ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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調査【運命の預言盤】

 

―――【覇濤:セレクティブ】

 

『冒険者宿:鴎の子守歌亭』

 

 時世は夜。

 周囲には、同じように休暇愉しむ冒険者か酒盛りの気配に、

 それぞれの俗世を忘れる様に陽気に騒いでいるだろう。

 

 あの後、彼等が徒党は合流し存分に海を愉み、初めての海の体験から引き揚げた。

 利用する冒険者宿の、共用スペースにて夕餉を終えて話をしていた。

 

 昼間の防波堤に遭遇した、初老の男からの依頼の話である。

 流石に、仲間の相談なしとはいかない。

 

「―――という事があったんだ。どう思います?」

「ふーん、よくわからないけど、相変わらずアンタは変な縁を拾ってくるのねえ」

「ふむ、その話にあるこの港町"セレクティブ"における不安な噂と言うのは気にかかるが……」

【アマゾネス】【ムードメーカー】

 私服姿のローズは後ろ手に組みながら呆れた様子で、その話について呟いた。

 遊びの中分からないうちに、仕事の種が舞いこんできたとなればこういう反応にもなるだろう。

 彼女は元々に、考える事は"相棒"に任せきってる為、話半分に聞いている。

 

「いいんじゃないか、しっかりとした筋の人間からの指名依頼だ。海に関する特殊技能はない私達だ。ただの荷物運びより、よほどいいだろう」

【Aランク冒険者】【元奉納巫女】

 対して、カルデニアは対してはそれに肯定的を返す。

 

 元よりこの『覇濤:セレクティブ』の旅先でも、冒険者とし仕事をする事は当初の予定通りだ。

 そうでなければ身体が訛る、何よりも勘が鈍る。

 仮にも戦闘特化の冒険者である彼らにとって、割と死活問題である。

 それと、やはり観光地の物価は高いのもある。多少心配になる勢いでゴルが減っていくのだ。

 

 だから、その指名依頼はまさに渡りに船……、と言ったところであるが。

 

「だが、それに対して依頼人は何を望んでいるんだ。私達は探偵ではない。正直解決と言われても手に余るわ」

「あくまで、"調査"らしいです。僕等の視点で直接見た情報を集めてくれたらいいって」

「なら問題はないか、依頼人は社会的立場がある人間だ。きっと"騙して悪いが"という可能性も低いだろう」

 ガルデニアはベテランの立場として、彼女は依頼人の目的と仕事の内容のすり合わせをする。

 そこにすれ違いがあれば後々トラブルとなるだろう。

 きっとそれは互いに不幸な事に違いなかった。

 

「……っ………」

【偶像少女】【非力】

がしがしっ!

 ちなみに儚紅の幼子は、我関せずといった感じに、初めての"蟹"の甲羅と格闘していた。

 彼女は物事を自身の尺度で測る賢さはあれど。

 人任せ、庇護者任せ、基本的に手を引かれるだけで自主性は欠けているのである。

 

 

「じゃあ、了承と返して問題ないですかね」

「はーいさんせー。遊んだ後はお仕事お仕事、メリハリって奴ね」

「ええ、ただ指名の依頼とはいえ正式に『鴎の子守歌亭』に依頼を回してもらうと良い。報酬は天引きされても、第三者からの査定と記録に残る大事な事よ」

 彼女がそう締める。

 冒険者宿を通すのは、依頼に対する第三者の査定と、万が一の時に記録で足跡が追ってもらえるからだ。

 それに依頼をこなした記録自体が、評価に信用に繋がるのだから。

 そんなこんだで彼らが徒党の方針の相談は、要点だけ確認して軽い形で決まっただろう。

 

 それを介さない、金次第であらゆる依頼を請け負う、非合法の請負人。

 報酬を直接受け取る『傭兵』という生き方もあるが……。

 相応にリスクを負う為に、危険を感じ取る生存能力と観察眼が重要になるだろう。

 それは彼等とは違う生き方だった。

 

「うん、勿論。それは依頼人にも伝えてあります。"了承"と一報(サイン)入れますね」

「ええ余計な心配だったか、頼んだわ」

『双子星のカード』【精霊術】【呪印術】(ウェーブ)

