ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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傭兵【運命の預言盤】

 

【覇濤:セレクティブ】

 

 襲撃の夜の翌日。 

 

 しかし打って変わって、いつも通りの日常が回る『覇濤』の景色が流れている。

 その裏路地を潜った先にある空き家の中、そこに潜む一つの影が蠢いた。

 その影は陽の光を避けた暗がりの中、霧はそこに迷い込んで輪郭を纏うだろう。

 

「いっつぅ、火薬で霊体情報が焼かれてる。すぐに完治とはいかないか」

【エイジング】【不死者の恩寵】

 そこに身を隠すのは先日の襲撃者、ウェーブのかかった薄い薔薇色髪を流した吸血鬼である。

 砲撃に焼き払われた片腕を血の外装に庇いながらも、それでも痛みに顰める。

 覇濤の下層町、使われていない空き家、籠った埃臭い空気、そこから顔を出して外を伺った。

 

 こんなこそこそと身を隠すのは、先に交戦した双剣士のせいである。

 

「―――ここまで身を潜めて待っても周囲に反応ない。どうやら、付けられてはいないようねぇ」

【影を駆け抜ける者】【傭兵】

 夜霧に紛れた己に対する感知方法が不明だった。

 そう、普通ならば夜霧に紛れれば己を追う事など不可能だった。

 感知の手段が未知ゆえに、距離関係なく感知できる可能性を否定できなかったのである。

 

 例えば、それが可能であれば確実に追ってくるだろう、相手は"同類"であるその位は察せられる。

 

「なんだったのかしら。まさか、在野の冒険者が『原式魔装具』を感知する道具なんて持ってるわけないわよねぇ……」

 吸血鬼の女は、どうやら己の牙である『原式魔装具』には―――

 "お互い"に使い手に知らせるクソッタレの機能がある事は知っている。

 しかし、それを所持できるのは解体し、技術を還元する"企業"を背景にもつ"猟犬"たちだ。

 そんなもの、在野にあっても何の役にも立ちはしないのだから。

 

""キィキィ!""

 監視目的に、自身の血を分け作り出した"蝙蝠"の使い魔を、呼び寄せて衣に吸収する。

 薄くローブの下に血の霧を纏って建物の外へと繰り出すだろう。

 

「まったくなんでこのあたしが、こんな窮屈な思いしなきゃならないのかしら」

『元式装魔導具:鮮血の伝承』(レジェンド・オブ・ドラキュラ)

 吸血鬼の女は不満に噛み潰すような表情に、女は呟くだろう。

 傭兵としての流儀として、己の不始末は己で処理しなくてはならない。

 それができない傭兵なぞ必要ない。万一に付けられて、合流場所を割られるのが最悪である。

 だから何の関係のない場所に、しばらくの間、身を潜めていたのだった。

 

 素知らぬ顔で、深々とローブを纏い揺らして路地を歩くだろう。

「あっつ」

 厚い血の衣を纏うには普段に目立ちすぎる。

 陽光は苦手であった、直接浴びればどこか調子が悪くなる。

 彼女はもはや陽の光に拒否されるそういう怪物である。

 

 周りを歩く人々に食欲が、性欲が疼く。

 歩く、『覇濤』セレクティブの喧騒はうっとうしく、そして甘美な血袋の群れである。

 

 それを見て機嫌が上向く、胸がざわめいて笑いを堪える。

 事態が起こってしまえば、幾らでもこれから己の狩場となる場所なのだから。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

―――『ロスリックの酒場』

 

 そして吸血鬼の女が辿り着いたのは、

 そこは一見、何の変哲もない寂れた辺鄙な酒場のような場所だった。

 

カランカラン。

 そのちんけで寂れた戸を開ければ、来客を告げるベルが鳴るだろう。

 

「へい、いらっしゃい!」

 手慣れた様子にコップを拭きながら。

 黒髪を短くまとめたオールバック、無精ひげを湛えた中年男性の声が聞こえた。

 今まさにへらへらと気安い愛想笑いを浮かべた、どこにでもいる様なそんな酒場の店主である。

 

「お客さん、こんな真昼間から酒場に来るなんて景気がいいねぇ羨ましい!」

「はいはい。そーゆうのいいから、あたしは疲れてるの手早くして頂戴」

『割符』

 懐から事前に定めた"符牒"の通りに、罅割れ半分に分かれ硬貨を取り出す。

 

