ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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余白【運命の預言盤】

 

 

 

―――『とある喫茶店』

 

 『覇濤』が港町が一つ"セレクティブ"における一幕。

 比較的に鎮守府に近しいとある喫茶店の事、二人の冒険者が余暇を潰していた。

 先の襲撃の夜の顛末、舟娘(メンタルモデル)のクリーブランドから伝えられた反応である。 

 

「はぁまったくもうっ、うちのおバカまーた知らないところでケガしてさぁ!」

「そう言うな。夜道で突然襲われたらしい。仕方ないだろうさ。しかしどういう事だかな、覇濤の街としては想像以上に物騒な事件だ」

【姉気質】【アマゾネス】【ムードメーカー】

 普段着に身を包んだアマゾネスの少女が、テーブルに突っ伏し溜息をつきながら。

 金糸髪の女がその素直な仕草に、苦笑しながら諫めるだろう。

 冒険者としての"相棒"である彼女にとって、まさに寝耳に水である。

 

「そうそう!通り魔なんてさどうなってるのよ。『覇濤』って治安がいいんじゃないの?」

「不穏な噂、"提督殿"の先の話の通りだろう。しかし無事でよかった。『吸血鬼』、それも"魔人級"の何かと聞いている。ふふ、まったく立ち会えなかった事が口惜しい」

「そりゃセンパイはさぁ!戦うの好きだからそうだろうけどさぁ、遊びに来てこれとかあたしは気が気じゃないんだけど!?」

 反応はそれぞれだった。一方は身内に相棒に手を出された義憤に怒り。

 一方『奉納巫女』として寄木にした相手を誇らしく、そして自身が戦いにいられなかったことに対して口惜しさに歯噛むだろう。

 

 合流するまでの手持無沙汰、そんな中の事。

 

「はぁいそこの(アネ)さんたち」

「む?」

 突然、そう合流までの待ち時間に、時間を潰していたら声を掛けられた。

 そこにいたのは 黒髪ショートカットに桜の簪を結った女。

 侍女の如く和装、振袖割烹着にスカート、更に洋風のブーツというアンバランスな主張の様相をしたとにかく目立つ女である。

 

【誅殺メイド】【和洋折衷】【超絶美形】

 そんなあえて奇抜な格好で目立つような、周囲から浮くような女が、気軽に声をかけて来る。

 

「あらぁ、ちこう寄って見たら随分かっこいい姉さんやんかー」

「……誰だ、何処かで会ったか。私にはお前の様な女は知り合いにはいないと思うが」

【大噓付き】【捜破者:Lv3/5】

 ゆっくりとした媚びる様な声、それでいて神経を逆なでするような甘ったるい声に笑いかける。

 突然のなれなれしい接近、見知らぬだれかそれに訝し気に視線を鋭く返す。

 

「うふふ、勿論初めてやよ。私は"ヒナゲシ"って言いますん。声をかけたんわただ耳寄りなお話をしようと思ってな、あんさんら『覇濤』に訪れた有力な冒険者言ってる事なんや」

 和洋折衷の女のその怪しい語り口に、警戒のために密かに武器を握るだろう。

 ここは町井の喫茶店の中だ。お互いにうかつには手を出せないが、もしもの時に備える。

 

 そんな調子を気にも留めずに。

 

「詳しく話言えないんやけど、とある"大規模な案件"で手が必要なんよ。出来たら手を貸してほしいんやけど……」

「なにを言うかと思えばアンタ新手の宗教の勧誘?クッソ怪しいわね。さっきしつこく声かけてきた"アクシズ教徒"とやらの一員?帰った帰ったこっちはただでさえ機嫌が悪いんだから」

 アマゾネスのローズがとにかく突っぱねる。

 ただでさえ相棒が襲われたと聞く、態度に露骨に不機嫌を表して、しっしと仕草の手で払う。

 流石に心外であったか和洋折衷の女は、露骨に真顔に顔を顰めてるだろう。

 

「いやぁ、流石に欲望直線のナチュラル好き勝手なアレ等と一緒にされるのは心外やわぁ???」

 目立ちたがり屋の彼女にとって、注目されるのは歓迎……、だったが。、

 彼女とて限度があると教えられた。なんか無駄に隠密能力が高く、勝手に写真撮りまくり、ましては恥じらいが足らんとダメだしする。

 刀を抜いてやたら高い逃走スキルに「ふほー!そう、その必死さだ!」とおちょくられる。

 

