ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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決着【増殖の世界樹】

 

 

●●●

 

 

 

 

 

 更に場所は映り変わり。

 この大災からまるで蚊帳の外、取るに足らない人影が一人いた。

 

「っくそ、見失っちまった」

『バウンサーグローブ』【AIDA感染者】【ハイドアクション】

 それは罠師の男である。

 酒浸りに腐ってたあと偶然に、若葉の双剣士に遭遇しイカレタ痴女に焚き付けられた彼は。

 よくわからないままに、胸に抱えた鬱憤を形にしようと、

 どんな形でもいいと、行動を起こそうとして徒党(パーティ)をつけ回そうと……。

 

 なおその現実は。

 

「まいったな。モンスターもまだゾロゾロいやがる。町ならともかく野外だと全然感覚掴めねえ」

『隠蔽外套』

 苛立ちに頭を搔く。

 そしてその尾行は最初の段階で、あっさり目標を見失ったのである。

 普段から鍛錬を続けている冒険者に、酒が抜けたばかりの身体が追いつける訳もない。

 更に、この氾濫自体に時折遭遇しかけるモンスター共も邪魔だった。

 

 罠師の男は目的を失い、丘陵に座りて、空を仰いだ。

 空は地上の騒ぎと無関係に澄み渡っている。

 

「あー、あーやっぱ柄にもねぇ事やめときゃよかった」

【灰の口癖】

 といっても、今や罠師の男も拾い物とはいえ上級魔具の適応者である。

 並みのモンスターは単独であれば、得意距離(レンジ)なら、殺せる。

 逆に言えば少しでも気づくのが遅れれば、距離を間違えれば殺されるだろう。

【AIDA感染者:勇気凛々】

 弓を弾き、肉を裂くたびに、頭の中に囃し立てる声に調子に乗りそうになるが。

 それを命のやり取りに、詰まる距離に応じて縮まる腑に教えられるのを繰り返していた。

 

 

『きゅるる』

「うるせえ。糞ジャリが何がつまらなくねぇだ。こっちは必死だっての」

 既に、さ迷いながら後悔し始めている。

 こんな事なら、酒場で飲み続けた方がましだったかもしれない、そんな風に考えながら。

 

 突然。

 

【増殖ノ波動】

―――ガァァアン!!

 直接質量物が落下したような衝撃に大地が揺れた。

 

「……!地震か!?」

【罅瑠璃の心臓】

 心臓が縮み、マントを深くかぶる震源と思わしき所を見る。

 そこには小山と思わしき地形が横腹をブチやぶり、小山が凹みゆく光景。

 その中から歪な幾何学文様の大蛇(バケモノ)が這い出て、森の方向へと逃走する様子である。

 

「なん、っじゃありゃあ!?」

【観察眼】

 それは一目でわかった。わからざるを得なかった。

 だってそれは、周囲のマナの色を塗りつぶしながら移動しているのだから。

 

 マナに染まる世界のおける上位者、一方的な侵略者たる魔王級の威風である。

 

「………っぐ」

 勿論、罠師の男に超絶魔力(魔を越えた魔の力)の知識も体験などはない。

 しかし、触ってはいけないバケモノであることは本能で理解できる。

 過激な目標に、きゃいきゃい騒ぐ頭の声を無視しながら

 

 そして、その大蛇は拡大する『脈動する大豊の森』の最末端に向かって這いまわる。

 

 それを追う様に、一部凹んだ小山から、また別の影が現れた。

 

【影を駆け抜ける獣】【統率獣】【はやあし】

 黒々と悠々と大地を裂いて駆ける鬚犬(ハイエナ)に騎乗する冒険者である。

 しばらく遅れて骨を着飾った大鷲が低空に追従する。

 

「あ、アイツは!?」

【滅却師】

 その冒険者の姿に罠師の男は覚えがあった。

 尾行するきっかけになった燻る心に火をつけた、微かな"憧れ"を焚きつけた双剣使いである。

 今飛び出た異形の大蛇と交戦していたのか、その装備はすっかり草臥れて見れる。

 

