The Rain Bringer Girl 作:うにうにうさぎ
翌朝、美雨は無料でインターネットが出来る場所がないか訊ねた。
一護の高校と妹たちが通う中学校なら、PCルームで可能だが、他校の学生が使えるかは分からなかった。
何を調べたいのか尋ねると、アルバイト情報だと言う。
「バイトならネットが無くても探せるだろう?」
「?? どうやって?」
「……えっと、バイト探してる店なら張り紙とか、駅やコンビニに無料バイト情報誌があるだろ」
「……わかった」
不安だ。
「テスト終わったら昼過ぎに帰るから、貰ってきてやるよ」
一護は後頭部を掻きながらぶっきらぼうに話した。
「ありがとう」
* * *
ケイゴ、水色、チャドと三人で校門を潜ると、2階の教室から声がした。
「おっはよぉ! 黒崎くん!!」
「おはよ~いのうえさあぁん♪」
隣のケイゴが投げキスして応える。織姫はにこやかに手を振った。
「おーす」
一護も軽く手を上げる。
織姫は、目尻と眉尻をぐっと下げて嬉しそうに笑った。
「お早う」
後から来た石田がスッと通り過ぎていった。
「石田!!」
石田が立ち止まった。
「なんだ?」
不機嫌そうな顔で振り返った。
石田は朝に弱い。血圧が低いのだという。
白い肌。真っ直ぐな黒髪。眼鏡の奥の怜悧な瞳。
似ている。
「僕の顔に何か付いているか?」
「わりぃ……なんでもねぇ」
「気持ち悪いな」
石田はひょろりとした身体を真っ直ぐ伸ばして、大股で校舎に入っていった。
***
テストを終えて、帰り支度をしていると、進学クラスから織姫がやってきた。
一護と同じクラスのたつきを迎えに来たのだ。
織姫はたつきと少し話してから、共に一護の席に来た。
「き・今日はどうだった?」
ニコ……。
織姫は時々酷く緊張した態度をする。親しくなって3年目になるが、まだ怖いらしい。
「ぼちぼちだな」
「ぼちぼちですかぁ~」
えへへ……。織姫は何が面白いのか分からない笑顔を浮かべた。
「くっ、黒崎くん、今日これから、たつきちゃんと3人で勉強しない? ませんか?」
用事が有るわけではない。
帰りに無料バイト情報誌を貰って、家で待つ美雨に渡せば一護のお遣いは終了する。
そういえば、昨夜美雨は織姫と石田について訊ねた。
どちらの戦闘力が上かなんて、お嬢様らしからぬ物騒な質問を。
「井上、」
「はい?」
「オマエ、誰かに恨み買ったり……してねぇよな……?」
「ちょっと一護、どういう意味よ」
たつきが食ってかかる。
「井上に訊いてんだ」
「どうなの、織姫」
「恨み……う~ん。身に覚えないなぁ」
織姫は可愛く小首を傾げながらウンウン唸った。
「やっぱり思いつかないよ。ごめんね」
「謝ることないだろう」
「あ、そっか。こういう時は『ありがとう』だね。ありがとう、黒崎くん」
「おう」
廊下の向こうから肩に通学カバンを提げた石田が歩いてきた。
「石田くん!」
織姫が呼び止めた。
「石田くん、帰るの?」
「ああ。テスト期間中は、生徒会の仕事が休みだからね」
「いま、たつきちゃんと黒崎くんと、勉強会しないかって話しててね、石田くんもどう? 石田くんが入ってくれたら男女比2:2になるから嬉しいなぁ」
あからさまな数合わせの誘いに石田の眉間のしわがぴきっと深まった。
織姫は気にせず、ニコニコと笑い続ける。
「………仕方ないな。そこまで言うなら、チカラを貸してやらないこともない」
明後日の方向を見上げ、ズレてもいない眼鏡のブリッジを指で抑えながら承諾した。
『折れた……!』
一護とたつきは心の中で同時にツッコミを入れた。
石田は織姫に『弱い』
美雨が知りたがっている『戦闘力』が、2人の精神的関係性についてなら、間違いなく織姫が上になる。
一護は石田にも織姫と同じ質問をした。
「石田くんも恨まれてるかもしれないの?」
「石田は同情の余地ないわね。あの口調じゃ、歩くだけで恨みの大セールでしょう」
「なに!?」
「たつきちゃんきっびしぃ~」
「フォローなしかい!」
美雨の正体について、一護の中で消えない懸念があった。
美雨と石田は似すぎている。
名前も、
石田 雨竜
石井 美雨
似ている。
この世に、似た顔の他人は三人存在するというが、名前まで似ているのは珍しいだろう。
美雨が石田の若すぎる父親の私生児で、美雨が探す『兄』が石田なら辻褄が合う。
