ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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長くなったのでまた分割しました
視点分割しすぎたなぁ……(反省点)


逃走【増殖の世界樹】

―――場所が移り変わる。

『脈動する大豊の森』

 

 ネットスラムでの交戦から時間は遡り……。

 

 こちらは隔離領域の攻略を任された彼等の視点である、

 外部からの観測に、おおよそ『隔離領域』(ボックスヘル)に等しきとまで自己法則を膨張したこの森にて。

 そこに君臨する『守護者』(ガーディアン)と思わしき異形の蛇と遭遇しそのまま交戦していた。

 

 主力を成すのは聖錬南部に拡がる未開の地、アーカルム監視を使命とする『秩序の騎士団』だ。

 派遣された彼らは精鋭である。

 

【領域作成:禍々シキ波】 

 碑文八相の共通機能たる足取る粒子の奔流、湧き上がるノイズ領域。

 既に幾度も抗戦した故に慣れて前提に動く徒党(カイト等)とは違った形で、都度出力を調整し踏み消した。

 

【新緑ノ閃光】

 時に数多降り注ぐ閃光を、金属粉と大いなる風にまとめて拡散し続ける。

【衝撃ノ杖】【増殖ノ波動】

 時に世界樹の枝たる"石槌"の墜落を竜の牙たる魔法剣に焼き、フレシェットの火薬に焼かれる。

【円環の蛇】【苛烈ナル萌芽】

 時に襲い掛かる生態系そのもの、蟲モドキの群れを。

 森に大地に伏せられた石葉の機雷を、潜り抜けながら交戦し続けた。

【碑文八相:増殖】【世界樹ノ方程式】【紋章砲】(データドレイン)

 しかしとして、それは環境に依存して"物量の化身として設計されたそれである。

 中心たる"仮想の世界樹"から無尽蔵に()が、葉が成長し補充される。

 そして枝が"質量弾"となり森一帯を叩きのめし、葉が"閃光"の砲台として、時に機雷としてまぎれる。

 これがこの環境下で本領を発揮した『碑文八相』が一柱だった。

 おおよそこの場は『隔離領域』(ボックスヘル)とみなされる生態系大反乱の中心地である。

 碑文八相が『増殖』(メイガス)は自身の根付いた支配領域化では―――

【天に等しき者】

 それこそ神を越え、"天に等しき"と評されるであろうポテンシャルを発揮するのである。

 

 しかし、ただ理不尽はバケモノ側の特権ではない。

 理不尽は理不尽によって踏み潰される、それがこの世界の道理である。

 

 それは宙から燃え上がりながら徐々に規模を増して形を現す。

 巨大な巨大な炎熱の巨人。

『―――墜ちて破砕せよ、炎熱地獄を越え。定まれ我が(アザナ)闘炎の鎧よ!!』

【闘炎の鎧:化身化】(コロッサス・マグナ)【蒸気放出】【陰陽・炎熱機関】(プロミネンスリアクター)

 英霊たる精人(エインフェリア)の一柱、再現された偉大なる者(マグナ)たる銀髪の乙女。

【奥義:次元断】 

 その宙からの顕現が、隕石の如く力技で多くが焼け、あらゆる状況をリセットする一手として吹き飛ばしたのである。

 

 それでも。

 

 その無尽蔵を前に体力は尽きる、火薬は尽きる、魔力は尽きる。

 果て無き渦中、火薬の匂いに焼かれた木々の青々しさと混じりけ匂いが漂う戦場にて。

 人類の最精鋭の一端たる彼等と、碑文八相増殖(メイガス)の交戦は突然に終わりを告げた。

 

「あぁくそっ!そんなのありかよあの野郎逃げやがった!戻ってこい卑怯者ォ!!」

【カモフラージュ】【フォレストレンジャー】【天秤の定め】

 緑の青年がマントを翻しアンカー支えられ、クロスボウの次矢を装填しながら。

 マントを翻して、木々に足掛け悔しさに空に叫ぶ。

 ついでの様に陣形に群がる蟲畜生が、矢に叩き落された。

 

