DATE・A・LIVE The Snatch Steal   作:堕天使ニワトラ

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創世重工

―――創世重工。

この世界で零が活動するため、零と協力者である海原志保の二人で設立した企業である。

『新天地』と呼ばれる別世界に拠点を構え、『超小型ナノマシンから超大型空中艦まで、需要のあるものはなんでも造る』を謳い文句に、あらゆる機械の製造・販売を携わっていた。

だが精霊である零には敵が多いため、(おおやけ)の場に出ることができない。

そのため架空の企業名を名乗って活動していたのもあって、世間にその存在を知るものがあまりにも少なかった。

 

「―――ま、こんなもんだな」

「ええ。なかなからしくなってきたじゃない」

 

荷物整理の終わったオフィスを眺めながら、零と白衣の女性、海原志保が満足そうに頷く。

 

「そういえば何か足りないな。……あ」

 

思い出したように零が段ボール箱を漁り、中から筒状に丸められた紙を取り出す。

同時に近くのデスクに置かれていた画鋲を使って、広げられたカレンダーを壁に固定した。

 

「これでよし、と。……今日は4月10日だったな」

「世間は新学期や就職で大賑わいでしょうね。おめでたい話だわ……」

 

桜の花びらが舞い散る窓の外を眺めながら、志保が愚痴るように呟く。

 

「そうだな。……今度パーッと花見でもするか?」

「……そうね。たまにはのんびりと―――」

 

 

 ウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――――――

 

 

志保の返事を遮るように、外からサイレンの音が大音量で聞こえてくる。

 

「……どうやらそういうわけにはいかないみたいだ」

「そうね。空間震警報が鳴ったってことは……」

 

空間震警報。文字通りそれは空間震と呼ばれる現象を報せるための警報。

発生すると規模は様々だが、範囲内のすべてがごっそりと削り取られたように消失してしまう突発性広域災害である。

 

「よし、待ちに待った本職だ。気合い入れていこう」

「ええ。そのために今日まで準備してきたんだから」

 

二人は頷き合いながらオフィスを飛び出し、颯爽とトラックに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてトラックを走らせること数十分。空間震が発生した地点のすぐ近くに停車した。

 

「あらら……ずいぶんと派手にドンパチやってるわね……」

 

そこから見える光景に、志保は感心するような声を漏らす。

町中にはスプーンで削り取られたような巨大な穴が開いており、その上空には様々な武装を手にして奇妙なスーツに身を包んだ少女の集団が、ひとりのドレスのような衣装を身に纏った少女を攻撃している。

端から見ている志保たちは、まるでSF映画でも見ているような気分になった。

 

「……あれが俺以外の精霊。あの格好はたぶん<プリンセス>だな」

「相手をしてるのは陸自の対精霊部隊ね。確かAST(アンチ・スピリット・チーム)だったかしら?」

 

まるで他人事(ひとごと)のように高みの見物を決め込む二人。

精霊の存在は国ぐるみで隠蔽されているため、一般には知られていない。

だからといって空間震の元凶を野放しにする訳にはいかないのが現実である。

人類が30年前に手にし、科学の力で『魔法』を再現する装置。それが顕現装置(リアライザ)

それを用いて戦闘用に開発されたのが『戦術顕現装置搭載ユニット』、通称CR-ユニット。

装備することができるのは、頭部に脳波を増幅させるための機械を埋め込んだ人間。通称魔術師(ウィザード)

その魔術師(ウィザード)たちによって組織され、人知れず精霊を討伐するために戦う特殊部隊。それがASTだった。

 

「使ってる装備が弱々しいな。ドコ製だ?」

「あの見た目だと、DEM(デウス・エクス・マキナ)インダストリーじゃなさそうね。他企業の委託品かしら?」

 

査定でもしているかのように、彼女たちの装備を評価する。

無理もない。彼女たちが装備しているマシンガンやミサイルをどれだけ撃ち込もうとも、精霊の持つ絶対の盾、霊装に傷ひとつつけることすらできていなかったのだから。

しばらく戦闘が続くと、精霊がその場から消えたようにいなくなってしまった。

精霊はいつまでもこちらの世界に居続ける訳ではない。

タイミングは不明だが、その時が来ると、引き寄せられるように精霊は隣界へと帰って行く。これを消失(ロスト)と精霊を知る者は呼んでいる。

零も一時期は消失(ロスト)と現界に悩まされていたが、霊力をコントロールする制御装置を完成させて問題を克服した。

 

消失(ロスト)したわね。今日はこれでお開きかしら」

「そりゃそうだろうな。対象の精霊がいなくなったら帰るしかないだろ。……ん?」

 

興味がなくなったように引き上げようとした矢先、零は奇妙なものを目にする。

空間震で削り取られた地面の中心近くに、ひとりの少年が倒れ伏していた。

それを見つけて数秒後、少年は空へ引っ張られるように浮かび上がり、そのまま消えてしまった。

 

「……今のは……」

「……?……どうかしたの?」

 

その光景を見ていなかった志保が、首を傾げながら尋ねる。

 

「……あぁ、ちょっと珍しいものを見つけた。帰ってから話す」

 

それを聞いた志保は「そう……」と短く返し、拠点に向かってトラックを走らせた。

 

 

 


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