ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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乱舞【運命の預言盤】

 

―――【覇濤首国:セレクティブ】

 

 先の襲撃者、同一の四機で構成された、機巧小隊。

 そんな所属不明機が荒れた海上にホバーして周回する。

 『聖錬』で多く流通する『ゲルググ』その海局地戦(マリーネ)に改修された機体である。

 

『ゲルググマリーネ』『対海反応塗装』(マナコート)

 しかし局所戦仕様といっても、仕事が終われば他でも使う商売道具だ。

 根本を専用に改修する余裕も金もない。

 所以に、機密性の補強以外は、"海属性"を弾くこの塗装が改修の本体と言える。

 そんな機体である。

 

「目標発見」

『シルト式通信機』

 くすんだ赤髪の女がヘルメットに埋め込まれた通信機に声を吹き込んで。

 先の奇襲に戦隊に対して一斉射した後は、戦場より距離を取って浮かんでいるだろう。

 

「予定通り、傭兵各々降下しました」

『ゲルググマリーネ』【機巧操り】(ギアドライバー)円卓の機巧隊(ラウンズナイツ)

 機巧(ギア)がコクピットの中で眼下を冷たく見下ろす。

 傭兵を引っ張ってきたポットを降下させて、飛び切りの血染め(ロクデナシ)どもを投入した。

 

 艦の無力化の後、"護衛対象"を届ける予定であった。

 砲撃を避けながらその後は距離を取って、事の顛末を見守っている最中である。

 

「どうする、まだ邪魔な冒険者が幾人かいるようだが」

「けけ、やっちまおうぜ『覇濤首国』の鉄船なんざどでかい標的。沈めたら一生の語り草だぜぇ」

「あの針鼠に回避運動取ってたら燃料が持たない。撃沈の依頼(オーダー)は出ているならともかく、無駄にちょっかい出す理由はないわ」

『ゲルググマリーネ改:EWAC改修機』【情報支援】【広域多目的センサー】

 赤髪の傭兵がコクピットの中で、嫌な仕事と、粗野で身の程知らずの僚機にため息をつく。

 鉄船が構えるあの針鼠の様な銃座がみえていないのか、

 噂に聞こえたメンタルモデルはその全てと一心同体と聞く、決してなめてかかれる相手ではない。

 

 赤髪の女が操る機体(ギア)は小隊の中でも異質な、背負い式レドームを背負った機体である。

 

 これを用いて"協力者"の母艦を利用して、この果てしなく広大な海で失せ物探しを。

 彼女はこの作戦において、特殊仕様の副座式のこれで、大海原の探知を担当していた。

 広大過ぎる海、そんな中で、拾った救難信号に駆けつけてみればこれだ。

 これは僥倖である。

 

「へへっけ、何が偉そうに『旅団長』お気に入りの情婦風情が、まったくなんでこんな小娘に俺が従わなきゃならないんだ」

「……っあんた」

「おい口が過ぎるぞ。作戦の優先度は上だそいつに委ねられてる。『旅団長』に殺されたいのか」

【グレンダンの傭兵】【ストライカー】【スリルジャンキー】

 しゃがれた男の声、心底見下している。有体に言って舐められている。

 女にとって聞き慣れた卑下た粗野な声に、トラウマを逆撫でされる。

 黙り込むただ否定はできない。男がどうしても怖い。

 そして、"情婦"というのも間違いじゃない。

 彼女は女としても"機巧操り"としても、主人に飼われている事に違いはないのだから。

 

「へーへー、構いやしねぇよ。男に媚びて尻振ってその座席を手に入れた売女だろう」

 彼女は戦争の戦利品(ドサクサ)に、

 そんな当たり前の中に、『傭兵国家グレンダン』に攫われたただの街女である。

 名のあった貴族の令嬢、婦人、時には亡国の姫君などどんなものでさえも平然と道具にされた。

 

