DATE・A・LIVE The Snatch Steal   作:堕天使ニワトラ

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大変長らくお待たせしました。色々あってかなり遅くなりましたが、何とか完成したので投稿します。


運命の行方

―――オーシャンパーク。アミューズメントエリア。

天宮市でも有名な遊園地であるそこは、普段なら客で賑わっているはずの時間であるはずなのに、まるでゴーストタウンのような静けさが漂っていた。

そこは折紙と精霊が交戦してから活動しておらず、現在はASTの団体が事後処理のために活動している真っ最中だった。

 

「―――そうね。それはあっちの車両に運んでおいて。……そこっ!駄弁(だべ)ってないで手を動かす!」

 

ASTの隊長である日下部燎子(くさかべ りょうこ)が現場指揮を執り、隊員たちにてきぱきと指示を出す。

 

「……にしても、どこのどいつなの?こんなもの作ったのは……?」

 

燎子はあちこちに転がっている機械の残骸に視線を流しながら、()だるようなため息を吐き出す。

報告によると、これらの個体はASTが到着するまでの間、精霊と交戦していた痕跡があった。

もしかしたらDEMが開発した最新兵器ではないかと一時は考えたが、彼らが公開しない限りはその答えを知る術はない。

なのでひとまず残骸だけでも駐屯地に持ち帰り、そこで詳しく調べることになった。

どちらにしろこの件に関して書かなければならない報告書のことを考え、燎子はげんなりせずにはいられなかった。

 

―――ピピピッ!

 

ふと何の前触れもなく、持っていた通信機がアラームを鳴らす。

 

「通信?……何なのよ?この忙しい時に……」

 

どうせ上層部からまた面倒な要求があったのだろう。そんな苛立ちを募らせながら、燎子は通信機を手に取った。

 

「……どうしたの?また上の連中が何か言って―――」

『―――日下部一尉!その近辺に霊力波を感知しました!』

「……!?……なんですって!?」

 

通信機からの報告に燎子が驚愕の声を洩らした直後、辺りに空間震警報が鳴り響く。

 

「総員退避!死にたくなかったら早くしなさい!」

 

燎子が怒号を飛ばし、作業中だった隊員たちを避難させようとする。

 

 

 

 

 

……だが避難が完了するよりも先に、漆黒の闇のような球体が出現し、広範囲に膨れ上がった。

 

「……!?……いつもより早い……!」

 

その予想外の事態に、燎子は焦りを覚える。

これまでに見てきた空間震とは、明らかに発生のスピードが違う。

そのせいか一番近い位置にいた隊員が逃げ遅れ、このままでは巻き込まれることは容易に想像できた。

 

「くっ……!」

 

隊長としての使命感からか、燎子は隊員の前に飛び込む。

 

「た、隊長……!」

「死にたくなかったらそこで大人しくしてなさい!」

 

カタカタと震える隊員を後ろに、燎子は渾身の力を込め随意領域(テリトリー)を展開する。

その間に空間震は一気に広がり、燎子たちを一瞬で呑み込んだ。

 

 

 

 

 

「―――えっ?」

 

……数秒後、燎子たちは何事もなかったかのようにその場所に立っていた。

随意領域(テリトリー)には衝撃などのダメージを受けた形跡はなく、周囲のアトラクションや地面も空間震が発生する前と何も変わらない状態で残ってえる。

ただ違うのは空間震が発生した中心に、二人の人影が見えたことだけだった。

 

「綺麗……」

 

燎子の後ろにいた隊員が、ぽつりと見惚れたように言葉を漏らす。

そこにいたのは、ヴァンパイアを思わせる貴族風のスーツを着こなした銀髪の青年と、和装のような衣装を身に纏った赤い髪の少女。

二人は互いに抱き合いながら、誓いの口付けのように唇を重ねている。

そして辺り一面に舞い散る粒子が、その中心にいた二人を祝福しているかのように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――<フラクシナス>内、ブリッジ。

 

「……やはりこうなったか……」

「あぁ……司令……」

 

