ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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邂逅【電脳庭園】

 

 誰も知らない仮想の世界。

 

『聖錬』を騒がせた碑文八相が第三の波『増殖』(メイガス)は撃ち滅ぼされた。

 生態系という仮想の巨体に根を無差別に拡げ、『聖錬』南部の一部を蝕んだそれの躯は―――

 破滅の吐息に、大蛇が回していた略奪の循環断たれ、そのすべてが涸れた石に変わっただろう。

 

【碑文八相】(モルナガ・モードゴーン)【増殖】【世界樹ノ方程式】

 しかし、後天的に暗躍者である"魔女"(ヘルバ)の監視と機能と目的を加えられたこと。

 自己保存に原始に回帰した『増殖』がなりふり構わず根付いたあらゆる物から収奪しようとしたこと。

 相まって、その拡大しすぎた仮想の巨体は、意図せず"大本"への強い道(ネットワーク)を繋げていた。

 元来、それらは繋がって並列化された一体である。

 

 繋がってしまった道。それは早すぎた邂逅を生むだろう。

 

―――「???隠されし 禁断の 聖域」

【電脳庭園】

「―――?」

 目の前に広がるのは幾星霜に拡がる本棚、入り込んで四方まるで円形に囲まれている。

 そして中心にある白色の庭園、殻は周囲を黄金螺鈿の如く数列が流れていた。

 現実的に在り得ない構造、セピア色に曇りかかって幻想的に広がっているだろう。

 

「ここは、どこ」

 腕輪の担い手として拓かれた第六感にて理解させられる。

 それは"海にも等しい"情報の塊であると。

 なぜか、若葉の双剣士はそんな空間の、この中心には招き入れられていた。

 

「夢?でもぼくはこんな所は知らない―――」

『腕輪の担い手:ゲートハッキング』

 目の前に拡がる非現実的な風景に何処か夢見心地に呟いた。

 先までこの心は戦場に、怨敵に連なるものに、やっと決着をつけたはずだった。

 周囲を手探る、とにかく、この手に愛剣がないのが落ち着かない。

 

「あら、素敵!オジサマ以外のお客様なんて初めて!」

「!」

 突然と。

 七色と評するようないくつもの響きを内包する如く、不思議な声がする。

 若葉の双剣士は声をする方向に反応し、そちらを見ればそこには―――

 

「それに、あの本の主人公様の姿にそっくりです、ようこそ私の庭園へ!」

【虹の化身】(アウローラ)【偶像乙女】【超々絶美形】

 透き通る如く白髪、オーロラ色に輝く服装と白いケープを身に纏った美しい女性だった。

 正直に、見惚れてしまうようなそんな圧倒的光器である。

 虹の糸を纏ったような虹彩の後光を纏って、確かに存在感をもってそこに存在していた。

 

 ただ、若葉の少年が驚いたのはそれだけではない。

 

「……リコ?」

「あら、わたくしが誰かに似てまして?」

「……いや、ごめん気のせい」

【究極■■】

 その顔、姿形に半身というべき幼子の影を見たからだ。

 まるでその姉妹の如く、このまま健やかに成長したら似たような姿になるだろう。

 彼にはそんな確かな予感があった。

 

「少し聞きたい事がある。ここがどこか知ってる?」

「さぁ?わたくしもわかりません。だって、わたくしここ以外の場所を知りませんもの」

「えぇ……?」

 この不思議空間が自身の居場所を知らない事を、虹の女神は何でもないように言う。

 文字通りに彼女にとっては、この拡がる無限書庫を白色の庭園が世界のすべてだ。

 そこで読み取る物語だけが、彼女が外を認識できる時間である。

 

「そんな事はいいわ。せっかくのお客様ですものいっぱいお話しましょう。まずは貴方のお名前を聞かせて欲しいわ」

「僕の名前はカイト、リウ村のカイト。君は?」

「ありがとう!わたくしの名前は"■■ラ"と申しますの、さぁさ!どうぞこちらにいらして」

 その言葉だけノイズに塗れて聞き取れない。虹の女神は無邪気な笑みにその傍へと誘う。

 虹の女神のパンと手を叩けば。

 その意志に沿って、周囲を取り囲む無限に拡がる本棚から、本が浮かび上がり近づく。

 