美雨の家庭は10年近く『大黒柱が居ない』状態だと話していた。石田の父親から、養育費なり援助が打ち切られて、母親の実家の世話になっている状況を変えるために、石田の父へ直談判に来た。
ついでに、石田の父の実子として何不自由なく暮らしている石田へ復讐に来た。
だが、この推理では、織姫の戦闘力を気にしたことについて説明できなかった。
ハッキリするまで、織姫と、特に石田は美雨に会わせないようにしよう。一護は判断した。
***
勉強会の誘いを丁重に断ると、途中まで一緒に帰ることになった。何故か学校近くで暮らす石田も、駅前に用事があると付いてきた。一護はコンビニに寄った。
「まだバイトすんの?」
バイト情報誌を手にした一護にたつきは呆れた。
「俺じゃねーよ」
「え? 遊子ちゃんか夏梨ちゃんがってこと? 中学生はバイトできないよ」
「ちげーよ、知り合い。現金が要るんだと。放ってたらAVスカウトに騙されかけて、目ェ離せねぇんだ」
「AVって……! オンナ!?」
「ああ……」
しまった……。
一護は迂闊さを後悔した。時既に遅し。
顔を見るだけだと押し切られ、皆で黒崎家に立ち寄ることになってしまった。
自宅のインターホンを鳴らすと「はーい」可愛い声がして、扉が開いた。
美雨は制服の上に遊子のエプロンを着ていた。
家事をしてくれていたようだ。
「お帰りなさい……」
扉の向こうに並ぶ人物に、美雨の表情が固まった。
「お昼ご飯できてますよ、皆さんもどうぞ」
口角を上げて、笑顔を繕うとしているが、違和感があった。
ウソが下手な女。
一護は内心ため息を吐いた。
昼食はチャーハンと春雨スープだった。
お嬢様だから舌が肥えているのか、なかなかの腕だ。
石田とたつきが「美味い!」と賞賛した。
ダイニングテーブルには何故かケチャップとマヨネーズが置かれていた。
何のために?
一護たちが分からずにいると、織姫は迷わず手に取り、チャーハンにケチャップとマヨネーズでリスの絵を描いた。
「ちょっと、織姫……」たつきが洩らしたが、織姫は意に介さない。
描き終えると、パクリと口いっぱいに頬張った。
「お~いしぃ~!!」
織姫はほっぺを押さえながら、幸せそうに食べた。
美雨は少し照れた様子で見守っていた。
美雨は織姫のためにケチャップとマヨネーズを出していた。
織姫と石田は美雨と本当に面識がない様子だ。
昨夜の質問の意味が益々わからなくなった。
一護たちがリビングで勉強を始めると、美雨はダイニングテーブルでアルバイト情報誌を読み始めた。
「黒崎くん、ちょっといい?」
美雨が耳打ちした。
「なんだ?」
「この『リレキショ』って何?」
「履歴書知らないの?」
たつきは驚いた。
「箱入りのお嬢様なんだ。オマエとはちげーんだよ」
「ふぅん……」
「……すいません」
小さくなった美雨に、たつきは直ぐ言い過ぎたと気付く。
「ゴメン、そーゆー意味じゃなくてね。ちょっとびっくりしただけ。お嬢様なのに、働こうなんてエラいよ」
「履歴書は、勤務先に身元を証して、働かせてくれって頼む手紙みたいなモンだな。この本の巻末に、オマケで一部付いてんだ」
一護は巻末の白いページを広げた。美雨は感嘆の声を上げた。
履歴書の項目を見て、すぐに悲しそうな顔をした。
「どうした?」
「未成年者は保護者のサインと印鑑が要るって」
「まぁ、そうなるな」
「…………」
「心配すんな! やること終わるまでカネが無かったらずっとウチに居ればいい。家事手伝ってくれるだけで大助かりだ」
一護はポンと美雨の頭を撫でた。
「――家出娘か」
石田がポツリと呟いた。眼鏡のブリッジを抑えて俯く。
「……そうだね。やっぱり、長居は出来ないよね……」
美雨は眉根を寄せて呟いた。
「話聞いてたか? 俺はずっと居ていいって言ったんだぞ?」
「うん、ちゃんと聞こえたよ」
美雨は眉を八の字にしたまま笑顔を浮かべた。
胸をなで下ろしたのも束の間――。
「
石田が顔を上げた。
「逃げろ――」
叫ぶが、間に合わない。
『
一護たちの胸元に、小さな銀のカプセルが当たった。
理解するより早く、カプセルは炸裂する。
一護たちは霊子の棺に拘束された。
「美雨!? どういうつもりだ!?」
一護は叫んだ。
外の様子が全くわからない。
「美雨――!!!」
To be Continued