DATE・A・LIVE The Snatch Steal   作:堕天使ニワトラ

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勝利のための下準備

 

それから次の日、零と志保はオフィスで昨日の<ハーミット>の情報を纏めていた。

 

「……やっぱり」

 

モニターに表示されている観測機の情報を見て、志保の目付きが鋭くなる。

<ハーミット>がデパートを飛び出した瞬間、ASTが一斉に攻撃を仕掛けた。

その拍子に天使がパペットを落としてしまい、そのまま消失(ロスト)する。

そのパペットは偶然それを見つけたASTの隊員が拾い、そのまま持ち帰るのを確認した。

 

「隊員の名前は鳶一折紙(とびいち おりがみ)。階級は一曹。ASTの中でもエース的存在で、学校でも成績優秀かつスポーツ万能。おまけにあの五河士道と同じ学校で同じクラス。……狙ってるのか?」

 

調べ上げた隊員の情報に、零は面倒臭そうな表情をする。

まるで彼がすべての中心にいるような、偶然という言葉では片付けられない『何か』を感じた。

 

「それじゃあ行きましょうか。目的のものをいただきに」

「あぁ。敗けっぱなしは趣味じゃないんだ。今度は俺の番だ」

 

ようやく回ってきたチャンスに胸を踊らせながら、二人はオフィスを後にした。

 

 

 

 

 

そしてトラックが停車したのは、パペットを持ち帰った折紙の自宅があるアパートの駐車場。

 

「さてと、彼女の部屋は……」

 

端末を起動し、部屋の何処かにあるであろうパペットを探す。

 

「……ん?あれは……」

 

隣でその様子を見ていた零は、窓の外を歩く士道を視界に収める。

士道は零に気づくことなく近くを通り過ぎ、アパートへと足を踏み入れた。

 

「……どうやら目的は同じみたいだな。博士、悪いけど急いでくれないか?」

「りょーかい。場所さえわかれば……」

 

モニターが折紙の部屋を見つけると、スキャニングをかけてパペットの在処(ありか)を調べようとする。

 

「……あら?何かしらこのノイズは……?」

 

まるで志保を妨害するように、モニターの情報にバグのようなものが入る。

 

「ジャミングか?……まさか俺たちに感づいたなんてことは……」

「いえ、これはあの部屋だけに取り付けられたものよ。たぶん私的なものね。……けど、この程度なら私の『魔法』にかかれば……」

 

志保はコキコキと指を鳴らすと、端末から別のプログラムを起動する。

するとジャミングは数秒で取り除かれ、部屋の詳細な情報が表示された。

 

「わぉ。さすがは博士」

「これくらい余裕よ。……見つけたわ」

 

折紙の寝室にあるタンスの上に、飾るように置かれているパペットの姿があった。

そして志保は両手を目の前に伸ばすと、途中から消えたように腕が見えなくなる。

 

「あいかわらず大したもんだな。博士の空間転移能力(・・・・・・)は」

 

零は感心するようにその様子をじっと眺める。

そう、志保はこの場所から折紙の寝室との間に、別空間を経由する亜空間のトンネルを作ったのだ。

これにより瞬間移動のように何処でも移動でき、物質を運ぶことが出来るのだ。

 

「私が一緒にいてよかったわね。……取れたわ」

 

志保がゆっくりと腕を引き抜くと、その手には大事そうに抱えられた<ハーミット>のパペットがあった。

 

「これで目的は達成ね。あとは……」

 

パペットを後ろ側に向け、取り出した裁縫バサミでパペットの繋ぎ目を少しだけ開く。

そして小型の装置を内部に仕込むと、縫い針と糸で元通りに縫合した。

 

「……はい。やれることは全部やったわ。あとは社長とこの子の頑張り次第ね」

 

志保はパペットを零に手渡しながら、トラックの後部を見る。

 

「あぁ。出来立てホヤホヤの秘密兵器―――<オルトロス>の力、見せてやろうじゃないか」

 

パペットを受け取り、万全の状態に胸を踊らせる零。

狙ったように空間震警報が鳴り響いたのは、その数分後のことだった。

 

 

 

 

 

ASTが出動してから数十分後、町中では<ハーミット>対ASTの戦闘が行われていた。

 

「―――どうするんだよ琴里!よしのんが見つからなかったのに……!」

『取り乱してんじゃないわよ!……こっちで何とか手を考えるから、士道は四糸乃の元に向かいなさい!』

 

インカムで琴里に指示を仰ぎながら、士道はあちこち凍りついた町を走る。

<ハーミット>、四糸乃の大事な親友のパペット、『よしのん』を取り戻しにAST隊員である折紙の自宅を訪ねたのはいいが、『よしのん』を見つけることが出来なかった。

その最中に空間震警報が鳴り、折紙が出動したことで探す暇がなくなってしまった。

 

「くそっ!このままじゃ四糸乃が……!」

 

どうか無事でいてほしい。切実な願いを胸に秘めながら、士道は戦闘が行われている地点へと走った。

 

 

 

 

 

「わぉ。すごいことになってるわね……」

 

建物の影から見える光景に、志保は驚きの声を洩らす。

<ハーミット>は自分に向かってくるすべてを拒むように、ドームのような形状の結界を展開した。

 

「さっき随意領域(テリトリー)を氷付けにするのが見えたけど、まさかあれも……」

「でしょうね。さっそく出番が来たわ」

 

志保は待ってましたとばかりに端末を操作する。

するとトラックの後部ハッチがゆっくりと音を立てて開く。

そして中から機械の駆動音を響かせながら、全長2mを越える巨体が姿を表した。

二つの頭部にそれぞれ赤く発光する単眼を持ち、両腕には鋭い鉤爪、尻尾の先の蛇の頭部を模したアーム。

そのあまりにも異質な形状は、獲物を狩るために生み出されたことを体現しているかのようだった。

 

「さぁ、記念すべき初仕事だ。頼んだぞ、<オルトロス>」

 

零が<オルトロス>の肩を叩くと、<オルトロス>は小さく頷く。

そして<ハーミット>が閉じ籠っている結界の方を向き、胸部の獣の顎を模したハッチを展開する。

するとその内部に隠されていたスピーカーのような部分が露になり、そこが高速で振動を始めた。

 

「霊力に真逆のエネルギーパターンを送り込み、その効果を無効にする『反霊力波』。……さて、たっぷりとデータを取らせてもらいましょうか」

 

説明するように呟きながら、志保は<ハーミット>の結界へと向かっていく零と<オルトロス>の背中を見送った。

 

 

 

 

 


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