ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
―――【ラインセドナ】
彼等が所属を置く何時もの冒険者宿、”ヴェルニース亭”にて。
ギルド専属の受付、ヒバリ・カイルンがぱらりぱらりと手元の様々を記載された冊子を確認し、依頼内容を参照し整理する何時もの光景だ。
「―――では、依頼の受注を確認しました、よろしくお願いします」
「うん、ありがとうございます」
彼等は久しぶり別れて、単独で討伐依頼を受注していた。理由はやはりゴル効率的に行き詰ってるのもそうだが、自身の立ち回りにある。
まず頼もしい前衛の陰に隠れて動きを合わせ隙を伺う。その動き自体は間違ってるとは思わない。彼はそこから隙を伺って、
更に鍛練と実践で、飛ぶ魔法剣をある程度習熟した彼は、半端極まりないが現在は中衛適性を持っていると言えなくもない。
(けど、最近そんなのばっかだ。ローズの後ろに隠れて、ガルデニアさんの後ろに隠れてマーローさんの後ろに隠れてた)
まずは利き手の対角線上に陣取る。そんな他人がいた時の動きだけが、自分の身体に染み付いてしまう気がしており。
それに危機感を感じての不器用なアプローチだった。
それに気が付いていないが男の子の意地が多少混じってる。ローズが遥かに頑丈とはいえ、女の子を盾にする罪悪感が無い訳ではないのだから。
(それに、状況によって分断されないとは限らない。きっと有意義な事なはず、多分)
受注した依頼は【ウッドハーピー】の討伐依頼。
金切り声に、鋭い爪、一つ目が特徴な鳥獣系のモンスターである。
数は事前の話だと三匹、畑を荒らすそれの殲滅、巣の破壊がボーナスが今回の依頼内容である。
脅威度で言えば、以前受けた【一角ウサギ】に比べれば、空を飛ぶ機動力はあるが、異常進化たる角の一撃必殺等の手段を持たない為に脅威度は下がるハズだろう。
「あっ、そっちも受けられたんだ。じゃあ今日は分担って事ね」
「うん、折角実績関係で、最近討伐依頼が同時に受けそうな機会も増えたし、やれる事はやらないと」
そろそろ一年と、ギルドに所属して依頼を受け続けて、目立った失敗も問題もない彼等。
相変わらずCランク(駆け出し)であるが、三十人程度しかいない”ヴェルニース亭”の有力な処理屋として認識されつつある。
ついでに、半端な戦闘特化な彼等は、討伐依頼に優先して食いつく狂人とも言われ始めているのだが。
そんな周りの目に、まだ自覚はない。
「気を付けなさいよね。私がいないとすぐ無茶するんだから」
「ローズこそ僕より無茶が効くからって油断しないでね。モンスターは僕等を簡単に殺せるんだから」
「いちいち言われなくても」
そうお互いに心配注意し合いながら別れ、依頼の目的の場所へと脚を向ける。
(あれから、どれ位に成長できたのだろうか)
修練は重ねた。大物と戦う機会だってあったのだ、経験も多分積めていると思う。
先達であるガルデニアからは成長していると言われるが、ただ自身を評価する為の指標を持たない彼等はそれに実感を持てない。
「忘れちゃいけない。何でもないモンスターでも、殺し得るんだ」
気を引き締めてもう一度、彼女にもかけた言葉を反芻する。
ポーチの中の道具を整理、双剣をの調子を確認して、依頼の目的の場所へと向かうのだった。
―――【ラインセドナ郊外:穀倉地帯】
田舎らしいと言ったところか、広大な耕地を誇る農地地帯。
……だが、この膨大に見える農地は、大半ダミーである。
適当な繁殖力の強い種だけ撒いて放置してるのが大半だ。人の手が届く範囲はそんなに多くないのだから。
どうせ大襲撃の度に農地はダメになるのだ。如何なる災害があっても予備として土地の豊かさを保全する為の処置でもある。荒され草木が土に返っても、その分大地に還元されるのだ。
歩いて歩いて、本命の農地…、その手前の掘に辿りつく、幾度か依頼で訪れた場所だ。