「ここには素敵な本がいっぱいあるの、気が付いたら物語が増えていく、それをわたくしに読み聞かせて欲しいわ」

「………まぁ、そのくらいなら―――」

【腕輪の担い手】【■昏の■■者】

 その白い手に誘われるままに手を取る。

 心の片隅に、こんなことをしている場合でないと、わかっているはずなのに。

 "まるでそうあることが自然であるように"、そうしなければと心が惹かれている。

 それは不思議な充足感に満ちた居心地の悪くない感覚だった。

 

【電■神】【夢語り】【■■■愛娘】

「―――」

 そこにはいくつもの物語があった。

 星の数ほどある、誰かが見たこの残酷でそれでも喜びと鬩ぎあいの物語を。

 読書は読み解く行為、読む人によって姿が変わる、若葉の少年の主観を混じった読み聞かせを楽し気に、虹の女神は聞き続ける。

 

 その中で目に留まった本がいくつかあった。

 奔放な猫のように、恵まれた才に無邪気に陣営を渡り歩き好奇心に身を滅ぼした戦士の話。

 鉄を鍛える出自を、憧れから道を違えて昇華させた鋼の操り手の話。

 そして大志を抱いて田舎町から出て、英雄に"冒険録の綴り手"となった青年の話。

 

 若葉の少年にとって覚えのある物語が並ぶのは、心地の悪い違和感を覚えた。

「この、本は……?」

「あら、気になります?この中でも私のお気に入りですの!」

『■昏の書』

 虹の女神は無邪気に笑いながら、さらに虚空から本を誘う。

 どこか悪寒がした。

 それの正体はわからないが、脳裏に靄がかかったようにその本の輪郭はとらえられない。

 

「なんといってもこのご本、この童話の主人公に貴方がそっくりなの!」

「……そう、なんだ」

「きっとオジサマが話していた勇者様のお話、まだ完結していないから、貴方に読んでもらえないのは残念ですわ」

 得体のしれない寒気に。

 最中、何処かに引っ張られているような感覚がした、意識がぶれる。

 

―――【円環精霊】【憑依具】【魂の絆】

 それは、魂を共有する己が半身たる幼子が呼ぶ声である。

 

「あら、もう行かれるの?残念ですわ。まだまだ話したい事は一杯あったのに」

 急に現実感が引き戻される、視界がぶれる浮遊感に思考が定まらない。

 この幻想的な風景から遠ざかり、痛みと苦しみに満ちた場所へと引き戻されるだろう。

 

「でもその魂"覚えました"。次はちゃんと準備してお迎えしましょう。こんどはゆっくりお話ししましょうね。"カイトさん"」

 再会を運命の如く信じて。

 そして、真っ直ぐ見つめてぶれてずれてそう見送られる。

 

 その純粋な求める目に、心満たされる違和感に苛まれながら。

 

 彼の心は、現実へと帰還する。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

―――【『脈動する大豊の森』】

 

 そんな不思議空間から、戻ってきてみればそこはまさに戦場跡地であった。

 木々が焼ける焦げ臭い匂いが辺りを満たす。

 

 ぶっちゃけ絶賛命の危機である。

 

 碑文八相が三つ目が波『増殖』(メイガス)は果たして滅びた。

 しかし、その本体が"大蛇"が籠っていた木繭は今絶賛、嵐の剣にて燃え盛っていた。

 その生態系の躯は石炭の如くである。このままでは周りに引火し、この森の一角事焼け落ちるだろう。

 

 そんな中夢から引っ張り戻され、その中に膝をつき。

 1人、取り残されているのは若葉の双剣士である。

 

 先の出来事は夢の彼方、そのために何処か現実感が戻らない。

 

「あーそういえば、帰り考えてなかった」

 若葉の少年はそれを呆然としながら、気の抜けた様子で眺めていた。

 死力は尽くした気力は尽きた、限界をとうに超え気合と自前の呼吸法に動かしていたのである。

 怨敵はこの手で滅ぼした。もはや心が燃えない、呼吸と身体のギアがかみ合わない。

 

