ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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老人【運命の預言盤】

 

―――【覇濤:セレクティブ】

 

 砂浜をにぎわう人々の雑踏。

 訪れた観光客はそれぞれ思い思いに、砂浜に海に戯れる。

 燦燦と輝く太陽の陽ざしは容赦なく照らして、肌を焼くだろう。

 

 "海の家"と呼ばれるような飲食店に、辺りに何処かジャンクな香ばしい匂いが漂ってくる。

 

 少し遠くに目をやれば視界の目の前に拡がる果てなき海原、視界一杯に拡がる青青々(マリンブルー)の光景。

 風に揺らぐ水面が銀の反射に煌めいて、まるで銀鱗の様に輝きの放つ。

 その光景の中、誰かがそんな目に飛び込んでいる雄大な光景の波岸に向かって走るだろう。

 

バシャン!

 

 そして、岸辺に足を踏み入れて盛大に水飛沫が跳ねた。

 

「うっわー凄い……っ見てみてこれが話に聞く"海"って奴なのね!」

【アマゾネス】【ムードメーカー】

 まるで一番乗りと言わんばかりに元気に勢いよく駆け寄って。

 紅いフリルの水着姿に身を包んだローズが形ない波を、蹴り飛ばして水飛沫に遊ぶのである。

 

 その蹴り上げられた水飛沫も、あっと言う間に打ち寄せる波に飲み込まれて消えていく。

 やはり、物事の体験に対する熱量は彼女の方が高いのである。

 

「カイト―!はやくこっちにきて泳ぎましょうよ!海の水って本当に冷たくてしょっぱいの!!」

「今行くから、まったく初めてだからって張り切りすぎだよもう」

「仕方ないさ、彼女は昨晩からずっと愉しみにしてたものね」

 対して、若葉の少年は海の家で借りたパラソルに、レジャーシートを砂浜に打ち付けて固定。

 "休憩場所"を作って、はしゃぐ"相棒"に対して声を返すだろう。

 こんな所に特に価値のあるものは持ち込んでいないが、荷物の番は必要である。

 その声に少し悩んで―――

 

「私が荷物を見ているから、君は行ってくるといい」

「えっと、いいんですか?」

「あぁ私は、『覇濤』も海も二度目だからな。まずは君たちで楽しめばいいさ。あとで交代交代で荷物の番をしていればいいだろう」

【元・奉納巫女】【菩提樹の献身】

 ガルデニアが金色の長い髪を潮風に流しながらその背中を押す。

 彼女はいつもの萌木色の軽鎧ではなく、フリルの付いた花萌葱と銀の輪郭色の織り成すワンピース水着姿である。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……その、ガルデニアさん水着似合ってます。なんというか凄く綺麗」

 彼が、眼にした時から胸に抱えていた言葉。

 若葉の少年が初心な気恥ずかしさから言えずに、やっと形にした言葉に。

 

「ふふ、少し言ってくれるのが遅かった」

「!ん、ちょっからかわないで、もう先に行きますよ」

 彼女は大人の余裕に悪戯っぽく表情を緩めて、お返しと頬にキスし揶揄うだろう。

 彼の元から恥ずかしさに仄かに赤み掛かった頬が、更に染まる。

 引き締まったスレンダーな体系な彼女と、花萌葱と銀の輪郭の清楚な水着は良く似合っており周囲の目を集めていた。

 

 彼はその周囲の視線から逃げる様に、海の方に向き直って歩くだろう。

(でも近くに愛剣がないのは、落ち着かないな)

ざっざっざ―――

 初めて砂浜を歩く。

 この柔らかく微妙に沈みゆき足の形を遺す、砂の感覚はどこか頼りなくて不思議な感覚である。

 

『形代人形』

 これまた宿で借りたの風船人形を膨らませて、

 これで準備ができたと、人見知りに隠れていた儚紅の少女を喚ぶだろう。

 

「これで、よし」

 海に溢れる"塩"という物質、それに"海属性"は精霊にとって、マナの結合を阻害する毒である。

だから内部に"妖精のオーブ"と呼ばれる宝石。

 そこに憑依されて保護する肉体代わりの保護膜を作りそこで憑依する。これで解決である。

 

「ほらついたよおいで、リコ」

(……ん周りに人、多い)

