ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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遭遇【運命の預言盤】

 

【覇濤首国クトゥルー】

 

 その海上運航路(シーレーン)の一つ、青く青く透き通る洋上の事。

 近代の鋼船と、中世の帆船が入り混じる歪な光景が海を行くだろう。

 

 そう、この世界において、"鋼船"と木造の"帆船"は歪な形で同居している。

 鋼船は頑強でパワーがありまた速く、自然に左右されず安定して運航できるが、

 マナ現象により各耐用年数が短く、燃料の事もあり総じて運用コストが高い。

 また動力機関の騒音により、人類の敵対存在たるモンスターを引き寄せやすい。

 その反面"帆船"は、脆く運航が自然に左右されるが、何より静粛性に優れて運用コストが安い。

 

 鉄船を操る技術、それはこの世界に漂着した外宇宙からの零世代(オーバーテクノロジー)

 その劣化模倣(コピー)である事は、一部の人間にしか知られていないだろう。

 

 そんなこと一般には関係ない事は、さておいて。

 

 

 

●●●

 

 

 

 天候は快晴、周囲は尽きる事のない大海原。

 遥か雄大な海原を、幾隻もの木製の輸送艦を牽引するように、蒸気を吐きながら鋼船が行く。

 そしてその甲板に、腕を組み仁王立ちする少女が一人いた。

 

「今日も順調順調っ、ボイラーも快調!整備班もいい仕事をするな!!」

『白磁のクローク』【深緋の瞳】【胸部装甲・貧乳的な】

 燃える如く紅眼、小麦色の金髪をサイドテールに纏めて、青と白のツートーンの戦闘服(セーラー)を纏い。

 その上から白いクロークを羽織って、丈の短いスカートから伸びる脚が眩しい。

 そんな年頃の少女である。

 

「おっと少し速度が出過ぎたか、置いてっちゃうな出力ダウンっと」

 もちろん、こんな洋上城に仁王立ちする彼女が、普通の少女の訳はない。

 その背中には特徴的な金属デバイス、

 物々しいアンカーから延びるボイラーや砲身、"艤装"と呼ばれる船の一部を再現したような魔具が接続されているだろう。

 

「護衛だもんなー、しっかりエスコートしなくちゃ」

『軽巡洋艦;クリーブランド』【戦娘】(メンタルモデル)

 彼女の名前は、兵器としての渾名、軽巡洋艦フラグシップ『クリーブランド』

 この姿に表せるのは、港国『覇濤』にて運用される主力海上兵器の一つ。

 鋼鉄の船、それに半融合の神経接続にて繋がり自在に駆る戦娘(メンタルモデル)という存在である。

 

「いい天気だ。にしても暇だなぁ、」

 船のふちに座り込んで足をプラプラと揺らす。

 いわゆる半機械細工の改造人間であるが、あくまでその表情は年相応に。

 この広大な海原を、愉し気に見果てて。

 

ぴくっ!

【軽巡艤装:クリーブランド級】【多目的ハイパーセンサー】

 その戦娘に搭載されたセンサーに人が感覚器がリンクする。

 海原の声が聞こえる。こちらに猛然と迫る巨大な存在を、感知したのである。

 

「噂をすればッて云う奴だな!かかってこい臨時ボーナスはいただきだ!」

【クリーブ兄貴】【自信家】【守銭奴】

 男勝りに少女はそれに反応してその瞳を闘志に燃やして、にやりと笑うだろう。

 クロークをたなびかせパチンと指を鳴らして、外敵襲来の警報(アラーム)が鳴り響かせて。

 後方の護衛対象に、音と光にて事態をこちらの動きを伝える。

 

「ようし軽巡洋艦クリーブランド!先行するぞ!!」

―――グルルォォオオオン!