―――そう、それは突然事だった。

 何かに反応したように、

 この隔離領域モドキの"守護者"と目された『大蛇』がまるで緊急事態を感知したかのように。

 突然に明後日の方向の青空に逃走したのだ。

 

『環境適応装備』【秩序の騎士団】【熟達する経験】

 例えば"閃光"の射撃に徹するつもりかと追いかけた軽装猟兵が。

 しかし、何処までも明後日に去るそれに、装備と魔力の限界に失速して木々に着地する。

 既に彼らに余力はない、それを黙って見送るしかなかった。

 

「……っち、いかんな過稼働(オーバーヒート)か、"守護者"(ターゲット)戦域を離脱を確認」

「これは幸運だったかそれとも、なんにせよ既に有効距離外ね」

【フィールドワーカー:】【秩序の騎士団】【特殊軽装猟兵】(イェーガー)

 追撃した猟兵は、過稼働に装備の一部を焼かれ重心移動に軟着陸した。

 そして息を切らしながら、木々に身を預けて困惑をつぶやいたのである。

 

 悪整地に対する環境適応装備、アンカーフックの射出と、魔力の放射機能による短時間の立体機動を実現するそれを身に纏っているが所詮それだけだ。

 

 空の自由を持つバケモノに、どこまでも追撃する程の機動力はないのである。

 

 戦場に似つかわぬその困惑の空気の傍らに。

「呆けるにはまだ早いぞ―――!」

―――バチィ!

 奔る迅雷。

 焦土の中心地、化身として巨人を顕現させ、反動に動けないコロナという少女を庇う様に。

 そこに群がる蟲畜生の群れを瞬く間にを四肢を分解する。

【紫電増幅:Lv3→紫電Lv2】【大型カウンターウェイト・胸部的な】(名誉メスドラフ)

 その小さな体に不釣り合いな果実を抜群に揺るがし、紫電を発散しながら。

 最高速のギアを落とし、紫電の影の如く駆け回っていた戦乙女が全体の指揮に機動を留めた。

 

「まずは状況の把握だ。動ける者は怪我人の回収と陣形の立て直しを急げ!!」

【アーカルム提督】【秩序の剣】【超絶美形】

 聖錬32将が一人、モニカ・ヴァイスヴィント。

 その姿見に余る大黒帽子とマントと深々とかぶり直し、鏡面の如く刀身を空に向けた。

 身体に満ちる余剰の生体電流の放出も兼ね、その覇気と供に号令を放つ。

 

「くれぐれ忘れるな。作戦目標はいまだ健在なのだぞ!」

 空を走る雷撃と号令に攻略斑の一団は、一気に引き戻された。

 途端、彼等は隊列を組み直して動き出す。

 

 犠牲はある。

 四人一組(フォーマンセル)の陣形による強行軍について行けず、ならばと囮に離脱した者。

 無視できない負傷に作戦行動から脱落し一抹の望みに身を潜めた者。

 既に運悪く蟲畜生に喰いつかれ躯となったことを確認した者。

 そして、幾何学文様の光帯による吐息により、訳も分からぬまま溶かされた者達である。

 

 聖錬国のために尽くす練度を積んだ正規兵の価値は高い。

 作戦遂行の為、捨て置いて駆け抜けたが、こうして拾える余裕があれば拾うべきものだ。

 たとえそれが、既に躯となった骨の一本にすぎなくても……である。

 

 上に立つ者として凛と振舞ってはいるが、その実、内心は苦々しく噛みしめる。

「っち、あの"大蛇"、仕留めそこなったかここで逃したのはどう凶と出るか」

『スカイエース:休眠』【白翼の風】

 あちらこちら紫電で焦げたマントを翻し、小柄な身体を弾ましてリズムを戻す。

 鏡面の如く、青空澄み渡る刀身を鞘に収めた途端、展開されていた風の流転が引き戻される。

 風を手繰りしA級魔導具、刀身の冷却時間に童女が独り言ちる。

 

