DATE・A・LIVE The Snatch Steal   作:堕天使ニワトラ
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大変長らくお待たせしました。最新話を投稿します。
希に見ぬ多忙さと内容量の多さで多大な時間を要してしまい、本当に申し訳ありません。
それと8月も引き続き多忙になるという予告を受けてしまいまして、これまた更新が遅れることも重ねてお詫び申し上げます。




<イフリート>

<フラクシナス>内、医務室。

 

「ん……」

 

ベッドで横になっていた士道が、ゆっくりと(まぶた)を開ける。

 

「……目が覚めたようだね。シン」

「令音、さん……?」

 

ベッドのすぐ側にいた人物、令音を見た士道はゆっくりと身を起こす。

そして周囲を見回し、そこが<フラクシナス>の医務室であることを理解した。

 

「え?……俺、どうしてこんなところに?……確か、オーシャンパークで琴里とデートをしてて―――」

 

そこまで口にした瞬間、気を失う前までの出来事が脳内でフラッシュバックされる。

両親の仇である<イフリート>を討ちに乱入してきた折紙。

琴里が殺されそうなところで現れ、折紙を止めた<インキュバス>。

そしてその<インキュバス>が引き連れていたロボットに琴里は気絶させられ、すぐに士道自身も気を失わされた。

 

「……それから気を失った君を、十香がASTに見つかるよりも前に連れ出してくれたんだ。自身も負傷しているというのに……」

「えっ?十香……?」

 

令音の視線を追うように、士道は隣のベッドを見る。

そこには絆創膏や包帯で治療された十香が、寝息をたてながら安らかに眠っていた。

 

「君たちの危機を察知して助けに向かおうとしたところ、<インキュバス>が引き連れていたのと同じ個体が現れ、やむを得ず交戦した。……だが追い詰められたところで別の乱入者が現れ、乱戦になった隙を突いて抜け出したようだ。……そして鳶一折紙はその後に駆けつけたASTに連行されていった。恐らく命に別状はないだろう」

「そう、ですか……」

 

十香と折紙の無事。それを聞いただけでも内心でほっとする。

だが一番気がかりな彼女の安否を確認できるまでは、士道に本当の安心は訪れない。

意を決するように間を置き、覚悟を決めたように話を切り出した。

 

「―――それで令音さん。琴里はどうしたんですか?」

「……………………」

 

士道が問いかけると、令音は悩ましげに俯く。

 

「……?……どうしたんですか?……まさか琴里の身に何か……!?」

 

最悪の事態が頭を過ぎった士道は、身を乗り出すように令音に近づいた。

 

 

 

 

 

「―――なに情けない声出してんのよ?士道」

 

『えっ……!?』

 

聞き覚えのある声に、二人は目を見開いて驚愕する。

 

「……まさか私がいなくなったとでも思ったのかしら?」

「ぁ、ぁ……」

 

自動ドアが開き、向こう側にいた人物が堂々とした足取りで入室する。

 

「その救いようがないくらい情けない顔をやめてくれる?車に()かれたウシガエルみたいで気分が悪いわ」

 

<ラタトスク>の軍服を肩にかけ―――

 

「こんなことじゃすべての精霊を救うだなんて夢のまた夢ね。もっと厳しい訓練を用意しないといけないかしら?」

 

長い髪をツインテールにした―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――というわけで、特別に私を踏ませて(・・・・)あげるわ。だから存分に私を罵倒なさい♪」

 

……副司令の神無月だった。

しかもご丁寧に琴里が着ているものとそっくりな衣装を着て、拡声器のような機械で琴里の声までも再現していた。

 

『………………』

 

それを見た二人は硬直し、気分も急下降で落胆した。

 

「……私だ。医務室で副指令が乱心した。またいつもの場所に連れていってくれ」

 

令音が通信機で連絡を取って数秒後。医務室に数人の男が現れ、神無月を両サイドからガッシリと拘束する。

 

「な、何をするつもりですか!?村雨解析官!私は士道くんを励まそうと……って、待ちなさい!何処へ連れていく気ですか!?」

 

バタバタと暴れる神無月(へんたい)を宙吊りにして、男たちはそのまま医務室を去っていく。

 

「……令音さん。さっきの神無月さんが言ってたことって……」

「わかった。……落ち着いて聞いてくれ。どんな結果であっても、決して取り乱さないで欲しい」

 

