DATE・A・LIVE The Snatch Steal   作:堕天使ニワトラ

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『紅』と『白』に迫るもの

「おいおい。なんだよあれ……?」

 

折紙が身に付けている装備を見て、零は思わず呆然としてしまう。

魔力砲と思われる巨大な砲身が両サイドに二門、ASTが使用しているものよりも特殊な形状をしたレイザーブレイドが二本。

おまけに何らかのギミックがありそうな背部コンテナユニット。たった一人で身に付けるには、明らかに過剰な重装備である。

あんなものがASTにあったこと事態が驚きなのだが、それ以上にそんなハイレベルなものを一人で使役している折紙の力量に、思わず舌を巻いてしまう零だった。

 

『ねぇねぇ……あのお姉さんって、よしのんたちを虐める人たちの仲間だよね?』

「うぅ……」

 

ASTに狙われていた頃を思い出したのか、『よしのん』と四糸乃が零の後ろに隠れる。

 

「大丈夫だ。まだこっちに気付いてない」

 

零は怯える二人を(なだ)め、そっと傍に抱き寄せた。

 

「……やはり、目的は炎の精霊さんのようですわね」

 

狂三が爆発のあった地点を指す。

そこはちょうど士道の真隣。先ほどまで琴里が座っていたベンチがあった場所である。

士道は展開した防性随意領域(プロテクト・テリトリー)により守られていたようだが、その範囲外にいた琴里には間違いなく直撃していただろう。

しかし爆発の中から、炎に守られて無傷の琴里が姿を表す。

そして琴里が霊装を展開し、精霊―――<イフリート>としての力を解放した。

その瞬間、折紙が激昂したようにミサイルの雨を降らせる。

 

「これまた大それたことをやらかしたな……」

 

聞き逃しでなければ、間違いなく空間震警報は鳴っていない。

その証拠に、周囲には未だに逃げ惑う一般人の悲鳴が飛び交っている。

もしかしたら独断で来たのか。それともこの不意打ち同然の戦闘自体も作戦の内なのか。

 

「……どちらにしても、これはやり過ぎだろ……」

 

零が思案に暮れている中、戦闘はさらに激しさを増していく。

折紙は空中を飛び交う<イフリート>を随意領域(テリトリー)に閉じ込め、その内部にミサイルを撃ち込む。

だがそれでも大したダメージを与えられないと悟ると、すぐさまレイザーブレイドの刃をロープのように展開。それで<イフリート>を拘束する。

再び随意領域(テリトリー)に閉じ込めると、今度は両サイドに備えられた巨大な砲門を向け、高出力の魔力砲を放つ。

その余波はあまりにも凄まじく、随意領域(テリトリー)を破壊し飛散するエネルギーが周囲のアトラクションにまで牙を剥いた。

 

「きゃ……っ!」

『わわわっ……!』

 

茂みに隠れていた零たちにもその影響が及び、慌てた四糸乃が足をもつれさせる。

 

「―――っと。……大丈夫か?」

 

だがそれを見逃さなかった零が回り込み、四糸乃の身体を優しく受け止めた。

 

「は、はいっ。ありがとう、ございます……」

『おかげで助かったよー!ありがとねー!ご主人さまー♪』

 

四糸乃は恥ずかしそうに顔を赤くして(うつむ)き、『よしのん』は感謝の気持ちを体現するようにはしゃぐ。

 

「まぁ。ご主人様ったら、四糸乃さんばかり……」

 

その様子を狂三が羨ましそうに見つめる。

だがその間にも未だに折紙の攻撃の余波は治まらず、このままだともっと酷い巻き込まれ方をしてもおかしくない。

 

「……これは少し離れた方がいいな」

「そうですわね。……それではこちらに」

 

狂三の誘導に従い、安全を確保するために攻撃が届かない位置にまで距離を取る。

その間に魔力砲の攻撃から生き延びた<イフリート>が折紙の背後に回り込み、天使である戦斧でCRーユニットに斬りかかった。

 

「これはちょーっと面倒なことになってきたな……」

 