 父は殺された、母はその場で消費されて殺された。弟はどこかに売り飛ばされたと聞いた。

 歯噛む、ただ怒りはなかった。ただただ怖かった。

 

【元受付嬢】【所有奴隷】【穢れた身体:男性恐怖症】

 傭兵国家、グレンダンにおいて、略奪した女は銅貨一枚で振舞われる水よりも安い肉穴であり、

 相応の扱いをされる。憶えていないが、きっとその男にも抱かれた事があるのかもしれない。

 女はそんな中、周囲を見て、数字を見てヒトの行き来を覚えて、紛れて逃げ出して。

 後先考えず逃げ出して、そして『牙壁湖城』と呼ばれる逃げ場のない湖を前に―――

 逃げ出した先に本当の絶望を知って。

 

『―――ふん、余興の"子ウサギ狩り"だって話が、まさかここまで逃げているとはな』

 追いつかれた。湖の目の前に座り込んだ彼女を、乱暴に腕を引っ張られただろう。

『はは、お前の目は使えるな。俺が買ってやる』

【円卓のエース】【機巧操り】(ギア・ドライバー)【歴戦の人生】

 しかしそんな言葉と伴に、その場で買われた最底辺だった。

 周囲を見る警戒心、数字を拾い処理する能力を見込まれ拾われとことん仕込まれた。

 しかし、やっている事は変わらない。

 機巧乗りとしてついでに女として、主人の便利な道具として散々に使われている。

 

 そんな傭兵たちの粗野なギスギスなど気にも留めずに―――

 特殊仕様の『ゲルググマリーネ』の複座から身を乗り出して、モニターに齧りつくように。

 

「ふはは、素晴らしいィぃいいいい!!おい、他の連中はいい私の作品を映したまえ!!」

 白衣の男が空気を読まずに。

 他には目をくれず、血走った狂気的に絶頂すらする様に騒ぎ立てる。

 

 赤髪の女は呆れた表情に、レバーを操作してご要望通りに拡大する。

 

「そうだ見よ!アレが我らの研究成果"アスタリスク"タイプだ!!」

【生物学知識】【機工知識:Lv3/5】【マッドサイエンティスト】

 白衣の男は誰を聞いていないのにべらべらと誇らしげに、

 興奮に汚く唾を飛ばしながら、自慢げに狂気的に高笑いをあげる。

 

 白昼夢でなく夢見る、いや夢に溺れる。

 己の自尊心を満たす様に、独りよがりの所業である。

 

「ナノマシンの適合に"遺物"を介するアプローチ、魔人化した肉体に、メンタルモデル機能を適合している。ドックに依存しない自己拡張は全く新しい可能性じゃないかそうは思うわないかね!」

「はぁ」

「おい何言ってるうるせえし、邪魔だ。黙らせらんないのかその優男よぉ」

「諦めろ。そんなんでも今回の依頼人指定の護衛対象の一人だ」

 白衣の男の鳴りやまない自画自賛の嵐に。

 例え依頼人であろうとも、傭兵たちもさすがにうんざりとするだろう。

 これだけは全員の認識が一致する。

 

「……しかし、そのご自慢の作品とやらは、冒険者に止められてるように見えるんですが」

「もちろんだとも!私の手なしに完璧に至るはずはないだろう!だからこそ私が必要不可欠なのだよ!!」

【白昼夢のロマン】【視野狭窄】【湛えよ我らが叡智】

 白衣の男に冷や水を掛けたつもりの言葉も、まるで響いていない。

 きっとお花畑、舞い上がってる。

 経緯を聞けば実地試験という、ギアスのみが綱の己の短慮に手放し迷子にした最高傑作とやらとの邂逅に舞い上がっているのだろう、

 

 例えば、あの鋼の巨大な大蛇を、どうやって止めたか、その方法に手段に。

 そういう現実の思考に、対策に伸びないらしい。

 

 しかしどこまでも"使われる側"の彼女にとって、興味のない事だ。

 女は、機巧(ギア)のモニターから、今は海原の上で呆然とするバケモノを眼下に見る。

 