「傍にいるから大丈夫、心配なら背中に乗って肩車なら平気でしょ?」

【電脳精霊】【憑依具】【人見知り】

 庇護者である若葉の少年の声に促されて。

 

 応じて風船人形を中心に虚空に燃える。

 纏うように炙りだす様に。薄紅のワンピースを揺らして花が咲くだろう。

 

 やはり相変わらず、人込みには恐いのか、ふわふわと速攻に庇護者の肩車に乗って。

 それでも目の前の光景にて。

 

「どお、ここが海。アイツが言ってた間違いなくこの"世界で一番おおきいもの"」

「ん―――」

【電脳精霊】【アナライズ】

 儚紅の少女は庇護者に肩車をされながら目の前の光景に導かれて。

 そしてその瞳を見開いた。

 

【倖せび花冠】【フェイト】

 設計された円環生物、マナの金魚鉢の世界に生き、電磁に物質の輪郭を捉える彼女の視野は特別だろう。

 

 そこにあるのは果て無き地平線(ホライズン)、霞金の瞳が、遥か拡がる大海原の奥を透かして。

 数多の生物の影が、輪郭が多く飛び込んでくる。

 そう、いかに多くの命がその海原に包まれているかを、目に飛び込んできたのである。

 

「―――すごい。いっぱい、おおきい。果てが、全然見えない」

 儚紅の少女は、呆気にとられがら圧倒的なものを息を呑む、きっと心が震える。

 建造物が如く堅牢で巨大な船、鱗の如く無数に海中を閃く小魚の群れ、周りを気にせず海原を悠々と行く怪獣いや"海獣"―――、

 そう、そんな言葉にならないほど、それはあまりにも詰め込まれた圧倒的な光景である。

 ぎゅっと、震える心に、庇護者の肩を掴む手の力が強くなる。

 

 彼は同じように彼方を見渡して。

「んーぼくには全然見えないけど。リコには別の物が見えてるんだ。なら無理はしなくていいよ」

「ン……大丈夫、きれいだけど、深いの深すぎるの」

 儚紅の少女のおっかなびっくりに、それでも惹かれるのか眼を逸らてまた向ける。

 その小動物めいた仕草に。

「深い、深すぎて底がわからない。浅い所でもいっぱいいるの」

 どこかかわいらしくて若葉の少年はクスリと笑う。

 

 そして、肩車をしたまま波打ち際へと向かう。

 儚紅の少女は押し寄せる波に、ふわふわと降りて、恐る恐るその小さな足で水面に触れるだろう。

 その傍に。

 

「やっと来たじゃんカイト、リコも」

「はしゃぐのはいいけど準備運動しっかりね。もし足釣ったりしたらシャレにならない。浅瀬でも溺れられるんだから」

「わーかってる。アンタは心配性なんだから」

【ムードメーカー】

 先に海に到着していたローズは、一層快活に笑って手招いた。

 今の彼女は、その性格を表す様にフリルの付いた情熱的な赤色のビキニ姿である。

 

 その場にくるりと回って。

「でー、せっかくの水着姿な訳だけどさどうよ。カイト」

「ん、なんかローズは戦う時に水着みたいな姿だから、あまり新鮮味はないかな」

「確かにそうだけどさぁああ、そこは嘘でも褒めとくところよねぇぇ!」

「痛っ、痛いって」

 正直な言葉に恨めしそうに腕を抓られた。

 錬気技術に専攻する彼女は防具よりマナを取り込む為、戦衣装は露出の多い鎧姿である。

 "相棒"である彼にとってはある意味見慣れた姿で、だからこそ。

 

「でもやっぱり、ローズと一緒にいるのが一番安心する」

「なーによそれ」

 気安い関係だからこそ、"相棒"のいつもより爛漫とした笑顔に安心する。

 若葉の少年はつられて笑う。生来の気質、引っ張られるような一緒が楽しい、そういう感覚である。

 息抜き遊びに来たんだと、そう改めて実感するだろう。

 

 儚紅の少女は小さな手でぱしゃりと水を弾いて、海水の味にぺっぺとしている。

 

「よっしゃ我慢できない、ちょっと遠くまで泳いでくる!」

「いってらしゃい。ぼくはリコに付いてる、慣れたら追いかけるよ」

「あいよー!とにかく、せっかく海に来たんだから泳がないと損よー!」

バシャン!!

