ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
長い長い死闘を経て。
疲れて淀む身体に鞭打って、彼らの徒党は一転静まり返った平野をただ歩く。
文字通り命を燃やして、暴れまわっていた虫畜生たちが。
その生態系のサイクルの速さも相まって、
大量に地に堕ちて力尽きて、屍の山を築いるのが見えるだろう。
拡大していた森が、その背負わされた前借の代償を払うように所々活力を奪われ。
木々は瑞々しさを示す色を失い、大地は所々砂漠と化している。
あの氾濫とは対照的な、
風の音だけ木霊する静かな静かな
彼らが行くのは、そんな風景である。
「ぺんぺん草も生えないとはこのことだな。まったく元に戻るまで何年かかるやら」
「あー、本当にひっどい有様だねえ。さみしいけど、これはこれは珍しい光景かも☆」
「ほんとに終わったのねぇ、これ見てやっと実感できるわ」
それぞれに抱いた感想を呟きながら。
そんな屍鬼累々を疲労のまま乗り越えて、
●●●
―――田舎町『クラウス』
「たーだいまー!」
白耳の術師の声に続いて。
一歩、足を踏み入れて感じる。
外の風景とは対照的に、町という人の作り出した安息地、その穏やかな光景が戻ってきる。
やっとの事で時季外れのモンスターの大反乱が収束し、
動き出した人や物の流れに活気が戻っているらしい。
「うわ。なにこの騒ぎ、この前まで葬式みたいな雰囲気だったのに」
「露店も馬車も一杯♪ねぇ、荷物置いて早くに見に行こうよ!」
「おい、帰ってきて早々元気すぎるだろ理性蒸発女、どーなってやがんだおめぇの体力はよ」
「んーきっと気分次第?」
その様に、彼ら徒党は落差に惚ける。
―――「「「わああああああ……!」」」
重なる喧噪。
社会にとって人の往来は、例えて血液のめぐりだろう。
後の世に『増殖の氾濫』と呼ばれるだろう。
この世界において四年に一度訪れる大襲撃という大災いに似た
おおよそ一月にも及んだそれが、無事に収束を見せて。
青空市場に、今まで長く持つような保存食ばかりだった食品が、
料理人による、色とりどりの色彩の満ちた創意工夫の屋台食へと変わり
討伐された大量のモンスター素材が、人足により慌ただしく集められ、乱暴に解体されていき。
それに熱い目線を送り、仕入れて需要通りに売り捌く熱気が、チャンスを掴もうと迸る。
早さが勝負と行商の馬車がそれぞれが慌ただしく荷を積み込んで、売り込む場所を検討している。
また、町酒場に平和を取り戻したのを祝すように、グラスの乾杯の音が響き渡っている。
それはまるで早すぎた祭りな有様だろう。
やはり、人は、その営みは麗しい。生きている限りチャンスの巡り合わせを望み続ける。
その喧騒を背に一方で彼らは。
「これで任務は終わり。ぼくは、これで騎士団に報告に戻るから」
「そうか、苦労を掛けたな。よろしく頼む」
【使役闘争師】【ぼくっ子】
紅衣の騎士団から派遣された"監視役"、男装の少女は変わらずぶっきら棒にそう告げた。
目的を果たして、当初仮住まいを置いていた冒険者宿でもなく、居を構える別方向のこの町へと足を向けたのは。
使役闘争士とはいえ、魔術師の一人で戻るのは危険と思ったからである。
「別に心配しなくてもぼくは手柄なんて興味ないし。アンタたちはよくやったと思うよ。そう言っとくじゃあ、さよなら」
「相っ変わらずひねくれた考え方してるわね。そんなんじゃ勘違いされて損するわよ?」
「余計な、お世話」
【姉気質】【ムードメーカー】
重剣使いの女、ローズが呆れ顔に肩をすくめて注意して。
男装の少女がぶっきら棒に言い返す。
どうにも彼女等は正反対の気質であり、
弟がいたローズにとって何処か放っておけない心配な相手になっているらしい。
そんな、相棒の知らない側面を微笑ましく思いながら。
「うん、とにかく今回は手を貸してくれてありがとう、またね」
「じゃーねつかさ君♪」
「……ふん」
若葉の少年は友に告げる様に、笑って手を振って別れを告げた。