【ラインセドナ】と言う田舎町は水が清純さが、貴重な取り柄である田舎町である。
必然的に農業が発展し、冒険者の仕事の需要の多くを占める事になる。
水路の土木工事やら、外敵用の掘の拡張やら、今回の様な害獣の駆除やらの依頼が多く寄せられ、それを行ってきていた。
農耕地を伝説やら騎士筆頭やら豪傑が管理君臨していると言う。とある【王国】田舎町があるが、
アレは例外というか魔境と言っていい。
辺りを見回した。モンスターの姿は見えない。
そこには蔓草に覆われて丸い丸い、跳ねる謎の緑の球体が見えた。
「この畑に育ててるのは”モウダメダメロン”だっけ?相変わらず奇妙だ。なんでビョンビョンしてるんだろ」
”モウダメダメロン”とは、【ラインセドナ】の特有の農産物であり、「もうだめだーもうだめーだ」と高い声で喚き散らすヘンテコな瓜科植物の事である。
なお口にしたことはないが味は普通との事で、良く跳ねる実程、締まった果実が美味と言われていた。
空飛ぶキャベツやら、空飛んで叩く程甘くなるミカンよりましかもしれない。
世界にある奇妙の一つだった。
「依頼人の話だと、ここで待ってれば【ウッドハーピー】が飛んでくるって話だったかな」
【レンジャー:隠れ身】
畑への立ち入りは許可されていない。ついでに荒される、盗まれると考えているのだろう。
やはり冒険者になんて信用はない。
世知辛さを感じながら”迷彩外套”を羽織り、簡易な遠眼鏡を取出し、木陰に隠れ気配を隠す。
モンスターが現れない限り、彼の仕事はないのだ。
しばらくじっと、気配を忍ばせ待ち続けて。
―――ギャ!ギャ!ギャギャ!!
飛来してくる鳥獣系のモンスター、推定【ウッドハーピー】を確認した。
数は想定より一つ多い四、遠眼鏡に目を通し詳細を確認する。
(特性は、草食性に鋭い爪に蟲の様な膜の両腕の翅。単眼で視界が弱い、最近ここらに居ついた飛行系モンスターだっけな)
ヒトガタに見えなくもない見た目をしているが、それでもアレは確かにただのモンスターだった。
難しい話は分からないが、死してマナに魂を溶かした人類を真似た擬態だという説が有力という。
「よし、やろう」
つまりそれに殺意を鈍らせるのは、相手の思うつぼという事だ。
ホルダーから剣を手に取り握る。
”迷彩外套”を脱ぎ捨て、遠眼鏡で観察した眼の方向の死角から、静かに静かに忍び寄り…。
「―――今だっ!」
『ピィ?ピィイ!』
【ファストアクション】
魔法剣すら隠した未熟なあの時と違い、魔法剣の発露した為、音を発しその時点で気が付かれた。
だが、もう関係ない。あの頃と違い彼の魔法剣は…。
―――ブァアン!!
【魔法剣:雷】【虎輪刃】
安定して飛び伸びるのだから。
相変わらずの振るう予備動作を経て空を走り刻む軌跡。それは正確に胴体部分へと向かい飛び。
『ギャアピイイ!!』
胴体から中心に焼いて、肉を裂いた。だが、致命症には届いていない様だ。
先の”クラゲモドキ”と違って、肉を持つ為に魔力抵抗があるのか、焼き切れていない。
だが、その様子は重症と言った間違いない、収束性は確実に成長している。
『ギュウアン!!』
「まだ収束性不足か、威力が足りていないとっと!?」
【鳥人獣】【鉄砲翅】
弾丸の様に飛んでくる羽を、屈んで避ける。
自身の魔法剣と同じく予備動作を必要にする為に、容易に察せられた反撃。
流石飛ぶモンスターと言うべきか、速攻で反撃が飛んできた。飛ぶ翅はどういう仕組みなのだろううか。
そして、その間に片割れのモンスターの姿が消えていた。
そして嫌な予感がした自身の頭上からの光が少し弱まり、影が刺した気がする。
嫌な予感に後ろに跳び退き。
『ビィィ!』
「―――アブなっ、けど」
【鳥人獣:爪】【飛翔:急降下】
頭上からの急降下、攻撃を避け、その隙に刃を突き刺し首を抉る。
草食動物でもこの殺意、知性を持つ者に対する絶対の
(というか、この連携性は雑食性かな。情報嘘じゃないか厄介な!)
