ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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怠惰【運命の預言盤】

 

 

―――『崖伏の研究所』

 

 時は過ぎて、郊外での粗方調査を終える。

 一度、彼らが徒党(パーティ)は『崖伏の研究所』を後にして、"セレクティブ"が港街へと帰還した。

 

 そして太陽がいまだ天頂に輝く時世、彼らはまた明日の調査の約束を交わして。別れるだろう。

 記録された被検体の一人、"レヴィア"その名前が確かなら―――

 手掛かりがの心当たりがあるかもしれない。

 彼等にそう告げて、目的を確かに、その足でクリーブランドはとある所に向かったのである。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 

―――【覇濤:セレクティブ】

 

 そこは港町の片隅で石材で組み立てられた。

 "孤児院"と呼ばれる様な、身寄りのない子供を育てる質素な建物の光景である。

 

 彼女が扉を開ければ、幼子達が勝気な少女に駆け寄ってくるだろう。

 

「あ、クリーブねーちゃ、久しぶり!」

「敬礼!クリーブ兄貴!今日もここは平穏であります!」

「そんなに急いで帰ってきてどうしたの、時間があるならあそぼーよ!」

「ああただいま!でも今は急いでいるんだ後で遊んでやるからごめんな!あとあたしは女の子だ!」

『白磁のクローク』【深緋の瞳】【胸部装甲・貧乳的な】

 かつかつかつと。

 寄ってくる子供達を、宥めすかしながら。

 勝気な少女は小麦のサイドテールを揺らして、勝手知ったる育ちの家の廊下を歩く。

 

「院長!院長はいるか!?」

「なんだいクリーブランド君、この間に続いてまた喜捨してくれるのかい」

 そこには黒髪の昼行燈の男がいた。

 錆び付いた街灯の如く微笑を張り付けた呑気にタバコを吹かす、そんな針金のような男である。

 

 煙るタバコの煙、部屋自体に染み付いたタバコの匂いに、顔をひそめながら。

 勝気な少女は、そんな調子をいつもの事と流して詰め寄るだろう。

 

「あい変わらずアンタ口を開けばそれだな、今日はカネの話じゃない。あたしの義妹(いもうと)の話だ」

「クリーブランド君、仮にも僕は育ての親だよ、もっと敬意をもって話してほしいね」

「よく言うよ」

【孤児院出身者】

 明星の如く彼女にしては珍しく素っ気ない言葉を投げつける。

 その程度には世話焼き気質の彼女が、見放している相手である。

 

「あたし等はあたし等でやってきた。あんたはカネの管理してただけじゃないか」

「酷い事言うね。疵付くじゃないか」

 変わらず錆び付いた街灯の笑み。その言葉通りに、この"孤児園"においてこの男は何もしない。

 しいて言うならば、金と物の、そして"孤児の行先"管理だけだ。

 故に、大体ここで迎え入れられ暮らす子たちは日々の生活は"年長者"から教わる事で、力を合わせて廻していた。

 港町"セレクティブ"の共用の濾過設備から、日々必要な水を汲み運び。

 火の番に、薪を割り、食材をやりくりして鍋を回して、食卓をみんなで囲んで。

 時に拾った貝殻を磨いて作った装飾品を、青空市場の片隅に観光土産として売る。

 時に力自慢は、帰ってきた漁船に水揚げされた魚貝の仕分けを手伝いお駄賃をもらう。

 その原風景に、目の前の男が混ざる事はほとんどなかった。

 

【怠惰の獣】 

 少し関われば、きっとその男の本性はわかる。ただ怠惰であるだけだ。

 騒々しい子どもなんかと関わるより、一瓶の酒と一カートンのタバコが好きな、そういう男だ。

 

「"レヴィア"、あの子の引き取られた先を知りたい。知ってるだろ、あんたが突然決めた話だ」

「はて、さてそんな子がいたかね」

「は?まさかとは思うけど、覚えてすらいないとかそんなんなしだぞ。ほら、綺麗な水色髪の女の子だ3年前の―――」

 

 昼行燈の男のその惚けた様子に、流石に焦りの声が漏れる、必死に妹の特徴を並べていく。

 それは困る手掛かりがなくなる、それはあんまりにふざけた話だ。

 あの突然の別れは、この男が勝手に進めた話である。

 