最初は性別の偽装というナイーブな問題に、どう接していいか態度に距離感に戸惑ったが。
受け入れてしまえば歩幅を合わないだけで、何より今や、戦場を共にした"戦友"である。
彼にとってはそれだけで気安くもなるだろう。
男装の少女はそのまま、そのフードを深くかぶって冒険者の
赤み掛かった頬に、制御できない心臓の鼓動を悟られない様に、速足で。
「またね、か」
騎士団の中で孤立して、厩舎に使役獣の世話という役割逃げ、聞き慣れぬ言葉が頭の中に反響する。
慣れない、慣れない、でも悪い気持ではなかった。
「ばーか」
【自己中心・逃避】
心が覗かれる相手に知っていながら呑気なものだと、悪態をついて誤魔化す。
男装の少女は、
ただ唯一な愛だけで、この糞みたいな世界をうまく泳いでいけると思っている人魚姫だ。
ただただ、その心の鼓動は近しく訪れる試練に試されることを―――
少女はまだ知らない。
彼らの再び道は交わり己がどう世界に向き合わねばならないかを。
●●●
それから翌日。
彼らが徒党は一日が立ち、身を休め。
そもそも疲労に負傷に限界の近い、彼らは冒険者宿に惰眠をむさぼっていた。
しかし。
「―――おう、お前らが件の冒険者か、今回の『事変』について事情を聴きたいそうだ」
「疲れているところ悪いが、ともに来てもらおう」
【紅衣の騎士団】
宿の戸を叩いたのは重鎧の騎士、戻って来て早々に呼び出しを食らっていた。
彼らが
そんなこんだで。現在、石作りの砦、その応接室にて座りながら。
「はぁ、呼び出しか何言われるんだろう。しんどい。まだ全然頭痛いし折れた骨は治んないし」
「そう言うな。私たちは曲がりなりにも当事者だ。なにもなしとはいかないだろうさ」
「まぁ安心しやがれ。古巣がそのままならそう悪い方には転がらねえよ」
待たされてる間、若葉の少年はらしくもなく、ため息と愚痴がついて出る。
もはや魔剣というべきそれとの間に炉心を回し続けた。
勿論、過剰に無理をさせた彼の中の経絡は焼け付いてしまっている。
淀んだオドに体が物理的に火照る。脳内物質に誤魔化していた不調が襲う。
しばらく休養をとった後、リハビリもしなければ後に引き摺る。その位の状態であったりする。
そんな彼等は置いてといて。
その奥の扉が急に開かれた、そこから虹の色彩が現れてこの閉所に歩み寄ってくるだろう。
「―――えぇ、お疲れの所お呼び出しして申し訳ございません」
まるで透き通るような声ともに。
かつん。
響く重靴の音。
その両隣には、鋼の重鎧に固めた屈強な騎士たちが控えているだろう。
「まずは自己紹介を、わたくしは"紅衣の騎士団"の団長を務めています"昴"と申します」
「いきなり団長様……!?、えっと、お会いできて光栄です。僕はカイト一応
「ふふ。そんなにかしこまらくとも大丈夫ですよ」
【紅衣の騎士団:団長】【神秘のベール】【戦姫に近しき者】
噂だけは耳に入っていた。柔らかな青髪に華奢な
煌びやかな水のベールを纏いし、現在戦姫に近しきと評される水の都の騎士姫だった。
ひしひしと体現する、どう考えても底辺である冒険者に馴染みのない"上の世界"の雰囲気である。
若葉の少年の根はどこまでも田舎者である。
準竜具という魔具の最高峰、満たされる荘厳な空気に気圧されながら。
ただ一人、ふおおお!と目を輝かせる白耳の魔術師以外は改めて襟を正すだろう。
「……あ」
【使役闘争士】【ペルソナセット】【マインドサイン】
そして
その端っこに馴染むように気配を消すように、見覚えのある男装の少女が佇んでいる事を確認して。
戦友、見知った顔に内心少し安心する。
「あの、僕たちは―――」
「ええわかっています。つかさく……、あなた方に同行した騎士候補生から報告は聞きました」
説明しようとする声を、柔らかい口調と笑みで制される。
安堵した。
事前の根回しがあったからか、それとも男装の少女の証言か信頼は得られているらしい。
「(ありがと、助かった)」
「(ぷい)」
【精神感応者】【自己中心・逃避】
感謝を念じて、そっと目配せし小さく手を振ったら、プイとそっぽ向かれてしまった。
