ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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吸血鬼【運命の預言盤】

 

―――【覇濤:セレクティブ】

 

『喜望峰の灯台』

 もはや陽が落ちた穏やかな夜の時世。

 彼らは灯台の上から、降りて。帰路についていた。

 

「いやー、なんだかんだあたしの話に遅くまで付き合ってもらって悪かったな」

「気にしないで"夢"の話は久々に聞くから、ぼくも楽しかったです」

『白磁のクローク』【深紅の瞳】【メンタルモデル】

 クロークを揺らして、腕を後ろに組みながら鼻歌交じりに帰路に就く。

 陽が落ち、暗幕が落ちた覇濤セレクティブ、その舗装された小道を二人が行くだろう。

 周囲は立ち並ぶ街灯の明かりに彩られて、水の流れる音と共に闇の景色を斑に穴をあけていた。

 

 そんな光景を眺めながら―――。

 並んで歩く。

 

「それにしても、夜になっても本当に明るいね。『ヴァーミリオン』でもここまでじゃなかった」

「凄いだろー?夜は夜で需要が多いからな覇濤(うち)は、……その、例えば『風俗街』とかさ。興味あるなら案内してやるけど」

「ああ、そういうのはどこでも変わらないか。大丈夫、間に合ってる」

 覇濤と言う街の一側面、性産業。他種族入り混じり、陸から長く離れる船乗りが発散する場所。

 恥ずかし気に声をひそめる勝気な少女と、若葉の少年は苦笑しながら納得に頷く。

 覇濤に育ち、男のそういう(サガ)に理解はあれど、声にするのは恥ずかしいらしい。

 

 羞恥、普段の男前にそういう"女の子"らしい仕草は、どこか新鮮に思えて彼は苦笑する。

 

【田舎育ち】

 魔物が寄る為に見張り以外の灯を消し、息を潜めて。

 目覚めの明日が無事来る事を、そんなささやかな祈りを込めて眠りにつくだろう。

 陽の昇り沈みと生活リズムを共にする、そんな田舎では考えられない。

 そんな贅沢な"文明の火"の使い方、惚ける様に"人の楽園"としての在り方に感じ入りながら。

 

「そ、そっか。ならまっすぐ冒険者宿まで送ってくよ、近頃は物騒な話も増えたからな。二人で動いてる方が安心だ」

「そうですね。その方がお互いに」

 カツンかつんと、

 街灯に伸びる、二つの影が硬い舗装された地面を歩く歩く。

 

ザリ

 

 そんな最中の事である

 

ざっざざざー――…

 

「―――…?」

『腕輪の担い手』

 若葉の少年が首を傾げる。

 違和感があった。『腕輪の担い手』として拓かれた感覚に、引っかかる様な周波数だろう。

 そんな波を雑音(ノイズ)の如く、捕らえた。

 

「なんだ、これ」

―――『元式■導具:鮮■の伝承』

 少年は始めての経験のない電磁波に、戸惑いを言葉にする。

 今も、この『覇濤』の街に溢れる、機械類の生活音の如く小波(さざなみ)とは違う。

 逆にまるで周囲に自身の存在を知らせる様な、そんな自己主張する雑音(ノイズ)である。

 

 歩けど歩けど消えない。いや逆に強くなるだろう。

 まるで追われているような感覚である。

 

 そんな未知の接近に戦の感覚が励起される。

 若葉の少年は愛剣を鞘より静かに引き抜き、両腕の裏に隠しながら、素知らぬ顔で歩く。

 

 

 

「んあ?どうしたんだカイト、こんな所で剣なんて引き抜いて」

「何かくる警戒を」

「え、ああわかった」

『軽巡艤装:探照灯』【強化人間】【自信家】

 その声に応じてメンタルモデルである彼女も、艤装に装備されたアンテナを展開する。

 "探照灯"と呼ばれる、本来海原用の指向性光源に動力を入れた。

 

 それを用いて周囲を一回り照らしても、その耳にも何の反応を見られない。

 

