DATE・A・LIVE The Snatch Steal   作:堕天使ニワトラ

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タイミング

『……狂三ちゃん。どうするの?この人たち……』

「死んじゃったんですか……?」

 

『よしのん』と四糸乃が心配そうな表情をしながら、足元に倒れている男たちを見る。

 

「心配には及びませんわ。……ただほんの少し、『時間』をいただいただけですから。このままそっとしておけば、そのうちに目を覚ますと思いますわ」

 

頬に手を当て、狂三はいつもの優雅な笑顔でそう答える。

 

 

 

「―――悪い。待たせたな」

「いい()にしてたかしら?」

 

そこへ木の影から覗くようにして、零と志保がひょっこりと顔を出した。

 

『あっ!ご主人さま!』

「おかえり、なさい……」

「お体の方はもうよろしいんですの?」

 

零の身を気遣うように、『よしのん』と四糸乃、狂三が身を寄せる。

 

「あぁ。俺はもう大丈夫だ。……ところでこれはどういう状況なんだ?」

 

先程まで四糸乃と狂三がいた場所に倒れている男たちを見て、零が説明を求める。

見た限り死んでいる訳では無さそうだが、だからといって何事もなかったかのようにスルーできるような様子ではなかった。

 

『よく聞いてくれたね~♪実は……』

 

『よしのん』が身振り素振りを交えながら、零と志保がいない間に何があったのかを事細かに説明する。

二人がこの場を離れてから少し経った頃、四糸乃と狂三の前に数人の男たちが話しかけてきた。

それがナンパだと気付いた狂三が、人を待っているからと丁寧に断るのだが完全に聞く耳を持たない。

なので止む終えず<時喰(ときは)みの城>で男たちの時間を吸収して気を失わせた。というのが事の真相だった。

 

「そうか。そいつは間が悪かったな。……それで、このまま放っておいたら死ぬ、なんてことはないよな?」

「はい。いただいたと言ってもほんの少し。すぐ命に関わるといったことはありませんわ」

 

ほんの確認程度の感覚で尋ねる零に、狂三はにこやかに答える。

もし死人が出て大事になれば、間違いなくターゲットの琴里に感づかれていただろう。そう考えて零は内心でほっと一息つく。

 

「……なら問題ないか。よく言いつけを守ってくれたな」

 

言いながら零は狂三の頭を優しく撫でる。

倒れている彼らは自業自得ということで、失った寿命は勉強代として割り切らせることにした。

 

「まぁ、ご主人様……」

 

狂三は頬を赤らめ、嬉しそうにそれを受ける。

 

『狂三ちゃんだけずるいよ~!よしのんと四糸乃も、ご主人さまの言うことを聞いて大人しく待ってたんだから~!』

「……………………」

 

アピールするようにぷりぷりと怒る『よしのん』と、羨ましそうに狂三を見つめる四糸乃。

 

「そうだな。二人もいい娘で待ってたもんな。偉いぞ」

 

今度は『よしのん』と四糸乃を同時に撫で、嬉しそうにしている様を堪能した。

 

「はいはい。可愛い精霊ちゃんたちを愛でるのは後にして、今はターゲットの監視に専念しましょ」

 

志保が呆れたように言いながら、琴里たちのいる方を指す。

そこには耳から何かを取り外し、それを放る士道の姿があった。

 

「……?……何を捨てた……?」

「たぶん、<フラクシナス>と通話するためのインカムだと思うわ。……なるほど。ここからは一対一でデートをするつもりみたいね」

 

志保がそう予想した矢先、十香をその場に残した士道は琴里と共に移動を開始する。

 

「お、場所を変えるのか。それじゃあ……」

 

自分たちも移動しようと考えたところで、ひとり残された十香の姿が目に入る。

恐らく士道たちを二人きりにするため、あえて別行動をとる選択をしたのだろう。

だが何か騒ぎでも起これば、間違いなく彼女は士道の元へと飛んでくるはず。

たとえ十香が全開の力を出せなくても、その妨害を掻い潜りながらでは難易度が上がってしまう。零にとっては不安要素のひとつだった。

 

「確かに後で乱入されるのは面倒ね。……それじゃあ<オルトロス>を何機か監視に回すのはどうかしら?足止めだけなら2~3機で事足りると思うわよ?」

 

零と同じことを考えていた志保が、ぱっと思い付いたように提案する。

 

「なるほど。戦力を分散するってことか。……他に思い付く作戦も無いし、それでいくか」

「そうと決まったら私も残って<オルトロス>たちに指示を出すわ。それで十香ちゃんが動くようなら、社長の邪魔をできないように足止め。出来るようならそのまま捕獲。これでプランは決定ね」