 男勝りの少女の手振り指揮の元、鋼船がその咆哮を上げるだろう。

 その海中の四機ものスクリュープロペラがうなりをあげ。、

 衝角は動力の高まりに応じて高く波を斬り裂いて。

 砲門は重高音を鳴り響かせながら、予測接近位置に向けて一糸乱れず整列するように向けられる。

 

 護衛対象から単独で先行したのは、その騒音により目標を己に誘導する為である。

 

「―――……距離800」

【攻撃指令】【裡の海メトローム】(心音定位)

 彼女の駆る『クリーブランド級』には海上戦闘に特化し"魚雷"や"機雷"が搭載されていない。

 つまりは海中に敵に対する攻撃手段に乏しい、それを欠陥だと笑う者もいるだろう。

 男勝りの少女は目を閉じて互いの距離を測り、己の中に流れる鼓動に時間の流れを、ソナーの如く相対速度を図る。

 

 

「距離200」

 その成果がここに現れるだろう。

 男勝りの少女は確固たる目的をもって、繰り返し繰り返し訓練を重ねてきた。

 

 アンノウンとの距離が目前まで迫る。きっとそれは吃水下からは仕掛けてこないだろう。

 流石にこの重量の鉄の塊である。同規模の質量ならともかく、容易には抜けない。

 あれらの海の魔物は、鋼船だろうと一度転覆させれば驚くほど無力になる事を知っている。

 武装ゆえの上部重量過多(ヘビートップ)、その弱点をモンスターは何の不思議か自然に継承している。

 

『『『―――キッシャアアアア!!』』』

【一角クジラ】【ウェーブタックル】【ギョグンシュウライ】

 その予想通り、海上に破壊本能に合わせて一本角の海獣の群れが飛び出してきた。

 数はおおよそ八尾程か。

 海水衣を纏いしその様はまるで10トンミサイルの如く、海の浮力に支えられたその重量の脅威は陸の世界の非ではない。

 

 しかしそれは―――

『6"/47 Mk.16 3連装砲』『5"/38 Mk.12 連装両用砲』

 襲い掛かってい来るだろう方向も、タイミングもすでに把握済みだ。

 少女が認識するままにクリーブランド級が備えた、大小10門もの砲身が素早く対象を追う。

 

 そして。

 

「―――捉えた(ロック)全門斉射(ファイア)ァァア!!」

 既に微調整は済んだ。

 少女の絶対の自信をもって振り落とされる手、応じて砲門から一斉に火砲の華が乱れ咲き。

―――ッッツツッッガァアアアン!!

 数瞬遅れて周囲に轟音が鳴り響く。

 その華は寸分たがわず海獣の群れ、その頭を胴を撃ち抜きまたは衝撃に弾き飛ばすだろう。

 

 

 

 火薬に焼かれて焦がれた肉の匂いが辺りを満たす。

 煙の晴れた先に群れのリーダー個体か、一際大きなクジラが削られながらも勢いで突っ込んでくる。

 

ベシャン!!

『ギャシャアアアアアン!!』

「おっと仕留めそこねたか」

【艤装:クリーブランド級】【艤足駆動】【パルクール】

 海衣を流して尾びれの如く回す、すると甲板を回転撃に暴れまわる。

 それを少女は艤装の重心移動、反作用に軽く飛び越えて、するりと頭に迫るだろう。

 

「じゃあな」

【艤装・トンファー】

バァン!

 流れるような肉薄である。

 そして、そのまま背の艦装を用いた、突撃および接射で頭をぶち抜いたのである。

 それは文字通りの一蹴、殲滅だろう。

 

「ビンゴ!へへーんどうだ!!」

 おおよそ、10,000トンその巨体にしては、常識ではありえない反応速度である。

 本来鈍重であるだろう鋼の船、しかしこの世界においてそんな常識は通じない。

 彼女ら半融合した戦娘(メンタルモデル)にとって、船体は体の一部、単独で運用でき―――。

【努力の才能】【白鳥の如く】

 故にそれこそ訓練次第で、その練度は遥かに伸びる。

 彼女等であれば、ワンオペにてまるで手足の延長の如く速度で船を操るのである。

 

「さぁて、また引っ張ってかないとな。時は金なり、おーいはやくぐずぐずしてる暇はないぞ」

 練習の成果を噛み締める様に、クロークを揺らしてくるりと周りながら。

 少女は護衛対象が追いついてくるのを待つだろう。

 