「んー何にも見えないしソナーにもレーダーにも反応はないな、気のせいじゃないか?」

「そんなはずは……?どんどん強くなってる」

「だいじょーぶだって、あたしは耳がいいんだ。暗闇の中だって近づいてくれば―――」

 

 

『―――くすくす、その自信が命取りよ、おバカさぁん」

『元装式魔道具:霧化』【無音殺人】【影を駆け抜ける者】

「なあっ!?」

 勝気な少女を支える確かな自負、それゆえに反応が遅れた。

 それは"霧"、それ故に音などない。更に暗がりに紛れた故に視野での発見が遅れただろう。

 耳元に囁くように至近に響く声に、勝気な少女は石畳を蹴って、ターンを描くように、飛びのいてその砲身を向けようと―――

 

 その所為で、同行者と距離を離れてしまう。

 

「至近、っはぐぁ?!」

【吸血】【渇きの主】【鮮赤の■】

ぐじゅり、

 生々しい音。

 勝気の少女は首元より怖気の後に奔る突き破る様な痛みに、顔を歪めた。

 何かに噛みつかれたのか、この痛みは首元からか、舌で神経を舐め回される。

 それはただの痛みではない。悍ましい感覚、体を継ぎ接ぎされた時とも違う冒涜的な何か―――

 

「はぅ」

じゅるり。

 ぞくりぞくりと神経侵す毒、蕩ける牙、肌を舐める舌が気持チがいイ。 

 吸血鬼、人間の、生物の血を啜ることによって栄養素を選り、時には生命力すらも奪い去る。

 得体のしれないモノに侵されているというのに、体が痺れたように動けない。

 

「―――あっ、ああっうあ」

ビクンっ

 これなるは『吸血鬼の再現』、吸血とは"捕食行為"であり、同族を増やす"生殖行為"である。

 生物の"三大欲求"のうちの二つを"同時"に満たし、『暗黒剣』のように生命力すら啜る。

 泥を啜るような環境に生まれたこの種を、これの作り手は気紛れに、悍ましさを賛美した。

 快楽に、抵抗する意思すら奪う。人間と言う活動的な生物に対して、より効率的に犯し奪う為のそう媚薬()を与えた―――。

 

 天上の快楽の痺れ、頭だけが熱くとろけて、そんな無限に引き延ばされた感覚に。

 

「―――ッっくそ!!」

【双剣技】【魔法剣】【舞武】

 割り込み、それを横合いから銀の剣宣が強引に引きはがすのを、耳が拾う。

 引きはがされる牙に、惚けて痺れた脳にそれでも、反撃せんと力なく砲身を向けようとして、

 その意志に反して犯された余韻に、息が上がり、紅潮する頬、腰砕けに座り込むだろう。

 やはり闇夜に見座失って標準は迷い、定まらない。

 

 そして若葉の少年は、蹲る少女を庇う様に目の前に立ちふさがった。

 

「ンぁ…はぁ……はぁ、っぅうげ、ヤバかった気持ち悪いぃ……、目標喪失(ロスト)迷惑かけた」

「いい、とにかく止血を、それが最優先」

 相変わらず、何の音もしない。

 その襲撃者は、再び闇夜に紛れて消えてしまって片鱗もつかめない。

 

 若葉の少年は、ただただ苛立つを表す様に、独自の呼吸法に火を入れ荒々しく励起する。

 指先に奏でる。音叉の性質を持つ双剣から、調律するように音が響き渡る。

 すると若葉の双剣士の周辺のマナが幾つもの輪が結われるように、引き締まったように感じる。

 

「くそ鈍ってた、訛ってた訛ってた……っ」

【迎撃態勢:平穏不発】【狂羅輪廻】

 夜の帳も、相手の霧に変化する性質も言い訳にならない。

 彼はその予兆を確かに感じ取っていったのだから。

 

