DATE・A・LIVE The Snatch Steal   作:堕天使ニワトラ

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序章が終わって

<プリンセス>の消息が絶たれてから数日が経過し、天宮市には束の間の平穏が訪れていた。

 

「……なるほど。―――<ラタトスク機関>。精霊相手に武力を用いず、対話で無力化する組織。眉唾だと思ってたけど、本当に存在するとはね……」

「しかも大型の空中艦まで持ち出すとはな。ずいぶんと熱が入った連中じゃないか」

 

創世重工、仮設社屋のオフィス。

あれから二人は観測機から得られた情報を調べ上げ、少年に協力している組織の正体を突き止めた。

 

「それにしても驚いたわ。まさかあんな少年が存在するなんてね。……精霊に好意を持たせてキスをすることで、霊力を封印することができる高校生。か……」

「その一高校生を支援するためだけに、莫大な資金と技術を注ぎ込むとはな。しかも霊力を封印した<プリンセス>を学校に通わせるとは……さすがに恐れ入ったよ」

 

志保と零は揃って感心の言葉を洩らす。

精霊の霊力を封印する力を持った少年に、それを支援するためだけに動く巨大な力を持った組織。

明らかに何者かに仕組まれているかのようなその場景に、二人はキナ臭さを覚えずにはいられなかった。

 

「……で、社長はこれからどうするの?」

「どう、とは?」

 

天井を見上げるように椅子にもたれかかったまま、志保が零に問う。

 

「決まってるじゃない。彼らは社長にとって敵なのか、それとも味方なのか……」

 

その答えが今後の方針を決める。志保の目がそう言っているのが見えた。

 

「……決まってるだろ?俺は俺のやるべきことをやる。その邪魔になる奴が何を考えて、何を企んでようと関係ない……」

 

椅子から跳ねるように飛び起き、闇のような冷たいものを宿した瞳で志保を見ながら続ける。

 

「……上等だよ。こっちも生半可な気持ちで精霊を狙ってる訳じゃないんだ。誰かが裏で糸を引いてようと、出来レースだろうと知ったことじゃない。……この精霊争奪戦―――乗ってやるよ」

 

言いながら零は右手を目の前に伸ばし、すべてを掴み取るようにその手を握り締めた。

 

「……それでこそ社長ね。そう言うと思ったわ。……それじゃあ私も本気で行かせてもらおうかしら?」

 

志保は軽く拍手しながら、モニターに表示された情報に目を落とす。

確認されている中で唯一の男の精霊、世創零。

そしてそのパートナー、海原志保。

この二人を敵に回したASTやDEM、そして<ラタトスク機関>。

誰が精霊を殺し、誰が精霊を獲得するのか。究極の精霊争奪戦がいま、音を立てて開幕したのだった。

 

 

 

―――ちょうど同じ頃、五河家のリビング。

 

「―――という訳よ。わかったかしら?」

「ん~……まぁ、なんとかな……」

 

少年、五河士道は<ラタトスク機関>の司令官にして彼の義妹である五河琴里(いつか ことり)と、解析官の村雨令音(むらさめ れいね)から、今後の活動についての説明を受けていた。

数日前に霊力を封印した<プリンセス>、夜刀神十香(やとがみ とおか)と士道は、目で見えない経路(パス)のようなもので繋がっており、彼女の精神状態が不安定になるとことで封印されている霊力が逆流してしまい、精霊の力が暴発してしまう危険がある。

そのために精霊用の特設住宅が完成するまでの間、彼女のメンタルケアを兼ねて五河家で生活すること。

そして十香以外にも存在する精霊たちの攻略のため、これからも訓練を続けていく(むね)が伝えられた。

 

「……ってことは、精霊は女の子しかいないってことでいいのか?」

「……………………」

 

士道の質問に、琴里と令音は顔を見合わせる。

 

「……?……どうかしたのか?」

「……いえ、何でもないわ。……男の精霊はひとりだけ、確認されている…って言っていいのかしら?」

 

歯切れの悪い琴里の回答に、士道は余計に訳がわからなくなる。

そんな琴里を見かねてか、隣にいた令音が代わりに口を開いた。

 