 若葉の少年は紋様の刻んだカードを燃やす、そうする事で対に手渡した対となる紙に伝播するだろう。

 彼の得手、精霊術の応用だった

 答えが伝われば、初老の男に依頼を回してもらうだけである。

 

「うん、そう決まったら今日はもう寝ましょうか」

「えー!?もうちょっと遊びましょうよーせっかくの旅先なんだからさ!」

「ダメ、泳ぐことって思ったより体力使うんだから、ローズもはしゃぎ回ってきっと思ったより疲れてる」

 きっと旅先のテンションに、その疲れが誤魔化されている可能性が高い。

 ならさっさと身を休めるのが一番だろう。だから、明日に備えて眠りにつくのだった。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

―――そして、明後日の事。

 

 天気はどこか曇天模様、周囲に漂うマナもそうだが、海のさざ波が少しばかり湿気ている。

 相変わらず人通りは多いが、昨日のような活気はなかった。

 

 天気一つでこうも雰囲気が転がる。

 "観光都市"という土地柄にその明るさの側面に、少し戸惑いを感じながら街を歩いた。 

 彼らが徒党(パーティ)の目的は依頼人こと、初老の提督に対面であった。

 

 とある喫茶店、ちょうど昼に至る休憩時間の合間に、待ち合わせる。

 

『―――そうか、依頼を受けてもらえるか。実は頼るべき伝手がなくてねそう言って貰えて助かる。改めてよろしく頼むよ』

【凡人提督】【事務畑】

 初老の彼は、待ち合わせの場所でどこか安堵したように胸を撫で下ろしただろう。

 そして直接、依頼の流れ詳細を、当たりを付ける指針を改めて確認した。

 

 その問いの答えに、初老の男が取り出すのは、付箋まみれの紙束である。

 

『実は趣味の延長でね。モノの流れ、近頃の行政府の動きからある程度目星は付けているんだ。何もできなくとも、とにかく記録だけは付け続けたからね』

【歴史家】【事務畑】【記録魔:筆記の巧み・議事録の鬼】

 そこには、ここ最近の『波濤』の出来事が時系列に沿って記憶されていた。

 それは誰が読んでも、文字が読めるなら一定の理解できるだろう。

 面白さはともかく、その位に事実を淡々として示して、必要な事だけを要約されたものであった。

 

 淡々と記された記録の羅列の中に、流れが見える。

 それに読み人の解釈が混ざれば、まさしく歴史の流れに等しいものになる。

 そういう代物である。

 

『―――その付箋が張られている所、関連するものを直接確認してほしいんだ』

 若葉の少年は、手に取って読んで困惑する。

 きっと、それはもはやこの初老の男にとって―――

 いや、この記録は『覇濤』において一つの宝と、言ってよいものではないかと思う。

 

 そう、特記すべき特殊技能はなく、周りを牽引するカリスマもなく、戦闘能力も皆無である。

 そんな初老の男が、この覇濤において人類最前線たる『提督』として居続けている理由だった。

 大体、大事な会議などがあると呼ばれる記録魔。別名、鬼の議事録爺である。

 

『―――実の所、これは極秘事項だがね』

 初老の男は息を呑み、少し告げるか迷うように。

 しかし、意を決して近くに誰もいないか見まわし確認して、声を潜めて彼らに告げるだろう。

 

『魔王ダゴン様の"眷属"(ウィンディーネ)の失踪も観測されているんだ。これが探偵でなく戦闘もできる君たちに頼む理由だ』

 それは危険の想定の話、魔王の"眷属"である水妖霊(ウィンディーネ)の一部失踪。

 現人女神『海魔柱ダゴン』を中心とした意識間のネットワークに繋がっており、実質的に覇濤の治安を担い、九割という驚異的な事件の解決率を誇る"見守る眼"の失踪。

 

 それは何より、町井には情勢の不安定を避ける為、伏せられている情報である。

 

『最初に告げた通り、この"セレクティブ"自体が何処かきな臭い空気がある。それを念頭においてくれ危険に遭遇したら真っ先に逃げてくれて構わない』

 初老の老人はそう告げるだろう。

 その"ノートの写し"を受け取って、告げられた言葉を整理して別れたのである。

 

 

―――街角。

 

 

 そして先ほど依頼人と打合せした喫茶店を出て。

 

