ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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※本話における鋼船の描写は独自解釈成分が多めとなります。
 ご承知おきお願いします。


航海【運命の預言盤】

 

【覇濤首国:港町セレクティブ】

 

 港の上の光景からゆっくり小さくなっていく。

 そんな昼下がりの事である。

 満ち溢れる青を背景に動き始めるのは、軽巡洋艦と駆逐艦の3隻編成された戦隊である。

 彼らが依頼の通り徒党(パーティ)は護衛として当然に、それぞれ船に分かれて乗り込む事になった。

 

『おに―さんは!クリーブアニキの船がいいって、そうするといいって!!』

『………そう、特に、特に意味はないけど、それがいい』

【メンタルモデル】【小さなお節介】

 数ある中、勝気の少女の艦へと同乗する事を

 なぜか、同僚である小さな二人に推されたことで、こういう配置に落ち着くことになった。

 

 彼にとっても特に異論はない。

 短い間ではあるが知り合いである気楽は気楽なのだから。

 

【軽巡洋艦:クリーブランド】

 そんなこんだで、その甲板の上にぽつんと若葉の少年がいた。

 

「風速ヨシ!潮の流れヨシ!よーし取り舵一杯ー、よーそろー。この角度なら問題ないけどゆっくりだぞー」

【メンタルモデル】【航海術】

 ボイラーから吐き出される水属性の廃棄たる蒸気、回るマナ動力機関、鋼船が咆哮を上げる。

 不純物(マナ)に塗れてない"ゼロ世代"(オリジナル)の真似事から始まった技術の適応進化の結晶。

 "属性石"に起こされた電力が溢れる海属性に感化されて、鋼船の中を循環し続ける。

 船体に紐づけされた"妖精さん"が駆け回る。 

 勝気の少女の規律めいた身振り手振りに、応じて鋼の城がうなりを上げるだろう。

 

「―――本当に、こんな大きな船をクリーブさん一人で動かしてるんだ」

「へへ、なんだ?もしかして信じてなかったか」

「ううん。実際見てみれば違うものだなって」

【腕輪の担い手】【電制感覚】

 若葉の少年が格好がいいなと呟いた言葉に。

 勝気な少女が、忙しそうにクロークを揺らして身振りの指示を継続しながら

 勝ち誇ったように笑って。

 そんなたわいない反応を返すだろう。きっと、水上バイクの時とそう変わりはない。

 

―――ザ・・・ザザザ……!

 今、『腕輪の担い手』である彼には、電磁の往来が1と0の砂嵐(ノイズ)として見えている。

 勝気の少女が、どれだけの情報に囲まれているか、どれだけの部品が彼女の号令に応じているかがよく分かる。

 砂嵐(ノイズ)は常に彼の視界にチラつき時に悩まされる"異物"だ。

 それを捌いて見える光景に、普通の人間とは感じるものが違うだろう。

 

「おっと入電」

 『波濤』における港は共有物である。

 そして海獣類、マナ災害、なにより四年事の五瀑対策で半要塞化されている。

 故に船の往来は互いに譲り合わねば、すぐに詰まってしまうだろう。

 だからルールを厳重に運用するこその彼女等である。

 

「ふんふん航路が被る入港予定が3隻、タイミングは調整済みだから合わせる様にか、おっけさんきゅー提督!」

【凡人提督】/【旗艦】【メンタルモデル:テレパス】【裡の海メトローム】

 刻々と移ろう肌に風と潮の流れ強さに、己が艦船の正確な予測航路を確認する。

 提督との伝心(テレパス)に他の船の予定と航路を確認する。

 『阿頼耶識』による人機一体。

 強化人間としての情報処理能力、この出航のタイミングが忙しいのである。

 

「さーて面舵一杯、速度は少し下げる。後続もしっかり併せろよー」

 了解のモールスの明滅。

 号令に併せて戦隊を形成する駆逐艦―――『カッシン』・『ダウンズ』が続いて航行する。

 ちゃっかり舟先に陣取って海を満喫してるローズと目が合って手を振り合う。

 

 若葉の少年がそんな騒がしさをぼんやり遠くを見ながら―――

「鋼船って思ったより、遅いんですね」

 その傍らに、呟いた。果てしなく広がる海原の景色はなかなか移り変わらない。

 熱に、この身を震わせる振動と見合わない悠然とした動きだ。

 その光景を不思議に思っての事である。

 

