ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
―――【覇濤首国クトゥルー:セレクティブ近海】
果てしなく続く海原の風景。相変わらず、彼等彼女等は船の上にいるだろう。
大海を行く鋼船は唸りをあげて、切っ先が水を引き裂き。
ごうんごうんと。
鳴り響く途切れることなく波の揺れと、動力パイプの駆動音が混ざって空気を叩くのである。
その艦上に幾人の影が見えるだろう。
「そういえば、貴方もこの『覇濤』に用があったのですか?」
「うん、みんなで観光目的。そちらもお元気そうでよかった。」
『IFSパイロットスーツ』
若葉の少年は、
機巧乗りの女は、小休止にタオルに首筋の汗を拭き、携行用のボトルで水分を取っている。
その小休止合間に、彼等は知古との思わぬ再開に、互い気軽に談笑する。
戦場を経験したもの修羅場の一線を越えれば、立場に関わらず何処か連帯感も生まれるものだ。
きっと戦場に在るべき戦友、もはや修羅場に塗れた若葉の少年の気質も相まって、
日常にあるそれより、ある種の気安さがあるだろう。
「むーなんだ。その、
「うん。だからこんな所で会うとは思わなかった」
「ええよろしくお願いするのです。『メンタルモデル』の、クリーブランドさん、でしたでしょうか……?」
勝気の少女は鋼船の手振りで操舵をしながら、その様子を不満げな見つめて問いかけた。
ただ、理由は自分でもよく分からない。
彼が自分の知らない話をしているのがいやだった。
彼が自分の知らない声色しているのがいやだった。
青髪の彼女が上機嫌なのもなんだろういやだった。
ぎゅう
白磁のクロークの上から己の心の臓の握る。
(……どうしたんだよ。らしくないぜ、あたし)
もどかしい指先の痺れがもやもやが募る。
もちろんそんな事は口には出せない。誰かの前ではかっこいい私でいたい。
しかし、どこか自分の知らない話には興味はある。
だから眼を逸らして笑みを浮かべて話に混じろうとするのである。
そうだ。
きっと誰かの楽しいは分け合えるのだから、それがいいと切り替える。
もちろん、勝気の少女のそんな胸に過ったもやもやを彼等は知る由はない。
気に留めずに、変わらずの調子で世話話を続けるだろう。
「それにしても調子がよさそうですね。何かいい事でも?」
「ふふ、ええわかります?そうなんです冒険者、聞いてください」
若葉の少年が、彼女のその上機嫌の疑問に問いかける。
普段張り詰めた水面の如くクールな表情を崩して、声色は無邪気に嬉しそうに答えるだろう。
それこそ聞いてくださいと自慢する様に。
「あれからなんとこの度"隊長"と同じ、空戦機巧
「……!それはおめでとう!よかった。貴方にとってそれが特別なものだって知ってるから」
「ええ、ええ。しかしやっと入り口なのです。"同じ場所"を翼で追いかける事が出来る」
彼女は誇らしくあふれ出る喜色のまま、宣言する。
それが彼女にとって特別なものだと知っている彼は、ぱちぱちと手を叩いて祝福するだろう。
彼女の知らない話で盛り上がる、やはりわからない話だ。
「"隊長"がいなくなって、私が臨時代理でそれを私が務めていたのです。あの後も高山都市『ドゥナ- ロリアック』周辺はキナ臭さが残っていました。ひたすら飛んで撃ち抜いてましたら、受領を打診されまして」
「あー……、とにかく活躍が認められたんですね。僕たちは関わらなかったけど、やっぱり荒れたんだ
若葉の少年は思い返す様に。もはや懐かしさを覚える様な話に呟いた。
この世界において、一般的に高性能な"機巧"は安くはない。
単純に高性能機巧の受領は、その乗り手の技量に対する期待と信頼を表すものであるだろう。
