The Rain Bringer Girl   作:うにうにうさぎ

3 / 21
新たな滅却師

 リビングに霊子の棺が3つ。

 

 1人棺入りを免れた織姫は息をのんだ。

 

「美雨ちゃん?」

 

 ヴン――!!

 

 織姫の鼻先にクロスボウが突きつけられていた。

 石田が作る霊子の光の弓ではなく、銀色に輝く金属質の弓。

 

「!?」

 

「立って。この家を血で汚したくない」

 

 美雨の瞳は揺れていた。

 苦しげな表情だ。

 殺気にむらがある。事情があるのだ――織姫は察する。

 

 正面から見据えると、眼鏡、髪型、顔、美雨は石田を女性にしたように似ていた。

 

「黒崎くん……たちは?」

「暫く動けない。雨竜は長く保たないかも。早くして」

 

 気付くと美雨は織姫の背中に回り込んでいた。矢を突きつけられて、織姫はおずおずと立ち上がり、玄関から黒崎家を出た。

 

 

 

***

 

 

 

 連れて行かれたのは、空須川の橋の下だった。

 広い遊歩道が整備された小野瀬川程ではないが、空須川も普段なら散歩の人が数人いる。何故か人気がない。

「結界張ったの。暫く誰も来ないよ」

 美雨が答えた。

「――どうして? 困っているなら相談して欲しいな。助けられるかもしれないよ」

 織姫は意識してゆっくり呼吸をしながら、話しかけた。

 美雨とは初対面だが、なぜか親近感を感じた。友人の石田に似ているからかもしれない。

 たつきも知らないチャーハンにケチャップとマヨネーズを掛ける習慣を知っていた。何も言っていないのに用意してくれた。

 

「織姫……ちゃんと、雨竜。どっちが強いか、黒崎くんは教えてくれなかったから、自分で考えたの。雨竜はああ見えてしぶといでしょう。織姫ちゃんは盾があるけど、私には攻略法があるから、織姫ちゃんにしたんだ」

「したんだ――て!?」

 

「井上 織姫! 恩しかないけど……世界のために、死んで!!」

 

 美雨は矢を放った。

「三天結盾!!!」

 織姫は即座に盾を展開する。

 初撃は防いだ。

 

「椿鬼くん!」

 美雨の口から思いがけない言霊が飛び出した。

 美雨のハートのヘアピンから見覚えのある黒い妖精が現れる。

「気が進まねぇなぁ~」

 椿鬼は面倒くさそうに織姫を見下ろした。織姫は胸元のヘアピンを確認する。使用中の、ヒナギク・梅厳・リリィを除いて揃っている。

 

「椿鬼――!!」

 織姫は言霊を紡ぐ。

 光らない。

「椿鬼!? どうしたの!? 椿鬼くん!!」

 反応しない。

「あー…ゴメンね。一つの世界に同じ存在は同時に存在出来ないの。私がここに椿鬼を連れてくるために、少し手入れして、織姫ちゃんの椿鬼とは一応違う存在なんだけど、世界の法則を犯すギリギリなんだ」

 美雨は再びクロスボウを構えた。

 

 盾に無数の銀の雨がぶつかり弾かれた。

「やっぱり私の矢じゃ三天結盾は破れないか。出番だよ」

「本当にいいんだな?」

「……いいよ」

「癪だがご主人様には逆らえないってな。今の主人はちみっこだ。悪いな、オンナ」

 人型から飛行機形態になった椿鬼が織姫の盾に突撃した。

 

 三天結盾VS孤天斬盾。

 

 椿鬼は事象の拒絶の盾に易々入り込むと、内側から結合を『拒絶』した。

 三匹の妖精が弾かれ、盾は消滅した。

「みんな!!」

 防御を失った織姫に、無数の銀の矢が襲いかかる。

 

 ――黒崎くん!!

 

 織姫は愛しい少年の名を念じながら目をつぶった。

 

 

 

***

 

 

 

光の風(リヒト・ヴィント)――!!!」

 

 後方から光が吹いた。

 

 美雨の矢と同数の光の矢が、美雨の矢を打ち落としていく。

 

「石田くん!!」

 石田は素早く織姫を背に庇った。

 

「はっや~い!! 何のために雨竜の五架縛(グリッツ)を3重掛けにしたと思ってんの!?」

 矢を撃ち続けながら美雨はぼやいた。

 美雨の矢は全て雨竜に撃ち落とされていた。

「まぁ、こうなるわな」

「椿鬼~~!!」

「もう一回行くか?」

「いいわ。戻って。雨竜は容赦ないもの。あなたが破損したら私には修復する術がない」

「帰れなくなっちまう~~」

 美雨は片手でヘアピンに戻った椿鬼を撫でて、自嘲の笑みを浮かべた。

 

 

「月牙ぁ……」

 

「天衝――――!!!」

 

