この世界で 生きていく   作:坂津眞矢子

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第2話 ~日常からの非日常~

 中高一貫の女学園から、これまた中高一貫の女学園に引っ越してくるというのも、珍しい存在なのかもしれない。

 ただ、それだけだ。特にスポーツが並外れて出来るわけでもなく、特に成績優秀というわけでもなく、特にコネクションがあるわけでもなく、特に容姿に優れているというわけでもない。一般兵AとかBとか、そんな程度。前向きに言えば、なんでもそれなりにこなせる中の上、万能型、とも取れなくもないけれど。

 わたしは至極一般の女子高生であったはず。なんだけど。

 

「何がどうしてこんな事に……」

 

 なんの因果か、何故かロリに懐かれた。

 

 

――――――――――――――――――

――――――――――――――――――

 

 

「先輩、これはどうでしょう?」

「うん、いいわね」

 

 まだまだ残暑が厳しい二学期が始まって三日目の事。茶道部で使うお茶を見繕うため、動ける部員みんなで街に出向くことにした。折角だから、茶道部御用達のようなお店で、高等部も中等部も関係なく、茶道部みんなでわいわい直接買い付けに……という、このミニイベントは結構楽しい。お店にも顔を見知ってもらえるし、引退間近の三年生や、わたしたち二年生が抜けた後で受け持つ事になる一年生以下にはいい経験にもなる。こうして、若干緊張しながらも目を輝かせている一年生達の、そんな初々しい姿は、店員さんたちにとっても覚えが良いというものなのだ。

 

「さつきさんは、どれかお好みありますか?」

「ひゃわっ!? え、えっとぉ……」

 

 初々しい一人に声をかけて、友がポンポンと肩をなで、もうひとりが頭をなでて、そんな後輩いじりを楽しむのも二年生の務め。

 

「あ……青が、その、す……好きなんです」

「ふふっ、そうなのね。じゃ、これを2つ下さい」

「……やりますね……」

「やり手よねー」

 

 2つ、という辺りに、わが友もやるなぁ、などともう一人の友と感心しつつ、後輩ちゃんとのお揃いを狙った友を賞賛する。こういう機会は活かさないとダメよ! と、ウインクする件の友は、狙っていたであろう後輩ちゃんに、間接的ながら今ので想いも伝えられたためか、心なしかキラキラしている。しかし、緊張しつつも首を傾げて、なんで2つなのでしょうか? のポーズな当の後輩宇田(うだ)さつきさん。伝わってない辺りが我が友らしくて運がない。この後きっと、いろんな事が起こるんだろうなぁ……と、少しの応援と少しの同情。沙姫(さき)さん変人だし。エロいし。

 

「夏のイベントでは不発だったのかしら?」

「夏に見初めたかもしれませんね」

「まぁ、確かに郊外に出るイベントまでは少ないし……」

「そういう時を逃さないあたりは、らしいですね」

 

 イベントが何かと多めの学園。購買施設やらも近くに数多あるので、学園都市、と言えば良いのだろうか。寮住まいの生徒ともなれば、勝手知ったる学園周辺を少しうろつくだけで、あれもこれもそれもどれも事足りる。ややともすれば内に篭もりがちなお嬢様が生産されやすい傾向になるというわけで。茶道部というもろ文化系な篭もる系な部活ならば、尚更その傾向が強くもなる。むしろ、帰宅部の方が持て余した時間をあれこれ費やせるために、活動的になったりもしたらしい。

 

「じゃ、今日はこのままあそこの公園でやっちゃう?」

「そうねぇ……折角の郊外だし、そうしましょうか」

 

 傘下企業先への斡旋やらも含めて、この空の宮市に住む人たちは、街の外に出向いてまで何かしようとする事が少ない。内向的になるのは良くない、という意味で、こうしてわたし達はあちらこちらと出かけるイベントを設けている。

 尤も、遠出と言っても結局は空の宮の街中で済ませるあたり、そこら辺はまだまだお嬢様気質。わたしも例外ではなく、お茶を点てるためだけに千利休の縁の地まで行ったりする行動力は、わたしにはまだない。

 

「そのうち、海岸の松の木の下で、お茶立てたりもしてみたいわね」

「あ、凄く風流ですねそれ」

 