 そのままローズはそう言って、踵を返す様に海原に勢いよく飛び込んでいった。

 力強い見事なクロールに水飛沫を上げて、波岸に小さくなっていくのが見えるだろう。

 彼女は根っから、身体を動かすことが好きだった。

 

 その傍で、相棒を眺める。

「泳ぐのうまいなー、ぼくも川で泳いだ経験あるけど、ローズは運動神経いいから追いつけないかも」

「……たのしそう」

 若葉の少年の呟く声の傍に。

 儚紅の少女も気持ちよく泳ぐそれを見て、自分も意を決していざ自分も海に飛び込もうとして。

 

ぱちゃん!

「………???」

【電脳精霊】

 しかし川辺に落ちた蓮華の様に、ぷかぷかと水に浮かんでしまう。

 そこから沈めない。少女はぺたんと座る様に波打ち際に浮かび、上下に揺れるだけである。

 困惑する子犬の様にきょとんと表情に、庇護者を見上げて。

 そのままの波の引き潮に巻き込まれて、自然に沖へと流れされてしまうように―――

 

「―――?」

 そう、無為を揺蕩う事に慣れた少女の感覚、風に波に揺られるまま、ふわふわと流されていく。

 ぱちゃんぱちゃんと、水面を叩く、相も変わらず沈めない。

 しかし、自分の起こした波紋に揺られるのも、それはそれで面白かった。

 

 それはそれとしてそれは波風任せの漂流である。どんどん距離は離れていくだろう。 

 

「え、リコ!ちょっとー!?どこに行くの!」

 "相棒"を見て、目を離していた若葉の少年が気が付き慌てて、追いかけてくる。

 

「―――ん♪」

 偶然に始まった、きっとそれはまるで追いかけっこの様である。

 

「ちょ、また離れる」

 その泳ぐ力の波紋にも揺られて、距離がまた離れてまた近づく。

 儚紅の少女は自分の為に、必死に追いかける庇護者に少女は悪戯めいた面白さを感じて。

 追いつかれて、捕まるまでの間、そんな波間を揺蕩うのだった。

 

 

 そんな少しのドタバタも交えた、そんな彼らの海初体験の様子であった。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

―――『彼岸の防波堤』

 

 それからしばらく泳いで、足場に上る。そこは防波堤の上である。

 

 ここは港から延びる覇濤が港を保護する防波堤の一つ、その先端に近い場所。

 ザバァと海から這い出て。

 若葉の少年がやっとの思いで引寄せて捕まえて息を切らしながらも、身を休めている。

 

 

「はぁ……はぁ、びっくりした。まったくリコは飛べるんだから、そんな流されて行かないでよ」

「ごめんなさい」

 彼は呼吸を整えながらも後になって、

 儚紅の少女が自力で何とか出来ていた事に気が付き、抗議の声をあげる。

 対して、流されるまま楽しんでいた少女は、少し申し訳なさそうに、目を逸らすだろう。

 

「それにしても、予想外。リコは軽すぎて沈めないし泳げないのか」

「ン……そうみたい」

「『形代人形』に重しつけても、偏って沈むだけで泳ぎにくいだろうしどうしよっか」

 彼らには"電脳精霊"という出自の特性もわからない。

 造られ者、記憶と現象という精霊の本質からも遠い、元々に虚構の存在に等しい。

 ただその器用すぎる手数、特性、生まれから特殊なんだろうなと言う漠然とした感覚がある。

 

「でも、愉しかった」

「まあ、ならそれはそれでいいのかな」

 儚紅の少女は、元々虚空の中に、無為に時間を潰す為に揺蕩う悪癖のあった。

 だから水面に揺蕩う感覚は新鮮であり、そうしながらの追いかけっこは楽しかったのが確かである。

 しかし、彼女の本当に楽し気な返答に。彼は釈然としないながら頬を掻くだろう。

 

 そんな親子の如く二人を、同じ防波堤の上にやりとり見守る誰かがいた。

 偶然の遭遇である。

「おや、こんな所にまで人が泳いでくるなんて珍しいね」

「……?」

【釣り人】【好々爺】【凡人提督】

 そんな彼らに、声をかける穏やかな雰囲気を纏った先客がいただろう。

 それは草臥れながら、しっかり根付く枯れ木のような初老の男と―――。

 

「―――……すぅ」

【黒把のポニー】【グータラ娘】

 その背中を支えに凭れる、濡れた鴉翅の如く黒髪ポニーテールの小さな娘がいた。

 