まだ未熟な経験による勘。
提示された情報の相違に悪態を付きながら、反撃の無い様にまだ暖かい死体を畑を囲む掘に蹴りいれた。
これで一匹殺せたか。一匹は重傷、もう二匹は…。
『キュアアアァアア!!』
「!」
浮遊しながら、特徴的な金きり音で高らかに鳴き始めた。
警戒、この世界の生物には、声・音で生物を幻惑し陥れる様な類もいる。
腕をつねるが体感は正常だ。事前に鳴き声が特徴的と言われていたから、警戒しすぎたか。
そして鳴き声の効果がすぐに表れる。遠方から返事の様にさらに響く金切音。
「あー、これは今の隙に殺せたな」
それで察する。アレは群れへの救援要請のようだ。
警戒しすぎて機会を逃した、これは惜しい。
本来の予定なら最初の群を殲滅したら、次は巣のその方向の観察するつもりだったのに。
そして更に襲い掛かる二匹の鳥人獣、味方の到着を待つと言う知性はないらしい。
「よし、それでいい。ナイス鳥頭!」
【二刀流】【ウェポンガード】
上を取られてでの蹴り降ろしを、角度を二歩ずらすよう下がり、双手の剣も腹で弾く。
状況的にはとても不利に思えるが、その振りおろしは鋭いが軽い。軽さに頼ったモンスターのようだ。
積極的に頭を狙い、反射的に物を掴もうとする癖も所も、狙いが分り易く助かった。
多少パターンを読めた所に逆に脚を挟み、すれ違いに叩き斬る。
更に、悲鳴を上げて高度を下げた所を。
「っしゃぁ!!」
蹴り込み、連続で踏みつぶし鳥頭を潰して殺す。
現状の印象で言えば【一角ウサギ】の方が手強く感じた、特化型はやはり怖い。
―――実際は、彼の成長が苦労の美化が、この鳥人獣の評価を相対的に下げているのだが。
魔法剣に習熟した。
何より地味な素振りや、走り込みによって基礎的な身体能力が上がっている。
「あと一匹ィ!」
更に追加で片方の剣を投擲し、避けた所に至近の魔法剣で斬り裂き一匹追加で殺し。
翅を削りとばした。鳥人獣に魔法剣を飛ばし、止めを刺しながら。
(依頼だと三匹だけのはず、なんだけど…。どう見てもまだいるなぁ)
遠方から迫る影を視界に収めて憂鬱な気分になる。
数はもっと多い、というか簡易遠眼鏡で鳥人獣の出所を確認した所どう見ても二十位は居る。
あれじゃ巣というよりコロニーだ。
難易度詐欺である。情報が間違っている、報酬も安すぎる。
「よし、逃げよう」
即決、迷彩外套を被り直し、駆ける。
無理なもんは無理である。更に、空飛ぶ対象に自力の脚で平野を逃げられる筈もない。
ローズが居たらと一瞬だけ頭を過るが、自分の選択に対して情けないとそれを振り払う。
というより仮に彼女が居ても無理な数の襲来であった。
幸い巣までは空を駆ける生物基準でもかなりの距離があるので、到着まで時間がかかるだろう。
「ああもぅ、モンスターのコロニーの殲滅とか難易度も報酬も二段階くらい違う!背に腹は代えられない!」
万一は何時だって考えている。
仕方がないので畑を囲う掘りの中に飛び込んで、身を隠しやり過ごす事にする。
脱出用に大地に剣を深く刺して込んで柄にロープ巻いて垂らす、時間が無いのでそれに伝う事なく直接飛び込んだ。
脚が少し痛むが無視し、辺りの土を掘り返し被って、その身を隠し息を潜ませた。
動悸する心臓を無理矢理抑え付け、呼吸を意識し正し、隆起したオドを鎮めた。
頭上で鳥人獣が敵を探しているのか、けたたましい金きり音が同時に反響し遠くに聞こえる。
(お願い、気が付かないで…、見つからりません様に…)
押し潰されるような緊迫感に気が変に成りそうだった。
特殊な感知方法が無い事を誰とも知らないモノに祈る。見つかったら死ぬ。
