ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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ひゃっはー新鮮な三次創作だぁ!


鋼船【運命の預言盤】

 

【覇濤首国クトゥルー:セレクティブ】

 

―――【鎮守府:湾港】

 

 穏やかに波打つ水面、轟く汽笛。

 

 水面に揺れる船体、鋼に響く轟巡る蒸気の音、巡る力強いドラム音の如く動力音が響く。

 錨を下ろして、係留された物騒な船が並ぶ港の中、その一角にて。

 

 その物々しく轟く音の中心に、その光景に見合わない華奢な少女がいるだろう。

 それは海上路(シーレーン)『覇涛首国』を彩る輝かしき人類の灯であり華々しい花の一つ。

 背負い式の機械仕掛けを背負い、白磁のクロークを羽織りセーラー服に身を包み、海陽の反射に艶やかに煌めく小麦色のサイドテールを揺らしながら。

 鋼の城の中、少女が目を閉じて、一人深く瞑想する様に船の中で佇んでいた。

 

『軽巡艦装:クリーブランド』

ガガガ、ギィ、ギギギギ、ブォォオオ……!

 半身である機械仕掛けの神経に深く潜る。

 少女の手振りに応じて、砲塔、ボイラー、スクリューそれぞれの鈍い駆動音が響いている。

 

「砲塔旋回ヨシ、タービン回転音ヨシ、スクリュー回転音ヨシ……―――」

『メンタルモデル』【機巧技術Lv2/5】【裡の海メトローム】

 重なり合う軋みの音に耳を澄ませて、その流れに鼓動を合わせる様に同調していくだろう。

 舟娘によって、『阿頼耶識』によって流し込まれる膨大な音情報を制御する方法は違う。

 そして勝気の彼女の場合頼るのは、聴覚である。

 

 彼女の強化された耳が多くの音を拾う。

 それをもとに経験と想像から、頭の中に空想図を描いて状態を推測していくのである。

 

 華奢な首筋に滲む汗に、サイドテールを掻き揚げて流しながら。

 

「んー左舷バラスト、ちょっち動きが悪いか?"妖精"さんに見に行かせるか」

【強化人間】【メンタルモデル】

 そして不調を感じれば、軽巡洋艦クリーブランドに紐づけされている運用する為の"子機"―――

 通称"妖精さん"たちに命じて、直接の確認に向かわせるだろう。

 

「さて、よろしく頼むなー」

『……ビシッ』

【人工精霊:妖精さん】

 その命に応じて、敬礼のような仕草に、デフォルメ化された二頭身妖精が駆け出す。

 もとよりあった完成品たる"ゼロ世代"、外世界の超文明からの漂流者の劣化コピー品。

 メンタルモデルのとしての運用、妖精をドローン代わり、そこで運用をマナに溢れた金魚鉢の世界なりに真似た方法である。

 

 もちろん。洋上城の如く鉄船を整備するのは、本職の整備士(プロ)だった。

 今、彼女が行っているこの作業は、あくまで最終の再確認(チェック)だ。

 

 そしてしばらくして"妖精さん"が戻ってくる。

 その手には見慣れた貝のような何かを持って、身振り手振りに結果を伝える。

『……っ!』

「げぇ、また"テツクイフジツボ"かー、はぁこいつら鉄船は油断してるとすぐ船体ボロボロにしてくるからなー」

【テツクイフジツボ】【共生生物】【アイアンイーター】

 それは『覇濤』にとって有名な海の厄介者である。

 鋼に食らい付き、バクテリアと"海属性"による急激な酸化反応促進により多くの活動エネルギーを得て、文字通り爆発的に増える。

 そんなある意味おなじみの存在を発見して、ため息をつくだろう。

 

 この世界のマナ現象に寄り、化学反応や、流体運動自体が連鎖的に加速していく事がある。

 故に海における高度な機巧類の耐用年数は短い。

 だからこそこうやって、定期的な点検は必須である。

 

