ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

129 / 136
沈没【運命の預言盤】

 

 

 

【覇濤首国:セレクティブ】

 

 

 

 海上に対峙する二つのちっぽけな 影、飛び散る血潮。

 洋上に焔が揺らめく、消えゆく前の蝋燭の如く炎が立ち上がる光景が飛び込んでくる。

 

ガコン!

 艤装から放たれた弾丸と矢玉の相殺音。

 勝気の少女は自身の舟上(テリトリー)にて撃ち合いの大立ち回りしながら、それを目前として。

 

「おい、嘘だろカイト!?」

【多目的ハイパーセンサー】【裡の海メトローム】

 勝気の少女の敏感な耳が、いち早く刃が肉を割く骨割る嫌な音が拾った。

 白髪の弓使いと交戦の中、艤装を構えながら、その現実に思わずに惚けた声を漏らしてしまう。

 

 運命の如く剣にもたらされる現実、胸騒ぎに視線を向ければ、今まさに今際の時だった。

 

「こんな、こんなわけわかんない連中に」

【海上騎士】(ネイビーキャリバー)

 彼女の頭が白熱する、焦りに心が血の気が引く、それでも身に沁みついた訓練に身体は動く。

 知り合った大事な友人だ。きっとあそこに彼がいるのは己の我が儘のせいである。

 少女は我を忘れてとっさの反応に、向き直る。

 白磁のクロークを揺らし、手振りと信号に一心同体足る砲塔をぶん回す。

 

ギギギギギ!!

 

「くそっ近すぎる!早く動けって!」

『152mm三連装砲』

 重苦しく鋼船が砲塔が悲鳴を上げ回る。とっさにその光景に標準は追いつこうとする。

 しかし手が震える。この鋼城が砲牙はヒト相手には大袈裟で、大雑把過ぎるのだから。

 下手にこれを振りかざせばきっと諸共だろう。

 

 消えかけ蝋燭の焔の様に揺らめく、それに動く気配はない。

 

「おい、そんな所で……!なぁカイト!!」

 勝気の少女の心臓が白熱する息が詰まる息が詰まる、切迫する取りこぼす、

 死ぬことを知っている。

 いなくなる事はその温かさがなくなる事と違う。

 同僚だって何人もそうなった。そうなれば片付けて次を埋め合わせるのだろう。

 しかし、心にぽっかり穴が開いてしまったまま、日々に流されて決して埋まりはしない。

 

(なんで、なんで、なんで……!)

 彼女らしくない後悔が過る、きっと何でもないとても良い日になる日のはずだった。

 ふと出会った気になる彼、まだ知らないことの多い気の合う大事な"友達"だ。

 まだ、この胸の内にドキドキともやもやに、素直になってない。

 自然に一緒にいたいと思う心惹かれる相手を、"私達"の庭に手招いて。

 素敵な良い日になるはずだった。

 

"シュン"

「さて、余所見をしてる場合か"クリーブランド"」

「!」

【固有魔法:■利の弓】(インビジブルボウ)【鷹の目】【修羅道】

 しかしその勝気の少女の動揺を見逃す傭兵ではない。

 ただその冷え切った眼に弓を引いて、四肢を縫い付けんと放たれるだろう。

 

 確かな隙、反応が遅れた。反射に身を捩って。

 

ザガッ!

「ぐっ」

【メンタルモデル】【超頑強】

 矢も突き刺さる痛みに歯を食いしばる、顔を顰める。

 先に相殺し合った風切り音に挟まれる。その身足に一矢が突き刺さってしまった。

 アンカーを動かし、追撃の矢は艤装を盾に弾くだろう。

 推測"加速"を操る固有魔法使い、その弓兵の矢は遅延を混ぜ不規則な軌道を描くのである。

 

 あえて転ぶように艦橋の裏に隠れる。あっさり、足を潰された。

 そして白髪の弓使いは目を引いた所に、遅延の矢を置きすぐさま距離を詰めて、

 

「この、邪魔だ馬鹿野郎!!」

「すぐに気にもならなくなる、依頼人命令(オーダー)だ。君を殺しはしない」

【射手の体技:マーシャルアーツ】

 すかさず鏃を持ってでの肉薄、その迫打を片腕で払い。

 無理な姿勢の合間を付く様に、咄嗟に接近戦に連撃となる。

 

 気が散る、きっと自身も一手一手詰められている。

 

 白髪の弓使いの迫撃をガードした手隙にて、押し付ける様に触れられた。

「ガッ!?」

「流石に改造人間(メンタルモデル)、海に落とすまでは重いか」

【■利の弓(インビジブルボウ):ビリオンダーツ】

ギュァ!

