ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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覇濤騒乱【運命の預言盤】
出立【運命の預言盤】


 

―――あくる日の田舎町【ラインセドナ】

 

 

 あれからまた二か月もの時が過ぎて。

 平和な平和な呑気なご時世に、雲は流れて風に木の葉が軋み小鳥は歌いだすだろう。

 『腕輪の担い手』たる若葉の少年の視界、

 忌々しく侵略者の『碑文八相』存在の予兆たる砂嵐(ノイズ)の気配すら遠かった。

 

 清浄な風が流れる人類の安定地、やはり『聖錬』が普段はただひたすら平和である。

 

 そんな中、彼らの徒党がどう過ごしてるかというと……。

 

「―――『波濤』、に?」

「そーっ、お金に余裕もできたじゃん?たまにはリフレッシュにないとさ!」

【ムードメーカー】

 突然の相棒である重剣士が呟いた。机に突っ伏す様に寛でいた彼女の思い付きのような言葉に。

 若葉の少年は細工篭手の調整しながら、耳を傾けるだろう。

 

 頭に思い浮かぶ『波濤国首国クトゥルー』という国を纏わう概要―――

 正規魔王が一柱『ダゴン』を盟主とし五百年前、対魔戦争の治平後結ばれた【盟約】成り立つ。

 多種多様様々な物や、人、魔が混じりあう中継地点。

 『預験帝(死ね)』除いた各国に点在する輸送の重要拠点、"港"を統括する巨大な共同体である。

 様々なもの主な産業は貿易、運輸、そして観光業である。

 海上運航路(シーレーン)を維持するノウハウを蓄積した、魔王の眷属(ウィンディーネ)やら、鉄船と半融合した船娘(メンタルモデル)やらが入り混じるという斑の国、人類発展の礎の一つである。

 

 それはさておいて、

 

「なんでいきなり話に聞く限り、お金がかかるばかりだよ。冒険者の仕事は『海』に関わる事ばかりで、専門技能がない僕等には厳しい」

「まーそうだけど、だからこそ遊びに行くってかんじになるじゃん。知ってる?あたしの故郷の山岳はすごく大きいけど」

 重剣士のローズはその両腕を大きく広げて、そのイメージを主張する。

 この世界の住民は、大半の人間が自身の故郷から出ず生まれたその地にて生涯を終えるものだ。

 

「海なんて奴は山とも比較にならない位大きいらしいわ!」

 故に彼女の言うように。

 "海"というほかに比類なき、巨大な巨大なそれに対する畏怖と幻想は共通してある物である。

 

 だからこそ『波濤』は観光業といった形で、人の憧れを集めるのだろうとなんとなく思う。

 なおその旺盛な観光需要は、閉鎖環境である船旅での禁欲を開放する場の需要。

 さらに人種が混ざり合う為に、必然的発達した風俗産業も大きく締めている。

 更に、ほぼ美人である『水妖霊』(ウィンディーネ)『船娘』(メンタルモデル)を目当てとする裏の需要があったりするが彼らに知る由もない。

 

「ふむ、"海"かここから近い港都市だと西の『セレクティブ』となるな。東の『バインディンク』には足を延ばしたことはあるが……」

「ふえ?もう行ったことあるのセンパイ」

 同じく居間で、本を読んでいた槍舞師のカルデニアがそれに反応し経験を思い返して、呟いた。

 流石のベテラン冒険者である。既に『波濤』に足を踏み入れた事もあるらしい。

 ちなみに活動が長く先の氾濫現象(スタンピード)に活躍し、実績が認められたことでガルデニアA級冒険者に昇格していたりする。

 

 

「あぁ、言ってしまえば港は玄関口だ。珍しいモノも多い。この機巧槍をそこで調達したんだ海も含めて十分に一見の価値がある。それに『魔王の眷属』を身近に感じるのはあそこくらいものだ」

『グランシースピア・改』

 彼女が握る機巧槍は元々、人の身にて海中を進むために設計された物の改造品だ。

 そんな類に、海だからこそ外の世界の玄関だからこそ、彼女の槍の様に出会いがあるのかもしれない。

 