 勝気な少女はその後も、その他のチェックを一通り済ませて。

「……ふう、他はメーターは問題ない感覚のリンクも良好、……いい子だ私の『クリーブランド』」

 そしてその点検確認を終えて、兵器として同じ銘を持つ一心同体の鋼の城を撫でる。

 健気に唸る。雄々しく轟く冷たい己のもう一つのか身体が愛おしい。

 それこそこれは孤児院育ちの彼女が勝ち取った、自負と自信の根源である。

 

 一段落ついて、彼女の愛用の工具箱に手を伸ばす鉄ベラを持ち出して。

かちゃん。

「さて」

 艤装に繋がったカラビナを掛ける音。

 発見した異常個所を受けて、命綱を舟淵にかけて左舷のバラスト部分へと、駆除しにおりる。

バリバリバリと 

 ヘラを突き立てみのの如く叩く。見た目通りになかなかに硬い剥がすに小気味の良い音がする。

 我が物顔に船体に張り付いたその厄介者を。鉄ヘラでは削って剥がしていくそんな中。

 何処かから、枯れた穏やかな声がかかった。

 

「こんな時間から精が出るね。あれから身体の調子はどうだねクリーブランド君」

「おう、てーとく!平気だよこんなの犬に噛まれたようなもんだって」

「それはよかった」

「とにかく、久々の"戦隊任務"たからなー念入りに確認しておかないとな!」

【凡人提督】【立止の枯れ木】

 眼下の港から見上げる様にそこにいたのは、落ち着いた雰囲気を纏った初老の男である。

 『覇濤』が組織『鎮守府』における。彼女の上位責任者である"提督"その人である。

 彼女にとってまるで父親のような人、それを見つけて、船の縁の上から笑顔で手を振る。

 

「それにあたしの『クリーブランド』に久々に誰かを乗せるんだ。気合も入るってもんだろ?」

「あはは、相変わらずだね。こっちでも今回の哨戒任務に対する情報と証言を集めてきたから、そこでいいから聞いてくれるかい」

「おうもちろん!そういう所はてーとくを頼りにしてる」

【自信家】

 今回は半身というべきこの鋼船に護衛名目とはいえ、人を招くのだ。

 水上バイクに連れ回した一緒に何処か感じる事に素直な少年だ。

 どんな顔するか考えれば期待にその小さな胸が高まる。"あたし"を魅せ付ける機会、そう考えると一層気合が入るだろう。

 

 何処か浮かれた調子、そんな調子をどこか微笑ましそうに眺めながら。

 

「さて発端は半年前程から散発的に報告があった。違法艦船(アンノウン)に商船団が襲撃されたという証言からだね」

【凡人提督】【議事録の鬼】

 初老の提督は髭を撫でながら、事件ともいうべきそれをどこか惚けたように語るだろう。

 任務に気負わせない様に、入れ込み過ぎないようにあえて緩く言う。

 基本的に作戦前における提督として、彼のブリーフィングはそう言うスタイルである。 

 

 ガリガリガリと。

 変わらず鋼に食らいついたふじつぼを削る音が響く。

 

「その襲撃の生還者からの証言によると、相手は一隻、船影から推定重巡級、しかし禍々しい不気味な鉄船らしい。大凡真っ当な船じゃないねぇ」

「え、仮にも鋼船を運用してるのか?『メンタルモデル』なしで、どこのどいつが作ったんだそんなの。『預験帝』のお馬鹿どもか?」

「いや、『預験帝』にしては、生還者を遺すのがおかしい、あれは"人攫い国家"だからね」

 勝気な少女は意外な声を上げる。

 当たり前だが、船舶の運用には人手がいる。例え帆船であっても訓練された数十人は下らない。

 だからこそ船体と同一化(リンク)する事で省略できる、故に『メンタルモデル』は破格の存在なのだ。

 

 故に最高機密、現実的な運用できるのは『覇濤』において他にない。

 どういう仕組みかわからないが―――。

 