 追いついてきた帆船の乗っていた乗客から、感謝を示す"ありがとう"と手を振られる。

 また、帆船の護衛の冒険者からは"仕事がねぇじゃねえか"とヤジられる。

 対して男勝りの少女は手を振り返し、早い者勝ちだとピースサインに返すだろう。

 

「とにかく見た通りだ!大船に乗ったつもりで安心してくれていいぜ。さぁ!私たちの"セレクティブ"へ快適な旅をって奴だ!」

【クリーブ兄貴】

 クリーブランド級の備え付けの拡声器にて放送し、応じて歓声が上がるだろう。

 これが人類発展の礎、『覇濤』の交易路(シーレーン)を護る武力の象徴、洋上の黒鉄の城。

 それぞれに同体となる艦船の名で区別される頼もしき戦乙女たちである。

 

 その後は平穏に彼女等の船団はゆっくりと往く、そんなこの世界の海原の日常風景の事である。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

【覇濤首国クトゥルー:セレクティブ】

 

 『聖錬』にてそう世間に評される時季外れの氾濫事象から、四か月の時を経て。

  

 世界はそんなもの忘れて、微かに残る戦後の喧騒の香りのみが漂うだろう。

 大量のモンスター素材、増殖(メイガス)の世界樹たる骸、石炭という金脈に対する人の世の縄張り争い。

 それは遠くの話であるが、玄関口である『覇濤』を賑わわせて人の喧騒として活気に変わっていた。

 

 そんな人込みを船上から見下ろしながら、彼女は湾港に船体を入港させて。

 

「たっだいまー!」

 そして自身の所属に割り当てられた湾港その事務所に足を運ぶ。

 勢いよく執務室の戸を開き。

 そこにいたのは―――

 

「お帰りクリーブランド、よかった。今日も無事に帰ってこれたみたいだね」

「あったりまえだろー。提督、こんな任務朝飯前だって」

【凡人提督】【事務畑】【好々爺】

 そこにいたのは机に向かって、書類に向き合い事務処理をする人のよさそうな初老の男。

 彼が戦娘(へいき)というを管理運用する責任者―――

 通称、"提督"という役職である。

 

 そして。

 

「あーくりーぶにき、おかえりー」

【金曇義眼】【黒把のポニー】【グータラ娘】

 片方曇りかかった金色の瞳、黒髪のポニーテールが特徴的な少女"カッシン"。

 怠惰にソファーに寝そべりながらも、ぐーたらと間の伸びた声をかけてくる。

 

「やっほークリーブの兄貴おかえりだ!それで今回成果はどうでぇ?」

【オッドアイ】【白馬のポニー】【爆裂(ハッパ)娘】

 そしてもう片方に紅と金の瞳のオッドアイ、白髪のポニーテールが特徴的な少女"タウンズ"。

 その手で爆発物らしい物体をいじりながら、快活に声を返してくる。

 

【【駆逐艤装:マハン級】】

 お揃いの髪飾りを身に飾った彼女等は血の繋がりの姉妹であり、兵器としても姉妹艦。

 そして男勝りの少女にとって、この鎮守府においての同僚である。

 

「だから二人とも!なんで私の事をクリーブの兄貴って呼ぶんだー!私は女の子なんだぞ」

「だって………ねぇ」

「クリーブの兄貴はクリーブのアニキだからなー」

 小さな二人はその抗議に、目を向かい合わせて苦笑する。

 "クリーブ兄貴"、それはもしかすれば男より頼らしい彼女に対する愛称である。

 そうやって頼られるのは悪い気はしないが、この愛称には少しばかり不満を抱いていたりする。

 