「かわいそうに、ね」

 

 呆然と、そこにいるのは、きっと小さな子供だった。

 乱暴な手術痕から疵を見るに、実験とやらでどんな扱いをされたかなど明白だろう。

 しかも今はこうして禍々しき海の気配を纏った、化け物となってしまっている。

 

 そしてどうやら、この治乱騒ぎの"兵器"としてのあの子を手に入れる事が目的らしい。

 

 しかし『傭兵国家』に躾けられて、否応なく染められた常識が呟く。

 弱者はその尊厳丸ごと奪われる、当たり前のことなのだから。

 哀れみは強者の為に、スパイスだ、自身の痣を撫でる、男に乱暴された痕がまだ疼く。

 

 この仕事の機会に奴隷である彼女も、この国を少し歩くことを許された。

 『覇濤』は平和で豊かな国だ。羨ましく妬ましい。

 

 そんな明るい場所で、塩細工の脆い居場所を護るために。

 ただ彼女は戦場において、ただ真面目に人を殺す手伝いをしている。

 

 粗野な機巧乗りが、操縦桿に足を架けコクピットの座席で退屈に背を預けて。

 

 しかし。

 

「…っちつまんねぇ、俺等は運び屋じゃないんだ。もっと派手なドンパチ―――」

「―――南南西!避けなさい!」

【広域多目的センサー】【迎撃態勢:弱者の覚悟】

 突然のはるか遠く金属反応、叫ぶ。

 射撃の風切り音、閃光にあっさり僚機の機巧腕が吹き飛んだ。

 明らかな想定外の襲撃である。マニュアル通りの各自散開するだろう、

 

電磁砲(レールガン)!?艦載機巧によるパトロールか、なぜこの距離まで気がつかなかった!?」

「っく射程ぎりぎり、依頼人の命令でセンサーの指向性を絞ってたから……!」

『対海反応塗装』(マナコート)円卓の機巧隊(ラウンズナイツ)】【ブローアウト】

 傭兵たちは混乱しながら、生き残るためにその指は動く。

 スラスターフィンを鋭く動かし、"海属性"との衝突、塗布された反射材に境界蹴り上げて。

 機巧が四肢のアンバックを効率的に利用して、運動性へと高度を稼ぐだろう。

 

 それはきっとマニュアル通り、数も揃っている高所からの斉射が有効だという判断である。

 とにかくそうやって、マシンガンを向けてとにかく乱射して牽制しようとして―――。

 

 銃を構えて、眼に入る。

 

 単騎、白熱するレールガンを構えて。接近するのは蒼き機巧の騎士(ギアナイト)

 簡素なパーツ構成ながら、完全な空戦能力を得た軍用機巧(ギア)、無駄を省いた量産機。

 しかし単騎でありながら、迷いなく突っ込んでくるのである。

 

「そこの所属不明機、何の目的が知りませんが―――」

 広域通信の声、まるで凛と鈴の鳴るような声がする。

「識別信号を出さないという事は、死ぬ覚悟が出来ているという事なのですね」

『空戦機巧リオン』【駆動騎士】(ギア・ナイト)【射撃姫】

 警告などない。

 白熱するレールガン、それは宣告の様である。

 航路を水飛沫が彩る。

 返答など待たずに、脚部を畳み、高度を下げて海面効果を利用した戦闘軌道を描くだろう。

 

「へへ脅かしやがって。小隊相手にたった一機か!」

『『『MMP-80 マシンガン』』』【小隊連携】【偏差射撃】

―――ズダダダダダダダダッ!!