 そのまま船外に向けてぶっ飛ばされるのを重心操作と受け身に、堪える。

 当然というべきか、その加速の固有魔法は他人にも適応できるらしい。

 

 その命の炎の揺らめきはきっといつまでも持たない。

 彼女の『覇濤』がメンタルモデルとしての教育に根付いた理性が言う。

 小さいものは切り棄てろ、より大きい物を、艦を活かすように動けと。

(嫌だ。いやだいやだ。……諦めてやるもんか!!)

 その血を流すのは海の上だ。望みは薄い。

 理性ではわかっている、取得選択、もはや切り棄ててしまうべきなのだろう。

 それでも時は刻々と迫る。しかし彼女は誰かを手放したくなんてない。

 

 このまま手放して、後悔し続けるなら。

 

ダンッ!!

「この、クソ傭兵がああああああああ!!」

「おっと」

『俊敏鋭爪』(ダッシュブーツ)【カバーリング】【表層錬気】(レビケーション)

 割り込む踏み込みに、ぱきりぱきりと風が取り巻いて練気による蜥蜴鱗を拡張しながら。

 二体一で前衛を張っていた重剣使いの女、それを遮る様に、甲板踏み込み音が響くのである。

 

 しかし、眼中にない。

 

「何だ重剣士。諦めろ、その鈍足では追いつけない事は散々わかり切ってるだろう」

「知るかごちゃごちゃ舐めやがって、ふらふら蝙蝠してるなら力業でぶっ飛ばす!!」

【アングリーシャウト】【生命燃焼】

 重剣士の少女が薙ぎ払いが割り込んで、雑に殴り飛ばす。

 怒りと頑強性に、大海に咆哮が響き渡る。

 しかし、変わらず剣圧の推測に宙に逃れて、異能交えてか軽業にひらりと逃れてしまう。

 

「………さて無駄な事を」

【射手の体術】【■利の弓:消力(シャオリー)】【飛影脚】

 先からこの繰り返し、白髪の傭兵にとっては彼女の剣は酷く鈍重である。

 一歩先に届かない。

 逆にその剣を推進に利用して間合いを縦横無尽に動いていた。

 近接攻撃をも間合いを自在に調整しながら他の立ち合いにも横矢を打つ、そういう戦巧者である。

 

 脱力、態勢関わらずに、即座に撃ち返される返しの矢玉を―――

 

「嵐で場を打ち揺らして混ぜっ返す、全力でぶっ放すわセンパイ!!」

「頼んだ」

【アマゾネス】【旋風撃】【竜装帰:ドラゴンテイル】

 その身に受けながらも気に留めず一言、気の知れた徒党同士(パーティ)の以心伝心である。

 怒りの感情に生命力というカンフル剤に活性させた錬気を纏いながら。

 竜鱗の剣を振り回す様に構える。

 刀身が流動性の層が輪を結びように風が取り巻く、活性されて揺らめくように励起するだろう。

 

「……ほぅ」

 その勢いに白髪の弓使いが、反撃に周囲に固定した矢玉が吹き散らされる。

 風が彼女を中心に取り巻く、渦巻く、絡めとられる。

 

 間違いなく大技の類、焦りから勝負を急く、否。

 アマゾネス(蛮族)由来の本能に、大事な宝を傷つけられた怒りはもちろんある。

 しかしそれに押し流されるには、冒険者として彼女等ももはや修羅場慣れしすぎている。

 取りこぼす前に現実に迫られて、焦って前を見失う事はない。

 

 何度でもだろう。どうしてもだ。己の抱く大好きが遠くなるならこの手で掴みなおす。

 取りこぼしそうになるのは、この急ぎ足を一緒に歩いているのだから。

 彼女にも意地がある。戦場に焦がされる度に、諦めという言葉は褪せていく。

ぎゅ!