モニター上で<インキュバス>と共に現界した琴里の姿を見て、令音と神無月を含めたクルーたちは動揺の色を見せる。

その光景は婚姻の契りを交わしているかのような、他人が踏み込みがたい神聖さが感じられた。

 

「こ、琴里……」

 

いつでも現地に向かえるように待機していた士道も、その光景に出鼻を挫かれてしまう。

まるで長年一緒に暮らしてきた妹が、どこか自分の手の届かない所に行ってしまったような錯覚を覚えた。

などとそれぞれの反応を示している間に、モニター上の二人は唇を離し、ASTが迫りくる上空を見る。

そして攻撃が開始される前に、その場を離れようと動き出した。

 

「……神無月副司令。二人がASTを()いたところで……」

「任せてください。転送装置の準備はいつでも出来ています」

 

令音と目配せをし、神無月はコンピュータを操作する。

いま琴里がどういう状態なのかはわからない。だがせめて二人の身柄を確保することができれば、話を聞くくらいのことは出来るかもしれない。

そんな淡い希望を抱き、クルーたちはそのタイミングを計る。

その間に二人はオーシャンパークを飛び出し、建物の影に身を潜めた。

 

「―――今ですっ!」

 

ASTの視界から離れた瞬間を見計らい、神無月は端末に触れる。

するとモニター上にいた二人は光に包まれ、消えるようにしてそのままいなくなった。

 

「こ、琴里……!」

 

それをずっと見ていた士道は、急いでブリッジを飛び出す。

それに続くようにして令音や神無月たちクルーも駆け出し、転送装置のある部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

―――だがそこには二人の姿はなく、無の静寂のような静けさだけが士道たちの出迎えを受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――一方、格納庫を思わせる機械的で広大な空間。

そこに転送装置の光に導かれるように、零と琴里がそっと降り立った。

 

「……?……どこなのここは?<フラクシナス>じゃない……?」

 

転送装置を使用したことから、琴里はてっきり<フラクシナス>が回収したのかと思っていた。

だが周囲の壁や隅に置かれた機材などから、自分の知る場所ではないことを悟る。

 

「……そういえば昨日のうちに引き取るって話だったっけな。我ながらいい出来だ……」

 

周囲を軽く見渡した零は、うんうんと頷きながら満足げな表情をする。

 

 

 

 

 

「―――二人で仲良く一緒にいたってことは、成功したってことでいいのよね?」

 

そこへ聞き覚えのある声と共に、開かれた自動ドアから志保が嬉しそうに入ってきた。

 

「おぉ、博士。ようやく完成したみたいだな?」

「えぇ。私たちの新しい拠点、異次元潜航艦―――<ポセイディア>よ」

 

志保が両手を広げながら言うと、零は歓喜のあまり握った拳を小さく震わせる。

 

「そうか。……これでようやく一歩前進だな。あとは『アレ』が完成すれば本格的に表立って動けるのか……」

 

待ちわびたように身震いをしながら、零は広大な部屋一面を見渡す。

 

「それじゃあ立ち話も難だし、医務室で簡単に検査しながら話しましょうか」

 

言って志保は琴里の前に歩み寄り、握手を求めるように右手を差し出す。

 

「初めまして。……じゃなかったわね?先週ぶりかしら……?」

「……そうね。あの時は悪かったわ。強引に拉致するような真似をして……」

 

対する琴里はその手を取ることなく、暗い表情を浮かべたまま小さく俯く。

 

「ずいぶんと大人しいわね?……何かあったの?」

 

何があったのか知らない志保は、零に顔を寄せて小声で耳打ちする。

 

「あぁ。ちょっと事情ありきでな。詳しいことは後で話す」

「……?……そう……」

 

歯切れの悪い物言いに首を傾げながら、志保は二人を医務室へと導いた。

 

 

 

 

 

それから十数分後、医務室で琴里の検査をしている傍らで、零は隣界での出来事を自身の知る限り説明した。

 

「……なるほど。そんなことが……」

「博士はどう見る?俺一人の見解じゃ判断しずらくてな……」

 