 単騎という愚かしさに、傭兵の男たちが笑う。数の理に安心して機動の先に射撃をばらまいた。

 相手より高所からの制圧射撃は強い。

 "暗黒時代"から弓にて証明されている、賢い戦術だ。

 

 しかし。

 

「―――」

【鋼の呼吸】【コンバットセンス】【高機動戦闘適合】

 その弾丸事如くが、飛沫をあげる影の緩急をすり抜けて海に飲まれるだろう。

 

「は、はやい!?」

「こんな荒れた海をスレスレって何あのキチガイ機動、馬鹿じゃないの!」 

 きっと、それは愚か者の飛び方である。

 海面を利用すると言っても、刻々と変化する大波に気流は激しく乱れるだろう。

 こちらは一歩間違えれば墜落するからこそ、海面を蹴り上げて高度をとったのだから。

 

 白熱するマシンガン、マズルフラッシュ、銃火の雨あられ。

 

「弾幕を絶やすな、少しでも海面に押し付ければ勝手にバラバラになって自滅する!」

 なのに、である。

 容易く全弾回避、予測より先への銃口が追いつかない。

 

「ひゃはははあははは!!あの距離から当ててくるか!おっもしれえなぁ飽き飽きしてたんだ!!」

「バカっ!釣られてるんじゃない」

【愚連隊】【スリルジャンキー】

 粗野な男が興奮にレバーを押す。スラスターを吹かせて小隊の編成を離れ、全力で接近する。

 我慢できなかった。

 『機巧乗りの楽園』(円卓の戦場)に憧れるどこまでも救いようのない中毒者(馬鹿)である故に、それを見て声を弾ませる。

 

「けけ、LIEON(リオン)か、そりゃ墜とした事あるぞ!まともな腕がねぇ機巧とも呼べねぇ簡素品!そんなん接近さえしてしまえばなぁ!!」

『ヒートサーベル』【ストライカー】【参足飛び】

 勝利の想像(ヴィジョン)はある。鋼の鎧を纏う全能感、それに酔うからこその中毒者である。

 脳内麻薬の導きに従い、片腕のマシンガンを乱射しながら、サーベルを引き抜いて。

 

 しかし接近に対して、海面に一発だけの叩き込んだミサイルの炸裂に水柱が上がった。

 視覚的にも、センサー的にも"海属性"の霧散はそれだけでチャフになるだろう。

 

「その程度の腕で、ですか」

「がっ!?」

 襲撃機は視界チャフに紛れてその速度のままに、海蹴って高度を上げていたらしい。

 簡素脚で踏み台にして突貫をスルーし、逆に海に叩き落す。

 歯牙にかけていない。

 

「この、俺を、踏み台に―――」

パシャーン!!

 この速度で墜落すれば。衝撃に気絶するほかないだろう。

 

 そしてそのまま固定レールガンの射撃戦に移る。

 

「だから言ったのに!!ほんと傭兵の男って奴は…!」

「下っちまえ、お前の機体は"護衛対象"を乗せている」

「奇襲にいい気になるんじゃねえぞお高く留まったエリートが、円卓の『エース』でもあるまいし!単騎で何とかなると思うな!!」

『MMP-80 マシンガン』【エレメントバタフライ】【戦場流儀】

 錯綜する戦場、機巧繰りのプライドが吠える。プロペラントタンク(デットウェイト)を切り離して。

 万全の一機が盾を構えての距離を詰める牽制射を、

 先の射撃に腕を失った一機が、距離を取りながらの射撃での援護に移る。

 

 連携を取ればなんてことはない。数の理の前にはたいていの事がなんとかなる。

 そう全てをひっくり返し蹂躙する『エース』でもなければ。

 

「何がどうなっている!?貴様らには高い金払ってるのだ!さっさとどうにかしたまえ!!」

「うるさい!いまやっている!!」

『ゲルググマリーネ改:EWAC改修機』【情報支援】(オペレート)【アクティブポジション】

 白衣の男は加速Gに押しつぶされながらも喚き散らす。

 その様に、イラつきながら機巧を操って必死に襲撃者からの距離を取るだろう。

 

(最悪、時間を稼いでる間に、単騎で鉄船に突っ込むしかない!)