愉悦に満ちた笑みで戦斧を何度も叩きつける<イフリート>を見て、零は零は難しそうに顔をしかめる。

あれは狂三との戦闘で見せた、破壊衝動に意識を支配されたときの<イフリート>そのものだった。

このままだとあんな状態の<イフリート>を相手にしなくてはならない。そう考えただけで零はゾッとせずにはいられなかった。

対する折紙は体勢を建て直そうと、防性随意領域(プロテクト・テリトリー)で防御。同時に<イフリート>を振り落とそうと出鱈目(でたらめ)に飛び回る。

だが<イフリート>は気にする様子もなく、随意領域(テリトリー)で保護されたコンテナユニットを戦斧で何度も斬りつけた。

 

「このまま鳶一折紙がダウンしたところが狙い目かな……」

 

端末には他の魔力反応は感知されておらず、十香は志保と<オルトロス>が足止めする手筈になっている。

おまけに士道はインカムを持っていないため、<フラクシナス>に助けを求めることもできない。

だから余程のイレギュラーがない限りは、他の誰の邪魔も入らない絶好のタイミングが訪れることになるのだ。

そう考えている間に随意領域(テリトリー)は破壊され、折紙は地面に不時着する。

そして<イフリート>は止めとばかりに戦斧を砲撃形態に変形させ、ほぼ至近距離の折紙に発射口を向けた。

 

「これでチェックメイトだな。それじゃあ俺もそろそろ……」

 

頃合いを見て立ち上がった零だったが、その動きは折紙の叫びによって止められた。

それによると5年前に折紙の両親は<イフリート>によって殺されたのだという。

その事実を突きつけられた<イフリート>は抑えられなかったはずの破壊衝動すら忘れ、戦意を喪失してへたり込んでしまった。

 

「あらあら。折紙さんにそんな事情がおありでしたの……」

 

憎しみをぶつけんばかりに叫ぶ折紙を、狂三は意外そうに見つめる。

一時とはいえクラスメートとして顔を合わせた立場上、彼女とは全くの無関係というわけではない。

だからといって後ろめたさがあるわけでは無いが、大切なものを奪われ復讐に燃えるその姿に、狂三はどこか共感するものを感じていた。

 

『……………………』

 

対して四糸乃と『よしのん』は、どこか申し訳なさそうに俯く。

もし自分が同じように誰かを殺していたら。そんな『もしも』のことを考えているのだろう。そう察した零が、無言で二人の頭にポン、と手を置く。

その間に再び飛び上がった折紙は紐状のレイザーブレイドと随意領域(テリトリー)で<イフリート>を拘束。一気に止めを刺そうと魔力砲を最大出力でチャージした。

このまま戦意喪失した<イフリート>が折紙に勝つのは不可能だろう。そう読んだ零が、重い腰を上げるように立ち上がる。

 

「……そろそろ俺の出番みたいだな。……狂三。四糸乃を連れて博士と合流してくれ」

「えっ?それではご主人様が……」

 

自分も<イフリート>との戦闘に参加するつもりでいた狂三が、心配そうに零を見る。

 

「俺なら大丈夫だ。<オルトロス>もいるからな。それよりも博士の方が気になるから、そっちを手伝ってくれ」

 

そう自信ありげに言ってみせる零に、狂三は「むぅ……」と不満げな表情をする。

 

「本当はご主人様の勇姿を見ておきたかったのですが、ご主人様がそうおっしゃるのなら……」

「あ、あの……」

 

狂三がしぶしぶ了承すると、隣にいた四糸乃が心配そうな眼差しを零に送っていた。

 

「……?……どうした?」

「そ、その……頑張って、ください……」

『よしのんも応援してるからね~♪』

 

零の無事を祈った精一杯の応援。

その姿に勇気付けられたのと同時に、彼女たちも自分を支えてくれる存在なのだと実感させられた。

 

「……ああ。ありがとな」

 

零が笑顔でそう返すと、狂三の足下の影が広がり、四糸乃と共にその中へと沈んでいった。

 

「……<オルトロス>全機。所定位置でターゲットを包囲」

 

それを見届けた零は、端末で<オルトロス>たちに指示を出す。

同時に零の全身を包むように、闇色の(もや)のようなものが出現する。

数秒後にそれが振り払われると、中からヴァンパイアを彷彿とさせる霊装を身に纏った零が姿を現した。

 

「―――さぁ、ここからは俺のターンだ」

 

 

 

 

 