「被害が出てるのはもちろんだけど、その正体含めての調査だろうね。『桜皇』から流れてきた"幽霊船"ってだけなら話は早いんだけどねぇ」

「ふんふん、でもまんまる鋼船の"幽霊船"聞いたことないけどなー。鉄船は専門家でも維持するの大変なのにさ」

 "幽霊船"、という存在、時折『覇濤』にも海流に流れて辿り着くマナ現象の一つ。、

 『妖怪』と言う存在がある、桜皇固有種族であり、精霊と精人の境目に存在する非人類種族。

 島国由来の閉鎖環境故か、只管に人同士の争いが続いてきた屍鬼累々の歴史故か、どういう訳がより情報が滞留しやすいねっとりとした環境に生まれるより生っぽい受肉現象。

 

「そして、情報によれば既に当該対象は鉄船に通じる程の武装している、商船団の護衛についていた"駆逐艦"が沈められた報告もある」

 そこでは"憑喪"といった形で、器物がまるで生き物としてふるまう事がある。

 海に迷い出ればそういったマナに爛れた、哀れな呪海物の相手も、彼女等舟娘(メンタルモデル)の仕事である。

 

「広い海の調査の為に他にも、『第七水雷戦隊』が参加する。だからとにかくクリーブランド君、協力して無理はする必要からね」

「あいよー。相変わらず心配性だな、いつも通りあたしはあたしにできる事をやるだけさ」

 勝気な少女は気楽に変わらずそう言うだろう。

 確かに、先に後れを取った、吸血に髄を啜られたあの時の気持ち悪さはまだ体に残っている。

 

 それでも、だ。

 足をとどめている時間はない。何より身体を動かしている方が淀みも痺れも晴れる。

 少しの気の迷いに慰めて気は晴れた、己の芯に前を向いてやるべき事を見つめて。

 

 それはそれとして陽の昇り具合が、時間を告げている。

 任務の時間が迫っているのだと。

「おっと、そろそろ出航の時間が迫ってるな、よっと!」

「!?」

ぱっと。

【パルクール】【強化人間】【怪力】

 勝気の少女は装着された命綱を手放し、タイミングを合わせて舟壁を蹴るだろう。

 当然に空中に放り出された身体を、艤装のアーム反作用(アンバック)に宙を空転し落下の勢いを殺した。

 ざりっ!

 軽業、そのまま猫のように、港に四肢に衝撃を逃して着地するだろう。

 

 宙を舞う。その必要のない曲芸を初老の提督は驚き、声を荒らげ叱りつけた。

 

「こらクリーブランド君!そんなとこから飛び降りなんて危ない真似を、近道行動は厳禁だよ。普通に降りてきなさい!!」

「へへだからへーきだって、そんなことより出航時間だからカイト達を迎えに行ってくる!」

 勝気の少女は対して手を振りながら悪戯めいて笑う。

 その調子の良さ主張する様に、併せて悪戯が成功したように笑って。

 そのお叱りから逃げる様に、鎮守府の門に向かって走り去っていくだろう。

 

 その目的は、今回護衛に同行する事になった冒険者を迎えに行く事。

 普段は何処か田舎臭さに惚けた雰囲気で、それでいて鉄火場に鋭く危なっかしいアイツと、気のいい冒険者の徒党(パーティ)である。

 

「……あっ」

バッ!