 その行動力がある現部長、冷泉今日風(れいせんきょうか)先輩は、なかなかにアグレッシブでもある。

 

「器にもこだわりたいわ~」

「そこまで行くと、財力がね~お財布すっからになっちゃうわ」

 

 最近は落語や華道等、文化系の部活も人気が高くなっているとは聞いた事がある。担任の、私が子供の頃は~云々のお話では、みんな運動系と音楽系に集まって、他は二、三人程度というのが常だったらしい。茶道も例に漏れず、細々とした活動に留まっていた。

 

「海? ですと……県外に出る感じですか?」

「ええ。合宿ではなく、日帰りでパパっと、ちょっとした遠足のような部活動もいいと思うわ」

 

 休みの日でないとキツイけれどね、と苦笑する部長。ほわほわと、柔らかくなんでも包み込むオーラを纏いつつも、大胆な行動力と決断力と変な方向に富んだ方らしく、考え方一つとっても、只の内向的な文化系生徒とはかけ離れている方だ。

 

「公園や学園内の屋外でもいいのだけれど、そこからもう一歩、進みたいわ」

「その理論だとその内海上でー、とか、宇宙空間でーとか、言い出しそうね」

「宇宙、ね。副部長の案も頂きましょうか」

「ははっ、何時叶うかなー」

 

 副部長と部長、先輩二人の軽妙な掛け合いに、わたし達二年も一年も中等部の娘もつられて笑う。きっとこの二人は、こうやって馬鹿話序にいろんな物語を組み上げてきたんだろう。昔も今も、そしてこの先も、どこかでずっと紡いでいくんだろうな。

 

「わたしは部室でもいいと思うのですけれど」

「まーためぐは引きこもりたがる~」

「残暑の日差しが苦手なだけですっ」

「お外に出ないと。唯でさえあたし達こもりがちになっちゃうんだからさ!」

「茶道部って基本そうだと思いますけれど」

 

 みんなそれ込みで入部したと思うのだけれど、どうも慣れてしまえばみんなそういうのは遠くへ吹き飛んで、現状に満足しない、年相応の欲求不満が顔を出す。自然にはわりと恵まれている部室ではあっても、そこだけに留まらず、あっちこっちに行きたがる。

 ……まぁ、わたしもこういう遠出を現在進行形で楽しんでもいるので、屋外でお茶を点てるだけが嫌、とは強くは言えない。

 

「恵は相変わらず相反性格持ちよねぇ」

「しほーだらしーよねー」

「らしいってなんですか、もう。当たり前のこと言ってるだけですよぅ」

 

 部長がぽんぽんと柔らかく叩き撫で、副部長がわしゃりわしゃりと髪を弄り、それに応えるように、ほっぺをぷくーとふくらませるわたし。お二人のわたしの扱いは一年経っても相変わらず、なんだか小動物のような接し方になるので、少し反発心も芽生えてしまうのだ。それが可愛いらしいので無駄な抵抗なのですけどね。おのれ。

 

「しほー先輩かわいいですよね」

「可愛くないです」

「めぐはえくぼで人殺してくるからね。ホラ、一年も中等部も! 見ちゃダメよ! 犯されるわよ!!」

「ちょっ……茶屋でなんてこと言いやがりますか! おら沙姫さん!! 待ちやがれですー!!」

 

 そのまま友をお店の外まで追いかけ回してとっ捕まえて、きゃー身体だけはーなどと元気に笑顔でほざく友にチョップをかましてから、お店の人に二人でペコペコ平謝りして、店員さんに笑われながら茶葉一袋のサービスまで頂いて、更に一礼。犯さねーですよ!!