「はえー綺麗な字ね。失踪事例かー。そりゃある程度危険な事はわかったけどさー」

【ムードメーカー】

 その店先にて、その紙束をざっと回し読みし歩きながら話す。

 ローズは窮屈さと拍子抜けを開放するように、背を伸ばして率直に呟いた。

 

「もしかしてさこれ、この時点で仕事の大半終わってる奴じゃない?」

「うん、ここまで道筋整えられてると。本当に直接見に行くしか、やる事がないかもしれないね」

 彼らは在野の冒険者だ。普段の依頼はもっと雑に大雑把に投げ渡せれるものである。

 若葉の少年は同じ歩調で歩きながら、"相棒"のその声に同意して頷くだろう。

 

「軽く一通り目を通したが凄いな。これは言うなれば、"セレクティブ"における『ハブヒストリー』と言う所か、この紙束の写しはそのまま売れるな。吟遊詩人(バード)であれば幾らでも飯のタネに変えられる」

「そんなに」

【Aランク冒険者】【捜破者Lv2/5】【元・奉納巫女:基礎教養】

 ガルデニアが感嘆の声を漏らす、今手元にある紙束は。

 覇濤が港町"セレクティブ"の出来事の纏めとして、ほぼ完ぺきなものであるらしい。

 

「この一覧を整理すれば、郊外の"認可されていない研究所"の跡地の調査。ここは既に一度官吏が踏み込んでその際には既に撤収されていたみたい。改めて確認してきてほしいとの要望です」

「あいよー。一度上の調査入ってるって事は、無駄足に終わる可能性が高いちゃ高いって事ね。さっさと終わらせましょう」

 このように、付箋による辺りを付けられているとならば、要点すら洗い出す必要はない。

 彼等の中で優先順位を付けて虱潰しにするだけだ。もしかして、確認するだけのお使いになるかもしれない。

 そういう拍子抜けの感覚である。

 

「こら、気を抜かない。依頼に直接絡まないとは言え近々に失踪事件が起こっている事は事実でしょう。万一の警戒は必要よ」

「わかってるけどさー、びくびくもしてたらなんもできないじゃん」

 きっと実の所、彼等との徒党(パーティ)と覇濤の住民と彼等と認識にはズレが大きくあった。

 彼等とて活動拠点で、受け帰ってこない人探しの探しは何度も経験はある。

 たとえば『聖錬』の街における"衛兵"の失踪、それ相応の出来事だと捉えている。

 不穏ではあるが、その程度の認識であった。

 

 しかし。

 

―――『魔王:海魔柱ダゴン』【眷属出賛】【我が子は我が身体】

 この世界における"超越者”の代名詞、『魔王級』という絶望的な脅威に対する代名詞の体現。

 個にして全(オールフォーワン)と言うべき種としての特性、必要に応じて自分の子と意識を同調させることが出来るのが『魔王』の眷属である。

 距離と時間の制約を無視する全能。

 それは実質、『覇濤』で、目と耳が届かない場所はないということである。

 まさに平時では"あり得ない事"が起きている。

 お膝元でこれだけの事が起きるのが異常さを、旅人である彼等は理解できていない。

 

 

「さて、と」

【バッカ―Lv1/3】

 若葉の少年は、大事に大事にバッカ―資格所持者に与えられる拡張カバンにしまい込む。

 とにかく、これは貴重な預かり物だ。

 改めて、町の出入り口の方向へと身体を向けて。

 

「よーし、そっちの話はまとまったみたいだな?なら早く行こう時は金なり、休んでる暇はないぞ!」

「うん、目的地は割と距離があるから。すぐに出発した方が―――ん?」

 突然、割り込んでくる聞き覚えのある自信に満ちた声に。

 若葉の少年は返事しながらも声の主に疑問に、振り帰ってみれば。

 

『白磁のクローク』【クリーブ兄貴】【自信家】

 そこには何故か白磁のクロークを纏った、見覚えのあるサイドテールの少女がそこにいた。

 そう、腕を組んで堂々と、余りに当然の様にそこにいるのである。

 