「……見つけたっ!」

『バウンサーグローブ:視野増強』【滅却師】【弓術の心得】

 衝動だろうか罠師の男は、魔具となる籠手を起動し十字弓をマナを集めて矢を錬成する。

 その切っ先を―――若葉の双剣士の方に向けて引き絞る。

【AIDA感染者:勇気凛々】【罅瑠璃の心臓】【ハイドアクション】

 頭の中をキョロキョロと、愉快そうに動き回る同居人が急かす。

 "あっち"を撃った方が、簡単で面白い事が起きると。

 大きな事を起こしたいのでしょう?と、無邪気に無邪気に囃し立てるのである。

 

【無貌の知識欲】

 その同居人に悪意などない。むしろ罠師の男が大きな関心を持っているからこそ。 

 善意で面白い方に大きな花火になる様に煽っている。

 

「そうだアイツを、アイツさえやりゃあ……!どうしようもねぇ俺も踏ん切りが……!」

【英雄■望】

 めちゃくちゃな理屈に弓を引き絞る。

 頭が茹っている。

 罠師の男は暴挙ともいえる騎士団への横やりの行動で、身の程は散々に知った。

 

 しかし、何にも成れず怠惰に酒に腐る虚無も実感している。

 酒に腐って、腐ってそれでも微かに燻る火が、現実に焦がれて。

 ただ腐り閉じた世界にケリを付けたい。

 新しい世界へ、その究極に安易な道を選ぼうとして―――

 

 魔具に強化された眼が、その横顔をとらえて、その目がこちらを全く見ていない事を示す。

―――「貴方は、撃つべき時が分かる冒険者だから」

 ふと頭に、この燻りの灯となった言葉がリフレインする。

 

「っ」

『バウンサーグローブ:視野増強』【観察眼】

 そして、小心ゆえに人を良く伺うその眼が、よく映してしまう。

 ここは撃つべき時か、否撃って何を得る、命さえ拾えない。

 当たり前のことだが、殺意に弓を構えても、その視線の先にずっと関与しないという事を。

 

「……へ、バカみてぇ」

【灰の口癖】

 それを実感して、少し頭が冷えた。そもそも一時の激情だった。

 そもそも、たがが一射でアイツが簡単には殺せるとは思っていないが。

 仮にこのままこの弓で、頭を打ち抜けたとしても―――

 それはきっと酒場で密かに飯に毒盛る行為と相違はない。

 

 それでは、名にならない。実にならない。

 だから、撃つべき時ではないのだろう。

 近頃増えつつある全てに八つ当たりで済ましてしまうには、その男は少し臆病すぎる。

 

 懐から、瓶を取り出す。その中には底辺冒険者の様に消費される為の粗悪な酒が入っている。

 その蓋を開けて一口含む、いつも通りのローテーション、自分を腐らせる―――

 

「ぷはっ、あー……くそ、ここまで来ちまったもんなぁ」

 今に限って、腐っていつも通りに回帰する為の気付けの水だ。

 引き絞った切っ先を変える。

 異形の大蛇は拡大している森林地帯の端に、潜り込んで行方が分からなくなりつつある。

 

「そこか」

 最初から、そのさまを観察していた高所に陣取る視野がなければだが。

 蜷局を巻くようにその森の端で、大地半融合しつつある大蛇を何処か他人ごとに見つつ。

『バウンサーグローブ:滅却師』【罠師:弓術の心得】【器用な手先】

ビィン!!

 

「やけくそだ持ってけええ!!」

【神聖光矢】

 指を引き放つ。

 距離的に当たるとも思えずとも、どうにでもなれと一矢を投げ込んだ。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

―――ズルズルズル……。

 

 【ネットスラム】という閉鎖空間から逃げ出した大蛇は―――

 数キロと離れた先、森林地帯にて。

 大蛇と呼ぶべき長大な身体を大地に沈めて、もはや同化してそこを中心に周囲への影響を拡げていた。

 

『―――』

 ぱきり、ぱきり大地を破りてと不自然な速度で木々が萌えて茂っていくのがわかるだろう。

 目に見えない地中にも根は巡る、その生態系の根として張り巡らされる。

 

【大地隷賛】

 増殖の大蛇は周囲の環境に同化して。

 地に流れるマナを汲み上げて、周囲に還元して喪った自己領域を再生しようとする。

 この存在は碑文八相が『増殖』(メイガス)、独自の生態系という仮想の巨体を運用する碑文八相である。

 