「……ふん、"そっち"のお客さんか、奥の部屋を使いな。すでに先客が何人かいる」

『傭兵国家の仲介者』(グレンダンブローカー)【潜伏するもの】(スパイ)【変装術】

 その示された符丁に、すると男の安い笑みは途端に冷えるだろう。

 ここにいるのは傭兵たちに、依頼人からの依頼(オーダー)を伝えるそういう役回りの仲介者(ブローカー)である。

 

 つまり彼は『傭兵国家グレンダン』における情報収集、営業担当だった。

 聖錬各地に戦の匂いに惹かれ、そういう潜伏する伝手であり潜伏者(スパイ)であり、暴力装置共の仲介手(ブローカー)である。

 

 示された資格に、指さして案内を通して。

 

 吸血鬼の女は、酒場の奥の個室の扉を開いた。

 そこにあるのは強烈な血臭の燻りを纏った、五つの人影である。

 

【【【血染めの衣】】】

 それぞれの名前など知らない。ここではコードネームで呼び合う。

 互いの仕事に、後腐れがないように自然とそれが決まりとなっている。

 

 現在、『覇濤』がセレクティブにて依頼(オーダー)の真意を聞かされる主戦力だった。

 

 その誰もが度重なる殺戮によって得た類い稀な殺人技巧者。

 人を殺すことをもはや作業、どれだけ殺したのか数えすらしないだろう。そういう殺戮者達である。

 

「戻ったか、その疵……取り繕っているが、下手を打ったか"クルースニク"」

「……っち、見ればわかるでしょ"ホワイト"。外れを引いたわ。身のほど知らずはほんと何処にでもいるものね」

【■騎士:覚醒者】【冷静沈着】【鑑定眼】

 まず声に出したのが硬派なコートを身に纏った"ホワイト"と呼ばれた白髪黒肌の男。

 冷え切った左目に大きく刻まれた血の跡疵の如くタトゥー、得物の弓を壁に立て掛けるだろう。

 

 あっさりと"血の支配者"として、取り繕った疵を看破された事に苛立ち舌打ちしながら返した。

 

「くすくすくす、あんさん夜霧に紛れる楽な仕事だっていい放ってましたやん。それがこの様ですのだらしがないわぁ」

「あらぁ?ならあんたがやってみる"ヒナゲシ"、そんな男に媚びた目立つ格好で人に見られる事が好きなアバズレが」

【誅殺メイド】【ツジキリスト】【和洋折衷】

 ゆっくりとした媚びる様な声、それでいて神経を逆なでするような甘ったるい声に笑う。

 侍女の如く和装振袖割烹着にスカート、更に洋風のブーツというアンバランスな主張の様相。

 そんなとにかく目立つ衣装を纏った女である。

 

「ウフフ、アハもしかしたらもしかしたらぁ?今ならあんさんの事、斬れるかもねぇ」

「あ、やる気?」

【鬼蹴仏断】

【生物幻想(ファンタズム):ブラムストーカー】

 その挑発に、和洋折衷の女中が刀に手を掛けて唾を鳴らして。

 吸血鬼がその纏った血の衣を変化させて、血の支配者としての容貌をチラつかせる。

 

―――""ガチャ…っ!!""

 しかし緊迫した空気に冷たく、斬鉄を引く音が複数響くだろう。

 多数の銃口の射線が重なる。

「くだんねぇやめろやこんな所で騒ぎ起こすな。仕事前にくそ面倒だ」

「ここでの騒ぎは経緯に意味はなイ。先に得物を抜けばここにいる全員が敵に回る。それを忘れるナ」

【円卓のエース】【機巧操り】(ギア・ドライバー)【歴戦の人生】

『特殊弾薬:銀の弾丸』【精鋭射手】【デットアイ】

 ただ共通して、心底めんどくさそうに牽制目的に銃を向ける。

 粗野な風貌、オールバックと無精髭、行儀悪くソファに足かけて気だるげにタバコを吹かす男と。

 いかにも軍人染みて覆面を身に着けて、先まで銃の整備をしていた淡々と話す男である。

 

「ふふ、冗談。冗談ですわ。こうついね」

「はーっ、あたしウザ絡みされただけなんですけど?とんだ濡れ衣だわ」

 その警告に、刀を抑えて、血の衣が収まり、互いに戦闘態勢を解くだろう。

 それはそれとして、彼ら『傭兵』は仕事の為に協力はすれど慣れ合う、仲良くする気はない。

 狂人が狂人を好く理屈は必ずしもない。互いに自分を棚に上げ、どうしようもない奴だと思っている。

 