「あー、いたなそんな子が、どちらにせよ里親の情報は明かせない。わかってるだろう」

「悪いが今回は特例だ。アンタが手配した里親先が孤児で"人体実験"を行っている可能性が出てきた。アンタはどうせ動かないだろうからあたしが動く、その為の情報がいる」

「そうかそうか、それは大変だ。で?それは僕に何か関係あるのかい?」

「―――は?」

 あまりに無責任な言葉、心底自然に零れたそれ。

 勝気の少女は心底信じられない言葉に、一瞬、我を忘れた。

 その声色に心配も罪悪感も何もない。この男の怠惰は彼女を想像を超えていたのである。

 

「お前……っ!」

ギュ……!

 彼女は確信した。きっとして然るべき里親の身元調査なんてしていない。

 先ほどまで忘れていたことを含めれば、きっとこの男、最低限の記録自体を付けていない。

 

 それは仮にも責任者として何処までもすべきことを、放棄しているという事である。

 ふつふつと湧き上がる憤りに眉間の皺が深くなるだろう。

 

ドンっ!

 勝気の少女は、その衝動のままに詰め寄った。

 小麦色のツインテールと白磁のクロークを怒りに振るわせて、机に拳を叩きつける。

「どこまで無責任なんだお前は……っ!」

「な、なんだも、とっくにもう過ぎた事だろう。い、今更掘り下げてもどうにもならないぞクリーブランド君」

 昼行燈の男が、普段外面に纏う諭すような雰囲気に反論する。

 そんな言葉がたまらなく癪に障る。

 

 何処までも鈍い男だが、その反応に罪悪感はなくとも目の前の相手が、この事で怒っている事はわかるのだろう。

 昼行燈の男がその表情が引き攣っていた。肉食獣に睨まれた小動物の様に縮こまる。

 

「い、いいのか?いまや覇濤の舟娘(メンタルモデル)である君が、無抵抗の人間を暴力を振るうのかい?」

 かつてはここに育った子供であっても、今や覇濤所属の軍人であり強化人間相手だ。

 その気になれば、その暴力はいつでもこちらを捩じ切れる。

 それくらいはわかるのだろう。

 

「き、君にはわからないだろうが、子供を育てるのは信用もお金がかかるんだ。大人であるボクがいなければ、あの子たちは路頭に放り出される、き、君もボクがまとめた縁組の結納金で育ったんだぞ」

「―――ふん」

 しかし、己を顧みずに何処までも諭すような言葉は、

 その心のどこかで騒々しいだけの子供の延長に、彼女を見下している故だろう。

 ただ、聞いてもいないのに、院長である怠惰の男の言い訳の言葉がどこまでも続いている。

 怠惰の癖に、身に危険に限ってその口はよく回るらしい。

 

 きっと、その全てが無駄である。

 

 勝気な少女は今の今まではこの昼行燈の男と、その怠惰に仕方ない奴だと思いながら付き合ってきた。

 なんだかんだ無感心・無干渉であり、暴力も性的な行為の強要もなかった。

 彼女とて厳しいこの世界で、無力と無知は庇護されて如かれるべきなど、夢みたいな事はいわない。

 だからこそ、いつかの"姉弟の為"にと舟娘(メンタルモデル)として、バイトを掛け持ちしながら稼いだカネを定期的に寄付していたのだ。

 

 ため息、失望、もはや無関心。

 

「……もういい。どこまでも見下げ果てた奴だ」

 どうやら、この男に関わる事全てが無駄らしい。何の手掛かりにもなりはしない。

 そして、ただ吐き捨てる様に言い捨てるだろう。

バッ

 そのまま踵を返し白磁のクロークを翻し、質素な孤児園の施設を後にする。

 

 街を歩く歩く。

 想いが溢れ出して、固い舗装された覇濤の街を思わず駆けだす。

 

「くそなんで……、違うってそんなわけないって確信得たかったのに、なんでこうなるんだよ!」

【強化人間】【おねえちゃんの矜持】 

 走る走る、胸の動悸に息が苦しい。

 勝気の少女は間違いだと思いたかった、あのザマ、ただ可能性が高くなっただけだ。

 ずっと苦しんでたかもしれない。もしかしたら、今も苦しんでいるかもしれない。

 

