が叫び出す。

だが志保の耳には琴里の声しか届いておらず、端末も他の音をまったく検知していない。

おそらく零が何かしたのだろうと志保は推測するが、その原理がまったく理解できなかった。

 

「……こうなったら社長に直接聞くしかないわね。けどどこに……」

 

 

 

「―――俺ならここだぜ」

「えっ……!?」

 

唐突に聞こえてきた声に、志保は反射的に振り返る。

そこには壁を背にし、疲労感を吐き出すようなため息を漏らす零の姿があった。

 

「ちょ……いつからそこに……?」

「ん?ちょうど今さっき。……ひょっとして記録できてなかったのか?」

 

意外そうな表情で尋ねる零に、志保は小さく頷く。

 

「そうか。……こいつはもう少し研究が必要だな……」

「それよりも何をしたの?こっちは社長の存在どころか、琴里ちゃんの身に何が起こったのかわかんないんだけど……?」

 

ひとりで考え込む零に、置いてけぼりを食らった志保が不機嫌そうに抗議する。

 

「あぁ、悪い。いま話すよ」

 

零は霊結晶(セフィラ)から新たに与えられた能力、【黙秘強使(ストーキング)】について簡単に説明した。

これを使用している間は、周囲に零への認識を阻害する霊力が散布され、誰も零の存在を認識できなくなる。

おまけにこの状態の時にだけ、対象の意識に『メッセージ』を植え付ける(・・・・・)特殊な霊力を送り込むことができる。

送り込まれたそれは、まるで暗示のように対象の精神に訴えかけ、半ば強制的にそのメッセージを信じさせてしまう。

さらに霊結晶(セフィラ)を持つ精霊には特に有効で、それを取り込んだ霊結晶(セフィラ)を限定的に籠絡させ、内側からも精霊の精神に訴えかけるように仕向けるというものだった。

 

「……なるほど。隠密状態でこっそりと近づいての精神攻撃。なかなか面白い能力じゃない」

「そうか?なんか戦闘に関係ない能力ばっかりだろ。……俺、本当に精霊なのか……?」

 

他の精霊たちとの違いに、零は不満の声を漏らす。

零たちが確認した精霊たちは、使い方によっては一日で国ひとつ潰せるだけの力を持っている。

なのに自分ができるのは読心術に隠密兼精神攻撃。おまけに他の精霊を隷属させて支配するだけ。零が思う『世界を殺す存在』のイメージとは大きくかけ離れていた。

 

「強力な力を持った他の精霊を自分の言いなりに出来るだけでも立派じゃない。その気になれば世界征服だって夢じゃないんじゃないの?」

「むぅ。……そうか?」

 

励ますように肩を叩く志保に、零は自信なさげに返す。

 

「それに勢い余って捕獲するはずの精霊を殺しちゃわないようにっていう、だ・れ・か・さ・ん・の・配慮だと思うわよ?社長って精霊の力を抜きにしてもチート級に強いじゃない」

「う゛っ……」

 

志保は霊結晶(セフィラ)を意識するように、零の胸を人差し指で突く。

そう、零には与えられた霊結晶(セフィラ)の命令、もとい導きに従い、精霊を隷属させるという役目がある。

もし精霊と戦闘することになり、そのまま殺すことになってしまったら。零の命に関わることは火を見るより明らかだった。

 

「それに戦力が安定するまでは派手な動きはしないって取り決めだったでしょ?ずっと研究ばっかりで鬱憤が溜まってるのはわかるけど、自分で決めたことには責任持って欲しいわね」

「ぐはぁ……!」

 

深々と胸を抉るようなディスに、零は力尽きて膝をつく。

そしてそのまま倒れるときに『K.O.!』という言葉が聞こえてきたのは、恐らく聞き違いではないだろう。

 

「せめて『アレ』が完成するまでは我慢してよね。ほら、行くわよ!」

 

志保は強引に零を立たせ、四糸乃と狂三が待つであろう地点へと戻った。

 


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