 暴力を信条とし傭兵と呼ばれる人種の中でも、そんな性格破綻者が多すぎた。

 

 そして思い思いに距離を取って、警戒しながら椅子に座るだろう。

 彼らは共通の依頼を受けている。それは末席であっても仮に"聖錬の王子"の背後にいる話だ。

 故に『傭兵国家グレンダン』の肝いりである案件である。

 国同士の戦争に匹敵する大きな依頼(オーダー)、互いに情報は命であることは知っている。

 

「―――さて、物騒な挨拶も済んだことだ。ここからは互いに報告といこうか」

【指揮隊長】【冷静沈着】【鑑定眼】

 そしてこの各々にエゴの強い傭兵たちを仕切る様に切り出したのは、白髪黒肌の男だ。

 彼は唯一"魔族の治世の否定"という、この治乱騒ぎの目的に肯定的な傭兵である。

 故に依頼人の受けがいい。面倒なうえに角が立ちかねない為、他の面々は沈黙を保つだろう。

 

「はーい、"ヒナゲシ"の情勢調査、不安の流布は平穏そのものですわぁ『魔王』の尻尾の癖に"眷属"って存在が『覇濤』全体に根付いている。多少の風評じゃ小動もしませんわ」

【探索者Lv3/5】【和洋折衷】【ミュンヒハウゼン】

 注目を集める様に侍女然とした甘くゆったりした調子で女が話す。

 依頼人の目的にそって、彼女は『覇濤』における"情報操作"を担当していた。

 微かな混乱でも、それに乗じるのは流れとなる。正直に成果はほとんど出ていないが、巌に穴をあけるには水滴を流し続けるしかない。

 

「依頼人からの『魔族』の仕業と見せかけた"吸血鬼"騒ぎだって、誰かさんが不甲斐ないせいで不十分でしょうしね」

「うっさいわねぇ……普通数人かどわかす時点で大騒ぎでしょうよ」

 吸血鬼の女が舌打ちをする。

 観光都市である、情勢の不安はそのまま『覇濤』の街の活気に景気に影響を与える。

 この騒ぎ事態が、情報隠蔽で隠されている節がどこかあった。

 

「しかし、逆に言えば平和ボケしているといえる、多少不穏な噂があろうといずれ"戦舟"(メンタルモデル)や"眷属"が解決くれると信じているのだろう。まったく聖錬の街では考えられんな」

「ついでに。『クルースニク』"魔人"に対する悪い噂の流布ついでに、"眷属"にあたしの血を仕込むのは順調だったわ。もう"起爆剤"として十分な数がいると思うわよぉ」

【吸血鬼の如く】【鮮赤の牙】 

 そして気だるそうに吸血鬼の女が補足する。

 既に一月の間活動していた、襲撃した"眷属"の数も多数に上るだろう。その全てが"起爆剤"となる。

 吸血鬼としての血の眷属、繁殖の延長上にある専属能力である。

 

「なるほどな。いつでも混乱を事は起こせるという事か、なら主力はどうだ」

「ああ゛、俺らの機巧隊(ギア)だろ。直属の部隊は船荷に隠して隠蔽した。それぞれに運送経路とタイミングを調整して、決行日に重ねる様に『グレンダン』の氏族連中が手配したらしいぜ」

『円卓の機巧隊』(ラウンズナイツ)【小隊長】【スリルジャンキー】

 無遠慮にタバコを吹かしながら無精髭の男が反応する。

 その言葉の通り、数がなければ話にならない。事を運ぶ主力は無精髭の男の率いる機巧(ギア)隊である。

 

 『聖錬』北部にて、『円卓戦争』と呼ばれる"隔離領域"がある。

 普段に生物の生存すら許されない属性災害の嵐が吹き荒れる危険地帯―――

 しかしその嵐が収まる半年の安定期に、数十年に一度解放される、特大の資源地帯である。

 普段に無尽蔵に吹き荒れるそれの沈着したマナが結晶化したそれは、

 その平地という膨大な採掘面積から、『聖錬』全土数年分の必要魔晶石が賄えるとそう言わている。

 

 故に『円卓』の開幕とならば、その限られた周辺国はそれはもう狂ったように奪い合う。

 基地を立て、傭兵を集めて、その自国の開拓領域を、より手付かずの採掘地を求め最奥へと。

 そういう場所だった。

 