「えっと、なんでクリーブランドさんが答えるんです?というかなんでここに」

「なんでって、あたしもカイトたちの"調査"とやらに着いていくからだぞ?」

「……ん???」

 若葉の少年が、男勝りの少女に問いかければ、これまた当然の様に返答が返ってくるだろう。

 それに対してやはり疑問が止まらない。

 彼女の意図と意志はわかったが、その過程になにも答えがないのである。

 

「どういう事だカイト、依頼人から何も聞いてないぞ。そちらの彼女は知り合いか?」

「うん、ぼくも聞いてない。彼女は逸れた時に助けてくれた人で、さっきの提督さんの所属する戦舟(メンタルモデル)らしいです」

「はえー、世間は狭いわねぇ」

 若葉の少年は、ただ想定外の人物が目の前にいる事に困惑しながらも、軽く説明するだろう。

 それに応じて小麦色のサイドテールを揺らし、自信に溢れた笑みに腕組みを解いて。

 

「うんうん、大体そんな感じで間違いないぞ。アンタらがカイトの冒険者仲間だろ?よろしくなあたしはクリーブランド、『セレクティブ』所属のメンタルモデルの一人なんだ!」

【クリーブ兄貴姉貴】 

 改めて男勝りの少女は自己紹介をして、白磁のクロークを捲っり上げて握手を求めた。

 相変わらずの彼女らしい人懐っこさに、朗らかに距離を縮めてくるだろう。

 そんな初対面に、困惑が混ざっても悪い気持ちはしないだろう、そういう明星の如く少女である。

 

「ふむ?私は役割(ロール)『ディフェンダー』のガルデニアだ。つまりこの依頼の補助人員という事になるのか?ここまで道筋の整った依頼に補助要員はいらないと思うのだが……」

「あ、いやあたしの勝手。『提督』には内緒だぜ。変に気を遣うだろ」

「だめじゃん」

 ローズは真顔で呆れた声でダメだしする。

 そう、男勝りの少女の同行の申し出は、誰に相談するわけでもない独断であるらしい。

 であるなら、勿論問題だろう。若葉の少年は困って頬を掻きながら告げる。

 

「ダメです。お帰りください」

「えー!?なんでだよー、頭数は多い方が都合がいいだろー」

「当たり前です。冒険者として"依頼人"の身内を勝手に巻き込んで、万一が起きたらそれこそ申し訳が立たない」

 若葉の少年は、冒険者としての常識にその提案を拒否する。

 対価に応じ、契約にのっとり身体を張る、自己責任に時には当然に命を張るのが冒険者である。

 この世界に絶対に安全な仕事などない。その万が一はお互いにとって致命的に不幸な事だろう。

 

 しかし。

「へへ、そんな事か大丈夫だって、あたし割と強いんだぞ」

『軽巡艤装:クリーブランド』【フラグシップ】【海上騎士団】(ネイビーキャリバーズ)

ググググ、ガシャン!!

 男勝りの少女はその自信にあふれた言葉と伴に、背に負った銃架の鋼城を展開する。

 アンカーから伸びるこれは、『戦舟』(メンタルモデル)に与えられる戦船を模した『魔具』の一種である。

 強化人間としてそれを支えるだけの靭力、"阿頼耶識"という神経接続に支えられる一心同体。

 火砲使い、銃器(マンキラー)の延長とはいえこれだけの重武装だ。それを一心同体に扱えるとならば頑強なモンスターに十二分に通じるだろう。

 

 彼女等が本領を発揮するのは間違いなく洋上であるが。

 『覇濤』での噂に聞く限りに、彼女が背負うのはそういう代物である。

 

「なー頼むよ。『提督』最近目に見えて気を落としてたんだ。あたしも役に立ちたい。いやだって言っても勝手についていくからな」

「……だ、そうだ。身体使いを見れば相応にやれるのはわかる。君がリーダーだ。君が持ってきた話でもある、判断は任せた」

「ん、んー」

 そういってガルデニアは、若葉の少年に丸投げする。

 活動期間が長く冒険者ランクとしては彼女がベテランであるが、基本的に彼らが徒党(パーティ)の指針を担うのは彼である。

 

 その丸投げに、若葉の少年は悩む。

 