「感覚があったのに、予感があった反応が遅れた。なんて間抜けだ……!」

「お、おう。か、カイト……なんか怖いぞ……?」

「そんな事よりとにかく前を、おそらく相手は"格上の怪物"です」

 勝気の少女は明らかに。質が変わった気配と声に、困惑の声漏らすだろう。

 先まで一緒にいた少年と同じとは思えない。平穏とは激しい転調、変質、何処か恐怖を覚える。

 

 忘却を許されない滅びの記憶を根にした偽物の復讐心(イミテーション)

 狂気による戦いの淵に降り立った、敵対者にとって最悪の選択を選び続ける狂戦士。

 本来の気質に合わない狂気、ある種の二面性、これが、若葉の少年の戦士としての顔である。

 しかし、敵対者がいなければスイッチを入らない、最前線を行く『常在戦中』には遠い未熟の証明だ。

 

『元装式魔道具』【エイジング:超絶美形】【■■の金眼】

 彼女のそんな困惑はさておいて。逃れた霧が、闇夜の影に人影が像を結ぶ。

 そこに現れるのは仰々しい機械の翅に、仮面を身に着けた薄い薔薇髪をした女である。

 

「あらぁ居たの坊や。舟娘(メンタルモデル)のおまけと思えば意外といい反応するじゃない」

「霧から声をどこの誰だ。うわさに聞く"港の吸血鬼"とやらか」

「さぁてどうかしらね」

 互いに通わせるつもりのない言葉を投げつけ合う。

 闇に紛れる影の何かは挑発的に、少年はただただ確認するように淡々とである。

 

バリンッ!!

【鮮血の奏者】

 そうやって襲撃者は己に注目を集めて、片手間とばかりに、周囲の街灯が割れた。

 文明の灯が奪われて、更に緊迫する闇夜の空気がさらに冷えるだろう。

 

 そして指に滴る血を啜るように味わう、そんな音が響きわたる。

「いいわぁうっとりしちゃう。私の大好きなあまぁい"処女"の血の味よ、ふふこんな時間に男を連れて歩いてる子がまさか生娘とはねぇ」

「しょ…!?うっさいわ!?いきなり襲ってきてなんだそのセクハラはふざけんな!」

【吸血鬼の如く】【生物幻想(ファンタズム):ブラムストーカー】【罪悪失調症】

 目を凝らす。若葉の少年は陶酔する様ないかれた声に、苛立ちを募らせて。

 睨み合う最中にも細工籠手に指先に滲む、呪印(ウェーブ)の髭犬を模した文字を雑に電子装甲に描いた。

 媒介に『増殖事変』に出会った。とある『忠犬』の艶毛を"祈り"と共に息を吹き込んで放つ。

 

「斬り裂いた、匂いは覚えたね。―――追って」

『忠犬の艶毛』【使役精霊】【呪印術(ウェーブ):象形文字】

 すると幾つもの髭犬の如く焔玉が幾つも並ぶように、少年を周回するように照らすだろう。

 類似例をいうなら"ルーン"、人類の文字はイメージを形録る事で生まれたそれに沿って発達した原始的なアプローチ。

『精霊剣・絆の相刃』【精霊剣士】

 未熟な少年に、短時間で派手な備えなどできない。

 彼専用、効率的なルーン文字など何一つ所持していないがゆえに非効率。

 文字の形にイメージを込めて感応する"象形文字"、これが彼の才覚に依存する精霊術、もはやこれが彼の才能の限界である。

 

―――【魔導文明おじさん】【精霊術Lv4/5】

 この世界には

 科学知識と言う実体のないイメージを、正確に実演する存在もいるのだから。

 それでは足りない。この世界に満ちる理不尽には十分とは言えない、届かない。

 