「という事でリオン系統の機巧は『桜皇』からの輸入品、だからこうして機体の受領に『セレクティブ』の港に出向したという訳なのです」
「えぇ……?普通こういうのは機巧の繰り手が直接取りに来るもんじゃないぞ。荷揚げされたらそのまま内地の運搬に引き渡すもんだろ」
「はい、しかし居ても立ってもいられませんでしたので、人生は短い一分一秒でも早くです。この翼を得て初めて私は追いかける事ができるのですから」
勝気の少女が突っ込み、
若葉の少年はそのやり取りに苦笑する。その事情、思い入れを知っている。
ましてはこれは彼女にとって憧れであり、果たされなかった約束の機体なのだから。
一時期、喪失にスランプに陥った彼女を、知っているがゆえになおさら喜ばしい事である。
しかし確かに直接、名乗り出待ちの受領を申し出たのは笑うしかない。
その眼の輝き含めてまるで、誕生日の
「全てはこれからの話、私は辿り着くのです。あの日見た"流星"に、同じ場所へ
【鋼の信仰者】【その涙は枯れてなお】
青髪の女は鈴の鳴る様な声で謡うように、宣誓する様に言葉を転がす。
その手に首にかけた起動キーのネックレスを握って。
彼女は、もはや己の中で"消失"を昇華させている。
ある種、信念に殉じる信仰者の如く所為であるだろう。
しかし、やはり部外者である彼女にとってはわからない。
一人置いてきぼりである。それは事情の知らない他の誰が見てもおんなじ事だろう。
直感的に、何処かその様子に危なさを感じ、そっと隣の彼にこっそり耳打ちに聞く。
「お、おぅ。どうした彼女、いきなり陶酔したみたいだぞ」
「まぁ色々あるんです。気にしないで、ボクにとっても"隊長さん"は恩人だから、入れ込む理由はわかるんだ」
『死神事変』
それを察して若葉の少年がまた苦笑しながら、気にしない方がいいとフォローを入れる。
彼等にとって先に行った"戦士"の話であるが、
『死神事変』の話は、人死の伴うきっと詳細は語るべき事でもないのだから。
「こほん。つまりは―――えっと、なんだまぁおめでとう!憧れの人と
結局、彼女はそして最終的に思考を放棄した。
その手でぱちぱちぱちと、叩いて同じように祝福する。
「ええ、ありがとう。しかしどうやら急ぎ過ぎてしまいました。機体はまだ遅れてる様で届いてないのです。腕が訛ってしまうから、海環境の慣熟訓練の名目で"港"の手伝いをと、3枚ほど上申書を書いた結果ここを飛んでる訳なのですが」
「所属が違う所だぞ、さっきからちょっとおもしろアグレッシブすぎないかアンタ」
【牙の塔卒業者】【政治知識Lv2/5】
更に出た膨らんだ普通じゃない行動に、再度突っ込む。ただその一直線に目を丸くする。
さらっ言うが、クールな見た目に反してた行動力である。
きっと『覇濤首国:セレクティブ』で、その上申を受理した者も困惑しただろう。
積荷が遅れている負い目があるとはいえ、そも曲がりなりにも"騎士"の称号を持つ彼女は『聖錬』所属である。そこには所属の区切り壁があるはずだった。
どうやら、それがまかり通る、説得をなにかしらの理屈を叩きつけたらしい。
勝気の少女はため息とともに額に手を当てて。
「そんなのまるで空に憑り付かれてるみたいだぜ。気を付けた方がいいぞー」
【世話焼き】
物事には限度がある。ただ尽きず飛びたい、飛んでいたい。それだけの理由である。
勝気の少女はその世話焼き癖に、ついつい小言の様に諫めてしまう。
「"海"でも憑りつかれた奴はいるけどなー。海に慣れ過ぎて陸に上がれば平均感覚の喪失とか、属性中毒とかで、変な所で躓いてあっさり死んじまう事もあるんだからな」
「……そうでしょうか?気を付けましょう。少なくとも陸の上で死ぬのは、ごめんです」
「ふふ」
「カイトもなー。笑ってないで止めたらどうさー。友達ならさ、見たら分かるだろ危なっかしいの」
「んあ?ぼくはひとのこと言えないし」