 改めて細工籠手を調整するの手を止めて、想像力を膨らませる。

 間違いなく彼の知らない世界、心中にある種の可能性という期待も芽生えるだろう。

 

「海かぁ……、オルカも世界で一番大きいモノだって言ってたな。きっといい思い出になるかな。よしっ」

「お?すんなり珍しいじゃん。てっきりお金がもったいないとか言い出すと思ったのに」

「ちょっとね。手紙とか故郷とか色々逢って少し気が楽になったから」

 若葉の少年の返答に、すんなり通ると思っておらず提案者である彼女は意外だと驚くだろう。

 彼のここ最近の行動と言えば、やはり鍛錬と仕事のループに勤しんでいた。

 何処までもどこまでも先を急いで、息抜きを軽視する"相棒"に対して心配していた故の提案という事もある。

 

「それに凄い人に"自由"だって言われたから、ちょっと信じてみようかなって」

「ふーん」

 故郷の事に、さきの『増殖事変』にて出会った記憶のない翡翠の天使。

 彼女の根拠のない放言に、しかしその揺るぎのない瞳に言葉に胸の内に抱える恐れが軽くなっている。

 

 我ながらちょろいかもしれないと、可笑しくて勝手に笑う。

 

「まぁよかったじゃん。平和なら平和でいいのにカイトってばいつまでも気が抜けなくてさー。そのままじゃあんた戦に魂惹かれて戻ってこれなくなると思ったから」

「あぁ、私も戦が好きな(タチ)だが、君はなんというかますます加減の仕方を知らないように見える」

【阿修羅姫】【修羅の気質】

 槍舞師、カルデニアはその言葉に同意する。

 若葉の少年は暗中模索であったころから、進んでる実感を苦痛で錯覚するような悪癖がある。

 それが狂羅の輪廻に堕ちて、極限染みた状況を踏み荒らして更に脳内麻薬中毒(まひしつつ)あった。

 

「うん、旅行は良い機会だろう。私は『円卓』のエース(ろくでなし)共の様に、戦場に魂を落として日常に戻れない連中は知っている。それはだめだ君はこっちに帰ってくるべきだ」

【医療知識】

 その艶やかな髪と、同色の輝き金色の瞳が真っ直ぐ言い放つだろう。

 それは元奉納巫女であり、医術を軽くかじってる彼女にとっても危険な兆候だと感じている。

 例えば痛みもそうだ。慣れることは鈍くなる事と紙一重であるゆえに。

 

 若葉の少年は余計な心配をかけてると頬を掻きながら。

 

「そう、言われると悪い癖、かな。とにかく計画してみます。伝手はないし『転移通宮』(ポータル・ゲート)の許可も取らないといけない少なくとも4人分」

「わかったならよろしい!とにかく遊びにいくんだから、久々に気兼ねなくダラダラいちゃいちゃしたいしねー」

「えー、遠出だよそれ必要、恥ずかしいんだけど……?」

「気にしないで"そういう目的"も暗黙の了解の観光港町よ。これはお互いにとっての"治療行為"。むしろ必須行為だわ」

【菩提樹の献身】

 ガルデニアは悪戯っぽく口元に指をあてて、言い含める。

 なお冗談でなく、肌の触れ合う睦み合いは交感神経を、ただしく馴染ませる働きがあったりする。

 人肌の温かさは人の生まれから切り離せないもの、安心するモノであるのだから。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 そんなこんだで。

 『波濤』への遠出が決まって準備をする事になった。

 それにあたって知り合いに声をかけて、またしばらく不在とする事を伝える。

 冒険者宿『ヴェルニース亭』ギルド受付のヒバリ嬢は、また依頼が溜まりますねと溜息付いていたのには、重用されている実感に苦笑いしてするほかない。

 

 黒剣士、マーローは不同行。

 「旅行なんざ興味がねぇ」と一言それらしい言葉で返された。

 白耳の術師、ミストラルも不同行。

 この間の仕入れが過ぎたせいで商品が捌けておらず。生物由来に劣化する関係上長く店を空けれれても困ると、彼女の伴侶からのストップがかかったのだ。

【理性蒸発】【無縫妖精】

 なお、本人は「皆で海行きたい―!あんまりだー!!」と不満を表していたが。

 種銭出来て調子乗って仕入れ過ぎた本人の自業自得の為、均しき泣いた後けろっと、「お土産よろしくね♪」と切り替えていた事が記憶に新しいだろう。

 