 そんな屈辱の変態連中と一緒にされるのは御免だった。

 しかし、こほんとすぐに気を取りなおして。

 

「そんな怪しいなんてとんでもない!サプライズ!『聖錬』の"王子様"も手もかかってる大案件よ」

【ミュンヒハウゼン】

 そんな冒険者の素振りを気に留めるでもなく―――

 その仕草は汰追う花の如く演技めいて、どんな形であれ、注目を集めるのが嬉しいかのように。

 怪しげな仕草に一方的持ち掛けられたのは、勧誘とも言えない何かである。

 

 訝し気に聞きながら声を潜めて。

(どー思うセンパイ、なんとなくこっちが舐められてるのはわかるけどさ)

(ふむ。最低限こちらの素性を把握しているようだ。事前の調査か情報元があるか、ただ冒険者ランクだけを見てるらしい、私は徒党の長(パーティリーダー)じゃないのすら把握してないな?)

【捜破者Lv2/5】【元奉納巫女】

 鋭い視線と金糸髪のカルデニアが先達として、状況を呟いた。

 確かに、彼女は徒党(パーティ)の中で確かにランクは一番高いが、中心ではない。

 元奉納巫女のサガにとして見出した根の影に尽くす、戦うのが好きな気質も相まって、ただそういう気楽な立場に基本的に年長者としてふるまう、そう気楽にふるまっている。

 

 故に触りだけなのだろう。

 きっとAランク冒険者が率いる有力な徒党の一つとして、感触を測るための接触である。

 

(それに香水の匂いに隠してるけど、染み付いた人血の匂いがする。混ざって気色が悪いくらいにさ)

(ふむ、君の鼻なら間違いはないか、人狩り……何処かの国の工作員かグレンダンの傭兵連中か、なるほど不穏な噂か、ろくでもないのが混じっているな)

【アマゾネス】【風読み】

 嗅覚に拾った言葉に、ガルデニアはベテランとしての経験からそう推測する。

 『聖錬』は比較的平和である。

 おおよそ開拓も進み欲望が進む先は人間から奪う、人の敵は人そうなる事も多い。

 故に比較的に、そういう人間を効率的に屠殺するそういう人種、技術にも需要がある。

 

 ここまで血の匂いに塗れているなら、それを好き好んで選んだ人種、つまりろくでなしだろう。

 

「ふん『聖錬』の王子か、それはまた大きく出たな。いったいどんな話だというのだ」

「そ、れ、はまだ秘密♡ただ時に便乗して好き勝手にしてくれればいいんよ。それで金子が出るきっと悪い話じゃ―――」

 こちらをおちょくった態度、ゆったりとした口調に暈してのらりくらりとである。

 きっと、案件とやらは少しも漏らすつもりはない。きっとその程度に"こちらを重く見ていない"。

 事に際して、どの動くかの探り程度の事だろう。

 

「わかった論外だ、帰るといい人斬り」

「やろうねぇ、依頼人もどうにも無駄な事を。まぁほんなら警告」

 拒絶の言葉に、彼女のすっと目の奥が冷える。

 元々、そう言う反応が織り込み済みだ。女はすんなりと話を切り替える。

 

 こちらが本題なのだ。

 

「―――その身が可愛ければ下手に"動かへん方がいい"よ、所詮にモンスター狩り(獣狩り)の冒険者なんてさカネにならない大火傷なんてしたくないやろ?」

「それが貴様の本音か、相分かった」

【傭兵】【血染めの衣】

 顔は相変わらず朗らかに笑っているが、その実相手を見下しているのだろう。

 冒険者という生き方、『冒険者』ギルドという笠に中抜きされ、縛られ日々に小さな仕事を積み上げていく。

 おおよそ、最底辺と世間に言われる連中のその生き方自体を見下しているのだ。

 

 であるならば、返答は一つだった。

 お互いに獲物である機巧槍と刀を手に取り、鍔を鳴らし金属音が成る。

 

「次にお前は、対合えば斬れば良いみたいだな?助言感謝しよう」

「あらあらうふふふ、やれるもんならやってみぃよ」

【聖錬冒険者】【凛として月華の如く】【阿修羅姫:修羅の気質】

【傭兵】【鬼蹴仏断】【血染めの衣】

 大気に満ちるマナに伝播する殺気という明確な意思表示。

 一瞬通いぶつかり弾け合ったそれに、多少周囲が騒がしくなる。

 

「うふふ、じゃあ次会うときはお手柔らかによろしゅう」

 和洋折衷の女中は、そのまま翻り背を向けて冒険者宿を出ていくだろう。

 