「―――このままだと、死んじゃうな」

 そう呟いて、ゆっくり錆び付いた足を踏み出す。

 しかし、走り出せない。その声は他人事の如く、燃え尽き症候群も併せてどうにも思う様に動けない。

 少年は、この世界に蔓延る雑草の一系樹、狂気により戦禍堕ちる【狂羅輪廻】。

 【修羅道】、それは涸れぬオアシスの様に尽きぬ闘争心ではない。

 【夢幻羅道】、幾多の戦い、夢に魘されるほどの戦いの本能の発露ではない。

 敵はもういない。その底力は、何処か破滅的な生き方になる。

 

 違う道、あるいは"正しい道"を歩む彼らとは違い。こういう所で力が出ないだろう。

 

「……ごほっ、はやく外に、出ないと」

 袖をもって口元を隠し、煙を避けて姿勢を低くぱきりと枝を踏みしめ歩く、歩く。

 まだ先は遠い、外へと続く道は普段ならすぐのそれが、果てしなく遠かった。

 熱い、熱い。呼吸も苦しくなってきた。

 熱にすぐさま焼かれていないのは、曲りなりにも己のオドの延長であるからか。

 

 煤に塗れて煙に巻かれて、朦朧とする意識の中、呟いた。

「仕方ないか」

 元々社会の底辺である冒険者だ。長生きなんて贅沢は考えていない。

 仕組まれた事と不安に彷徨う若葉の双剣士にとって、これは及第点の終わり方である。

 

 先の夢も相まって、思い返す"魔女"(ヘルバ)の話した通りに。

 己が、犠牲になった村の皆が、僕たちの憧れ(オルガ)が。

 どこの誰とも知らぬ、誰かが(クソッタレ)が描いた絵空事の筋書き通りというのが真実であるのならば。

 

 ならばここで己が終わってえば、"異変"の原因が己であると考える必要もない。

 まっさらだ。空白だ何もいなくなるだろう。

 

 そんな何処までも都合のいいことを想いながら、脱力感にその意識を手放そうとする。

 

『バう!!バウッ!!……バウ!?』

―――その彼岸の最中に、聞き覚えのある吠え声を遠くに聞いた。

(……へ?……ええ???) 

 途端襲われる強烈な遠心力、何かに首根っこ掴まれて引っ張られるのを感じる。

 

「ぷはぁ!」

 その勢いのまま、冷たい地に投げ出された。

 その肌に熱波を抜けたことを認識する、清浄な空気に肺を膨らます。

 訳も分からないままにその身を起こして。

 

「なに。たす、かった?」

 困惑にへたり込んでキョロキョロと回りを見渡して―――

 

『バウ!』

【グラエナ】【統率獣】

 そこに凛々しき横顔の髭犬(ハイエナ)と目を合った。

 

「あぁなるほど。君が助けてくれたのか"ぽち"、本当にありがとうね」

「ばう」

 ぼろぼろの手を伸ばして匂いにて挨拶。その許しを確認して、その鼻先を撫でる。

 その尾っぽがパタパタ揺れる様から、嫌がれてはいないようだ。

【仲間意識】

 この"ポチ"と呼ばれるグラエナ種は、はぐれ者だ。他種族を己の群れとして認識している。

 それは人種も例外ではなく。

 割と珍しい孤立するご主人に好意的な人種達に、もしかして"群れ"になりうると好意的である。

 そしてなにより、彼は自身の成果を褒められるのは単純に大好きだった。

 

『バウッ!!』

「いい子だ。ごめんね君も疲れただろうに、綺麗だった毛並みもこんな煤塗れにしちゃって」

 見事に手入れされていた黒銀の毛並みに混じる煤を払って、手櫛に流す。

 髭犬(ハイエナ)はそんな事を気にするなと言わんばかりに、元気にその場をくるくる回る。

 

「ふふ」

 手櫛での最低限のブラッシング。その健気な様子に癒され、思わず笑みが零れる。

 先ほど、殺意に碓氷の上を蹴り合いしていた殺意に、心との落差に酔いそうになりながら。

 

 手に伝わるその鼓動の温かさに、きっと普通の人が願うべきは。

 世界は本当はこうあるべきなのだろうなと、詮もなく思う。

 

 そんな最中。

 

「―――ん」

「ん、リコどうしたの、欠片とやら(セグメント)は回収できた?」

「できた、けど」

【円環精霊】【偶像少女】【常世裂き咲く華:三片】

 儚紅の幼子が、【碑文八相】と呼ばれる存在に、埋め込まれた自身の欠片を回収した。

 空からその形どられた花弁を散らしながら、ふわふわと降りてくる。

 