「どいつもこいつもうっとうしい!!全部全部、ぶっ飛べええええ!!」

【闘牙剣】【風詠み】【蒼火の加護:精霊術】=【風竜の咆哮(ホロ・ブレイズ)

 それは生命力に活性された聖剣技に近しき、あえて収束しない暴風の槌。 

 

 護衛が故に鋼船への損害を気にして使えなかった。

 何振り構わない一手である。

 

 かつての『増殖事変』にて、風使いとして遥か彼方を示した。

 風属性の粘性の多層流動という"蒼天"が掴み方と 螺旋に折り重ねる模倣でもある。

 元来、彼女が属性である"風"は、何処であっても満ちている。

 流動性を手繰り振りかぶる動作に低きが高きに流れるドミノ倒し、大嵐がなされるだろう。

 

 元々、器用でない彼女は、状況に明確なヴィジョンはなくとも目の前の事にただ万事を尽くす。

 

 その広域の剣技に、状況が切り替わる。

 為されるのは装甲を食い破らない剣技、若葉の少年との交わりに感化された風の破天槌である。

 真面に受けた鉄船が甲板に大嵐が吹き荒れて、海面に大きく沈み込んだ。

 

 反動に、船体が大きく跳ねる。すなわち鋼の大地が激しく揺れる。

 それが海面に大きな波紋が巻き起こる。重量を数万トン級が海面に押し付けられたのだ。

 張力の反発に軽く大波を引き起こすだろう。吹きこぼれた風がそれを後押しする。

 

 そして、艦上の傭兵達にとってもその状況をかき乱すだろう。

「ぶっ!?」

 俊足で飛び回っていたメイド割烹着の女は、吹き荒れる大風のもろに煽りを受け姿勢が崩れた。

 典型的な人狩り(マンハンター)、主に調律器(ハーモナイザ)の中で活動してきた彼女に風を受け流す方法など知らない。

 

ずざぁ!

 よって装甲吹き荒れる、突風と速度の煽りをもろに受ける。 

 女は上級魔具に寄る"因子使い"。それにより"加速台"を自動的(オート)に生成する縮地使いである。

 巻き上がる砂ぼこりを受け、体制を崩して膝をついて。足を取られる、構えが崩れる。 

 

「っち、諦めの悪い子ブタちゃん達やねぇ……!」

『界遠の戦靴:因子使い』【誅殺メイド】【無明瞬歩】

 舌打ち、捲りあがるスカートを抑え、眼をこすり刀を構え直す。

 瞬歩と伴う突きと斬撃その傭兵の女の動きは、まさしくそれに特化したものである。

 彼女の人殺しの業は間違いなく一流である、最適な歩法決められた構えと容易く頸断つ剣技。

 誘導する話術、容姿も併せた人を魅入らせる振舞、引寄せた機敏を舐め回すその経験と観察眼。

【鬼蹴仏断:ツジギリスト】【首狩り兎】【血染めの衣】

 たいてい人は首跳ねれば死ぬのだから。

 使いこなした『魔具』による一芸は、間違いなく鋭く人に突き刺さる物だった。

 しかし、魔具による最適が故に伸びがない。例えば歩みに若葉の少年にある余裕がない。

 

「まぁええわ。全部巻き込んであんな破れかぶれの大雑把なの―――」

ざっ。

【凛として月華の如く】【ガゼルフッド】【阿修羅姫】

 

 しかしふと自然に、金糸の槍使いと唐突に、開いていた距離が詰まっている。

 

「な」

「さて、腕自慢の傭兵とやらは、風の詠み方も知らないと見える」

【聖錬冒険者】【野狩人Lv2】

 金糸の槍使いは突風鳴りやまぬまま合間を潜り抜ける様に、槍刃のひらめきが映る。

 風には中心がある。その流れに逆わらず。むしろ背に受けて追い風に距離を詰めた結果。

 月の如く冷鋭い視線が射貫く、碧色の戦衣装が一糸乱れぬ、姿勢を低く潜り混み翻る様に様に煌めき(バネ)が至近に迫るだろう。

 

 思考より先、割烹メイドの女は魔具に強化された反射神経が身体の発条に跳ね、刀を盾に構える。

「まず!?」

『グランシースピア・改』【魔力撃】【阿修羅姫】

【神速反射】

ガ パキン!!