 

つかつかつか……。

 

 

 そしてしばらく歩いて距離を取って、人気の少ない路地から、そこで。

 

「あーあー……はーい、こちら"ヒナゲシ"聞こえる。これ便利やね」

『シルト式魔導具:通信機』

 髪に結う簪に偽装していた魔道具の電源を入れ、声に出す。

 聖錬北部、とある稀代の天才に寄り『魔導文明』に回帰し、酷似した技術体系を探求する『スタークインダストリー』

 そんな一企業が城下町として、技術試験場として抱える『シルト』という街があった。

 そこで普及しつつある、いわゆる希少な『シルト式魔導具』という奴である。

 

 通信機ごしに酷いノイズ混じりであるが、確かに聞こえる。

 この主流ではない珍しい魔道具は、今回の"依頼人"である『議員の男』が揃えたものである。

 

「アイツらはカネで動かんわ。あったま硬そうな女、きっと邪魔してくるやねぇ。それも積極的に」

【傭兵】【鑑定眼】

 そして通信機越しに報告するだろう。

 入国管理を乱用して得た情報により、接触して量って警告をする。

 傭兵連中において町居の調査を担っている彼女に対して、オーダーはそんな所である。

 

『―――』

「ええ?うちがわざと挑発したんじゃないかって、そんな事あらへんよー」

【ミュンヒハウゼン】

 そして通信機越しの誰かが、何処か訝し気に説いただす。

 なお嘘である、彼女は病的な目立ちたがり屋だ。

 そして自分に注目を集める為に相手に合わせた嘘をつく、本当ならもっとうまい嘘を付けるだろう。

 しかし、一目魅入ってしまった、自分より目立ちそうな華に対しての敵愾心から―――

 

「ふふ、踏みつぶされて無残に枯れ落ちてしまえ、なーんて思ってないんやから」

―――【女難の相】

 通信機に拾われないような小さな声で、ぼそりと呟いた。

 例えるなら、限られた花壇の中、自分より華やかな花があれば己が目立てない。

 だから、踏みつぶして散ってしまえばいい、当たり前の話である。

 

「とにかく"クルースニク"止めた気狂いとかいうの含めて、使うに困ってる"お上り連中"の一部を足止めにぶつければいいええんやない」

 

 和洋折衷の女中は、軽い調子にそう報告を締めくくる。

 彼女は人斬りである、生ぬるく社会の歯車になる冒険者風情に後れを取るとは考えていない。

 

 時代に淘汰されていく自覚もないままに。

 暴力の世界に生きる彼らは、刻々と進みつつある晴れ舞台に思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 

 そして一日後。

 

 

―――【冒険者宿:鴎の子守亭】

 

 彼らの徒党は合流し、冒険者宿にて借部屋にて食事をとりながら話すだろう。

 

「―――という訳だ。君が戻ってくるまでにそういう接触があった」

「……えぇ?」

 若葉の少年は困惑の声を漏らす。

 襲撃と関係があるのだろうか、その接触はどうにも、感触を測るにしても無警戒で無遠慮すぎる。

 彼はおおよそ同じ感想を抱いた、有体に言ってきっと"舐められている"と。

 

「そうそう!なんというか薄っぺらい笑顔の、血の匂いの染みついた黒髪女だったわ」

「大凡冒険者の徒党として、こちらを測りに来たのだろう。"桜皇"混じりの和洋折衷というべきかとても目立つ格好してるから一目でわかるだろうさ」

「なら宣戦布告だね『吸血鬼』と関係あるか知らないけど、そう受け取った方が、やる気出る」 

【狂羅輪廻】

 若葉の少年も結論は同じ。

 その不可解を、いつもの癖にバッサリと解釈に呑み込むだろう。

 きっと港町の中に企みはある。きっと人の群れという霧に紛れている。

 ただ、一重に友達に手を出したのだ。立ち合えば斬る、そう決めている。

 

「そういえば君たちを襲った相手はどんな奴だった」

「有体に『吸血鬼』鮮血を操るバケモノだった。本当に物語に出てくる吸血鬼そのもの、それが目立つけど変化と先読みを併せて斬撃を避けて来る、熟練者です」

「ふむ……本物の吸血鬼にも出会ったことはあるが、そんなに便利なものではないはずだがな。幻想の怪物(ファンタズム)という奴か」

 何かしらの細工や効率化があるのだろうと、分析する。

 それはさておいて。

 