初対面の印象はクールな女性だと思えば、何処か危なっかしさを感じる惚けた女であるらしい。
彼女は『覇濤』外の世界は拡いなと息を吐くだろう。
しかし、実の所外の世界の中でも、一度日常が崩れて溶けてに歪に固まった
彼女は知る由もない。
それはさておいて、話はこれからの事に切り替わる。
「とにかく、なら『覇濤』には長くは居ないんだ」
「ええ、もちろん機体受領しましたら、調整してさっそくそのまま持ち帰りますとも」
「なら杞憂かもしれないけど一つだけ……、この『セレクティブ』の街にもキナ臭さが燻ってるらしいよ」
若葉の少年は知古に話すだろう。冒険者としての守秘義務がある。
詳細は暈して、人間を機械の部品の様に扱う誰かの話の残骸を、今護衛として動いてる理由を。
何よりこの『覇濤』に身を置いて感じた戦の匂いをである。
「まだ何も見えてないけどさ、僕らは襲われたから、この『覇濤』の街で」
「そうですか。なるほどなるほど。なら私は
若葉の少年の遠回しな噂話。
それを聞いて青髪の女は、あっさりと必然と起こるものとして受け入れただろう。
『覇濤』は基本は平和だ。若葉の少年はあっさりと真っ直ぐ受け入れられて逆に困惑してしまう。
「意外、冒険者のこんな根拠のない話。あっさり信じてくれるんだ」
「当然です。貴方は"同士"なのですから」
「?」
若葉の少年は、その"同士"という響きに首を傾げるだろう。
その反応に、そういえば今更ながら、実際にこれを口にするのは初めてだったと思い返す。
「あぁ、"隊長"からもよく言われていましたが、勝手にわかってもらえると思うのは悪い癖ですね」
「はぁ、ぼく何か忘れてたりします?」
「気にしないで、性分はなかなか治らないモノです。では伝えましょう」
【牙の塔出身者:エリート兵】【クーデレ:言葉足らず】
少し思い返す。
あのタバコの匂いと供にリフレインする、"分かってもらえると甘える"のは悪い癖だと。
そう、機巧に背を預けて諫める彼に、仄かに香った思い出の匂いがまた少し笑う。
"この頭でっかちの口下手め"と言われたその日は、まだ己惚れていた己は、反発して存分に彼に噛みついたものだ。
そんな思いでの残り香、さておいて。
「"冒険者"、貴方は私と同じ見届人なのです。だから私は貴方を"同志"だと思っています」
「ああ、そういう事か」
一呼吸、言葉を区切る。
それだけで、若葉の少年には伝わった。その位には目の前の少年にも根付いているようだ。
わかってたことだが、それが嬉しい。
あれから時間が経っているが、わかっているがなかなか変わらないものだ。
「ええだから―――我らが隊長の最後『彼方の流星』、強く覚えていてくださいね」
青髪の彼女の心を強く焼いた。『死の恐怖』を墜落させた流星の慣行。
命の蹈鞴に衝突に強く強く弾け、そして己から離れていってしまった憧れのあの人。
いつか同じ軌跡を描いて、同じ場所に行きつく。
そうすればまた出会えると信じる、堕ちるべき場所の光景。
手招きはしない。ただただ、覚えていてほしいと。
理解者がいれば、『鋼の信仰者』たる彼女は独りではないのだから。
●●●
小休止は終わり。
そんなこんだで
強い
「補給感謝します。では再び哨戒任務に戻りますのでまた―――」
「うん、久しぶりにお話しできて楽しかった」
青髪の女はクレーンに吊り下げられ、係留された機巧の乗り込んで。
互いに手を振って別れを告げるだろう。
そしてコックピットに繰り手を収めて、目覚める様に機巧自体に光が走りエンジンが唸り鳴る。
「オーライオーライ」
軽巡洋艦『クリーブランド』に、
最低限の機巧運用機能である。寄ってその発艦は曲芸じみたものになるだろう。
クレーンが動き、海面へとゆっくりゆっくり動かして。
ぼぅん……!