 

 結局、『セレクティブ』までの『転移通宮』(ポータル・ゲート)は、商隊の護衛依頼に便乗することにした。

 領主にコネがあるとかならもかく、彼らでは一から許可を取るには時間がかかる。

 彼らも今やAランクの冒険者のカルデニアを筆頭として、信頼に値すると判断される水準の冒険者の徒党(パーティ)である。

 先の氾濫現象(スタンピード)から、溢れ出した素材の輸出先として港への交易路に需要は尽きない。

 そんな時世も幸運だったと言えるだろう。

 

 結局仕事の延長だ。

 役割(ロール)"レンジャー"として仕事道具を点検し整備する。

 姿晦ましの『隠蔽外套』はともかく『複合式羅針盤』『属性値検値器』が狂っていては有事に命に係わるのだから。

 

【レンジャー】【野狩人Lv3/5】

 

 そんな旅支度の準備の中。

 

―――リィン

【精人】【円環精霊】【偶像少女】

 鈴のなる様な音と共に、虚空に焔の花が咲いて。

 穢れのない白髪に紅色のワンピースを揺らして、儚紅の幼子がその現身のまま現れる。

 そして、ふよふよと。

 浮かび上がりながら、ごく自然に己の定めた庇護者その膝の上に座るだろう。

 

「ん、起きたリコ?」

「ん……。ぱぱ、どこか出掛けるの」

 その髪を梳かれるまま、撫でられるままに身を任せて。

 虚空を空ろったままの眠気眼に、その旅支度を察して声に出して訪ねる。

 

「ちょっとね。みんなで『波濤』の港町に、気晴らしに"海"を見に行こうって話になって」

 儚紅の少女はパチクリと瞬く"海"、聞かない言葉である。

 

「"海"ってどんなところ」

「んー、ぼくも親友(オルカ)の話で聞くだけだから、何とも言えないけど」

 儚紅の幼子に、もはや曖昧な聞いた過去の話思い返しながら話す。

 あぁ、特段大きな感動と興奮を伝えんと、身振り手振り併せて大声に話してくれたものだ。

 きっと、彼がそれは初めて見た。"海"という存在に対する感動をうかがわせるだろう。

 

「湖なんかと比較にならない"世界で一番大きなもの"、水の根源、外からは風で移ろう転がる音に溢れて、その中は静かでたくさんの本当にたくさんの命の生まれるところらしいよ」

「よく、わかんない」

「そうだよね。ぼくもわかんない。アイツ時々詩的になるんだもんなぁ。そういえば親友(オルカ)の見た世界を後追いする事になるのか」

 まったく似合わないのにとクスリと笑いながら、過去の思い出に馳せる。

 リウ村に暮らしていた頃から、全く反対の気質でありながら、何処かウマの合った二人である。

 

「そう思うと愉しみになってきた。アイツがそこまで言うんだ絶対がっかりはしない」

「うん、愉しみ」

 儚紅の少女、リコリスはその言葉に、小さく頭を揺らして身を任せる。

 彼女は既に原始的ながら、それでも心を響かせる圧倒する引き込まれるものを知っている。

 例えば"人の扱う火に限界はない"と、豪語した『溶鉱炉』の迫力がそれだ。

 だから、庇護者の言葉の通りに"この世界で一番を大きなものとやら"に期待を寄せ、鈴のなる様な声を少し跳ねさせるだろう。

 

【壊れた心】⇒【倖せび花冠】

 その姿に、無気力症に、無為に揺蕩った彼女はもういない。

 電脳に閉じた情報に満ちた空想の世界より、好いた人達に取り巻いて手を引いてもらってみる世界の方に心が惹かれている。

 

 明日を想う。

 あぁ、きっとこれが生きているという事なのだろう。

 

