ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
―――『ネットスラム』
【碑文八相:増殖】【超絶魔力】【領域作成:禍々シキ波】
開け日の光に照らし出された退廃の楽園。
渦巻く巨蛇、浮かび上がる石の葉の群れ、群れ、群れ……。
拓けたドームの頭上に覗くのは異形の大蛇、無機質な仮面の下に静かにこちらを見降ろしてるだろう。
ドローン、幾多にも浮かび上がったそれ。
おそらく魔女が操るであろう
放った弾丸、
【衝撃の杖】【増殖の波動】
対して大蛇は握りしめる長柄質量をもって。外で猛威を振るった石槌を武器として振り落す。
膨大に垂れ流される自己領域という水面に、大質量がぶつかる"衝撃を電波させ"一蹴に叩き落した。
『碑文八相』が領域作成、自己
文字通りに虚空が震える。
衝撃に
魔女が好んで用いる単純構造ゆえに再利用と量産が効く。飛行をプロペラに依存する魔動機の弱点―――
バランサーの範囲を超えて、姿勢を大きく崩せば墜落する外ない。
そして、出迎えた魔女の手勢たる
『―――――――……禁則を観測』
虚無の如く虚ろな目に、隔絶した魔力の波を垂れ流す。
従えるのは幾多もの
『―――波ヲ、或ルベキ収束ヲ乱ス存在ハ
無機質な意味の取れないつぶやき。
推定"魔王級"、その理不尽は呆気にとられるほどに悠々と存在していた。
キィイン。
ガラスが擦り合わせられる如く高音が鳴り響く。
それは予兆、世界に満ち渡る光を収奪する葉の領域場だ。
その眼下には・
ぎしっ!
「っぐ重っ」
「少しだけ耐えなさい蓋を持ち上げる!併せて
『黄昏の腕輪:プロテクト』・【固有術:木卦牢壁】
崩れ落ちた瓦礫、積み重なるそれを。
腕輪の花弁から派生した障壁と、僅かに持ち込んだ土卦を糧に成長した木々が柱に支えていた。
障壁の解除とタイミングを合わせて、木々の成長に跳ね除け。
「いきなり圧死の危機かよ。糞がっ、おめーといると退屈だけはしなねぇな?!」
「よっしゃ力仕事なら任しときなさい!」」
『黒蜘蛛の鎧』【暗黒剣:アンゾット】【生命燃焼】・【重剣技】【打ち返し】【怪力】
なお、崩れてくる降り積もった瓦礫の質量を。
生命の理を知る剣士が、生命力を活性して一時的なブーストに無理やりぶん殴った。
道は拓けた。
バッ!
「陣形放棄、散開ッ!ほら、固まると纏めて薙ぎ払わられるぞ!!」
「リコっ、誘導お願い!」
「ん」
熟達たる金糸の槍使いの号令、言われるまでもなく音を認識したとたんに、ばらけて散開する。
あぁ、一度交戦した彼らは知っている。
それは致死の光線、それを目前に、足を留めれば死が迫ることを。
「えーなんでぇ!?ここは誰も知らないハズのわくわく秘密基地だよぉ?あの"大蛇"がこんなところにぃー!?」
「ばかっ、ミストラルまずは隠れるわよ!」
「うあー?!」
なお、唯一場慣れしていない白耳帽の術師が、あわあわと混乱に愛杖を振り回すのを。
重剣の剣士が強引にパワーで攫って離脱する一幕があったが。
かねがね対応しただろう。
離脱しとっさに物陰に隠れる、彼らとてすでに熟達だ。
理不尽に挑むは事前の情報が、ここまで大きな意味を持つのである。
そして放たれる。
あふれんばかりの閃光が周囲を引き裂く。
【円環の蛇】【苛烈なる萌芽】【新緑の閃光】
分離した葉の群れ、初手の熱線の雨、薙ぎ払うように周囲を切断するだろう。
魔王級の号令、崩れる寄せ集めの機械壁、切断され切れ建造物、ジャンクたちの活力の貯蔵たるオイルタンクに引火し爆発した。
暗闇が白夜と見まがわんほどの、炸裂が巻き起こる。
先にさんざんに猛威を振るった、最速致死の熱源の網だった。
『増殖』は閃光に爆音に満たされる中、眼下を見下ろす。
ザンッ!