「くすくすくす初心で可愛らしい反応ね、気分も乗ってきたわ。そこの虫を殺してその子をいただこうかしら」

「ごちゃごちゃと煩い。今叩き斬るからそこから動くな」

 既に襲撃者にとって粋がる若葉の少年など、眼中になかった。

 "舟娘"(メンタルモデル)と言う火薬使いは、それは己を滅ぼしうる火力を用いる事は把握している。

 しかし、この暗がりはもはや彼女の領域なのだから。

 しかし在野の冒険者などに容易に滅ぼされはしない。己はもはや神話の怪物であるという矜持である。

 

 

 言葉の影に誘導して、密かに暗幕に隠れて背後にその牙の影を忍び込まして。

 

「怖い怖い。―――でも、もうさようならよ」

『元式魔導具:霧化』【鮮血の一撃:ブラッディピアース】【無音殺人】

 再び至近に嘲笑う。

 霧である為に音による感知は不能、自在に光源を潜る為、目視での感知は不可能だった。

 周囲を回る焔玉程度の灯では、圧倒的な夜の闇は塗りつぶせはしない。

 

 襲撃者は笑う。この状況こそ必殺空間(キリングフィールド)である。

 近くに活動していた『覇濤』においてのお決まりの必勝手段、偶然は何度も続きはしない。

 

 再び背後に実体化し、振るわれる鮮血で形とられた細杭が振るわれ―――

 

「!」

『腕輪の担い手』【魔法剣Lv2/5:炎舞の刃】【狂羅輪廻】

かキィイ!

 しかし、その未来予想を反してその細杭は、身を捩り躱され弾かれた。

 返しに閃くのは空中のマナとの抵抗に愛剣を擦り合わせて、一所為による魔法剣である。

 

 

 愛剣の感覚器の延長に、大まかな方向は"使役精霊"が何となしに追ってくれている。

 そこから派生する響き渡る金属破音、数瞬に交差し合う迫撃の如く斬りきり舞い。

 そして仕切り直しに襲撃者は霧化して逃れる最中、如くに連鎖した斬撃に、十字に引き裂いた。

 その代償に、その血の杭が肩に突き刺さり、疵を焼き潰して応急処置とする。

 

 その攻防に距離が開く、影は霧は再び闇夜に消える。

 

「へぇまぐれじゃないみたいねぇ。闇に紛れた私に反応するなんて」

「……手ごたえがない、精霊化でもない。こう実体がないものは動きを読まれれば斬れないのか」

 少年が呟く、その腕には手ごたえがない。精霊を汚した時のような感覚もない。

 おそらくは斬撃を予測して、斬られる前に形を変え"避けた"。つまりは効いていないのだろう。

 若葉の少年は、動きを読まれている事もそうだが、虚空さえも切り裂く剣など習得していない。実態を掴む剣には片鱗すら至っていない。

 

 故に未熟もいい所、悪態をつく。

 

「どういう理屈かわからないけど、勘がいいのかしら坊や?」

「錆び臭いんだよ"吸血鬼"、鼻がよければ誰でも気が付く醜鬼が」

「……へぇ?」

 嘘だ。彼が挑発的に投げつけたプラフに、ただ襲撃者の声が冷えた。

 タゲ取り、この場で反応できるのは己だけ、しかし第六感に導かれて遠近の感覚しかない。

 目標を分散されれば、対処は不可能であるのだから。

 

「うふ、うふふふ。このあたしが"醜鬼"ねぇ言ってくれるじゃない」

『元装式魔導具』【吸血鬼の如く】【串刺し乙女】

 しかし、その挑発は覿面であったらしい。

 確実に殺す為、剣士相手の接近戦を避け、嬲り殺す為の準備をするだろう。

 

バキリバキリと鳴る。

 

 怒気と供に視界の影に映るのは、石畳をも巻き込んで、幾多幾重もの血杭包囲する光景である

 

「アンタは針串刺しの刑よ。己の血で喉を潤しながら後悔しながら死になさぁい!」

【鮮血の奏者】【破壊の血】【ブラッドスパイク】=【串刺し令嬢】(ブラッディインペィル)