「里親が見つかったんだ。あの子は幸せになったはずだった。そうだろう!?」

 自分に言い聞かせる様な言葉も、虚しく消えていく。

 その言葉に反して何処か確信に近い予感があった。思い返せばあの日の別れは不自然だった。

 その日には、話が決まる養子縁組なんてあるもんか、あの怠惰の昼行燈であるなら尚更に。

 

 きっとそれは悪党の都合だろう。やましさを抱える人間は手早い。

 もしかしてカネを積まれたのかもしれない。

 

「くそっ、ヒトの体をネジやコードと勘違いした連中の仕業だ」

 彼女とて強化人間だ。カルテを見て薄っすらと情景は思い浮かべる。

 覚悟していても身を裂かれ冷たい鋼と継ぎ合わされる痛みと怖さは、よく知っている。

 気弱なあの子の事だ。きっと助けをずっと求めていたのだろう。

 

「痛かった苦しかっただろうな」

 それが未熟で、無配慮で、妄信と野望に取りつかれた連中の手によるものである。

 その地獄は想像を余りあるだろう。

 

ギリィ!

 浮かぶ想像に、歯を食いしばる、胸が痛い。

 息が苦しい。

 

 そして足を止める。

 勝気の少女が衝動的に走り出した無意識に到着した目的地は……。

 

―――『喜望峰の灯台』

 

 この覇濤の街、"セレクティブ"を見渡せるこの場所。

 舟娘(メンタルモデル)のいや、この広大過ぎる海を行く全ての者たちの道先案内人。

 観光客には必ず案内する。

 勝気の少女のお気に入りの場所、夜の女神様の御許である。

 

「あはは、こんなことしてる場合じゃないのに……、なんでここに来ちゃったんだろうな」

 彼女はそれを見上げながら。

 もしかして無意識に頼りにするものを求めていたのかもしれない、自嘲する。

 

 灯台の上に只管続く階段昇る。胸に抱える蟠りを踏む締める様に。

 

 辿り着いた頂上で、眼下いっぱいに拡がる"セレクティブ"の港町を見渡して。

 胸いっぱいに空気を吸い込んで。

 

『―――あの頓珍漢っ、無気力野郎!バッカヤロー!!』

 怒りのまま、蟠りのまま、己の不甲斐なさ全てを込めて。

 そして男勝りの少女は、肺全ての空気を吐き出し八つ当たりに声を張り上げて叫ぶだろう。

 

 何処か木霊して響く残響に、ただ何もできない。情けなさがぶり返してため息をつく。

 

「ふぅ……はぁ………!」

「―――っ、びっくりした。いきなり叫ぶから、全力で走ってきた後だから危ない倒れちゃう」

 

 ふと不意の声がした。

 振り返ればここ最近知り合った若葉の少年が、驚いた様子できょとんこちらを見つめていた。

 

 他者の気配に気を取り直す、走り出した汗に乱れた髪を慌てて直して。

 

「え、あ……げほっ!?なんだ奇遇だなカイト、わりーな驚かせちまったみたいで!」

「ん、さっきぶりです。ただならない様子で走ってるところ見たかけたから、付いてきちゃいました」

 若葉の少年はどうやら、全力疾走で駆けだした彼女を見かけて、付いてきたらしい。

 その位なりふり構わずで目立っていたか。

 彼女はその心配そうな目線に、なにやら居心地の悪さを感じて、頬を掻くだろう。

 

「へへ、かっこわりーとこ見せちったな」

 恥ずかしさに上気する頬を笑って誤魔化して、気を取り繕う、堂々と強がる、

 そう、いつもの"自分らしさ"を纏って快活に笑った。

 

「でもこれはあたしの事情だろ。カイト達は『覇濤』に観光に来たんだ。こんなの気にしなくていーぜ」

「ううん、実は心配で探してた、クリーブランドさん、迷ってた僕を見つけてくれたじゃないですか」

 素朴な野外帽が控えめにこちらを覗いて、少しでも恩を返させてと。

 若葉の少年はその気遣いを凪に流して、歩いて静かに勝気の少女の隣に並ぶだろう。

 彼は生来の気質というべきか一度呑み込んでしまえば、大概にして、そういう距離感に座っている人間である。

 