「それで少なくとも"中隊規模"を動かせるように手配済み、途中でとっ捕まる様な間抜けは、"円卓"でも死ぬだろう。そんなんいらねぇ」

 『魔具』が普及した今のこの世相は、コストが高い機巧繰りに厳しい。

 しかし、属性汚染が著しいこの場所では汚染帯でも長時間活動できる、鋼の巨人が重宝される。

 それはもうゴロゴロと死ぬ。それでも相応の歓待に戦場に夢を見る機巧隊は珍しくない。

 機巧操りたちにとっては引き換えに、傭兵らしい刹那的な生き方が赦されるそんな"楽園"である。

 

『円卓の機巧隊』(ラウンズナイツ)か。本気らしいな氏族の連中は、『覇濤』を牛耳る傭兵ギルド『赤頭巾』からシェアを奪うチャンスだと本気で考えてる」

「そんなの知らねぇよ。俺ら部隊は次の『円卓』の開幕まで、休暇のつもりでここにきたんだ。上の連中の思惑なんて、それこそ知ったこっちゃねぇ暇つぶし適度に暴れられればそれでいい」

【エース】【体は闘争を求める】【スリルジャンキー】

 吸い終えたタバコを灰皿に潰して。

 円卓の戦場を体験した彼にとって、平時は苦痛でしかない。十数年のインターバルは長すぎる。

 身体は戦場を離れた瞬間無惨に死ぬ、そう言うロクデナシそれが彼である。

 

 

 

 またそれとは別にして、数の話とならば。

 

「わーすごい頼もしいわぁ。依頼人とは別に褒賞を用意している力の入れ具合やものねぇ!数と言えば、使えるんですの?最近グレンダンに流れてきたお上りさん達?」

「大半がダメだなありゃ、"前金"に舞い上がって覇濤の娼館に欲望任せに散財してやがる。長生きしないタイプだ。使い捨ての肉壁だな」

「そりゃ調教するのも手間やわ。目の前の餌に食いつく力だけある子ブタちゃんたち、精々派手に散ってもらいましょか」

【カオティックPK】

 彼等の話に上がったお上りさんとは、近年『聖錬』で発生している『カオティックPK』、

 近頃、聖錬にて騒がれてる魔導文明の量産品に近しき、出土不明の魔具の使い手の総称だ。

 大概に頭を茹でらせ、自己欲求を拗らせた彼らは、振る舞いにより居場所をなくし社会のより暗い部分に流れた。

 

 それぞれが数合わせ賑やかし役、この依頼(オーダー)の目的を知らされてすらいない。

 ただ魔具に適合し、先鋭化したその暴力は本物だ。

 傭兵家業は自己責任、その建前に繰り出される使い捨て花火連中である。

 

「………事が起きれば俺等"ライン"小隊は出来る限り高所から、"舟娘"(メンタルモデル)を無効化すル。依頼人は出来るだけ残せト、機械化した"舟娘"(メンタルモデル)は足をやられた程度なら、すぐ治るらしイ」

「便利なものねぇ、 舟娘(メンタルモデル)は美女揃いでほんと拷問しがいがあるっていうのに、今からでもその役目変わってくれないかしら?」

「言ってろサド女、俺の仕事の邪魔するな打ち抜くゾ」

 

 各々に確認が終わり、多少に、各々に考え空白が流れる。

 傭兵として、それぞれのこの治乱騒ぎ事態の距離の取り方を測っているのだろう。 

 

 そんな空白の中。

 

ガタン!

 

 その膠着を破る様に、新たに勢いよく扉が開かれた。

 踏み入れるのは、分度器の如く鍔が特徴的な突剣二刀を腰に据えた。

 手入れを忘れたような跳ね返り銀髪を流し、黒コートとショートパンツを纏った獣人の女。

 そんな逸れ狼である。

 

「やあやあ皆お揃いだね。おや"クルースニク"がいるのは珍しいじゃないか」

「げぇ、"ラップランド"依頼人の護衛はどうしたのよ」

【獣人:人狼種】(ウルフ)【双剣使い】【酔翁の意】

 顰めた顔を気にせず、ご機嫌にステップを踏んで抜き身の剣のまま―――

 歩み寄る。

 部屋のど真ん中、視線の集まる机の上に、足を組んで挑発的に腰を掛けただろう。

 