 突如地に白い衝撃波が走り、美雨は慌てて避けた。

 

 避けても美雨を追撃する白い霊圧に、美雨は空に霊子で足場を作ってぴょんぴょんと飛び上がった。

 

 背後から羽交い締めにされた。

 

「捕まえたぞ」

「きゃああああ!! エッチ! チカン! ヘンタイ~~!! おにいちゃあああん!!」

「うおおぅ! どこも触ってねーじゃねーか! 誤解を招く物言いすんじゃねぇ!!」

 

 死霸装姿の一護が美雨を無理やり地へ引きずり下ろした。

 一護に拘束されたままの美雨に石田が駆け寄り、弓を向けた。

 少し離れて織姫が駆けつける。

 

「石田くん!」

 事情を訊いてあげようよ、織姫の次の言葉を待たず、石田は叫んだ。

 

「何者だ? どこの一族だ? 誰が師だ?」

 

 美雨は沈黙した。

「石井……じゃねぇのか?」

 石田の剣幕に、一護がフォローする。

「石井なんて一族、訊いたことないね」

「オマエが知らないだけかもしんねーだろ!?」

「少なくてもこの国の滅却師は僕が最後の一人だ。みんな死に絶えたんだよ。全員……ね」

 石田は苦々しげに言った。

 

「美雨、もう言っちまったらどうだ? 兄貴の1人として、兄妹が争うのを見たくねぇんだ」

「兄妹?」

 美雨は拘束され、弓を突きつけられた危機的状況に関わらず、きょとんとした。

 一護は言い澱んだが、他に事態を収集する手段を思い付かなかった。

「石田の……妹なんだろう? 親父さんに養育費を払ってもらいに、家出までして……」

 石田の顔が青ざめた。

「なっ……!! 本当なのかい!?」

 織姫はおお! と手を打った。

 石田がどういうことだと美雨につかみかかる。

「え!? なんでそうなるの!? え? ええ~!!」

 

 その時、空に亜空間が開いた。

 虚が2体、姿を現す。

 

「ち……こっちは取り込み中なんだぞ」

 一護は頭を掻いた。

「美雨!」

「なに?」

「井上に謝れ」

 ずいっと織姫の前に突き出す。

 ぽよんと胸元に鼻がぶつかり、眼鏡がずり落ちた。

「きゃん!」

 

「あ・や・ま・れ」

 

 美雨はおずおずと織姫を見上げた。

 織姫は戸惑った顔をしていた。

 眼鏡がずれた美雨の目は、さらに一回り大きく、石田より少し目尻が下がった優しい形をしていた。

 

 美雨の目が水に潤み、ゆらゆらと揺れた。

「……ごめんなさい」

 織姫は、いいよ。笑って許した。

 

「よし、もう井上にケンカ仕掛けんなよ」

 一護は美雨の拘束を解いて背を叩いた。

 頷いた拍子に美雨の目から涙が零れた。織姫は、そっと肩を抱いた。

 

「行ってくる」

 一護は空を蹴った。

 石田も何度も振り返りながら一護に続いた。

 

 

 

***

 

 

 

 虚を倒して戻ると、美雨と織姫は河原で楽しそうに話していた。

「黒崎くん、」

 織姫はニコニコしながら話した。

「今夜から美雨ちゃん、あたしんちに泊めることにしたから」

「ええ!?」

 

 一護と美雨と石田が同時に叫んだ。

 

「いっ、井上さん? 言ってる意味分かってる? 自分の命を狙った相手だよ??」

「そ、そのとおり!!」

「ウチで泊めるから気にすんな」

 

「だぁめ! 女の子には色々必要なモノがあるんだよ。黒崎くんちじゃ着替えもないでしょう? あたしなら、美雨ちゃんとサイズ近いから、服が貸せるし」

 サイズ……一護と雨竜の視線が美雨の胸元に注がれた。どう見ても……。

「こう見えてもCカップはあるんだから!! おかーさんが、大人になったらもうちょっと大きくなるって!」

 美雨は真っ赤になった。

「ムスメになんて話すんだ。どんなハハオヤだよ……」

 一護はひとりごちた。

 笑顔しか思い出せない太陽みたいな母を思い出した。おふくろは違う! 一護は首を振った。

 

「バイトも店長に頼んであげるよ。ね? いいでしょう!」

 織姫は美雨の手を握った。

 ぶんぶん振り回す。

「……あ……えっと……」

「『よろしくおねがいしま~す』」

 織姫は笑顔のまま、有無を言わせないオーラを放った。

「よ……よろしくお願いします……」

「決まり!」

 織姫は美雨の手を取った。

「今日は歓迎会だよ~」

 

 一護と石田は2人の後ろ姿を呆然と見送るしかなかった。

 

 胸元にばかり目が行ってしまったが、確かに織姫と美雨の背丈は近かった。

 

 

 

To be Continued


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。