 老人の片手には釣り竿が握られて、浮きが水面に揺れているだろう。

 しかし、その水面は先ほど彼等が泳いできたのだ。きっと魚が寄り付かない。

 

「あーえっと。せっかく釣りの最中に、もしかして邪魔しました?」

「いや構わない。実の所、考え事をしていただけで、釣りには全く集中してなかったのだよ」

「なら、いいんですけど」

【立止の枯れ木】

 そして老人はそう穏やかな声に言う。

 なんとなく村で子供に編み物を教えた老人達に似た匂いがする、そんな老人だった。

 

「ここは穴場でね。滅多に観光客は寄り付かないんだ。静かに考えたいならうってつけだ。疲れたなら、ここでしばらく休んでいくといい」

「じゃあ、お言葉に甘えます」

 

 確かに体を鍛えている冒険者といえど、泳ぐことは体力を多く使う。

 その言葉の通り、休憩がてらに、防波堤の淵に座って海風を感じて海を眺めるだろう。

 その膝に極自然に、儚紅の少女がふわりと揺れて座る。

 

「ん」

 視界に主張する小さな頭を撫でながら、凪に涼む。

 老人はこちらを見て。

 

「それで、そのかわいらしいお嬢さんは君のお子さんかい?」

「ん、んー?まぁ、似たような感じ、です」

 問われて若葉の少年は言い淀んだ。

 改めて関係性を考えれば、真っ当な親なら子を復讐心に巻き込んだりしない。

 きっと彼は、求められて真似事をしてるだけだった。

 だから、彼らの関係は出会った夜に示した通り、彼女の庇護者で契約相手(パートナー)なのだろう。

 

 この沸き上がる復讐心を捨てねば、きっと親には、なれないだろうと、何となく考える。

 

 老人はその反応に、何かを察したように笑い。

「ほっほ、事情があるようだね。それでもとても仲がいいようにみえる。羨ましいな」

「えっと、竿引いてますよ」

「おっと!」

 慌てて竿が引かれる。

 引かれた糸の先には一匹の銀鱗の魚が宙を舞い。それを―――。

 

「キュィ♪」

『カーバンクル・アクアマリン』【宝玉獣:中精霊】【輝石の化身】

がぶぅ!

 突然、指輪から現れた透き通った藍色の貴石の獣が、強引に持っていくのである。

 それは若葉の少年の唯一の"使役精霊"だった。

 

「あっこら、"クルル"!?」

「ほう、色々引き連れてるね。宝石の精霊、きれいなものだ」

 "クルル"、若葉の少年がその藍色の精霊に契約に際して与えた真名である。

 そして、それはまるで気紛れな猫の如く、お魚咥えて防波堤のすみっこに隠れる。

 もふもふとした耳翅を揺らし、新鮮な生魚に嬉しそうに、はぐはぐと腸から食べるだろう。

 

「もう、今まで呼んでも来なかったのに、そのすみませんうちの子が」

「ははっ、構わんよ。もともと逃がした魚考え事ついでの手慰みだ。まぁ変わりと言っては何だけどね。迷惑でなかったらじじいの話に少し付き合ってくれないかな」

 その様も、相変わらず老人は穏やかに笑うだろう。

 どうやら、この藍色の獣の精霊らしい気紛れさを持ち合わせているらしい。

 それを彼は心に刻むことにした。

 

「さて君はここに遊びに来た観光客、それに冒険者かな」

「ええ、わかります?」

「無駄に長生きしてないからね」

【鑑定眼】【老練の人生】

ぽちゃん。 

 再び、針先に虫を付けて水面に放り込む。風に水面が揺れる。

 凪の風景。そんな中、老人は穏やかに話す。

 

「―――仮の話だ。実の息子の話がわからない男がいる」

「うん」

【田舎育ち】

 仮の話として、老人の声にぽつりぽつりと流れる風のままに話す。

 若葉の少年は、かつて『闘争都市』で遭遇した"ソーラ・ミトゥーカ"と名乗る誰かにそうされたように、相槌うって話半分で聞くだろう。

 

「―――男は職に誇りをもって、息子に歴史を語り掛けた。ただ歴史から学びなさいと、だが息子は男とは違うものを見て答えを見出したようだ―――それはきっと、息子の辛いとき何も助けになれなかった男のせいであるのだろう」