 剣士の両の手に余るその物量、魔具に強化された生物的な機能に現れるマナ由来ではない物量。

 液体混じり杭であるゆえに炎には、重たく払い難い風穴となる死の弾丸である。

 

「っ」

 当然に反応する。しかし闇夜に全貌はつかめない。

 故に若葉の双剣士は、被弾を抑える為、姿勢を低く獣の構えに包囲を駆けださんとして。

 

「―――任せろ、こんどは音を拾った。全部撃ち落としてやる」

『軽装艤装:クリーブランド』【ガンズマスタリー】【対空配置:撃ち落とし】

 勝気の少女が割り込む、音を頼りに、重々しく背に負った艤装の砲身を向けて。

 

目標補足(ロック)、全砲門ファイアァ!!」

ドォオオン!!

 大口径の3連装砲二門、小口径の2連装砲。装填に時間のかかる主力火力。

 それから放たれる砲撃は、寸分たがわぬ精度で血杭をぶち抜き散らして、一掃する。

 夜闇を切り裂く轟音である。

 砲撃の花火が咲き誇る、そして白夜のごとく瞬間的に周囲が明るく焼き付くだろう。

 

「ビンゴ!こんだけの轟音なら巡回中の"眷属"が来るはずだ」

 この襲撃者は、『覇濤』の舟娘(メンタルモデル)の仕事であり領分であるだろう。

 同行者は、いや"友達"は己が責務に変えて無事に返す。首の痛みを堪えて、そう気合を入れて。

 

「やっと体に力が入ってきた。後は任せろ。あたしが弾幕で時間を稼げば助けが―――」

「いや、一瞬だけど全部見えた」

【ファストアクション】【超俊足】【狂羅輪廻】

 砕ける石畳だったものが舞い、火薬に煙る中。

バッ!

 勝気の少女の言葉を無視して、双剣士は躊躇もなく間髪入れずに煙を突き破って。

 一瞬の炸薬に空に焼き付いた影を追って、距離を詰めにかかったのである。

 

「ばっ、なんで突っ込んでんだ!?」

「音があれば、これを追えるのでしょう!ぼくが詰めますその間にこの怪物を焼き尽くして!」

「やれるか!砲撃だぞ、下手すれば巻き込む馬鹿!阿保!!」

 迫撃に連鎖する。

 先に剣に引き裂いた感覚に、闇夜に目立つ焔剣では読まれて変化を間に合わせて躱される。

 必要なのは斬撃の線ではなく面だ。火力が足りない、だからある所に頼る。

 故に拍子に音に、また暗夜に居場所を示すだけ逃れない様に拘束するだけの突撃である。

 

バギャン!!

 

「斬る前に形を変えられて躱されてる。剣じゃ分が悪い、それでいい!」

「良い訳あるか論外だ、このお馬鹿!」 

【魔法剣】【舞武】【ダンシングヒーロー】

 勝気な少女が、抗議の声を上げるが気にも留めずに舞の中に迫撃が続く。

 彼は薄い氷の上を踊る狂戦士、自身の命より敵対者の最悪を選んでどちらが踏み外すまで踊る。

 一瞬、一瞬だけでも勝機を捉えれば彼にとって身を投げ出すには、それで充分なのだから。

 

双剣が奔る、舞の所為に連鎖する。体技に滑るように迫る。

 斬撃を霧がのらりくらりと躱して時に実体化した杭に牙に、身を引き裂かれなお進むだろう。

 数瞬、迫撃、金属音が鳴り響く。

 霧となり逃れれば、手に負えない事は先に理解した。それでも。

 

ギャリ……!!