『―――ギっ?』
【魔法剣Lv3/5:エアブレード】
しかし突然、その『大蛇』の歪両腕の幾つか指が風に切れ落ちた。
面を向ければこの炸裂・閃光音が連続し周囲を圧倒する中、影を落とし機動を描く影があった。
「この、まるで図ったようなタイミングで―――」
【人魔身:白翼】【高速機動適正】【迎撃態勢:怨敵覚悟】
それは聖錬冒険者の最精鋭、"蒼天"と綽名される隼の如く冒険者だった。
翼をもって攻撃を躱しながらの反撃に移らんとする。
苛立つ鋭利な声が相対して、最前線を往く者の意地を示すだろう。
「情報にあった"大蛇"かッこれは『守護者』ではなかったという事か!?」
例えば隔離領域。
この世界の法則性に則った推測が、外れたことに内心舌打ちしながら。
「なんにせよ乱入者に好き勝手には、させんっ!」
【魔法剣Lv3:エンブロア】【風の担い手】【修羅道】
"蒼天"は崩れる瓦礫をものともせず潜り抜け―――
むじろ魔法剣をもって、瓦礫を風渦巻く質量弾として弾き飛ばした。
泉の如く湧き上がる戦闘経験、環境利用機動性を生かした即応、流れるようなカウンターである。
いかにマナの海に巨躯を象った"魔王級"であっても、有効打に。
―――しかし。
しかし、『増殖』は指が切れ落ちた。
石槌の杖を、満足に振り回せない長柄の利を手放した。
空手になったその歪な両腕を振り回し。
グゥアン!!
『―――高軌道、"風使い人型"―――最優先排除対象―――』
「っぅ来るか化け物、いいだろう受けて立つ!」
【増殖の波動】【新緑ノ雫腕】【飛翔】
『増殖』は油断なく丁寧に、その歪な腕で受け流した。
不運だったのは既にこの大蛇は戦闘経験を集積し、最適化しつつあったことだろう。
【領域作成:禍々シキ並】【飛翔】
【白翼の翼】【月衣】【高機動適正】
半円に切り取られた空、崩れ行くドーム中の空中戦である。
『増殖』が波立つようにうねり、その細身巨躯の反作用をもって大気を滑る様に迫りくる。
たいして"蒼天"は制限された空を、その翅を翻して宙をくぐる。
ギャン!!
そして、打ち鳴らされる尾に追随する"石葉"と、剣の競り合い。
機動力はともかく、小回りは運動性は小人である"蒼天"の方が効くだろう。
それを見越したが高速機動である。
閃光が標準が隼を追う。
追いきれぬまま
対して"蒼天"が瓦礫を蹴り、反作用に加速する。
それでも、振り払えない。
ギャイン!!