 そんな何気ない疑問に―――

 

「言ってくれるじゃん。まぁでっかい鋼船が海水を押しのけてる訳だからな。どーしても鈍くはなるさ、今は巡行で21ノット…ま時速39km位だぜ」

「へー、それじゃあぼくが走る方が速いんだ」

「いやそりゃカイトが脚早いんだぞ、マジでそんなんで動けるのか???」

「ん?僕らみたいな軽戦士は動き回ってなんぼだから、でも陸のモンスターはもっと早いよ。空飛べば銃弾みたいな蟲も、機巧(ギア)みたいな図体と速度で突っ込んでくる獣もいる」

【聖錬冒険者】【精霊術:アプドゥ(ヘイスト)】【超俊足】

 勝気の少女が、ちょっとした陸と海の感覚のズレに互いに流れるだろう。

 この世界の人間、カラテ・歩法極まれば鎧を纏おうともウマの如く駆け抜けるという。

 それこそ、マナによる加速強化に頼るだけ彼は未熟である。

 

 彼女は呆れたように言う。

「はー、海は海で何でもデカいんだけどさ。陸は陸で大変なんだなー」

「うんまったく、どこもかしこもみんな」

くすっ

 メンタルモデルは覇濤に所属する基本兵器であるゆえに、『覇濤』の外には滅多に出ない。

 どうしても世間が狭くなりがちであるのだ。ある種の新鮮さがある。

 

 彼等彼女等は舞台が違うとも、息をする様に戦って戦って戦って生きている。

 噛み締めるそれがふさわしいお互いの実感をもった言葉、共感が何処かおかしくて、

 

 さておいて。

「それ、で。クリーブさんボクは何をすればいい?」

 若葉の少年は一通りの観察を経て、冒険者としての仕事の話に切り替えるだろう。

 

 

「ん好きに寛いでくれてていいんだぞ、どーせ一度出航したら先は長いんだからな」

「いや、流石に冒険者として依頼でここにいてそういう訳にはいかない。きっと見張りとかなら」

『太陽の腕輪』【レンジャー】【迎■態勢】

 若葉の少年は性分から手持無沙汰を嫌う、『吸血鬼』との交戦にスイッチが入った影響もある。

 故に、やるべき事を求めるだろう。

 しかしその言葉をわかってないなーと、ちっちちと人差し指を向けて、

 陽の反射に艶めく小麦色のサイドテールを揺らし、リアクションを伴いながら返す。

 

「この海原だぞ?哨戒するとしても海の下半径数十キロ警戒できなきゃ意味ないんだ。あたし達は機巧繰りでもあるから機械の目と耳がある、任せておけって」

「なら掃除でも―――」

「だーもうっ、つべこべ言わないで歓迎されてればいいって、あたしの船だぞ、あたしが法だ!」

【多目的ハイパーセンサー】【世話焼き】

 勝気の少女は多少強引に話を締める。

 以前の言葉の通りに、最近に知り合った気になる彼を歓迎するつもりで己の船に招いている。

 

【裡の海メトローム】

 彼女のとても耳がいい。感覚は船体とリンクしている。

 周囲にどこまでも、素直な反応をする彼だ。感じ取るその鼓動が教えてくれる。

 金属の甲板(ひふ)の上から、何処か少年の鼓動を感じ取るのはむずかゆい興奮があった。

 

 目の前の彼はもちろん、そんな事など知るはずもない顔だ。

 あぁ言葉にできない。盗み見る様な―――

 ……そんな背筋がぞわぞわする感覚に、彼女は無自覚に眼を逸らしている。

 

 それはそれとして。

 そう言われても若葉の少年は、対して困ってしまう。

 

「そう言われても、んー」

【田舎育ち】

 少年がいるには、ある意味場違いな場所である。やることがあれば、安心するものである。

 手持無沙汰に船の縁の近くに座り、船上から見渡すだろう。

 

「川の匂いとも違う、揺れている」

 辺り一面にひたすら広がる大海原。大波に揺れて太陽光が角度に反射に、揺らめいている。

 綺麗だ。

 

 しかし彼にとってただそれだけだ。それを表現するだけの心の空白は持ち合わせていない。

 目の前にある物を飲み込んで、認識して解釈して、それで満足してしまう。

 