 足をとどめて。

 走るその途中、ちらりと建物の窓に薄く姿が鏡に映った。

 ひょっこりそれを覗いて。薄く映った己をまじまじとみつめるだろう。

 海風に乱れて、汗に張り付いた髪を手櫛で整える。

 白磁のクロークの前に手を当て、青と白のツートーンの戦闘服(セーラー)をくるりと回って揺らして、姿を確認するだろう。

 

「―――……よしばっちり!」

【深紅の瞳】【乙女心】

 普段は自然体に振舞う彼女の、いつもと違うその手癖に自覚のないまま。

 いつも通りのセーラー服とミニスカートの中に、彼女なりの"女の子らしさ"を確認して、よく分からない感情に鼓動に突き動かせる。

 

「♪」

 どきどきする。根拠はないが、理由もない。

 きっとなんだか、今日はとても良い日に、とても良い事が起こる気がするのだ。

 

 そんな一幕がありながらも、あっという間に門へとたどり着く。

 『覇濤』には珍しい陸専門の冒険者の装備、目的の相手はすぐに見つかるだろう。

 

「ようみんな!よく来たなこっちだこっち!!」

「……あ、クリーブランドさん」

【田舎育ち】

 若葉の少年は相変わらず軽装鎧に、仲間と話しながら一緒にいるのが見えた。

 しかし場違いな場所だと、何処か居心地悪そうに視線を漂わせている。

 相変わらず人の多さに慣れていないのか、以前迷っていた時のように溢れかえる機械の類に酔い気味なのか、

 

 そんな田舎仕草の消えない少年はこちらを見つけて、安心した表情で小さく手を振ってきた。

 勝気な少女もそこに駆け寄る。

 

 それに反応する様に。

 

「……ん」

リィン

【憑依具】【電脳精霊】【偶像少女】

 鈴の転がる音、儚紅の少女が、自然と、虚空に花を咲かせてひとりでに現れるだろう。

 儚げに薄紅色のワンピースを揺らして、そのままふわふわと近づいていく。

 

「おーどうしたんだリコリス、さてはクリーブ姉ちゃんを心配してくれてたのかー?」

「姉ちゃんて、この間言ってたこと。それ本気で言ってたんだ」

「あったりだろー。こんな小さくてかわいい子にそう呼ばれたら、年上冥利に尽きるんだからな」

 儚紅の少女は頭を撫でなでながら、その手を握るだろう。

 よくしてくれた相手だ。話を聞いて彼女は彼女なりに心配していたのである。

 

【電子魔術:ハッキング】【サージタッチ】【アナライズ】

 そして円環の化身たる幼子は、一瞬の接触で、さらっと電信による検査を終わらせる。 

 

「お、お?なんかバチっと来たな一体何したんだ?」

「……、襲われたって聞いた。検査、正常、よかった」 

 人見知りの彼女はそのまま安心したのか、周囲の騒がしさを避ける様に、

 あっさりと受肉を解く、火の粉が弾けて混ざる様に、花弁を散らして空気の中へ消えていく。

 

「ありゃ消えちゃった残念、お姉ちゃんよりやっぱそっちがいいのか。いやー待ったかちょっと船の整備に手間取っちゃってさ」

「今さっき来たところ。そんなに時間も過ぎてないよ」

 その目には襲撃の夜のような、まるで激しく燃える練炭の如く雰囲気(オド)はなかった。

 互いに気楽に気心知れた友達のように、その調子に安心する。

 そのまま合流して歩きながら話すだろう。

 

 肩に振れようとすれば少し触れようとすれば、少し距離明けて併せてゆっくりに、

 そんな距離感に座る何処か穏やかな雰囲気である。

 

「ふむ、そちらも襲撃に居合わせたと聞いたが、大きなケガは何事もなさそうで何よりだ。今回は改めてよろしく頼むクリーブランド」

「ああ、気っ色悪い変態"吸血鬼"だったけどさー、カイトが一緒だったからぶち抜いて焼けたんだ。夜には気を付けた方がいいぜ。闇夜に紛れりゃ感知手段がないと強化人間(あたし)でもきつい変態だ」

「ふーん。まぁ、聞く話だと、他にはあたしがいれば鼻でなんとかなるんじゃない?誰かが止めて闘気の剣で薙ぎ払えばいいんでしょ」

「うん、そこはこっちも打合せしました」

【アマゾネス】【風読み】【ムードメーカー】

 目下見えている仮想敵である。彼らの徒党(パーティ)の中でも対策を考えていた。

 暗がりでも血は匂う、血霧の匂い、それさえ感知できれば奇襲は防げる。

 推定、『上級魔人』に等しき幻想の怪物(ファンタズム)相手だ。おそらく彼らの徒党(パーティ)の程度では囲んでも分が悪いかもしれない。

 