「この手に、奴を殺しきる切り札もあった」

 切り札を切る為の状況に至るまでに激闘にはなっただろう。これ以上の犠牲者も出ただろう。

 それでも十二分に彼等で、この環境下においても、"生態系"を敵に回そうとも討伐可能な戦力であった。

 

「将として戦局の見切りが遅かったか、グランの奴が冒険者でなければ指揮をぶん投げてやったんだが、やはり私は鉄砲玉が性に合っている」

【聖錬32将】【地■の鋼星】(メダリオン)【魔法剣Lv3/5】=【滅技:旋風雷閃撃鎖斬】

 この"聖錬"において国の武力の代表たる業に、"滅技"と呼ばれるものがある。

 彼女の場合、たとえ神と例えられる尽きぬ不死であろうが、決死ならざる生命燃焼と供に大地に満ちるマナを巻き込みながら周辺全てを磁性を手繰り、大気の全てを磁力による発射台に。

 再生以上の斬撃で殲滅する文字通りの"滅技"と呼ばれる神業―――である。

 

 とある将は、マナ現象に寄らぬ科学的雷を作り出し、それを制御し敵対者を焼き尽くすだろう。

 とある将は、天属性による光学的幾多の機雷。極致たる熱量と衝撃波の飽和により敵対者を砕きつくすだろう。

 

 一部の例外(マジスパルタ)を除き、同格である彼らはそれぞれに身に着けているのだ。

 

 モニカは周囲を改めて見渡した。

しゅうぅぅううう……!

 背後からあふれ出す蒸気が気化するように、マナで形取られた闘炎の巨人が解けていき―――

 その中から、二対黒金角が特徴的な白髪の乙女が這い出てきた。

 

ポトリ。

 そして、彼女は力を使い果たした様に地面へとずり落ちた。

 "英霊"(エインフェリア)、過去生前の姿への回帰とはいえ、本来彼女に肉体はない。

 闘炎巨人(マグナ)の投影は、とてつもなく負担が大きかったのである。

 

「―――う、きつい。熱くて熱くて、融けてしまう」

【超頑強】【超絶美形】

 真夏に冷えた鉄板にくっつく小動物のごとく。

 乱れた白髪もそのままに落下したその場で力なく、へたり込んでしまった。

 

「じめん、じめんちべ、たい」

「すまない。随分と無理をさせたみたいだな。ほら水をたんと飲め」

「べつに、いい。グランのやくにたつ、なら」

 モニカが屈み。懐から携帯水筒を取り出して差し出す。

 実のところ白髪の少女が心を開いているのは、蒼の少年事グランだけだ。

 しかし、少し戸惑いながらも、背に変えられないと手に取って勢いよく飲み干した。

 

 そして、呼吸が落ち着いたころ。

 

「立てるか?」

「………ん、むり」

「だろうな。おおよそ土人(ドワーフ)の限界を超えている。話には聞いていたが凄まじいものだ」

 その白髪の少女は、彼女の部下ではない預かり物だ。

 余力を取り戻すまで護衛に張り付くしかない、むえにできない。

 それゆえに、少しばかりに率直な興味が漏れ出した。

 

「制限時間があるとはいえ練り上げた"上級魔人"の化身クラスと言ったところか。貴公はその力は何処から得たんだ」

「いいたくない」

「そうか。なら別にいいぞ」

 あっさりと話をきる。

 モニカ・ヴァイスヴィントは聖錬国の武力の代表たる32将が1人だ。

 心のどこかで、敵に回ればどう対処するかを考えてしまうのは、もはや癖みたいなものである。

 

 しかし、この浸食された悪性地で、こうもいつまでも落ち着いていられる訳もない。

 

「……む?」

【マッドワーム】【溶解液】【土中襲撃】

 地響きと供に大地が盛り上がり、突然と飛び出してデカいワームが襲い掛かった。

 バチィ!