「こいっつ、まるで蛇のように……!空を這う蛇なぞどんな冗談だ!」
『―――選択、
交差する軌道、かわらず"蒼天"を掠るように追随した。
『増殖』の構造、くねりくねりと宙を翻るその動作が、追随する尾の葉のはためきが、運動性能に繋がっているのだ。
さらに『大蛇』は展開した沸き立ち重なった
隼の如く天の自由を得た人型には、己の障壁を維持した肉薄では押し出された大気に乗って逃れてしまうと知るがゆえに。
「っち、ここまで巨躯の扱いに習熟しているとはな」
【適応進化思考】【常世裂き咲く花:
そう戦闘経験により基本性能はそのままに、最適化されている。
これが交戦し、トラウマを植え付けられるほどに、蹂躙された存在は。
―――【一騎当殲】【虐殺の主】
死に瀕していながらも、目の前に相対する剣士。
否、その遥か上を行く
となれば、その条件下で矮小な人が抗える道理はなく。
なお傍目に渡り合う。
翼に宙を傀儡り舞うのは、聖錬の冒険者の最精鋭『鬼人八部衆』たる証明か。
【魔法剣Lv3/5:エアブレード】
再度交差する、巨腕と剣撃。交差にすれ違う尾撃と剣。
幾度も、風纏と質量のぶつかり合いのよる破音が響き渡った。
流れる景色、三半規管に回る意識。
その中でも"蒼天"は己が"必殺"たる、聖剣をブチ当てるタイミングを計りながら舞う。
空戦を舞い続ける。
『どうでもいいけど……"蒼天"高度を上げて、尾に巻かれる、よ?』
「―――ッぐ!!」
【メンタルフィールド】【テレパス】
突如、頭の中に何処か投げやりで透明な声が響き渡る。
その声に応じて、空戦の反作用に押しつぶされそうなりつつも、弧を描くように、尾の軌道が狭まるのを観測した。
彼らの領域、困惑おいて故に反射に動く、身に沁みついた経験が動かす。
その頭に響いた言葉が結実する如く。
尾の追随する
蛇が蜷局巻き絞め殺す様に機動戦の中、巨大な尾で追随する石葉と供に"蒼天"を包囲してたのだ。
「……っ今の声は…!?」
間一髪逃れた白翼の影が、構造物尖塔の上に一度降り立つ。
「ぐっ、具足が熱に焼かれたか……っ!だが!!」
生命燃焼のよる肉体の過稼働"蒼天"は辛くも難を逃れ……、しかし無傷とはいかなかった。
光は早い、余波だけでも金属具足を掠りその熱に負傷している。
【修羅道】
一息つき剣の切っ先を向ける、オアシスの如く湧き出る闘争心は尽きない。
『―――ブゥォン』
たいして逃した事に不機嫌に渦巻く巨体、異形の蛇を睨みつけ―――
しかし、その稼いだ時間の中。
その二つとは、関係のない風切り音が割って入る。
「もー!許せない!こんな宝の山なのにー、秘密基地をよくもー!」
「なんか怒るところ違くないミストラル!?」
『オウムガイの杖:多重複製』【道具知識】【魔術師Lv2/5】=【ラインレイザス】
一つは白耳の魔術師の得意魔術、一つを複製する光矢群である。
道具使いとして、制御を道具に代替えさせながら、自身の周囲に並列に幾星霜の光筒を浮かべて。
「あったれー☆」
愛杖の振りかぶる動作と供にばら撒いた。
『――――――二章級魔術、障害、脅威度"低"』
ばちぃ……!
その光矢は"大蛇"の本体には巨腕の一振りに払われるが。
従える"葉の端末"に末端に当たり、角度崩させる。
その合間に割り込むのは遺構を連続で蹴り上げて、躍り出た錬気による竜モドキを着飾る重剣士である。
それは身体能力任せの大跳躍だ。
「よーし♪これできっと"葉っぱ"の射角外れたはず、あっとはよろっしく☆」
「あいよー!任された!いきなり派手に崩してビビったじゃないのコンチクショーが!!」
ろくに制御されていないが、それでいい。
これは牽制射だ。ミストラルが
それは目の前にいる『増殖』の閃光にも共通する事を光使いの感覚として、理解している。
【森眼:鷹の眼】【陽気の嗅覚】
今の、彼女の眼があれば狙い通りの場所に中てる事は容易い。
それでいてその術式は分かり易く派手だ。
目を引かずには居られない。所以斉射に求められる圧力を得られるだろう。
【闘気剣:オーラファング】【錬気法:竜装帰】【蒼火の灯】
"蒼天"によりばら撒かれた風属性を、"相棒"の仄火に無意識の精霊術として転化しながら。
錬気に錬られたその硬皮は既に瓦礫をものともせず、その尾は跳ね上がり重心を発条の如く延長する。
その全てを動員して反作用にて、重力を合わせた剣を振り下ろす筋道を作り出すだろう。
その竜鱗大剣に纏うは、流転して噛み砕く闘気の牙である。
『―――脅威度中、――――――
「知るか!食いちぎるおっらぁあぶちかませ!!」
【新緑の雫腕】【過負荷装甲】【適応進化思考】【超絶魔力】
ガァン!