異能者である彼女にはこれで伝わることは伝わるはずなのに、その仕草に疑問を抱きつつ話は進む。
「感謝します勇士たちよ。ええ、反乱現象が収束した時間から推測するに、やはり観測されていた件の大蛇が『守護者』というより『本体』に近しいものだったのでしょうね」
「昴様……」
「わかっています。これはあくまで私の"私人"としての見解です」
【政治知識Lv3/5】【カリスマ!】【我が身は民のために】
紅衣の姫は、凛とした言葉で続ける。
「ですからここから先は団長ではなく私個人の言葉です、記録には残せません。"わかりましたね"?」
「………ッハ!」
【正規兵】【臣従儀礼】
その言葉と伴に、護衛としていた凄然とした様子で重鎧の騎士たちはこの場を退出するだろう。
まるでそれは鶴の一声だ。
そのやりとりの様子に疑問を抱いて。
「(マーローさん、これどういう意味か分かります?)」
「(ここからはあの団長の小娘が"私人"として客人と話したいってことだ。"公人"としての立場の奴は退いてくれってこったよ)」
【元騎士候補生】
徒党の中で唯一理解のありそうな経歴を持つ、マーローディアスに声をかけ意味を知る。
団長という立場から、望む望まずともその言葉には力が宿るものなのだろう。
案外不自由なのかもしれないと内心に思う。
そして残ったのは彼らが徒党と紅衣の姫、そして男装の魔術師だけである。
一呼吸の空白を置いて。
「ふぅ、これで気兼ねなくお話しできますね。どうか私の事は昴、と気軽にお呼びください」
【
紅衣の姫はため息とともに、身に纏っていた色彩のベールを解除する。
途端に周囲に漂った霧の衣が解け、荘厳が威厳がさらりと溶け堕ちるような感覚がした。
まるで先程まで威厳を纏っていた目の前の紅衣の姫が、同世代の少女にしか思えないだろう。
そう、戦士のとして纏っているだろう気風さえ、薄い。
「驚きました?『団長』と呼ばれてましても所詮、"準竜具"が使えるだけの小娘ですもの」
【酔紛たる胡蝶】
彼女が纏う異能、鮮やかな美しい色彩は人の心に影響を与えるだろう。
「こういった小細工がないと、皆様の前でとてもとても、堂々と話せませんから」
【■暗】【偽りの戦才】【半身■随】
それを脱ぎ捨て、その変わり身に対する冒険者たちの反応に。
紅衣の姫は、まるでいたずらに成功したように、穏やかに笑って告げる。
そして見事な儀礼作法で礼を告げた。
「まずは感謝を、あなた方の奮闘もあって事変は無事収束し、なによりつかさ君が無事に帰ってこれました」
「………すばる。結果的にうまくいったけど、ぼくはまだ納得してないから」
「わかってます。傍から遠ざけた件については、後でお話ししましょうか」
【比翼の鳥】
男装の少女は不貞腐れるような様子で口をはさんで、それを軽く流す。
姉妹か、親友か、それともなんだろうか。
その距離感は傍目から見ても、とても近く親しく感じられるだろう。
「お二人とも、仲がいいんですね」
「勿論。じゃないと"たかが"こんな事で、ぼくが命を懸けるもんか」
「ふふ、ここだけの秘密ですよ?つかさ君がいい人達と言ったからわたしは気取らなくていいんですから」
「ちょ、すばる言わないで……!」
【比翼の鳥】
その仲睦ましい返しで、二人が深い仲だと察せらるだろう。
裏の会話を暴露された男装の少女は多少ばつの悪そうに、髪をいじくって居心地悪そうにしている。
全く正反対の境遇に思える彼女等が、どういう経緯でと多少気になる所だが、おいて話は進んでいく。
「さて、本当はいつまでもこうして話していたいのですが時間がありません。この"氾濫現象"で浸食された土地は活力を奪われ所々砂漠と化してる有様で……、ただそこに横たわる木々の躯が"石炭"として利用できると判明してからは、周囲との利害関係の調整がありまして」
「ふざけた話、大事な時に引き篭もってたのに癖に。こういう時に蠅みたいに群がってくる」
紅衣の姫が深い深いため息に、本当にそれが面倒な問題だというのが察せられるだろう。