 

志保の提案に、零は「あぁ……」と短く了承の返事をする。

『霊力を封印されている』という特殊な状態の今の十香は、零の力で隷属させられない可能性がある。

だからと言って放置しておいてもいいという訳にはいかない。いずれ攻略しなくてはならない以上、その詳しい性質を知っておいても損はない。

たとえ隷属できなくてもひとまず身柄だけでも確保し、調べるために側に置いておこうというのが志保の意見だった。

 

「よし、それじゃあ四糸乃、よしのん、狂三。あの二人を追うぞ」

「は、はいっ……!」

『いやぁ~!なんだかドキドキしてきたねぇ~!テレビで見たスパイ映画みたいだよ~♪』

「はい。ご主人様のためなら何処へでも」

 

十香の監視を買って出た志保をその場に残し、零は二人を引き連れてこの場を後にした。

 

 

 

 

 

それからアミューズエリアに移動した士道と琴里を追って、3人は茂みの影からこっそりと覗き見る。

 

『おぉ~!すっごく楽しそうだねぇ~♪』

「うん……」

「士道さんったら、あんなにはしゃいで……」

 

零たちが見守る中、士道は琴里を連れて様々なアトラクションに挑んでいる。

琴里は士道の意図が理解できずに振り回されているような状態だったが、士道はそんなことはお構いなしといった感じで勢い任せにあちこち連れ回す。

士道が琴里を引っ張り回すその光景は、端から見れば仲睦(なかむつ)まじい兄妹そのものだった。

 

「―――けど、どう足掻いても妹止まり(・・・・)なんだよな……」

 

だが零の目には恋人同士のデートには見えていない。せいぜい仲のいい兄妹が休日に遊びに来ているといった程度。

その証拠に次のアトラクションに移動している時の琴里は、どことなく落ち込んでいるように見える。

黙秘強使(ストーキング)の効果がちゃんと出ているのだろう。そう理解した零は満足そうに頷いた。

 

『……そういえばさ、ご主人さまには兄弟とかいないの?ご主人さまの周りには博士と従業員のみんなしかいないみたいだけど……』

「えっ……?」

 

『よしのん』の唐突な質問に、思案に暮れていた零の意識が呼び戻される。

 

「わたくしも気になりますわ。ご主人様、ご自分のことを全然お話しになりませんから……」

「私も、聞きたいです……」

 

続くようにして狂三と四糸乃も期待の眼差しを送る。

すると零は物思いに(ふけ)るように、ぼんやりと空を見上げた。

 

「兄弟、か。……悪いけど、俺にもわからないんだ」

「えっ?」

「どういう、ことですの……?」

 

YESでもNOでもない、あまりにも予想外の答えが返ってきた。

それにどう答えていいかわからなくなった四糸乃と狂三は思考がフリーズしてしまう。

 

「……俺は俺を精霊にした奴(・・・・・・・・)の都合で、いろいろな世界を転々とさせられてる。俺にはそれ以前の、自分の名前以外の記憶がまったくないんだ」

「精霊にした奴……?」

 

零の言葉の中の、心当たりがあるキーワードに狂三が反応する。

 

「……それはもしかして、全身がノイズのようなもので見えない方(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ではありませんの?」

「……?……何だそれ?」

 

狂三が発した言葉に、零は謎かけのような疑問を覚える。

恐らく自分が知る金色の『何か』とは違った経緯で霊結晶(セフィラ)を持つ者がいるのだろうか。零はそう考え、詳しく調べるために後で聞き直すことにした。

 

「……いや、俺に霊結晶(セフィラ)を寄越したのは―――」

 

―――瞬間、零の言葉を遮るように、爆発音と衝撃が零たちを襲う。

 

「……!?……」

「きゃっ……!」

『なんだなんだ~!?』

 

驚きで体勢を崩しそうになった四糸乃を、それに気付いた零がさっと優しく受け止める。

 

「大丈夫か?」

「は、はい。……ありがとう、ございます……」

『おかげで助かったよ~!ありがとね!ご主人さま~♪』

 

零が確認すると、四糸乃は顔を赤くして俯き、『よしのん』は嬉しそうに手を振ってみせる。

 

「……ご主人様。どうやら先を越されたみたいですわね」

「えっ……?」

 

言いながら狂三が上空を指差す。

そこには零が見たことのないCR-ユニットを装備したAST隊員、鳶一折紙の姿があった。

 

 

 

 

 


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