"巨蛇"はその歪な腕に振りかざして、出力を上げた。
単純動作真っ向からの防御を選択したのである。
一番の脅威、体制を崩して控えている"蒼天"を警戒した故の単純な選択―――
『碑文八相:
「っち、止められた…!?」
ぶつかり合う、闘気の牙が噛まれ大剣が嚙み合わされ留められた。
それはベターでありこの状況では悪手でもあった。
闘気剣との競り合いに、飛び散る火花をかみしめる様に吐き捨てたながら。
彼女の活力は怒りでありあきらめが悪い。
身をよじる着飾った竜尾、カウンターウェイトを振りかざし……。
「上等!もう一発こんにゃろおおお!!」
【重剣士:剛剣】【打ち返し】【竜装帰:ドラゴンテイル】【生命活性】
構わず竜尾で叩いて再度跳ね上がり、風纏の落下に2度目の回転剣戟をぶちかます。
撓む魔力帯、巨木を重機に殴りつけた如く、撓りを帯びた轟音が響き渡る。
真っ向から重力と並外れた怪力を受け止めた、出力を防御に回した。
『―――ジ?!』
全てを受け止める防御という選択、衝撃に『大蛇』の高度が落ちる。
"生"に活性された剛剣技だ。巨体を揺るがすほどの衝撃は余裕にあるだろう。
対処のために電脳が廻る。
『―――高度低下、領域作成、
その
宙を制するは、地を這うしかない有象無象に対しては絶大な優位を持つ。
"増殖"は短期間に重なった戦闘経験に学習している。
この世界の人類のしぶとさを、貪欲さを、その殺意を、先に散々に追われ振り払ったのだから。
『戦術選択―――全通達
あぁ、結論は決まっている。徹底的に有利な距離で蹂躙する。
有象無象に寄らせてはならない。
収奪され増幅、空を汚す、再度この地下遺構を焼き払うように、数重の葉が光閃振りかざした。
"ぼぅ"
二手、三手先予定調和を測する電脳がゆえに。
今も土煙を破って炎の揺らめきが、その躯体に迫る事が理解できない。
「―――そっちから来てくれた」
【精霊術Lv2/5:デクトーマ】【ダンシングヒーロー】【狂羅輪廻】
落下地点のすぐ底、己の"碑文巨体"を陰という死角、そこに肉薄する小人を捉えた。
複雑なマナの動きはなかった。ゆえに疑問の答えはすぐ出る。
若葉の双剣士は光閃を振りかざす真っただ中、高度を落とす
当然に、降り注ぐ致死に顧みず躊躇も置いて、全力で迫っただけだ。
「敵が、侵略者が、間違いない
『絆の双刃:旋律共鳴』【魔法剣Lv2/5:爆竜相刃】【錬■■息】
今までの魔女の言葉、過去への残穢それがどうにでもよくなるように。
それは彼が基礎ながら渾身、炎混じりけの剣宣、"呪印術"にマナに縛り上げ巨大な魔法剣が振るわれる。
飛び散るマナ細工の虚空に肉体だ。
"巨蛇"はその尾から焼き裂かれて亀裂を走らせ、本来支えるはずだった自重を支えきれず崩れ落ち……。
結果、"巨蛇"は地を這う。
『黄昏の腕輪』
そして双剣を振り落し、双剣士のその片腕に、流れるように展開される。
見覚えがあるだろう、破滅をもたらす六輪の造花の吐息だ。
『!』
【新緑の雫腕】
致命的な言霊反応しそれでも歪な両腕を振りかざし、放とうとする人型を薙ぎ払った。
「なんでもいい。この瞬間だけは」
若葉の双剣士は展開しつつあった電子花弁で殴りつけ、反動に姿勢を低く距離を踏ん張った。
「追いつけない過去の代わりに、どうしようもない現実がくる」
"狂羅輪廻"、この世界に応じた経験を、闘争への無限に源泉とする修羅とも違う。
この世界に適応するしぶとき雑草の一系樹、狂気の淵に相手の最悪を踏み抜き、笑う。