本当は日を改め、士道が落ち着いてから話そうと考えていたのだが、神無月(へんたい)が余計なことを口走ったおかげで、今すぐに話さなければならなくなってしまった。

腹を決めた令音は一呼吸置き、いっそう真剣な表情でまっすぐ士道を見た。

 

「……シン。琴里は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――消失(ロスト)してしまったよ。<インキュバス>と共に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーシャンパーク近くのふ頭。その一角にある廃倉庫。

ASTが現場に到着している頃、十香の足止めをしていた志保たちは、集合場所であるそこに身を潜めていた。

 

「……これで全機揃ったわね?」

 

夕陽で赤く照らされた屋内。そこのドラム缶に腰掛けていた志保が、足音のする出入り口に視線を向ける。

そこには重たい扉を開け、屋内に足を踏み入れる8機の<オルトロス>の姿があった。

しかもそのうちの何機かは、乱入してきた謎の機械兵器の残骸を抱えている。

 

「あら……そちらにも(・・・・・)来ましたの?」

 

柱に背を預けていた狂三が、近づいて興味深そうに眺める。

そう、零が遭遇したものと同じ機械兵器は、十香の足止めをしていた<オルトロス>たちの前にも現れたのだ。

見たことのない乱入者に当初は困惑する志保だったが、真っ先に十香に攻撃を仕掛けたことから、標的が精霊であることをいち早く察する。

相手が何処の誰かわからない以上、それはよろしくないと志保は判断。すぐに<オルトロス>たちに乱入した正体不明の敵から十香を守るように指示した。

なんとか十香捕縛だけは阻止したものの、プランのひとつだった十香には逃げられてしまう。

そこへ狂三と四糸乃が合流し、あちらの方はもう問題はないことを伝えられる。

それを聞いた志保はもうこの場にいる意味はないことを理解し、正体不明の敵と交戦している<オルトロス>たちを引き上げさせた。

 

「ご主人様。大丈夫かな……?」

『心配しすぎだよ!こういう時こそご主人さまを信じないと!』

 

木箱に座り、年相応の子供のように足をブラブラさせていた四糸乃が、心配そうに『よしのん』と相談する。

 

「けど社長が一緒じゃないって事は、ひとまず当初の目的は達成したみたいね?」

 

その証拠に零の端末の反応は何処にもなく、彼が消失(ロスト)したことを伝えていた。

しかも<オルトロス>が持ち帰ってきた敵機の残骸は、破壊箇所が最小限に抑えられている。

後で解析がしやすいようにという零の配慮だろう。そう考えながら志保は解析用端末を取り出す。

それを使って残骸を調べ、再稼働の危険や発信器などがないことを確認した。

 

「……大丈夫みたいね。それじゃあさっさと持って帰って調べましょうか。ちょうど『迎え』も来たみたいだし」

「迎え、ですか……?」

『誰も来てないよ~?』

 

志保の意味深な台詞に、四糸乃と『よしのん』が首を傾げながら辺りを見回す。

するとその場にいた全員を包むように、頭上から光が降り注ぐ。

 

「えっ……!?」

『なになに!?どうなってんの~!?』

「これは……」

 

その後に感じたのは奇妙な浮遊感。自分の意思で空を飛ぶのとは違った感覚に、精霊たちは動揺の色を見せる。

 

「さぁ、一足先に戻りましょうか。私たちの新しい拠点―――<ポセイディア>に」

 

志保がそう言った瞬間、まるで光に溶けて消えたかのように、その場にいた全員の姿が見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隣界。そこは精霊のみが踏み入ることを許された世界。

その闇の世界のような場所に、ふたつの人影があった。

 

「はぁ、はぁ……」

「……そろそろ30分か。思ってたより粘るな……」

 

地面に座り込んだ零が、目の前に横たわる赤い光に包まれた少女をじっと眺める。

炎のように赤い髪に、天女を思わせる和装。<イフリート>という識別名を与えられた精霊の少女が、熱でうなされているように苦悶の表情を浮かべていた。

乱入してきた敵機をすべて撃退した零は、無事に<イフリート>をこの臨界に引き込むことに成功する。

しかしそれで終わりという訳ではない。消失(ロスト)から24時間以内にここで隷属の誓いをさせなければ、今までの苦労が水泡に帰してしまうのだ。

 

