一撃男、異世界転移。   作:N瓦

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CHAPTER0 - After

 

 

 

 

 

《1》

 

 ───保須市内のとある病院。

 

 

「兄さん!!」

 

 

 息も絶え絶えに、一人の少年が病室へと勢い良く入ってきた。規律正しく生きてきたようなその風格から判断するに大人びてはいるが、その少年はまだ中学生。

 そんな彼がどうして病院の通路を走ってまで駆け込んできたかと言うと───

 

 

「兄……さん」

 

 

 少年の親族である兄、プロヒーロー『インゲニウム』がヒーロー殺しの手によって大怪我を負わされたと母からの連絡が入り、学校を早退して急ぎ足で病院にやってきたのだ。

 病室には兄が寝ているベッドのそばで母の号泣が響き。当の兄は全身に包帯を巻き、呼吸器すらつけておりまさに瀕死という状況だった。

 

 

「ごめんな……天哉…心配かけさせちゃったなぁ…」

「そんなこと……っ!」

 

 

 彼は兄が寝るベッドへ詰め寄り、手を握る。その手は───多くの人を助けてきた()()()手だ。

 そんな少年を見て、手術(オペ)を担当したという執刀医から現状の説明をされる。

 

 

「天哉くん、先程お母さんにも説明しましたが、病院(ここ)への到着があと三十分から一時間ほど遅ければ失血して手遅れでしたよ」

「っ!」

「それほどまでにギリギリだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「ヒーロー……ですか?」

 

 

 医者から聞けば、スキンヘッドでヒーローのようなコスチュームをした二十代後半と思しき男が、大量に血を流す少年の兄をおぶって病院まで連れてきたのだと言う。

 さらに驚くべきことに───スキンヘッドの彼は、()()()()()()()()()()()()()()()()()らしいのだ。何人ものヒーローを屠っているあの(ヴィラン)を、わずか一撃(ワンパン)で。

 

 

「ヒーロー殺しを!?」

「うん………ほんとうに、あの人は強かった……」

 

 

 それほどまでの強者ならば少しは名が売れていいはずであるが……ヒーローに詳しいその少年も、プロヒーローである彼の兄も「スキンヘッドのヒーロー」など聞いたこともなかった。

 

 

「……だから俺は……その人に助けられちゃったなぁ……はは」

 

 

 曰く、少年の兄はそこでヒーロー殺しを直接、警察に連れて行くよう言ったのだが、ヒーロー殺しを倒した当の男は彼を病院へ連れていくことを優先しようとしたらしい。

 そこで折衷案として、そのスキンヘッドの彼がヒーロー殺しの手足を拘束。携帯で警察に連絡するに留めたらしい。

 

 

「いつか…お礼を言いたいな……」

 

 

 重体な自分を、では無くヒーロー殺しの捕縛を優先するよう言った兄、インゲニウム。

 

 

(───なんて、誇らしいんだ)

 

 

 医者によると下半身不随は必至らしい。それは、今後のヒーロー活動の望みは絶たれたということに他ならない。

 最期の最期までヒーローを張り通した兄を誇らしく思い、涙があふれるが───同時に、あまりの悔しさへの涙も流れた。

 

 

(俺は、ヒーロー殺しを許さない)

 

 

 それが、少年───飯田天哉が、最高のヒーローであるインゲニウムの将来を終わらせたヒーロー殺しへの復讐を誓った瞬間だった。

 

 

 

 

 

《2》

 

 ───場面は変わって、人気の少ない街の路地裏にて。

 

 

「ヒュウ…ヒュウ……なんなんだ、あいつは」

 

 

 包帯に顔を包んだ不気味な男───ヒーロー殺し、ステインが息を切らしながら、壁伝いになんとか歩いていた。明らかにおかしい呼吸音は、肺に肋骨が突き刺さっている証拠。

 偽りのヒーローであるインゲニウムを殺し、社会を正そうとしていた時だった。あのハゲの男が介入してきたのだ。そいつは「ヴィジランテ」を名乗った。ヴィジランテとは言わば、ヒーローの原点。それは見返りのない慈善行為そのものだ。