「まさかぼくが。オルカの話に合った鋼船に乗り込む事になるなんて」

 

 少し前なら考えもしなかっただろう。

 

 拡がる鋼の冷たい地面、満ち溢れた"海属性"をかき回して押し出す様に、スクリューが回る。

 

 見上げれば己の身がちっぽけに見える程の塔……、通称、艦橋が聳えている。

 それだけでもはや聖錬平地に点在する『見張り砦』の様な威容である。

 

 間近に見ればまさしく桁違い、ほぅ、と改めて感嘆の溜息をつくだろう。

 それだけで『腕輪』の力を除けば、非力な己では崩すことのできやしない巨大な塔である。

 そして背中の方には立ち並んだ砲塔に、沈黙の中静かに整然と命令を待っているのである、

 その砲門の切っ先の一つ一つが、鉄塊を叩きつけるとんでもない衝撃力を持っているのだろう。

 きっと、これを見て何も思わない男の子はいない。

 

「想像以上に凄い音、全部桁違いに大きい。地鳴りみたい―――」

 しかし、若葉の少年の言葉に漏れるはつまらない在り来たりである。

、身体の芯は、魂は間違えなくその鋼の咆哮に応じて震えているのに。

 彼という心の器はこの程度で一杯一杯だ。

 冒険録の綴り手であった親友(オルカ)と違ってそんなつまらなさ、それが少しおかしい。

 

 だからこそ、彼は元より人の話を聞く方が好きなのだから。

 少しだけ、言葉に甘える事にする。

 

「おいでリコ、この程度の風なら大丈夫、もう知らない人もいないから」

「……―――ん」

【憑依具】

ぼぅ。

 若葉の少年は半身である儚紅の幼子を呼ぶ。

 応じて顕現する焔の花弁を散らして、虚空から形を結んだ手を握るだろう。

 基本に臆病な彼女は、未知たる実像におっかなびっくりの様子である。

 

 儚紅の幼子を連れて、船の淵を歩く。船体が水をかき分ける豪快の音が聞こえる。

 変わらず、風の流れに陽の光が反射し水面を銀鱗のように輝かせて揺らめいている。

 

「リコにってはどお?"世界で一番大きい物"の上のその先。ぼくには水面(みなも)がずーっと続いている様にしか見えないから、鋼船の方が新鮮だけどさ」

「……海の、その上」

【電脳精霊】【倖せびの花冠】【アナライズ】

 儚紅の少女は、促されてふわりと浮いて―――

 恐る恐る舟淵から眼下を覗き込む。受肉していない精霊である幼子は軽い。

 彼は海風に流されて行かない様にしっかりこの手を握りながら、反応を見守っている。

 

「……鋼船、凄い熱量……。水属性が循環してパイプを通ってる、歯車(ギア)の鼓動が聞こえる。本当に一杯詰まってる」

「やっぱり、リコにはぼくに見えないものが見えてるんだ」

 幼子は、その"大きすぎるもの"に食い入る様に魅入りながらしばらく漂う。

 海風に流されて、その結合が微かにほろほろと崩れる、薄紅衣から人魂の様に尾を引いている。

 

 奇跡の如く成り立ちの精人のある種、それは幻想的ですらあった。

 

 相性が良くない精人は、マナ結合を阻害する"海属性"が極端に強い場所ではこうなるらしい。

 彼は舟縁へと腰を下ろす、そして。

 

「ほらこっちに少し辛いでしょ」

「ん」

『絆の相刃』【精霊術師】【憑依具】

 膝の上に招き、溶けてしまわない様に、体温を共有し合ってマナの輪を結び直す。

 彼は精霊術師である。

 炎と空の混合属性、空気があれば炎は燃える、己が在れば火種はある。

 海風の中であろうと、体温を分け合う様に感触にその調子を確認して燃える為に調整する。

 

 そうやって食い入る幼子の前の光景に、圧倒されていれば。

 鋼船の舵取りを一段落終えた少女が、いたずらな笑顔に近づいて―――

 

ぱしんっ!