「……なぁ。そろそろ楽になったらどうだ?いつまでも片意地張ってたら辛いだけだろ?」

 

零がそう声をかけると、<イフリート>はキッ!と敵意に満ちた視線を向ける。

 

「そんなわけ……いかないでしょ!……はぁ、はぁ……なにを企んでるのか、知らないけど……私には……」

 

目の前の男に身も心もすべてを捧げたい。彼の望むことをしたい。そんな衝動が彼女の身体の奥から込み上げてくる。

しかし同時に、それを良しとしない相反する気持ちがそれを拒む。その根源となっているのが、義理の兄と慕っている彼の存在。

5年以上も前から変わらぬその思いは、他の男に(なび)くことなどありえないと自負するほどの自信があった。

 

 

 

 

 

―――もしかしたら気づいてるんじゃないのか?自分は異性としてあの男が好きなんじゃなくて、兄妹としての好意の延長線上なんじゃないかって。

 

 

 

―――このまま一緒にいても、あいつは君の気持ちに気付くことはない。いつまでも『妹』のまま。それでいいのか?

 

 

 

 

 

だがその固い意志に揺さぶりをかけるように、あの時聞こえてきた『囁き』が、彼女の頭の中で何度も響く。

まるで心の奥底に眠っていた感情が吹き出すように、少女の淡い恋心に波紋を投げかける。

 

「そ……そんなことない!私は士道が……おにーちゃんのことが―――」

 

 

 

 

 

―――だい

 

 

 

 

 

「えっ……?」

 

突然、<イフリート>の決意表明にも似た告白を遮るように、何処からか声が響く。

すぐに身を起こし周囲を見回すが、ここには自分と目の前の男以外に誰もいない。

 

 

 

 

 

―――ょうだい

 

 

 

 

 

「……!?……誰!?何処にいるの!?」

 

聞き違いではない。間違いなく自分たち以外の誰かがいる。

自分と同じようにここに連れてこられた者が、もしかしたら他にもこの場にいるのかも知れない。

うまく協力を得ることが出来れば、この世界からの脱出の可能性が見えてくる。そんな淡い希望を抱きながら動かない身体で必死に辺りを見回した。

 

 

 

 

 

―――ちょうだい

 

 

 

 

 

「えっ……?」

 

瞬間、<イフリート>は自身の腕を掴まれたような感触がした。

嫌な予感がする。決して振り返ってはいけない。彼女の直感が虫の知らせのように警告する。

だがそれよりも怖いもの見たさが勝ってしまい、<イフリート>は恐る恐る振り向いた。

 

 

 

 

 

―――ちょうだい。おいしいの、もっとちょうだい♪

 

 

 

 

 

……そこにいたのは、妖艶なまでに美しい笑みを浮かべ、真紅に染まった瞳でまっすぐこちらを見る―――<イフリート>自身だった。

 

「ひっ……!?」

 

目の前の不可解な現象に、<イフリート>は咄嗟に腕を振り払う。

この自分とまったく同じ姿をした存在が何者なのか。そんなことを考える余裕もないほどの恐怖が彼女を襲った。

 

―――ねぇ。あなたも欲しいんでしょ?おいしいの……

 

「な、何のことを言ってるのよ!?それよりもあなたは一体……!?」

 

なんとか気力を振り絞り、自分と同じ姿をした『何か』に警戒の言葉を投げかける。

だが未知の存在への恐怖で身体は思うように動かず、全身の震えが止らない。

そんな彼女を嘲笑(あざわら)うかのように、もうひとりの<イフリート>はゆったりとした動きでにじり寄って来る。

 

―――ほら。ここも言ってるじゃない。『欲しい』って……

 

言いながらもうひとりの<イフリート>は彼女の胸元に人差し指を当てる。

だが今の<イフリート>には、それが何を意味するのか理解する余裕はない。

怖い。ここから逃げ出したい。あまりの恐怖で気丈な態度も忘れ、ただ目の前に迫るものから逃れたい。そんな気持ちで頭がいっぱいになっていた。

 

「い、いや……来ないでっ……!」

 

 

 

 

 

「……?……何やってるんだ?急にひとりで(・・・・)……?」

 

その様子をすぐ側で見ていた零が、困惑しながら首を傾げる。

視線の先にいるのは、まるで幽霊でも見たかのようにあらぬ方向を見て怯えている<イフリート>ただひとり。

少なくとも零の目には、彼女以外に誰かがいるようには見えず、それらしき気配もまったく感じられなかった。

 