住処を失った人達がいる、生きる糧を失った人達がいる、村々も幾つ呑み込まれたのも分からない。
その代わりに現れた、燃料資源という巨大な巨大な権益である。
「采配を回して『マク・アヌ』の利鞘も確保しなければ。これから何十人とは話して、腹の探り合いと妥協点の模索をしないといけません。やります、やりますけど」
「あ、あはは……、ごめんなさい。ぼくたちには頑張ってとしか言えません」
【政治知識:Lv3/5】【この身は民の為に:徹夜二日目】
紅衣の姫が遠くを見つめる目が、心なしか濁って見える。
調整役というのは苦労の代わりに影響力を持つ、これから彼女は、終わりの見えないデスマーチが待っているのだ。
正直、この冒険者の徒党とのお話は息抜きを兼ねての事だった。
「さて、話は変わるのですが」
こほんと一呼吸おいて。
「これは提案です、"報酬と引き換えに大蛇討伐の功績"をお譲りいただけませんか」
「……?それは、どういうことなのですか」
【我が身は民の為に】
その脈絡のない唐突な提案に、その意図が読み取れず。
若葉の少年は同時に、冒険者としての先達であるガルデニアに目配せをしながら話を聞いた。
「つまりは、外のお祭り騒ぎの原因という事だな。いくらなんでも情報の周りが早すぎる」
「ええ、私達『紅衣』と『秩序』両騎士団および同行した冒険者が、合同で
対して、紅衣の姫は現状について淡々と説明する。
それは時季外れの氾濫現象が収束したのならば、聖錬南部の不安と混乱を収め、いち早く平穏を取り戻そうとするのは当然の事である。
「言い訳はしません。つかさ君の報告があるまで私達にとってそれが真実でしたから」
少女はあくまで堂々と続ける。
「それに犠牲もありました。軍を、騎士団を動かすのにはお金がかかります。それは文字通り血の税です、正しく使われた"名分"が"証明"もいります」
「濁った水は元に戻らないから、いつもの糞みたいな世界、ほんとくだらない」
紅衣の姫が申し訳なさそうに顔を曇らせつつも、鈴のなる響く凛とした声で告げて。
男装の少女は、面白くなさそうに呟いた。
事実は、単極に告げないと誤解を招くことを彼女は知っていた。
「……正直に申し上げますと、今更名乗りを上げても冒険者ごときがと、信じないモノが多数でしょう。だからこその辻褄合わせです」
「―――?紅衣の出張ってくれたのはこっちこそありがたかったですし。別に依頼があった訳でもなし、報酬自体を出す必要もないんじゃ」
冒険者など社会の底辺である。社会的な信用など、国や騎士団に及ぶべくもない。
事態の混乱に便乗し、名を売ろうとした
まずいったん呑み込んでしまう為に、ある意味物分かりの若葉の少年は疑問をはさんだ。
話の流れ的に、これは公式なものではない。
きっと己の勝手で、善意で誰かの懐を身を削る話だという事がわかる故に。
「馬鹿じゃないの。カイトはこれで一方的にこっちが損を被るなんて考えてる。考えなしに命かけといて得するのが知らない誰か、それでいい訳ないじゃん」
【精神感応者】【スラム育ち】
その疑問に、ジト目で男装の少女が割り込んだ。
彼女にとっては社会の都合とか、世界の仕組みとか嫌悪する対象でしかない。
ただ目の前の彼らが、己の愛しい人が背負う慈悲の天秤に乗った。
重い重い荷を文字通り粉砕したのが事実である。
「アンタたちは、いい阿呆だ。得られる時にちゃんと得て精々長生きすればいい。じゃないとまたぼくが利用できないじゃん」
「あー、はいはいわかったわよ。言いたい事はわかったけど口が悪いわねぇ素直じゃないんだから」
【姉気質】【ムードメーカー】
男装の少女の眼を逸らしながら捲し立てる様子に。
重剣士の女は、少し呆れた様子に肩を竦めて。
「あんがとね」
「―――ふん、気に入らないだけ」
【自己中心・逃避】
ただ一言、純粋な笑顔と伴に礼を言った。
偽悪的にふるまう男装の少女はそれだけで、頬を紅潮させて押し黙ってしまう。
男装の変人を踏み込まずゆっくりと歩幅を合わせて歩いてくれる、その距離感にまだ慣れない。
その様子は、どこか人慣れしていない野良猫を思い出させるだろう。
