駒王学園から飛び去った俺は英雄派の本部に帰る……前に少し寄り道をしていた。お、見えたぞ。あそこだ。
その場所に音を極力出さずに降り立つ。
「……ここに来るのは久しぶりだな」
ポッと一言呟いて、『姫島』の改札がかけられた玄関の前へと進んだ。
そしてインターホンを鳴らす。
ピンポーン!
「……あの人達は人間とは思えない力を持った俺を、人間として…義理の息子として見てくれていた」
俺は元々、生まれながらにATフィールドが展開することができた。そのせいか、周りの人からは気味悪がられて、とうとう俺は幼い頃に両親に公園で捨てられた。両親の事はATフィールドの影響なのか、もう何も覚えていない。犬や猫かと突っ込みたいのはわかるがこれは紛れもない事実なのだ。そこに偶然立ち寄ったのが、姫島家の…夫のバラキエルさん、妻の姫島朱璃さん、そして娘の朱乃ちゃんだ。もし朱乃ちゃんが捨てられていた俺に声をかけてくれなければ今の俺はいない。バラキエルさんは何故深夜の暗い時に俺がここにいるのか聞いてきたので説明すると、悲しい目で俺を見てきて家族に招き入れた……本当に嬉しかった、化け物地味た俺を招き入れてくれた。姫島家からの刺客が襲来した時、バラキエルさんが来てくれるまでATフィールドで足止めをし、息を切らして帰ってきたバラキエルさんが刺客達を始末してくれたよ。バラキエルさんから礼を言われた、これぐらい大したことではない。……でもそんな良い日も長くは続かなかった。
引き取られて数年。俺はある日、頼まれたお使い帰りの途中で教会の狂信者によって攫われてしまった。そして事の発端である聖剣計画の事件によって、とうとう俺は人間とは遠く離れた化け物となってしまった。
…正直、会うのが怖い。引き取られた時はまだ人間だと言えた。だが今の俺は人間の皮を被った完全な化け物だ。
でも………せめて挨拶だけでも。
そしてインターホンから懐かしい声が聞こえた。
『…はい、どなたでしょうか?』
…あぁ、この声だ。俺を本当の息子の様に抱き締めてくれた優しい声、間違い無く朱璃さんだ。
俺は震えながらも応える。
「…お久しぶりです。朱璃さん……いえ、母さん。渚カヲルです」
『……え?』
呆然とした声がインターホンから聞こえるとプツリと切れた。すると家の中からこちらに向かってドタドタと走って来る足音が聞こえ、目の前のドアが勢いよく開かれる。
ドアが開かれたと同時に見たのは、二年前と変わらず若々しい女性の顔だった。女性は震えながら言う。
「本当に、本当に…カヲル君なの?なら仮面を外して顔を見せて?」
俺は言うがままに顔につけていた仮面を外した。
「ッ!……本当にカヲル君、なのね?」
「はい。髪や瞳の色が違いますが、正真正銘、姫島家に拾われ家族になった渚カヲル本人です」
「……とりあえず家の中に入りましょう」
ゆっくりと家の中に入る。今のところは冷静を保っているが肩が震えていた。…当然だ。何年も行方知らずの家族がいきなり目の前に現れたのだから。
それに今の髪は銀色で瞳が赤い。元々は黒髪で黒い瞳だったんだが、エヴァシステムによって変化してしまった。だがそんな事を考えているのも束の間に女性……朱璃さんはようやく会えたというように俺を強く抱き締めた。
「良かったッ!カヲル君が無事でッ!数年前にあの人からカヲル君が行方不明になったって聞いた時は本当にショックだったんですよッ!」
「…すみません、今までご心配をかけて」
「いいえ、貴方が無事ならそれでいいのよ」
朱璃さんはまるで二度と離さないと表現する様に優しく俺を抱き締めた。
………………だが俺はその行動を裏切る言葉を発する。
「…朱璃さん、本当に申し訳ありません」
「?どうしたの?」
「また俺は、ここを離れる事になります」
「!?何でですか?」
いくら家族とはいえ、ここに長居する訳にもいかない。今の俺は禍の団英雄派、三大勢力を仇なす集団だ。こんな場面を見られたらバラキエルさんはともかく、朱璃さんや朱乃ちゃんに被害が及んでしまう。
「……正直に言いましょう。今の俺は貴方達の敵集団に入っています」
「!?そんな!何故貴方がそんな集団に入っているのですか!」
「俺を攫った集団から助けてくれた集団だから恩があるんです。それに俺はもう完全な怪物、化け物だ。……貴方達には大変申し訳無いと思いますが、そのような者が世話になる訳にもいきません」
俺は右腕をガトリング砲に変える。その様子に朱璃さんは口元を両手で覆っていたが俺の言葉を否定した。
「貴方は化け物ではありません!貴方は私達の家族なんです!たとえ貴方が自分を化け物だと思っていても私達からは貴方は人間なのです!」
「ッ!」
……何故だ?何故この人は俺みたいな醜い化け物を人間と呼ぶんだ?
だがそれを考えている時間は無い。先程、コカビエルとの戦いが終わったので朱乃ちゃんが帰ってくる筈だ。仮面の男の正体が俺と知られるわけにもいかない。
「今は時間がありません。また…また会える事が出来たらその時、答えを出しましょう」
朱璃さんが止めようと声をかけてくるが俺は急いで玄関前に戻り、光の翼…『理の翼』を広げて空へと昇っていった。
「……たとえ俺が化け物であろうと」
−−もう人間に戻れなくても、どうしようも無くても
「俺は、大切な人達を守ろう。それが『機会仕掛けの天使(エヴァンゲリオン)』の目的なのだから」
翼を羽ばたかせ、再び英雄派の本拠地を目指した。