―――を瞬く間に、雷閃がバラバラに体液の霧変えてしまう。

 

「なるほど空中戦だったからな。こういう類が残っている動かないのを負傷と勘違いしたか?」

【瞬撃士】【電磁抜剣術】【紫電増幅:Lv2/3】

 再び抜刀し帯電したサーベルを収める。

 瞬撃士であるモニカ・ヴァイスヴィントの反応速度からすれば、たとえ不意を突かれても反応するに十分すぎるのだ。

 

 コロナから目を離し、改めて状況を見渡す。

「襲い掛かる蟲畜生も、随分数を減らしたな。『紅衣の騎士団』の連中もよく敵を引き付けてくれている」

 この『脈動する大豊の森』外ではおそらくずっと、囮として『紅衣の騎士団』の連中も抗戦しているのであろう。

 結果、あの異形の大蛇の去った後の襲撃は、随分とぬるいものになっている。

 

「……グランは、だいじょうぶ?」

「さてな。このままではじり貧だと本命(大樹)の元に先行させたが―――」

 そう、当初モニカと供に風を手繰っていた冒険者の蒼の少年は、既にその身を潜めて離脱している。

 変わらぬ作戦目標であり、無尽蔵の反乱、戦力の補充元と推測される大樹を密やかに断つために。

【バハムートウェポン】【精霊術Lv4/5】【INAKA育ち】【アーカルム帰還者】

 それが可能な火力と、未開の悪性地に対応し踏破する能力を持ち合わせているのは彼一人だった故に。

 

 今から行軍を合わせても間に合わない。ならば、ここに餌として留まった方が利口である。

 

「こうなるとあれを断ってもやはり、お行儀よく滅んでくれるとは限らんのがなー」

 

 何度も何度も何度も滅ぼして、

 契約者を変えなお現象の如く顕れる糞賢者(ガルド)共を思い返し頭を描く。

 前提として隔離領域の『守護者』(ガーディアン)が、逃げだすなんて"ありえない"、

 故にあれは『守護者』ではないのだろう。その経験から人為的な香りを感じ、もう少し強引に物事を図るべきだったかもしれないと後悔する。

 

 そんな個人的な後悔はさておいて。

 

『バハムートソード:竜武具』【魔法剣Lv3/5:レギンレイブ】【闘気の才:ウェポンバースト】

 突如、彼方から紫の極光の奔流にて大樹が飲み込まれる様が見えた。

 青の少年の竜属性を製錬し感応した魔法剣である。、

 遠方からも威容を誇った、紋様を描いた大樹はその幹を大きく揺らし……、再度連発された奔流にてまた削り飛ばされる。

 

「―――あれグランの、けん」

「ほれ噂をすれば、これだけお膳立てがあるのだ、心配は不要だったかもな」

 蒼の少年ことグランという冒険者は努力、才能、血筋、環境、装備、更に生来からの精神力。

 その全てが揃った野生のヤベー奴である。

 仕込まれた"特攻存在"である仮初の【腕輪の担い手】とは違う。

 この精鋭の中においても単独での対応力という面では、確かに一際突出しているのだ。

 

「さて、これでどうなるか、だな」

 聖錬32将が1人、モニカ・ヴァイスヴィントは備える。

 人為的なものだとすれば目的がある、次手がないとも限らないのだから。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 しばらく時間が流れ、また場所が移り変わる。

―――【ネットスラム】

 

「―――狙いは、あの面」

『六華の弓』【レンジャー】【田舎育ち】

 若葉の双剣士が見据える、刀身を音叉を搔き鳴らし己のオドを呼び水に魔法剣を起動する。

 未だ弓術に未熟な彼が、その弓に求めるのはただ確実な一矢だ。

 

 その息を吐く、瞑想の如く引き口である。

 呪印の塗布に捻じれを描かれた矢に、鏃から描かれたインクの跡になぞる様に周囲のマナが絡みつき発火する。

ぎりぎりぎりぎり……!