 そんないつものやり取りを、初老の男は微笑ましく見守りながら。

「まぁまぁそれはそれとして、クリーブランド初めての単艦任務だったわけだ。何か気になったことはないか」

「まー、やっぱ僚艦は欲しいって感じたなー、私の設計思想は砲撃戦、洋上戦闘特化だからさ。自分を囮にするやり方もあまり賢いとは言えないじゃん」

「そうか……、すまない。私の湾港での立場が弱いばかりに君に能力を十分に発揮する場をあげられないとは」

 本来、艦船とは運用に1000人近くの乗組員を要す鋼の城である。

 戦娘(メンタルモデル)の負担も大きく、火器管制を絞って火砲を増やし特化するありきたりな発想だ。

 クリーブランド級はそれに加えて、センサー等の強化し洋上戦闘特化とまで仕上げられている。

 

 本来のコンセプトでいえば僚艦に海中への対処を任せて。

 戦隊規模の駆逐艦を率いる旗艦としての運用が望ましいだろう。だが……。

 

「提督のせいじゃないって相変わらず補給が絞られているんだろ。ほんと派閥争いなんてくだらないよなー。子供の喧嘩かっつんだ」

「……すまない」

 申し訳なさそうにする提督を、けらけらと笑い飛ばす。

 今回は、振り分けられた任務に対して、運用コスト節約のため単艦運用だった。

 

 そう現在、この湾港街"セレクティブ"においては、ある種の派閥争いが蔓延しているのだ。

 現在主流となるのは対立する三つの派閥である。

 大陸側の影響が強く、『聖錬』及び『奏護』の繋がり(パイプ)を強化、より純人種発展の港をと大々的にと主張する"人道派閥"。

 覇濤本国、『ルルイエ』に根付く古い眷属、魔族の貴族をバックに持つ支配層であり保守派である"海魔柱 ダゴン派閥"。

 そして儲かればなんでもいいと、蝙蝠と風見鳥を決め込む"商閥派"である。

 

 そして彼女等の鎮守府が所属といえば、表面上は"ダゴン派閥"であるが……。

 旧式の駆逐艦2隻、運用実績にないフラグシップの軽巡1隻。

 いわゆる弱小の鎮守府である。どちらの派閥にも見向きもされていない。

 男勝りの彼女自身も、才能を認められた|新鋭艦《フラグシップ】であるが、

 設計段階で船体の巨大化、魚雷・爆雷の運用を捨て去ったことで、軽巡洋艦として運用面で不安があり―――

 他の提督の指名から浮いてしまって、ここに流れてきた経緯がある。

 

 ここにいる彼女等は例えば消去法に残った。ある種残り物たちの集まりだった。

 

「……どっからかお金の力で勢力を伸ばしてるのは、"人道派"の連中だっけ?めんどくさーい。バックに聖錬や奏護からの金流れがあるって噂」

「ほんと、時代錯誤な連中だぜ。触発されてルルイエお貴族様の"ダゴン派閥"も意固地になってるってんだからなー」

 その根底にあるのは、純人種と魔族の互いに根深い差別意識の表れだった。

 本当に呆れたように気だるげに駆逐艦の二人は言うだろう。

 彼女等はあくまで兵器である。上の世界である権力闘争からは醒めた目線で見ている。

 

 ただ事実の数字として。

 

「今月の海の死者は四桁、仕事はやり切れない位一杯あるんだから喧嘩しないで仲良くやればいいのに、バカみたい……ふあぁぁねむ」

「まったくでぇ、口だけ連中は魚雷でも何でも撃ち込んで爆発させてやりたいぜ」

 何より、彼女等はまだ子供だ。

 魔王の眷属である水妖霊(ウィンディーネ)の入り混じるこの土地に育った価値観に。

 "魔族"に対してそこまで壁意を感じてはいないのだ。

 

 それはさておいて。

 男勝りの少女はそんな時世を諸共、考えずに知ったことじゃないと。

 

「ふふーん、そうだそこだ!派閥がなんだやるべき仕事は一杯あるんだから、今に見てろよ実力で見返してやるんだ!」

「おーあいかわらずの意気込みだねクリーブランド」

「もちろんだ提督!だってこのクリーブランドには夢がある!!」

【自信家】【努力の才能】【白鳥の如く】

 その小麦の髪と白磁のクロークを揺らして、確かな自信を胸張り、天に一本指突き出すだろう。

 勿論、簡単だとは思っていない。しかし彼女は努力に裏付けされた自信家である。

 