彼等は敵対者と薄氷の上を互いに、踏み外すまで踊り続けるタップダンサーである。
「―――うん、それだけは間違わない。だから、進むも絶えるもお前が墜ちてからでいい」
若葉の双剣士の心は燃える、呼応する双剣を構えて、虚ろな仮面の眼が対峙する。
行き場のないこの感情ともに棄てられるもの。
『碑文八相』、"魔王級"という幾度の退治した脅威に、拓かれた第六感が。
ヒシヒシと肌に感じるマナの波動、怨敵たる
――― 一方時間は巻き戻り……。
『ネットスラム』
それが徹底的なまでの違法建設を施され、膨らむ"ネットスラム"という複雑な構造体の一つ。
突然の襲撃から逃れ、"蒼天"が抗戦する中。
その一つにの建物、その屋根の影に隠れて彼らは降り注ぐ閃光から、身を守ってた。
伝播する、衝撃に揺れる振動に身を隠しながら。
「―――聞いてない」
男装の魔術師は、杖を抱えながら、何処か気だるげな陰気に恨めしそうなジト目を向ける。
声の主は監視役に付いてきた『紅衣の騎士団』所属の魔術師"司"である。
その不満はもっともだろう。
あくまで彼女は『騎士団』からの外部監視役である。
「探りを、調査のはずだった。なのにこんなところで、あんなのに襲撃されるなんて」
「そんなのあたし等も予想外よ。どこで盗み聞きされたなんて知らないけどさー。あの
ローズはその不満を肩をすぼめて流す。
先の会話、というより魔女の一人語りの何処かにトリガーがあった事は明確だろう。
「ふふ失礼ね。タイミングを誘導したのは確かだけど、遅かれ早かれこうなっていたわよ」
「うわでたっ」
相変わらず、不適に笑みを浮かべながら。
件の魔女事、先に一人語りをした魔女"ヘルバ"が床から生える様にぬっと現れた。
「何、忙しい。貴方にかまってる暇がない。僕等はあれを僕の敵を滅ぼす」
「あら、以外。さっきまで否定してたのに、意外と落ち着いてるのね」
「ん、仮に貴方の言葉がどこまでも真実であったとしても、今はバルムンクさんが今戦っている」
一呼吸して。
過去の事、故郷が
「誰に刃を向けるのが明確ならアレを叩き落してから、全部考えればいい」
【狂羅輪廻】【迎撃態勢:怨敵覚悟】
若葉の双剣士は吐き捨てる様に、己が歩いてきた道が誰かが描いた絵空事だとしても。
迫る現実に戦わぬ理由はない。自棄になるには余りに闘争の道が身に染みている。
そして。向き直って、或る意味の部外者に声をかける。
「司君、で呼び方いいんだっけ」
「……なに、カイト」
「僕たちはあの『大蛇』を、
そのふるまいから、どう呼ぶか迷ったが本人に振る舞い倣って呼び。
杖に寄りかかり問いかけに対して男装の少女は、ぶっきらぼうに答えた。
あくまで彼女は監視役だ。こんな得体のしれない局面で命を懸ける理由なんてないのかもしれない。
しかし。
「別に構わない。あれを壊したら、きっと少しは"昴"の天秤は軽くなるんだから」
【比翼の鳥】【自己中心・逃避】
多少口が悪いが、呆気ないほどに、その提案はすんなりと通った
男装の魔術師は、少女なりのここにいる理由がある。
『騎士団』が掲げる理念や国の剣なんてお題目にはちゃんちゃら興味がない。
「昴の為に、好きなだけその命を投げ捨ててろ冒険者」
「ありがと助かる」
「……この仮面で、そう礼を言われると調子狂うんだけど」
そう、男装の少女の頭にあるのは、優しすぎるほどに優しい想い人たる"紅衣の姫君"だ。
その天秤に容易に慈悲を乗せてしまう。