 しかし、その金糸の槍使いは変形槍のギミックに伴う、魔力撃の妙手である。

 

 人斬りの為に磨かれた細く切れ味を研ぎ澄ました刀は、重なる衝撃にあっさりと圧し折れて。

 そのままに勢いと余波に身体を引き裂いた。

 

 先の攻防に金糸の槍使いが待ちのスタイルであると、間合いが遠いと油断した。

 彼女が散々に見下した。 "人狩り"(マンハンター)と"獣狩り"では確かに得意分野が違う。

 戦闘特化の冒険者は大概モンスター狩りである。縄張りに出向いて併せて刃を突き立てる。

 それが全てとは言わないが、町という人間の楽園、調律器(ハーモナイザ)の環境下ばかりに慣れたただの人狩り(マンハンター)には持ちえない適応力である。

 

カランカラン……!

「ごふっ」

 灼熱のような痛みと熱に悟る。歯を食いしばる。

 割烹着の女は、勢いよく甲板に転がされ舟縁に衝突して止まった。

 折れた刀が手から零れ落ちる、空しい音が響くだろう。

 下手人を恨めしく睨めつける。しかし、その瞳は明後日に女を一瞥もしない。

 

「ドドメ、くらいしっかり刺しいや……冒険者…!」

「生憎、忙しいそのまま転がっていろ」

 

ダッ!

 その恨み言を些事とばかりに残心仕草に冷たく流して、次の相手に踏み込んだ。

 何より腸煮え返るは背を向けてまるでごみの様に、斬り棄てた彼女に見向きもしない。

 まるで、片手間の興味も満たないように。

 

「バカにして……見下しいぃて!」

【ミュンヒハウゼン】

 鋭利な月の如く、金の輝き、それが何より疵と熱と供に怒りが吹き上がる。

 痛みを堪えて、呪い殺さんがばかりに目を見開き手を伸ばす。

 

 そんな事など気にも留めずに。

 

「……侮ったな、『ヒナゲシ』が落ちた3対1か、流石に具合が悪いな」

「邪魔はさせない、壁なら私一人で十分だ傭兵」

【指揮隊長】【射手の体技:カバーリング】【冷静沈着】

ヒュン!

 白髪の弓使いが囲まれるのを恐れて、構造物を利用しては距離を取る。

 

 甲板の構造物を利用したカバー、射手の基本、どこまでも冷静で堅実な立ち回りは手堅い。

 

「はやく今の内よ!!アンタならできるでしょ!針の孔でも何でも通しなさい!!」

 冒険者は金糸の槍使いが距離を詰めて、圧を掛ける中、

 息を切らし余力が厳しい大剣使いの女もその身を壁に、立ち位置にてせめて邪魔をする。

 

 壁容易に邪魔を刺せない。一枚落ち、状況がひっくり返った。

 

 勝気の少女は砲撃に集中できるだろう。

 

 背を押された。力強い、己なら手が届くだろう。

 その大事なモノをこの手に掴む、明星の如く少女の鼓動が、陽に踊る。

 

「おう!サンキューもちろんだ任せろ!」

『軽巡洋艦:クリーブランド』【航海術】【裡の海メトローム】

タンッ!

 勝気の少女は笑い一心同体足る鋼船、

 僚艦の観測含めたその膨大な情報量をリズムによって同調する。

 押し付けられた風がなんだ、波に揺れるのがなんだ、そんなの悪天候で、散々手繰ってきた。

 何度も浮き沈みに揺れる足場に身を任せて、手を振りかざすその指を向けた。

 

 砲塔、本来の射角の関係に曲射である砲撃による精密狙撃、無理難題を―――。

 

「――、♪」

【海上騎士団】(ネイビーキャリバー)【パッション・テンポ】

 彼女のやり方らしく足踏みをもってリズムを取る。足の痛みなど関係ない。

 甲板にタップを響かせる。それは浮き沈み周期にリズムを風の流れを落とし込んで拾う仕草。

 水平を掴むタイミングを、跳ね上がる船体の運動も連動して舵切り合わせて。

 