「何を、する気なの!?……やっ……やめ、てぇ……!」

 

まるで見えない『何か』に押さえつけられたかのように、<イフリート>は仰向けに倒れる。

 

「いっ……いやぁっ!はいって、くる……わたしの、なかに……やっ、あぁ……」

 

これまでにないほどの苦しみ様を見せながら、<イフリート>は助けを求めるように空に向かってまっすぐ手を伸ばす。

 

「―――やっ、あぁ……たす、けて……おにー、ちゃ……」

 

言いかけたところで、<イフリート>の目から光が消え、伸ばした手もぱたりと地面に横たわった。

 

「……?……どうなったんだ?」

 

その様子の一部始終を見ていた零は、立ち上がってすく近くまで寄る。

とりあえず呼吸はしているので、死んでいる訳ではない。それを確認して零はほっと一息つく。

 

 

 

 

 

―――その瞬間、<イフリート>は目を開け、その全身から真紅の輝きが放たれる。

 

「うおっ……!?」

 

零は咄嗟に腕で顔を隠したが、その隙を突くように正面から何かに押され、仰向けに倒れた。

 

「っ()ぅ……なんだよ一体……」

 

零がぶつけた後頭部を(さす)りながら身を起こそうとしたところで、目の前の彼女とまっすぐ目が合う。

 

「―――ねぇ。ちょうだい♪おいしいの、ちょうだい♡」

 

そこにはまるで甘えるような表情で、真紅に染まった瞳をした<イフリート>が、零にまたがるように乗っていた。

 

「ふふ。とっても美味しそう……」

 

獲物を前にした捕食動物のような目で見ると、そっと零の胸元に顔を寄せる。

 

「……?……なにを……?」

 

困惑している零の目の前で、<イフリート>は零の霊装にそっと唇を付け、すぅ、と息を吸った。

 

「んぅ……ふふ、おいしぃ……」

 

いちど顔を離すと、ぺろりと唇を舐める。

いったい何をしたのか。零は<イフリート>が何かを吸ったと思われる箇所を見て、彼女が何を求めているのかを推測する。

 

「もしかしたら……」

 

ふと、とある可能性を思い付いた零は、<イフリート>に向かって右手をかざし、そこから精霊を隷属させるときに送り込む霊力を放出した。

 

「……!……」

 

すると大好物の食べ物を前にした動物のように目の色を変え、飛び付かんばかりの勢いで掌に顔を寄せる。

そしてちろりと舌を出し、まるで主人に甘えるペットのように手の平を舐め始めた。

 

「ちょ……くすぐったいって……!」

 

我慢できないこそばゆさに零は腕を引っ込めようとしたが、それを阻止せんと<イフリート>が両手で拘束するように掴んだ。

 

「んっ、ちゅ……ふふっ、すごくおいしぃ……♡」

 

ぺろり、と唇を舐める小さな舌。時折見せる(いつく)しむような微笑み。

その様子は零の視線を釘付けにするほど妖艶で、とても彼女が13歳の少女とは思えないほどの色香を漂わせていた。

自分には幼女趣味など無いと自覚していた零だったが、それを差し引いても零を意識させるだけの魅力が感じられる。

しかしくすぐったいのを我慢してまで、このまま舐めさせ続けるわけにはいかない。そのためやむを得ず霊力の放出を止める。

 

「あっ……」

 

すると<イフリート>は物足りなそうな表情を見せ、すぐに舐めるのを止めた。

 

「やぁ……もっと欲しいのぉ……!」

 

物足りなそうに掴んだ腕を振るいながら懇願する様を見て、これはチャンスだと零は睨んだ。

 

「そうか。……なら俺のものになれ。そうすれば毎日でも食わせてやるぞ?」

「毎日……?」

 

それは<イフリート>にとってたまらなく魅力的な提案である。

この男のものになる。その言葉の意味はよくわからないが、このたまらなく美味しい霊力(もの)を毎日でも食べられるのであれば、それ以外のことを考えるだけの思考を彼女は持っていなかった。

おまけに自身の源である霊結晶(セフィラ)も、それを望んでいるかのように強く反応している。

そのために必要なこと。それを知ったことで、彼女がとる行動はもう決まっていた。

 