幸い空中で活動するのが主な生態のおかげか、わざわざ地上に降りてくる個体はいない様だ。
フィジカルの強いモンスターを想定掘られたこの土掘は、中々に深く最下部は完全に影になっている。
―――そして暫く経ち、
「……ぷはぁ、げっほげっほ」
周囲の金切音が止んだことを確認し、被った土を払いのけて立ち上がる。
同時に上がる土埃を払った。
「やっと行ったか。服の中まで泥だらけだ」
危機を脱して安堵の溜息を付いた。今回はこれで撤退だろう。
鳥人獣のコロニーの殲滅なんて無理だし、そもそも報酬が全く見合わない、具体的にはゴルが一桁違う。
例え、
「はーもう、既定の討伐数は討伐したんだし、報酬は、出るといいな」
掘に叩き落した鳥人獣も”スタンチップ”に反応させ、討伐数の証明にしてから。
事前に垂れ延していた縄を掴み、掘りの外へとよじ登った。
一応なくても重心操作で登れるとは思うが、過信し失敗してここで干上がるのは随分間抜けだろう。
「ただの群れの殲滅依頼って言ってたのにな。全く」
ロープのフック代わりにしていた、相鉄双剣の片割れを回収し、土を払いながら愚痴る。
数は誤認かも知れないが、それでも冗談じゃなかった。こっちは命掛かっているのだから。
ボーナス目当てで巣というか、コロニーに突っ込んだら確実に死んでいた。
他の斃した個体は、食い散らかされていたが、スタンチップでの討伐証明の分には問題ない。
「というかアレ、共食いするのかおっかない」
『モウダメダー!モウダメダー!』
畑から外敵の襲来に反応したか、ヘンテコメロン達が盛んに跳ね回り声を上げている。
幾らかの果実は齧られていた。
アレは”モウダメダメロン”の防衛反応なんだろうか、逆効果だと思うのだが。
これらがうるさかったのも、鳥人獣の索敵を妨害していたのだろうか。
そう考えると何か可愛く見えてくる。
「とにかく戻ろう、散々だ」
周囲の空を警戒しながら歩を進め、町への帰路に付く。
結局、単独(ソロ)での動きの復学に付いては曖昧で終わったが、結果から逆算すればうまく動けたと言えるのだろうか。依頼未達成自体はどうしようもないが、自信が持てない。
●●●
結局、その後は鳥人獣に遭遇、交戦する事はなく町へと辿りついた。
所属の冒険者宿「ヴェルニース亭」にて。
「あら、おかえりなさい。その、随分泥だらけですが、依頼達成の報告でしょうか」
「いや、その。困った事になって」
依頼は達成不可であり、少し負い目を感じながら詳細を報告する。
「あと、特徴について草食性じゃなく雑食性で、連帯性質を持っているっぽいです。金切声の一つで仲間が総出で襲いかかってくる感じです」
ついでに【ウッドハーピー】の種族特性に付いて、観察で差異があった物も報告する。
最近に余所から流れてきた種だけあって、その情報が不確定な事があるのは珍しくはない。
知られていると言う事は、誰かが観測したと言う事である。それを纏め、共有するのが冒険者ギルドという互助組織の機能の一つだ。
「―――はい、詳細を把握しました。討伐を証明できる”スタンチップ”の提出をお願いします」
「あ、うん。これです」
一応、事前の討伐数は倒した不足はない。
相応に苦労はしている。なんとか報酬でないかなーと、浅ましく期待してたりしていた。
「……確かに、依頼人で申告された規定数は討伐したみたいですね。報酬について検討を行います。ただし事後になってしまうでしょうが」
一応、この依頼は民間人からの報告による依頼である。
目的である”巣の殲滅”が達成されなかったのは確かであり、ギルドは一応報酬を預けている立場から、依頼人の可否を確認しなければいけない。