「経験則だけど、話せば少しは楽になると思う。事情がわからない慰めなんて言えない。けど、それ位ならできます」

「お節介だな、大丈夫だってのに」

「知ってます?お節介はお節介で帰ってくるんだよ」

 勝気の彼女は、少しいじけたように呟いた。少年はこれも応報だと軽く笑う。

 彼女は、誰かの前では頼りになる格好いい自分でいたかった。

 あまり弱い所は見せたくはなかった。

 夕暮れに日がじわじわ落ちる、少しばかりの気まずさが場を満たすだろう。

 

 日の輝きに隠されていた星が覗く。

 眼下に望む灯台からの港街の一望は、変わらず雄大に拡がっている。

 そろそろ波濤の街に、人工の灯がともり始めるころか。

 

 冷えて風が流れる。

 若葉の少年は手すりに腕を支えに、変わらずに遠慮がちに隣にいるだろう。

 

「その様子だと、"義妹(いもうと)"さんの件、あんまりいい結果じゃなかったみたいですね」

「あぁ、あの怠惰野郎―――まぁあたしの育った孤児園の院長なんだけどよ。きっとろくな記録も着けちゃいない。それこそ、里親斡旋した"レヴィア"の名前さえ忘れていやがった」

「……それは、もう殴り飛ばしていいのでは?」

 若葉の少年も一瞬呆れた様に惚けて、少し遅れて沸く軽い怒気に呟く。

 それは理解できないモノの感覚である。

 仮にも自身が里親の斡旋して忘れるとは、どういう神経をしているかわからない。

 しかも"人体実験"という言葉に、なにも感じ入るものもなかったらしい。

 

「無駄だって、暴力を騒ぎ立てられてもめんどくさい。それは"今"やる事じゃなかった」

「やるべきこと、か。"義妹(いもうと)"さんの事、諦めてないんだ」

「あきらめるもんか、あたしの夢だ。簡単に諦めたらあたしは噓つきになっちゃうだろ」

【おねえちゃんの矜持】

 勝気な少女は、一時の衝動に任せて、時間を使うのはあまりに馬鹿馬鹿しい。

 昼行燈の男に対してもはや"無関心"である。後でどうにか除くとしても今やる事ではない。

 男の行く末などどうでもいい故の、そういう割り切りである。

 

 また空白が、場を満たすだろう。

 言下に拡がる景色はより影を増していき、本当にきれいな影妙を形どる。

 

「―――あたしらはさ、年長者が年下の面倒を見る事で生きてきたんだ。本当の家族みたいにさ。冬の海風の寒さに集まって温まって、ご飯を少しでも量を嵩増し出来る様に料工夫して」

「うん」

 勝気の少女は、まぁいいかと。その湿度に気の弱りに口が滑る。

 若葉の少年は、ただ静かに相槌を打つだろう。

 

「器用な子は拾った貝殻を磨いて組み合わせて観光客向けのアクセサリーにして。力持ちの子は帰ってきた漁船の、漁獲の仕分けとか手伝ってお駄賃もらったりしてなー」

 勝気の少女は紅い目を綻ばせて、孤児園時代の思い出を楽しそうに語る。

 明星のごとく少女の、貧しくとも苦しくとも"義弟妹"と歩んできた足跡(オリジン)である。

 

 彼はその情景を思い浮かべ、広い世界にはそういう光景もあるのだと関心の溜息が漏れる。

 

「な、なんか思ってたより逞しいね。他の街だと子供には危険だからそんな事させられない」

「そうなのか?あたしは覇濤の街を出たことないからな。そう思えば"海魔柱"(ダゴン)様には感謝だな。あの人と眷属の目があるから『波濤』の街は治安がいいんだ」

【田舎育ち】

 危険が溢れるこの世界では、弱者である子供はきっと囲われていなければすぐ死んでしまう。

 小さな村では『自警団』、大きな町では『衛兵隊』と、治安を保ても限界があるのだから。

 