 火花咲いて、火花散って、毛色の違う鮮血と紅蓮が競り合い、散りじりに。

 

「うっざ、少しは怯みなさいよ!?随分と粋がるわねぇ……っ!いいわ串刺しにしてあげる!!」

【血の宴】【鮮血の一撃:ブラッディピアース】【串刺し乙女】

 襲撃者はしつこさに舌打ちしながら、血の支配者として血液を操り杭を牙を作り出して。

 範囲を削り取り貫き殺そうとする。

 

 しかし、若葉の双剣士は、身をかがめて迫りくる血の牙を認識しながら只管に前進する。

 使役精霊に匂いを負わせて、腕輪の担い手としての第六感の導きに従って。

 

 幾多の交差の中、吸血鬼は、とある確信をもって呟いた。

 

「ったく何でこんな"同類"(・・・・・・・・)が、こんな所で行儀よく"憲兵"の真似事してくるのかしらぁ?!」

【狂羅輪廻】

 流石に半実体化では力を出し切れない。

 ただの血の支配者の範疇では殺し切れない、時間がかかるらしい。その程度には厄介である。

 生意気に苛立つ、当然だ、目の前の御馳走を不意にされているのだから。

 

 勝気な少女は、その光景を歯がゆく見守りながら。

 

「だー!ほんとお前なぁ!しゃーないからあたしが"併せる"までちゃんと耐えろよな!?」

【強化人間】【裡の海メトローム】【パッション・テンポ】

 そういわれても"友達"を巻き込むわけにはいかない。巻き込みたくない。

ズンダッ……トン……♪

 繰り広げられる迫撃のリズムを耳に拾って、石畳を踏んでリズムを合わせる。

 彼女の世界、自身の中に溢れる心音(パッション)を中心にして周囲を測る、次を予想する衝突の空白を測る。

 

 それは若葉の双剣士と重なり合うステップに、鼻歌へと変わって。

 

「ふん、ふんふん。とった―――♪」

 宣言、勝気な少女は自身に満ちて笑う。

 だから、合わせるのが初めての相手もそのリズムに拍子を併せれば―――

 

「ここだ。強襲指令(フォルテシモ)♪」

―――ズガァン!!

 そしてその砲撃は、見事な双剣士が息を入れるわずかな差し込み、タイミングで突き刺さった。

 完璧なタイミング、モーメントによる誘導炸裂弾、血霧と化したソレを火薬の華に焼ける。

 

『軽装艤装:時限信管』【強襲指令:μ兵装仕様】【自信家】

 

 即席の連携とは思えない程に完璧な横やりである。

 偶然か、舞武を主体とする彼と、自身の心音にて世界を測る彼女はどこかに通ったアプローチを根に持っていた。

 合理的に継承された武理を持たない師を持たない。

 それでも身を研ぎ澄ませる彼らに発生しうる、全ての技術に繋がる"譜面"(波長・リズム)という方法論である。

 

「へへーん、どうだやり返してやったぞセクハラ女が!」

「……前衛との間をこの距離で精確にっ、正気かしら、やってくれるわねぇ」

【吸血鬼の如く】

 実体化する、焼かれた顔と腕の疵を庇いながら、この怪物に対する初めての有効打である。

 その表情にもはや余裕は消えた。

 

 この狂人を1秒でも多く相手すれば、空想上の怪物の具現である己が討たれかねない。

 事前調査に、艤装を装備した舟娘(メンタルモデル)が、初めからそれだけの火力を持っている事は知っていた。

 

「で、弱り目に立ち止まればその間に」

ザッ!

「そう来るわよねぇ、"ご同類"(・・・・・・・・)

【魔法剣Lv2/5:爆双竜刃】【ダンシングヒーロー】【狂羅輪廻】

 呼吸の一拍にもなった。視界の端に。潜り混む様な威力重視の焔の双剣が映るだろう。

 迫撃戦の中に有効打なく身を削られながらも、相手の最悪を優先し今なら斬れると、とことん距離を詰めてきたらしい。

 

 私たちはそういう習性の"同類"である。理解した、理解している。

 もはや遊びの入る余地のない窮地、頭が冷える。 

 