「その依頼人からの命令(オーダー)だよ。時は迫っている随分と心配している訳さ」

 笑いながらも礼儀正しく、それでいて相手の反応を虎視眈々を伺う仕草である。

 しかし友好的な笑顔に覗かせるギザギザの歯は、いつでも嚙み千切ってやると言わんばかりだ。

 

『ネイキッドソード』【処刑人】【迎撃態勢:逸れ狼】

 そう、耳をご機嫌に揺らす。彼女の所為は、いちいち傭兵たち全てに対して挑発的である。

 ショートパンツ、彼女の素肌の足に、抜き身の刃をマウントしているのは危険だろう。

 素直に鞘に納めればいいのに、ただ抜けば殺せるという利点だけで、それを見せびらかしているのだ。

 それは挑発的でなくてなんというのか。

 

「ふん、見ての通りだ各々やるだけダ。そう戻って報告するがいサ」

「ッケ、プラプラとみっともなく抜き身の突剣を見せびらかしやがって、古き傭兵氏族『サルッツオ』はもう滅んだ。好き勝手振舞えると思うな"御令嬢"」

「ふふ、ひひ、あはははは!久々にその名前を聞くよ。覚えている傭兵もいるんだ!君は相当な古株なんだね!」

 無精ひげの男の言葉に、心底おかしく愉快そうに笑う。懐かしそうに目を細めた。

 滅んだ家族(ファミリー)に対する侮蔑。まるで独り立ちできてない様な"御令嬢"と言う詐称。

 自身の腕を売る傭兵、本来なら怒るべき場面だろう。

 なのに、笑う。心底おかしそうに笑う。感情の出力が何処か狂っていた。

 

 そもそも、彼女は"コードネーム"を名乗らない。

 そんなもので、己の本性は化粧されないと知っているかのように。

 

「そうさ。没落した古き『サルッツオ』だからこそ、ぼくほど生粋の傭兵はいない。とにかく続けてくれていいよ。ボクはありのまま聞いてるだけさ」

「……ふん、まぁいい。お互いに邪魔しない限りな」

【元傭兵一門】(ファミリー)【破■願望】

 その友好的な振る舞いが、何もかもが何処か不気味だろう。

 故に、彼女の本人の友好的な態度に反して、誰からも距離を取られているそういう狂人である。

 

「まぁそこの空気を読めない女は放っておいて……、『覇濤』の港の体制を転覆させて、『聖錬』に帰属させる……ね。そんなん成功すると思います?」

「真っ当に考えれば無理だろうよ、しかし上の氏族連中は大まじめに考えている。そして"戦場"を求めているのは俺達も同じだ。それが全てだろう」

 侍女風の女が呟き、白髪の男が纏める。

 勿論、『傭兵』たちは依頼人の掲げる"魔族"を排除する大義に微塵も興味がない。

 『聖錬』において開拓が進み。この百年近く、小さな抗争はあっても大規模な戦乱は起きていない。

 

「依頼人にどれだけの算段があるか知らないが、ダメなら損切して退散するだけだ。死んだ奴は間抜けだろう。いつも通りの事だ」

「あたしも呑気に平和を享受してる浮かれポンチの連中はむかつくしー、義理は果たして、好き勝手やらしてもらうわ」

 最強と言う威を失い、時代の中に取り残された『傭兵国家』(グレンダン)という仕組み。

 時代に取り残されたのは、そこを依り代に生きている傭兵も同じである。

 かつての栄光を取り戻さんがために暴力を振るう事を、戦自体を目的としている。

 故に、戦の匂いがあれば惹きつけられる。まさしく蠅の如く、そういう連中だった。

 

 机の上に座り狼娘はそういうロクデナシの連中を眺めて、心底おかしそうに笑いを堪える。

 

「くひひ、あはは」

「何だ。何がおかしい"ラップランド"」

「いやぁ皆つれないと思ってね。考えて見なよ。場合によっては『波濤首国クトゥルー』を統べる『海魔柱ダゴン』……、『正規魔王』と事を構えるんだ。君たちはワクワクしないのかい?」

「……はぁ?何狂うた事言ってるんあんさん?」

【戦闘狂】【破■願望】【狂羅輪廻】

 傭兵たちが呆気に取られる、フレンドリーな態度でありながら強く彼女を忌避される理由だった。

 