 背後から間近に、ちょっかいを掛ける。

「よー!大人しく何やってんだよ。滅多に体験できない遊覧楽しんでるか」

「えっと、せっかくだからお言葉に甘えて?でも仕事があるなら振ってくれてもいいんだよ」

「残念ながらまだないなー。言っただろ?『舟娘』(あたしたち)の庭だってそれとして乗ってみてどーだ?どーだすごいだろー」

【おねえちゃんだぞ!】

 少女はその背を強く叩いて、そのまま少年の背中に体重を預ける。

 背中から手を回して、膝に座っている儚紅の幼子の頭を撫でる。

 風が強く吹く、小麦色の髪が解れて少年の首元を擽る、この微熱を押し流す様に。

 

「これがあたしの『クリーブランド』だ。やっぱ男の子はこういうの好きだろ」

「そりゃとても、やっぱり乗ってみると全然違う、音の迫力も何より風が―――ただその、ちょっと。顔が近いです」

「別にいいじゃんか、あたしは気にしないぜ」

 

 あっけらかんと自分がしたい様に距離を詰める。

 変わらずまるで男友達のような距離感、田舎臭さの残る少年をからかう様にである。

 

「ボクが気にします。クリーブランドさん美人だから、大事にした方がいいよ?」

「……っうぅこほん!」

ぞくぞくっ

 何気ない飾り気のない言葉。

 勝気の少女の背中に一際強い痺れが、指先に特に小指に甘い痺れが走る。

 そのこそばゆい刺激に、自然に頬が赤みを増して緩んでしまう。

 

「と、とにかく!件の不審船(アンノウン)を補足する哨戒任務だ。『クリーブランド』の甲板に何か取りついたら働いてもらうかんな!それまでリコと一緒に寛いでるといいさ!」

「はぁ、なんかあるまでどうしても暇になっちゃうか、もどかしいね」

 

 なんだろうか、なんだろうかわからない。ただここで距離を離す事は負けた気がする。

 少年の背を向けているから、どうやら顔を見られていない。

 そんな事に安堵する、そんな勝ち負け一人相撲である。

 

 まだ指先が痺れてくすぐったい。

 少し距離を離して咳払い。話を逸らそうとする。

 そんなの奇妙な緊張中。

 

「―――来る」

「何が?」

「知ってる人」

 そう呟いて。

 膝に座っている幼子が海の先を指さすだろう。

 

【迎■態勢:怨敵覚悟】

 目を凝らせばその彼方、雲の懐に一筋の影が走る。

 若葉の少年は念のために愛剣を手に取って中腰に、ちりと少し空気を燃やして鼓動が増す。

 

「確かに、何かがこっちにくる」

「ちょちょ、だから手が速いって。今こっちにも提督から電信が来たな。"哨戒機巧ガ補給二降キタレリ準備サレタシ"、もしかしたらそれの事か?」

「ん、多分」

【凡人提督】/【メンタルモデル:テレパス】

 少し時を置いて電信が彼女の耳をよぎる。

 空を往くその機動性を考えれば当然というべきか、

 どうやら"機巧"(ギア)の類も、今回の不明艦(アンノウン)の捜索に駆り出されているらしい。

 きっと哨戒へ補給能力を持つ艦を経由地点として、渡り飛んでいるのだろう。

 そう軽巡クラスである『クリーブランド級』は、母艦とまではいかないが、最低限単純ながら機巧の運用能力を持っている。

 

「……!、見た事ある機体」

 彼方から、儚紅の少女が言葉の通りそれは迫り来る。

 徐々に大きくなっていく。

 青色の機体、量産型に応じた簡素なパーツの組み合わせた、彼はその"機巧"(ギア)を知っている。

 

 微かな期待に、呼吸が緩む。

 

シャ!しゃああああああ……!

 

『空戦機巧:LIEON(リオン)』【蹈鞴を踏む様に】【タップウォーク】

 上がる水飛沫速度を維持したまま海面すれすれへを飛び、艦への距離を目視で確認して

 連続する水面接触と逆噴射水きりの様な軟着水する。

 簡略化された部位構造(モジュール)

 量産型ゆえに細い脚部でありながら、その技量でしっかり水面を跳ね速度を殺し落ち着かせる、

 それは機巧操りの技量を示すだろう、それは本来の水上機ではないのだから。

 

 空戦機巧リオンは、水面をゆっくりすべりそのまま鉄船へとゆっくり接近する。

 

「おーいそのままそのままー、相対速度はこっちで合わせるから」

「手伝う事は」

「ん?まぁ私は速度調整に忙しいから、補給用のケーブル準備してくれると助かるな」

「わかりました」

 探照灯を明滅させて、光の明滅によるモールスで意思の疎通を取りながら。

 相対距離を調整し、最終的にゼロにする。

 そのまま、『クリーブランド』が後部甲板に備えるクレーンで釣り上げるだろう。

 

 備えられたクレーンによる牽引による留保、それが母艦としては最低限の機巧運用能力である。

 

「おっも」

ガシャン!ずる……!