 張りつめた弓の震えるしぐさ、支えるその両腕が負傷と疲労も併せて苦痛に震えながらも。

 そのまま引き絞ったままに敵対者を睨みつける。

 

「まだ、だ」

 己が不甲斐なく"増殖"に吹き飛ばされた後も、仲間たちの手により前線は支えられている。

 機巧槍の魔力撃が瞬間的衝撃に、その腕の動きを槌をいなす様に裁き。

 閃光に対する特攻たる暗黒の剣が、同時に突貫へのカウンターとして兆候に動いている。

 そして光の螺旋矢が、その尾を断たんと幾度も投げ込まれる。

 本来に非力な冒険者が、それでもスイッチしながら多少に均衡を作り出しているのである。

 

 そこに無造作に打ち込んでリズムを崩しても、邪魔になるだけだろうと機をうかがうのである。

 

―――その中、その機会は早くに訪れることとなる

 

『―――!!』

【増殖:高次たる視覚】【世界樹の方程式:自己領域同期】

 突然に増殖がその虚ろな仮面を明後日の方向へと向けて、何かを察したように立ち止まる。

 それは己が設定した隔離領域に近しい生態系の反乱、『脈動する大豊の森』の中心核(コア)たる"仮想大樹"が破壊された事を感知した。

 

『―――世界樹ノ方程式、制御、ロスト』

 恐怖に"原始回帰"という、変性を引き起こした『増殖』はその事実に激しく動揺する。

 己が己の法則をばら撒き、厚い厚い殻となる根付いた場所がなくなったのである。

 本来設定された視野にて、交戦していた本隊の足を止めている事を把握していた、ゆえに早すぎるハズだった。

 

 禁則(ネタバレ)を観測して、それを潰すために自動的に動いた。

 不可避のロジックの結果だ。

 しかし、とはいえ、機能に純真だったそれはもうない。変性する程に恐怖にかぶれすぎている。

 

「動揺した?」

【レンジャー】【狂羅輪廻】

 理由はわからないが、ぽつりと呟いて唇がゆがむ。

 若葉の少年はその様を、遠方という俯瞰的な視点から捉えて見逃さなかった。

 

「"中れ"」

 引き絞られた弦から指が離して、空間圧縮に捻じれて加速された一矢が放たれた。

 ズドォン!!

 

『ガ、ギ―――』

【虚空蔵の面:崩壊】【過負荷装甲】(プロテクト)【超再生】

 虚を突くタイミング、炎に巻かれた鏃が虚空の面顎を抉りこむ。

 半分破損していた面がさらに罅割れて……。

 ボロボロと崩れ落ちるのを歪な腕で塞ぎながら、落ちた感知能力に集中する。

 

『座標、補足。腕輪の担い手―――』

 恐怖は増幅する、あれは己を滅ぼし得る"腕輪の担い手"の一打だ。

 周りを纏わりつく羽虫共がいなければ、この一矢が周りを巻き込むのを躊躇わず放たれた『紋章砲』(データドレイン)であったならば、既に滅びているだろう。

 担い手は無力化したと思っていた。まだ立ち上がってくるか、どこまでもしつこい。

 『増殖』(メイガス)の電脳に、苛立ちのノイズがあふれんばかりに苛む。

 

「この矢、よっしゃ無事だったっての!もう一踏ん張り、ってねぇ!!」

【風詠み】【錬気法:ケンタウルスレッグ】【阿修羅姫】

 もちろんその隙を見逃すほどに、前衛を支えた戦士たちは甘くない。

 先に無理をし控えていた重剣士はいち早く反応し、"相棒"に併せ矢跡を追いかける様に。

 呼吸にマナを取り込んだ錬気に、肉体を先鋭化した両足に大地を蹴る。

 

「憂いなし、やることは一つその尾をぶった斬る!!」

『竜鱗大剣』【闘牙剣:スマッシュブロウ】【生命活性】

 狙いは変わらない。

 彼等の徒党でこういう時に決定打を持つのが彼女だ。

 相変わらずその蛇尾を斬り落とす事、機動力を奪ってしまえば後は囲んで引き潰すだけだ。

 

ザァン!!