「こういうのは仕事として好ましくないし、でも付いてこられて怪我されても困るし……、しかたないかなぁ」 

 ここまで話してみれば彼女のお節介焼きの気質は、容易に察せられるだろう。

 しかしだからこそ、幾ら彼女にとっては身内の話だとしても、命の安売りはだめだった。

 安定地である『聖錬』においても、切り拓かれた平原、町の外は人類の領域ではない。

 対価は自身の仕事を計る指針になる。貰う癖がなくては、きっといつかは破綻するのだろう。

 

 ただ、男勝りの少女の目に、遊びはない真剣そのもので、そういうのに弱かった。

 

―――だから。

 

「条件が二つ、一つ目は僕たちは冒険者です僕たちのやり方があります。仮に貴方の役割(ロール)火砲使い(ヘビィガンナー)として扱うんで、そう動いてください」

「やっりぃサンクス!勿論、やり方はそっちに合わせるさ」

 渋々ながらの承諾の言葉に、小麦髪の少女はサイドテールを揺らし、その眼を輝かせて頷く。

 しかし、明星の如く善意に動く彼女だからこそ、次の制約は効くとだろう。

 

「二つ目に。仕事するからには貴方も、今回の調査依頼の報酬を共有する事」

「え、ええ……?そりゃあたしもお金らえるならありがたいけど、そんなの悪いってばこれあたしの勝手だろ?横入りみたいじゃん」

【聖錬冒険者】

 若葉の少年はそこは譲らない。経験則、きっと対価は自覚と責任感とつながる。

 これで彼女は、冒険者の資格を持たないとはいえ、立場として同じとなるだろう。

 もしもがあっても、これでギルドの報告、外聞的には一応の保険にはなる。それに……。

 

「ダメ。幾ら自信があっても、大事な誰かの為であっても、命の安売りはだめです。対価と一緒に責任を負ってください絶対に」

「わ、わかったよ。なーんか生真面目だなぁ」

 お節介焼きは結構だが、そうやって何でも助けになろうとすれば、限界はすぐ見える。

 袖すれ違う程度の知り合いとして、余計なお世話かもしれないが、

 放り投げられるところは放り投げればいいのである。その為のカネであり冒険者なのだから。

 

 なお、拘束時間が長い影響からか、今回の依頼の報酬はかなり割りがいい。

 彼女の仕事にもよるが、ただの善意には気が引ける金額を押し付けてやるつもりだった。

 

「うん。それなら大丈夫」

 若葉の少年は承諾に頷いて、条件を突き付けるその表情を解いて。

 改めて仕切り直しにその手を伸ばすだろう。

 

「改めて、頼みにさせてもらいます。よろしくクリーブランドさん」

「ああ、よろしく頼むよカイト!」

 がっしりと握り、握手を結びあう。

 そんな懸念もさりとて、目の前の彼女はかつての"親友"に似た明星の人である。

 短い間でも、一緒に歩くならそれはきっと楽しい事に決まっている。

 そんな期待もどこかにある。

 

「そーいう事になったのね。あたしとしてもケジメがつくなら問題ないわ」

「ふふ、私も『舟娘』《メンタルモデル》と組むのは初めてだからな。貴重な経験にさせてもらおう」

 

 徒党全体の空気が、軽い調子に切り替わる

 初見だろうが、冒険者同士、一時的に組んで仕事をするのはいつもの事なのだから。

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

―――覇濤郊外、

 

 変わらずの曇り模様、風はささやかに淋ぎ、曇り空に穏やかに落ち着いた拡がる平原光景である。

 

『蟲タバコ』【レンジャー】【精霊術Lv2/5】

 

 いつ道理に精霊寄せの周囲の土と空気、束ねた香草タバコを火で燻して。

 周囲の空気を臭いを寄せて、混ぜて馴染ませる。

 野外行動の得手、気配迷彩を周囲に纏いながら彼らの徒党が拓かれた平原を歩いている。 

 

「ふぅん、へー。冒険者はこうやって気配を紛らわせるのか」

「ん?や、ぼくたちのやり方。モンスターは嗅覚感知が多いから、まぁ気休めだけどね。本当はもう一人の仲間(ミストラル)がいないと半端もいい所だから」

「へー、あたしは戦舟(メンタルモデル)だからなぁ、そういうのには疎いんだよな」

 彼等の徒党のいつもの得手を。

 勝気な少女は最後尾に、興味深そうについて歩くだろう。

 