「さてと道具も問題なし、明日も早いから僕は寝るよ」

「ん、おやすみ」

「おやすみ。リコ」

ぱたんと。

 若葉の少年は動作を確認して、針を戻して蓋を閉め、カバンにしまい込む。

 そして少し早めの就寝に寝床に眠るだろう。

 

 音はなし、静寂の中。

 

「………」

 無防備な庇護者を、儚紅の少女はじっとその目で見つめて、しばらくとも、そうしている。

 既に、己の花冠(セグメント)は三片も集まっている。

 名実ともに情報強度を確立され、中精霊として独立して行動できるだろう。

 

【電脳精霊】【イレギュラー】

 生きる為なら、ただ無為を漂うだけなら既に適当な魔導文明の遺跡の中、永遠と自己処理(タスク)を繰り返して電脳の夢に漂えばいい。

 しかし彼女は既に、そんなの事は嫌だった。

 

「ずっと前、貴方は(ぱぱ)に成れないって言った。それでも私を祝福してくれるって」

 儚紅の少女はその小さな手を伸ばし庇護者に触れ、温もりに身を寄せて呟いた。

 彼女は誰に祝福されて生まれてきたものではない。

 きっと、だから縁が途切れてしまえば、誰の痛みも分からない"人でなし"に戻ってしまう。

 

【想起(メモリー):嘆■の■角獣】

 魔女(ヘルバ)が言っていた。己の本質はプロトタイプ(リリィ)であると。

 きっと再誕する前の、過去の全てから逃れられたわけじゃない。

 別れは嫌だ。傷つけるのは嫌だ。一人は嫌だ。

 

 だから―――

 

「私を離さないで」

【魂の絆】

 若葉の少年は横に、その腕の中に身を潜らせて、抱かれるように身を縮める。

 設計された精人である彼女は、本来に睡眠という行為を必要としない。

 故に、その行為はここにあるただこの時の心を貪る為に。

 

 温もりに微睡みながら、儚紅の少女は眠りにつくのだった。

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

―――【翌日】

 

 平原地帯。そんなこんだで。また自宅に戸締りをして彼らは青空の下を行く。

 足をムキムキとしたチョコボが牽引する、ガタンゴトンと車輪を鳴らす三台からなる馬車列(キャラバン)の中。

 

 その一台に、護衛の依頼を受けて後部車に静かに座しているだろう。

 

「んぐぇーひっさしぶりねー。このとにかく暇でお尻が痛くなる退屈な時間ー!」

「だから慣れなさい。冒険者として信頼を得たとしても、あくまでゴロツキが扱いなのは変わらないのだから」

「ふふ」

 重剣士、ローズが痺れを切らした様に背を伸ばして。

 槍舞師、カルデニアが昔と同じように座して瞑想するような姿勢に注意する。

 若葉の少年、カイトはそれが何処かおかしくて、内心に笑いを堪える。

 あれから随分と時間を歩いてきたが、変わらない事は確かにあると示すように。

 

 結局の所、一般人からは最底辺たる冒険者は一般的にゴロツキと相違はない。

 彼らとて、自覚なく荒事に感覚マヒしてる事もある。行儀よくしているのが一番だろう。

 

ガタンゴトンと。

 街道の石を踏みつぶして、繰り返し揺れる馬車。

 換気窓覗く外の風景は、ゆっくりとちゃくちゃくと流れゆく。

 

 そして、馬車列(キャラバン)が森を切り拓いた傍へと歩を進める。

 

……ぴくっ

 鳥の声が途切れた。その翼が一斉に羽搏くさざめき音が聞こえた。

 そして場所が場所である。

【レンジャー】・【阿修羅姫】

 彼らとていまや熟達である。それだけで戦の予兆を嗅ぎ付け頭の意識が切り替わる。

 

「ガルデニアさん」

「あぁ、杞憂で済めばいいがな」

 一言による意思疎通。

 それぞれに自身の得物を手に握り、若葉の双剣士は軽業に馬車の天蓋に上って視界を拡げる。

 槍舞師と重剣士、馬車後部扉にいつでも飛び出せるように構えるだろう。

 

「!」

 