<イフリート>に魔力砲<ブラスターク>を向ける折紙の前に、義妹(いもうと)を守ろうと兄、士道が庇うように立ちはだかる。

 

「折紙!止めろ!止めてくれ!」

「……士道。邪魔をしないで」

「そんなわけいくか!」

 

士道が必死に止めようとするが、折紙の意思は揺らぐことすらなかった。

 

「貴方には言ったはず。私は両親の仇を討つために今まで生きてきた。<イフリート>―――五河琴里を殺すことだけが、今の私の存在理由」

 

そう何の迷いもなく言ってみせる折紙に、士道は彼女を止めるだけの言葉を見出せずにいた。

だがこのままでは大切な家族が殺されてしまう。そんな未来を阻止するため、士道は必死で呼びかける。

 

「……ダメだ。ダメなんだ!お前が殺しちゃ!……その引き金を引いたら、きっと戻れなくなる!俺は……そんなお前を見たくない!」

「……それでも、構わない。私の手で、<イフリート>を討てるなら」

 

まったく届かない。士道の言葉があまりにも弱い。

まるで二人の間に見えない壁でもあるかのように、自分の思いを彼女に伝える事すらできなかった。

 

「折紙!聞いてくれ!俺は―――」

 

 

 

 

 

「―――残念ながら、チャンスタイムはそこまでだ」

 

瞬間、士道の台詞を遮るように、何処からか声が聞こえてくる。

 

『…………!?』

 

そしてパン!パン!と手拍子の音が響き、二人はそちらに視線を移す。

そこにいたのは、確認されている中で唯一の男の精霊―――<インキュバス>だった。

 

「なっ!?お前は……!」

「<インキュバス>……」

 

予想外の乱入者に士道は驚愕し、折紙は警戒するように睨み付ける。

 

「ずいぶんと物騒な空気だな?もっと年頃の男女らしい会話はできないのか?」

「……何をしに来たの?今は貴方の相手をしている暇はない。もし邪魔をするなら……」

 

皮肉を交えて余裕ぶった態度の<インキュバス>に、折紙は<ブラスターク>の発射口を向ける。

―――瞬間、彼女が装備しているCR-ユニット、<ホワイト・リコリス>のコンテナユニットが大きく揺れた。

 

「…………!?」

 

咄嗟に振り返ると、そこには猛獣の爪で切り裂かれたような傷を負ったコンテナユニットと、そこに照らされる6つの赤い光。

そしてそこからゆっくりと不可視迷彩(インビジブル)を解除し、3機の<オルトロス>が姿を現した。

しかもそのうちの1機には、他の2機にはない武装が装備されている。

左腕部のグレネード、両足のミサイルランチャー、そして内側に棒状のパーツが仕込まれた右腕部のプロテクター。

他の機体と異なる用途を与えられたその機体の視線は、まるで折紙を狩猟すべき獲物だと言っているかのようだった。

 

「折紙!」

「いつの間に……!?」

 

士道が叫ぶ中、折紙は<インキュバス>の策にはまったことを思い知らされる。

だから<インキュバス>は目立つように堂々と姿を現したのだ。自分に注意を引きつけて、背後から<オルトロス>が奇襲を仕掛けやすいように。

その間に武装した<オルトロス>が右腕を振り上げ、プロテクター内に仕込んだものを展開する。

 

「警棒?……違う。スタンロッド?」

 

その鉄パイプのように細長い金属のパーツは、折紙にそう印象付けさせるには十分だった。

だがそんなもので魔術師(ウィザード)を倒せるとは思えない。

折紙は咄嗟に随意領域(テリトリー)で防御する。

しかし<オルトロス>はそんなことお構いなしにその武装を振り上げ、随意領域(テリトリー)で保護されたコンテナユニットに叩き付けた。

瞬間、棒状のパーツから電流が(ほとばし)り、随意領域(テリトリー)を伝って折紙にもその牙を剥いた。

 

「……ッ!?ぁあああああぁぁぁぁっ……!!」

 

その直後、まるで高圧電流を浴びているかのような激痛が(はし)り、折紙の意識を刈り取る。

コントロールを失った<ホワイト・リコリス>は機能を停止し、轟音を響かせながら地面に落下した。

 