 年長者を中心とした生き方(ノウハウ)の伝達、子供達の自立活動なんというか逞しく素敵な事だ。

 

 超越の代名詞『正規魔王』が一柱―――

 『海魔柱』(ダゴン)を中心とした。眷属間ネットワークによる距離の壁を越えた並列監視。

 事件の解決率が9割という。

 それに実現する、この世界では得難き奇跡の如く平和な風景である。

 

 若葉の少年は、いつもの癖にそういう物だと呑み込んで。

「うん。いい場所なんですね。誰もが安心して歩けるって事は、当たり前のようで難しい。こういう街だから、『覇濤』の街なら子供でも生きてこうとする術を探せるんだ」

「だろー、でもいつか別れは来る。養子縁組が決まれば、それでなくとも12才にもなれば独り立ちを決めなきゃならない」

 例えば、"里親"に引き取られるのであれば幸運であろう。

 そうでなければ、男が辛く汚く苦しい力仕事の"人夫"に、女であれば"娼婦"に身を墜とすか。

 それさえも拒否して命の価値を切り売りする道を選ぶか、専門性ゆえに"冒険者"の需要が、極端に少ないこの『覇濤』の土地にそれは更に辛く苦しい道を頼る事になるだろう。

 

 物流の玄関口、観光地に、舟娘(メンタルモデル)眷属(ウィンディーネ)を抱える武力。

 そうとにかく華やかで夜に常闇を駆逐した怯えなくていい港街、眠るにすら怯える者が聞けば誰もが住みたいだろう必然的に人が集まり物価が上がる。

 だから〝孤児"がこの街に居場所を作るにもきっと、"何か"を捨てなければならない。

 外の世界に出ていくのも選択肢だ。

 いや『覇濤』の街に居場所を作れなければ、自分の居場所を探して外の世界へと出ていくしかない。

 

「ほんと突然だった。挨拶もない"レヴィア"との別れの時に、あたしの大事なものはいつか絶対バラバラになるそう知った。繋ぎとめる方法が欲しかった」

「うん」

「何でもするって、毎日毎日『鎮守府』の前で自分を売り込んだ」

 そんなその時は元気だけが取り柄の無謀無知な子供を―――

 足を止めて話を聞いてくれたのは今の『提督』だけだったけどなと、照れくさそうに、過去の自身の向こう見ずながむしゃらを笑うだろう。

 

【努力の才能】【白鳥の如く】

 そう確かに、彼女は幸運(チャンス)を掴んだのだ。

 示された舟娘(メンタルモデル)への推薦と言う道、その選抜試験を潜り抜けた。

 覚悟を胸に、絶え間ない研鑽と努力をもって彼女はそれを乗り越え、それを手にした。

 その後も、痛みを耐え、機械との継ぎ接ぎになる己の身体を感覚を只管に叩きなおして。

 『覇濤』に縛られる命を懸けた兵器としての道に、ただ努力と供に邁進してきたのである。

 

「よくそれを、舟娘(メンタルモデル)が確立された技術らしいけど、体の髄からの機械化はゾッとしないな」

「あぁ、もちろんすごい痛かったぞー!それに何より冷たく変わっていく身体も感覚器も気味が悪かったさ。それでもあたしには夢があった!」

 明星の如く少女は、その腕を指を天に突き出して。

 それでもと、誇らしく夢を語る明星の少女の目は、輝いて見えるだろう。

 

―――そう、ここから先は偽物の復讐心(イミテーション)と言う負債に取りつかれた若葉の少年が持ちえない。

 拡がる"夢"の話である。

 

 かつて故郷にいた時の様に、親友から、時々持ち変えられる冒険録の様に。

 きっと若葉の少年は、きっとそう言う話が好きだった。風に流れながら静かに耳を傾ける。

 

「私はクリーブランド級、その"フラグシップ"(一番艦)だ。私が成果を挙げたらきっと同型艦が作られるだろ?きっとこの船の事なら、他でもない誰よりも私が教えられる」

【メンタルモデル】【フラグシップ】【自信家】

 艦名を背負う者。オリジナルたるテストヘッド。

 それ以降に続くはずの同型艦と言う概念、文字通りの先行試験艦。

 後続同型機の改造モデルとなるため、彼女が得た経験、適正などが同系後続機に反映されるだろう。

 