 若葉の少年はその間に機巧に備えれれた、マナ動力の媒質を補給するパイプラインを

 格納から引きずりだし準備する。これがなかなかに重たい。

 

 クレーンに吊り上げられた機巧が近づく、エンジンが落ちて排気音が響くだろう。

 

―――そんな中。

 

 クレーンに持ち上げられ舟縁へと固定された機巧にコクピットが開いて、

 特徴的なパイロットスーツを着た青髪の女性が降りてくる。

 

 彼女はヘルメットを外し、髪が溢れて風になびく。

 何処か冷たい雰囲気の青髪のショートと星の髪飾り、微かに機械油の匂いを感じる。

 そんなお嬢様めいた風貌とアンバランスな雰囲気、肌に密着したパイロットスーツを纏った細身の乙女である。

 

「誘導と牽引、感謝します。哨戒任務に続けて次の艦に乗り継ぐ為の補給を―――ん?」

『IFSパイロットスーツ』【機巧操り】【射撃姫】

 期待に紐づいてやはりというべきか、その顔に見覚えがあるだろう。

 凛と何処か冷たい、なびく風鈴の様な声をである。

 手を振る。それは偶然というべきか、異国の地にて巡り合いがあったようである。

 

「……あら、何処かで見た顔と思えば"冒険者"こんな所で」

「お?なんだ知り合いなのか」

「うん少し前に大きな事件がありまして、その時に一緒に戦った"戦友"です」

『八相事変;蜃気楼の氾濫』

 そう、高山都市『ドゥナ・ロリアック』にて―――

 『碑文八相』が波の一つ『惑乱の蜃気楼』(イニス)を迎撃し滅ぼした勇士の一人。

 きっと恩人である鋼の男の後継者である。

 

「あれを大きな事件扱いですか、あの時もあの後も『高山都市』(ドゥナ・ロリアック)は大変だったのですよ"冒険者"?」

「さては流浪の貴方は知らない事でしょうか」

【クーデレ】【駆動騎士】(ギアナイト)【鋼の信仰者】

 青髪の彼女は少し呆れた表情で言う。

 彼が冒険者である事に多少皮肉気に交えて、しかし反してその口調は柔らかい。

 

 そうある事が、そのままが喜ばしい事の様に。

 彼女を知る人間から見れば、それは普段に見る事が出来ない上機嫌さだろう。

 

 若葉の少年は少し困って、頬を掻くだろう。

「あ、あはは……少し無神経だったかな、とにかくお久しぶりです」

「ええ、久しぶりです。とにかく互いにまだ壮健のようで何よりなのです」

 

 知古との思わぬ再開に、彼らは気軽にこれまでを談笑する。

 つまり彼等にとって、なつかしい"戦友"であり、一方的な"同志"でもある。

 

 しかし。

「……むぅぅ」

【乙女心】【裡の海メトローム】

 勝気の少女は、その光景が少し面白くない。

 己が知らない話をしてるのもそうだが、己に見せてくれない声色をしてるのもそうだ。

 

「ここ、あたしの艦の上だぞ」

 ぽつりと困惑を八つ当たりの呟き、友人が旧友の再会したというのは、本来喜ばしい事だろう。

 楽しいは分け合える。普段であれば、きっと己も話に混ざりに行くところだというのに。

 それに仕事には関係のない事である。

 気質的に嫉妬の感情が遠い、自覚ない彼女はその感情に―――

 

「はいはい。ほらほら!!まず機巧(ギア)の補給だろー!お喋りしてないで次の作業!早くケーブル繋げるんだ」

「ああごめん、わかったこれどう繋げばいい?」

 ぱんぱんと大きく手を叩いて遠方に叫んで遮る。

 しかしどうしても、その例えようのない胸の奥のモヤモヤが募る。

 

 そんな一幕もありながら知ったことはないと、鋼船は大きな海を悠然と進むんで行くのだった。

 

 

 

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