 舟娘(メンタルモデル)の主戦場はやはり海である。屋外の振舞いは新鮮に感じる。 

 

 時々遭遇する進路上、交戦不可避のモンスターの群れも―――

 

「んーなんか聞こえたな。北北西の方向、進路になんかいるぜ」

「ん、この距離でよく分かりますね」

『メンタルモデル』【裡の海メトローム】【ハイパーセンサー】

 感覚に導かれるまま男勝りの少女がとある方向を指さす。

 舟娘(メンタルモデル)が機能が一つ、"艤装"に格納された機器により聴力強化である。

 その指先に応じて若葉の少年は、バックから遠眼鏡を取り出して。

               

「補足しました。獣犬のモンスター数は6匹、耳の具合からまだ気が付かれてない」

「よっしゃいつも通りあたしが斬り込んで注意を引くから、後詰めよろしく!」

「心得た。君は極力発砲は抑えてくれ『火砲使い』は他の魔物を寄せる。万一のカバーに入ってくれればいい」

『六華の弓』【レンジャー:弓術の心得】/【重剣士】(ヘビーブレイド)【闘牙剣】/【槍舞師】【ランスマスタリー】

 自然に算段を付けて、先手奇襲からの一当てで、大概に骸を転がして終わる。

 彼等も、今や熟達の域だ。聖錬式の冒険者はその脆さの反面、大概に攻撃性が突出している。

 

 相手より先に気が付ければ、こんなものだった。

 

 とある覇道国家『王国』の如く、三歩も歩けば遭遇するモンスターパニックであるまい。

 人類の安定地『聖錬』では一つの群れを片付ければ、大体息を付ける。

 その為に、安定した聖錬の徒党は瞬間的な衝突力の確保、不意打ち奇襲からの即殺の流れを、幾つか想定するモノである。

 

 そんな感じで彼らの道中は順調そのものであり。

 

 緩い雰囲気に自然と会話が弾む、明星の如く少女が話を転がしていく。

 

「にしてもまったく提督も水臭いよなー。そんなに悩んでるなら力を貸してあげるのにさ!あたしそんな薄情に見えるのかな?」

「……そう見えないからじゃないかなぁ信頼と依存は違うから。そこの一線超えるとずぶずぶになりそうで、ぼくなら気が引けます」

 若葉の少年は、そんな軽い愚痴に困ったように返すだろう。

 実際、これは身近であればあるほど頼みずらい事であるし、彼が初見での印象を、"明星の少女"と評すようにどこかその重力(あまやかし)は一度嵌れば、抜け出せない沼のような心地よさを感じる。

 

 つまり、際限ない世話焼きによる"ダメ人間メイカー"の気配があるのだ。

 彼も流石にそこは口に出さない。

 

「そんなこと言ってもあの人は、うちの鎮守府みんなの父ちゃんみたいなもんでさ!最初に見出してくれたのもあの人で―――」

 その後も勝気の少女の思い出話を聞きながら、歩く。

 

 そして日が昇りきる前、正午には目的の場所へと到着したのである。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

―――『崖伏の研究所』

 

ドォン!

 まず目に入るのは機械、異質な機械の群れの中であった。

 放棄されて時が立っているか、その外見は荒れ果てて錆びの匂いが漂うだろう。

 

 そんな忘れ去られた停滞と静寂の中に。

 

―――ドォオオオン!!

【砲華の鉄城】【ガンズマスタリー】【強襲指令】

 突然、火薬の匂いと轟音が響き渡る

 "艤装"から放たれた多連装砲撃のノックが、派手にその鋼の扉を吹き飛ばすだろう。

 

 それを放ったのはもちろん、片腕を振り上げ"艤装"を展開し砲を向けた小麦色の髪の少女である。

 

「たっまやー!再ガサイレだ。やましい事があるなら精々焦るんだな!」

「ちょ、いきなり罠が在ったらどうするんですか!?」

「大丈夫だってば。これで扉の罠は消し飛んだだろうし、潜んでても脅かした所であたしが音を拾うんだ。耳には自信がある。完璧な挨拶だろ?」

『メンタルモデル;強化人間』【裡の海メトローム】【自信家】

 若葉の少年の突っ込みに、悪戯めいてくるりと一回り、自信に満ちて笑う。

 舟娘(メンタルモデル)とは強化人間である。

 彼女は同類の中でも聴覚に優れており、自身を中心としたソナーの如く、脳内イメージに落とし込む術を知っている

 