 その男は殺すには惜しい気概だった為、いつもの如く"個性"にて身体の自由を奪うに留めるはずだった。

 そう思って一歩踏み込んだ瞬間。自分の意識は消し飛んだ。原因はそのハゲの男なのだが、何をされたか全く見えなかった。文字通り、気付いたら意識を遮断されていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何人ものヒーローを殺してきたステインさえも見切れぬ神速の連撃。顔に一発、ボディに二発叩き込まれたことは負傷具合を省みれば推測できるが───何をされた?一秒にも満たないあの刹那に。

 

 何度頭の中で考えてもその答えには辿り着かない。

 

 意識を取り戻した頃には全身に走る激痛と、手足の拘束。自分を放置していたということは、インゲニウムを病院に連れていくことを優先したのだろう。路地裏では救急車は通れまい。大通りまで出るか、若しかすると直接運ぶ方が早いかもしれない。

 彼らは恐らく警察を呼んでいたのだろうが、まだ自分は捕まるわけにはいかない。死力を振り絞って拘束から逃げ出して来たというわけだ。

 今でもその痛みは続いている。しかし───ここで折れるわけにはいくまい。

 

 

(正しい社会の為に……)

 

 

 包帯の奥に隠された『ヒーロー殺し』の眼には、理想を叶えるための強い決意が宿っていた。

 

 

 

 

 余談だが、怪我の完治に一年以上。そして万全を期すまでにさらに数ヶ月かかった。そう───それは飯田天哉が入学した年、今から二年後の雄英高校体育祭の時期と丁度重なる。

 

 

(待っていろよ……世に蔓延る偽善者(ヒーロー)共)

 

 

 その期間『ヒーロー殺し』はすっかりと息を潜め、世間では死亡説すら唱えられていたという。

 

 しかし二年の時を経て『ヒーロー殺し』はまた動き出す。何故なら()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 ───残り、三人。

 

 

 

 

 

《3》

 

 時は少し流れ、現在九月一日。サイタマとジェノスは無事、プロヒーロー資格試験の受験資格を得ることが出来た。

 参考までに試験での記録の一部をここに記そうと思う。

 

 

* * *

 

 

 身体測定では、他の受験者の度肝を抜かせ、一瞬で戦意喪失させたのは記憶に新しいことだ。

 例えばサイタマ。

 

 

 五十メートル走、測定不能。(人の目や映像では追えないほど速いため「測定不能」扱い)

 

 反復横跳び、測定不能。(人の目や映像では追えないほど速いため「測定不能」扱い)

 

 遠投、測定不能。(ボールが認知圏外まで飛んだため、記録は実質「∞」扱い)

 

 握力、測定不能。(どの握力計を使用しても握りつぶすため、記録は実質「∞」扱い)

 

 etc…etc………

 

 

 これが彼の身体測定の結果。当然得点は三十五点満点であり、全ての項目で記録を更新した。

 また、ジェノスもサイタマ程ではないにしろ、全ての測定で規格外の数値を叩き出して満点だった。

 

 そのような流れで彼ら二人は順調に戦闘試験も終え、サイタマにとっての「鬼門」筆記試験がやってきた。サイタマはわずか一桁しか点数が取れずに……という訳でもなく。

 一ヶ月間のジェノスのスパルタが効果を発揮したのか、サイタマのマジ勉強───人生で初めての経験。ヒーロー活動の有無がかかれば、サイタマといえど本気を出すのは当たり前だ───が功を奏したのか三十点を得点した。因みに受験後にサイタマは、もう二度と勉強しねぇと漏らしていたという。

 

 総合成績だが───サイタマは九十五点(全体二位)。そしてジェノスが九十八点(全体一位)と二人とも圧倒的な成績を叩き出し、受験資格を得た。

 

 

* * *

 

 

 資格試験を終えていないため、未だヒーロー活動を許されていないサイタマはこれと言ってやることがない。今は自宅でマンガを読んだり、ゲームをしたりとダラダラしている。

 そんな時、ふと湧いた疑問をジェノスにぶつけた。

 

 