 ぽつりぽつりとした声。

 きっと、己に語り掛けるのは見当違いの事である。彼は人の親ではないのだから。

 ただ、この老人が悩んでいるのは本当だろう。

 しかしそれでも、そもそも赤の他人に聞かせる内容ものではない。

 

 だから。大体こういうのはきっと誰かに話しながらも。

 その実、自分の中で整理するための言葉である。

 

「―――そして息子が間違いを起こそうとする事がわかっている。だが、困ったことに、男には息子を 叱りつける力も資格もないのだ。そんな情けない男をどうおもうかね」

「……うん、ぼくにはよくわからないけど」

 若葉の少年は、ただ相槌を打つ、きっと親ではない彼には分らない話だ。

 だから、"当たり前"を言葉に返すしかないのである。

 

「向き合うべきです。家族なのだから力も資格もなくても言葉に意味はあります。ただ伝えないと、思ってるだけの言葉なんて意味はないから」

 当たり前、それは"毒にも薬にもならない"言葉である。己に振り返って、亡き両親の事を思い返す。

 お酒にだらしなくとも、家族を養う為に日々鍬を振るっていた父。

 なんでも貧乏性で、それでも家族に振舞う毎日の料理に手を抜かなかった母。

 時に喧嘩し乱暴な言葉にぶつけあって傷つけ合おうと、意味がある。廻る日常に向き直るそれが彼の家族像であった。

 

 柳の如く老人は、そんな毒にも薬にもならない言葉に。

 その白毛の混じった髭を撫でて。

「そうだねぇ、そうなのだろうねぇ…。本当ならもっと早くに、そうすべきだったんだろうね」

「……てぇとくは悪くない。あっちが拒絶してる。今は嵐の前触れだから大人しくしてよう」

「わかってるよ"カッシン"、だからこそ。やっぱり息子のやってる事を知る必要はあるみたいだ」

【立止の枯れ木】

 老人の独白に思う事があるのか。

 ずっと、老人の背後に背凭れていた。鴉翅の如く黒髪の娘が反応し言葉を挟む。

 

(なんかこれ、思ったより穏やかでないな……?こんなこと無責任に言ってよかったのかな)

(ん、"心拍"でわかる。きっと答えは決まってた)

【アナライズ】

 傍に聞こえた"提督"という単語、いわゆる鋼船の運用を司る責任者の事。

 どうやら彼等には、彼らの切迫した事情があるらしい。

 そんあいわゆる一期一会に、若葉の少年は困って、儚紅の少女が気にしないでいいと示すだろう。

 

 そんな凪の風景に、時は流れて。

 

「―――おーい"提督"ー!そろそろ荷物搬入の時間だぞー休憩は終わり!」

「あ、クリーブのあにき」

『白磁のクローク』【自信家】

 特徴的なクロークと小麦色のサイドテールを揺らし、誰かがこちらに向かって手を振っている。

 若葉の少年はその姿に声に見覚えがあるだろう。

 

 軽いステップで防波堤を歩く、こちら見つけて。

 

「おっと、カイトじゃん。なんだこの前ぶりだなー。どうだこの"セレクティブ"を愉しんでるか?」

「……!うん、意外と早く会いましたクリーブさん。その節はお世話になりました」

「ほんとになっ世間狭いもんだな!」

【クリーブ兄貴】

 にししと、男勝りの少女は悪戯に笑って。

 両腕を首の後ろに組んで、先に出会った案内の時より砕けて話してくる。

 もはや、まるで男友達のような距離感である。

 

「ふむもう知り合い……、彼が昨日楽しそうに話してくれた冒険者なのかい」

「そーなんだよ提督。少しとぼけても素直で真面目な奴だろー。話してると落ち着くんだ」

 初老の男は驚きながらも。

 なんとも人の縁は不思議なものだと、この年になっても改めて感じる感慨に髭を撫でる。

 

 誰かが言う。人の出会いは重力だと。

 明星の如く彼女が人を引き付けるのは当然の事かもしれないと。

 

「で、そっちの子はカイトの妹さんか?あたしはクリーブランドっていうんだ。気軽にクリーブ"姉ちゃん"と呼んでくれていいぞ!」

「……あ、その、やっ」

【おねえちゃん!】【世話焼き】

 そして熱烈な"姉本能"に反応したのか、小さな影を見つけて目を輝かせる。

 勢いよく屈んで目線を併せて、ある部分を強調して、ぐいぐいと距離を詰めてくるだろう。

 しかし、人見知りの儚紅の少女は迫るその調子にたじろいで、己の庇護者の後ろに逃げて隠れてしまう。

 