水面に、近づき、メインカメラに光が灯るで明滅のモールスの如く主張するだろう。
それは符合である。彼女はそれを受け取ってタイミングを合わせて……。
「おーい。本当にこれで大丈夫なのかー、結構海面遠いぞ?」
『――――――』
了承の明滅、
一度とどめての最終確認である。
「あいよじゃ
ガシャン!
勝気の少女の手振りに、クレーンの宙にて解放され水面に自然落下する。
その合間に機巧に搭載された動力源がうなりをあげる。
【鋼の呼吸】【継承・緊急機動】
ゴォオオ!!
急速発進、加速に速度に空気を押し出して、海に押し付けてその風に乗る。
更に出力を上げる拍子にその簡素な脚部で海面を蹴り、一気に浮き上がるだろう。
シャアアアアアア!!
ド派手に吹き上がる水飛沫。
本来、フロートなどの専用の
海面をそのまま滑走路に、
「おー、こりゃノーマル装備で海面からなのに綺麗に飛ぶなぁ」
「うん、ぼくは
甲板の上で二人は手を振ってその光景を見送りながら、
遠くを眺め感嘆の声を重ねる、彼はなんかは少し自慢げですらあった。
それはそれとして
若葉の少年が補給用のパイプを円に巻いて格納場所に片付け、背後からその様子を眺める。
勝気の少女は熱に浮かされたように、無意識に手を伸ばす。
「なぁ」
胸に詰まるもやもやは消えていない。
当たり前だが、目の前の少年にとって知っているのは多くない事を実感させる。
掴まえた時間は少しだ。どうしてもそれはたった少し思い出になってしまうのだろう。
ずるいずるい。
前ばかり見る彼女が誰かの想い出なんてに抱いた初めての嫉妬。
彼の鼓動を感じる。足りない、足りない。違う、もっと私には―――
捕 ま えて ど うした い?
「―――!」
その答えに行きつく前に。
はっと、その首筋まで手が伸びた所で、呆けた心に機械による電信が走る。
ふと白昼夢から醒めたように心が海の戦場に切り替わる。
いつの間にか、無意識に彼と近づいていた距離に困惑しながら。
「どうしました?」
「え、あぁ。南南西の方向から何か來る……、何だこの機械音みたいな鳴声、応答なし
勝気の少女は耳がいい。彼方に拡がる海原のさざなみから違和感のある音をいち早く拾い。
指向性のセンサーを向けて、それを確かに捕らえ確信に変えて叫ぶだろう。
後続の艦に向けてけたたましく、サイレンが鳴り響く。
「そっか、敵か。目標をレンズで目視します」
『太陽の腕輪』【レンジャー】
若葉の少年は左腕に装着された魔具により、大気の屈折率を操作して巨大レンズを作り出した。
"海属性"による操作しずらさはあるが、広大な海原の視認性はまるで草原の如くである。
「大きな鋼鳥を中心とした群れ?モンスターの鳴き声の真似による
『ハヤブサのレイス;人工音声』【漂流物の器】【ハイ・ファミリア】
レンズ焦点に像が結ぶ、そこに映るのは『鋼の怪鳥』を中心とした大群れだった。
現代における
それこそ、尋常の数ではない空を確かに黒点に汚すほどの群れ―――数は少なくとも数十に迫るか。
若葉の少年は危機感と同時に困惑を抱くだろう。
その理由は―――、
「あの、そのクリーブさん何食わぬ顔で、でっかいお魚が飛んでるのだけど」
「?、あれサメだぞ何言ってんだ。空くらい飛ぶだろ」
「ああそう、え。そうなのかな……?」
【フライング・シャーク】【古代の血脈】【環境適応:鮫】
そう数メートルあるだろうでっかい鮫が、さも当然の如くと悠々と空を泳ぐ姿である。
群れの中心に『鋼の怪鳥』の存在もあり、酷く不自然でアンバランスな群れに映るだろう。
しかし、海で生きる彼女はその光景を当たり前の様にスルーしている。
サメとは何だろう。
若葉の少年はそんな違和感を飲み込むしかないだろう。
それはそれとして、警笛がリズムを刻んで、アラームの代わりとする。
外敵の接近に、けたたましく鋼の艦列は動き始める。
『―――ダウンズ、リョウカイ』
『―――カッシン、後方二ツヅク』
『駆逐艦・マハン級』【護衛艦:
周囲の反応が速い。あっと言う間に砲撃の為の陣形が形作られる。
海戦における陣形は観測点を、多角的視覚を組み立て共有させ砲手の補助をそういう役割もある。
機械混じりなりの彼女等の情報に塗れた世界。
「『魔導文明』の遺産か『預験帝』のガラクタか、舷側を南南西に、梯形陣で減速展開で巡行―――とにかく砲を向ける、あの数は流石に近づけたら不味い!」
【旗艦:リーダーシップ】【航海術】
勝気の少女がクロークとサイドテールを揺らして、手振りに鋼船を動かし迎撃の準備を整える。
ギギギギギギっ!