「折紙……!?」

「我ながらよく出来てるな。対魔術師(ウィザード)用対人装備は」

 

上々な結果を見て<インキュバス>はうんうんと満足そうに頷く。

落下の衝撃で折紙は地面に投げ出され、士道が血相を変えて駆け寄った。

その間に折紙が気を失ったことで随意領域(テリトリー)が消失し、拘束されていた<イフリート>が解放される。

だが彼女も限界が近いのか、フラフラと立ち上がるのも困難に見えた。

 

「……<オルトロス>」

 

パチン!と<インキュバス>が指を鳴らすと、不可視迷彩(インビジブル)で隠れていた<オルトロス>の1機が姿を現し、<イフリート>の背後からゆっくりとにじり寄る。

 

「まだいたの?……けど、たかが機械人形で精霊をどうにかできるとでも―――」

 

<イフリート>が言いかけたところで、死角から重低音のような衝撃波が襲う。

 

「かはっ……!」

 

<イフリート>の身体はまるで車にはねられたように宙を舞い、力なく地面に倒れ伏す。

 

「琴里……ッ!」

 

それに気付いた士道が駆けだし、ゆっくりと近づく<インキュバス>の前に立ちはだかるように両手を広げた。

 

「お前の目的が何なのかは知らないけど、琴里には指一本触れさせない!それにお前が連れて行った四糸乃も返してもらう!」

「……………………」

 

目の前で凄んでみせる士道を、<インキュバス>は冷たい目で見据える。

 

「……はぁ」

 

そして呆れたようにため息を吐くと、鋭いボディブローを士道の腹に叩き込んだ。

 

「がはっ……!」

 

それに反応どころか気付くことすら出来なかった士道は気を失い、力なくその場に倒れた。

 

「悪いな。こっちにも事情があるんだ。……さてと」

 

改めて<イフリート>に視線を戻し、ゆっくりと側に歩み寄っていく。

 

 

 

 

 

「―――さぁ。兄離れの時がきたぜ。妹ちゃ―――」

 

そっと手を伸ばそうとしたところで、<インキュバス>のすぐ目の前を赤く細い光が通過した。

 

「ん……?」

 

明らかに今のはレーザーによる攻撃。<インキュバス>は身を起こし、それが飛んできた方を見る。

 

「……何だあれ?」

 

その視線の先にいたのは、青いカプセルを思わせる楕円(だえん)状のボディに、その中央に黄色く輝くモノアイを持った機械。

空中を浮遊しているところから高度な技術によって造られたのはわかるが、右腕の解析用端末が魔力反応を感知していない。

つまりあれは顕現装置(リアライザ)を用いずに、それに匹敵する技術力を以て造られたことになる。

 

「どこの誰の差し金かは知らないけど、俺の邪魔をするからには覚悟は出来てるんだろうな?」

 

不機嫌そうにポキポキと指を鳴らしながら、<インキュバス>は謎の機械に向き直る。

すると解析用端末が近くに魔力反応を感知したことを報せた。

 

「……?……なんだ……?」

 

さっとウインドウに目を向けると、離れたところからASTの一団が接近していることを物語っていた。

 

「チィ……こんなときに……」

 

不測の事態が迫っている状況に舌打ちをしながら、<インキュバス>は周囲を見回す。

すると目の前にいる青いカプセル型の機械と同じものが、周囲を取り囲むように10機ほど姿を現す。

 

「……なるほど。ASTが来る前にこいつらを何とかしないといけないって訳か……」

 

<インキュバス>の言葉を遮るように、カプセル型の機械はモノアイからレーザーを発射した。

 

 

 

 

 

「―――上等だよ」

 

瞬間、離れた位置にいたはずの<インキュバス>が、カプセル型の機械のすぐ目の前に現れる。

そして身を捻るようにして勢いをつけ、鋭い回し蹴りをど真ん中に叩き込んだ。

 

―――バチバチ……!

 

スパークしながらメキメキと金属が軋むような音を立てて形を変え、中枢部分を損傷して機能を停止。スクラップと化したそれはそのまま重力に従って地面に落下した。

 

「……さてと、時間がないから、さっさと済ませようか」

 

周囲で応戦している<オルトロス>たちを見回しながら、<インキュバス>は余裕に満ちた笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 


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