 一部始終を見ていた三年二人に、あれが茶道部漫才よよく見て学んでおきなさい、とか、ああやって一人だけ一段と顔を覚えられようとする策士だからしほーだには気をつけるのよ! とか、ああやって茶葉をタダでせしめようとする魔女なのよしほーは、とか、はーいっ! とか、あのお二人出来てるんですか!? とか、百合っぷるなんですかーっ!? とか、鷹野(たかの)先輩とは違うんですか!? とかろくでもない言葉も聞こえる。おめーらですね。ちょっとそこでまってやがれです。学ぶんじゃねーです。捏造すんなです。

 

 

 

「めぐ痛い」

「気のせいです」

 

 たんこぶだらけの親友、源沙姫(みなもとさき)を横に、くすくす微笑む親友鷹野美沙(たかのみさ)を正面に、のどかな公園で部活動開始。のどかです。睨んでくる友が居ますがのどかなんです。

 少し広めの、草原が広がる公園で、シートを敷いて、お湯を沸かし、その間に一式整え、外でのお茶を堪能する。慣れたもので、最初こそ、慣れない上に気恥ずかしさもあって手間取りもしたものの、わたしも一年生も、こんな屋外活動にもだいぶ抵抗なくなってきたものだ。

 

「こうして、こうやって……あ、そこはもう少し」

「こう? ですか?」

 

 中等部の娘が一年生に訪ね、一年生がぎこちなく、こちらをチラリチラリ確認しながら教えている。それを横目に、頷いたり首をふりふりしながら、二年生三人で、まったりと部活を堪能する。

 

「皆を見ますと、流派統一……は、やはり来年も暫くしない方が良いですね」

「そうねーいろんな型が見られるし、可能性を潰すのはサキちゃん反対です!」

「でも指導がその分大変なのも難点よね。やりがいがあると言えば聞こえはいいけれど」

 

 三年二人がお金と茶葉の管理の為に、一旦学園に戻っている間は、わたし達三人が今のトップなので、今後をよく決めておく。じきに指導する側なのだ。こうして屋外の行動だったりも全てわたし達が担う事。ちゃんと把握しておかないと。

 

「美沙さんは自信がないですか?」

「う……そんなこと………は、ある……」

「わたしもないですよ。沙姫さんだってそうでしょう」

「そりゃあねー、#三斎流__さんさいりゅう__#しかあたし知らなかったからさー」

 

 だからみんな違う、それでいいじゃない。と、三斎流の家元出身のわが友は、笑顔でわたしの変な我流茶を堪能する。

 

「名字のようなもんだし。統一していいものも悪いものも出てくるからね」

「名字、ですか…言い得て妙、ですね」

「でも確かにそうか。気負いすぎてたかも」

 

 もうじき引き継ぎの時期に差し掛かるだけに、この手の話題は最近増えてきている。いざ引き継ぐとなると、気楽そうな沙姫や堅実な美沙でも、色々不安を覚えるのだろう。

 

「わたしの持論ですが、抹茶を溶いて、飲む、ですから。あーだこーだ細かく別れても根っこはそこですし……」

 

 一人ひとりが違う、名字。言い得て妙。大本の家名の意味は持っていて、それだけで良い。

 

「今に合わせて、求める精神論の方は変化して当然でも有りますね」

「おー……」

「うんうん……」

 

 尤も、例えに出てきた家名。わたしの家名は結構適当な変化をしたわけでもあるのが……また、なんとも皮肉で。

 

「変えるのも、無くなるものが出るわけですからね。沙姫さんの言う通り、すでにあるものを捨てさせるのはわたしも反対です」

 

 先輩達が良く言う、四方田は年の割に保守的な一面がよく出てくる、のは、わたしの家名の影響もあったからかもしれない。

 

「前向きな後ろ向き……かな? ふふっ」

「相変わらずのめぐだよねぇ」

「もう。当たり前のこと言ってるだけですよ」

 

 くすくす笑いながらも、わたしの提言を微笑んで受け入れる二人に微笑むわたし。わたしも二人も分かっているのだろう。このままバラバラの流派だらけでは各自の技術向上には限界があると。かと言って、今すぐに統一流派を決めるには、専門知識が不足している上に、懸念事項の、各々の特性を捨てさせる事になる。茶道全般の部活であって、○○流専門部、ではないのだから。

 

「今暫くは、ですよ。自由の中に一本筋を通せる方法。絶対ある筈ですからね」

「うんうん、先生にも改めて相談しよー!」

「先輩達にもね」

「では改めて、われらの代の方向性はこれで決まり! という事で、お一つどうぞ、めぐ姫さま」

「だーれが姫ですか。沙姫さんこそ姫じゃねーですか」

 