 そしてその視界の先に、焔の煌めきが生まれてそれが次第に大きくなる事を観測して―――

「―――襲撃です!捕まって衝撃に備えてください!!」

 レンジャーの役割に大声で事態を叫んだ。馬車列(キャラバン)全体に事態を伝える。

 魔法か何か、その焔の煌めきは、その勢いのまま先頭馬車の側面近くに着弾して衝撃により。

 車軸部分が破壊され立往生を余儀なくされる。

 

 襲撃に対して、依頼人から悲鳴が上がる。

 彼らは護衛だ。どうしても襲撃に対する対処は後手にならざるを得ない。

 

「方角は、北北西!遠すぎるおそらく囮です、別動隊(ほんめい)に注意して!!」

「了解した。最悪、依頼人を逃がす足だけは確保するとしよう」

「糞が!あたしらこれから遊びに行くんだってば、無粋な奴らはぶっ飛ばしてやる!!」

 徒党はそれぞれの立ち位置に散らばる。

 ローズはその反対方向の壁に襲撃に備えて、カルデニアは手早く依頼人たちを落ち着かせ一つの馬車に避難誘導、護衛対象を纏めて最低限の安全を確保するだろう。

 

「リコ」

「ん」

『黄昏の腕輪:六華弓』【レンジャー】【精霊術:呪印】(ウェーブ)

 射角を予想して、電子装甲から形とられる幾何学模様の弓を向けて―――

ズ ドン!

 呪印に纏わり焔一発限りの一矢に、狙撃の方向に雑に牽制(プラフ)に投げ込んで。

 そのまま気配迷彩を纏って馬車の影に消える。

 

 その予想通りというべきか馬車の周りを、森から出てきた有象無象が取り囲むだろう。

 

「ひゃっはー!護衛の数も少ねぇ新鮮な獲物だぁ!」

「ハチの巣になりたくなければ有り金と女おいてきなァ!!」

『5.6mm小銃』【ごろつき】【銃使い】(マンキラー)【子鼠の群】

 その手に握られるのは小口径の銃器、『聖錬』にて人殺しの武器として悪名高い凶器である。

 そして珍しくも余りにある典型的なゴロツキ達である。

 

 だが、そんな警告など知ったことじゃないといったばかりに。

ザッ!

 前衛組は武器を手に取り、踏み込んでいく。

 

(マンキラー)とはな、どこで手に入れた玩具か知らないが」

「センパイ、あたしが壁になるわ。度胸が足りない奴ならそのまま食い荒らす」 

【アマゾネス】【錬気法:ビートルスキン】【超頑強】

 重剣士、ローズがその大剣を盾に、呼吸にオドを取り込み肉体を変質させて。

 火を噴く銃火(マズルフラッシュ)、お構いなしに火花を散すだろう―――距離が詰まる。

 

だが。

 

「なっ、嘘だろ。このアマ躊躇なく突っ込んできやがる!」

「だーっ、腕が痺れてうっとうしいわね?!」

「なんだ雌ゴリラ、ぐげぇええええ!?」

【剛剣技】【怪力】

グァアンン!!

 実の所、5.6mmの豆鉄砲では彼女ように、錬気に先鋭化した戦士すら急所以外は抜けない。

 突撃した勢いのまま、纏めて数人を薙ぎ払う。

 

 これが"マンキラー"と揶揄される由来、そんなものでは体外に強固な表皮・骨格・外殻を持つ外敵(モンスター)それ以上のに通じるわけもない。

 外敵たる脅威溢れたこの世界に、人しか殺せない武器、一般的にそんなものをぶら下げている故に人殺しを習わいとする者として蔑まれるだろう

 

 なお"急所なら抜けるのだろう?"と、百発百中を旨とする極まった使い手もいるが。

 タンクがいると確認したならば、一般的に小口径の銃火に期待すべきはストッピングパワーだ。

 

 頭がいるならば、少しでも頭が回るのがいるのならば―――

 

「騒ぐんじゃねぇよ肉壁共が、少しでも時間稼ぎやがれ」

 一歩のいた位置に、堂々と待機していた1人の男が動き出す。

 