 故に、一呼吸をおいて。

 

「そしたら『孤児園』にいる一人でも多くの妹をさ、こっちに手招ける。そして、"あたし達"は『覇濤』の街に精一杯かっこつけた"旗"を立ててやるんだ」

【海上騎士(ネイビーキャリバー)

 そして勝気の少女が思い描く手本は、まるで物語の"騎士"の真似事である。

 『聖錬』が認めたものでも、『覇濤』に騎士の称号があるわけでもないが、真似て偽りでも名を拡げる(旗を立てる)

 

「"あたし"はここにいる!そう真似事でも手本を示し続ける、いつしかバラバラになった妹弟達にまた一緒に食卓を笑って囲めるように!」

 そこ考えの根底にあるのは、長姉として先ゆく者の矜持、良し悪し関係なく足跡が続く妹たちへの手本となるという経験だ。

 正解なら倣えばいい、過ちなら避ければいい。そしていつの日か。

 

 この残酷な世界、辛く過酷な現実の前でも、過去だけは尽きない奪われない。

 思い返して紡ぐ再会の糸になるかもしれない。

 かつての家族がそこにいる。その縁に惹かれてることがあるかもしれない。

 それが彼女なりに、考えて考えた欲張りな胸に抱く()であった。

 

 若葉の少年は、それを聞いて。

「だからこそ諦めない。いつかあの子も一緒に、家族は多い方が皆楽しいに決まってる。いつかに出会って食卓を囲むんだ」

「うん」

【孤児院育ち:再会の夢】

 若葉の少年はなんとなく、根拠もなく。

 この明星の如く少女ならばこそ、実現するんだろうなという確信に柔らかく頷いた。

 

 溢れ出す熱量、夢の為の努力は、彼女の振舞いからひしひしと感じられる。

 彼は、その様子にやはりかつての"親友"(オルカ)に被って、妙な感慨に浸る。

 

 であるならば、その信じる道を行けばいい。アイツはそうやって成功したのだから。

 

「それならクリーブランドさんが今できる事、見つけました」

「え、ほんとに何か思いついたのか!?」

 先ゆく影、一足先に飛び越して追いつけない。

 理不尽を笑って踏破する人種の匂いだ。きっとそれは"英雄"になるべき人の匂いだ。

 

 この世界においては、英雄と言うのは幻想でも象徴でもない確かな者。

 己のいる場所に根も葉も張ってしまう。

 そんな本来の彼の気質とは違う人種だろう。

 

 だから若葉の少年にできるのは思い付きを呟くことぐらいだった。

 

「もう一度叫びましょう。今度は義妹(いもうと)さんに向けて」

「……へ?」

「あのイカレ共は海に執着してる。義妹(いもうと)さん生きてるなら『覇濤』のどこかにいるかもしれない。この高い灯台からなら、少しでも届くかもしれないよ」

 

 たとえ、広い広いセレクティブの街だ。声が届く可能性があるとは彼も思ってはいない。

 それでも、今できる事はそれくらいで、奇跡だろうと声が届けばきっと、心強さに変わる。

 

 少なくとも、思いを形にすることは勝気の少女の気持ちの整理にはなるだろう。

 そういう提案である。

 

「そっかそっか、舟娘(メンタルモデル)のテストなら、『覇濤』から出るのはあり得ないもんな!」

 

 その提案に勝気の少女は納得と共に。

 灯台の頂上に取り囲む柵に乗り出して、精一杯その思いを息を吸い込んで―――

 

 その心の内を、命一杯吐き出すだろう

『とにかく待ってろよー"レヴィア"!!必ずだ!ねーちゃんが助けるからなー!!!!!』

 再び、叫んだ。

 『覇濤』が港町セレクティブにその覇気に張り詰めた声が反響する。

 

 そうこうするうちに時は流れて、陽は深く沈みゆき夜の帳が訪れようとするだろう。

 

 そんな彼等の一幕とは別に、覇濤の街は厳かに回り続けているのだった。

 

 

 

 

 

 

 




なんか勝手に立ち直ったんだ。
曇らせ描写の勉強が無駄になったんだ。文章カラテが足りない。
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