【強襲指令:μ兵装仕様】

 それによってなされるのメンタルモデルとして不断の努力に培った。彼女の慣性誘導弾である。

 人身手足または船体のの動きを使い、砲身のムーブ、遠心力、

 曲射砲撃、それらを駆使して推進力もなしで誘導弾として適応させる。

 情報をもって描いた脳内マッピングの標準が、機械的な観測が。

 

 刹那に高揚する。

 大事なモノ、大事な時間、当たり前にいて欲しい、欲しい誰か。

 夢見がちな彼女だからこそ 必死につかみ取る。

 

「そこどけクソ傭兵、あたし達の大事な時間から出て行けぇぇえ!!」

 それは卓越した射手特有の"中る"という直感、"計算学的な必中誘導弾へと移行する"。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

―――【覇濤首国:セレクティブ】

 艦上から視点は変わって、ひとまず決着のついた海上にて。

 黒コートの狼女が今まさに、介錯が実行され世とその長剣を振り上げた。

 

ゆらぁ。

「おっとなんだい?」

【精霊術Lv??】【水月歩法】

 介錯の刹那、弾けるそよ風に押し寄せた大波に、突然揺れた足場に態勢を崩した。

 若葉の少年と黒コートの狼女の間流れて、互いに距離が空く、

 元より自然発生した海霊の渦に、歩みを受け止められていただけ容易く押し流されるだろう。

 

 感覚依存の精霊の足場、それは例えて、サーフボードに乗っているに近しいのだから。

 しっかりと互いの距離が開く。

 

「ふーん。あの大旋毛風のせいか、船上(あっち)はまだ決着(ケリ)ついてないようだやるじゃな……!?」

 黒コートの狼女は、相変わらず歪んだ笑みに戦場を俯瞰する。

 聖剣の類か、巻き上がる大嵐を生み出すその力強い剣を眼に目を惹かれる。

 

 しかし、それと一緒に向けられたドでかいモノに絶句する。

 

「え、ちょ本気っまさか諸共?!」

「へ」

 そして鋼船の砲塔が、きっちりこちらに向けられ見据えらているのを見た。

 流石に 冷や汗が出る。その猛威に掠れば大怪我、まともに喰らえば幾ら剣に自信が在ろうとミンチだ。

 

―――ヒューン………!

 

バシャ!

 破滅の飛来音。

 狼女は焦って急いで、海霊を蹴りだしてその射線から逃れようと慣れない海を蹴る。

 

―――ドォオン!!バシャアアア!!

【片手持ち】【不屈狂練】【超俊足】

 轟音間一髪、3連の至近弾に交通事故にあったように吹き飛ばされて、水切りに衝撃を殺す。

ずざ、バシャざざざ……!

 重量であり壁である双剣の片割れが、この手にない事は果たして幸運だったか否か。

 わからないとにかく危機一髪、九死に一生。思わず背筋は痺れる。

 しかしその原始的生存本能からくる狂った心拍を。

 

「ふふ、ふは、あははははやるぅ♪まさか、大砲で狙撃なんて死ぬかと思ったじゃないか!」

 黒コートの狼女が薬に歪んだ脳は、喉元過ぎればスリルと興奮に変換してしまう。

 着弾、反響しガンガンと痛む頭痛、巨大な3本の水柱、刺激的な体験。

 降り注ぐ水飛沫で頬を赤らめて身悶えを抑えしかし、簡単に終わらない仕事を楽しむ様に。

 

「ほんと正気かい、仲間がいるのに鋼船の馬鹿でかい砲を向けてあまつさえぶっ放すなんてさぁ!!」

「さす、が」

【影落とす時針】【闘争の血脈】【狂羅輪廻】

 直射、大嵐が吹き荒れる環境にて、波に揺れる舟上の中で。

 あの取り回しのきかない巨砲で、文字通り針を通すような狙撃を打ち込んだらしい。

 

 次が来る、きっと次の砲撃が来る。

 

 メンタルモデル、『覇濤』の代表戦力たる勝気の少女の腕ならその位やれるだろう。

 その火薬の砲牙はやっぱり力強い。

 剣ではどうにもならない。いくら死神の如く狼女も、一方的に打たれ続けるなら死ぬしかない。

 