ここで素直に頷いてくれれば手間はないのだが、と受付嬢は思考を巡らせる。
「報告が正しければ近くにモンスターのコロニーが発生している可能性、ですね。ではこちらに最新の地図がありますが、具体的な場所はわかりますか?」
「えっと、すみません。測位の道具を持ってないので、大体ここら辺としか」
「西の、森林帯の中心ですか、調査を送る必要がありますね」
刺された地を真剣な表情で思索する受付嬢、それは間違えなくプロの顏と言える
一般的な生活圏、交易路から離れているとはいえ、モンスターの異常繁殖は忌々しき問題である。
モンスターという敵対存在は著しく節操がない。
自然界に生きる者でありながら、”生態系すらも破壊する”ほどに増殖する事もあるクソッタレだ。
「経過は後ほど報告します。今日の所はまた、今日はお疲れ様でした」
「わかりました。ありがとうございます、じゃあ僕はこれで」
報告が終わり、カイトは受付から離れ酒場部分の席に座り、同じく依頼に行ってるはずだろうローズを待つ事にする。
―――それを見送って、受付嬢。ヒバリ・カイルンは自身の仕事が増えた事に溜息を付く。
「厄介ですね。依頼人の意図的な隠蔽だったら、警告と警戒対象に格上げですか」
ギルドの受付嬢として長く務めた様々な案件を処理した経験から、彼女はある種の確信を抱いていた。
これは意図的な虚偽隠蔽の依頼であり、ある種の悪意さえ含まれていると。
ただ冒険者”如き”に、報酬を払いたくない、ただそれだけの浅知恵だろう。
安定地帯である【聖錬】では特に、冒険者など使い捨ての道具だと考えている輩も一定数いる。
「……はぁ、何時まで経ってもこういう輩は減りません」
モンスターの異常発生の隠蔽は、更に依頼として出すのは、許可なくモンスターを飼育する事と同等に法的に違法であるが、惚けられたら追求・証明する手段はない。
割と本気で貴重な真面目な働き手を、事故の様に消費させられそうになった怒りも面目もあるが。
仮にギルド”ヴェルニース亭”の規模がもっと大きい物であったら、強引な手段を取れたかもしれないが、所詮は弱小ギルドだ。
(あーもう、無事帰って来てよかった…。うちの真面目に仕事をする冒険者なんて半分にも満たないってのに)
今度は安堵の溜息。
しかもそういった
公的機関、ギルドの手間を煩わせるものだと、彼女は知っている。
―――これは、後日の話であるが。
受付嬢がが懸念した通り。
依頼の達成は不可能だと通知した際に、件の依頼人が預けた依頼金を返せとクレームが入る。
しかも不容易に畑を破壊したとして、賠償請求まで送りつけてきた。
くだらない、面倒くさい。取り合ってられない。
そして依頼人である畑の地主は、過去に【ラインセドナ】の他でもギルドにて、同じ様な過少虚偽の依頼を繰り返していた”常習犯”であった。
どこのギルドからもブラックリスト判定を受けた彼は、これから自力で自身の身を、自身の財産を護らなくてはいけないのだが、これは彼等にもギルドにも関係ない話で。
今のような行為を続けていれば、いずれ何からもそっぽ向かれて干上がるだろう。
この世界では社会のルールを守らない者は、社会からも護ってもらえない。
幾ら金や立場を持っていようと、ムラハチにされれば生きられない。
「この世界は、甘くないと言うのに」
そうぼつりと彼女は呟いたのだった。
●●●
ミルクと軽いジャーキーだけ頼んで、待ち合わせ場所を占有する建前を保ちながら。
報告からまたしばらく、日が落ちる程度の時間が経った頃。
「やっほーカイト、もう戻ってたんだ」
「おかえり、ローズ。ちょっと事情があって」
相棒が戻り、やっと彼等は待合の酒場で合流した。
