The Rain Bringer Girl 作:うにうにうさぎ
「いらっしゃいませ~」
一年前、商店街の外れにオープンした ABCookie's では新人バイトが元気に働いていた。
高校1年生だが、店のシステムをすぐに理解し、複数のパンを一瞬で会計していく。ベテランパートの働きぶりだった。
一周年キャンペーンで忙しい中、学生バイトは試験期間でシフトに入れなかった。弱り顔の店長は、織姫が連れてきた助っ人に感謝した。
「こう見えても勤労学生なんですよ~」
新人バイト――石井美雨は苦笑した。
チリン――。
来客を報せるベルに、美雨は元気に声を掛けた。
妖精のような銀髪に全身白いスーツ姿の洗練された男に、美雨の笑顔が固まった。
彼女の感情を取り繕う下手さは両親譲り。筋金入りで病気レベルだった。
***
「あ~ヒドい目に遭った~」
「ごめん~石田くんに、美雨ちゃんのクラスメートの予備校の友達の姉妹がフられた恨みを晴らしに来たけど、ちゃんと話し合ったら誤解だったの! 仲直りしたから、許してあげて、ね?」
一護たちのクラスに来た織姫は、たつきに可愛く手を合わせた。
「やっぱり石田のせいじゃん」
「そうだね……えへへ」
織姫は心の中で石田に詫びた。
「それでね、美雨ちゃんウチに泊まってもらうことにしたの。バイトも、お店が暫く一周年キャンペーンで忙しいから、助っ人に紹介してねぇ。良かったら、今夜遊びに来ない?」
「う~ん。アタシも昨日、あの子にちょっとキツいこと言っちゃったし、仲直りしようか」
「うん!」
織姫は微笑んだ。
学校が終わると、一護・織姫・たつき・ケイゴ・水色・石田で、美雨のバイト先を訪ねた。
「こんにちわぁ~! 店長、美雨ちゃんの様子見にきました」
「織姫ちゃん! あの子スゴいの! まるでウチの店で働くために生まれたような働きぶりでねぇ」
「おお~」
「さっき、知り合いが来たから、休憩入ってもらったの。30分後くらいに戻ると思うわ」
「は~い。じゃあみんな、行こうか」
織姫に連れられ店を出ると、石田が眉根を寄せた。
「どうした?」
「……済まない。ヤブ用が出来た」
早足で立ち去る石田に、皆で顔を見合わせ、すぐに後を付けた。
石田は小さな公園に身を潜めていた。
「石田、」
後ろから小声で呼び止めると、石田は動転して声を上げようとするので、一護は慌てて石田の口元を塞いだ。
「あ!」
織姫が小声で囁いた。
全身真っ白な洗練された男――石田の兄にしか見えない父親と、美雨が、ベンチで話し込んでいた。
「どういうこと?」
ケイゴが無垢な表情を浮かべた。
水色は無表情だが、悪いことを考えているに違いなかった。
美雨は思い詰めた様子で、膝の上で両手を小さく握りしめて耐えていた。不意に身体を動かし、石田の父に抱きついた。
石田の父は美雨を優しく抱き留めた。労るように、髪と背を撫でている。
一同口元を抑え、声を出さないように耐えた。
石田は青ざめて震えていた。
黒崎家に集まり、話し合った。
異母妹の出現に混乱する石田に、ケイゴは自分の姉のウザさと、一護の妹の可愛さを語り、妹ならいいじゃないかと慰めた。
水色は、美雨自身が石田の父親の愛人かもしれないとからかった。似すぎているから芽生える愛情もあるんだよと言うと、石田は「あんもんか! そんな情」と否定した。
一護と織姫は、昨日の河原で、石田の妹と言われて肯定しない様子を見ていたので若干違和感を感じていた。
***
「ただいま~」
夜、仕事を終えて美雨が織姫のマンションに戻ってきた。
「おかえりなさい」
織姫とたつきが出迎えた。
美雨はたつきに気付くなり手も洗わず駆け寄って謝罪した。
たつきは、うなだれる美雨の髪を撫でて笑った。
美雨は、バイト先で貰ったパンを使い、給料で買ったチーズを溶かして、チーズフォンデュを作った。
美雨の手料理にたつきは舌鼓を打った。
「お金なんとかなりそう?」
織姫は訊ねた。
「う~ん……1ヶ月くらい暮らすのにどれくらい必要ですかね」
「1ヶ月も家出続けるの?」
織姫の顔に憂わしげな影が浮かんだ。
「学校だってあるでしょう? 進学校で1ヶ月も欠席ってヤバくない?」
たつきも気にした。
「やっぱり、用事が済むまでウチに泊まりなよ。黒崎くんじゃないけど、ほっとけないよ」
「……すみません」
突如、部屋に重い霊圧が掛かった。
「なに!?」
たつきが、貼りつくように卓袱台に突っ伏した。
「……あ…あが……」
「たつきちゃん!!」
織姫はたつきを庇うように覆い被さった。
「三天結盾!!」
ヘアピンが輝き、卓袱台の上に盾を張った。
「たつきちゃん! しっかりして、たつきちゃん!!」
美雨は突っ伏したまま動かなくなったたつきの首元に素早く指を当てた。
「大丈夫、気絶してるだけ」
美雨は胸元から銀のペンダントを取り出した。ペンダントは石田が持つのと同じ星形の滅却十字だった。ペンダントトップが輝き、美雨の手に銀の弓が現れた。
「美雨ちゃん……」
「織姫ちゃんは、自分とたつきちゃんの前に盾を張り続けて」
「美雨ちゃんは?」
「あたしは平気」
「どういう――」
空間が割れて巨大な顎が美雨に襲いかかった。
「美雨ちゃん!!」
織姫が悲鳴を上げた。
ガンッ!