 くすくす笑いながら、部員みんなでお茶菓子タイム。よもぎ団子。

 

「……」

「どーしためぐー?」

「いえ、なんでも」

 

 ちらりと過ぎった自身の名字を想いながら、一口さくりとふにっと頂き……

 

「……どうしました?」

 

 二口目をついっと、その視線の先に向け、ハッとした表情で此方に慌てて向き直る一人の女生徒。この娘は……確か、中等部の(つなし)さんだ。その空いた彼女の口を逃さず捉え、そのままお団子をついっと入れて塞ぎ、片手で頭を撫でて告げる。

 

「ん、いいですよ、このまま貴女のと交換しましょうか」

「ふぁ……ひゃい……あひはほうごはいまふぅ~……」

「めぐろりこーん」

「恵ぃが手篭め作戦だなんて……なんていやらしい」

「うるさいです」

 

 いやらしい言うな。あどけない顔で目を輝かせて、じぃーっと終始見つめられては、わたしもすんなりおちますよそりゃ。わたしと言うよりお団子見てた気もしますけど。あ、でも今はわたしをビシっとまっすぐ見つめてますね。まん丸な瞳で大きく見開いて、お団子をもくもく咀嚼しながらもわたしをまっすぐ……あ、あれ? おだんご足りませんか? そんな見つめられても、後はこの交換した八つ橋しか無いですよ?

 ……このハッカ味食べさせたらどうなりますかねぇ泣き叫んだりしますかね? ……って、やりませんけど。そんなキラキラした顔を向けられると、悪戯心が湧いてきてしまうんですよね。

 

「ゲストの最年少を落とすとはめぐもやり手よねぇ」

「ねーほんとにねぇ」

「おやつ譲っただけでカップル扱いする方が異常ですってば。ささ、十さんも、飛び入りだとて遠慮なさらずに」

 

 さらりと皆を見渡し、軽く頷き気を楽に、と、再度促す。遠慮がちな中等部や一年生に加えて、部活メンバー以外にも、この眼の前の十さんの様に飛び入りやゲスト参加している人は今日もいる。

 というのも、先の通り、どうあがいても文化系の弱小部であり、結局の所部員不足は否めないのが我が部活。常に興味ある人募集中! なのだ。ソフト部や陸上部など、レギュラー張るには年度の最初入部が命! のような部活でもないので、興味が薄い、のんびりするために来る人でも歓迎している。

 

(尤も、それが技術向上の妨げになってる気がしないでもありませんが)

 

 興味がない、のんびりしたいだけ、お茶菓子欲しい、で居座られても予算と技術の圧迫になるので困るので、こうして企画には必ず参加させてもらっている。興味をそこで持ってくれれば良いし、そのまま入部までこぎつければ御の字。興味がない人は企画に参加しない時にバッサリ切り落せばいい。

 

「こ、こんな外でなんて予想してた茶道部と違いまして……」

「ね。なんか失敗したら殴られるとかそういうのちょっと心配してました」

「まぁそういう勘違いも良くある事だわ。つまりだな後輩達……世の中予想通りっていうのはね! そうそう起こらないものでもあるのよ!」

 

 誰かの呟きに微妙な独特のニュアンスで反応する我が友の言葉。そうかなぁと思いながらも理解は出来る、前向きな後ろ向き系の、その言葉。それに少し動かされたのか、わたしの前で固まり気味な十さんがピクリと僅かに動き出す。

 ……と同時に、その表情が目まぐるしく変化して、フルリと震えて

 

「……あっ。あーっ!? まっまた食べてるぅ……!」

「そうですね、食べちゃいましたねぇ」

 

 少し大きな声で自身の行為を反省する彼女。もぐもぐ咀嚼してた間中、何かに囚われていたのか、わたしがお団子を突っ込んだことすらも忘れている様な、十さんの驚愕しきった表情でのこの発言は、少しだけ気になった。

が、そこは敢えて無視して、少しだけいじりながら微笑みかける。

 

「まぁまぁ良いではないですか? 十さんは痩せてますし……もう十本ほど食べても良いのですよ? 十さんですし」

「だっダメ! そんなに食べたらカロリーが……」

「知ってますか十さん、和菓子はいくら食べても太らないんですよ」

「いやそれ絶対ウソですよね!?」

「はいウソです」

 