 彼女は己を信じ努力することが、前に進む為に必要だと信じている。

 辛くとも険しくとも、辿り付く為に積み上げた足跡の全てに価値があると信じてる。

 だって。

 

「それこそ私の『クリーブランド』が手柄を立てれば提督の立場も良くなるし、同型艦がきっと作られる。そしたら孤児園の妹たちを―――――!」

【孤児院出身者】【お姉ちゃんの矜持】

 彼女は一人でないのだから。

 生まれ育った孤児園に、血がつながらなくとも沢山のかわいい妹が待っている。

 手本を示すのだ。己が歩いた道がきっと妹たちの道導となる。

 

 失敗なら避ければいい、成功なら倣えばいい。

 ただただ少しでも明るい未来へと手引きを、その為の努力なら血の一滴だって絞り出すだろう。

 

「―――という事で手柄を立てる為にさ!もっと大きな仕事に取ってきてくれよー提督っ、しっかり考えた仕事なら、私達ならこならせるさ」

「ははは、頼もしいね。考えておこうか」

【立止の枯れ木】

 駆け寄るその様子を初老の提督は微笑ましそうに、ただ眩しそうに見つめる。

 初老の彼にとっては男勝りの少女は、朝焼けの景色に等しいのである。

 男は過去に権力争いに敗れて、一度負けたくらいで、そこで足を止めてしまっているのだから。

 

 あぁ、"若さ"という夢はこんなにも眩しく。

 そして、見ていてはらはらとされる、踏み外せば崖っぷちだろう。

 

「おっと!もうバイトの時間だ。時は金なりじゃあ提督行ってくるぜ、みんなまたなー」

「おー」

【守銭奴】

 男勝りの彼女は時計を見てはっと慌ただしく、時間に追われては鎮守府を出ていくだろう。

 孤児院の仕送りの為、とにかくお金が必要だと、彼女はバイトと掛け持ちしている。

 物流と観光、性風俗盛んな覇濤にとって、身寄りない少女の有力な就職先と言えば娼婦である。

 だから、妹たちに少しでも余裕もって学びを得て欲しいと奔走してるのだ。

 

 そんな彼女が、ドタバタと鎮守府を出て行ったあと。

 

「……てーとく、たぶんあれはあれでてーとくを頼りにしてる、だから」

「あぁ、クリーブの兄貴はかっけーけど、ああやってりゃいつか自分が爆発しちめえぜ」

「わかっているさカッシン、ダウンズ。私とて腐っても提督だ自分の役割は間違えない。無理を見て背を押すことはできない」

【グータラ娘】/【爆裂(ハッパ)娘】

 黒把のポニーの"カッシン"は、その髪をだらしなくソファーに垂れ流しながら言うだろう。

 白馬のポニーの"ダウンズ"は、それに同意する。

 彼女たちは、居心地のいいこの鎮守府の現状に彼女達なりの思う所がある。

 我らが兄貴には、憧れを持っているが、それはそれとして心配である。

 

 確かにクリーブランドは、そういう所は実際のところ甘えている。

 帰って、温かく迎えてくれる場所がある、。

 無理なら提督がとめてくれると思って、考えなしに突っ走ってる癖があったりする。

 

「わかってるなら、いい。それに"人道派"に所属してる同僚から聞いたの。火の匂いがする、所属のわからない物資の運び込みもあるって。きっと近いうち覇濤で大嵐が起きる」

『戦歴:真珠湾の涙』

 カッシンは、彼女にしては珍しくはっきりとした口調に語るだろう。

 【真珠湾の涙】と呼ばれる事件、その共通項を持つ同僚達の情報網に、話を集めていた。

 彼女は誰かが思うより、居心地のいい場所の為に周りをよく見ているのである。

 

「だから、嵐がすぎるまで、おとなしくしてるが、吉よ?……すぅ」

 言いたい事を言って、そのままソファーに伏して眠りについてしまうだろう。

 

 その姿は、そのままあどけない事も子供のようである。

 