 竜鱗大剣が振るわれる。

 重なり合ったガラスを纏めて割った如く確かな手応えである。

 

【碑文八相:増殖】【適応進化思考】【増殖ノ蛇麟:脱皮】(ウロボロス・リネージ)

 しかしその斬撃は、大蛇の芯を捉えていなかった。

 脱ぎ捨てる様に表皮を剥がして迫る冒険者にぶつけて、本体は距離を取っていたのである。

 

「はぁ!?そんなんあり!」

 リソースは減っただろう。一回りその蛇尾は小さくなっただろう。

 致死閃光から、己の剣を囮にした模倣、この状況より逃げられるなら安いものだった。

 

 だが、状況の優位は冒険者たちに傾いている。互いに理解している。

 故に決断する。

 

 

「やろう!!」

 前衛を支えていた全体が距離を詰める。

 対して、『増殖』(メイガス)は崩れ去る虚ろな面を支えるを放棄して、ある決断の元石槌を握りしめ―――

 

『生存ルートヲ策定……再度”世界樹ノ方程式"浸食プロセスヲ再開』

『コレヲモッテ迎撃スルヨリ他二ナシ―――!!』

 このドーム状の遺構、『ネットスラム』の壁面に向かって振りかぶって叩きつけたのである。

【ゲンシカイキ】【衝撃ノ杖】【増殖ノ波動】

 壁面に大穴が開く、巻き添えに区画の壁が削られ天井の一部が崩落を引き起こす。

 その崩れ行く質量は『増殖』にとっては軽微であっても、純人種にとっては致命的である。

 

「…!そう来るかどこまでも往生際の悪い!!」

「っち、そこの精霊使い風を貸せ!」

「う、うん!それぇ!」

『裏切華のペンダント』【陰陽術師】【木卦牢壁】・【魔法剣Lv3/5】【蒼天の剣技】【修羅道】

 引くにはもう遅い。ガルデニアがその指で印を結ぶ。

 先と同じだ。露出した土卦を糧に成長した木々にて枠組みと屋根を作り出す。

 そしてバルムンクの風の魔法剣が、巻き込まれる事を予見した瓦礫を吹き飛ばす。

 

 先まで激闘を繰り広げた【魔王級】、だからこそ予想外の事だった。

 これを足止めに、何を仕掛けてくるか誰もが注意深く構えるだろう。

 ドームに空いた大穴、煙が晴れた先には―――

「は?逃げた?」

 しかし何処にも、何もなかった。

 『増殖』(メイガス)の異形の大蛇の姿そこにはなかった。

 先の行動が全て逃げに徹する為の物とは、誰も思わなかったのである。

 

【常世裂き咲く花】

 敵はいる目の前の腕輪の担い手より他に大勢いる。

 全て滅ぼさねば己を残せないならば、取るべき選択肢はただ一つ故に。

 

「―――イマさら、逃がすか!」

【狂羅輪廻】

 当然にそれにいち早く反応するのは殺意に比例し、狂羅の輪廻に墜ちた若葉の双剣士である。

 投影した六華の弓を空に溶かして、双剣を構え直す。

 

「司君!!」

「う、ぁうん」

 そして背後にて、どこか呆気にとられる様子の男装少女に声をかけた。

 ここまで来て逃がす訳にはいかない、しかし手札が足りない。

 少なくとも追跡するための脚が最低限いる。

 

「取引、増殖(メイガス)を滅ぼしたいのは一緒でしょ」

 当てがある。

 だから、手札を温存していそうな彼女に持ち掛けた。

 

「僕がアレを殺す弾丸になる、代わりに君の手札を全部投資()して!!」

 時間がない。要は命賭けの対価とその投資だ。

 単極に言いたい事を捲し立てて、片手を突き出して男装の少女を見つめる。

 