だから誰よりも苦しむ、その天秤を軽くすることは彼女の都合に合うことだ。
その会話の傍に。
「うふふ、頼もしいわね。対して私のかわいいジャンク品からくみ上げた
【純粋理性】
魔女は嘆くように。
しかしその言葉の芯は平坦に、冷静に分析するように続ける。
「
【純粋理性】
ぶつぶつと呟きながら。
「ふふ、直接の戦闘は苦手分野ね。餅は餅屋に……といったところかしら」
「なーにさ、アンタ意味深に手伝うとか言って何の役にも立たないじゃないの」
「手厳しいわね。だから、こうしましょう。素敵な素敵なプレゼントがあるわ」
白衣の魔女はこちらに杖を向けた。
そこに現れるのは幾何学模様の立方体である。
しかしそこにマナの動きはない。敵意はないと言うように、手招きをする様に。
「プレゼント……?」
「そうほら、聞いているのでしょう?今は"リコリス"……って呼ばれてたかしら」
魔女は先ほどから手を握って、後ろに隠れていた儚紅の少女を呼んだ。
バイザーに隠された瞳から意図も感情も読み取れないだろう。
「リコに、貴方が」
「あら訝し気ね、未だ手探りでしょう貴方の"電子魔術"いえ本能というべきかしらね。それを高める手段、方法その一歩をあげるわ」
『―――……』
動揺が走るのが分かる。
宿主である若葉の少年には、それが手に取る様にわかるだろう。
(嫌な奴、私の手が通じない魔女。私の"本性"を塗りつぶす。恐い、格上の魔女)
【偶像少女】【壊れた心】【常世裂き咲く花】
儚紅の少女とて興味はある。目の前の魔女は未開拓の技能、己の本性と呼べるソレの先駆者である。
かつて死の断絶に、無為の時間に揺蕩い。静観に腐っていた時とは違う。
その花はすでに根腐りをやめている。
(私の、私の、居場所)
【電子精霊】【フェイト】
未だに少女は脆い存在だ、己一人の意志で選ぶ勇気はない。
だから。
「リコ、大丈夫前にいるから」
『……(こくん)』
だから、好きにしていい。言葉がなくとも少女は察する。
宙に儚い紅色に彩られ、その中から幼子が形どられる。
儚紅の少女は根ざした居場所に、庇護者に一瞥してその声と同時に、握られる得物の響きに安堵しながら。
(守りたい。それに、守ってもらえる)
「ふふ、いい子ね」
そう、儚紅の少女は大切な人の役に立つ可能性に伸ばした。
「これは私が完成させた|『プログラム』の一つ、中身はそう"天球儀"といった方がいいかしら、周囲の環境を任意の尺度で写し取るそれと、自己位置を確立させる"黒い軸"―――」
魔女はその
近しい概念を例えるなら機巧における『ハイパーセンサー』が近しい。
周囲を写し取り、書き出す球体地図、縁を中心に幾多の情報が重なる故の"概念的天球儀"である。
これ自体は現行の機巧の規格それ合わせれば、相当に先進的なものだ。
しかし、そんなものでしかない。
「これをどう、するの」
「―――見て覚えなさい。いえ"盗み"なさい」
魔女はそんなものは本題ではないというように、幼子に続けて語る。
「遺失技術―――私たち
電子魔術。
遺失技術である為に、段階を踏んで学ぶ手段は既に散逸している。
しかし、彼女は『円環精霊』という自然発生しえない、電子世界を本性と備える精霊である。
「覚えておきなさい。住む世界が違う貴方は『特別』なの、
魔女は言う。その本能を、己の"本性"をものにしなさいと。
それだけだ。
魔女の真意は見えない。
魔女はどこまでも、その意図を隠しながら、現実は迫りつつあるのだった。