 初老の提督は、その話を聞いて眉間にしわを深めた後―――。

 

「あぁ、わかっているよ。ここ半年の補給の絞られ方は異常だ。今に増して情勢はキナ臭すぎる」

 この時世に、なさけない自分にため息をついて独り言ちるだろう。

 初老の提督は出世争いに敗れて、それ以降関わらず距離を取ってここにいる。

 

 この初老の男の事務能力は平凡だ。

 ただただ関係部署に調整し、ただ働きやすいように気を配る事しかできない。

 特記すべき特殊技能はなく、周りを牽引する様なカリスマもなく、戦闘能力も皆無である。

 

「それにしても派閥争いも差別もくだらないとは、耳が痛いね。私達大人たちはほんと何やってるんだろうね」

 その混じり気のなさを思い出して苦笑する。

 初老の男は恐怖を知る弱い人間である、その考えも少しだけ理解できてしまう。

 それこそ、くだんの"人道派閥"の派閥の代表は、良く知っている人物なのだから。

 

 他種族入り混じる覇濤という玄関、それでも"種族"に横たわる問題は歴史に根深いものである。

 そもそも目の前の現実として、"魔族"と"純人種"との能力の差は隔絶している。

 それこそ"猫"と"サーベルタイガー"と評される位の、圧倒的な能力の差があるのだ。

 

 そこに畏れを抱き/優越に見下し、互いに排他的になるのは生き物として自然の情動だろう。

 

「歴史もある。今もまだ爪痕を遺す忌々しい歴史が」

【元学者】【歴史知識】

 そもそもが500年前の『対魔戦争』の時世に、

 『魔王領』からの魔族の侵略に各地の散らばる覇濤の土地。

 そこにあった主に漁業を習わいとする原始の共同体と共に、須らく焼き尽くされたのだから。

 

「『対魔戦争』の当事者の『海魔柱ダゴン』様はルルイエで健在でおられるし、そして何より『アクティングの鎮魂祭』をはじめとする『死霊王』が悍ましき爪痕が各地にある」

 否、焼き尽くされただけならまだましである。

 既に滅びて。かつてに語られる、魔王が一柱『死霊王』という腐れ外道がいた。

 まさしくその振る舞いは恥を知らず、道理を知らず、凌辱より悍ましく―――

 各地にその実験施設とマナ汚染と言った形で、爪痕を遺しているのだから。

 

 というか、時の流れに風化しきれないのが、主にこいつのせいと言って間違いはない。

 

「本当に余計な事ばかりしてくれたよ『死霊王』(くされげどう)とやらは、その名を受け継いだという魔王領にいる"二代目"とはどんな奴なのだろうねぇ」

 純人種にとってそれは長すぎる月日であっても、負の遺産(モニュメント)という形で残っているのだ。

 眼にすれば、それが"魔族"だと勘違いしてしまうるほど印象的な遺産(モニュメント)

 "覇濤首国クトゥルー"の成り立ち、盟約の契り時の流れ、それに流れてしまえない血の歴史である。

 

「そう考えるとトーマスよ、君の言う事も分からなくはないがねぇ……」

【■親】

 そして、今の派閥の長の心中を想う。今現在、この圧倒的な鋼船を作り出し操る技術が。

 "魔族"など恐れるに足らぬとの増長を、

 応じて、この技術自体を、"魔族"が完全にものにしてしまうという畏れを生んでいるのだろう。

 

 事実"魔族"どころか"亜人"が

 『魔具』の技術を発展してモノにしてしまえば、純人種は奴隷になる他ないという学説もある。

 

 初老の男は歴史に学ぶだけだ。正しい事はわからない、未来の事はわからない。

 

「性急だ、こんなバランスを崩すような真似。しかし私には、頼るべき伝手も動かすべき手もないわけだ。情けないね」

 わかっていても、物事を良い方向にもっていくための力がない。

 その事にまた深い溜息をついて。

 

 

 弱小鎮守府、その狭い事務所の中で一人の男の苦悩を詰めて陽はくれるのだった。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 ところ変わって港を出た街中の事。