 たとえ、建物の中であってもこの過激な挨拶に騒ぎ立てれば、全てを拾って把握できるだろう。

 実際、人をぶっ飛ばしてしまっても、こんな所でこそこそしてる時点で黒である。

 このド派手なノックは、そういう確かな自信に導かれた行動である。

 

「ふぅ、私たちのやり方とは違うが、切り替えていこう。仮に建物の中で罠を張られるよりは外におびき寄せた方がましだと、で?反応はどうだった」

「いやー、あんだけの派手に挨拶したのに、さっぱり物音ひとつしない。完全にもぬけの殻って奴だ!」

「残念、ここでまた企んでたら、締めあげて手間が省けたのにね」

『ディフェンダー』【探索者】【阿修羅姫】

 相手もそこまで間抜けではないかと、ガルデニアは首を竦めて。

 壁としての役割(ロール)に自然体にその機巧槍を構えて、廃墟の建物の中に進んでいくだろう。

 その先導に倣って、暗がりに徒党は続いていく。

 

カツンカツンと

 厳かに複数の靴音が響き渡る。

 

中型魔動機(ドゥーム):大破』

 歩くその傍に、破壊された警備であろうか、機巧類の残骸が転がっている。

 捜索に押し入る際には、戦闘あったことは容易に想像できるだろう。

 

 そして彼等は手分けして中を物色し始めて―――。

「っはー!割と立派な建物よね無駄にお金かかってそう。ほんと無駄よこれ」

「ふむ、確かに少なくとも個人が出来る範囲ではないな、見える用途は悪趣味極まりないが」

『鉄格子の牢屋』

『黒錆びた手術台』

『ひび割れた透明な血(アエルティナ)の容器』

 その中でも目を引く、廃棄された鉄格子の牢、簡素な手術台等を見て顔を顰めた。

 簡単に想像できる。まるでここは、人体実験為の檻である。

 壊された過去の残骸とはいえ、見ていて気持ちの良いものではなかった。

 

 それでも地道に整理し漁り続けて。

 

「他にはダメだー!なんもめぼしいモノは残ってないじゃないか」

「当然か、私達もプロという訳じゃない。時もたっている、本職の見逃しを簡単に見つけられるわけないさ」

ガァん!

 しかし、結局、その他にめぼしいものは見当たらない。

 荒廃するまま現場保存も何もない為、苛立ちに道塞ぐ机を苛立ちを込めて雑に蹴り飛ばした。

 おそらく有力な証拠品などは、既に持ち去られて調べられているだろう。

 

 大凡の予想通り、仕方のない事である。

 

「はぁ、仕方ないか。こんな場所で呼ぶのは教育に悪いからできれば頼りたくなかったけど」

 何の成果も得られない。

 その様に、若葉の少年はため息をついて。

 

「リコ来て―――何かわかる?」

「ん」

【電脳使い】【偶像乙女】【イレギュラー】

 庇護者の声に応じて、虚空に焔の花が咲く、儚紅の幼子が形を結ぶ。

 いつもと同じく、薄紅のワンピースを揺らしふわふわと浮いて。

「任せて」

 頼られるままに凛とした声を弾ませて。

 理屈はわからないが、彼女は機械(マシン)に類するものを言語として読み取る感性を持っている。 

 

「解析開始。通電試験、欠損を精査のち再定義(エミュレート)―――」

【電子魔術:初歩】【ハッキング】【タッピングエア】

 儚紅の少女は瞬く間にその力を表すだろう。

 揺れる薄紅の衣から覗く小さな指の先に、円陣を展開する。大気をキーボードに電子の信号を空に合わしていく。

 

「うわ、すご。なんだそれ初めて見るな!」

「ふふん、そーでしょ!うちのリコは凄いのよ。何やってるかさーっぱり全然わからないけどね!」

 その指に応じて、もはや沈黙を守るその設備に、一部明滅が戻るだろう。

 ソフト/ハード共に欠けた部分を、もはや一時的に代替えを定義して供給しているのである。

 

