The Rain Bringer Girl   作:うにうにうさぎ

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ソウルメイト

「はぁ~つまんないなぁ」

 教室の窓で頬杖をついて、織姫はため息をついた。

「朽木さん、せっかく現世に来たのに、ちっとも学校来ないし、黒崎くんもまた学校休んでるしぃ~」

 織姫は瞼を伏せた。

「美雨ちゃんもうすぐ帰っちゃうんだよね……」

 キュウ~…お腹から音がした。

「あれ!? 今の音ナニ!? これがストレス!? すごーい!!」

 1人で浮かれる織姫に、周囲は全員心の中で、それは昼休み前だからだとツッコミを入れた。

 

 

 放課後、美雨はABCokiesへアルバイトに行く。

 織姫は手芸部の部室に。

 織姫が入部した頃は手芸好きな女子と、スポーツや音楽で活躍出来ない男子が、女子の注目を集めようと最後の可能性に賭けて集う部だった。石田が1年生で生徒会長になった翌年から、石田目当ての女子生徒の入部が相次いだ。石田が部活に参加する日はぬいぐるみの修繕や人形の服作りを頼む人だかりが出来ていた。石田は正確無比の手捌きで、機械ミシンより素早く大量の依頼をこなしていた。

 

 全ての依頼が終わり、一息吐いた時は、空がオレンジ色に染まっていた。

 

「お疲れ様」

 人が捌けて、織姫は石田の前の席に腰掛けた。

 

「井上さんも何か修理?」

 石田が顔を上げた。

 眉間にしわがない。どこにでも居そうな物静かな高校生の顔。眼鏡の奥の理知的な瞳は優しい光を宿していた。

 本当に美雨に似ている。

 

 織姫は首を振った。

「ん~ん、ちょっと相談」

「……石井さんの事?」

 美雨が別の世界、別の時間から来た石田の娘だと、石田は全く気付かない。気付いてはいけない気がする。

 

「美雨ちゃん、もうすぐ帰っちゃうでしょう」

 織姫は瞼を伏せた。

「お土産……持たせてあげたいなぁって」

「お土産?」

「そう、お友達になった記念に」

「石井さんが帰ったら、僕たちから彼女の記憶は消えるんだよ。まして君は最初の日に彼女から命を狙われたじゃないか」

 石田は眼鏡のブリッジを抑え、空いた腕を組んだ。

「事情があったんだよ! 石田くんは美雨ちゃんに何か感じない!?」

「……なにを?」

 石田は本当にわからないようだった。

 織姫は胸の中でモヤモヤした熱がコポリと沸くのを感じた。何だろう、この気持ち。織姫は胸元に手を置いた。

 

「井上さん?」

「あ、うんん、なんでもない」

 織姫は石田の前に両手を振った。モヤモヤを、ぎゅっと心の奥底に押し込んだ。

 

「井上さん、石井さんに入れ込みすぎてない?」

「はて?」

「親戚の僕が言うのも変だけど、世界は違っても血縁者の僕より、井上さんの方がよほど彼女に近いみたいだ」

 石田はため息を吐いた。

「ヘンかな?」

「変……というか……なんだろう。井上さんが傷付く結果にならないか心配なんだよ。彼女が椿鬼を使役出来る理由、君に矢を向けた理由について明かしたかい?」

 織姫は首を横に振った。

「事情があるにしろ、殺すための矢を向けた相手と、殺そうとした理由も分からず寝食を共にするなんて、なかなか出来ないと思うよ」

 正論だった。

 織姫は言い返せる言葉がなくて俯くしかない。

 ごめん、言い過ぎたね。石田は謝罪した。

「井上さんの博愛精神、僕は好きだよ」

 博愛精神?

「ちがうよ、美雨ちゃんは、そーゆーのじゃないの。自分でもわかんない、理由なんてないのかも。ただ、美雨ちゃんが好きなの。一緒にいると胸があったかくなって、安心するの」

 織姫は胸元に手を当てた。美雨は確かに初めて会った日、織姫を狙った。でも、織姫を傷付けなかった。織姫に家に帰ったら手洗いとうがいをする習慣を教えてくれた。七夕生まれではない織姫に名前の由来を考えてくれた。織姫の味覚を尊重した上で、バランスのいい食事を用意してくれた。織姫より年下なのに、なんだか『お母さん』みたいだ。

 

「……ソウルメイト、ってやつなのかな」

 石田は眼鏡のブリッジを抑えた。

「転生するたびに繰り返し出会って助け合う、魂の腐れ縁みたいな存在のことだよ。生まれる前から信頼関係が完成しているから、初対面なのに古い知り合いみたいな気分になったり、すぐに意気投合して仲良くなる。家族や親友、未来の結婚相手なんかに多いらしいよ」