「そんな事より!カイトのケガの調子はどうなのよ。心配したんだから!また変に無理をするなら縛り付けるかんね!!」

「もう大丈夫、ほぼ万全だよ。もともと自分で焼いた火傷ばかりだから入院なんて大袈裟なくらい」

 ローズが身を乗り出して彼女にとって、一番大事な問いかけに迫った。

 彼はそれに気楽に腕を振って応えるだろう。

 冒険者である。この程度の怪我は茶飯事、大したことはないそう言わんばかりに。

 

「本当に無事かは私が判断する。そういう所は君は信用ならない。ほら手を出しなさい」

「え、あ」

【元・奉納巫女】【医療知識】【菩提樹の献身:聴診感応】

スッ、ぎゅ

 ガルデニアはその言葉に否定しては無理に手を取り合わせて、互いの掌を合せて―――

 手を握り締めて、そのまま瞑想する様に、呼吸をそろえる。

 身体が近い、顔が近い、気恥ずかしさに身を捩り、重なる鼓動に頬が赤みをましていく。

 

 それはどこか、いつもの年長者としてのからかい癖も混ざっているのだろう。

 じわりじわりと痺れる熱が重なる、呼吸揺らめくしばらくして。

 

「……ふむ、経脈が多少淀みがある。オドが引きずり出されて焼け腫れている。後で"調律"するとしよう」

「その位なら―――」

「ダメだ。身体の調子を全部測れると思わない事、それは傲慢だぞ。例えて、皮膚を掻けば荒れるだろうそれと同じだわ。無遠慮に引き摺りだせば経脈、汗腺だって疵付き淀みとなる。痛みは、あるだろう?」

「……まぁ、その確かに少しだけ痛みは、あります」

【元・奉納巫女】

 反論を封じる様に、唇に指をガルデニアは諭す様に言いつける。

 容易く身体は摩耗するし壊れる。しかも、特別な血筋もない狭い土台に異能者の道を無理に練磨し続ければ、なおさらだろう。

 

 大事なのはお互いに、だ。

 元奉納巫女としての生まれに欠けた心を満たす相手を、年長としてからかい混じりに愛でる。

 

 気を取り直して。

 

「依頼内容の変更はわかった。もともとは私たちは戦闘特化だ。"調査"より"護衛"の方がわかりやすい」

「あいよ面倒事は仕方ないわねー。あくまで観光に来たわけだけどさー、それでもカイトはやりたいんでしょう」

「うん」

 若葉の少年は"相棒"の言葉に迷いなく力強く応えるだろう。

 ただただ、そこに迷いはない。明星の如く良き方向に考える力が強い少女を思い浮かべる。

 誰かの先を歩く人、歩いた先に意味を魅せる明星の人。

 そしてこの『覇濤』で知り合った。一緒にいて楽しい友達である。

 

「勘だけど流石にこれだけ巡ればわかる。この場所にもまたろくでもないのが蠢いてる。ぼくはこの状況だからこそ"友達"の力になりたい」

【正道の歩み】【事変の証明者】

 『喜望峰の灯台』にて彼女の夢を聞いた。か細かろうと彼女の家族の望みの話を聞いた。

 ただ彼は力になりたい。そう思った。

 己の偽物の成り立ち故に、短い間の一期一会だろうと、この気持ちにきっと嘘はない。

 

「……ふぅん友達ねぇ、まぁアンタがそういう事ならいいけどさ」

「何でもいいさ、とにかく君は存分に"欲張って"くれればいい。それが私の誓いだから」

 ローズが少し訝し気に唇を尖らせて。

 ガルデニアが想うのは以前に伝えたのと変わらない。

 足元がお留守になりがちな、幸せになるのが酷く不器用な少年に"欲張ってほしい"。

 元・奉納巫女という獣としての本性に、それが幸せに対する魂の形だと知っている。

 

「それはさておいて」

「……ん?」

 ガルデニアは、金糸の髪を掻き揚げて少年にゆっくり迫る。身体を枝垂れかからせて"捕まえる"。

 そして、緩やかに体重を預ける。

 ただ静かに、緩やかに唇を奪って互いに意図を察する。

 

「むぐ……!?」

「ふふ理由が出来た。さて"調律"、しようか」

「あーセンパイ、ズルい!」

 互いのオドの同調と調律、手っ取り速い方法が身体を睦う事である。

 オドに染まった生き物同士、混ざり合えば濃い色は薄める。

 痛みは慣れていく、鈍くなる事自体の矯正を含めて、男女の身体を重ね合わせるのは有効だろう。

 