「"俺様"がいるんだからよ」

『歪曲陸眼:上級魔具』【ハイエナの嗅覚】【盗賊頭】

 ギョロギョロとねじ決まれた様に根付く、その瞳孔は既に異形染みてうごめくだろう。

 その男は『魔具』により後天的に獲得した魔眼使いである。

 

【魔眼:湾曲滑車】【疑似鬼気】

 視点を中心に発生する必殺、目に捕らえる限りのマナの歪み斥力場による剪断である。

 留めれば見る焦点だけで殺せる。"速さ"その安易な理解と共に投射されるのは乱雑する歯車。

 

 その視野に金糸髪を靡かせた槍使いが割り込むだろう。

「―――ふむ」

【ディフェンダー】【カバーリング】

 

「へへ馬鹿が」

 関係がない、これを回せば何物も嚙み砕かれる。そのまま回せば、少なくとも足は砕ける。

 そのまま銃をもって囲いころせばいい。

 巡り合った幸運に、そういう成功体験を重ねてきた。

 上玉をころすのは勿体ねぇが、魔具に奔る回路に熱が奔る、嘲笑いながら魔眼を動かして。

 

 変形槍に瞬間に弾ける神楽、そして予想外の破壊音が響き渡る。

【凛として月華の如く】【魔力撃】

ギギ―――バキン!!

 重ねられた衝撃、魔力撃にあっさりと投射された歯車が砕ける音を聞いた。

 

「はーーー!?」

「何を間抜けな顔をしている。所謂はマナ現象だ。斬れないほうがよほど理不尽だろう」

 その投射歯車の"色"落ち消える残骸を、舞いの残身に祓いながら金糸髪の槍使いは悠然と迫る。

 

「おい、おいおいおいおい!!これは必中必殺の魔眼だぞ!おかしいだろが!」

【盗賊頭】【魔法剣Lv2/5】【魔眼:動体視力強化】

 魔眼使いの男は諦めない諦めが悪い。この世界にある程度生きたが持ち得る雑草根性。

 ぎょろぎょろと血走った眼を、腰の剣を引き抜いて構えた。

 なら剣に凌いで至近に曲げるしかない。

 援護を期待して、じりじりと詰まる距離を少しでも引き延ばそうと―――。

 

ザッ!

 視野狭窄、眼に頼り切ったその視界の影から、不意討つ刃が奔るだろう。

「"ジャール"何してやがる、早く援護しろ役に立たねぇ―――ごばっ!?」

「前だけ、隙だらけ」

【ファストアクション】【精霊術Lv2/5】

 双剣により足の腱を切り裂き崩しから、鳩尾の蹴りで意識を刈り取る。

 砲撃に対する牽制一射の後に、精霊術と体技に姿を隠した若葉の双剣士である。

 

「終わったな。『魔眼使い』は珍しいが、どうにも鈍い。最初の魔法使い?は、こいつら見捨てて逃げたか」

「お疲れ様です。一応、ぼくも遊撃に動いてたけどこれならいらなかったですね」

 刃を振るい血を払う。双剣をマウントしなおして。

 彼等は囲い手が全滅した辺りでそれこそ、大魔法が飛んでくることも警戒して動いていたが、それもないようである。

 

 彼らはおそらく、哀れにも見捨てられた地べた転がる男を一瞥しながら。

 『魔具』、強盗に見合わないそれについて話す。

 

「にしてもこれも"上級魔具"か、最近よく見るな。使い手の悪いうわさをよく聞くが」

「ワイズマンの奴も言ってたわねー『カオティックPK』だっけ、魔具職人の『刻印』もないそれで暴れまわる連中だっけ?」

 近頃、聖錬にて騒がれてる魔導文明の量産品に近しき、出土不明の魔具の総称だ。

 大概にして、それは何でもないきっかけで貧しき誰かの手に渡り、手にした力に増長して問題を起こす事例が多く報告されていた。

 

 しかも、回収された魔具自体の性能はそこまでなく、使い手が"最大限効率化されている"。

 だから、真っ当に回収しても何の利益にも繋がらない疫病神である。

 

「『刻印』のない魔具に対して、取り締まりはされてるんでしょー。きっとすぐ収まるって」

「だといいが」

 対象的に楽観的な重剣士と、ため息をつく槍使い。

 こういうものには何事も受け皿があるものだ。人の世の暗い部分はそういう都合の良いだけの流れ者を受け入れる素地がある。

 