「……して。あなたのものに……私の、すべてをあげる!私の―――ごしゅじんさまぁ……!」

 

隷属の承諾を受け入れた瞬間、彼女の全身を炎のような真紅のオーラが包み込む。

精霊自身と霊結晶(セフィラ)の意思。この両方が隷属を受け入れたことで、彼女の『準備』が完了する。

それを見た零はそっと上半身を起こし、彼女の唇にそっと自身の唇を重ねた。

 

「んっ―――」

 

突然のことに驚きで目を見開く<イフリート>だったが、すぐにそれを受け入れて全身の力を抜く。

すると彼女の全身を覆っていた霊力のオーラは二人の重なった唇の中間に集まり、隷属の証である隷属結晶(スレイラ)が精製される。

零はそれを舌で自身の喉に誘導し、そのままこくん、と呑み込む。

すると<イフリート>の首元に隷属の証である紋様が刻まれ、彼女のすべては零のものになった。

 

 

 

 

 

―――瞬間、頭に何かが流れ込んでくるような感覚がする。

 

『…………!?』

 

二人は同時に目を見開き、すぐに唇を離す。

その直後、忘れていたものを思い出すかのように、頭の中にぼんやりとしたイメージのようなものが浮かび上がってきた。

 

―――5年前、どうして琴里は精霊になったのか。

そしてその力をいつ士道が封印し、なぜその事実を二人が忘れていたのか。

閉ざされていた過去の封印を曝け出すように、零と<イフリート>―――琴里は真実を垣間見た。

 

「今のは……」

「思い出した……」

 

なぜ士道が精霊の霊力を封印する力を持っていたのかまではわからなかった。だが、間違いなく琴里を精霊にした『何者か』が存在し、それを琴里に身をもって体験させた。

しかも全身をノイズのようなもので隠しているところから、先刻に狂三が言っていた『人間を精霊にする』というキーワードとも一致する。

間違いなくこの存在が、精霊に深く関係している。零はそう確信していた。

 

 

 

 

 

―――瞬間、映像が切り替わるようにして、二人の頭にもうひとつの、別の光景が映し出された。

 

「…………!?」

「なに、これ……?」

 

見覚えのない光景に琴里は困惑する。

 

―――一昔前の中世を思わせる町並み。その中心に立つ巨大な石の剣。

そしてそこに向かって、空から巨大な質量を持った物体がゆっくりと迫る。

 

『―――』

 

その光景を背景に、青い髪の少女が、その視線の先にいる青年に向かって叫ぶ。

 

『―――』

 

青年は少女の名を呼びながら、その手を取ろうと必死に走る。

 

―――ドオオオオォォォォォンッ!!

 

瞬間、背後で巨大な物体が町に衝突。直後に大爆発が起きる。

するとその爆心地から、まるで白のペンキをぶちまけたように、純白の光が世界を染めていく。

 

『―――――――――』

 

青年が少女の元に到達するよりも前に、少女の背後から迫る白い光が、青年の視界を白一色に染め上げた。

 

 

 

 

 

『――――――――――――――――――』

 

 

 

純白の世界から少女の声が、まるでそよ風のように優しく青年の元に伝わる。

 

 

 

『―――――――――――――――!!』

 

 

 

青年は白に染まった世界に手を伸ばしながら、少女の名を力の限りに叫んだ。

 

 

 

 

 

「あ、あ……」

「……………………」

 

目を見開きながら呆然とする琴里と、後ろめたそうに俯く零。

あまりにもリアルな光景に、まるで青年の気持ちが同調したかのように伝わってきた。

 

「……あ、あああああぁぁぁぁぁ……っ!」

 

頭を抱え、琴里は発狂したように悲鳴を上げる。

 

「お……おいっ!しっかりしろ!」

 

すぐに我に返った零が、琴里の肩を掴んで呼びかける。

すると琴里は糸が切れた人形のように気を失い、零に寄りかかるように倒れた。

 

「……………………」

 

零はやるせない表情をしながら、琴里を優しく抱き寄せる。

間違いなく彼女も今の光景を見たのだろう。青年―――零にとって最も幸せであり、最も辛い記憶を。

まさか琴里の封印されていた記憶が甦ったのに反応したのか。どれだけ考えても推測の域を出ない。

また新たに増えた謎に頭を悩ませながら、零は胸の中で涙を流し続ける琴里を優しく抱き締め続けた。

 

 

 

 

 








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