 旅先の『覇濤』の夜に、そうやって時間は更けていくのだった。

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 また、視点は変わって。

 

 不吉な機械音、まるで巨獣の唸り声の様なそれが響き渡る。

 

―――道標なく、拡がる広大な海の中、空の色を吸い込む膨大な鏡写しの水底。

 マナに満ちた金魚鉢の世界、この世界おいての海は見た目以上に複雑怪奇である。

 

【航海術】 

 その色に反映される、今にも崩れ落ちそうな寄せ集めのぼろ鉄船の上で。

 水星箒色のツインテールを流した幼げな少女―――

 大海原を相変わらず彷徨っている。

 

 ただしかし、その姿に真昼の様な活動的な振舞いはない。

 

 夜は静かだ。深淵の如く、暗い暗い暗闇の中である。

 ゆらゆらと眠れない。ただ一人に膝を抱えて、静寂に揺れていた。

 

 異形の少女が纏う禍々しく畏れにブレる輪郭、舌足らずノイズ塗れの声が響くだろう。

 

「―――進め―奪え―……我らふぉるねうす海賊団」

【海賊娘】【舌足らず(物理)】【違法改造個体:メンタルモデル】

 幻想はない。その声は尋常の声ではない。とても噂に謳われる海の人魚とは似ても似つかないだろう。

 怪異の一つ、覇濤に蔓延る都市伝説が一つ。もはや、討伐されるべき海のかいぶつ。

 

「全ては、れヴぃあの"てーとく"のために」

【洗脳:ギアスロールスクロール】

 うわごとのように、苦痛と条件反射に肉体にただ彫り込まれた"ギアス"に呟いた。

 元々が兵器として育った訳でもなく、戦士でもない少女は強くはない。

 ただただ壊れていても、孤独には耐えられない。

 

『―――ググギィ』

【魂鋼:水妖星】【ハイファミリア】【りヴぁ■あさん・し■ゅ■む】

 その孤独の中を、まるで慰める様に周囲に魚を模した単純な機械(ドローン)が群れて戯れる。

 孤独に、孤独に、完結した投影されたコミュニティの中での一人遊びに彷徨う。

 

 それを撫でながら。

 

「ねぇ、"もーがん"。"れヴぃあ"の"てぇとく"は何処にいるんれす?」

『―――ぎぎぃ? 』

 問いかける。もちろんただの過去の記憶の投影物に、真面な答えが返ってくるはずもない。

 彼女の中で交わされる常人には聞き取れないだろう、彼女達で完結した言葉である。

 

 光溢れ照らす真昼はいい。見果てぬ先に海原という行先はどこまでも拡がっている、

 行きつく先が見える。だから道標なんてなくとも、何処かに目指している実感があった。

 それに、ただただ奪えという本能の声に従って何処かを目指せばいい。

 

 しかし、夜の海はあまりに静かで、得体のしれぬ広大で、余りにあまりに暗すぎた。

 それでも、不完全な"阿頼耶識"に流しこまれる観測情報、理解できない理解できない測れない。

 だから、何も見えない。

 

「………ねぇ"れいす"、『水妖星』は、なにをうばえば帰れるの―――?」

【略奪本能】【海賊の流儀】【ファレンアステル:現実感失調症】

 その小さな胸に脈動する鉄の欠片にも問いかける。

 本来少女の短く生きてきた時間と記憶など、すでに混ざり合って汚泥の中に沈んでいる。

 痛みに痛みに沈んで逃避して、少女にとってそう全ては夢うつつの事。

 どこにも行けない。

 もはや何処かも分からぬそこに帰りたい、帰りたい、帰りたい。

 訳も分からないのに、ノイズ塗れの風景の想起に望郷の念に呟いただろう。

 

 そんな夜を、幾百も繰り返している。

 果て無き海原の中、星だけが見える星だけがキレイである。

 

「……ねーちゃ」

 少女は一人だ。今は一人きりだ。自分の形すらわからない。

 

 "提督"もいない。遠慮なしに情報を叩き込む不完全な『阿頼耶識』に。

 本来の静寂で眠る時間は、ただただ孤独に膝を抱えて耐えるしかなかった。

 

 波乱の潜む『覇濤』の海に、自由に離されてなお何も選べぬ討伐されるべき迷子のかいぶつは。

 愚かしい思惑、製造物としての運命が迫るその時まで。

 

 ただ只管、彷徨い続けるのだった。

 

 

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