 男装の少女がどういう理由で戦っているかは知らないが。

 大災いたる『碑文八相』の討滅は、共通する目的だろうとその手を伸ばす。

 

「えぁ、手札ってなにさ」

「全部は全部ッ、早く決めて時間がない!」

【この糞みたいな世界】【感応体質】

 それはそれとして、男装少女の方も割とそれどころじゃなかった。

 感応者として、活性に多少血を分け与えた、繋がりに相手の波長(ココロ)を感じ取れてしまう。

 先に贋作の復讐心(イミテーション)と評した、ある意味純粋な復讐心の煽りを受けている。

 

 その眼にそれが本気で、己を頼りにしてる事もわかってしまう。

 

(う……あつ、やば酔いそう)

【マインドサイン:無効】

 視線がまっすぐ射抜かれ、すぐに目をそらした。

 グズグズに薄暗い感情ばかりに浸っていた彼女にとって、それは質の悪い火酒である。

 この感情に対して対応する仮面を持っていない、単極に言って酔っぱらいそうなのである。

 

「ああもう!」

【使役闘争士】

 半分投げやりにキレながら、懐からモンスターボールを取り出して。

 ぽちっと開放する。

「そこまで言うなら、きちんと勝ってきてよね"ポチ"、"ジーナ"!!」

『バウ!!』

『カカ、ケーイ!!』

【統率獣】【牙獣種の如く】【仲間意識】

【骨鷲ポケモン】【ハトムネ】【堅牢鷲】

 そこに現れるのは、もっとも頼る凛々しき鬚犬とがっしりとした骨格を持った大鷲。

 男装少女の使役闘争士としての最後の一匹。

 頑強な骨格を誇る、本来出す気はなかった隠しておいた逃走手段の"翼"である。

 

「この子達を使えばいい。"ジーナ"は気難しいけど"ポチ"の言う事なら聞くから」

「ありがとう、よろしくね」

『バウッバう!!」『ケーン』

【田舎育ち】

 見知った獣の"ポチ"を撫でて、新顔の大鷲にも手を近づけ挨拶して匂いを覚えさせる。

 そして。

 精霊巫器である双剣を媒体に、己の半身たる儚紅の少女を喚んだ。

 

「リコ」

「ん」

【電脳精霊】【偶像少女】【憑依具】。

 途端に虚空から華開くように幼子が現れ、そのままちょこんと肩に乗っかる。

 既に細工籠手は消費している。"呪印"の塗料も先に吹き飛ばされた際に何処かに行ってしまった。

 術理において未熟な彼は、彼女の助けがなければまともに並行して術を回せない。

 

「決着をつける力を貸して」

「わかった」

【フェイト:壊れた心】【魂の絆】

 その問いかけに素直に答えた、手を合わせてその身を庇護者に溶け合わせる。

 ただ無為に揺蕩っていた頃とは違う、頼られるのが嬉しい。

 

 そして。

「帰ったらシチュー、作り方教えて一緒に食べ、よ」

「……?リコがこんな時に言うのは珍しい」

「こんなとき、だから」

 戦いの後の話を、何処か冗談めいた約束の話をつぶやいた。

 喪うのは悲しい事、求めるのは未熟な証拠なんかじゃない。

 そんな当たり前の心の動きを、同じ背丈の幼子でありながら、冒険者をする彼に教えてもらった。

 

「うん、きっとね」

 険しい表情が和らいで少し笑いながら、期待した答えが返ってくる。

 そう融けてきた彼女の心は、末那識を良き方向へと覚醒させつつあるのだった。

 

 

 

 




仮に眼の前の冒険者をどうにかできても後門に軍隊なう増殖君。
有利な場所で場所作るしかねぇでかわいそう。

経歴から逆算したグラン君が強すぎるんですが、
別に腕輪の担い手居なくても、八相何とかなるよ要員なので仕様になります。
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