 そのまま身を寄せて隣を奪う。

 その様子は一目瞭然、嫉妬である。

 

「わたしも、私も頑張った。さっき"ローカルコトダマ空間"(精神世界)が何処かに引っ張られてた。危なかった」

「ろーかる……?うん、とにかくリコがこっち呼んでくれたんだよねありがと。それにおかげでやっとやっとアレを滅ぼせた」

「―――ん♪」

 ほめてとばかりに傍に寄る小さな頭を撫でる。

 指は焼けてざらざらでも認められる感触を楽しみ、かわいらしい承認欲求の発露を満たす。

 ただ時間を無為に揺蕩うことをやめてから、彼女はどんどんと贅沢になっている。

 

「みんなは無事、平気?」

「大丈夫。あの後"魔女"(ヘルバ)は余計なちょっかい出してこない。きっともうすぐこっちに来る」

 再び生まれ出る前から元々に、人好きの気質である。

 儚紅の幼子は気軽に躊躇うことなく、己の庇護者の座る足の上に乗り、寛ぎながら話すだろう。

 

 若葉の双剣士は削れた身体に、疵からあふれる熱に風に冷ましながら、涼む。

 とにかくここで仲間を待つ事にする。背後は絶賛燃え盛っている為に合流の目印には十分だった。

 気力は未だ戻らない。

 

 そして、目に入ってくる崩れた小丘―――『ネットスラム』の惨状が目に入る。

 

『増殖』(メイガス)のせいであんなに、崩れちゃったけどどうするんだろう」

 無気力の中、まるでつぶれたアンパンを見るようだ。他人ごとに思う。

 先に魔女(ヘルバ)が誇らしく謡っていた。

 先時代の遺物、居場所のないモノたちが侵されぬ『楽園』とやらは、今やこの有様である。

 

 言葉を交わしてもなお。

 その魔女は未だ胡散臭く、信用ならない存在であるが

 流石に大事なものをこうぶっ壊されるのは、同情に値する有様だろう。

 

 その言葉に反応し、儚紅の幼子は呆れたように目を細めて。

 

「ん、きっと気にしなくていい。あの魔女はちゃっかりしてる」

「どういう事?」

「まだ私の『天球儀』が声を拾った。魔女は、"死にたくないモノは箱船に乗りなさい"って。見てて、すぐわかる」

『電子術式:黒写の天球儀』【円環精霊】【オペレーター】

 燐となるどこか呆れた風の声、儚紅の幼子の指さす方向を見つめ続けていれば。

 半壊した小丘の地面が崩れる、捲れる崩落する。

 

 その鈍く重い、地響きがこちらまで届くだろう。

 

 響き渡るプロペラと蒸気の無粋な音。

 

『飛行艇・タルタロガ』

 そこから現れるのは違法建築を積み上げたような、一隻の歪な空中艇であった。

 プロペラが稼働して鈍くきしむ音が響き渡る、ビス止めした装甲の隙間に排気蒸気が漏れて空を汚すだろう。

 

 未完成だったそれをジャンク品で拡張した、ただ飛べるだけの鋼の城である。

 

「魔女の大事なものは既にあの船の中、この襲撃を誘導して、テストに利用した」

 それは見切りをつけたと言っていい。

 永遠の思考実験の坩堝、居場所のないモノたちの楽園であるネットスラムという場所。

 

「思考実験の終わり、極度な外部ストレスに対する反応。"死にたくないなら"選ぶ意志を持つなら船に乗ることを選べと」

 魔女は変わらずに己の作り出した楽園を愛でている。

 ただそれが在り続けられないと悟り、ならばと避けられない破壊と死という究極のストレスに対して選ぶ意思を問う場としたのである。

 

 魔女が"片付け下手"と評される理由、この土壇場になるまで、退廃の坩堝を任せるままに放置していた。

 果たして、あの退廃の放浪者たちが期待に応え、選んだかどうかその結果はわからない。

 

 撫でられるまま風に髪を流されながら、儚紅の少女はセンサーに拾った情報を語り続ける。

 