 敵対者はいる、まだまだ沢山いる。

 撃退するにはもはや自己領域と法則を組み立て直す外ない。

 故に、間に合わないと可能性を投げ捨てて、もはや一抹の望みであるそれに注力するのである。

 

 これは潜伏時の焼き直しだった。

 最初はこうやって、機能を代替え(オート化)する"中心の世界樹"を成立させるまでは、その雛台を

じわりじわりと拡張していたのだ。

 

―――【世界樹の方程式】

 増殖が字名の如く、着々と大地の活力を寿命を消費しつつも木々は萌える。

 先の迷宮の如く、招き入れる迷宮ではないまるで殻の如く繭の如く取り巻く、侵入者を拒むだろう。

 とにかく足場を埋め潰す『増殖』(メイガス)の恐怖を体現するかのようだった。

 

 今は身を潜め、時間を稼ぐ。

 『増殖』は待ち構えるただただ、一抹の望みをかけて己の全能を取り戻さんがために。

 

―――ひゅううううん………。

 そんな中、空気にねじ曲がりながら流されたマナ細工の矢が。

 拡げていた領域の端に着弾したのを認識した。

 

『―――狙撃、着弾……』

 それはあまりに大雑把な狙撃であった。

 狙いも甘い。

 こちらが何をするべくではなく、勝手に空気の層にマナに阻まれて風に流され逸れている。

 故に呆気なく外れたのだろう。

 明らかに先ほど、対峙していた冒険者とは似つかない"鈍さ"である。

 『増殖』(メイガス)の恐怖混じりの疑心暗鬼はさておいて、状況は進むだろう。

 

 

 

 

 しかし、その不格好な飛跡であっても目印代わりにはなる。

 それは髭犬(ハイエナ)に騎乗し、怨敵を追いかけネットスラムから飛び出した。

 若葉の双剣士の目にも映るだろう。

 

「狙撃っ、何処の誰のか知らないけど―――助かる!」

 若葉の双剣士は前後の状況から、それはきっとあの大蛇を狙ったものと推測する。

 一分も惜しいこのタイミングで、怨敵の姿を、逃げ出した方向を見失っていた。

 地べたに落としたとはいえ、『増殖』はあの蛇の如く巨体に相応して移動速度早かった。

 この生態系の氾濫事象に元々の平原に、森林が拡大している身を潜める場所ならいくらでもある。

 

 そこに潜り込まれてしまって、どうしても気配はまぎれる。

 『腕輪の担い手』としての感覚は全方位に警鐘を鳴らし、新緑溢れれば獣の鼻は効かない。

 

 故に、矢の飛跡が示した最短の方向に答えを見るのである。 

 

「お願いぽち!目標あの矢の方向へ―――」

『バウッ!』

【影を駆ける獣】【はやあし】【牙獣種の如く】

 若葉の双剣士が指をさす先へ。

 静かに速く牙獣種の如く駆け抜けながらも、賢き髭犬(ハイエナ)がアイ分かったといわんばかりに一啼きして進路を変えた。

 ご主人に頼まれている、手振りに意図を察して背に跨る人間へとリズムを合わせてくれている。

 

「いい子だ!」

【はぐれ】

 その背を撫でながら。

 『聖錬』の人間であれば、一般的な運搬手段であるチョコボの騎乗は経験しているだろうが。

 初見でここまでの速度で駆け抜けるのは、偏にポチと呼ばれた髭犬(ハイエナ)の賢さゆえである。

 

――― 一方その頃。

 

『キー、ギャンッ!!』

 大翼を拡げて空を行くのは骨鷲(ジーナ)が一羽、『使役闘争士』(トレーナー)たる司の隠し手の翼。

 一般には『バルジーナ』と呼称されるモンスターだった。

 空から征けば、とても目立つほぼ確実にあの"新緑の閃光"に撃墜されるとわかっていた。

 故に接近には防御手段が必要となるだろう。それを持ち合わせるのは―――

 

「っち、合わせんのは苦手だっていうのに、最近こんな役回りばかりだぜ」

【孤独者の流儀】

 骨鷲(ジーナ)の背に乗るのは黒剣士、マーロー・ディアスである。

 彼が纏う『黒蜘蛛の鎧』が作り出す、闇属性の霧には純粋な物理光に特攻を持っている。

 それと大型猛禽の積載量が可能とする組み合せだろう。

 