「資格試験まで一ヶ月だけどよ、ジェノスはなんでヒーロー目指してるんだ?俺はまぁヒーロー活動したいだけだけど、お前って特に目的無くねぇか?」

 

 

 前の世界にいた時は、狂サイボーグへの復讐という目的があった。そしてサイタマの指導により、S級でトップ十に入るという目標もあったが───異世界に来た今、其のどちらも無くなった。

 ───勿論、復讐心自体が消えた訳では無い。いつかはここに来てしまった原因を究明して、元の世界に戻り、復讐を果たしたいとは考えていた。概算して約七十億通りの"個性"も存在するため、異世界に跳ぶことも可能だろうと考えながら。

 話が逸れたが、ジェノスがプロヒーローになろうとしているのは意味があるのだ。

 

 

「先生、俺はサイボーグです。俺の身体のメンテナンスをしていただける者と、最低でもビジネスパートナーのような関係になる必要があります。その為にはまず、ヒーローとして一度注目を浴びておいた方が良いかと思ったわけです。今のところは、パートナーを得たあとは収入源としてヒーロー活動でもしようと考えています」

 

 

 ジェノスの現実的な考えにサイタマも感嘆する。この世界に来て完全に忘れていたが、言われてみればジェノスは全身サイボーグだ。

 

 

「へぇ……っつーか、お前よく考えてるな」

「サイタマ先生には劣ります」

(……こいつ素でこういうこと言うからなぁ)

「それはそうとメンテナンスを行ってくれる人を得た後は、公務員になるつもりです」

(……は?)

 

 

 次いで出てきた言葉は、さらに意外なものだった。

 ヒーローとして働いてる傍ら、二足の草鞋(わらじ)で公務員という職に就く。サイタマの虚を突いたジェノスの考えだったが、それもまた極めて現実的な思考だった。

 

 

「ヒーローである以上、いつ何が起こるか分かりません。俺はサイタマ先生ほど強くありませんので……そんな未熟な俺に不安要素がないと言えば嘘になります」

「お前は今まで何回かやられてるしな」

「ですので公務員かと」

「…………あ、あー、なるほど。まぁ、お前の考えはいいと思うぞ」

 

 

 ジェノスがなぜ公務員をチョイスしたのかも分からないまま、とりあえず理解した振りをして師匠としての体裁を貫くサイタマ。

 

 

「サイタマ先生なら分かってくれると思いました。教師ならばプロヒーローと兼業出来るらしいので、教師になろうかと思います」

「……おう」

 

 

 なぜ兼業するかすら理解出来ていないため、とりあえずここはスルーしてジェノスに全部喋らせる作戦に出た。

 

 因みにジェノスがプロヒーローと教師を兼業しようとしたかと言うと、単に収入を考えてだ。

 仮に。そう、例えば自身のパーツの一部が壊れ、ヒーローとして活動できない期間があったとする。

 ───その時に自分の生活費はどこから出す?貯金から、という考えもあるがパーツの修繕費にごっそり持っていかれれば、万に一つでもサイタマに世話になりかねないのだ。金銭面で。

 弟子としてサイタマに献上することはなんら苦でもないが、金銭面でサイタマの迷惑になることだけは避けねばならない。

 

 そのための副業だ。

 

 ヒーロー活動が出来なくても、公務員という立場ならコンスタントに給料が入るはず。そう思っての行動だった。

 

 

「と、とりあえずプロヒーローとして活動できるように、二人で受かろうぜ!」

「はい!!」

 

 

 結局ジェノスは兼業する意図を話すことなく(サイタマは理解していると思っているから)、サイタマは強引にこの話を終わらせた。

 

 

* * *

 

 

 この二週間後の試験で見事合格を果たし、二人はプロヒーローになるための仮免許を獲た。

 

 仮免を手に入れたヒーローの卵たち。今度は本免を手に入れるために、実際に活躍しているプロヒーローの元で一か月間の"実地研修"に取り組むのだが───その時に、サイタマとジェノスは対(ヴィラン)戦に於いて常軌を逸した戦闘力を発揮することは、また別のお話ということで。

 

 

 

 

 

 

 そして物語は次章へと続く。

 

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