 

 索敵と情報リンクに援護しながら、ライフルを手に取る

 この特殊仕様のゲルググは拡張した背負物、計器センサーの追加に伴いデットウェイトが多い。

 運動性を犠牲にしている。故にあんまりとりたくない手段である。

 

 しかしやるしかない。良いも悪いもない赤髪の女はただ、必死だ。

 

機巧狂い共(キチガイ)が、恵まれた死ぬのが怖くもない奴が……!あたしの邪魔するんじゃない!!」

 捨てられてしまえばどうなるか、身体が一番よく知っている。

 あぁそうだ。"仕事"が出来なければ、またあの地獄の様な生活に逆戻りなのだから。

 仕込まれた地獄のような経験を反芻する。

 興奮に汗滲むレバーを握る、恐怖を塗りつぶして叫ぶのだった。

 

 

 

●●●

 

 

 

 視点は切り替わる。

『軽巡洋艦:クリーブランド』

 

 血塗りの傭兵たちが放り投げられて乱入した。

 その戦場の事である。鋼床を我がもの顔に歩きながら、それぞれ血の匂いに構えるだろう。

 

 その戦場の一角にて、一つの円と踏み込む斬閃が競り合っている。

ガコン!

「うふふ。こんなに早くに頚とる機会が巡ってくるなんてー、なんて運がいいんでしょう♪」

「帰れ面倒な」

【誅殺メイド】【鬼蹴仏断:ツジキリスト】【血染めの衣】

【ダンサェスパレス】【凛として月華の如く】【阿修羅姫】 

 

ガキンッ!!

「今、お前を相手にしてる暇はないんだ」

「つれないわぁ、イケずぅ―――でも、こっちしっかりみぃひんと後悔するで」

 

【瞬歩】

【制空圏】

 

 機巧槍と太刀の絶え間ない競り合いが響く、それはきっと得意の押し付け合い。

 割烹着とブーツの和洋折衷、アンバランスな目立つ格好をした女が空間を俊足で飛び回り

 槍使いの女が、一つの軸にその乱舞に刃を併せて捌き合っているのが見えた。

 

 それはそれとして。

 

 

 

カツン

 こちらはこちらで、対処する相手が目の前に迫っていた。

 

「さて、メンタルモデルは極力傷つけるなとの依頼(オーダー)だ」

【指揮隊長】【冷静沈着】【血染めの衣】

 そして降り立った傭兵が一人、黒肌白髪の弓使いが冷たい目を向ける。

 

「何だお前等、あたしの船に不正乗艦とか舐めた真似しやがって」 

 勝気の少女は、突然の乱入者に自然と口調が乱暴になる、ものすごく怒っていた。

 当然だろう。基本己と同じ銘を持つ船に、許可なく立ち入るは縄張り(プライド)を犯されたと同じ。

 やっとひどい目に合った妹を、抱きしめてやれると思った矢先の空気の読めない乱入者だ。

 

(こんな所で出会えた幸運なんだ。やっと、レヴィアを抱きしめてやれると思ったのに……!)

 しかし沸き立つ激しい怒りの中に、意外と芯は冷静だった。

 この戦場において心が惹かれた誰かと、背中を押されて預けているのだ。

 心強い。痛みから立ち直ればトップギアだろう。

 既に熱は入って浮かれている、戦士としての享楽に身を焼き、その目に強い闘志を宿している。

 

 対して。

 

「失礼した。だが仕事でね、少々寝ていてもらおうか」

 白髪の弓使いはそのままナイフを引き抜き構えて、一瞬で距離を詰めてくる。

 一般的に重量級を背負ったメンタルモデル(艦娘)は重砲使い、つまりは後衛扱いである。

 その認識は間違っていない。

 

 彼女とてそんなの百も承知である。

"シュン!"