 外敵の接近を感知したのか。

 眼下に拡がる森から、瞳の如く文様を模った"葉の端末"(メイガスリーフ)が幾つも宙に浮かぶ。

 

 もとより森の中に機雷として配置されていたそれは、広範囲に散らばって焦点を合わせる。

 

「まだこんなにいやがるのかよ糞が!!」

【二十四ノ蛇瞳】

 その光景に悪態をつく、彼はその碑文八相が、物量を念頭に設計された事など知る由もないのだから。

 ただただその光景の理不尽に憤るしかない。

 

【【【新緑ノ閃光】】】

―――ぃぃキィン!!

 もはや聞きなれた硝子を擦り合わせたような高音が響くだろう。

 

「喰らいつくせ」

『黒蜘蛛の鎧』【暗黒剣:漆黒】(JETBLACK)【暗黒瘴気】

 鋼の剣を振るう。生命力を燃やす、本来の突撃技に纏う瘴気をただただ身を護る為に濃くする。

 骨鷲(ジーナ)の羽搏きの機先それに応じて、澄み渡る空を暗黒の瘴気が汚していくだろう。

 

 属性相性の相克により、殺到する閃光が呑み込まれていくある種、幻想的とも呼べる光景だった。

 

 若葉の双剣士は、それを地上から駆けながら見届けて。

 

「よし釣れた。引き付けたなら低空に逃げる様に伝えて!!」

『―――バウッ!ばうっ!!』

【統率獣】【野生の鼓咆】

 その言葉を理解したかの如く髭犬(ポチ)は吠え、骨鷲が応える。

 応じて、骨鷲(ジーナ)はその翼を畳んで風を受け流して急降下の態勢に入るのが見えた。

 統率獣の序列というべきか"司"が言っていた通り、骨鷲(ジーナ)髭犬(ポチ)のいう事は良く聞くらしい。

  

 ただそれは随分と乱暴な飛行だった。

「おわっ!?」

 マーロー・ディアスは、たとえ鎧を纏おうとも脆い純人種の範囲である。

 急降下からの強襲などできない。そんな事をすれば重量に潰され死んでしまう。

 かといっては、着地の為に速度を落とせばいい的であり、彼の役割は最初から囮に徹することだった。

 

「―――っち、気に入らねぇのはわかるが振り落とすんじゃねぇぞ!!」

『カカカカッ』 

 黒鎧の剣士がその気性難に振り落とされそうに掴み、耐えているだろう。

 

 低空に逃げるのは射角の問題である。木々より高くに浮遊すれば、その射線は限られるのだから。

 

 骨鷲が翼を大きくはためかせ変幻に滑空し、暗黒の霧跡が閃光を飲み込むだろう。

 

 その隙に、髭犬が土を蹴り上げ大地を蹴り上げ駆け抜ける。

 若葉の双剣士もそれを気にする余裕もなく、目的の森へと迫るだろう。

 

 葉の端末(メイガスリーフ)がその角度を揺り動かす、明らかにその焦点が向き、こちらを見た。

 どうやら見つかってしまったらしい。

 

「もう遅い」

 空の骨鷲が囮になっている間に、既に十二分に接近した。

 近づいてくる。森の一角まで、もはや自身の足で届くまでに迫っている。

 

 こうなれば逆に成長した木々に阻まれて、葉の端末(メイガスリーフ)は射角が取れないだろう。

 

『―――腕輪の、担い手……!!』

 『増殖』(メイガス)はその接近に、恐怖に身震いする。

 腕輪の担い手、己の絶対的な死、あまりに早い速い早過ぎる―――!

 その疑問に電脳が揺れる、距離は離した、この身を埋め大地と同化し身を潜めた

 それでも迷いなく躊躇もなく、ただただ殺すといわんばかり執念に恐怖に震える。

 

『世界樹の方程式、最終廃棄ヲ実行……!』

【碑文八相:増殖】【ゲンシカイキ】【世界樹ノ方程式】

 もはや逃げられない。

 その結論と直感に、一つの生態系という仮想の巨体を運用する権能を全てを収奪に費やすだろう。

 恐怖から決して許されない非効率不合理な結論、大暴走である。

 

(攻撃手段が違う?!)