翻訳完了(コンバート)

【円環魔術】【アサルトサージ:■炎】

 短時間でも一度火が入ればこっちのものだと言わんばかりに。

 マナによる"仮想の白紙"に引き出す様に、1と0の羅列を翻訳した情報を炎の帯として実体化し、そのまま廃墟の壁に焼き付けるだろう。

 

「ん、できた。褒めて」

「よしよしありがと、本当にリコは器用だ」

【憑依具】【倖びの花冠】

 儚紅の幼子はふわふわと降りて来る。

 その内容には気にも止めず、その成果を誇る様な寄ってきた小さな頭を撫でるだろう。

 

「読む限り欠けてる部分も多いけど―――舟娘(メンタルモデル)の技術を手に入れるための実験施設だったみたい」

「………は?なんだこの治験表(カルテ)は、まるでくっつけて動かすことしか考えてないような。それをこの一覧にある"28人"も繰り返しただと、正気か?」

【元・奉納巫女】【高等医療技能】

 ガルデニアは元奉納巫女である。出身から医療知識を齧っているだろう。

 そんな彼女が、信じられないモノを見るような、そんな絞り出すよう声が聞こえた。

 読み進めるたびにその表情は険しくなっていく、凛とした彼女には珍しく侮蔑の情を深めていく。

 

 そして。

バッ、キンッ!!

 ゆっくりと事実と噛み締める様に。

 八つ当たりに 機巧槍を振るい、そこらの鉄檻を魔力撃に斬り落とした。

 

「―――決めた。依頼関係なくこの馬鹿どもに遭遇したら斬るぞ。治験がなんだろうと生かしておく価値はない奴だ」

「うへぇ、センパイにこう言わせるなんて相当ね。確かに、牢にブチ込む手間も時間も惜しいわ」

「おぅ覇濤基準でも生かす価値ないぞ。存分にやってくれ、あたしも見つけ次第に大砲ぶちこむわ」

 この施設を利用していた連中は、どうしようもなく度し難い連中だったらしい。

 彼らが徒党(パーティ)において全会一致の討伐対象である、自身の理屈と天秤に痛みを強要する、こういう連中は言葉を使う魔物と相違はない。いや、それより質が悪い。

 

 この世界において、荒事に生きている人間であれば遭遇する悲劇によく知る事だろう。

 

「うん、唯一の成功作"レヴィア"これを"アスタリスク"タイプと定義し今後量産を検討、か。この名前の"治験"(カルテ)で記録が終わってますね。そこから辿れないかな……」

「―――え?」

 若葉の少年が、手掛かりとして呟いた名前に。

 勝気の少女が反応するだろう。呆気にとられた様にその動きを止めて。

 

【孤児園育ち】【お姉ちゃんの矜持】 

 思い出の想起(リフレイン)

 それは今の彼女の追いかける夢を形どる道標の一つ。聞き捨てのならない言葉であるのだから。

 

「おいおい、そりゃないぞ。"レヴィア"はあたしの孤児園の義妹の名前だ。あの子は。あの子はちゃんとしたところに、養子に引き取られていったて―――」

 彼女の、自信と活力に溢れた目が不安に揺れる。

 動揺に小麦色のサイドテールを揺らして、セーラー服のスカートを強く握り締めるだろう。

 

 ここで行われたおおよその事を、彼女は記録と想像力に知っている。

 なら、なら。それを己が夢を追いかける努力との半面に。

 ずっとこんなクソッタレな場所で、助けを求めていたのかもしれない。

 その想像に、身震いする。

 

「同姓同名の人かもしれない。決めつけるのは―――」

「……あぁ!きっとそうだよな!でも確かめなきゃいけない事が増えた。それだけは確かなんだ」

 その心配と気遣いの言葉に、笑顔に気を取り繕って返答しただろう。

 いやな予感は止まらない。ただただ、強がりに握りつぶして明るく振舞うのである。

 

―――【覇濤:セレクティブ】における調査依頼。

 

 その一日目。

 

 そんな不穏な手掛かりと共に、時間は過ぎていくのだった。

 

 





書いてみてから、前半丸ごと丸ごといらないのではないか???
文章が嵩む、テンポが悪い。

話は進んでるので、早く鉄火場に頑張らないと。
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