「その、リコは恐がりだから」

「おっとごめん。怖がらせちゃったな、お詫びって言っちゃなんだけどさ。キンキンに冷えたコーラだ呑むか?」

 男勝りの少女は、怖がられると察して、大人しく身を引いた。

 その代わりにご機嫌取りに、差し入れに持ってきたガラス瓶に入ったコーラを手渡すのである。

 

「……なに、これ」

「多分飲み物、変わった色だね。覇濤の露店でよく見た奴だ」

『ガラス瓶コーラ』

 若葉の少年にとっても初めて目にする。

 泡の詰まって立ち上る不思議な飲み物だった。

 儚紅の少女はおっかなびっくりに、受け取って不思議そうに手に取った。

 

 初めて、初めての飲み物である。膨らむ心に期待の華が咲く。

 

「―――ん、空けて」

「あ、今飲むの?」

【倖せび花冠】【フェイト】

 そして少女は上下に眺めて開け方がわからず、庇護者に手渡すだろう。

 その初めてにワクワクとのぞき込む。

 彼は仕方ないなと、塞ぐ王冠の端をオド特性に少し溶かして、親指で弾いて―――

 

パァン!!

 そして上下に振られた炭酸飲料に道理に。

 王冠が吹っ飛び、そのコーラが勢いよく周囲に噴き出すのであった。

 

「げほっ、ちょば、爆発した!爆発したんですけどこの飲み物っ!」

「ぶっ!あっはははは!そっかそっか炭酸知らないのか、だからってばっかだなー。くふふふふ」

 そして、二人そろって噴出したコーラを被る様子に。

 手渡した少女が思わずその様を指さしながら、大爆笑するのである。

 

「後でもう一本買ってやるよ。本当に癖になる味なんだ。保証するって」

 彼女はいつもそんな調子である。

 もはやコントじみた光景を、老人は微笑ましく眺めるだろう。

 

「まぁ私にとっても幸運な巡り合わせという所なんだろうねぇ、他に頼るべき伝手もないし」

【父親】【凡人提督】【鑑定眼】

 老人はぼんやりと、考えている。

 きっと、ごろつきも多い冒険者の中で。目の前の彼は、願ってもない良縁だ。

 一期一会、こうして直接話して、信頼していいと思える冒険者はなかなかいない。

 偶然に出会うのは、出来過ぎているともいえる。

 

 幸い老人には、特段お金のかかる様な趣味もない。

 蓄えはあった。冒険者の徒党(パーティ)をしばらく雇う事に何の問題はないだろう。

 

「ところでカイト君って言ったかな君の冒険者としての"役割"(ロール)は」

「はい?一応、【レンジャー】って名乗ってます」 

「それは好都合かもしれないねぇ…。私個人として、冒険者としての君らに、できれば"依頼"を頼みたいんだ」

 初老の男は意を決して、その心に決めた決心を声を出すだろう。

 そう、遅くに逸したといえど向き直るには。

 その袋小路、成そうとしてる事、侵してきた罪も含めて―――知る必要がある。

 

 若葉の少年は突然の言葉に、多少呆然としながら、聞き返した。

 

「その、指名依頼って事ですか、内容は?」

「難しい事じゃない。今、この覇濤首国"セレクティブ"に流れる不穏な"噂"。その調査さ、もちろん解決なんて望んでいない」

【凡人提督】【事務畑】

 枯れ木の老人はこの縁に感謝するだろう。

 きっと今のセレクティブを取り巻いてる不穏のいくつかは、きっと息子も関わりあると知る故に。

 

 ただ知るだけ。

 それさえも相手に拒絶されているなら、こうするしかない。

 

 そんな老人の切実な事情は知る由もなく、

 突然の提案に、何処か困惑しながら、若葉の少年はどうしようと頬を掻くのだった。

 

 

 

 

 

 





 前話と酷い温度差だ。
 とりあえず遊びに来たんだから遊びます。
 

 クリーブニキ出てくるたびになんでか楽しそうにしてる。
 多分、男友達の距離だよこれ!

 
 
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