志保は考え込むように(うな)り、零はそれを難しそうな表情で見守る。

一応【盗視(スキャニング)】で琴里の思考は見ていたのだが、どうやら琴里自身にも何があったのかは把握できていないようだった。

 

「……まず、急に琴里ちゃんの態度が変わったことだけど、私の仮説だとそれは霊結晶(セフィラ)の意思じゃないかと思うの」

霊結晶(セフィラ)の意思?……それってつまり、先に堕ちてた霊結晶(セフィラ)が隷属を急かすために琴里の意識を乗っ取ったって事か?」

 

零の見解による解説に志保は「ええ……」と返し、そのまま仮設を続けた。

 

「それでそのまま隷属には成功したけど、過去に琴里ちゃんを精霊にしたモザイクさん?……に封印されてた記憶が蘇って、それをきっかけに本来の琴里ちゃんの自我が復活した。……ってところじゃないかしら?」

「モザイクさんって……まぁ、確かにそう考えれば納得できるな……」

 

多少の差違はあったが、零もほぼ同様の見方をしていた。

霊結晶(セフィラ)の意思。そう考えれば彼女の破壊衝動も、隣界で急に人格が変わったのも説明がつく。

そして隷属の際に霊力が大きく循環したことで、彼女の記憶を縛っていたものが外れた。そう考えれば記憶の操作も霊力によるものか、霊力に強く影響を受けるものだと推測できる。

となると狂三から本格的に話を聞いておかなければならない。そう考えた零はこの謎の存在について調べる必要があると睨んだ。

 

「……なるほど。私の身に何が起こったのかはわかったわ。……今度は貴方たちのことを教えてくれると嬉しいんだけど?」

 

その二人の会話を黙って聞いていた琴里が、指摘するように口を挟む。

 

「それもそうだな。……それじゃあ順を追って話そうか」

 

それから要点を絞る形で、零は自分のことを話した。

 

 

 

 

 

金色の『何か』によって、様々な世界に送られ、謎かけのような『役目』を押し付けられてきたこと。

20番目に送り込まれたこの世界で、霊結晶(セフィラ)を与えられて精霊になったこと。

そしてその霊結晶(セフィラ)の意思である精霊の隷属。そのために零たちは動いていたことを告げた。

 

「精霊を隷属!?そんなことが……」

「出来るわよ。その証拠にあなたはこうして社長と一緒に付いてきたじゃない」

 

信じられないと言いたげに声を荒げる琴里に、志保が指摘するように言ってみせる。

本当はそんなことはない。と言いたいところなのだが、残念ながら思い当たる節がありすぎて否定することができない。

その証拠に現界してからずっと、無意識のうちに彼の言うことに大人しく従ってしまっている。

特におかしいのは、その流れに逆らおうという気が起きないこと。そしてそれをおかしいと認識できないことだった。

もしこれが彼らの言う隷属というものなら、自分の生殺与奪権は彼の手の中にある。そう考えただけで琴里は心臓を鷲掴みにされたような気分になってしまう。

 

「……わかったわ。百歩譲って貴方にそういう能力があることは認める。……けど、そうまでして精霊を手中に収める理由は何なの?」

 

琴里は零の真意を問いただそうと強気に出る。

それが一番の疑問だった。他の精霊を支配下に置き、その果てに何をするつもりなのか。

彼が言う金色の『何か』から与えられた『役目』。それが果たせないとどうなるのか。<フラクシナス>の司令としての義務でその疑問を言葉にした。

 

「―――その答えは自分がいちばん解ってるんじゃないのか?見たんだろ?俺の『記憶』を……?」

「……ッ!?」

 

零のその一言を聞いた瞬間、琴里は目を見開いて硬直する。

同時に思い出す。隣界で見たあの光景を―――。

そして零が【黙秘強使(ストーキング)】で送り込んだメッセージ。その最後のひとつが、より鮮明になって琴里の頭に響いた。

 

 

 

 

 

―――もしそのせいで―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――この世界が消えるとしても(・・・・・・・・・・・・)、君はあいつを愛せるのか?

 

 

 

 

 

 

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