 ズルっとすっ転けそうになる彼女を片手で支え、それに周りがおかしそうに笑う。いいですねオーバーリアクション。初々しくて可愛いです。

 

「なっなんで嘘つくんですか先輩!」

「今日は泥棒しちゃいましたからね」

「そーなんだ?」

「そーなんです」

 

 会話の間に割って入る沙姫が、おや? と訪ね、短く肯定。嘘つきは泥棒の始まり、ということで、わたしは泥棒をした時はウソをつくことにしている。尤も、泥棒と言っても合法的に好意で頂いたものではあるけれど、わたしの中ではスッキリしていないのだ。故に、ただの自己満足。

 

「恵ぃもホント変わってるわよ」

「めぐは自覚がないだけ質悪いわよね」

「そこまで変わってはいないと思いますけどね」

 

 その自己満足を満たす序に、固まり気味な十さんや新人達の緊張やらもほぐれるならば、それに越したことはない。わたしをダシに、ちょっとでも興味が増えたり楽しんでもらえるならば、今日の部活はそれで良い。

 

「……泥棒したんですか先輩?」

「けじめが付いてないだけですよ。窃盗とかではありませんからご安心を」

 

 目の前の茶髪の少女が、怪訝そうに訪ねてくるのを、さっぱりと否定し、お茶をもう一度。さらりさらりと粉を落とし、お湯を少しづつ入れながら溶いていき……

 

「そう、ですか……」

「ええ、基本犯罪はダメですからね」

 

 日本茶独特の、爽やかかつ芳醇な香りがわたしと彼女を包み込む。

 

「ですが、先の通り、サキの通り、です」

「?」

 

 ちょこんと首を傾げる十さん。

 

「予想外は、良くあること、ですからね」

「……」

 

 そのまま、終始首を傾げたり唸ったりするままの彼女をそのままに、出来上がったお茶を彼女の前に、とこっと差し出し。

 

「では、本日はこれで最後です。終えたらお片付けに入りますよ」

「あっ! ……はっはいっ!」

 

 正座して、彼女が飲み終わるのを待つ。おずおずと、おっかなびっくり茶碗を持つ、震える両手が愛おしく可愛らしい。とても自然体で、気取らない。まっすぐ見つめた先の瞳と同じように、真摯に取り組むその姿。

 

(こういう所に、さびを感じるのも邪道なのかなぁ)

 

 わたしは、茶道というより自然体を愛しすぎているのかも、と、文化系に属していながら、肝心の文化面を丸投げしてる事に気づき、クスリと苦笑い。

 

「わわっ、な、何か間違えましたか?」

「いえいえ、大丈夫ですよ、寧ろそのまま、そのままの貴女でいて下さい」

「ほぇ………え、えへへへ………は、はい……っ!!」

「うわぁめぐってば真正面で口説いてる……」

「教練にかこつけてなんていやらしい……」

「あれだよねー中学生だからこういう機会に手篭めにしようとしてるんだよね!」

「少ない機会を逃さない……か。恵ぃはエロハンターだわ」

「ちげーです! わびさびです!! ハンター言うな手篭め言うなです!!」

 

 わびもさびも茶道も吹き飛ぶ様な締めを終えて、クスクス笑いながらみんなんで仲良くお片付け。結局わたしがダシになった恰好ではあったが、外での活動が好評の間に終わるのは好ましかった。とにかく部員確保は常日頃の課題なのだから。変なイベントでつまんねーやーめた! とか、外で晒し者になるだけじゃんやーめた!! に、なったら、折角目の前の十さんとか初参加な人達を集めておいて目も当てられない結果になる。序に任された格好のわたし達二年生三人が三年二人に目も当てられない姿にされる。まぁそれはそれで話のネタにはなるかもしれないけれど、客寄せのダシになるのも程があるのでそこまではやりたくない。それのそういう外観で目立つ系の惹き付け役は、今日来てない京子(きょうこ)の分野だ。

 

「源先輩、片付け終わりました!」

「OKOK上出来よ! えらいえらい! さつきには飴ちゃんあげようねぇ」

「わ……わーい……」

 