 初対面なのに意気投合……織姫は真っ先に目の前の少年が思い当たった。

 

 知り合ったばかりの頃の石田は、親元を離れ、一人で滅却師として虚と戦っていた。

 殆どの人間には知覚さえ出来ない虚と戦うためか、気配を常に薄くして、そうでない時間は、自分は1人だとアピールするように、人を寄せ付けない棘のある言動で振る舞っていた。

 石田の見込み通り、周囲は石田を遠巻きにした。

 だが、織姫は石田は周囲が感じるほど厳しい人間だと思えなかった。

 入学式で初めて出会った日、石田は真新しい制服の肩に桜の花びらを乗せたまま気付いていなかった。指摘しても自分で見つけられなかったので、織姫が取ってやった。

 目が合った石田のレンズの奥の瞳に光が差して淡い青色に輝いた。黒目黒髪と思い込んでいた織姫は、不思議な色合いに思わず見入ってしまった。

 

 石田はカバンに付けたぬいぐるみが破れたと泣いている女子がいると黙って修繕してやった。

 話が広まり、多くの女子生徒がぬいぐるみ修繕を頼むようになると、文句も嫌みも言わずに直した。

 

 織姫はクラス内で回すプリントや連絡を石田に回すのを恐れる級友が居れば代わりに回しに行った。石田の棘のある態度はただのポーズ、本質ではない気がすると説明しても、周囲は理解しなかった。

 

 織姫が霊力を身につけ、石田と二人きりで行動を共にするようになると、石田は少し変わっているが優しい少年だと確信した。

 石田は尸魂界に行くまで、ただのクラスメート、クラブメートでしかなく、事務的な会話を交わしたのみだが、ずっと前から親しい女友達のような、親友のたつきと居るような不思議な感覚に陥った。

 

 生まれる前……尸魂界から縁があって、現世と尸魂界で何度も共に過ごしている仲ならば納得する。

 

 そして美雨は、石田より更に『近い』

 ずっと会う日を心待ちにして、やっと再会出来た大切な人のような感覚だった。

 未来で石田の娘になる少女だから当然か。

 

「カルトナージュはどうだろう」

 石田は立ち上がり、部室の本棚から手芸本を持ってきた。

 

「フランスの手工芸で、厚紙の箱を、包装紙や布で飾るんだ」

 織姫は眩しい笑みを浮かべた。

 

 

 

***

 

 

 

 織姫と石田はヒマワリソーイングに寄って材料を購入した。

 

 その足で商店街のABCookiesに行き、美雨と合流。帰宅しようとする石田を引き止めて、織姫のマンションで3人で夕食を作った。

 

 美雨はチーズ肉じゃがカレー風味を提案した。

 肉じゃがにカレー粉とピザチーズを入れる創作料理に石田は懸念を示したが、目を輝かせる織姫に気付いて飲み込んだ。

 美雨は苦笑した。

「お父さんのレシピだから雨竜も大丈夫だよ」

 

 織姫と石田が野菜を剥き、美雨は慣れた手つきで調理していった。

「美雨ちゃん、ずっと思ってたんだけど、お嬢様なのに料理や家事どこで覚えたの?」

「ウチ昔はオヤが共働きで、家事は当番制だったの。お母さんは料理得意じゃなかったから、料理はお父さんかお兄ちゃんが担当で、作るとこずっと見てたんだ。今はお屋敷に移り住んで、家政婦さんが全部してくれるけどね」

「うわぁ~家政婦さんなんて本格的だなぁ! ていうか美雨ちゃん、お兄さんいたんだ!」

 織姫は目を丸くした。

「うん」

 美雨は幸せそうな笑みを浮かべた。

 織姫の脳内で、石田に瓜二つの顔立ちをした美雨の兄が浮かんだ。当然眼鏡だ。

 石田と石田に瓜二つの兄と美雨が並ぶと、同じ顔が3つ。面白すぎる。美雨の世界の織姫は、愉快過ぎる光景に耐えられるのだろうか。

 織姫の中で美雨の母親への興味が益々止まらなくなった。

 

 

 仕上がったチーズ肉じゃがカレー風味は、見た目も味も良かった。美雨の父は相当の料理上手だ。

 織姫は芋をリスのように大量に頬張って何度もお代わりし、石田も不思議に箸が進んで2杯も食べてしまった。

 デザートは布袋屋のぜんざいだった。

「お金に余裕出てきたら我慢できなくなっちゃった」

 美雨は幸せそうに笑った。

 没落お嬢様のように振る舞う美雨から、ようやくお嬢様らしい一面が見えて、織姫と石田は少しほっとした。

 

 

 

To be Continued

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