 ただ、畏れはない。

 既に熟達の域にある冒険者の徒党(パーティ)として、想定される敵対者にただ淡々と言う。

 

「もしクリーブランドさん個人を狙って、次も仕掛けて来るなら護衛として仕留める。手伝ってもらえると助かります」

「もちろんだ!借りはしっかり返さなきゃな。今度はあたしが"リード"してやるかんな」

「?」

【世話焼き癖】【パッションテンポ】

 若葉の少年はリードするという言葉に、小首を傾げる。

 勝気の少女にとって、それは仇に向けそして隣の少年に向けて二つの意味を込めてである。

 

「……んー、わかんないか?あん時こっち全然見てなかったもんな、まぁいいさ。次はこっちに引っ張てやる」

「そう言われると気になるんだけど」

 彼女等は偶然にも師が先達がいない共通故に、符牒(リズム)を基調に全てを並列する。

 刹那の中でまるでダンスのように、互いにリズムに合わせて補い合える事を身体に知った。

 偶然にも同じ系統樹に基礎の積み上げである。

 目の前の彼はそれに自覚がないらしい。思えば敵の方ばかりを見入っていた。それに不満に思う。

 今度こそ間を埋める(フォロー)でなく、あたしが手を引いて(リードし)やる。

 戦場の熱に浮かされながらのそれはきっと気持ちがいい事だろう。そう思いながら。

 

「いいからいいから、まずは仕事だろ?さてあたしの『クリーブランド』はこっちだ。ついてきてくれ」

 勝気の少女を先導する様に、門を警備する"憲兵"に身分証明を済ませて。

 そのままステップを踏む様な歩調に歩く歩く。

 

「それはそれとしてだ。クリーブランド、今回の"護衛依頼"に考えられる懸念を脅威を軽く教えてもらえるだろうか、海の仕事は初めてだからな」

「ん、あ?まぁ海獣とかいるぜ。基本的にはでっかい。鉄船だろうと人が乗ってればお構いなしに襲ってくることもある。甲板に取りついたら手早い排除してくれ」

【メンタルモデル】【航海術】

 ガルデニアが槍を肩に担ぎながら、先達として仕事のやり方を問う。

 怪獣、人類の敵対種、"モンスター"の別称、それは広大な海にも勿論蔓延っている。

 海の浮力に育まれたそれは、大概に陸のモンスターに比較して大きく重い。

 そしてその人類に対する殺戮本能は、例え鋼船の装甲を抜けなくても、体当たりや上陸してバランスを崩して転覆させようとしてくる位だ。

 

 "甲板掃除"、テリトリーを捨ててでも、捨て身に暴れるそれを手早く解体し、息の根を止める。

 "船団護衛隊"(トライデント)の様に専門装備がなければ、それが海上、護衛に雇われる一般的なやりかただった。

 

「あとは『海賊』とかのヒト相手か、今回はあたしたちの護衛って事だけど、まー気楽にしてくれ。海の上はあたしたちの庭だ。滅多なことは起きないさ」

 勝気な少女はドンと胸を張って宣言する。

「それならいいがな。こちらに接触があったがどうやら近頃"傭兵"も動いているらしい、胸騒ぎが現実のものにならなければいいが」

「ん?傭兵。『覇濤』にも海専門の傭兵ギルドの『あかずきん』の連中なら珍しくないけど?」

「そーいう連中には見えなかったわね。いきなり大きな仕事があるとか勧誘してきたくそ怪しい奴よ。多分『グレンダン』のそれっぽい」

「『あかずきん』以外か、そりゃ怪しいな。気にかけておくか」

 冒険者の先達であるガルデニアは肩を竦めながら、どうにもキナ臭い空気に訝し気に言う。

 