 しかし、それでも至近に着弾したその余波に、痺れる様に狼女は笑う。

 熱いとばかり黒コートを開けて(はだけて)、薄い胸に心臓をわし掴みに抑え深く歪ませる。

 どこか彼女の脳は壊れてしまっているがゆえに。

 

 対して若葉の少年は

 余波に煽られて、揺れる波にぐらつく電子網掛けの足場に。

 惚けたように安心するように、ふら付きながらもふと呟いた。

 徒党(パーティ)の仲間がどうとでも戦ってる破滅が遠いらしい。

 

 少年にもド派手な水飛沫が、白熱したその身を冷やす様に降り注ぐ。

 それを身に浴びて頭が少し冷える。目の前の敵の最悪ばかりを見て、視野が狭くなっていた。

 

「狂ってる」

「お互い様、だって君もまだ動くらしい。いいじゃないか、それをどう中てるつもりだい?」

 若葉の少年は言葉を返す余裕もない。

 大きく満ちた海面に押し付けられて大波が巻き起こった。

 それと共に、波が荒れ流される。こうして少しの猶予が生まれたきっとローズの仕業だろう。

 

 自分の事に精一杯でも徒党(パーティ)である、簡単に察せられる。

 

「別っに……"ぼくたち"は、負けない。だから」

 若葉の少年は、専心の構えに改めて電子細工の六華弓を構え直す。

 先に振りまいた血潮に、感化した炎を呪印を伝って鏃に収束して構えている。

 

 黒コートの狼女は、命の危機に笑いながら、出迎え高揚を噛み締める様に剣を構えた。

 きっと、砲撃に噛み合う足引きがあれば死ぬだろう。

 

 しかし、やはり少年に余力はない。

 この世界に、"都合のいい覚醒"などありはしないのだから。

 

(リコ)

(どうすればいい。教えて命令して命令を)

【円環精霊】【憑依具】【魂の絆】

 半身たる、儚紅の幼子は心の中に同調する。

 鼓動が重なる、心配そうに焦る様にぺたぺたと触れて簡易止血を、そして命令を待っていた。

 

(どうすれば貴方の為に、出来る)

【放浪する自我(AI)】【倖せび花冠】

 命令して、命令して、命令して。ただ貴方の為に、命令を。

 戦闘者でもなく、使われる寄りかかる彼女はひたすら庇護者にリピートするだろう。

 健気に必死にこの状況にどうすればいいか問いかけている。

 

「ううん」

 その声を傍らに、弦を捩じり引き絞る。

 しかし、若葉の少年は変わらず致命傷、変わらず勝機は微塵も見えない。

 眼で追われる察された弓など、彼の腕では中てられる訳もない。

 本能で察している太い血管に刺さった剣柄は重く、安易に引き抜けばただ一歩早く死ぬだろう。

 己が既に足手まといになるとならば―――。

 

("双剣"を弓でぶっ飛ばす、堕ちる所はちゃんと制御して、ね)

『―――え?あ、え?』

『黄昏の腕輪;六花弓』【レンジャー】【呪印術】(ウェーブ)

ズドォン!

 若葉の少年は単極に必要なことだけ伝えて。

 威力重視の矢を空間固定(ふんばり)もせず、反動そのままに『クリーブランド』方向に撃ち放った。

 あっさりと、反動に小気味よく勢いよく吹き飛んで距離が開き、背中から海面に迫る。

 それは彼女の器である『精霊巫器:絆の双刃』も括り付けてである。

 この精霊剣は、己の物であり、同じ位彼女の物だ無事であれば、彼女は滅びる事はない。

 

「宣言通り、この片刃は海の底に持っていく傭兵」

 慣性に痛む身体に、ただ冷たく睨みつけて負け惜しみの捨て台詞を―――

【狂羅輪廻】

―――バシャン……!