ローズの方は無事に依頼を達成する事が出来た様で、小気味のいい重さの有りそうな小袋を掲げている。
「どったの?アンタが日和るとは思わないけどさ、もし体調が悪いのなら無理にでも休ませるからね」
「いや、そういう訳じゃなくてさ。危険すぎて報酬も見合わないから切り上げた」
疑問を口にする彼女に、今回の依頼で合った事を説明する。
畑を襲うモンスターの巣の殲滅の依頼だったはずが、既にコロニーを形成していた事。
機動力があり、連携に優れた個体にタコ殴りにされるのはあっという間に死ぬので、畑襲っていたのだけ殺して、掘土に埋まって身を隠して、撒いて戻ってきたのだと。
「何それ!?確実に死ぬ罠みたいなじゃないっ、それでタダ働きとか冗談じゃないわ!」
「うん全くだね。報酬はまぁ検討するってさ、出るといいね」
彼女と同感だった。
依頼を途中で放棄した事自体は間違えないので、あまり期待はしていないのだが。
「とりあえず、ローズは依頼成功したみたいで何より。どお?成長とか実感できた」
「もちのろんよ!あたしは真っ直ぐ行ってぶっ飛ばすだけだからねー。身体が出来上がって来たのはわかりやすいんだけど、ただ器用さは上がった気がしないのよね。これが」
「そうか、ローズもか」
やはり魔具か、近道を望むなら強力な魔具しかないのか。
だがまだまだ高級魔具及び異物の類は彼等には遠すぎて、夢の又夢である。
「あ!?そういえば思い出したけど、そこの依頼って畑の工事とかに駆り出されたけど、確かに滅茶苦茶に横柄でしっつれいなクソオヤジだったわね。奴隷みたいな扱いよ、腹立つ、今度一発くれてやろうかしら」
「気持ちはありがたいけど、やめてこっちが捕まる」
「もちろん冗談よ」
からからと笑う。
家出母パンチの実績もあり、彼女が言うと割と冗談に聞こえないのが困ったものだ。
感性に生きる彼女はやる時はやる女である。
「さてじゃあ戻ろう、泥だらけで気持ち悪いし早く防具脱いで、土叩きたい」
「あいよー。手伝おうか?」
「いいよ、大丈夫。丸洗いする訳でもないし」
ギルドの出入り口に向かい、それぞれの宿に向かって歩く。
どうせどう足掻いても汚れる物だ。整備はきちんとするがそれ以外は最低限でいい。
「んでさ、
「出るとしても、大きなギルドに回されると思う」
多分、所属30人程度の弱小ギルド【ヴェルニース亭】では、長期期間での管理処理が厳しいだろう。殲滅してしまえばその穴を別のモンスターが埋めてさらに厄介になる。
ここは
この世界の文化として
ちなみに、後日になるが今回の依頼の基本報酬は出た。
ありがたい事だった。
その後は相棒と成果を確認し、反省した後。
いつも通りに分かれて、各々の借家に戻り夜を過ごす。
成長は実感できた、前に進んでいる。そう自分に言い聞かせて、明日の備えるのだった
【ラインセドナ】
聖錬南部にある田舎町、人口は3000人程度?
特徴は北部の山岳地帯から、流れてくる清流による澄んだ水、それを利用した農業が主力産業。
工業は余り発展しておらず、主要交易路から外れている為に生産力は微妙な都市。
名の通った防衛戦力はほぼ居ないが、冒険者ギルドを三か所、ハーモナイザを2つ保有する。
その相応に冒険者を抱えている。
唯一の野生修羅候補は公務員である一人のギルドナイトが噂されている(予定)。
延長しての行けそうな範囲は【ヴァ―ミリオン】、【パリス同盟】、伸ばして波濤【セレクティブ】?
初期で話進めたら.hackのマク・アヌだが。GUの影響もあり大都市というイメージがあったので。
本編に関係ないとはいえ、大都市生やすのはどうかなとオリジナル町を捏造。