「しかたないわ。後ろから撃たせて(フレンドリーファイアで)あの子の心を屈服させてあげたかったのだけど―――」

【レイピアマスタリー】【技剣:見切り】【串刺し乙女】

 初めて披露する怪物ではなく人としての技巧、鮮血細工のレイピアを精製し、応戦する。

 幸いな事に、迫り来る双剣は対人剣技において、突出したものではないおそらく獣狩りの剣だ。

 しかし、大砲の標準もまだこちらを追っているだろう。装填が終わればまたぶち込まれる。

 

 故に損切する。

 

「あたしを見なさい、"偉大なる血の主が命じる"」

「なにを―――」

【吸血鬼の如く】【鮮赤の牙】【魅了の金眼】

 仮面越しにその妖しい黄金の目を見開いて。

 

「"その砲火をもって、主の敵を撃て"」

ドクンッ!

 その"言霊"に、勝気の少女が"血が疼く"指先がぶれる。

 意志に反して、黄金瞳を魅入る思考に脳が惚けて、相乗効果で先の快楽経験に身体の方が反応する。

 それは吸血鬼にとっての生殖行為、己を頂点とした血の血族に対する隷属能力。

 

「!?」

 "標準"がずれて味方であるはずの若葉の双剣士へ―――

 

「ふ・ざ・け・んな!!」

【自信家】【お姉ちゃんの矜持:気合】

 筋肉を引き締めて動きを硬直させる。

 そして勝気の少女が叫ぶ、魂から己の体に所有権を主張して喝を入れ、命令を気合ではじいた。

 

「うふふ、不意を打ってもやっぱりさっきのじゃ毒の量が足りないわよねぇ」

 ただ、それは無理な随意運動、そもそもに肉体を固める為の動きである。

 すぐには動けないだろう。

 

「でもそれだけの隙があれば十分よ」

「―――!」

パリィ!

『元装式魔道具』【技剣:薔薇の鮮血花(ディーンストメッヒェン)】【狂羅輪廻】

 襲撃者は迫る炎剣に、相手を見すらせず、捌くような血のレイピアの捩じれをもって受け流した。

 凝固した血の刀身は"しならない"。凝固の度合いが自在であるという事を除けば。

 まさに杭を振るうようなもの。そう迫撃に打ち合う中に示した、その偽装を解いてのパリィである。

 

「まだ、届けぇ!!」

『腕輪の担い手』【舞武】【黒薔薇の加護】

 しかし"同類"の双剣使いだ。予想外に後ろに重心に。

 それでもどういう訳か虚空を、"踏みしめて"蹴り刃を前に前進に連撃が来る。

 単純に遠心に炎刃を振りまわして。

 

 しかし吸血鬼が反しが速い。鮮血の捻じれに弾いた先に

 あらゆる剣技において、例外なく最速の"突き"の動作を叩き込む。

 杭振るい見過ち先、容易に踏み込んだ先にある薔薇の一刺し、そう言う技巧の剣である。

 

 交差する衝突の結果は。

 

「………つぅ」

「っち急所を外した。ほんと厄介な坊やね」

……カラン。

 勢いを削がれた、その血のレイピアは刃先を折られた脚に突き刺さるにとどまった。

 対して吸血鬼は仮面を割られて地面に落ちる。

 痛み分けに吸血鬼は欲張らない再び闇夜に霧に紛れて、その場を離脱するだろう。

 

 再び訪れた闇夜の静寂の中。

 

「―――あら、男の子の割に濃い味の血。じゃあね"ご同類"(・・・・・・・)♪もう会う事はないだろうけど」

『元装式魔道具:霧化』【影を駆け抜ける者】

 そういう冷笑を遺して。

 

 暗幕に、冷たさとの静寂が戻るだろう。

 

「……ぅ、ごめん。せっかくのチャンスを不意にして取り逃がした」

「いい。もともと諸共のつもりだったのに、ぼくの勝手に合わせてくれた助かりました」

 勝気の少女は、追撃を併せられずに逃してしまったことを。

 若葉の少年は、呼吸法に深呼吸、荒ぶるオドが自分を疵付けぬように残心の所為に鎮める。

 務めて、腑抜けて己への自己暗示である。

 