「……!そこまでするか侵略者が!」

【精霊術師】

 曲がりなりにも精霊術師である若葉の双剣士は、その大地が悲鳴を感じた。

 そこからこれから起きることは、ある程度を予測できる。

 『増殖』はもはや手段を選ばないらしい。それは例え永劫と大地が死んでもだろう。

 

「ありがと!ここでいい、巻き込まれる前に別れよう!!」

『バウ!!』

 その背を撫でて礼を言い。髭犬の背を離れ別れた。残りは鍛え上げられた健脚をもって走る。

 例え強靭なモンスターであろうと、人を背に乗せていながらの障害走は無茶である。

 この髭犬はいい子で、大切な大切な預かりものだ。無為には出来ない。

 

 髭犬もその声に目の前の質量の怒涛を察したのか、鮮やかにその身を翻して飛び越え離脱する。

 獣らしい軽業である。その無事を横目に見と届けて、安堵しながら。

 

「そんなに来て欲しくない?すぐ行ってあげる」

【ダンシングヒーロー】【狂羅輪廻】【俊足】 

 狂羅の輪廻に落ちたものの習性のままに。

 当然の如くの不退転、迷わず相手の最悪を選び正面からの突撃を選択した。

 

 大地の活力を湯水のごとく消費しながら。

 まるでガルデニアが固有魔法の如くに、樹木が爆発的に成長し迫りくる。

 

 仮想の巨体による巨大な巨大な触腕である。 

 鋭さはなくとも、その枝々に絡まれれば肌をごっそり削られる。

 ただその質量にて圧倒する、大地に溢れる津波の如くだ。

 

【レンジャー】【舞武】【腕輪の担い手】

ダッ!!

 それに対して。

 ずきりとまだ痛む身体に。呼吸の息吹に活性して踏み込む。

 成長し取り囲まんとする木々の怒涛を、腕輪の装甲足場を利用して飛び越え―――

 着地に踏みつけ、木々の足場の上を確かな感触にまた駆けだす。

 田舎育ちである。悪性地などもはや慣れきっているのである。

 

「このくらいで……!」

【魔法剣Lv2/5】

 もはや壁の如く迫る生木に、双剣に焔が走る斬宣が奔る。 

 本来、生木は燃えにくい。

 勢いを落とせればと放たれたその魔法剣は、予想を反して砕き燃やしその道を切り拓くだろう。

 

 若葉の双剣士は思う。まるで、石炭の様な斬り燃やし心地である。

 

「……っ!そういう事」

 いくら大地の活力を収奪するとはいえ限界がある故に、この中身はスカスカなのだろう。

 無限など存在しえない。特に水分などそう確保できるものではない。

 

 その事実に笑みが零れる、己が剣で切り開けるなら活路は見えたも同然なのだから。

 

 変わらず追うように、枝分かれ膨張を繰り返し。巨木の触腕が怒涛に迫る。

 若葉の双剣士は躱し踏み込み、連続して足場を生成して宙へ空へ逃れる。

 

 大地の活力を基にする為に、確かに空は有効な逃げ場だろう。

 しかし翼をもたない純人種にとっても自由はない。後が続かない故に普段なら絶対選ばない。

 だが、活路はある。故に輪廻に落ちた最短を求める。

 その視座から。つむじの如く中心地が、繭の如く籠った木々が見えた。

 

「きて、リコ」

「ん」

【憑依具】【以心電信】

 自由落下の浮遊感に身を任せながら半身を喚ぶ。途端に虚空に可憐な花が開く。

 細工小手はもうこの手にない。しかし、この幼子がいればそれ以上に代替えできる。

 

「僕が併せるから、"案内"(ガイド)よろしく」

「任せて」

 その身を捩じる、呼吸に内燃(オド)を回す、リズムにマナを同調する。

 双剣を振る、大気とマナにバちりと双剣の間に灯弾けたのを見た。

 重力は味方だ。

 落下に流れる空気さえ巻き込みながら織り成されるのは、彼のあこがれた覇道の剣である。

―――グギギギギッギ!!

