暗い廊下を月の光が差し込み、その中を歩く。そして学園の中をキョロキョロと見回す。
『…もし、あのクソ信者に攫われていなかったら。今頃は朱乃ちゃんと一緒に学園生活を遅れていたんだろうな…やめだやめ、陰気臭い』
たとえば、とかもし、など今さら思ってももう遅い。もう過去は変えられない。そう考え頭を軽く振る。すると廊下に寄りかかっている人影が二つあった。一つは白龍皇、ヴァーリ……そして、もう一つが数年会っていない懐かしい人、アザゼルさん。
「お?お前がヴァーリが言ってた奴か。はじめまして、エヴァンゲリオン?いやリリンと呼んだ方が良いのか?それとも−ー」
『その二つの名は会談中に言って下さい…そして今は貴方の好きな呼び方で良いですよ、アザゼルおじさん』
「……はぁ。その呼び方、やっぱりお前なのか、カヲル?」
『ええ、改めてお久しぶりですね、アザゼルおじさん』
「ああ、久しぶりだなガキンチョ」
ガ、ガキンチョ…まぁ、小さい頃はそう呼ばれてたし、何より堕天使なんで年に天と地ほどの差がある。
「まずは謝らせてくれ……今まで見つけられなくて、本当にすまなかった」
『そんな……おじさんだって色々と立場があったんでしょう?そんな貴方が謝る必要なんて…』
「だが、そのせいでお前は人間ではなく怪物となっちまった…そして、何より朱乃を泣かせてしまった」
『!!……朱乃ちゃんは俺が怪物になってしまった事を知っているんですか?』
「ああ、アイツは顔を覆って泣いていたよ。『カヲル君が何をしたって言うの!?彼はただ普通の生活を送りたかっただけなのに!』ってな。…全く、総督でありながら情けない話だ」
『…』
…朱乃ちゃん、俺のために泣いてくれたのか。完全に怪物となってしまった俺のために…。アザゼルさんも堕天使の総督という大事な立場にいるというのに探してくれていた。
『……ありがとうございます、アザゼルおじさん。その言葉を聞いて、朱乃ちゃんがまだ俺の事を覚えていてくれているのがわかりました』
「馬鹿野郎、アイツはお前がいなくなった後でもお前が帰ってくるのを信じていたんだぞ?勿論、バラキエルと朱璃もな。なんでも中学高校共に男子からスゲぇ数の告白を断わったらしいぜ?自分には小さい頃から好きな男がいると言ってな……好きな男は恐らく、いや間違い無くお前だろうな」
『ハハハ、まさか…ね』
それが本当だとかなり複雑だ。俺にはもうジャンヌがいる、しかも一線越えてしまったし、それに子供のレイも。……実際はレイは俺のクローンだけどな。
「まあとにかくだ。積もる話もあるが、まずは会談をさっさと終わらせちまおう」
会議室のドアを捻って中に入るアザゼルおじさん。そしてその後に続く俺とヴァーリ。
中には堕天使勢力を除く全ての勢力が集まっていた。
「遅かったじゃないかアザゼル。何か問題があったのかい?」
「いや、オレの護衛を担当する奴が遅れてな。少しばかり説教していたのさ」
紅色の男性がアザゼルおじ…アザゼルに声を掛けてきた。恐らくこの人が魔王、サーゼクス・ルシファーなのだろう。そして隣にいるのが、セラフォルー・レヴィアタン。魔王派のカテレア・レヴィアタンが愚痴っていた人だ。逆隣にいるのは天使長ミカエル、確か天界にある『システム』の担当をしているんだったか?
にしても…確かに俺にとってはかなり痛い説教だったな。
「ん?そちらの仮面を被った少年も君の護衛かい?」
「ああ、そういやコイツの紹介がまだだったな。ほら、挨拶しろよ…あと旧名も、な?」
!オイオイ!そっちもかよ!……まあ、確かに今回明かそうとしていたんだが、遅かれ早かれの問題か。
『わかりました。はじめまして魔王サーゼクス様、各勢力の皆さん。俺はリリン、旧名を渚カヲルと申します。アザゼル様の護衛として来ました』
俺が旧名を口にすると悪魔勢力にいる朱乃ちゃんが驚愕した表情で立ち上がった。まあ、まさか自分達を助けた人物が探していた人物だなんて思わないよな。
「よろしくリリン君、なんでも私の妹とその眷属を助けてくれたそうじゃないか。この場を代表して礼を言おう、ありがとう」
「ソーナちゃんを助けてくれてありがとね☆」
『いえ、大した事ではありませんよ。偶々でしたので』
任務で来ましたなんて絶対に言えない。にして四大魔王の一人であるセラフォルー・レヴィアタンがこんなキャラだったとは…人生わからないもんだ。
「ふむ、見たところ、どうやら君が朱乃くんが言っていた人物だね」
『ええ、まあ訳あって別の名で動いていますけど』
「うん、よし。君は朱乃くんと一緒にいてくれ」
『!』
「サーゼクス様!?」
え!?いや!?いきなりそんな!行方不明だった家族と一緒にいろなんて!朱乃ちゃんも驚いて叫んでるよ!
『俺は構いませんが…そちらの方は』
「朱乃くん、君は彼と…」
「是非お願いします」
即答かよ。
「ではよろしく頼むよ」
『了解です』
「うん、ではね」
はぁ、まさか朱乃ちゃんと一緒にいろなんて。いきなり過ぎて参っちまうよ…。