(そういえば、こんなことも言ってたな)

 若葉の双剣士は思い返す。情報屋たるワイズマンはこう言っていた。

 

―――『気を付けたまえ、そういった者達の一部が流れ、傭兵国家グレンダン大騒ぎが起こることが予想される』

 聖錬中央部に存在する、歓楽たる無法地帯傭兵国家『グレンダン』。

 そこで十数年前起こった大事件。

 実質的な王であった傭兵の頂点たる『武王』が、突然挑発した無名の戦士に瞬殺された。

 それに次ぐ立場であった暗黒騎士も、落とし前をつけるべく追撃に出た幹部と共に全て膾切りとなった。

 

 それによって示された。

 過去にあった味方したものに勝利を齎す、『最強の軍事国家』の威光はもはや幻想であると。

 故に、その座はとうに、『王国』に奪われている。

 既に長く時は経ているが、上層部が揃って殲滅された事で、その内部も序列も未だ足並みそろわず。

 

 その内部にて、それぞれの派閥に下剋上の機運が燻っているという。

 魔具に増長した爪弾き者だろうと、力を求めて取り込もうとするだろう、まさに無法である。

 

「ググググギイイ!!」

 そんな中、歪な音が空間に響いた。

 忌避を誘うそれは首が強引にねじれる音、体が壊れてねじれる音である。

 意識を断ったはずの盗賊の頭領が動き出そうと、いや断たれた腱に立ち上がる事も出来ず、倒れ伏しながら腕を首のみを無理やり動かして―――

 

【AIDA感染者】

 その魔眼を向けようとしている。

 

 明らかに正気でない。

 

「確かに意識は断ったはず、っ!?」

「退きなさい、見た通りあれは正気じゃない。きっと常套手段という奴よ」

 狂羅の輪廻に堕ちた者の悪癖から、いち早く根を断とうと踏み込もうして。

 ガルデニアが勇む彼を、経験から槍で制するのである。

 

「かかかかかががああがあああ!!」

 あるいはその予想通りというべきか、自由の利かない宿主に愛想をつかしたか。

 結局、目線を通せぬまま魔眼の源たる『上級魔具』が過稼働する。見当違いに歪む歪むだろう。

 

ヴァジュンン!!

 ああ、どうあっても焦点は合わない。ただただ倒れ伏したまま地面事、周辺を歪めて。

 ねじキレた。

 誰も巻き込めるまま、肉片へとかわったのである。

 

『―――ルン♪』

【円環■■】(ドローンセル)【AIDA】【無貌の知識欲】

 その枷に開放され躯を抜け出すのは、情報生命体、寄生虫。

 そちらがよりおもしろそうだと、己の宿主を蹂躙した相手へと近づこうと虚空を這い出て―――。

 

「だめ」

リィン

 

「ここは私の」

【偶像乙女】【アサルトサージ】

じゅっ、プチン。

 近づく気色の悪い同類に反応し。

 一人でに花咲かせた儚紅の少女の華奢な手に、あっさりと握りつぶされた。

 

「お、めずらしーじゃん、リコが勝手に出てくるなんてさ」

害虫(バグ)が近づいてきたから潰した、褒めて」

「おーよしよし!」

 重剣士の彼女が誇らしげに揺れる小さな頭を撫で繰り回して。

 

「……巻き込まれてたかも、助かりました。なんだろう明らかに使い手の意志じゃない」

「さてな『預験帝』の鉄くず連中の最後に似ている。念頭に置いて損はない」

 それを見ながら若葉の少年と槍舞の彼女は、その正体を推測するだろう。

 

 ぶっ転がした連中を息のあるのは捕縛して馬車に乗せていく。

 小物である賞金も、大した情報は得られないだろうが、こんな所に転がして魔物に食われて人の味を覚えられても困るのだから。

 

「銃も何処で手に入れたやらとにかく道中の警戒を厳しくするとしよう、きなくさいのは変わらない様だ」

「はーい」

 そうベテランとして、槍使いの女が占めるのだった。

 

 

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