 しかし、同時に昂ってきた戦の匂いに心躍らせている。

 それが生来に修羅の気質を持ち合わせるガルデニアという冒険者のいつも通りである。

 

 そして勝気の少女の案内に従って、港の中を歩いて進んでいくだろう。

 

 その最中に同じように、艤装を背負った少女達ともすれ違う。

 火薬の匂いを纏いながら、気軽に今日のお昼ご飯の話をしている辺り、

 やはり海航路(シーレーン)を護る"兵器"と謳われても、年頃の少女と変わりはない。

 

「さて、着いた!」

 そして、多くの船舶が係留されている港の沿岸の淵にたどり着いた。

 荷積み用だろうか、巨大なクレーンも並んでおり、その影には既に先客がいるだろう。

 そう、オッドアイ、対照的な白黒の姉妹の如く少女がみえる。

 

「あっ、来た来たクリーブの兄貴!おーい!!」

「……おそーい」

『駆逐艦装:マハン級』【オッドアイ】【メンタルモデル】【姉妹艦】

 それはとある場所で、知った顔。

 白把の少女は絆創膏の印象的な活発さに、人懐こく手を振って。

 黒濡の少女は相変わらず惚けた眠そうな目に、静かにじっとこちらを見つめている。

 先に初老の提督と一緒に見舞いに来た時に出会った同僚、メンタルモデルの少女達である。

 

 今回はそれぞれの"艤装"を纏っている。クリーブランドのそれとは違う。

 全体的に小柄に纏っている模擬船体の躯体基盤に。

 備え付けられた数門の小口径砲塔、大きく目立つのは四連装の魚雷発射管である。

 運用の違いだろうか、きっとその能力も大きく異なるだろう。

 

「だーから!クリーブ兄貴って呼ぶなって!あたしは女の子だぁ!それはそれとして悪い悪い。早くは来てたんだけどなー」

「いやーやっぱ兄貴は兄貴だし?そっちのが話にあった兄さんの仲間の冒険者達なんでぇ?」

「……はじめまして冒険者、"マハン級駆逐艦"カッシンとそっちがダウンズ。私達3人そろって『第一三水雷戦隊』よ」

 ぺこりと会釈を、そして合流して。言葉を交わし合う。

 言葉から察するにどういう区分かわからないが彼女等三隻で、一部隊の編制(チーム)らしい。

 

「へー、そう言う区分けなのね。今回は世話になるわ。にしても話に聞いてたけどさ、ほんとにこんな小さい子が働いてるのねー」

「なにおう!何が小さいだ、いざというときの爆発力(はっぱ)ならダレにも負けないんだからな!何なら今から空に花咲かせて―――」

「はいはい。よろしくね。それはそのいざってときには期待してるわ」

【爆薬知識】【発破欲求】【江戸っ子】

 アマゾネスの少女は感心する様に背丈に見下ろして呟いて。

 子ども扱いされたと、まるで小型犬のように吠えて得意を掲げて、白馬のポニーテールを活発に跳ねさせて反弄するだろう。

 

「ダウンズ……それはアンタがやりたいだけでしょ、火薬は無駄使いしない事。今回は、海の怪物じゃなくて……陸の人間の襲撃があるかもしれない」

「ん、君もそう思うか?カッシンといったか、覇濤の噂とやらに君も何か思う所があるのか」

「……わからない。ただ、いつも、海に手を伸ばそうって無謀な人達はいつもいるもの―――」

【白昼夢の天秤】【グータラ娘】【秘書艦】

 黒把の少女は、姉妹を何処か眠たげに目をこすり諫めながら。

 問われた質問に、その口で淡々とを呟いた。普段の彼女は基本やる気がない。入れ込まない。

 反面、少女は枯れ木を居場所に寄りかかりながら普遍的に物事を見ているのだ。

 