砲塔が回る音、内部から重々しい装填音、様々な鋼の軋む音が響くだろう。
『軽巡洋艦:クリーブランド』が誇る、大小十二門もの砲塔が一斉に彼方を向いて準備が整う。
「耐ショック体制!カイトもちゃんと耳をふさげよー!」
「わかった」
「よし第一射、ファイアーッ!!」
若葉の少年は警告に応じて魔具を解除して両手で耳を塞ぐだろう。
―――ドォオオン!!
『38口径 連装5インチ砲』
重なる炸裂音、身体を叩きつける衝撃波、周囲に充満する火薬の匂い。
その破壊の放物線は確かに『鋼の怪鳥』の率いる群れへと向かい。
ババシャァァン!!
しかし、外れた。微妙にずれて彼方に虚空をきって水柱と変わる。
砲撃の余波に頭を叩かれたか、数匹の鮫が大海に墜落するにとどまるだろう。
「―――着弾観測、仰角20度修正、相対速度を推測、風向きは変わらず、さて」
しかし、その瞳は鋭く海に生きる彼女はそれは想定済みである。
二段撃ち、ワンオペゆえの着弾予測の修正の速さ、上がる水飛沫から次の砲弾の軌跡を推測。
先に撃ちこんだのは3門のみの牽制射、セオリー通り、次こそが本命である。
「次は中てる」
獲物の彼方に宣言、指を刺し向ける。
『『『―――ドドォオオオオン!!』』』
【強襲指令:全弾発射】【ガンズマスタリー:
呼応する様に衝撃がまた空気を叩くだろう、間髪入れずの第二射の衝撃波である。
その言葉の通り、それは空を汚す群れを過りその火薬の力を炸裂させる。
盛大な花火が彩る、手動式の炸裂榴弾である。
随伴駆逐艦の小口径砲の掃射と併せて、接近する群れに大穴をあけた。
まさに一掃である。
「……っ!すごっ空気に殴られたかと思った」
「まだ最初の砲撃の衝撃で海に叩き落ちたのが、気を取り戻して海の中からくるぞ相手頼んだ!」
「え、あんな悠々空飛んでたのに、結局海も泳ぐのこいつら!?」
「そんなんサメだから当たり前だろ!」
やはり若葉の少年の、"鮫"とは何だという疑問をさておいて状況は進んでいく。
勝気の少女が鋼船の方に集中するならば、確かに打ち漏らしの対処は彼の仕事だろう。
愛剣を抜き構えて艦端に立つ。
「とにかくやっと仕事だ」
【舞武】【精霊術Lv2/5:
海属性に燃えずらい。呼吸を深く鼓動を増す、
いつもより多い手順に、精霊術にチリチリと周囲を
護衛である。目立つ為だ、生きのいい獲物の様に障害の様に振舞うのである。
そしてしばらくして、その餌に釣られたのか海面を叩いて二匹の鮫が甲板に食らいつくだろう。
『『ギッシャアアアアア!』』
【フライング・シャーク】【血の興奮】【悪魔の大顎】
近くで見れば普通に3m程もある、中型種に相応する巨躯、その象徴である大顎にて襲い掛かる。
より大きく齧りつく為に大きく開かれる顎、覗く赤黒い歯茎はまるで悪魔のような形相だ。
「だからなんで飛べるのかなぁ!?」
バッ!