「ふふ。実の所そう悪い話ではないのですよ?私達『紅衣の騎士団』にとっても有力な冒険者との繋がりは財産です。この程度で恩が売れるなら安いモノでしょう」
そして同じように感じたのか、紅衣の姫が微笑ましく笑いながらそう占める。
この世界には脅威が敵が溢れすぎている。身が軽い冒険者は事態への即応性に優れる。
実の所、何かしらの縁を結んで、近くにいれば面倒事をぶん投げてしまおうという打算はもちろんあるのである。
「ところで報酬は後で振り込ませてもらうとして、それとは別に聞くところにカイトさんは『精霊術師』と聞きました」
「うん、まぁ半人前程度には」
「ならよければ、この子も連れて行ってくださいな。―――"起きて"」
紅衣の姫がその指から澄透った青の宝石が飾られた指輪を取り外して。
目の前のテーブルに置いた。
ずずずぅぅ……。
ひょっこりとそこから周囲の水分を集めて一匹の獣がそこに顕される。
目に飛び込んでくる。その美しさに息をのまざるを得ないだろう。
「キュー♪」
『カーバンクル・アクアマリン』【宝玉獣:中精霊】【輝石化身】
それは 何処か犬に似た貴石の獣、その身に様々な色をまとう。
藍玉の輝きは召喚者に清き水の加護を与えたもう、そう謳われる数ある輝石の獣である。
「……綺麗、えっとこの子は―――?」
「宝石から生まれる人工の中精霊です。献上された宝石に小さく宿ってたみたいで、身に着けてたらこんなに大きくなってしまって」
『ラピスハート』【魔器所持】【戦姫に近しき者】
紅衣の姫は"準竜具"に破格の適応性を持っている。
その強力な水属性と竜属性に感化されて、元が小精霊であったそれがグングンと成長してしまったらしい。
その獣はとことこと床を歩いて、その透き通るような姿を自慢気に歩いてくる。
若葉の少年は、その手を驚かせないようにゆっくりと向けて。
「本当にいいんですか、宝石自体も貴重なものでしょう」
「ええ。私の立場は、この子にとっては退屈でしょうから、大事にしてあげて、くださいね?」
「キュー!」
【田舎育ち】【精霊術師】
その手に興味を示して。
好奇心旺盛なのか宝玉の獣は、両耳の宝石を輝かせ鳴らして摺り寄せて上目使いに様子を伺ってくる。
彼も匂いで挨拶して撫でる。その耳を撫でた。
「きゅ!」
「いたっ」
【■炎:蛍火】
その獣は、指に嚙みついて血を舐めてオドの"味見"をするだろう。
若葉の双剣士には、少しばかりの才能、精霊の糧となりやすいオドの色。
【契約紋:翆霊の加護】
そして少し考えて宝石を輝かせて跡を残し、その身体を分解して指輪として纏わるのである。
「び、びっくりした」
「ふふ、よかった気に入られたみたいですね」
なお、紅衣の姫の準竜具の威光に育ったそれは、その加護がその指輪をしている限り若葉の双剣士が近くにいれば感知できたりする。
割と無欲な冒険者に、確実に面倒事をぶん投げられるという事である。
微笑みながらも紅衣の姫の内心に、そういう打算は心の隅にもちろんあったりする。
コンコン。
突然扉を叩く音がした。
「―――!」
【神秘のベール】
紅衣の姫は、それに素早く反応して斧を握り、色彩の衣を集め始める。
そのノックの数秒後、騎士が一人、応接の間の戸を開くだろう。
「失礼します昴様、ホロウラント卿との会談の時間が迫っております―――」
「あぁもうそんな時間ですか。すぐに向かいます。とにかくあなた達には感謝を、この事変において貴方達はきっと善く働いてくれました」
そして改めて霧を纏いなおして厳かに、"公人"として紅衣の姫はそうしめくる。
彼女は立場に縛られている。本来なら、厳しい世界に生存を許されないだろう彼女は―――
【半■不随】
その実、動かない脚に、その身体が心の全てを足曳きされている。
「願わくば、次もその力を再び私達に貸していただけることを願います」
「はい。その機会があれば、喜んで」
紅衣の姫はそう別れを告げて、背を向けてその場を去っていった。
彼女は不具だ。貴族という地位に、国の宝への適正と恵まれた立場に生かされ、
