The Rain Bringer Girl 作:うにうにうさぎ
夜、織姫と美雨、石田、チャドが浦原商店に集合した。
アルバイト先からそのまま来た美雨は空座第一高校の制服姿だった。
一護の状態に織姫は青ざめ、ただちに双天帰盾で治療をはじめた。
ルキアは密かに美雨を部屋の外に連れ出した。
店の屋根に登ると、新月前日の空に月は無かった。現世の技術で作られた人工の光が昼のように明るく町を照らしていた。
「話ってなんですかぁ?」
美雨は営業用の笑顔でルキアに声を掛けた。
ルキアは隣に座るように促した。
美雨は瓦屋根に慣れていないようで、スカートの裾を抓みながら、ルキアと少し間を空けて慎重に腰を下ろした。
「貴様の出自は気付いたよ。隠さなくて良い」
美雨は目を見開いた。
「一護たちは霊力は強いが所詮20年も生きていないヒトの子供だからな。霊圧の性質までは分からなくて無理はない」
「……そうですかぁ~」
美雨はため息をついた。
「未来について聞き出そうとしても無駄ですからね。どうせ『修正』対象です」
「ああ、体験したよ」
「マジですか……」
美雨は眼鏡の奥の目をぱちぱちまばたきした。
石田より少し丸みを帯びた優しい目元は井上似だな、ルキアは思った。
美雨はまた少しルキアと距離を取った。
「私は死神だが、貴様を滅却師として捕らえたりはせぬよ」
ルキアは孤立も遠巻きにされるのも慣れていたが、恐れられるのは初めてだった。
「……すいません。幼なじみのいじめっ子に似ていて、恐怖が根源に染み着いてるんですぅ」
美雨は石田に似た面立ちでぷうと頬を膨らませた。ルキアは噴き出した。
「幼なじみ? 死神の?」
「『修正対象』デス」
美雨は膝を抱えた。
「貴族のオヒメサマのくせに、市井の雇われ医師とパン屋の娘に嫉妬して意地悪したくなっちゃうんですって。小さい頃は貧乏人だと思って多目に見てやったのに、オヒメサマなんて詐欺じゃないですか」
「貴族は貴族で大変だからな。美雨の家族は暖かかったのだろう」
「そうだね。うちは両親と兄弟がいていつも賑やかでした。尸魂界から滅却師の生存を許してもらう代わりに虚と戦うお役目が課せられて命がけだったし、凄くお金持ちでもなかったけど、そこそこの家に住んで、そこそこの服を着て、そこそこの学校に通って……幸せだったなぁ」
「今は幸せではないのか?」
「……わかんない。黒崎くんが私の世界を直してくれた後、両親は元通り暮らせるのか、お兄ちゃんはどうなっちゃうのか……お兄ちゃんの同級生は大学出て社会人になっちゃった。8年は長すぎたかも。私のせいです」
「なぜ?」
「世界を渡るのが怖かったの。いつかお兄ちゃんが黒崎くんを連れて帰ってくるから私は行かなくていいって、信じ込もうとした」
「美雨はやっと高校生だろう。今より早く渡っても、身体が出来ていまい」
「だから今年まで待ってもらったんです」
美雨は眉を八の字にして口角を上げた。
「私、ここに来る直前に16歳になりました。私の学校は金持ちが多くて、ウチみたいな中流じゃないホンモノには、生まれた時から結婚相手が決まってる子が本当にいるの。私も、結婚相手と職業を選ぶ自由はあるけど、運命が決まってるんです。滅却師の後継者として、重霊地・空座町を霊的に守護し続ける。だから一生空座町を離れられない。死ぬまで虚と戦わなきゃいけない。結婚は弟が居るから絶対じゃないけど、するならお婿さんになってくれるヒト。滅却師はこれからも続かなきゃいけないみたいで、私はどの世界でも、時期が来たら必ず……両親の幸せをぶち壊して人生をねじ曲げても誕生することになってるんです」
美雨は世間話をするように話した。
ルキアは、美雨の『両親の幸せを壊す』という表現が気になった。
「私と幼なじみは、滅却師と死神で住む世界と立場が全然違うし、年も離れていたけど、望む望まないに関わらず虚と戦う運命は一緒でした。お互いに面白くないなぁと思い合っているのに、根っこでは気持ちが分かっちゃうんです。尸魂界にもノブレス・オブリージュが存在して、貴族に生まれた幼なじみは2歳半……1人で歩いて言葉を話せるようになった途端に親元を離れて死神の養成校に入れられました。私が家族に甘やかされて、可愛い服を着て人形遊びや絵本を読んでもらっていた時期に、彼女は刀を握らされて虚と戦う訓練を受けていました。恨まれて当然ですね」
美雨はルキアに視線を向けた。
「美雨は戦いたくないのか?」
「負けたら死ぬんですよ? 虚に魂を喰われる完全な消滅。現世を虚から守るために沢山の虚を滅却してるから、当然の末路だけど、父みたいに自発的に虚狩りする気にはなりません。」
「美雨は優しいのだな」
井上と同じだ。
「……美雨の父上殿も優しい男だ。あれは誰より現世を守りたい気持ちが強いんだ。虚狩りなどと言ってやるな」
美雨はため息を吐いた。
「知ってますよ~。あの人の本質こそ戦いに全然向いてないんです」
ルキアはクスリとした。
「私、自分の運命を受け入れることにしたんです」
美雨はルキアに顔を向けた。
「ここに来て、一度だけ運命を変えようと足掻こうとしました。でも、やっぱり出来ませんでした」
昔からプレッシャーに弱いんです。美雨はケラケラと笑った。
To be Continued