 元気よく作業終了を告げた後輩のさつきさんに、サラリとした笑顔で食べられないハッカ味をわざと渡す辺りは沙姫らしいなぁ。これもまた、フラグ構築ってやつなのかもしれないけど、あんまり弄ると嫌がらせになる気がする。

 でも、引きつりながらも照れながら受け取るさつきさんは、他の一年生や中等部の娘達にしっかりニヤニヤきゃいきゃい野次られてる辺り、満更でもない様子。さつきさんも沙姫も、凸凹な性格ながら、双方わりといい感じにも見えてくる。

 

「しっかし部長達結局来なかったねー?」

「お金管理終えてからすぐ戻って来るはずなんだけど」

 

 トップが二人揃って来ない。トップが二人揃ってサボり。超人クラスではないにせよ、普段からそんな事をしない先輩達なので、この唐突なサボり不在展開は流石に気をもんでしまう。

 

河瀬(かわせ)先輩あたりに捕まってるのかも?」

 

 と、美沙がはたと気づいたように語る。ああ、その線はありうるな、と、わたしも沙姫も少し納得もする。部長もやり手だし色んなイベント超大好き人間だし、副部長もノリと勢いじゃ部長以上に真価を発揮するし……此方は此方で二年生が三人いるし、丁度指導練習にもなると考えて、此方側を放置した可能性は高い。

 

「ならばあのお二人の事、流れで部活は我らに任せるつもりになったのでは?」

「だったら、そういう連絡はちゃんとして欲しいなぁ。まーったく」

「沙姫がゆってたじゃない。予想外ってよく起こるんでしょ?」

「そーだけどさー」

 

 ぷくーと膨れている沙姫には、おずおず慰める一年生が二人ほど付き添う。うち一人は彼女が狙っていた、さつきさんだ。

 

「爆発しろ」

「爆発しろ」

 

 ひとまず余りもの二人で定番の呪文を唱えつつ、学生寮暮らしのみんなを伴って学校まで帰還する。寮以外、もしくは外に用事がある娘はこの場で解散という流れだ。数名がぺこりとお辞儀をしたり、ありがとうございましたー!と元気よく出ていき、ぱらぱらと街中に繰り出していき、十さん(ぎゅっ)も…

 

  ぎゅっ?

 

「……」

「十さん? どうしました?」

「も~ちょっとおねーさんと一緒にいたい!」

「………は、はい?」

「爆発しろ」

「爆発しろ!!」

 

 ええと、ぎゅっていうのはあれですね、わたしの腕を掴んで離さない十さんで、一人目の爆発が沙姫さんで、二人目の強め爆発が美沙さんですね。過激派なんですねぇ美沙さんは……ってそうじゃない。まとめるトコそこじゃない。

 

「えーと……あの、その……」

「よっし! 若いのお二人に任せて! おめーら学校戻るぞー!」

「えっあの……で、ですけど四方田先輩が……」

「いいのよあんなロリペドは置いてっちゃえ!」

「美沙さんがなんかはげしい!?」

「そろそろ身を固めなさいよーめぐもさー? にしし」

「いや、沙姫さんも待って下さい!? ちょっと!? いやいやいや!?」

「何が嫌だこのやろう! ペド!! ロリコン!!! 性犯罪者!!!!」

「美沙さんひどっ!?」

 

 なんか流れから同学年二人が率先して二人きりの時間というか雰囲気作りというか置き去りと言うかをしてくれて……置き去り? あれ?

 

「何がどうしてこんな事に……」

 

 そのまま本当に置き去りにされた。なんて事だ。特に美沙。さっきまで一緒に余りもの戦線を維持してたじゃないですか。いきなり裏切るなんて酷いじゃないですか。まぁ……でも、彼女からしてみたら、わたしの方が完っ全にひどい裏切りなのかもしれないけれど、身に覚えがなさ過ぎて若干呆然としてしまう。

 

「……ま、まぁ、いいでしょう」

「あ~良かった~……あの、先輩。ヒフミやモモが変なことしませんでした?」

「……?」

 