若葉の少年は後退、まだ間面に刃をぶつけずに様子を見るだろう。
その図体は陸の中型種相応のそれである、
彼の片手剣では魔法剣込の出力も下がっている、通らず質量負けするかもしれない。
ある程度の冒険者は、決して初見のモンスターを甘く見ないのだから。
「……いっつ」
【サメ肌】
すれ違うに纏う
大顎の攻撃性、鱗の鋭さと頑強性、彼の挑発に艦縁を隔て、正確に襲い掛かった感知方法……。
獣狩りの冒険者の経験から、直観的に彼は判断をする。
「頼ってるのは視覚じゃない。嗅覚探知でもない」
【レンジャー】【聖錬冒険者】
その大顎を活用するならばどうしても視覚は塞がる、歯茎が禍々しく露出する程の構造だ。
水の境界から陸の匂いは絶対にわからない。空気と水はあまりに違う、経験則である。
「なら熱感知か、オドによる感知か、
【ロレンチーニ機関:電位感知】
時間は掛けられない。すでに動きながら臨機応変に対応する。
実の所若葉の少年の推測は的外れだ。
"空属性"混ざった炎に電位差の感知が反応しているだけ。
ただそれは重要ではない。しっかりオドの残り香に、釣られている事だけが重要なのだから。
焔の残滓を遺しながら足を止める。
敵対者の最悪を、すでに慣れ切った彼にとって後は簡単だろう。
『ギシャァ!』
【喰らいつく】【痛恨撃】【悪魔の大顎】
先程からちょこまか逃げ回った相手が足を止めたのを観測した。
自慢の赤黒く充血する悪魔の様な大顎は、鉄板すら引きちぎるだろう。
その歓喜に本能に染み付いた人類への殺意と食欲に、柔らかい肉を引きちぎろうと大顎を開けて。
ガチン!!
【精霊術:Lv2/5:
そう、噛みついてから考える。振り回せば引き千切れる、その習性が仇になっただろう。
そして食らいつく、噛み潰す、その彼から尾を引いた炎の木偶を―――
―――ポーン♪
その特徴的な破調ラ音が響いた。
鮫が大顎が閉じられ戻ってきた視界に、獲物であるはずの人間が拳構えているのが映る。
「おいしかった?じゃあ死んで」
ズガァン!!
『黄昏の腕輪:シェルクラッシュ』【腕輪の担い手】【狂羅輪廻】
そのまま無防備な頭に拳を捻じ込む。
腕輪の障壁展開が衝撃を併せて、バッシュの如くタイミングに殴りぬいた。
軟骨格たる頭蓋は柔らかく、確かに潰し砕けた手応えが返ってくる。
『ブごぉおオぉぉ!?』
ばしゃぁン!!
柔らかい鼻柱が陥没する様にへこむ。
海ポチャ、甲板の淵にぶち当たり豪快に跳ね飛んで、そのまま海に落ちていくだろう。
なお、殴ったのは死骸が甲板に転がっていても邪魔、船外に吹っ飛して片付ける為である。
「ふぅ」
繋がった炎の
しかし、それでも敵対者の最悪を選ぶのが、狂羅の輪廻に堕ちた彼等の性質である。
後は簡単だ。
大顎を開いた瞬間であれば、視覚が塞がっている故に特に効果的だろう。
同じように3匹の鮫を殴り殺して海に返して、勝気の少女の方に向き直る。
「終わった。そっちはどう」
「あぁこっちも鮫の方は全部撃ち落とした。後は反応はない、けどあの『鋼鳥』だけ近づいてこないんだ。退かないが、ビビった訳でもなさそうだ」
【裡の海メトローム】
指を刺した方向にいるのは、群れを嗾け相変わらず距離を保って周囲に飛び回る鋼鳥である。
『ハヤブサのレイス』【漂流物の器:飛行】【高所偵察】
ズドォオン!!