 そんな彼女が、近頃の"セレクティブ"の雰囲気に呟く。

 

「きっと欲はいつまでも留めておけない。それが破裂するのはもしかして明日じゃなくて今かもしれないだけ。だからこそてーとくは私達に護衛を付けた。そうでしょ」

「なんでえなんでえカッシン、珍しくよくしゃべるじゃなねぇか、明日は槍でも降るか?」

「悪いタウンズ?わたしだってたまにはやる気出すの。寄りかかる所が揺れてるから」

 黒把の少女は、憂鬱気に言葉に、また視線を漂わせて黙り込んでしまう。 

 

 そんな対照的な姉妹艦二人と挨拶を済ませて。

「うへー、カッシンがやる気を出すのはキナ臭さに拍車かかるな。こりゃマジ槍が降ってもおかしくないかもしれないなー」

 勝気な少女が、冗談めかして初対面の場をそう締めるだろう。

 

「まぁこんな割と変わり者だけど、この二人があたしの僚艦だな、仲良くしてくると嬉しいぜ」

「よろしくな―。そっちの兄さんとは挨拶済みだけどさ」

「ん」

『第十三水雷戦隊:旗艦』【自信家】【世話焼き】

 やはりというべきか、年長の彼女が取りまとめるリーダー格であるらしい。

 提督を頂点にそれは"旗艦"という形で、命令系統の上下関係は明確に区別されているのである。

 

 それはそれとして今日一番大きな紹介を、

「そして見て驚け、この指の先にあるのが!!」

 海の陽の照り返しを陰影に、誇り高く指を空に掲げて。

 誇らしげに小麦色のサイドテールを揺らして、ビシッと海と港に向けて指を振り刺すだろう。

 

「メンタルモデルとしてのあたし達の船体だ!!」

「おー………!」

『軽巡洋艦・クリーブランド』『駆逐艦・カッシン』『駆逐艦・ダウンズ』

 その指さす先に確かにあった。

 小さな身体に反比例するように、その背後には巨大な巨大な鋼船が聳えている。

 それがあれが、彼女等それぞれの半身、鉄船なのだ。

 

 灯台の時とは違い、真近に見れば、自然と見上げるような形になる。

 物騒な砲塔と機銃の針鼠、これが全て動くとなれば想像を絶するスケール違いの光景である。

 

 改めて魅入る。

 ここからでも鉄の錆びた匂いがする。虚像ではない重量感をひしひしと感じさせられる

 

「改めて真近で見るとやっぱり大きい。どうやって浮いてるんだろ。どれくらい重たいんだろうこれは―――」

「へへ、凄いだろ?あたしのクリーブランドでいえば10,000トン位だな?これでも小柄な方なんだ」

「いちまんとん」

「そう!この戦舟と舟娘二つで一対のメンタルモデル(あたし達)ってやつなんだ。ふふ驚いたか、驚いたか!」

 若葉の少年が、陸では聞かないような桁違いの数字に、実感がわかないような惚けた様に呟く。

 勝気の少女が期待通りの反応に、快活な笑って言葉を続ける。

 弩級の機巧繰り、ちっぽけな彼女達が、あの鉄の塊をあれを自在に操るというのだ。

 そのアンバランスな対比はなんとも形容しがたいだろう。

 

「よーこそ歓迎するぜ、あたしの『クリーブランド』へ!」

【裡の海メトローム】【乙女心】

 どこか、見合わないと感じてしまう。不思議な感覚である。

 眼を見開いて、今だけは何処か無防備な様に惚けている少年の昂ぶる鼓動を、

 鋭い聴覚に拾って感じ取って、芯に迫って近づいて覗いている様で―――

 何処かむずかゆくなってしまう。

 

 『覇濤首国』が港町が一つ"セレクティブ"―――

 彼等の出港前、嵐の前というべきか今はまだ穏やかな風に、暖かな日が降り注ぐのだった。

 

 

 

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