 ほっ、と、胸を撫で下ろすその仕草と同時に再度、じわりと感じた違和感。しかし、少しの間を置いて、再度、敢えて無視してそれに応える。

 

「ええ、大丈夫ですよ」

「ふふっ良かったっ」

「わっわわっ!? ちょ……ちょっと……? 十さん大胆ですね……」

 

 わたしの応えが望み通りだったためか、嬉しそうにぎゅむっと、わたしの片腕を抱き寄せ、くっつき、予想外の彼女のそれに、わたしも反応が遅れ、ととっと寄り掛かるような体勢になってしまう。つまりはお互いが支え合うような姿勢でぴったり密着したわけで……ち、近い!! 十さんが近いです!! そして遠くからは爆発四散しろー!! とか、美沙がこわれたー!! とか聞こえる気がする。聞こえてるけどあくまで気がするのです。気のせいです。幻聴なのです。

 

「ふっふふー。そっかそっか」

 

 心底嬉しそうな彼女の表情は、年不相応な、大人びた雰囲気を感じる。ちっちゃな先生みたいな、そんな雰囲気……・・・・・・んん?

 

「なんだーもーヒフミも偶にはいい仕事するじゃん?」

「ふ、ふむ? そうですねいい仕事をしたらしいですね」

 

 とりあえず、彼女は十さん? であってる筈……だ。見た目も同じ、わたしと同じくらいの背格好で、わたしと似ない明るい茶髪。瞳も……・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「十」

「っはい」

 

 二度見したわたしは彼女を真正面にくるりと回し、少しトーンを深く、低く、而して強く。雰囲気を大きく変えた彼女も、このわたしの変化には多少なりとも反応を見せる。

 

「十京、わたしを見て下さい」

「……」

 

 フルネームで呼ばれた彼女が見せる表情は、少し怯えが混じっている、ように見える。チクリと心が痛むのを感じた。

 ……それもそうだ。今日はじめて会う先輩に、二人きりにされて、なんだかウキウキしていた矢先に、直後にこんな強い呼ばれ方をされては堪らないだろう。わたしは何を警戒していたというのか。彼女なのに彼女じゃない、そんな何かをさっきからしばしば感じたのだけれど、その何かがわからない。直感なのに直感じゃない?

 ……いや、わからないままで、いいのかわたし? 今日はじめて会った後輩が、よくわからないまま、消えていくかもしれない、そこを、わからないままで済ませていいのかわたし? 好意を持ってくれているらしい娘を、そんな扱いでいいのかわたし?

 

(良い筈ないでしょうが…さ、じゃあまずは向き合わないと)

 

「んーよし」

「あ……あのー……」

 

 その手の知識は生半可。読み通りなら、とてもじゃないけど扱えない。けれど幸か不幸か、わたしには一般人よりもその手の知識は少しだけ長けている。少しだけ不安だけれど、こんな程度は序の口だ。同居人には一杯驚かされ続けているのだから、このくらいは予想内。

 目を見ろと言った張本人が至近距離で目を閉じて、頬をパシパシと叩く。これは彼女にはどう映っているのだろうか。それも併せて、もう少しいっぱいお話しよう。まずはお話。会話。

 

「続きは後にしましょうか」

「は、はぁ……あ、あのー本当に迷惑とか掛けませんでした?」

「大丈夫ですよ。可愛かったくらいですかね」

「……っ!」

 

 先制攻撃を一つ植え込んでおいて、思案する。彼女はわたしに好意的のご様子、ならば折角の二人きりだ、活用させて頂きますか。それに実際、彼女は可愛い。

 

「じゃ、街中にでも繰り出しますか? それとも静かな方が良いですか?」

「え、えっとぉー……静かな方がいい……」

「わかりました、では行きましょうか」

「は、はいっ!」

「さ、握って居て下さいね」

 

 手を握って繋いで、片手だけ繋いで握って、わたし達は歩んでいく。

 

「それにしても、何がどうしてこんな事に……」

「おねーさん可愛いから起きたことじゃない? あははっ」

 

 二度目の疑念は彼女の笑い声に包まれ、とろりと落ちて。

 

「……ふふっ」

 

 夏の終わりの暑すぎるこの日。わたしは言い様のない寒気に襲われていく――

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