【海上騎士】(ネイビーキャリバー)【裡の海メトロノーム】

 強風の中を糸で切り裂くような、

 異常な移動音と不自然な加速、何かしらの異能か魔具かわかりはしない。

 しかし接近を彼女の耳が拾って、頭の中にイメージの実像が結び付く。

 

「聞こえた―――これでもくらえ!」

【海上騎士】(ネイビーキャリバー)【艤装・トンファー】

 鈍重だからどうした。

 勝気の少女は白磁のクロークを揺らし、徒手格闘に待ち構え片舷の艤装を握って振りかぶり。

 

「!」

―――ドッツッゴン!! 

 殴りつけた。メンタルモデル(艦娘)とは一心同体の『魔具使い』である。

 "艤装"が展開用に仕込まれた油圧シリンダーが脈動し、

 その勢いを体技で合一した渾身である。

 重いなら重いなりの体術を併せて、"艤装"の重量をぶつける様に殴りつけるのだ。

 

 手応えあり、しかし大半の衝撃を流されている。

 宙を揺らめいた布を殴ったかのような気色悪い感覚だった。

 

「ほう」

【■騎士:覚醒者】【■利の弓】(インビジブルボウ)【マーシャルアーツ】

 ズザァ!

 ナイフの腹で受けそれは折れて弾き飛ぶ。しかし、何かしらの"異能"で軽減したのか。

 明らかに必要以上に派手に吹き飛ばされた男が、甲板を滑り踏みしめるだろう。

 

「しゃあくそ!手ごたえがあったのに仕留め損ねた!」

カシュン、ぷしゅううう……!

 舌打ち。

 殴りぬいた姿勢を、残心中に正眼に戻す、

 急展開に伸びきったシリンダーが収縮して熱に煙を上げる、再度"艤装"を通常状態にする。

 先の無理な動きに、潤滑油が焼けた匂いがするだろう。

 この程度無茶のうちには入りはしないが、気安く多用出来る動きではない。

 

「驚いたな。"クリーブランド"と言ったか、そんな背負い物をしてよく動く」

「あたしの名前を気安く呼ぶんじゃない。ぶっ飛ばすぞ」

「やれやれ取り付く島もないな。それに既に手を出した後じゃないかね?」

 勝気の少女は親しくもない奴に、ただ名を呼ばれたのが不快だった。

 いろいろな事があった。

 怒りと興奮のボルテージでおかしくなってるのかもしれない。

 

 勝気の少女は、犬歯を剥き出しに、次へと手を掛ける。

「逃げられると思うなうよ。そこはあたしの距離だ」

【砲華の鉄城】【ガンズマスタリー】【強襲指令】

 小麦色の髪を揺らして、再度、指揮するように手を水平に振るう。

ガコン、ドォン!!

 間髪置かずに"艤装"をもってそのまま容赦なく躊躇もなく、砲塔を向け打ち込むだろう。

 それは本来、人に向けられるべきものではない火力である。

 

 しかし。

"シュン!"

「外した。さっきから素っ頓狂な加速をするな。『魔具』じゃないな異能者か」

「ご名答、距離を詰めれられれば、こんな露骨に使う気はなかったのだがね。面倒だな『魔具』に振り回されていない。どうやら、君はまっとうに強いらしい」

【■騎士;覚醒者】【■利の弓:ビリオンダーツ】【鷹の目】

 その砲撃は虚空に、気がつけば高射砲の上に立っている、あっさりと躱されている。

 

「なんだか誰だか知らないけど、隙ありしねぇ!」

「おっと」

『俊敏鋭爪』(ダッシュブーツ)【剛剣技】【練気法:竜装騎】

 逃れた先に、

 重剣士が砲撃の装填が隙のカバーに、背後から踏み込んでその怪力で大剣で切りかかる。

 

ダッ!

