DATE・A・LIVE The Snatch Steal   作:堕天使ニワトラ

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考えにくい偶然

 

<プリンセス>の出現から1週間後。特に目立った精霊の出現報告はなく、天宮市に嵐の前の静けさのような平和が続いていた。

 

「……よし、このペースならあと数日で完成だな」

 

パソコンの前で黙々と集中していた零が、一息つきながらゴキゴキと背中を鳴らす。

 

「せめて次の<プリンセス>ちゃんの現界までには間に合わせたいわね」

 

カップのコーヒーに口をつけながら、志保が落ち着いた吐息を洩らす。

 

「こいつさえ完成すれば、精霊の捕獲が一気に楽になる」

「ええ。―――精霊捕獲用機動兵器<メタルビースト>。その第1号機<オルトロス>。社長の本職には欠かせない存在ね」

 

志保はパソコンのモニターに表示されている『ソレ』を誇らしげに見つめる。

 

「……さてと、もうひと踏ん張りやるか―――」

 

 

 

二人の集中の糸を切るように、外から空間震警報が聞こえてきた。

 

「おいおい。まだ<オルトロス>は完成してないってのに……!」

「他の精霊ちゃんはこっちの都合なんて考えてくれないってことね……」

 

仕方なく作業をいったん止め、二人はトラックへと飛び乗った。

 

 

 

 

 

それから反応を探してたどり着いたのは、市内でも数えるほどしかない高校のひとつ、都立来禅高校。

その近くの町中にトラックを止め、その様子を伺った。

見ると校舎の半分が巨大なスプーンでくりぬかれたように消失しており、その内部の教室などの部屋が完全に丸見えになっていた。

 

「あらら。これまた珍しい光景ね……」

「<プリンセス>は……反応は校舎の中からだな。だからまだドンパチしないのか……」

 

芸術品の観賞でもしているような志保の隣で、零が校舎の近くで待機しているASTの一個小隊を見ながら納得する。

ASTの装備は屋内戦には向いておらず、無理に戦闘を行って被害を増やすのも問題でしかなかった。

顕現装置の恩恵で建物などの修復は早く済むが、労が全くないわけではない。

町を守るために戦っているASTが、逆に建物を破壊するのでは本末転倒になってしまう。渋るのも無理のない話だった。

 

「それならこっちも少し様子を見ましょうか」

 

そう言うと志保は手元の端末を操作し、トラックに積んでいた観測機を起動させる。

直径十センチにも満たない球状の観測機は宙に浮かび上がり、削り取られた巨大な穴から校舎内へと侵入していった。

 

「う~ん……そんなに動いてないと思うけど。……あ!」

 

端末に表示されている小型のモニターで<プリンセス>を探し、とある教室のひとつで佇んでいるのを見つけた。

 

「……?……何やってるんだ?」

「机が気になるのかしら?もしかしたら学校に興味があるのかもしれないわね。……あら?」

 

二人が観察するようにモニターを見ていると、そこにひとりの乱入者の姿があった。

 

「……あの服装はこの高校の制服ね。避難し損ねたのかしら?……って、社長?」

 

志保が零の方を見ると、何か思い当たり節があるような表情で乱入者を睨み付けていた。

 

「あの髪の色……まさかあの時の……」

「あの時って、1週間前に<プリンセス>ちゃんの近くにいた一般人?偶然……とは言い難いわね。……まさか」

 

意図的に<プリンセス>に会いに来たのでは。そんな可能性が二人の脳裏を過ぎる。

 

「けど何のために?まさかナンパなんてことは……」

「目的はわからない。……けど、避難警報が鳴っている最中に、しかも一般人には情報が伏せられてる精霊の前に2度も現れるなんて、偶然と言い張るには無理があるだろ。……とりあえず様子を見てみよう。それで何かわかるはずだ」

 

様子見を決め込むことにした二人は当初の目的を忘れ、<プリンセス>よりも少年の方にばかり注意が行ってしまっていた。

だが何らかの目的があって精霊に近づいているのは間違いない。二人の直感がそう叫んでいた。

 

「……あ、何か<プリンセス>ちゃんと話をしてるみたい」

「音声も拾えるようにしておけば良かったな……」

 

などと話している間に、<プリンセス>は少年に掴みかかる。

だが少年は抵抗する素振りを一切見せることなく、必死に何かを叫び続ける。

すると<プリンセス>は警戒心を緩めたように、少年の言葉に耳を傾けるようになった。

 

「あらら。本当にナンパだったみたい。近頃の高校生はずいぶんと大胆ね……」

「けどこのまま仲良くなるだけで終わるなんてことはないはずだ。……まさか暗殺目的?となるとどこかの組織からのヒットマンか……?」

 

あらゆる可能性に視野を向けている間に、<プリンセス>と少年は教室の黒板の前で何かを書いていた。

 

「……『十香』、って読めるわね。ひょっとしてあれが<プリンセス>ちゃんの名前かしら……?」

「こいつは思わぬ収穫だな。このままあの一般人が情報を引き出してくれれば……」

 

もう少し観察を続けようと考えた矢先、<プリンセス>を襲撃するように、上空から銃弾の雨が降り注いだ。

 

「……ASTが攻撃を開始したか……!」

「挑発して外に引きずり出そうって作戦ね。……けど<プリンセス>……十香ちゃんは気にしてないみたい」

 

迎撃するどころか霊装の防御に任せ、<プリンセス>は少年との話に夢中になっているようだ。

しばらくその状態が続いていると、ASTの隊員のひとりが一気に距離を詰め、<プリンセス>に近接攻撃を仕掛けた。

 

「お、陸自にはずいぶんと血気盛んな魔術師(ウィザード)がいるんだな」

「もしかしてあの少年を助けようと?……ってことは知り合いかしら?」

 

ふたりが思案に暮れていると、<プリンセス>は自身の天使である玉座を顕現し、そこに備えられていた大剣を引き抜く。

そして向かってきたAST隊員に向かって斬撃を放った。

 

「勝負は目に見えてるわね……」

「あぁ。そんじょそこらの魔術師(ウィザード)じゃな……」

 

出来レースを見守るような心境で、二人は魔術師(ウィザード)の冥福を祈る。

二人の剣がぶつかり合った衝撃で校舎は崩壊し、少年は下の階へと落下。

その後すぐに<プリンセス>は消失(ロスト)してしまい、戦闘はそこでお開きとなった。

 

「今日はここまでみたいね。……けど、それなりに収穫はあったわね」

「そうだな。<プリンセス>の名前に、精霊に近づく高校生。いろいろと調べる必要がありそうだ」

 

精霊がいない以上、もうここに用はない。

観測機を回収し、トラックは拠点である社屋へと帰っていった。

 

 

 

 

 


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