「……今から10年ほど前から、微弱でほんのわずかな時間だけ、霊力が観測されることがASTのような魔術師(ウィザード)がいる組織で確認された。その場所には決まって『ある青年』の姿が確認されている」

魔術師(ウィザード)のいる組織で?なんでまた……」

 

士道が令音の説明に疑問符を浮かべていると、ある映像が表示された端末を士道に見せる。

そこには水銀に浸したような銀色の髪を後ろに長く伸ばし、純金のような瞳をした、20代半ばほどと見られる青年が映っていた。

ぱっと見だけでは男性とはわからないほどに美しく、士道も一瞬だけ見とれてしまった。

 

「そして彼が現れた施設で霊力が感知されると、女性の魔術師(ウィザード)が行方不明になっている」

「まさかそいつに(さら)われたんじゃ……」

 

士道の予想を令音は首を横に振って答える。

 

「いや、次の日には普通に出勤してきている。それも何事もなかったかのように……」

「……重要なのはその後よ。その魔術師(ウィザード)は決まってすぐに退職届を出して、そのまま行方を眩ましてるの。今でも彼女たちの所在はわかってないわ」

 

その答えを知るのは、彼女たちに接触した彼のみ。士道はなんとなくそう予感した。

 

「少女を(かどわ)かして連れて行くところから、彼に<インキュバス>という識別名が付けられたわ。ASTでは正式に彼を精霊として対応してる」

「<インキュバス>……」

 

『夢魔』を意味するその識別名は、まさに的を射ているとこの場にいる3人は納得する。

 

「……そ、それで、俺はそいつともデートしなくちゃ行けないのか?」

 

どれだけ女性のように美しい見た目をしていようと中身は男。士道には同性相手では十香の時のようなデートができる自信はない。

 

「いや、今は彼に関する情報があまりにも少なすぎる。あまりにもイレギュラーな存在である以上、同じように扱うのは得策とはいえない。それに最近では姿を見せることがなくなって、その所在はまったくわかっていない」

「こっちの上層部も精霊かどうか疑っている以上、今は保留ってことになってる。だから特に攻略する予定はないわ」

「……そ、そうか……」

 

二人の話を聞いて、士道は内心でほっとする。

―――何故だか<インキュバス>の顔を見た瞬間、胸の内から気持ちの悪いものが込み上げてくるような錯覚を覚えた。

それが同性を口説かなければならないという嫌悪感からだと決めつけ、話を終えた士道は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

―――数日後、創世重工のオフィスには、賑やかな話し声が飛び交っていた。

 

「社長!これはどうしましょうか?」

「ん?あぁ、それはやれるところまでやったら博士に回してくれ」

 

若い女性が指示を(あお)ぎ、零が適切な指示を出す。

 

「―――社長!私はどうしたら……」

「君はこっちの仕事を頼む。終わったら俺に教えてくれ」

 

部屋にいる10人近くの女性に指示を出すと、零は一番奥の席に腰掛ける。

彼女たちは零が他の組織から引き抜いてきた魔術師(ウィザード)で、創世重工の社員である。

異性を対象に霊力を送り込み、自身に隷属させる。これこそ零が持つ天使、<淫導賢者(タブリス)>の能力(ちから)だった。

 

「―――しばらく見ないうちにずいぶんと立派になったわね。先輩魔術師(ウィザード)たちに感謝しないと」

 

志保がコーヒーの入ったカップを手に、零の隣に座る。

 

「あぁ。本当にいい()たちばかりだ」

「社長の人を見る目は確かだからよ。これでここの留守を任せても安心ね」

 

カップに口を付けながら、懸命に仕事をする社員たちを見守る志保。

 

「そうだな。これでいつ空間震警報が鳴っても―――」

 

 

 

ウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――――――

 

 

 

零が言いかけた矢先、タイミングを見計らったかのように空間震警報が鳴り響く。

 

「……さっそくね」

「あぁ。……それじゃあみんな。行ってくる」

 

零が席を立つと、社員たちは一斉に立ち上がり―――

 

『―――はいっ!頑張ってください!』

『どうかご無事で!』

 

笑顔で二人に激励の言葉を贈る。

そんな彼女たちに二人は手を上げで応えながら、颯爽とオフィスを飛び出していった。

 

 

 

 

 


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