 容易く宙に逃げる。床を蹴って空中に弓構えて、斬りかかってきた相手の頭上を取る。

 熟達の砲手がいるのに宙に逃げる。

 それは普通に考えれば足場のない"死に体"、砲撃が、狙い時だろう。

 

 

(どうした。追撃に、撃ち込んでこないか)

(どうせ曲げてくるだろ。あたしの砲撃を見て、そんな"死に体"曝してくるなんて)

【射手の共感】【パッション・テンポ】

 しかしアレは異能者である、その不自然な加速を見ている。

 視線を交えて交わる思惑、砲撃を堪える。撃てば小口径と言えど装填の隙もある。

 何より己自身が、慣性モーメントに砲撃を誘導弾に変える技術を持っている。

 

 自分の想像の範囲は、きっとすべて起こりうる可能性として備えるだろう。

 

「やれやれ素直じゃないな」

 弓使いの男は、宛が外れたとばかりのため息に、先の攻防に砕けた甲板の破片を―――

 実体のない弓と舷を弾く動作に滞留させて、全てを矢じりとして打ち放つだろう。

 どうやら、その男は自身が周囲の全て、何かしらの条件を加速させる事が出来るらしい。

 

「くそ、そんな散弾なんか!」

【剛剣技】【打ち返し】【超頑強】

がギィン!!

 重剣士はその頭上からの鉄鏃の雨を、大剣の盾に払い除けて、護衛対象との直線に陣取る。

 勝気の少女は砲先をばらけて、いち早く移動先を捉える様に睨みつける。

 

 男は、ただ冷静に矢筒より取り出して弓を引く。

 

「さて2対1、殺してしまっていいなら兎も角、君の四肢を撃ち抜くのは手間だ。欲張らず足止めに徹するとしよう」

「ふざけたこと言いやがって!」

【飛影脚】【鷹の目:メジャーセンス】【修羅道】

 砲撃とヤジりの応酬、戦場の構造物を遮蔽使われて、砲撃が蠢動の如く加速に躱される。

 その加速は、まるで等速直線運動に近しい。

 

(簡単な相手じゃないけど。早くと片付けて、レヴィアを、カイトを―――)

【旗艦】【お姉ちゃんの矜持】

 艦隊における、指揮者"旗艦"としての仕草に、目を配り耳を研ぎ澄ます。

 

 緊張の中、若葉の少年の方へとちらりと目を配った。

 そこからは微かに火花散って金属音が響く、あちらも傭兵と戦っているのだろう。

 こちらも容易い相手ではない。詳細はわからないそこまで集中力を割けない。

 

(くそ、手早く片付けてやる)

 とにかく何か胸騒ぎがする。明らかに血の匂いに塗れた連中だった。

 

 海の上は"あたし等"の戦場である。あたし達がエスコートしなければならないのだから。

 

「よそ見してそちらの冒険者が心配かね」

「……!」

【冷静沈着】【鑑定眼(偽)】

 白髪の弓使いは、そのよそ見を露骨に見出してちょっかいを掛けてくるだろう。

 

「馬鹿言えカイトは強いんだ。大丈夫に決まってる」

「本当かね。冒険者を見下すつもりはないが……、得意分野の違いはある。あれは所詮は"モンスター狩り"の動きに見えるがね」

 そのまま揺さぶりのつもりか、わざとらしく煽ってくる。

 

 それは口上手な傭兵らしい話術だろう。この胸の熱の行き先を見抜かれている。

 

 イラつく心のざわつきが大きくなる。

 

「―――断言しよう。あの少年は死ぬぞ。あっさりとあの飢えた狼に殺される」

 

 弓を引き絞りながら淡々と告げられる。

 事実としてまるで決まり切った預言の様に。

 

「なにせ、あの狼は私たちの中で一番人殺しに向いているからな」

「ふざけろ傭兵!」

【精鋭射手】【飛影脚】【陽炎】

 その言葉を皮切りに、砲撃を避け一矢放たれその影は多重に増える。

 異能を交え体技によるたステップ。

 変則的機動が錯覚を生み出し、まるで多重に増えたように見せ翻弄するだろう。

 

 暴力に血染めの傭兵たちは踊る。

 『覇濤』に始まる治乱騒ぎ、その表の大きな皮切りとして―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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