 吐いて大いなる海に身体を没する。

 

 残念なことに、明星の如く彼女は正しく優しいヒトだった。

 このまま海面にしがみ付いていれば、きっと砲撃に対する肉壁とされる。

 だって、逆の立場なら己ならそうする。

 ならば相手もだ。きっと手負いの己は邪魔でしかない。

 

 だから結論は一つである。二つ死ぬより、一つ残る方がいい。

 

『―――バカァ!』

【憑依具:一心同体】

 矢と共に遠ざかる儚紅の少女の残響のような共振()がする。

 その器は信頼する相手に委ねていた。 

 だから、そのド派手な投棄に何もできやしない。

 後の祭り、彼女だけ、そのまま安全圏へと放り投げられるだけである。

 

 そして。

 

(……リコが本気で怒ったの、初めて聞いたなあ)

 

 そしてこんな今際の状況ではあるが。

 少し驚いた。ただ無為に流される幼子の、情緒の育ちを感じて場違いな笑みが漏れる。

 着水の衝撃に背が痛む。疵口が染みる、悪い事したのだと、今更ながら感じた。

 

 ごぽりと吐いた空気が水面に逃れる。

 

 己の血の筋が水中に尾を引いている。

 沈みゆく海の中は意外と静かだった。どこまでも静かだった。

 ごぼごぼ、気泡が立ち上る、海の中から見上げる海は空の色を写し取ったように綺麗だ。

 

 きっと海の上けたたましい喧噪の世界など、露知らないのだろう。

 

 そんな静寂と倦怠感と共に意識が揺らぐ。

 若葉の少年は何の因果か、溺れ死ぬような経験は『高山都市』(ドゥナ・ロリアック)にて経験済みだった。

 

(……海の中、綺麗)

 ゆっくりゆっくり沈む。

 ある意味知らない光景なのだろう。よって奇妙な余裕があった。

 

 彼にも憂いは山ほどある。

 死に切れるものでもないが、仕方ない事だと、無駄に物わかりの良い彼は呑み込んでしまう。

 殺人鬼相手でも、負けたのだから、弱いから悪い。

 滅びを知る彼は、暴力こそが穏やかでも残酷でも、迫る現実を矯正する唯一(正義)だと知っている。

 短い人生、死の物狂いに必死に生きても、まだまだ全然、届きやしない

 

 また海の中に静まる、浮かび上がる静寂の中に上昇する気泡を眺めている。

 

 死体が何処かに流れ着く、引き上げる余裕があるのなら、儚紅の幼子(リコ)に使ってもらえばいい。

 そう、思っていたのだが。

 

ギャギ、ギャギギャギギャギ…!

 無機質な眼光、歯が鳴った。

 雑魚が群れる、覇の形から推測するに死肉漁りか何かか、いち早く群がってくる。

 

(―――あぁ生きたまま喰われる、か)

 自然界の理。

 血の匂いに寄せられてか、普通に怪魚の類も寄ってきていたらしい。

 

続いて。

【水母の化身】【人喰い】(マンイーター)【恐怖喚起】

ふぉん。

 そんな更に奥底から、螺子キレた黒々禍々しく不気味な水母も浮遊し近づいてくる。

 これらは海の死肉喰らい(モンスター)、きっと掃除屋の類。

 きっとお零れを食うために弱り目に、少しづつ齧られて死ぬらしい。

 

 悍ましい神経が潅げ立つ、いやな死に方だ。意識が遠い、今更どうしようもない。

 微かに身動ぎする、無駄な抵抗だろう。それを―――

 

「えい」

(……???)

ブチぃ!!

 喰いに来たと思った、不気味な触腕が齧り取ろうとする雑魚の群れを、握りつぶし困惑する。

 

「―――うん監視が、命令だったけど」

【潜伏者】【液体同化】【叫び声】

 澄んだ声がした。

 蒼い青い儚げな、輪郭を纏う水母の如く何かが沈む身体を拾い上げる。

 頭がバグる冒険者と直感が、間違いなく言えばバケモノの感覚だと警鐘を鳴らしている。

 

「落ちてきたなら拾っちゃおう。だってきっと"悪人"じゃないみたい」

(???)

【善悪二元論】

 ひんやり冷たい。

 そのギャップ、悍ましい水母(クラゲ)に抱えあげられるそんな不思議な体験。

 今際に見た幻覚か、そんな困惑を置いて彼はゆっくりと忙しい世界から、沈んでいくのだった。

 





とても遅くなりました。
少し設定追加があって頑張って整合性取らないと……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。