 

 落下に迎え撃つ様に、若葉の双剣士が絡まり合った木々が。蛇の形を成す様に呑み込まれ。

『裂破―――(ボルテクス)

 否、呑まれ握りつぶされるまでに炸裂する。

 

「―――轟雷刃(アタック)ッッッツ!!』

 属性を違えようと魔法剣という体系にて"嵐の剣"と評される、一つの到達点である。

 それは局所的な嵐の如く剣、螺旋の刃に圧倒的質量が引き裂かれて燃える。

 

【■炎】【夢幻操舞】【疑似再現(トレース):炎の担い手】

 一操りでは終わらない、炎の潮流を足場に剣は踊り螺旋刃は加速する。

 螺旋を描く火力の潮流を、刃と伴に舞繰りその流れ自体に身を同一化とするだろう。

 

 燃える限りに倍々式に膨らむそれを、成業するのは儚紅の幼子の力があってこそだが。

 

 愚かさと復讐心故に積み上げたカラテではなく、手早く結果の出やすい異能者の道を歩くのが彼だ。

 己も焼かれながらも魔法剣と接続、一体化ともいうべき力業ながらこれを表すのである。

 

 石炭の如く木々の触腕などもはや壁にはならない、文字通り燃料である。

 メジャーである為対策されやすい火・炎属性ではあるがその侵略は象徴的でありまさしく本物だ。

 

「―――見つけた」

 まだ生木に近しき取り囲む木々の繭をその火力で砕き、その余波で螺旋刃が歪な腕を引き裂いた。

 ぱきりと枝を踏みその流れのまま肉薄する。

 

 砕けた虚ろな仮面、明滅する双眼は事態さえ理解できていないのだろう。

 半身を大地に同化させ、もはや逃げる事すらかなわない。

 

 幽鬼の如く踏みよるその足音が、嫌が応に電脳に響き渡るのである。

 

「奪っておきながら、もう一度(チャンス)なんてそんな贅沢許すか、お前のせいだお前のせいだ全部―――」

【腕輪の担い手:紋章砲】(データドレイン)

 

 特徴的な波長ラ音に掌を開くと呼応する如く、その破滅の花弁が花開いた。

 憎むべき侵略者だ。やっと手が届く適うその目にはそれしか映らない。

 若葉の双剣士とて限界など、死力などもはや尽きている。それでもそれでもそれでも。

 身体は動く。

 

 対して『増殖』(メイガス)の反応は鈍い、腕輪の3秒の展開時間を許すほどに呆然として。

 限界の先の一線を精神力が分ける。

 

【ゲンシカイキ】【新緑ノ雫腕】

 

『―――ガアアアアアアアアアアアア!!』

「だから、ここで喚きながら死ね」

 恐怖に激発し、八つ当たりに押しつぶさんと振り下ろさせる歪な大腕を。

 ただの一言、幻想的な幾何学文様の帯が奔流が大蛇たるが溶かした。

 

 

 生態系という仮想の巨体を運用する弩級の【魔王級】

―――後に、世界樹の氾濫と評されるの時季外れの大襲撃、その首魁である大蛇は。

 その最後さえ世界に知られることもなく、呆気なく あっけなく分解され、空虚に帰っただろう。

 

 それと呼応するように収奪し、辛うじて運用されていた流れが途切れる。

 木々は涸れる。大地は砂へと変わる。世界の色が確かに脱落する。

 

 彼らが冒険者の一行以外にそれを認識するのは二人しかいない。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

「―――スゲェ……」

【観察眼】【英雄願望】

 罠師の男が呆然と呟いた。

 文字通り投げやりの一矢を投げ入れた後に、展開されるその光景に同居人と伴に見入っていた。

 初めて目にしただろう魔王級の猛威、それにまるで光陰矢の如しに迫って。

 嵐の如く焔の剣にて引き裂いたその様は、罠師の男にとってはあまりに刺激的に映ったのだ。

 

―――文字通りに焼き付いた。

 人は、"特別"でなくともあそこまで苛烈に生きられるのだ。

 身を削って心を刻んで実体を知らずに、ただそう刻み込まれる。

 

 あの若葉の少年は己とは違う事は知っている。燻る男の心に明確なイメージが染みつく。

 

「―――……おれは」

【AIDA感染者】

 弓を強く握ってその場を後にする。

 声が響く。

 あの光景の様に己が"最高の撃つべき時を、その時に最高の一矢を"