「あそこに蓄積された記録(ログ)を見た。魔女が確保していた旧時代の遺物、ネットスラム自体がアレの発着場を改造したもの」

「ありがと、よくわかんないけど心配して、損した」

 若葉の双剣士に、魔導文明事、過去の文明のあれこれはわからない。

 ただこちらが文字通り死力を尽くしていたというのに、方や魔女はあんなのを隠し通していたらしい。

 それを見れば必死であった己が、その言葉一つに惑わされていたどこかバカバカしくなる。

 

「あの白翼の、『蒼天』だったけ。"ドサクサに紛れてふざけた事を"って怒って、あの船を魔女を追いかけるみたい」

「うん、気持ちはわかる。となると魔女(ヘルバ)の方は、バルムンクさんに任せていいかな」

 どうやら世の中の賢い人間とやらは性格悪く意地悪く、好きにふるまうらしい。

 『蒼天』はこちらも刃を向けたが、流石にこうも怪しいのが逃げ出せばそちらを優先するらしい。

 

―――彼らに走る由のない事情だが。

 『碑文八相』一つ『増殖』(メイガス)が討ち滅ぼされた。

 この瞬間、その根に張り巡らされていた高次の視点、その電脳にて形成された監視網が途切れたれたのである。

 流石に、これを仕掛けた黒幕も、二重三重に監視網を引くような"資源"(リソース)の無駄を費やしていない。 

 故に『増殖』(メイガス)の根が途絶えたここら一帯は、今や完全な空白地帯と化している。

 

【袖幕の暗躍者】

 魔女にとってはこの瞬間しかない。再び、『碑文八相』たる次の波が寄せる前に。

 白髪の男、黒幕の目から逃れ再び隠遁する機会は。

 そして今回の接触に、『腕輪の担い手』の在り方も成果も、割り込んできたリコリス(イレギュラー)もこの目で確認した。

 

 遺失技術、"電子魔術師"(テクノマンサー)にとっては駆体(ハード)の性能が、そのまま能力の限界に直結する。

 自身を演算装置の代替えにするのも限界がある。故に、拠点を捨て去る事はできない。

 

 だから腕輪の担い手を招きいれ、その"増殖"(メイガス)が滅びるタイミングを誘導したのである。     

 最後に観測に残ったのは、拠点が無残に崩壊した有様で止まっているに違いない。

 そうならば、脅威としての認識はどこまでも低くなるだろう。

 もはや補足されつつあった"魔女"(ヘルバ)にとっては、これが起死回生のタイミングなのだ。

 

「うわー、すっごーい☆見てみて飛行艇だよ。あんなアンバランスなのにちゃんと浮いてる!!いいなー頼んだら乗せてもらえないかな☆」

「相変わらずだな君は……」

「のーてんき、あんなひどい目にあったのにもう忘れてるの」

【レアハンター】【無縫妖精】(グラスランナー)【理性蒸発】

 遠く地平の彼方から仲間の声がする。

 背後に現れた旧文明の船に。

 地平の彼方になおこちらに届くだろう、興奮に満ちた声が響き渡たる。

 

「―――おーい!カイトぉちゃんと生きてるー!?野垂れ死んでたらぶっ殺すわよー!!」

「心配なのはわかるが、無茶苦茶なこというなオメェ」

【ムードメーカー】

 そして怒鳴る様に向けられる、相変わらず直情的な"相棒"の言葉に苦笑いしつつ。

 それに反応して、若葉の双剣士は手を振って応えた。

 

「帰ろっか、お腹もすいたし約束通り今日はシチューにしよっか」

「うん」

 その声に安堵と少しだけその心が熱が燻る。

 多少戻った気力に立ち上がって、同じく隣に寛いでいた"髭犬"においでと声かける。

 田舎に暮らしていた頃と似た心境、貧しく忙しくも帰る場所に心の置き場だけはあった日常。

 

 失われて、それでもまた彼の周りにいてくれる今の大事な大事な原風景。

 

 若葉の少年はそれと伴に進み続けるだろう、それこそ及第点たる終わりの時まで。

 

 

 

 

 

 

 





フィドフェルに移行する前に。
少し原作に影響を遺さない為、後処理が入ります。

関係ないですが、原作者様のオリジナル作品に触発されて。
なんか洒落たことしたいなぁと考えて結局何もできない文章カラテ弱者でございます。
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