ふらりはらりと
それこそ砲撃音に併せて高度を切り替えて対応しているのだ。
「まるで何かを待っているみた―――」
絶妙な距離、手を出しては来ない、彼女は砲を向けて牽制し続ける。
まるで砲撃戦のセオリーをそれを知っているかのよう―――。
そして緊張に答えを示す様に突如に途切れる。
「!」
【裡の海メトローム】
海中から来ぽこぽと何かが、浮き上がる音が聞こえる。
あぁ、接近に気づかないのは砲撃音に隠されてしまったか、どうやら足止めされたらしい。
「―――緊急退避ッ、対潜防御急速前進!!」
【旗艦:リーダーシップ】
全体に号令を、手振りに、マナ機関を叩き起こし舵をきるだろう。
鋼船はその鈍い巨体を起こして。鈍く回避運動に波を引き裂く。
勿論、船底は弱点である。食い破られればひとたまりもない。
カシュン……、ひゅうううう!
『駆逐艤装・マハン級:爆雷投下』【カバーリング】【飽和爆破】
僚艦は意図を察したか散開運動と供に、海中に爆雷を投擲する。
ボチャン!!ドォオオン!!
そして炸裂する、"海属性"に満ちた海流の整合性が乱れ派手に練り乱れるだろう。
浮上しつつある"それ"の勢いを微かながら押し留めてる。
間一髪、辛うじて『クリーブランド』の舟底を掠って削り、船体が強く揺れるだろう。
それは近く『覇濤首国クトゥルー』都市伝説の様に語られる怪物の話―――
ザバァァア!!
「な、なにが来たの!?」
それは歪な船だ。潜水する艦はあれど蛇の様な船体などあるものか。
『幽霊船:フォルネウス号』【魂鋼:宵水星】 【水底からの呼び声】
海面に姿を現すだろう。その姿は機械仕掛けの大蛇の如く、錆び付いてより禍々しく。
―――■■■■■■!!
マシンの軋み同士が重なりあい反響して、形容しがたき咆哮の如く鳴り響く。
非合法に付与された【阿頼耶識】という機械の適合、"ゼロ"に連なる
【りヴぁ■あさん・し■ゅ■む】
例えるならば
マナに満たされたこの世界においては機械の類とて適応の可能性を得る。
突如の襲撃、巨大なものはある種の畏怖、威圧感を与えるだろう。
「……っ、何だあれ空飛ぶ魚の次は、機械仕掛けの怪物……?!」
若葉の少年は振り落とされぬように姿勢を低く堪えながら、困惑の言葉に睨みつける。
その大蛇は見下ろして首を傾げ、その機械仕掛けの大顎を開くだろう。
『―――あひゃ』
【海賊娘】【メンタルモデル(偽)】【違法改造個体】
そして何かの攻撃の予兆かと思えば、
大蛇の怪物の咢より覗くのは、羽衣の様な機械羽を背負った少女である。
"畏れ"に化粧された禍々しい気配、浮き上がる痛々しい手術痕。
瞳は禍々しく見開いて無邪気に無邪気に嗤って笑って、巨大な銃口を向けている。
「え」
勝気の少女は頭上を見上げて、呆気に取られて思考を止まる。
変わり切った気配だが、彼女の事はよく知っている見間違えるわけがない。
「レヴィア…!?」
本来それは海より純粋な、生来澄み切った宝石の様な両房の髪であるはずだったのだ。
その目は寂しがり屋で、その指は銃口なんて似合わないず結び手を引かれる相手を探していた。
あんまりに、変わり果てたかわり果てた探していた大事な義妹である。
しかし。
『―――■■、奪う■れす』
その思いは一方通行に、怪異の少女はにんまりと笑う。
背から延びる本来艤装の接続部であるはずのアンカーを大蛇に接続して、生っぽく響く。
【略奪本能】【舌足らず】
あまりに自然に躊躇なく引き金に指を掛けて。
エネルギーの供給を受けて、出力に応じてその手術根は痛々しくより浮き上がる。
『双銃デカラピア』
―――砲撃の魔力光が奔る。
それは四章級の魔法に匹敵する魔砲による砲撃が平穏な空を焼き払う。