 それができればきっと近づける。

 幸運に恵まれた。心の中の反骨心と無遠慮な同居人が騒ぎ立てる。

 

 いつか、あの場所にと。

 

 実の所、罠師の男が、若葉の双剣士とこの先交わる道はない。

 ただ只管に、心の中の情景を目指し目指す、遅咲きの冒険者として懸命に生涯を駆け抜け。

 

 はてさて、どういう因果か。

 なんか意図なく助けた女に型に嵌められる事になるのだが、世界には関係ない事だろう。

 ただ酒に腐りゆくだけだった男は子をなして、2回目の大襲撃まで懸命に生き―――

 そして文字通り一矢の代償に死ぬ、世界にとってそれだけの事の話である。

 

 

 

●●●

 

 

 

【田舎町:クラウス】

 

 

 

 そしてもう一人は。

「ほう、風の匂いが変わったか。病巣は無事取り除かれたらしいな」

【空の担い手】

 空を見上げる風の匂いを感じ取った。

 安い市販の服を纏った村娘の如く、記憶喪失の戦乙女である。

 彼女は現在この事態に人の輝きを求め、信頼が低いながらも小銭稼ぎに、この町壁の上に襲撃の監視という名の雑用を受け、勝手にモンスターをぶっ飛ばしながら、その動向を見守っていた。

 

「"紅衣"の連中ではないそんな余裕はなかった。"秩序"の連中でもない戻ってくるには早すぎる。となると……」

 輝きの根源を求めて、心当たり辺りを口に出して整理する。

 そして最後に浮かぶ若葉の双剣士、少女が一番期待する結論にたどり着いて思わず。満面の笑みが溢れ出す。

 

「あの"双剣"のかその心意気を果たしたか!素晴らしいなぁ!!」

【人類愛】【常時破顔】

 ふと空に手を伸ばし、確かに遠く風に空に繋がっている少年に祝福を謳う。

 無事生きていると信じて疑っていない。彼女に信じる"輝き"とは一点の曇りのないそういうものであるがゆえに。

 

 なお、周りからは、いきなり空を抱きしめるように手を伸ばした少女に。

 まさか薬中かと、訝し気な目が向けられているが、そんなことを気にするような彼女ではない。

 

「ふふ、早く戻ってこい。話を聞きたいな"双剣"の、お前の足跡を試練を乗り越えたその剣を」

【光耀渇姫】

 その姿は、まるで恋する乙女の如く―――

 しかし、彼女の愛は平等に無差別に圧倒的な熱量をもって焼くだろう。

 記憶喪失である為、彼女の愛は破滅そのものであることの自覚はまだない。

 

―――「暴れ牛どりだー!」

 そんなこんなしている間に壁の中に声が響く。

 

「さて、明日に想いをはせる前に、今は今日の食い扶持を稼がねばな!」

【■光の襲撃者】

 今の彼女はただのDランク冒険者、金のないのは首がないのと同じだ。

 それはさりとて信頼がないため高難易度の依頼を受けられない為、今、絶賛金欠中だった。

 若葉の少年から借りたゴルは生活基盤を整える為使い、後はもしもの時の貯蓄である。

 

 その抜けない気性にいち早く駆け付け。

 掌に流れるつむじ風が、吹き荒れて大牛の丸太の如く首を斬り飛ばす。

 全ては明日の飯の為に、なお監視目的の為声を上げるだけで十分だったりする。

 本来モンスターの討伐は含まれていないのだが、そんなこと知ったことじゃないといわんばかりの一生懸命である。

 

 先の奇行に、ガン開きの瞳孔に周りは誰も近づかないのだが、彼女はつかの間の平穏を辺境に生きているのだった。

 

 

 

 時は回る、平等に残酷に、それぞれの終わりに向かって。




投稿遅くなりました。
とりあえず別の二次創作をかいて文章引き算によるくどさのをなくせないかと、テンポの纏まりとかできないかなぁと思ったけど、やっぱ引き算ができない。
なんか、文章量が減らない。書いても書いても文章カラテが上がらない。

カオティックPKの代表例で、斬られる予定だった罠師の男なんか生き残ってる。
モブに中身を設定しちゃだめだな!(反省)
こんなことしてるから無駄に文章かさむんだ。
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