 荷卸しされた荷物が届けられ、時間が惜しいとすぐさまに青空市場に並べられる。

 そこにあるのは、持ち込まれた本来気候と土の違いに同居しないはずの色とりどりの食材。

 港町ならではの海の幸、銀の鱗を日に煌めかせる新鮮な魚、海藻と貝殻の群れ。

 

 その脇に、魔王の眷属たる水妖霊(ウィンディーネ)の移動の為に、町中には水路が張り巡らされているだろう。

 それを使って一台の水上バイクが水を跳ね上げながら行く。

 

「よぉ!眷属の、パトロールお疲れさん!」

「オゥ!」

水妖霊(ウィンディーネ):チ級』【海魔柱:眷属】【水上歩行】

 そして、すいーっと異形めいた人型の出で立ちの少女とすれ違い。

 互いに、触手と手を振るだろう。

 彼女がよく知る、人込みの喧騒の中、相変わらず騒がしく少し乱暴な風景である。

 

「相変わらずの賑わいだな、さーていっぱい稼ぐぞぉ!!」

 風景を流し見てクリーブランドこと男勝りの少女は、

 きっとこの人波と物の流れの中には、己が送り届けた物も混ざっているのだろうなと。

 

「へへ」

 それをサングラスを掛けながら、羽織ったクロークを靡かせて、短いスカートが風に揺れる。

 何となしに、誇らしげに思いながら胸いっぱいに息を吸うだろう。

 

「さぁさ、遥々遠方からこのセレクティブに観光にいらしゃった皆々様っ!」

 そしてハンドル片手に運転しながら。

 溌剌に看板を掲げて、大声で船上から呼び込みを行っているだろう。

 

観光船(タクシー)だぞー。案内してほしい所はあるか?私がどこでも連れてってやる」

 彼女のアルバイト、水上バイクによる観光案内のタクシー。

 優れた容姿を持っていることが多い船娘(メンタルモデル)達にとっては、お決まりの副業であるだろう。

 海上観光の為の小型バイク、借り物であっても、船の扱いはお手の物である。

 

 そんな中。

 余りの人の多さに、地図を片手に視線をさ迷わせ、進もうにも人の流れに流され。

 そんな調子で市場の端を、うろうろとする若葉色の少年が目に入った。

 

「お、らっきー☆」

ギュルン!

 バイクを急ブレーキ、Uターンさせ水をきって。

 近づきサングラスをずらして、少し格好つけて声をかけるだろう。

 

「よぉ!もしかして連れから逸れて迷子かお客さん、きっと水路の方が探しやすい。よかったら乗っていくか?お代はしっかりいただくけどな」

「……!え、あ。びっくりしたぼくのこと?迷子は迷子だけど」

 件の若葉の少年は、突然の声を掛けられて驚いたのか、

 手にした地図を落として、困惑に瞳を揺らして、見つめてくるだろう。

 その視線は今は武装を外しているが、彼女の背後に伸びる艤装のアンカーに向けられている。

 

「なんだ、戦娘(メンタルモデル)を見るのは初めてなのか?」

「メンタルモデル…、海で鋼の城を操るっていう、ええ君がそうなんだ」

 若葉の少年は虚を突かれた。勝手にきっとロボめいたものを想像していたのだ。

 親友(オルカ)の話に改造人間だって聞いていた。

 しかし、前にいるのは何とも普通のおそらく同世代の女の子である。

 

「そうさ、あたしは"クリーブランド級"一番艦、『クリーブランド』だ。よろしくなお客さん!」

【クリーブ兄貴】

 そう笑って快活に手を伸ばす。

 その小麦色の髪は、水面に煌めく光に照らされて―――

 

「きれいな、人」

「?」

 そう思った。

 これから覇濤の港町の一つ"セレクティブ"に巻き起こる大事件、

 その中心になる少女との、本当に何気のない出会いであった。

 

 




なんか書いてたらクリーブランドが人生楽しそうだなぁってなった。
なんか文字数が減らない、くどい。
遭遇回です。
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