 この世界におけるの超越の代名詞、"魔王級"に対峙するのは正気の沙汰ではない。

 ましてはそれが正真正銘の『正規魔王』とならばなおさらである。

 喧嘩を売るのは文字通り蛮勇の象徴たる『勇者』の所業だ。

 

 なんとなく知っていた吸血鬼の女は天に仰いで。

 

「勝手になさいな【戦闘狂】、出てきた時点で負けよ。尻尾撒いて逃げるわ」

「あはは、なんだ付き合い悪いねぇ『クルースニク』!」

【ブラッドリーディング】【かぐわしき鮮血】

 吸血鬼の女だけがその本性をなんとなく知っていた。鼻がいい、血の匂いを嗅ぎ分ける。

 彼女は前からこの"同類"は知っていた。とことん破滅の匂いがする女である

 それは例えて、鮮烈な塵弾ける泥炭の匂いだ。まったく不味そうな匂いにうんざりする。

 

 血の匂いだけではない、もしかしたら、万が一に招き込みかねない。

 そう思わせるだけの狂人である。

 

「そういえば―――」

 だから餌をチラつかせる。

 目の前の狼を誘う、興味を持つ狩り甲斐のあるだろ獲物の話を。

 

「あたしと"同類"(・・・・・・)がいたわよ。緑髪と野暮ったい軽装鎧の童顔坊や、食べたい奴がいれば好きにすればぁ?」

「……へぇ?そいつが『クルースニク』の腕をやったのかい」

【戦闘狂】【狂羅輪廻】【クイックタイム】

 ラップランドと呼ばれた眼を細める口角を上げ、そのギザ歯をのぞかせる。

 獣人の狼耳がご機嫌に跳ね、尻尾が躍る。

 

「あはは、いいね!楽しくなってきた!こっちに来てくれないかな!!歩いて偶然出会うそれも運命的で素敵だと思わない?」

「知るか。刺客を望む護衛がどこにいるっていうんだよ『サルッツオ』」

 壊れた一人狼は笑う。

 期待に胸を膨らまして傭兵的に享楽的に、破■の刹那を運んでくれるそんな存在を夢見て。

 

 あの時のように、いつか、"正義は成される"と信じる様に。

 

 笑う彼女に周囲は冷ややかな反応に流して。

 

 水面下に『覇濤首国クトゥルー』"セレクティブ"にて、着々と自体は進んでいるのだった。

 





 圧倒的狂羅輪廻率。ネームド傭兵の紹介になります。
 まずは3人ほど。

・傭兵コードネーム【ホワイト】
 弓術及び、強力な"異能使い"と噂される白髪と黒肌、冷静沈着鋭利の青年。
 神出鬼没であり、能力は不明、
 交戦した敵対者を弓の矢じりと見合わぬ風穴を空けるという。
 またどこかで従軍経験があると推測され、端々に軍人的所為がみえる。
 唯一この、波濤の港から魔族の影響力を排除する大義に賛同的な傭兵だが……。
 その実……、
 終■の試■を望む、■騎士、4人の破綻者(現在二人)の一人である。

・傭兵コードネーム【クルースニク】
 本名、エリザベート・ブラド。
 原式魔装具使い、空想上の吸血鬼の如く怪物の女。
 血の支配者であり、吸血鬼にできると語られた物は大体できるだろう。
 そういう魔具使いである。
 性格は傲慢不遜であり、罪悪の失調した生粋のサディストである。
 
 その為、悪い噂の絶えない、処女の生き血で美貌を保っているとか、
 グレンダンの中には彼女の従僕が幾人もいるとまことしやかに噂されている。
 娼婦の胚、悪行が横行し正しさが踏みにじられるグレンダンにおいて
 弱者を踏み台にして高みへ。奪う者だけが笑うことが出来る。
 そうやって生きてきた。人の心を失った化け物である。

・傭兵コードネーム【ヒナゲシ】
 本名、花叶 未兎
 類い稀なる速さを誇る人斬りであり剣豪。
 和風の侍従服に、スカート、洋風のブーツを纏った和洋折衷。
 そんなアンバランスな姿見をした美女。

 人を斬るのは褒められたいから、注目を集める為に奇抜に着飾るし
 これから斬る相手であってもゆったりと動きしゃべり、
 注目を集める悪癖があり、そのリズムに取り込んだ後、蠢動にて斬り捨てる。
 典型的なミュンハウゼン症候群、嘘がうまく自分をよく見せたがる。
 故に都市の潜入などにも能力が認められている。


胃もたれしそう。
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