その幸運を享受できずに、ただ象徴として誰もが求める輝かしき私を演じ続けている。
だから、着飾らなくていいだろう。
この何気ない会話の時間は癒しになり得ていたのである。
そんな時間も終わり、この応接の間に取り残された冒険者の徒党と、男装の少女のみである。
それを見送って。
「行っちゃった。なんというか、本当に忙しそう」
「……待たせとけばいいのに、あんまりに身を削って頑張っても、こんな糞みたいな世界、みんなそれを当たり前みたいな顔してのうのうと過ごすに決まってる」
「ん、気に入らない?」
「当たり前、スバルが少し頑張らなくて悪くなる世界も国も、いっそのこと終わってしまえばいいんだ」
【この糞みたいな世界】【比翼の鳥】
その心の内を共有する男装の少女だけが、その無理を破綻を知っている。
仮にも騎士の補助団員に関わらず、過激な物言いだが、外野の彼らは詳しくそのことを知らない。
ただ強く人を想っているのは伝わってくる。
だから曖昧に苦笑して。
「つかさ君は本当に好きなんだね。あの人の事が」
「ん、スバル以外はどうでもいい。アンタらがどう思おうと、ぼくはそういう人間だ」
【精神感応者】【感応者:一時共鳴】
人慣れしない猫が威嚇するように、突き放すように言った。
「だから―――忠告だけしとく、カイト。あんたが抱いてる復讐心は、つまらないよ。
「………!」
【凍結記憶;解除】【狂羅輪廻】
若葉の少年は、指摘された事を惚けた顔で瞬いて聞いた。
心当たりはある。彼はあの"滅びの夜"の事を、これだけがまるで昨日の事の如くに思い出せる。
一年と四月を数える歳月にかかわらず、まるで忘却を許されていないかのようだった。
だからこそ生来気質と違う狂羅の輪廻が定着しているが、不自然さは、言われればわかりうる。
この世界おいて、村々は滅び生まれて、10年スパンで入れ替わる。
故に、故郷が滅びるなんて、それこそ有り触れたことなのだから。
人は、忘れていく事で生きていけるものであるはずなのに、である。
「つかさ君、そこまでわかるんだ。はー、気にしてなかったけど改めて言われるとおかしい事か、ありがと」
「だから、うまく諦め……、ちょっと礼言うの違くない」
「だって自分の事なんて、
若葉の少年にとって、それはただの"戦友"が持っている体質である。
有用さも知っている。だからそういう人もいるかと呑み込んでしまえる程度の事だ。
気に留めない。一度呑み込んでしまえば心の懐だけはやたらに大きい。
そして忘却できない。その自覚を飲み込んで、なお。
「生きてるんだから、なんとかする。何とか"終わらせる"から安心して」
「……やっぱアンタ、バカだ。あと心配なんかしてないから」
それでも、それでも諦めきれない愚か者が彼である。
故郷の村を、父親も母親も妹も、そして親友が犠牲になった。
空に繋がっていた憧れの星が、あんな結末で終わってよいわけがない、そう心に反響する。
明日に向かって背を向けて、腐りたくはない。
一人ではない。歩く先、正しい道を歩いた先に、正しい終わり方があると。
何より、その元凶は世界を犯す"侵略者"は生きている事を知っているのだから。
ただ、許せない。狂羅の輪廻に落ちた者にはその欲求に逆らって生きる事はできないのである。
そんな騒乱の後の静寂の一幕に、彼らの道は分かれるのだった。
後処理終わり!
なんかGMの監修いただいた、つかさ君が野良猫みたいな動き方する……。
なんでかわからない、想定外です。
ただ、つかさ君は自分では賢いつもりで、視野がクッソ狭いです。
本来、カイト君の気質と似つかわない狂羅輪廻が定着している理屈。
きっかけ、"滅びの夜"の記憶の忘却が許されていない事を自覚しました。
本編の柊蓮司の様な、純粋の復讐者ではありません。
だから
精神力だけバカ高いから、つかさ君が魅入る位に変な方向に磨き上げられてますが。
元ネタグラブル;カーバンクル(水)加入。
長い間御世話になった人も多いのではないでしょうか。
原作ほどではありませんが、割と中精霊の中では有用性能です。