顎が美雨の肩にかぶりつく。
「美雨ちゃん!!」
美雨は顎に噛みつかれたまま顎の下にクロスボウを宛てると、ためらいなく引き金を引いた。
0距離から圧縮霊矢が直撃する。
顎から目に見えない黒い体液が吹き出した。
顎から解放された美雨に織姫は息を飲んだ。美雨は傷一つ負っていなかった。
「……ね? 私こう見えて頑丈なの」
美雨は織姫を向いて微笑んだ。
再び空間が割れる。
「超速再生……ちょっと早すぎない!?」
美雨はひとりごちた。
出現に備えて弓を構える。
ズ…ズズ……ズ
蛇のような足が床を這う。
「来るよ、織姫ちゃん」
「美雨ちゃん、あたしの椿鬼は……」
美雨は首を振った。
「――椿鬼!!」
織姫の呼び掛けに、椿鬼は応えない。織姫は胸元で手をきゅっと握り締めた。
「ごめんね」
美雨は俯いた。
「美雨ちゃん、なぜ美雨ちゃんが椿鬼くんを持っているの? 同じ世界に同じ存在が2つ存在できないって、どういう意味?」
美雨は口を少し開いた。
織姫は聞き耳を立てる。
だが、望む声は聞こえない。
次元の裂け目から全貌を表した異形の怪物。胸に大穴が開いた怪物――虚に、織姫は目を疑った。
「おいでなすったわね!」
美雨は虚に弓を向けた。
無数の光の矢が一斉に発射された。
だが、矢は寸前で全て防がれた。
美雨は振り返る。
織姫とたつきの前に盾がない。
織姫は泣きそうな顔をしていた。
「織姫ちゃん!」
美雨は再度虚へ霊矢を放つ。
「三天結盾!!」
事象の拒絶の盾の前に、美雨の光の矢はことごとく弾かれていった。
「織姫ちゃん!? 操られているの!? 目を覚まして!! アイツは――!!!」
「黒崎くんを呼んで!!」
織姫は叫んだ。
「いますぐ……黒崎くんを!! 黒崎くんじゃなきゃダメなの!!」
織姫は俯いた。
美雨は虚の声を聴いた。
ヤだな。まだ知能残ってるんだ。
美雨は矢を構えたまま織姫とたつきを背に庇い、虚との間に立った。
「嬉しいよ……まだ覚えてくれていたんだね……織姫……」
「……どうして! 何でまた虚になっちゃったの!?」
織姫は叫んだ。
「お兄ちゃん!!」
美雨は織姫と虚、仏壇の遺影を交互に見遣る。
「ウソでしょ……」
呟きは虚の雄叫びにかき消される。
「逃げるよ!!」
美雨は踵を返した。
織姫と気絶したたつきを抱えて、部屋の外に向かう。
「
虚へ3つ銀のカプセルを投げつけた。
「
一つ目の銀筒が虚を拘束し、2つの銀筒が炸裂して、美雨たちを扉の外へ押し出す。
美雨たちは廊下に転がり出た。
美雨はたつきの頬を叩いた。
「たつきちゃん、起きて! たつきちゃん!!」
たつきは目を覚まさない。
「行って、美雨ちゃん」
織姫が美雨の肩を掴んだ。
「あの虚はお兄ちゃんなの。あたしが食い止める! 美雨ちゃんは黒崎くんを……!!」
美雨は織姫の手を取った。
「分かった!」
美雨はマンションの4階から躊躇なく飛び降りた。
空中に霊子の足場を作り、夜空を走った。
To be Continued