「成果はあります。神出鬼没の"港の吸血鬼"顔を覚えました。さっきみたいに闇夜に紛れて襲ってた。きっと憲兵に伝えればもう派手には動けない」

 

 チリチリチリと、弾けるような高音と供に焔が、夜の空気に溶けてていくだろう。

 

「て、ていうか。そんな事よりさ。カイト、首やられたあたしより怪我が酷くないか……?」

「ん?大丈夫、骨も大事な血管も斬られてない。こんなの軽傷の類です」

「んな訳あるか!そんな自分で疵焼いて火傷だらけにして、ほんと大馬鹿だな!?こっちこい!」

【おねえちゃんの矜持】【世話焼き】

 勝気の少女は、ぐいっと強引に腕を引寄せて。

 舟娘(メンタルモデル)に支給される。火傷の応急処置用の冷却パッチを、疵口にペタペタ張り付けただろう。

 彼はオドの経絡の火照りも相まって、何処かそれがくすぐったくて眉を顰める。

 

「ぅ……冷たくて。くすぐたい」

「まったくもー、仕方ないな。外の冒険者って奴はみんなそうなのか」

「"戦闘特化"なら、似たような感じだと思う。ぼくらは賢くない生き方してますけど」

「そんなん治せ!こんな事ばっかしてたら死んじまうだろ。悪い癖だぞ」

【聖錬冒険者】

 若葉の少年は、ここ最近に何度死にかけたかわからない、そんな修羅場の経験に呟くだろう。

 もちろんそんな事はない。基本、彼らが生き急いでいるだけである。

 彼は呼吸に死力を振り絞る感覚に慣れ過ぎて、感覚が盛大に麻痺しているのである。

 

「―――オ?お?」

「お、やっと来たか"眷属"の随分と時間がかかったな。遅いぞもう、やばかったんだからな」

『水妖霊(ウィンディーネ):チ級』【海魔柱:眷属】【水中潜航】

ぷかぁ。

 そんなこんだにやっとこさ、水路より騒ぎを感知したらしい『眷属』が浮上し現れる。

 その数、五人。

 どうやら、この不安定なご時世に、最大限の集団を形成して動いているらしい。

 それが遅れた理由かもしれない。

 

「おっ、お!おぅ!」

「わかってる。今説明する実は―――」

 眷属の言葉がわからない。説明は同行者に任せて。

 街灯の光に隠されていた夜空の星を見上げて、独り言る。

 

(―――敵がいる、敵がいる。こんな近くに敵がいた、きっと奪われる。その前に)

【狂羅輪廻】

 若葉の少年は、息が詰まる息が詰まる、そんな感覚に呟いて。

 その平穏に緩んでいたネジを、今の己がどういう生き物であるかを思い出すだろう。

 

 覇濤首国クトゥルーが一角、"セレクティブ"における事変の一頁。

 その始まりの襲撃であった。

 

 

 




一時的な非公開、申し訳ありません。

開示いただいた正しい設定に適応しようとして、
書き直しが発生するかもとの処置でしたが。
結局、作者の文章カラテ不足でできず当初のプロットで進める事と相成りました。

お騒がせして大変申し訳ありません。ほんと文章カラテ足らない……。


『原式装魔具:鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)
 元ネタFate
概要:過去における始まりの魔術師"エジソン・アシモフ"が
   作り出したとされる規格外魔具の一つ。
機能としては使い手の肉体を『空想上の吸血鬼』に適応する。
   大体、使い手をピュア「ブラム・ストーカー」としての能力を与え
   限界まで引き出す魔具。

   泥を啜る環境から生まれた吸血種。
   その中でも『吸血』と"生殖行為と"捕食行為"を併せ持つ歪な行為に
   生命の悍ましさを見出して設計されたと思われる。
   空想上の怪物である為、実際の吸血鬼と言うより怪物的(ファンタズム)な存在として
   使い手は猛威を振るうだろう。
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